GiorGiaNo

 
《Paradisoシリーズ〜導かれし七人の現世人の冒険譚》

  A.:GiorGia 
 
〜第一章:白狼と誓いの儀礼刀〜

 
第4話:プロローグ〜ゆい編 Part1


ある名家の令嬢の二女として生を受け、16歳に白血病に冒されながらも日々闘病生活を過ごす、《西野ゆい》という名の一人の少女。しかし治療の甲斐もなくこの世を去る。その後、【導き人】の一人の少女《オロア》が現れ、【Paradiso】の世界について聞かされ、現世人【Linea】として生きる。限られた命の時間の中で、彼女自身が知った命の尊さについての物語が始まる───────

 
《Capitalo・1》  
物語を開始しますか?

🎼Back Ground Music 》》》

 

Anyone who says I am honest is by no means honest. Those who say I don't know anything know well, and those who know everything I know. A man who says nothing is either a wise man or a selfish man.
(私は正直者ですと自分でいう者は、決して正直者ではない。 私は何も知りませんという者は良く知っているし、私は何でも知っているという者はほら吹きである。 何も言わない人間は賢明な人か、利己主義かのどちらかである。)

What is important to humans is not how many years they have lived in this world. How much worth doing in this world.
(人間にとって大切なのは、この世に何年生きているかということではない。この世でどれだけの価値のあることをするかである。)

O. henry
(オー・ヘンリー)

  

〜広島・竹内病院〜

〜♪

個室の病室の中で西野ゆいは、ドビュッシーの亜麻色の髪の乙女のピアノ音楽をイヤホン越しで聴きながら読書をしていた。本はO・ヘンリーの最後の一葉である。机の上には誰かからもらったのか、ひまわりのヘアピン、そして病気平癒守と書かれたお守りが置かれていた。西野ゆいは今年で19歳となり、三年前、急性白血病を発症し、かかりつけの医師の紹介でこの病院にて入院しており、骨髄移植をすれば助かると思われたが予想以上に転移が酷く、医師から手の施しようはなく、余命は2年と宣告され、その日家族はひどく泣いていた。それでも今こうして余命の二年を過ぎ一年も長く生きられたのは、ある二人に命の大切さを教えてくれたからだと西野ゆりは感じていた。そして、自分の治療を続けられるように頑張ってくれている姉のためにもと…

「亜麻色の髪…抜け落ちました…幼い頃にこの髪を褒めてくれた当時防衛大学校の三橋という名の生徒の方を思い出しますね…お兄ちゃん…」   
  
ゆいは闘病治療の末に自分の特徴でもある亜麻色の髪の毛が抜け落ち、少し落ち込んでいた。そう思っていると、姉の長女の西野ありさが病室を訪れた。今日は休みを利用して新幹線で東京から広島まで来たのだ。大企業に勤めており、仕事が忙しいのかとても疲れた表情をしていたが、愛しの妹に辛い顔など見せられないと感じ、作り笑いを示し、妹のゆいと話をした。   
  
「久しぶり!ゆい、調子はどう?」   
  
「あ、お姉ちゃん。うん、私は今日はなんか調子がいいのか、一番元気かもしれない。…でもお姉ちゃんはなんか忙しいのか疲れているね…東京から新幹線でここまできたのもありそうだし。」   
  
「あ〜少し、仕事が忙しくなってね。でも心配しないで!私がちゃんとあなたの病気治すために力になってあげるから!…ほら、もう余命から一年も経ったんだし、この調子で行けば絶対治るわよ!だから安心して」   
  
「…そうだね…うん!あ、そうだ、もし私が退院したら、とびっきり美味しいの食べさせて!お姉ちゃんのお勧めの店とか知ってるでしょ?…どうかな?」
  
「よしわかった!愛しの妹の頼みです!退院の祝いに休み取って何か食べに行きましょうか!」   
  
「うん!約束だよ!お姉ちゃん!私頑張って病気を治すから!!…後お姉ちゃんも無理しないでね…前に無理が重なって過労で入院したんだから…!…私、その時のお姉ちゃんが…」   
  
「あぁ…あの時はごめんなさいね…そうね、あの時は流石に心配かけましたね…でももうあんな無茶はしないから…ね。だからそんな悲しい顔しないで…」(ダキッ!)   
  
「うぅ〜離してよ〜!!もう子供じゃないんですから…でも悪くないな…やっぱりお姉ちゃんの温かみ…すごく落ち着く…」(ギュッ!)
  
「ふふっ…よろしい!」   
  
ありさはゆいを温かく抱きしめた。とても温かみのある聖母のような抱擁からなのか、ゆいは少し落ち着いた。そしてしばらくの時間が経ち、そろそろありさが帰る時間が近づいてきた。
  
「じゃあ、私はそろそろ帰るから、しっかり休むのよ。私、これから母さんと父さんの家にも顔を出しに行くから!」
  
「うん。ありがとう。また、会いにきてね!」(フリフリ!)
  
「ええ。じゃあゆい…また…!」(バタン!)
  
そして、その姉妹の挨拶が、今日、最初で最後の挨拶になるとも…二人は知る由もなかった───────
  
〜その夜〜
  
「…!先生!!西野ゆいさんが急変です!!すぐに来てください!!」
  
「ハァッ…!ハァッ!…うぅ…ごほっ…くっ…!!」(グッ!)

病院のベットには、呼吸困難に陥り、苦しそうに踠いているゆいがいた。医師はゆいの状態をよく確認する。唇、爪は紫色になり、血中の酸素量も安定していない大変危険な状態であることを医師は判断し、早急に看護師に指示をする。
  
「これはまずい!チアノーゼを起こしている!!すぐに酸素を流用し、集中治療室に運ぶんだ!!」
  
「はい!!あなたは西野ゆいさんの家族にすぐ連絡して!!」
  
「わかりました!」
  
その夜にゆいの実家の西野家に病院から連絡が届いた。ゆいの状態が非常に危険であるという知らせを聞き、父と母、祖母とありさはすぐさま病院へと駆けつけた。
  
「ゆい…どうか無事で…!!」
  
「ゆい…」

「ゆいちゃん…どうか…」
  
(…昼間はあんなに元気だったのに…どうして…!待っててね…ゆい…!!)

その後、家族は広島・竹内病院へと到着し、すぐさま医師にゆいの状況を確認する。

「先生!ゆいの状態はどうなんですか!?…あの娘の容態は…!?」

「落ち着いて!…今は刻一刻を争う状態です!今集中治療室にてゆいさんは治療を受けています。」

「…!」(ダッ!)

「あっ!…ありさ!」

ありさは集中治療室に向かって行った。ありさ自身、嫌な胸騒ぎがしたからだ。よくよく考えれば、最初に余命宣告が二年と宣告され、その一年後にあんなに一番元気な姿を見せていれば何かあっても不思議ではないとありさは思っていた。あの時、妹のそばを離れなければと悲痛な思いをじっと堪え、集中治療室へと向かっていた。

「ゆい…お願い!…無事でいて!!」(ポタポタ!)

ありさはゆいの無事を祈り、願いながら走って行った。すると目の前に集中治療室へと着いた。そこはガラス張りであり、医療関係者以外の入室をお断りします。といった看板があった。そしてガラスの向こうに、人工心肺を取り付け、危篤な状態に陥っているゆいの姿があった。その姿を見たありさは思わず涙を堪えきれなくなった。

(…!…そ、そんな…ああ…ああ!!…ゆい!…どうして…どうしてこんなことに…!)

「先生!だめです一向に状態が落ち着きません!」「諦めるな!患者は生きようとしているんだ!」「…!先生!!ゆいさんのバイタルが…心拍数も低下しています!!」

看護師がそういうと同時に心電図からアラームが鳴り響き、早急に処置を実施するがゆいの状態は回復の兆しは見せず、心電図のメモリがついに0を示し、慌ただしい集中治療室からツーーッ…という音が病室内から鳴り響いた。

「先生!ゆいさんの意識が…!」「すぐに電気ショック及び、心臓マッサージを実施!」「はい!」

ゆいの心臓が止まり、医師はすぐに、電気ショックと心臓マッサージを開始する。しかし、何度も実施するがゆいは目覚めることはなかった…そして、その様子に、姉のありさは、落胆し、涙を堪えきれなかった。

「ああ…ゆい…ゆいーー!!あ、あぁ…そんな…」(ポタポタ!!)

医者はすぐにゆいの心臓音、呼吸音、瞳孔の散大、対光の反射を確認し、ゆいが息を引き取ったことを医者と看護師による医療チームが見守る中で、死亡と診断された。

(…ゆい…ごめんね…お姉ちゃんがあの時離れなければ寂しい思いをしなくても済んだのに…)(ポタポタ!!)

そして先程のゆいの声を聞きつけたのか、医者が苦悶の表情で、ありさに語りかけた。

「あなたは、ゆいさんの家族の者…ですか?」

その問いに、ありさはゆっくり立ち上がり、医者の言葉に返答した。

「…はい。姉の西野ありさというものです。ゆいは…私の妹です。」

すると医者は申し訳なさそうに頭を下げ、家族に尽力を尽くすも力及ばずでゆいを救うことができなかったことを深く謝罪した。医者は西野に優しく語り掛けた。

「…そうですか…先ほどの様子を見た通りにお伝えします。西野ゆいさんは先ほど息を引き取りました。…最後に妹さんを見てあげてください。」

そういうと、医者は集中治療室から外へ誘導し、ありさはゆいの顔を見る。そこには、安堵したかのような表情を浮かべた妹のゆいが眠っていた。その表情を見てありさはまた涙が見上げそうになっていた。

「…!あああぁぁ…!ゆい…ごめんね…!…あの時、一人にして…本当に…!!」(ポタポタ!)

その後、家族が集中治療室に到着し、医者にことの診断を聞き、家族は落胆した…まるで家族の中にある一つの光が消えるかのように…

「そんな…」「ゆいっ!!…あ、ああ…」「…ゆいちゃん…」

ありさは自分を責めていた。何故あの時、もっと話しておかなかったのか…片時もそばを離れるべきではなかったと…ひどく落胆した。その後のありさはゆいを失ったショックが大きく、精神的な疲れにより仕事に支障が出てしまい、大企業の会社を辞め、その二ヶ月後に東京のある警備会社に転職し、女性警備員として勤める。しかし、妹のゆいの別れを未だ経ちきれず引きずってしまっていた。そこに元海上自衛官の白い狼の異名を持つ男との出会いにより…ありさは少しずつ妹ゆいの無念を断ち切り、前を向いて生きて行くようになる。




B. いいえ


《Capitolo・2》 
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》


♪〜TOGfより・Oath
 

〜時は流れ兵庫県神戸市・西野ゆいの墓の前〜

「…あれからもう三ヶ月ね…ゆい…!」

「…久しぶりだね、もう十年ぶりの再会か…ゆいちゃん…僕は変わらず元気だ。僕は今、幹部自衛官として活躍し、三等海佐まで昇進したよ。ここまで来れたのもありささんと…君のおかげだ。」

ありさは休日にある寺に行き、ゆいの墓参りに訪れていた。そこにはありさと昔防衛大学校時代に儀仗隊に所属し、たまたまゆいが声をかけて知り合いになった三橋という現役の幹部自衛官が訪れていた。二人は約一ヶ月前に渋谷で起こった大事故に、元海上自衛官で三橋の部下であった元隊員を事故で亡くし、その元隊員の実家に訪れていたところを十年前に出会ったゆいの姉のありさがいて偶然にも二人を巡り合わせるかのように再会させた。当時三橋は少し呆れたように、本当に暇な神でもいるのかという疑問もあったがそれでもこのような再会は嬉しく思った。

「…ゆい…もし私が困ったことがあれば、三橋さんに頼ってって言ったのかもしれないわね…」

「…ああ。この再会は本当に運命なのかもしれない。一人の元私の部下だった彼が命を懸けて、疎遠になってしまった私達の絆を再び結びつけてくれたのだ…彼にも感謝しないといけないな。」

「ええ、本当にありがとうね。本当に彼のおかげで私も立ち直ることができて…十年ぶりに三橋さんと再会することができたのだから…」

ありさは約一ヶ月前に初めて出会った彼のことを思い出す。仕事終わりに二人でご飯を食べに行った時、自分が遠回しに妹への死を引きずっていた事を彼が察して親身になって話を聞き、慰めてくれたおかげで元気づけられ、立ち直らせてくれたことに感謝の意を込める。  

「…もしあの時生きていたら、彼にもこの場所を教えてあげたかったわ。きっとこの子も喜んでくれたと思うの。落ち込んでいたお姉ちゃんを元気づけてくれて本当にありがとう!って…うっ…うっ…!」

「…そうだな。おそらく彼女ならそういうだろう。…私も防衛大の第二学年の時、どうにかなりそうな時があった。その時…ゆいちゃんのあの温かい笑顔に助けられて、今もこうして幹部自衛官の立場としてやってこられたのだ…」

三橋は紳士的になってハンカチをありさに渡す。そして三橋はふと昔の防衛大学校時代の開校祭での出来事を思い出していた──────

・・・
・・


🎼Back Ground Music 》》》




〜時は戻り防衛大学校開校祭〜

 
* This content is just fiction! The actual content has nothing to do with the opening festival of the National Defense Academy!
(※この内容はあくまでフィクションです!実際の内容も防衛大の開校祭とは関係はありません!)



「ふぅ…準備はできたか!?みんな!!??」

「「「「はい!!!!」」」」
 
「いよいよ今日から開校祭だ!!!!各方面から一般の国民の方々が来賓してくる!!失礼のないように防衛大としての自覚を持ち、怪我のないように己の責務を果たすこと!!以上だ!!」

「「「「はい!!!!」」」」

第四学年から開校祭に対する意気込みを伝えられ、各学生は開校祭への段取りに向かった。そしていよいよ儀仗隊の出番が近づいてきた。

「おい三橋!…そろそろ儀仗隊の出番だ!…お前は去年のことは仕方ないが、今はその反省から自分を見直し、紳士的な振る舞い方を強みとして生かすようになった。それを生かし、巧みなリードでファンシードリルを決めてこい!!」

「はいっ!!」(ビシッ!)

開校祭での開会式の幕開けとして、儀仗隊は重要な役割である。全国の国民が見る中で、自分達のパフォーマンスをいかに発揮し国民への信頼を勝ち取るか、一度のテンポがずれることもゆるされない。そのプレッシャーの中、当時防衛大学校第二学年の三橋は気を張っていた。去年三橋は第一学年のドリル展示の際に落銃をしたことがあった。その時は銃の損害はなかったが、それでも腕立て伏せのペナルティーを課せられ、その後の儀仗隊のメンバーへの信頼回復に時間がかかったという経緯がある。そして今日の日、三橋自身はなぜか緊張はしなかった。それはあれだけの逆境があり、今度はやってやるという覚悟を持っていた。そしてついにファンシードリルの時がやってきた。まずは儀礼刀を持った第四学年が栄誉礼を行い、合図が出た上でいよいよ始まった。

打楽器のマーチ〜♪

「」クルクル 「」クルクル 「」クルクル 「」クルクル 「」クルクル「」「」クルクル 「」クルクル 「」クルクル 「」クルクル 「」クルクル

「」カチッ「」カチッ「」カチッ「」カチッ「」「」カチッ「」カチッ「」カチッ「」カチッ「」」カチッ「」カチッ「」

「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!

「」クルクル 「」クルクル 「」クルクル 「」クルクル 「」クルクル「」「」クルクル 「」クルクル 「」クルクル 「」クルクル 「」クルクル

「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!「」タン!

マーチが流れる中、儀仗隊員は儀礼刀を持つ四学年の指示のもとで、巧みに儀仗銃を回し、投げてはきちんと掴み、次々とパフォーマンスを披露していく。そして指揮官の笛が鳴り、一部の隊員が空銃を鳴らした。

「」サッ!「」ダン!「」ダン!「」サッ!「」ダン!「」ダン!「」サッ!「」ダン!「」ダン!「」サッ!

おおお〜〜〜〜!!パチパチ!パチパチ!パチパチ!パチパチ!パチパチ!パチパチ!

「すごいすご〜い〜!!!ねえお姉ちゃん!あの人達すごいね!!」(パチパチ!)

「ええ、ゆい!すごいのが見れたね!」(パチパチ!)

「うん!私…ちょっとあの人が気になるかも…!」

「えっ!?…誰?」

「ほら、あの人!なんか他の人もすごいけどなんかあの人…今日の日まですごく頑張ったって感じがするの。」(ビシッ!)

「ヘぇ〜ゆい、よくわかるわね〜」

「うん!」(あ、そうだ!)

〜開会式後〜

「よしみんな良くやった。無事にミスすることなく、見事なファンシードリルを披露してくれた!!第四学年の指揮官としてお前達を誇りに思う!!以上だ!!自分の次に担当されている持ち場にいけ!!!」

「「「はい!!」」」」

「三橋やったな!!今回のファンシードリル…見事だった!!これからも精進しろよ!!」

「はい!!」

「おい、三橋、次お前お好み焼きの模擬店担当だったな。広島出身だから旨い広島焼きでも作ってくれよ!!」

「はい!全力を尽くします!」(タッタッタ!)

「…三橋のやつ…やっぱり気張り詰め過ぎだな」「ああ、おそらく去年の落銃からか、責任を感じ過ぎているのかもしれないな…もう少し柔軟さは必要なのにな…」

(ファンシードリルは…完璧に行ったというが、まだ僕の動作がワンテンポ遅かった。もう少しでみんなに迷惑をかけるところだったんだ…くっ、悩んでも仕方ない。とりあえず模擬店に行かないと…)

「さてと…ゆい、行こう!…ってあれ!?ゆい〜!どこ〜!?」

「……」(…だいぶ人も集まっているな…少し通りづらいな…!だがまだ時間はある。)

「ん〜?…!!あ、いた!!」

「えっ?」

「儀仗隊のお兄さんだ〜!!」(ダキッ!!)

「わっ!!」

「やった///やっと見つけた〜!」(スリスリ!)

「…ん?女の子?…迷子か…?君名前は?」

「あ、自己紹介遅れました。私の名前は西野ゆい9歳です!お姉ちゃんの名前はありさ20歳です!よろしくお願いします。」(ぺこり!)

ゆいは三橋に丁寧に挨拶を送る。そして三橋は、相手の子供は迷子であるということがわかり、係の方に連絡を入れようとしていた。

「そうかゆいちゃんね…迷子なら係の方に案内しようか?」

「いやです!!お兄さんと一緒がいいです!」

「…ハァ〜仕方ないな…こんな人だかりだし変な行動はできないしな。もし誘拐とかになっても後々面倒だ。」(やれやれ…)

三橋は諦め、お好み屋の屋台に向かいつつ、ゆいの保護者を探した。その間にいろいろ話をした。ゆいは兵庫県神戸市の生まれである名家の令嬢でもあるそうだ。幼少期から身体が弱く通院もしているらしく、少しでも克服しようと祖母から薙刀術を教えてもらい、この歳になって少しずつ活発になったこと。そして今日は父の用事で東京に行くことになったため、姉と一緒に防衛大の開校祭を訪れたのだそうだ。

「そうか…ゆいちゃんも大変なんだね…」

「はい!ところでお兄さんの名前はなんというのですか?」

「僕は三橋。」

「三橋さんですか!じゃあお兄ちゃんでいいです!」

「……まあ好きに呼んだらいいよ…」(頬ボリボリ!)

「ところで言いたかったんですけど、お兄ちゃんの儀仗隊!すごくカッコ良かったです!!///」

「あ〜見てくれていたのか…!ありがとう!」

「はい!…とても綺麗なパフォーマンスでした!!…でも…」

「でも?」

「お兄ちゃん…なんか寂しそう…私何となくわかるんです!」

「……!」(…そうか…自分では自覚がなくても、子供にはわかるんだな…)
 
そうこうしている間に、二人は模擬店へと辿り着く。そこには同部屋の学生がせっせとお好み焼きを作って開店までの準備をしているようだ。   
  
「よう三橋!遅かったな!そろそろ始めるぞ!ってあれその子は?」   
  
「ああ。さっき見つかってな。どうやら迷子らしいんだ!」   
  
「まじか〜どうする係呼ぶか嬢ちゃん?」   
  
「いやです!!」(ダキッ!)   

「はは…お前よっぽど気に入られているんだな〜前の外出演習でもほとんど子供に相手されていたからな〜」

三橋は外出演習の際によく迷子になって困った子を見つけては、その子の親を探すことが多かった。おそらく困っている子を放っておけないところがあるのだろうというイメージから世話好きなところがあると学生の中でも有名であり、評価もされている。そしてゆいを連れてきた三橋は、まるでもてなしをするかのようにこう答えた。

「…仕方ない!…ゆいちゃんそこに座っといて。今からお好み焼き焼くから!…お好み焼きは食べれるかい?」

「…!…はい!!私お好み焼き大好きです!!関西人なので!!」

「よ〜しわかった!とびきりの作ってあげるから待っといて!!」

「わかりました〜♪」(ワクワク♪)

「お…おい!いいのかよ!?お代は!?」

「同伴者がいるからその人に払ってもらうよ。もし来なかったら…俺らで自腹だ。」

「…まじかよ〜俺この間靴買い換えたばっかなのによ〜」

「…さて、始めるか!!」

三橋は早速お好み焼きを焼き始める。機嫌良く広島独特のお好み焼きの製法で見事な広島焼きができた。

「はい、出来たよゆいちゃん!食べてみて!!」

「はい!ではいただきます!…!!ん〜美味しい〜!!こんな美味しいお好み焼き…私、初めて食べました!」(パクッ!)

「それは良かった!好きなだけ食べてよ!」  

「…なあ三橋、この子かなり行儀がいいな…!この歳で俺達みたいに箸使い良いし、姿勢も正してるな。」

「どうやら話聞いたら名のある家の令嬢の妹らしくてな…育ちが良いんだろう。」

「なるほど…」

三橋と相部屋生徒がせっせとお好み焼きを焼いていると、遂にありさがゆいを見つけて声をかけた。

「…!あ〜!!やっと見つけた!!も〜ゆい〜!?勝手に行かないでって言ったでしょう!!…あ、どうもすみません、うちの妹がとんだご迷惑を…」

「あ、ゆいちゃんのお姉さんですか!?いえいえ…僕達は別に構いませんよ!なぁ…ん?…おいどうした?」

「!!」(ドキッ!)

「え、あの…どうかされました?」(首かしげ)

「あ、いえ何でもありません…///」(さ、さすが名家の御令嬢さんだ…やばい…姉さんすっげえ美人すぎてやばい///)

「お姉ちゃん!!お兄ちゃんの作ったお好み焼きすっごく美味しいよ〜お姉ちゃんも食べなよ!!」

「こ、こら!!防衛大の人にお兄ちゃん呼ばわりなんて…も〜この子は!!……あ///」(ぐ〜〜!!)

どうやらとても香ばしい匂いでありさのお腹が鳴ってしまった。それを聞いた相部屋の学生がありさの予想外の一面に思わず目を隠した。

「〜///」(うぉ〜これがギャップ萌えってやつか〜///)

「良かったら好きなだけ食べていってください!ゆいちゃんの姉なら大歓迎です!な?」

「は、はい!!全力で作らせていただきます!!///」(ドキドキ!!)

「お姉ちゃん!はいこれ!」

「あ、じゃあいただこうかしら…でもゆい!!勝手に行ったりしないでね!!お姉ちゃんすっごく心配したんですから!!」(プンプン!)

「ごめんなさいお姉ちゃん…でもお兄ちゃんと一緒に歩いてて分かったけど今のお兄ちゃん…さっきより明るくなったね〜良かった〜」(二パ〜ッ!)

「ん?確かになんかさっきより表情が柔らかくなったな〜まあ笑わず凛としてる方が儀仗隊らしいけど、今のお前…凄く良い顔してるよ!」

「そうか?…あ、そういえば少し肩が軽くなったような…!そうか、いろいろ悩んで考え込みすぎて気を張りすぎていたのかもしれないな…!」

「うん!…今のお兄ちゃんの顔すごく好きだよ!うん、私、お兄ちゃん大好き!!///」

「…!!」

三橋は、ゆいの大胆な発言に少し驚いた。思わず少し困ったそぶりを見せている。それを見た同部屋の学生は茶化すように言った。

「ほぉ〜この歳で大胆な事を…良かったな!!将来の嫁候補だな!!」(まあ、俺は姉さんの方が好みですハイ…///)

「ちょ、ちょっと!!ゆい〜!あんまりからかうんじゃあありません!本当にごめんなさい!妹が失礼な事を言って!」

すると三橋は笑みを浮かべ、少し茶化すようにゆいに語りかけた。

「…フッ!ありがとう!嬉しいよ!僕も、ゆいちゃんのその亜麻色の髪…すごく好きだよ!!」

「!!///」(プシュ〜!!)

「あら、この子ったら〜こんなに顔を赤くしちゃって…あ、すみません、自己紹介遅れました。私ゆいの姉の西野ありさといいます。あなた方の名前は〜?」

「ああ。僕は防衛大学校第二学年三橋!…三橋宗一郎と言います!」(ビシッ!)「三橋と同部屋で同じく第二学年の大山と申します!///」(ビシッ!)

「ああ、お二人ともよろしくお願いします。あ、こちら名刺です。よかったらどうぞ!」

三橋と大山は渡された名刺を確認する。そこには電話番号、メールアドレスが書いていた。そして大学も書かれており、ありさは神戸女子大学に在籍しているらしい。

「大学生なんですね。…とすると大学二年と言ったところですか。」

「え!?当たりです!あ、ちなみに年齢は20歳です!でも、何でわかったんですか!?」

(い、意外だ…ありささん…俺らと同年代なのか〜てっきりもう少し上かと思った…でもありささん好みだ///名刺は永久に保存して死守せねば!!)

「初めてゆいちゃんと会った時に教えてくれたからね。…はい!できました!ごゆっくり召し上がってください…」

「うわ〜おいしそ〜。これ広島焼きですね!!もしかして三橋さんって広島出身なんですか!?」

「はい。祖父が広島出身なので。ちなみにうちの祖母は沖縄県出身です。広島に来て祖父と結婚し、母は広島で生まれて今は看護師をやっています。母からこの広島焼きを教えてもらいました。」

「そうなんだ…あ、ほんと、凄く美味しい!!こんなの初めて…なんか優しい味がするわね〜」

「ね〜!お姉ちゃん!お兄ちゃんのお好み焼きすっごく美味しいでしょう!?」(ニッコリ!)

「ふふっ!ホントに…!!美味しいわね〜!」(二コッ!)

「…へへ!なんか和むな…!」

「…ああ。本当に仲の良い姉妹なんだな…僕、この人達のためにもこれからも頑張っていこうと思う!この人達の笑顔を守りたくなってきた!」

「ああ…俺も同じ気持ちだ!!」

三橋と大山はこの二人の姉妹の笑顔を見て、この国の笑顔を守りたいという気持ちが一層強くなり、二人はお互いに切磋琢磨していくようになった。

「あの。本当にありがとうございました。広島焼き、とっても美味しかったです!」(ぺこり!)

「お兄ちゃん方、本当にありがとうございました!」(ぺこり!)

「いえいえ構いませんよ。僕らにできるのはこれくらいしかないです…」

「あ、そうだ!あの…ありささんは明日も開校祭へ来るのですか!?」

「…え!?」

「ん?どうしたんだ大山?」

「いえ、我々は明日、この防衛大の行事最大のイベントと言える棒倒しというのに参加するんです!!いわば騎馬隊のようなものです!もし明日も来られるのであれば是非見にきてくれればと思います。」

「棒倒しか。そういえばそうだな…あの、ありささん、明日のご予定は?」

「ご、ごめんなさい。明日はちょっとこちらも忙しいので…今日の夜にはどうしても神戸に帰らないといけないんです…ホントにごめんなさい!!」(ぺこり!)

「え〜!?私は明日も行きたいです〜!!」(ぶ〜ぶ〜!)

「こら、ゆい!わがまま言わないの!!…あ、ごめんなさいね」  

すると三橋は笑い、ゆいに近づき、同じ目線になるようにしゃがみ込み、こう言った。

「ゆいちゃん、明日は来れなくて少し残念だけど、ゆいちゃんのためにも明日は絶対勝つよ!!な、大山?」

「おう、俺もありささんのためにも絶対に明日は勝つぞ〜!!///」(メラメラ!)

「わかりましたお兄ちゃん方!」

「うふふっ…お二人様も…明日は頑張ってくださいね!明日は観れなくてもゆいと一緒に応援しています。」

「また防衛大のホームページで中継を配信すると思いますのでよかったらご覧ください!!」

すると交代の時間からか、別の学生がやってきた。どうやら第三学年のようである。

「お〜い三橋、休憩!そろそろ交代だ。ん?三橋…誰だその美人さん、お前の彼女か!?」

「…!!」

「え、えぇ〜!?///」

「お、お姉ちゃん、顔赤いよ!」

(ガ〜ン!!)

いきなり別の第三学生からありさを彼女である事を勘違いされる。しかし誤解を解くため、事の事情を三橋は別学生に伝える。

「なるほど御令嬢の方がな…うむ、そういうことか…わかった。よし!三橋!休憩時間の間、その人達を手厚くエスコートしろ!」

「はい!」(ビシッ!)

「あの!俺は!!」

「お前はしばらく俺とお好み焼き担当だ!大丈夫!後一時間程したら休憩させてやるから!はっはっは!」  
 
「(・-・)」(ヒュ〜ン…)  

「安心しろ大山!一時間後になったら、お前もありささん達のエスコートに付き合ってやれ。ゆいちゃん、ありささん構いませんか?」

「…!」(ドキドキ!)

「…はい!喜んでお受けします!」(ペコリ!)

「…ッ!!///」(よっしゃ〜!!三橋ありがと〜う!お前が同部屋のやつで本当に良かった〜♪)

「じゃあ大山行ってくる!一時間後にな。」(ビシッ!!)

「ああ!ありささんを傷つけるようなことあったら承知しないぞ〜!!」(ビシッ!!)

そして三橋はありさとゆいを連れて防衛大の校内を案内した。その姿を見る度、三橋の紳士的な立ち振る舞いとありさの令嬢のオーラから気品溢れる雰囲気が醸し出し、ゆいを連れながら校内を散策する姿はまるで親子のようにも思える。するとそこに文化クラブの写真部の学生が声をかけてきた。

「おう三橋、休憩か!…おお、お前の彼女さんか!?えらい美人だな〜絵になるカップルだな〜!」

「///!!」

「こんにちは!」(ぺこり!)

「違うよ。…写真か〜ありささん見ていきますか?ゆいちゃんも見ていくかい?」

「え!?…ええ。私は構わないですけど…ゆいはどうする?」

「…う〜ん…」

「ん?ゆいちゃんどうしたの?」

ゆいは頬に手を添えて何か考えにふけっていた。そして思いついたのか、三橋にこう答えた。

「あの…お兄ちゃん、写真撮ってもらってもいいですか?」

「へぇ…!」

「ちょ、ちょっとゆい!!」

「えへへ〜!!」

すると三橋は笑い、写真部に交渉するとすぐさまOKのサインが出て許可がおりたので、三人は部室へと案内された。

「ん〜!よしここが良いな!…よし!椅子のセット完了だ!」

「じゃあゆいちゃん!どうぞ!」

「はい!じゃあお兄ちゃんは左、お姉ちゃんは右に立って!三人で撮ろう!!」

「え!?」「えへへ♪」「え、ちょっと!?」

「お、いいね〜まるで家族写真だ〜!!」

「…///」「ニッコリ♪」「///」

三橋とありさは少し恥ずかしそうに並び、並んで写真を撮影した。合計で三枚写真を撮影し、左には凛として紳士的な顔の表情をした三橋。真ん中には腰掛け、明るい笑みを浮かべたゆい、右に恥ずかしそうながらも優しい微笑みを浮かべるありさの姿が撮影されていた。

「どうも〜!!現像したら送りますので、こちらにサインお願いします!」

「あ、はい!」

「よく撮れてるねお兄ちゃん!」

「そうだね…これは一生の思い出だ…大切にする!ありがとうゆいちゃん!おかげで元気が出たよ!!」(二カッ!)

「それは何よりです♪!!」(二コッ!)

そういうやりとりをしていると、今度は女性の写真部の学生が訪れ、二人の様子を見る。

「あれ?三橋学生…あれま!これまた美人さんの連れと知り合いなんですね〜!」

「ああ。たまたまだよ。今校内を案内していてここに来たんだよ。」

「ふぅ〜ん。…!!あ…そうだ!ちょっと美人さんを借りても良いですか!?いい事を思いつきました!!」(ガシッ!)

「え!?えぇ!…あの…ちょっ!」(おろおろ…)

「あ!?おねえちゃ〜ん!」(てってって!)

「よ〜し俺も負けていられないな!!…三橋、お前も来い!」(ガシッ!)

「え!ちょっ!!」(ズルズル!)

〜数分後〜

「よし!!やっぱり儀仗隊のお前はそれが似合っていると思うぞ!!将来お前が幹部になったら是非指揮してくれよ!!」

「ほぉ〜…実際来てみたらこんな感じなのか…うん、バッチリだ!!」

三橋が着用しているのは白の特別儀仗隊の制服で腰には儀礼刀が備わっていた。三橋の整った顔立ちからその風貌からは、まるで西洋の騎士のような雰囲気がある。以前官僚の観覧式の際にもその制服姿を見たことがあるため、三橋にとっては憧れのようなものもあった。しばらくすると女性学生の声が聞こえて来た。

「こ、こちらも終わりました!!…み、見てください〜!!///」(テレテレ!///ジャ〜ン!!)

「…!!」

「あれま…予想外…こりゃあすげえや…!///」(デレ…)

「…///」(テレテレ!)

ありさの服を確認すると、綺麗に髪を結び、アンティークホワイトのパーティードレスを着ているとても上品で神聖であり、神々しい女神のような姿をした女性がいた。思わずその光景に全員が息を飲んだ。

「…お姉ちゃん…すっごく綺麗だよ〜!…!!あ、お兄ちゃんの服カッコイイ〜!まるで絵本に出てくる王子様みたいだね!」

「ああ。ありがとう、ゆいちゃん!」

「そうだ!お姉ちゃんの服どう!?お兄ちゃん!?」

「ちょ、ゆい!?///」

「…!!///」(ど、どうしよう…これは予想外だ…ありささん…あまりにも綺麗すぎていつものように言葉が出てこない…///)

三橋は思わず、ありさの美貌に惹かれてしまっていたようだった。そしてこの空気を覆すかのように、少し大胆な行動に出た。

コツンコツン……

「…綺麗です!///」(サッ!!スッ!)

「…!?///」

三橋はしゃがみ、ゆっくり手をありさに差し出した。その三橋の行動に、ありさは恥ずかしいものもあったが微笑んで快く受け、三橋の純白な手袋を着用した手に触れた。

「な…!!この女神のような美人に対し、しゃがんで腰を下ろして手を差し出す男の姿勢!そして向かう女神のような女性も満更でもない微笑みの表情で手を差し出す!…これって…!」(カシャ!カシャ!)

「ああ、まるで冒険譚で伝えられてるような、姫に忠誠を誓う騎士のようだ…!これは絵になるぞ〜!」(カシャ!カシャ!)

「お兄ちゃん、お姉ちゃんお似合いだね〜♪」

「…///」(あ、あまりにもありささんが眩しすぎて顔を見せられないから唐突にこのポーズを取ってしまった!///)「…///」(白の制服姿の三橋さんがあまりにも眩しすぎて…でも悪くないですね。こういうのも///)

その後、写真部が悪ノリするかのように、今度は三橋がありさを抱き寄せる姿勢で儀礼刀を抜き、敵に刀を向けてありさを必死で守る三橋の場面の写真を撮ったりする。それがかなり評判になったのか、その写真は写真部の中で一躍有名になったとかそうでないだとか…最後にゆいが三橋が左に、右にありさを立たせて真ん中にゆいが立って二人の手を持ち、満面の幸せの込もった写真を撮影してもらい、撮影会は終了した。そして…くれぐれも大山にはバレないようにと釘を刺しておいた。

・・・
・・


「…///」「〜♪」「///」

(まさか…写真部でここまでしぶとく粘られるとは…ありささん…ご迷惑をおかけしました…///)

(お姉ちゃん〜念願の彼氏ができそうだね♪)

(…ああ〜恥ずかしい〜///…でもよく見ると三橋さん…本当にハンサムで紳士的で素敵なお方……って!?やだ私ったら!!///)

三人のうち三橋とありさは恥ずかしさのあまり赤面し、ゆいはご機嫌良く歩いていた。そのやりとりをしているとお好み焼きの模擬店に辿り着き、第三学年の学生に声をかけられた。

「お〜済んだか!どうだった!?」

「え!?…はっ、無事に怪我をさせることなく!無事にエスコートしました!」(ビシッ!)

「ご苦労!おい、大山交代だ!!」(ビシッ!)

「…!は、はい!!精一杯!エスコート兼ボディーガードに務めさせていただきます///ってあれ、ありささん、なんか顔赤くないですか?」

「…えっ!?だっ、大丈夫です…では大山さん…よろしくお願いしますね!」(ぺこり!)

「は、はい!!」(ビシッ!)

「じゃあ大山さん!いこ!!お兄ちゃ〜んまた後でね〜!」(ピュ〜!)

「あ、もう!ゆい〜、まちなさ〜い!!」

「あ!お〜い!!」(タッタッタ!)

「…フッ…!」

「おっ、三橋!笑ってるな〜そんなにあの美人さんとのデート、楽しかったのか?」

「…いえ…あくまでエスコートしただけです。ではお好み焼き、焼いていきましょうか!」

「全く素直じゃないね〜」(どうやら少しは肩の荷が下りたようだな…とりあえず一安心だ!…だが女に浮かれて堕落の道には行かないでくれよ!)

(その後、一時間後に大山が戻ってきて、おてんばなゆいちゃんを探すのに苦労したそうだ。ありささんも、ここまではしゃぐゆいを見たのは初めてだと言い、嬉しそうな表情をしていた。そして写真部にも寄り、大山とありささんとの念願の写真撮影もしてもらい、大山は有頂天だったそうだ。…あの写真はバレていないか心配になったが良しとした。)

〜開校祭1日目終了間近〜

「イヤです!イヤ〜!!」(ガシッ!)

「もうゆい!わがまま言わないで!三橋さん…本当にご迷惑をおかけします…!」

「構いませんよありささん。…ゆいちゃん!また来年来てくれると嬉しいよ!だから泣かないで。」

「…うん…!あ、そうだ。私、手紙書く!!お兄ちゃんにいっぱい手紙書く!!それでいいかな〜?」

「ああ。もちろん!…それにありささんも俺と大山に連絡先交換しているから、また何かあれば連絡してくれたら…嬉しい…///!」

「…!…は、はい!///」

おーいお前ら〜点呼を開始する!集合だ〜!!!

「あ、やべ!三橋、そろそろ行くぞ!!」(タッタッタ!)

「!!…わかった…では僕達は行きます!道中お気をつけてお帰りください!!」(ビシッ!!…タッタッタ!)

そう言い、三橋はありさとゆいに敬礼し、踵を返すとすぐに集合場所へと向かっていった。それを見守る姉妹。そしてありさは妹のゆいにこう語った。

「ゆい…三橋さんの後ろ姿…よく見ておきなさい!…あの人達がこれから大きくなって、地震とか日本の災害が起こった時、私達の安全を第一に考えて動き、日々頑張ってくれる人達なの…だから私も頑張る!ゆいも一緒に頑張ろう!…あの人達にも負けないように…!」

「…!…うん。私、頑張る!お兄ちゃんのように頑張っていつまでも元気に生きたい!」

そう言うと姉妹は防衛大学校を後にし、父と合流し、新幹線にて神戸へと帰っていった。その翌日の開校祭2日目…三橋と大山は棒倒しに望んでいた。相手に自分の棒を転かされないようにしっかり支え、その隙に大山が大きくジャンプし、相手の方をガッチリと掴み、見事相手のバランスを崩し、相手の棒を倒したことにより見事三橋と大山のチームは優勝した。その中継をゆいとありさは見てとても喜んでいた。その後に激励のメールを送られ、三橋と大山は感謝のメッセージを送った。そして時代は進み、三橋は防衛大学校第四学年として儀礼刀を使い、皆を指揮する部屋長として、大山は厳しめであるがとても部下思いの副部屋長として有名な存在となった。三橋は主席として、大山は普通の成績で防衛大学校を卒業し、晴れて幹部自衛官としての道を行くことになった。卒業して5年後、あれからお互い多忙のせいか、二人の姉妹から連絡は取れていない。三橋は一等海尉、大山は一等陸尉まで上り詰めたらしい。その後、三橋は後に和歌山県の商工会館にて、居合道を志している二人の仲間達と先生…そして今後新人自衛官となり、最終的に海上自衛隊の海士長となる白い狼の名前を持つ一人の男との出会いから大きく物語が始まる…

・・・
・・

B. いいえ


《Capitolo・3》 
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



The true man wants two things: danger and play. For that reason he wants woman, as the most dangerous plaything.
(男が本当に好きなものは二つ。危険と遊びである。男が女を愛するのは、それがもっとも危険な遊びであるからだ。)

Love is more afraid of change than destruction.
(愛が恐れているのは、愛の破滅よりも、むしろ、愛の変化である。)

Friedrich Wilhelm Nietzsche
(フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ)


「ふぅ…今となっては懐かしいな…この写真も…あれから私宛に現存したものが届いて来たのだ…」

三橋は当時防衛大第二学年時代に撮影した写真を見ていた。それは、ゆいが二人の手を繋ぎ、三橋は特別儀仗隊の服を見に纏い、ありさは髪を纏めてアンティークホワイトのパーティードレスを見に纏った姿をしていた。

「ええ。…とても。でもこうしてみると…本当に白馬の王子様と姫というようにも感じられますね…この写真は…」

「それにゆいちゃんも写っていて、昔の貴族の家族写真のようにも見えるようだ…今となっては最高の思い出だ…!」

「私達もあれから10年…もう立派な中年ですね…三橋さんもあの時よりも落ち着いていて、もう立派な紳士ですね…!」

「そういうありささんも…10年も見ないうちにあの時よりも…」

「…え?」

「…フッ…」(ここは墓の前だ…今は言わないでおこう…)

三橋は流石に墓の前で色気話はしてはいけないと思い、ありさへの発言を慎んだ。そしてありさは何か思い出したのか荷物からあるものを取り出し、三橋に渡した。

「あの、三橋さん…こちらを。…」

スッ

「…ん?」

「どうぞ、見てあげてください…」



三橋は、何かの本をありさに渡された。それは一冊のアルバムだった。最初の写真は、19歳になったゆいの姿が写っていた。写真にはあの彼女の特徴である亜麻色の髪の毛が未だ残っている様子だ。そしてあの頃のありさとも何処か面影がよく似ていた。それを見て安堵したのか、ゆいの墓の前で呟いた。

「そうか、あの時はあんなに小さかった君が、もうこんなに大きくなっていたのか。…すっかり姉に似て、素敵なレディーになったようだね。…?…次の写真は…ゆいちゃんではないようだね…」

「これはあの子が当時16歳の時の写真です。そして写っているのは、入院先の病院で仲良くなったあかりちゃんという当時6歳の子の写真なのだそうです。…ですが、その子は。……!…くっ…!」

「…!…そうか…」

「はい。ですが生前までとても仲が良くて、ゆいにひまわりのヘアピンをくれたのも。……彼女からなんです」

ゆいはそのゆいとあかりについての出来事を詳細に教えてくれた──────

・・・
・・


🎼Back Ground Music 》》》


 
People will not be disgusted by walking all day if their hearts are pleasant, but if their hearts are sad, they will be disgusted by just one ri.The course of life is similar to this, and one must always follow the course of life with a bright and amusing heart.
(人は心が愉快であれば終日歩んでも嫌になることはないが、心に憂いがあればわずか一里でも嫌になる。人生の行路もこれと同様で、人は常に明るく愉快な心をもって人生の行路を歩まねばならぬ。)

If you can't avoid it, you have to hug it.
(避けることができないものは、抱擁してしまわなければならない。)

William Shakespeare
(ウィリアム・シェイクスピア)

 
(* This content is just fiction!)
(※この内容はあくまでフィクションです!)

防衛大での出来事から歳月が流れ7年後…ゆいが16歳の時であった、夏休みの日に突然それが起こった。

「…うぅ…くっ!」

バタン!

「…!ゆい!?…どうしたのゆい!?…ゆいーーーー!!」

「…!ゆい!?…!!すごい熱…すぐに救急に連絡するわ!!」

突然リビングで物音かしたのでありさと祖母が確認するといきなり倒れてしまったゆいがいたのでありさはすぐに様子を確認する。身体はとても熱く、発熱を起こしていた。ありさはすぐさま救急車を呼んだ。

ピーポーピーポーピー!!

「はぁ…はぁ…ゆい…しっかりして!!ゆい!」

「ここでお待ちください。すぐさま精密な検査をしますから!」

「…ゆい…」

あれからありさは27歳になり、神戸女子大学卒業後、東京の有名な大企業に就職した。仕事が落ち着き、長期の休日を利用して神戸の実家に帰省していた時に妹のゆいが突然リビングで倒れたのだ。あまりに突然すぎて、ありさはただ唖然としていた。最近まで通院をしていて特に検査でも異常はなかったはずが…どうしてこんなことにと。暫くすると、祖母の話を聞いて騒ぎを聞きつけたのか父、母が病院に着いた。とりあえず事情を説明し、検査の結果が出るまで待つことにした。

〜数時間後〜

「西野ゆいさんの家族様ですね。お待たせしました。検査結果が出たので診察室にお入りください。」

「はい。」「「「わかりました。」」」

医師から今回のゆいの診察結果から、とても重苦しい答えが聞かされた。

「今回あなた方に酷なことを伝えることになりますが…いいですか…?」

「……!!」「「「…!」」」

「西野ゆいさんは…白血病です。それもかなり深刻な状態のようです。

「ゆいが…白血病…!」「あぁ…そんな…ゆい!」「ゆいちゃん…あぁ…!」「…!!くっ…!」

西野一家はひどく落胆する。その事実を知って…ありさは医師にこう話した。

「ゆいは治るんですか…あの子は16歳です!まだこれからなんです!何とかなりませんか先生!」

「残念ながらここの病院では…白血病患者に力を入れている病院に知り合いがいるのでそこにも紹介します。いかがしますか…?」

その答えに父はすぐにこう答えた。

「是非お願いします!ゆいを救いたいんです!どうか…お願いします!」

「お父さん…」

「しかしその病院は白血病患者の入院費、治療費は高額です。…それでも望みますか?」

その医師の言葉にありさが立ち上がりこう答えた。

「私が頑張って働いてあの子の治療費を払います!だから…紹介してください!!」

「ありさ…あなた…」「…!」「ありさちゃん…!」

すると医師はありさの目を見て、覚悟はできていると感じ、首を縦に振り、家族に説明した。

「…わかりました。その病院は竹内総合病院という名前で広島にあります。そこには白血病を専門としている病棟が存在します。そちらに手配してみましょう。」

「はい。よろしくお願いします!」

その数日後、ゆいは紹介状を元に広島の竹内総合病院へと入院することになった。わずかな望みであるがゆいを救うことができるならと。だがその病院でも、ゆいの状態はかなり深刻であることをネームプレートに竹内と書かれた50代医師はこう伝える。

「どうやら詳しい検査をして確認しましたが、ゆいさんの発病している白血病は極めて稀なタイプのものです。」

「…!…どういうことですか?」

「ゆいさんの白血病のタイプはどうやらHIVに近い免疫不全を起こしており、様々な疾患に罹りやすい体質になっているようです。さらに厄介なことにこのタイプの白血病は骨髄移植をしても何度も再発するという世界でも10人に1人が発症するくらいの全く症例にないものです。いわゆる難病にも近いものです。」

竹内医師からの突然の言葉に、家族が唖然とした。それは、まさに不死の病に近い白血病をゆいは運悪く引き当ててしまったのだと、ひどく落胆した。

「な、治る希望はあるんですよね!?先生!!」

「…今の所これといった治療法はありません。私からの診断だとこのタイプの白血病は、さらに転移もひどい為、もしもリンパ管にまで転移すれば悪性リンパ腫を併発し、臓器に癌の発生も考えられる為、転移の進行具合では約一〜二年まで生きた事例しか報告されていません。猶予は二年までといったところでしょう…」

「そ、そんな…」「ゆい…あぁ…」「ゆい…」「ゆいちゃん…!」

竹内医師の診断により、ゆいの白血病は思った以上に深刻なものであった。余命はおよそ二年とされ、竹内医師からは抗がん剤で様子を見ていくことになった。そして定期的に骨髄注射をすることで進行状況を見て経過入院を進めることになった。

「…ゆいは今どんな状態なのですか!?」

「今は熱も下がり、安静にしている状態です。しかし、またいつ発作が起こるかいまだにわかっておりません。」

「…そうですか…」「ありさ…」「…」「…」

家族は一度考え、談話室にてこれからのゆいのことについて話し合うことになった。

「ありさ…お前はこれからどうする気だ?」

「…あの子の分まで働くわ。もう少し仕事もらって無理をしてでもあの子の治療に当てる!」

「だがお前も東京だろう…物価も高いし、余裕がない。私たちも全力を尽くす!お前だけに負担をかけさせるわけにいかないのだ!」

「そうです。これはあなただけの問題ではないの。ゆいを助けたい気持ちはみんな一緒よ。あなたは立派な大人といえど、私たちは家族なの!お互い助け合う時は助け合わないと!」

「困ったときはみんなに頼ってもいいんだよありさ、一人では何とかできないことは多い。だからこそ助け合いが必要なんですよ。家族なら尚更、それを忘れてはいけないよありさ。」

「…はい!…みんな…ありがとう…ありがとう!!」(ポロポロ!)

父母祖母はありさを慰めていた。そして今日から西野家はゆいの闘病生活を見守った。幸い、西野家には広島に別荘を設けていた為、ライフラインの心配はなかった。

「うっ…痛い!…あぁっ!!…ハァッ…ハァッ…」

「ゆいさん!あともう少しで終わります!…はい終了しました。お疲れ様です。」

「…くっ!…はぁ…」(思った以上にすごく痛い…でも…何とか我慢できました…)

「…ゆい…よく頑張ったね」(グッ!)


🎼Back Ground Music 》》》



〜病院内の廊下〜

「ゆい、調子はどう?」

骨髄注射による骨髄液の採取の検査を終えたゆいはありさと一緒に歩いていた。ありさはゆいの闘病生活を親身に見守っている。点滴を受けながら歩行器を突きながら歩行しているゆいを見守り、一緒のテンポで歩行しているありさに元気そうなそぶりを見せていた。

「うん…私は大丈夫。お姉ちゃんもあまり心配しないで。もう明日から仕事なんでしょ?」

「ええ。明日からね…でも嫌だといってられない。あなたの治療を続けられるようにしてあげるから元気出して。」

「…わかった。私…頑張るから!…それにもう七年も昔になるけど防衛大学校のお兄ちゃんだってもう卒業して、自衛隊の幹部として頑張っているはずですから…私も負けられません!必ず白血病を克服して、また元気な姿でお兄ちゃんと逢いたいです!」

「ふふっそうね…あの人…三橋さんならきっと立派な自衛官として活躍しているわね…きっと。」

「あはは…そうですよね。きっと。」

そう話していると、ゆいの病室のフロアまでたどり着いた。そして、安全にベットに臥床するようにし、ゆいを寝かしつけた。

「じゃあ、私そろそろ行くわね。ちゃんと休むのよ。」

「はい。また来てね。お姉ちゃん…」

そういうとありさを病室を後にした。だがありさはその裏で涙を流していた。愛しの妹が日々弱々しくなることに耐えられない様子であった。だがありさはすぐに涙を吹き、決意を新たにした。

(うぅ…!…ハッ!ダメダメ…待っててねゆい!…絶対良くなるから…お姉ちゃんあなたの病気治すために頑張るから…!)

その頃病室では、少しありさのことを心配するゆいの姿があった。

(お姉ちゃん、私のために無理しないといいけど…大丈夫かな…)

 

🎼Back Ground Music 》》》



「あ、あの〜!すみませ〜ん?」

「あ、はい!」

「これ、ハンカチ落としましたよ〜」(二コッ!)

「え、あ、ありがとうございます…えっ!?」

ゆいはおとしもののハンカチを拾った人を確認する。するとまだ子供の女の子であった。そして頭にはひまわりのヘアピンが付いていた。

「お、女の子?あの〜あなたは?」

「あ、わたし、あかり。歳は6歳です。今日からこの病室に入院することになりました〜!同じ部屋同士、仲良くしようね!お姉ちゃん!!」

あかりと名乗る少女の元気そうなところに惹かれたのか、少し笑顔になったゆいは元気よくあかりという少女に挨拶する。

「…あかりちゃんっていうのね。わかった!私は西野ゆい。16歳です。こちらこそよろしくね!あかりちゃん。」(サッ!)

「うん!よろしくね!ゆいお姉ちゃん!」(ガシッ!)

二人は仲良く握手をした。それがゆいとあかりとの初めての出会いであった。

「へぇ〜ゆいちゃん、薙刀やってたんだ〜!なんか弁慶みたいだね!」

「そんな大層なもんじゃないですよ。私、幼い頃から身体が弱くて祖母から教えてもらってからなの。そのおかげで9歳ごろから体調も良くなってきたんだけど…私ね…今白血病と戦っているんだ…」

「…私はがんって病気なんだ…でもそんなこと気にしても仕方ないよ!今こうして、楽しく生きてるって感じているだけで私は幸せ!!」(キャッキャッ!)

「あはは!あかりちゃんは明るいな〜!…私も見習わないとですね!」

そうしてゆいとあかりの雑談の日々は続き、次第に二人は惹かれあっていった。あかりがこの病院に入院したのは小児がん専門の病院でもあるということで家族が入院させたようだ。

〜時は過ぎて半年後〜

「でも、なかなか治らないものですね…なんだか病院での味も慣れてきましたね…」

「うん!ここのご飯も少しだけだし、味も薄いね…」

「仕方ないですよ。それだけ病院側も私たちのような患者様のためにも栄養の献立を考えているんでしょう。私は料理もしますが、健康のために薄口に作ってくれていますね」

「ヘぇ〜ゆいちゃんお料理するんだ!どんなの作れるの!?」

「祖母の教えで和食とか洋食、いろいろ作れますね〜!でも私はお好み焼きが好きなんです。特に昔防衛大学校の開校祭である学生のお兄ちゃんが作ってくれた広島焼きの味が今でも忘れられなくて…あら///」(ぐ〜!)

「あははゆいちゃんお腹鳴ってる〜!でも私もお好み焼きは好きかな〜お母さんがよく焼いてくれてね〜…あ。私もお腹鳴った〜」(ぐ〜!)

「うふふ!」「えへへ!」

「ね!病気を早く治してこの病院を退院できたらこの地元の美味しいお好み焼き屋さんに行こうよ!ゆいちゃん!!」

「いいですね!無事に退院できたら一緒にいきましょう!あかりちゃん!!」

ゆいとあかりは仲良く談笑していた。そのとき、あかりの方に面会者が来られたようだ。それはあかりの両親であった。両親はゆいに対して挨拶をした。

「こんにちは!」「こんにちは。いつもあかりがお世話になっております〜。」

「あ…どうも。あかりちゃんと一緒の相部屋でいつも仲良くしている西野ゆいと申します!」

「ほう。先ほどからあかりが楽しそうに誰かと話をしていたから…そうか…もう友達が出来たか!?」

「あら〜とても心優しそうな子ね〜あかりよかったわね〜♪」

「うん!あ、そうだ!これ!ゆいちゃんが編んでくれたの!!」

「あら手袋!…ヘぇ〜!ゆいさん器用なのね〜!」

「昔よく編んでいましたからこれくらいはお安い御用ですよ!いつもあかりちゃんには励まされてばかりですし!」

「そうか。いや〜あかりは入院生活で暇になって寂しい思いをすると思っていたが、あかりと仲良くしてくれる人がいてくれてほっとした。これからもあかりと仲良くしてやってくれ。」

「はい!」

その後ゆいは普段のあかりの様子を話す。その会話をするたびに家族は嬉しそうに頷いており、その様子からあかりの両親は思ったより温かい家庭のようであった。あかりの方は少し恥ずかしいのか、あまり言わないで欲しいという仕草をしていたがそれが可愛らしいのかゆいから笑顔が溢れた。

「では私たちはそろそろ行くか」「ええ。あかり、ゆっくり休みなさいな。ゆいさん。これからもあかりをよろしくね!」

「はい!…確かに承りました。あかりちゃんのお父様もお母様も道中お気をつけてお帰りくださいませ…」(ぺこり)

「ほう。これはご丁寧にどうも。ふむ…どうやらとても育ちがいいようだね。ゆいちゃんの家族は…」

「本当にそうですね〜!その亜麻色の髪も気品に満ちていて、どこかの令嬢さんのご家庭ではありませんでしょうか〜!」

「…あ!す、すみません、私ったら…///」

「ははは。これはあかりの作法の手本にもなりそうだ。では私たちは失礼するよ」

「あかり〜また来るわね〜」(フリフリ!)

「うん!お父さん、お母さん!また!」(フリフリ!)

「…ふふっ!」(優しいお父さんとお母さんなのね〜。心なしかあかりちゃんも幸せそうね…よっぽど愛されているのが伝わるわ…)

ゆいとあかりの入院生活はなかなか充実していた。その翌日にはゆいの両親が面会に訪ねてきたようだ。

「こんにちは〜。ゆい、調子はどう?」「ゆい!どうだ調子は?」「ゆいちゃんどう具合は?」

「あ、みんな来てくれたのですね!…嬉しい!…あれお姉ちゃんは?」

「あ、ありさはね…仕事で来れないらしいの。」「あ、ああ。今ありさは忙しいらしいからな〜来いって言っても仕事でちょっと忙しいからと言ってな…」「そうなのよ…」

「そうなんだ…ちょっと残念です…」

西野一家はゆいと話していると、検査から帰ってきたあかりが病室に戻ってきた。その様子からゆいの家族だとわかり、あかりは元気よく挨拶した。

「あ、こんにちは、ゆいちゃんの家族の人たちですか〜?」

「ん?ああそうだけど君は?」

「私、ゆいちゃんと同じ同部屋のあかりといいます!歳は6歳です!いつもゆいちゃんの話し相手になっています。よろしくお願いします。」

それを見て西野一家は安堵したのか、あかりに優しく話しかけた。

「…そうか、いつもゆいとな!」「あかりっていうのね…可愛らしい子ね〜昔のゆいのことを思い出すわ…」「ふふ、本当に、健気なとことかね〜そのひまわりのヘアピンのように明るい子ね」

「えへへ〜♪」

「あかりちゃん、昨日両親が来てすごく嬉しそうだったの。あかりちゃんの両親…とても優しい人達でね…」

「そ、そうか」「…そうなのね」「…」

西野一家は少し、嫉妬も混じっているかのような少し寂しげな気持ちになっていた。しばらくゆいの面会に来れなくて申し訳ない気持ちでいっぱいだったように家族一同は思っていた。だがそんな空気をあかりの言葉で明るく変えてくれた。

「もう!ゆいちゃんのお父さんお母さんおばあちゃん!…せっかくゆいちゃんの顔を見に来たんだからなんか元気づけてあげなよ〜!もうこんな時ぐらいだよ!元気そうで良かったと笑い合えるの!だから笑おうよ!!笑っていたら明るく前向きになって元気になれるよ。気持ちもスッキリするから!っね!!」(二パ〜ッ♪)

「「「!!」」」

「あ…あかりちゃん…!」

両親はあかりの言葉に元気付けられたのか、少しだけ元気が出たようだ。そして、ゆいにできるだけ笑顔を向けてこう話した。

「ああそうだな。いつまでもゆいの病気のことを考え過ぎていてゆいの本当の気持ちをわかってあげられなかったのかもしれないな…ゆい、今私はお前がこうして生きていることが嬉しくてたまらないよ。ごめん、本当にごめんな!だがもう大丈夫だ!!心配かけたな…ゆい!」

「本当に、まだ6歳の子にこんなに元気付けられるなんて…ゆいごめんなさいね〜お母さんもできるだけ明るく毎日を過ごしていくから。」

「6歳の歳でこんなにしっかりしているなんて、よっぽど親の躾がいいのでしょうね!もう歳を取っているけど私も見習わなくちゃね〜ありがとねお嬢ちゃん〜!」

「うん♪」

ゆいは心の中で思っていた。あかりも自分と同じように闘病生活を送る身でしんどいはずなのにいつも元気に振るまっている。本当にすごい子だと感じ、さっきまで暗い雰囲気を一気に明るく変えてくれた。まるであかりという名前が似合うかのように暗闇を明るく照らしてくれたかのようにゆいは思った。そう感じたのか、ゆいは心の中であかりに感謝した。

(あかりちゃん…ありがとう…私の家族を元気づけてくれて本当にありがとうね!)

ゆいはあかりに強い信頼を寄せていた。このような明るい時間がずっと続いてくれればいいと期待していた。だが限り行く安息の時間に並行し、その結末には訪れゆく絶対避けることのできない運命の時間が刻一刻と近づくことをこの時ーーー誰も知る由はなかったーーー

人命という儚く尊い人生という概念がある限りーーーそれは時に人が持つ欲の非情さーーー取り返したいのに取り戻せないーーー取り返しの出来ない現実もあるーーー


B. いいえ


《Capitolo・4》 
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》




♪〜BJより・月光花

〜ある病院の精神病棟〜



prrrrrrr!!!

「!?…先生!!……精神病棟入院中の患者が突然発作を起こされ!…バイタル急激に低下を起こしております!!」

「何だって!?……分かったすぐに行く!」

ダダダダダダッ!!  
 
「!!ケフッ!!コホッ!!……」(……く…くる……しい………そっ……か。…………もうすぐで…………私は………)  

ブルブルブルブル……

「状態は!?」  
 
「吐血が見られており!!ショック症状も起こしております!!」  
 
「……緊急手術が必要な患者だ!…名は、何号室の患者だ!?」

「…!!」

《291号室のーーさんです!!》

タッタッタ!!!!……!!

「…………!!…………何だって!?」  
 
ガチャ!!  

「…本当なのか!?」
 
「!?先生!!…一体どうしたのですか!?…早く処置の一つも…しないのです……か……!?…」  
 
「っ!!……君は、一体何年看護師をしているのだ!?…あの少女の【Karte】(カルテ)を見た筈だろ!?…あの少女はもう手遅れだ………隔離が必要な……重度の《AIDS(エイズ)》患者なのだ……実の親に激しい暴行を加えられ………我々の口にはとても発言の出来ない……酷い仕打ちを!」  
 
「!?……」(……それでも…!!私は!!……あの子を!!)  
 
《助けたいのに、こんな事って……!!》  
 
・・・  
 
「………」  
 
「………ーー時ーー分。………精神病棟《291号室》へ入院中の………ーーさん。………御臨終です…」  

ゴーン………ゴーン……
 
医者は神様ではない───────平等にも《人間》として生きる意志と時間、必ず苦を分け与えられ、平等に《生》を受けている───────患者の中には、一生背負わないといけない《天命》のような重い疾患に身体を蝕まれ、救いの手を差し伸べようとしても救われない患者が世界には数多くいる───────

それが世の中の自然の非情さと、命のやりとりが繰り返される《医療の現場》という戦場───────

皮肉にも患者同士、仲が良くなればなる程心の支えとなれば、その対価として、人は《決別》の別れを大きく受け止めてしまう動物───────

生きたかったが、願い虚しく天に旅立ってしまい、やるせない思いをしていた少女の手には───────  

ポロッ!
 
「……!?先生!?この子の手に何か……!?これは!?」  
 
「……いつの間に…抜け出してこんなモノを………夏の季節になれば植えてあげよう。……この子の命の証を……歯車が狂う前の彼女が、何不自由もなく生きてきたのだという《道標》になれば良いのだが……」  
 
キラキラ!  

一輪の煌びやかな生命が宿り、これから咲き誇って生きようとする《朝顔》の種が力強く握り締められていた───────  
・  
・  
・  
 


《To Be Continued…→》
 
 
 
 
 
 
 


第4話:プロローグ〜ゆい編 Part1
《完読クリア!!》



次の話へ進みますか?

A. はい 
B. いいえ