GiorGiaNo

 
《Paradisoシリーズ〜導かれし七人の現世人の冒険譚》
 

A.:GiorGia

〜第一章:白狼と誓いの儀礼刀〜

第3話:プロローグ〜白狼編 Part3



プロローグ〜白狼編 Part2の続きです─────




《Capitolo・1》
物語を開始しますか?



〜夕方近き渋谷〜

白狼は、いきなり千夜が発する提案に少しばかり驚いた。その意図を解釈しようと、千夜に語りかける。

「…真剣、真面目な話?どんな?」

「…そうね。ここではなんだし、そろそろ静かになるだろうから、ついてきて」

「?」

そう言われ、白狼は千夜の後をついていく。一体真面目な話とは何だ?もうロベルのことはマスターの話を聞いたおかげで、特に気にしてないのにと白狼は思い、千夜は自分に一体何を伝えようとしているのか、そう考えながら足を動かしていた。

〜代々木公園〜

「ここってさっきの公園?」

「ええ、やっぱり真剣に話をするならここが何故か落ち着くの。……嫌だった?」

「いや、俺も別に嫌いじゃない。やっぱ田舎育ちだからか、こういう自然のあるところが一番落ち着く」

「そっか、じゃ、あなたがマスターのカフェで私にロベルのことを聞いたように、今度は私が…アンタに聞きたいことがあります…」(ドキドキ!!)

「な、何だ?」

白狼はついに千夜が何を聞きたいのか、何を知りたいのか、その答えが出るようだ。

「アンタ…西野さんのことが好きなんでしょ!?」(ドキドキ!!)

「…はぁっ!?」

千夜は白狼の好きな人を西野だと主張して答える。そう、千夜が白狼に聞きたいことは、他に好きな異性の人がいるのかということである。この質問の意図が全く理解できないため、白狼は混乱してこういった。

「ちょっ!?はぁっ!?…何いい出すかと思えば、え、俺が西野さんのことを…!?///…って…つか何でそんなところを聞くんだ…?」

「…アンタが西野さんの話題の会話をしてた時、なんか深刻そうな顔をして、てっきり失恋したと思ったから…」

白狼は呆れた表情で、千夜にこう返した。

「はぁ〜…あのなぁ〜…あの人とはそんなんじゃなくて、ある事情で苦労してるんだ…」

「?ある事情?……って…!?まさか!?」

「マスターの会話の中にもあっただろ。あれと似たようなもんで、あの人も大切なものを失くしてる一人でもあるんだよ…」

「そ、そうなのね…それはごめんなさい。…はぁっ〜…///」

白狼からそう伝えられた千夜は羞恥心のあまりに少しばかり顔を赤くする。

「…んで他に何が聞きたいんだ?つか、もう夕方か〜飯時だな〜!」

「!?…〜!!///」(…もう、本当に鈍感なんだからっ!…仕方ないわね///)(ドキドキ!!)

「なぁ、どっかで飯にしないか?なんか腹が減ってさ〜!」

「ッ!!」

ガシッ!!

千夜は白狼のセリフに痺れを切らしたのか、赤面しながら距離を詰めていき、白狼の前に来た。そして白狼の頭に腕を回した。

「なぁっ…!!んっ…!?」

チュッ!♡

サラサラサラ………

「ん……///んふ…///」

千夜は誰も人気のいない場所で、白狼と熱い接吻を交わす。そしてだんだん息が苦しくなったのか、白狼が強引に引き剥がし、思わず唖然となった。

「……え?……」

「……」

「お、おい千夜…!?」

「来ないで!!」

「!?」

「何で…何でよ!?…本当に昔から鈍感で…!ここまでやってるのに…!…全く気づいてくれない…!…振りむいてすらくれない…!…分かってすらくれない…!!…本当にアンタは……!!いつも……!!バカぁッ!!」(ポロポロ!)

「……!?……千夜…」(…あぁ。……そういうことか…やっと分かったよ……俺…)

千夜は感情的になり目から涙を流していた。どうやら長年培っていた自分の本当の気持ちを今ここで白狼に伝えたかったのだが分かってもらえず、そのまま俯いている。白狼はその様子に何かを察したのか、少しずつ千夜に近づき、優しく抱擁する。

「……っ!!……っ!!」(ポタポタ!)

「そうか。………っ!」

ダキッ!

「!?……え!///」

「……」(ギュッ!)

「……離して!!///」(キッ!)

「いやだ」

白狼は、しばらく千夜を強く抱きしめていた。今まで千夜とは友達でしか見ていなかったが、今回の千夜の行動で、本当は自分に好意を寄せていたと言うことを今やっとハッキリ分かった。そして、白狼は千夜にこう語った。

「お前、俺の事いつから好きになった?」(ダキッ!)

「…高校時代から。私が高校一年生の時、他校の男子に絡まれてた時に、アンタが棒切れを持って返り討ちした時があったでしょ?あの時から……気になって…///」

「…そういえばそんな時があったな。で、こっそり後をついていたのか、菊川先生に呼び止められ、事情を説明して晴れて入門を許可してもらったって事か。今となっては懐かしい事だよな。…その後から…ずっと俺の事好きだったのか?」

「……うん///」

千夜はコクリと頷く。すると白狼は笑みを浮かべて普段と接するような表情とは違い、男としてあるがままの事を伝えようとする。

「…そうか…じゃあ、俺からも言わせてもらうわ」

そう言うと、白狼は一度千夜の身体から離れ、真剣な眼差しで意を決して千夜に伝える。

「…俺はお前をすげえ、色気のある美人だと思ってる。いや……ずっと思っていた!」

「…!…ッ///」

「だけど、もう俺達は歳頃だ。俺は自衛隊に所属してた時からあまり外に出れなかったし、その間…お前のように美人な女はいつか必ず男ができると思うから、俺は諦めようと思った。だけど、どうしても心残りだったんだ。もし、お前に男がいたらどうしようかと思って、自分を曝け出すのが怖かったんだと思う。…だけど、今ならはっきり言える…言ってもいいか?」

「…!?///」(ドクンドクン!)

時は夕方、周囲からは木が風に煽られる何処か寂しげな音が響き渡る。その間に街中から《〜I will Always Love you〜》の音楽が流れる─────


🎼Back Ground Music 》》》


〜エンダーイヤ〜アイラビュ〜

〜♪

「千夜。………俺は、お前が好きだった!……友達としてではなく、異性としてずっと好きだった!!///」

「…ッ///!?」(ブワッ!)

千夜は思わず涙が出てしまった。これはただの涙ではなく、歓喜の涙である。ずっと前から愛しい人からの愛の告白を受け、思わず涙が出てしまった。そしてそれを聞き、千夜は白狼の胸に顔を埋めた。そして恥ずかしそうに白狼にこう話した。

「…ばか…遅いのよ…///」(ポタポタ!)

「お前は…今でも俺の事……好きか?///」(ドキドキ)

「…ばか…言わさないでと言いたいけど今日は…特別…ええ…好きよ……大好き♡///…〜♡!!///」(ダキッ!チュッ♡!)

千夜は力強く抱きつき、深海のように深いキスを互いに交わした。もう時間は夕方になり、夕焼けがより甘酸っぱいムードを引き立てており、温かい空間の中、二人は熱い時間を過ごした。その後、流石に人の目が出てきた為、そろそろと言わんばかりに白狼と千夜は距離を取った。しばらくしてお腹の音が聞こえてきたので、流石に何か食べようと決め、街中に繰り出していたがお互い赤面しながら距離を離して歩いている。

「…///」(ドキドキ!)

「…///」(ドキドキ!)



き、気まずい///

「///」(あれから少し時間経ったけど、俺、キスしたんだよな…千夜と…///)

「///」(こいつも…あんな大胆なことを言うのね…少しドキドキしたし///……意外だったわね///)

二人は赤面して離していると、他の通行人がやけに騒がしく離しているのを聞いた。

《ねぇねぇ、知ってる!【Paradiso】(パラディソ) ?》

《あ〜知ってる!知ってる!確か天国とか地獄ではないもう一つの世界があるんだよね〜!》

《そうそう!んでそこに行けるのは、死んだ人の中でも特別な人じゃあないと行けないって言うのよ〜!…確か〜その人達を導く人がいて、ばったり会えたらチャンスだとかよく聞くよね〜!》

ゲラゲラ!!

「〜?…【Paradiso】?……《パラディソ》ってなんだ?食い物か?」

「違うわよ!食いしん坊キャラかアンタはッ!?……ハァ〜ッ……【Paradiso】って言うのは、ここ最近流行りの都市伝説の事よ。私達の間でもよく聞くわ。……全く聞いててばかばかしいと思うわよ。天国と地獄とかじゃあない、もう一つの世界だなんて漫画じゃああるまいし、非現実的すぎて私にはよくわからないわ!!」

「…っ!……そうか」

その話題を聞き、白狼は西野の妹についての会話を思い出した。おそらく、西野もこの【Paradiso】とやらに影響された為、あのような事を語り出したのはあるのかもしれない。そう白狼は思い、確かに天国に行けずに地獄に行く定めならその世界に行く方が、もしかしたら幸せかもしれない。願わくば幼少期から持っていた病弱体質を克服されていればいいのだがと白狼は願っていた。白狼は千夜に突拍子な質問を問いかける。

「もし、そんな世界があるんだったら…千夜は行きたいか?」

「えっ!?」

白狼は、本当に【Paradiso】が存在するのであれば行くか、あるいは行かないかの問いに対し、千夜はこう答える。

「行かない。私は大人しく天国と地獄の方を選ぶわね。…あ、それ決めるのは閻魔様って言うわよね。……あぁ〜!!…そもそも非現実すぎてそんな話題ついていけないわよ!!」

「ははっ!ごもっとも…」(……だがもしあるんなら…)

そんなたわいもない会話をしていると、お洒落なレストランが左手に見えた。

「お、こことかいいんじゃあないか!」

「う〜ん値段は、ディナータイムで2人組5000円…結構するわね」

「…ここにするか!」

「え、結構するわよ!?」

「いいっていいって!今日は俺が奢るから…それに俺達の祝いでもあるし…///」

「…もう!こんなとこでそれ言う!?…ったくアンタって奴は本当にバカなんだから!///」

「ハハ!……よし、じゃあ行くか!」

「…うん///」

二人は今人生で一番の幸福を感じている。二人はある風景を思い出していた。それはマスターの喫茶店の風景だ。マスターもかつて戦場を経験し、数々の修羅場を乗り越え、今では妻や娘、孫に恵まれ、笑顔が溢れ生き生きと過ごしている。自分達もいつかはあの温かい家庭を築いていきたい。そう思えるような気持ちになった。白狼はレストランのドアノブに手を持ちゆっくり開けようとした時、お互いが幸福な気分を味わえると願うーーー
 

B. いいえ


《Capitolo・2》
※《残酷描写》あり。苦手な方は閲覧を控えてください!
以上を確認された上で、続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜SAOより・デスガン

だが神様というのは残酷なのか、その幸福な時間を決して許さないと言わんばかりに予想もしない運命の出来事と遭遇する─────








ズサッ!!

「…えっ…」(グラッ!)

バタリッ!!

「ん?…!!なっ…千夜!!」

キャー!! おいあいつ、なんか持ってるぞ〜!! 逃げるんだよ〜 あれはもしかして最近ニュースでやってる無差別殺傷の容疑で現在逃走中の犯人なのでは!

「…!!」

白狼はあまりの出来事に頭の整理が追いつかなかった。そこには刃物を持った男がそこに立っていた。そして足を切られたのか、出血もひどく、上手く立つ事ができない千夜がいた。刃物を持った男は顔が見えないようにフードを被っており、今すぐにも千夜を斬りつけようとする体勢を取っていた。だが白狼はその光景を見逃さず、刃物男を取り押さえようとした。

「…!させるか!!」

「!!」

「くそ、大人しくしやがれ!!」

「……!!」

ピカッ!!

「なっ!!」

「!!」(ブン!)

「グハッ!!」(ドスッ!)

「……!!」(ブン!)

ザシュッ!!……ダラダラ……

「うぐっ!!…!!ごあぁぁっっ!!……っ!!…あっ…あぁぁっ〜〜!!」(ジタバタ!!)

「白狼っ!!!!…い、いやあぁぁっっ!!!」(ブワッ!!)



刃物男は隠し持っていた小型のLEDライトを使い、目眩しをして白狼が怯んだことを確認し、背負い投げをして拘束を解き、馬乗りになっては肩に刃物を力強く斬りつけた。白狼は初めての経験で深い傷を負う。出血もひどい状態であり激しい激痛に襲われた。相手はその光景を見届けた後、再び千夜の方に視線を戻し、刃物をチラつかせ、ゆっくり近づいてくる。千夜はその惨状に恐怖を感じ、立ち上がれなくなっていた。

「い、いや……!!」

「…」(スッ!)

…ギイィィィィ!!ガタガタ!!

「……!?…なっ!!クソが〜!!」

「…!!」

白狼は、肩を押さえながら素早く動き、刃物男を突き飛ばし、すぐに千夜の元に近づき必死な声でこう訴える。

「早くここから逃げろ!!すぐにだ!!」

「嫌!!あんたを置いていけないよ!!」

「いいから!!早く!このままでは俺達が…!」

「でも…でも!!」

「くっ!止むを得ないか…ハァ…とにかくその建物の中に避難するんだ!!今ならまだ間に合う!…傷口ひどいから何かで縛っとけよ!」

そう言うと、白狼は最後の力を振り絞って千夜を立ち上がらせて、建物内のドアを開け、できるだけ奥の方へ突き飛ばした。

ドン!!

「あぁっ!…白狼!!…あんたも!…!?」

すると白狼は、何故か笑顔で嬉しそうに笑い、千夜にこう伝えた。

「……◯◯◯◯…!」

「…えっ!?」

まるで洋画のワンシーンで誰かが犠牲にならないと先にいけない重要なシーンのように千夜にそう伝えると、白狼は殺人鬼の方へと血を流しながら向かっていった。

「ほ〜ら…ハァ…刺してこいよ腐れ殺人鬼!…ハァ…」

「…!!…おぉぉぉぉぉ死に晒せ〜リア充共が〜!!」

犯人は、ついに口を開いた。それはこの世の妬み、恨み、今までの人生で愛も受けずに育ってきたような、社会でずっと相手にされず、阻害されてきたかのような生きづらさをも感じさせる怨念じみた罵声で犯人は白狼に強く迫って来た。

「…よし来た!!…そろそろか…!」

キンッ!!

「!!」

「なっ!?」

「へっ…十手だ!オラッ!!」(…グググ!)

「ぐ、グオオぉ…」(ジタバタ!!)

白狼は教育隊時代に自主的に十手を使った護身術を独学で学んでいた。もしものためにと思い、それを誰かのために使ったのは今回初めての経験だった。刃物男のナイフは何処かにいき、もう素手しか残っていなかった。

「…そして、ハァ…上見てみろや…間抜け!」

「…!」

そこにはクレーンに吊り下げられていた厚く重なった敷鉄板が降ってきているのだった。白狼は千夜を守ろうとする際にこの鉄板が降ってくるのを察していたため、すぐに退避しないと自分達も危ないと踏んだのだろう。

「うぉぉぉぉぉ…は、離せ!!!俺はまだ死にたくない〜!!俺は何も悪くない〜!!!!悪いのはあいつらなのに〜!!!なんで俺だけこんな目に合わないといけないんだよぉぉぉ〜!!!」(ジタバタ!!)

「…お前から言えることは、言語道断、自業自得、そして…ハァ…」

ヒューーーン!!

「…因果応報だ!!」

そう言うと、白狼はゆっくり目を閉じた。そして千夜と過ごした、たった数十分間の幸福な時間を思い出し、最後に千夜を思い、こう伝えた。

《千夜、お前からもらった幸せな時間…あの世まで行っても忘れず大切にする。だからお前は…生きるんだ。…父さん、母さん、菊川先生、千里、三橋三等海佐、自衛隊の仲間達、そして自衛隊を退官してから出会ったバイト仲間の外国人労働者のみんな…女性警備員の西野さん、散髪屋の関西弁の旦那、そして元ラバウル航空隊の零戦パイロットのマスターこと空川少尉とその温かい家族と仲間の方々…そして無二の友ロベル…俺は千夜を守ったぞ!…また会えるならあの世で会おう!本当に逢えて嬉しかった。21年の短い人生だがそれでも俺の人生は最高に…》

ゴーーーーーーーーーー!!

《幸せだった!!》(二コッ!)

「いやだあぁ!!離せぇぇぇぇ!俺は、こいつらを殺して、刑務所に入ってただ飯を食う人生をぉぉぉ望m!!!!!」

ドーーーーーーン!!!!!!!!!ガラガラ…

「…!!な、何、今の音!?」(ダッ!)

お、おいなんかでかい音が聞こえたぞ!  おい、あれまずいぞ!!人が下敷きになって…巻き込まれているぞ!!! 


🎼Back Ground Music 》》》



ざわ……ざわ……

「……!!な…何よ…これ!?」

立て篭っていたビルの外から、とてつもない轟音が響き渡り、地面が揺れ出した異常に千夜はすぐさま外の様子を見る。そこには鉄板の山が散乱し、あちこちに血の跡があり、この世の地獄絵図と化していた光景が広がっていた。ただ事ではないと感じた千夜は早急に救急と警察に通報した。そして足を切りつけられながらも負傷した傷口を持っていた包帯で縛り、献身に荷物から治療セットを取り出し、直様負傷者の手当てを実行する。

「う、うぐぐ…」

「大丈夫ですか!?」

「ああ、すまないね…他にもいるようだ…!?ぐあぁっ!!」

「くっ!思ったより傷が深いわね。……でもこれなら…」

カシャ! カシャ! カシャッ!!

おい、あそこ事故が起きてるぜ〜! SNSであげとこうぜ! あららこりゃあ大惨事だな〜 近寄ったら危なそうだし、俺たちは関わらないほうがよさそうだな〜!

「!!」

街を歩く人の中にはただ他人事のように自分達には関係のない事だと言い、事故現場をただ撮影してはそのまま通り過ぎる民衆の野次の姿を見て我慢ができなくなった千夜は彼ら民衆に対し、こう怒鳴りつける。

「あんたらいい加減にしなさい!!こっちは人命救助に1秒1秒は無駄にできないの!自分は他人だからどうでもいいだとか見て見ぬ振りして、それでもこの東京という都会で暮らしている住民なの!!??こんな時だからこそ、みんなで助け合うんでしょ!?この大惨事の中、怖いだの、危なかっただのと言ってやり過ごす1秒1秒、そんな無駄な時間を使う暇があるんだったら…あんた達にもできることに時間を使いなさい!!!!!」

「!!」「!?」「!?」「!!」

千夜は、街を歩く民衆に対し、このような緊急事態に今できることをみんなで団結してやらないでいつやるのかという人として大切なことを民衆の前で大きく訴えた。その声が届いたのか、ある人が救援に駆けつけた。

タッタッタ!!

「…よく言ってくれた。それでこそ、人というものだ!」

「…!?…あなたは!?」

「私は医者だ。今日は非番だったからこの大惨事に駆けつけた!…君は看護師だね。その包帯の巻き方から見たら分かったよ」

「…!はい、応援ありがとうございます!次あちらの患者、脇腹にひどい出血が!!」

「うむ、緊急措置が必要な患者だ!とりあえず応急処置をし、優先して運ばせるぞ!」

事故現場は慌ただしく、それは戦場であった。それでも千夜は気をめげずに頑張った。白狼が命を懸けてまで繋いでくれた命と時間を大切にしたい。その想いが、彼女を後押ししていた。そしてついに救急隊員と警察が到着し、負傷者の救護をしていく。

ファウファウ!! ピーポー!ピーポー!!

「…!?」(やっと救急隊が到着した!あと一歩…)

「重症です!!早急に搬送願います!」

「はっ!総員すぐに取り掛かれ!!」

「!?隊長、鉄板に下敷きになっている方がおります!」

「何!?すぐに撤去して負傷者を引き上げるんだ!!」

「くっ、この惨状は一体なんなんだ…」

到着した救急隊員もこの惨状を見て鳥肌と絶望感を感じているようだ。周りは鉄板が下敷きになって大破している車、そして雪崩混んでくる負傷者の数々、大多数の被害を受けているようだ。

「全員諦めるな!負傷者はなんとしてでも救い出すぞ!」

「…!息をしていない!心臓マッサージが必要ね!!」(グッグッ!)

「…!!俺が代わりにやりますのであなたは他の患者の手当てを優先してください!!」

「助かるわ!その人をお願い!!」

千夜が黙々と心臓マッサージをしていると、一人の青年が交代した。彼は介護士で最近になり救急救命講習を修了したといい、代わりに他の患者の処置を千夜に託した。そしてこの惨状が、起こって早2時間になる。そして、鉄板に下敷きになっていた負傷者の救助が始まった。下敷きになった負傷者の跡を見ると、それは血に染まり、人肉が飛散し、肉塊の残骸と内臓があちこちに飛散した惨状となっており、隊員達全員が身の毛をよだつ現場であったとされる。そしてその中には、千夜のよく知っているものがそこにいることに気づく。



「!!隊長、ここに人がいます、何やら、十手を持った負傷者が!?」

「えっ…!!」

それを聞き、千夜は遠くからその者の姿を確認した。そこには紛れもなく、自分の知る愛しい恋人である白狼だった。身体全身に血が流れ、ボロボロでもう虫の息の状態であり、手の施しようはなかった。それでも救急隊はその患者を見捨てることなく、病院へと緊急搬送させた。

「…白狼、ここが落ち着いたら必ず会いに行くから待ってなさい…お願い…無事でいて…!もし死んだりしたら承知しないから!!」

そして、渋谷付近で起きた最悪の惨状が落ち着くまで、深夜を通り過ぎ、気がつけば早朝になっていた。今回の大事故はニュースで大きく報道され、玉掛け作業の業務の怠惰を怠ったことを建設会社の方への過失が追及され、スキャンダルも大きな責任問題として大きく広まり、このような大事故を引き起こしてしまったことを深く謝罪いたしますと役員は深々と頭を下げ、多額の賠償金を支払われることになった。そしてテレビで報道されていた無差別殺傷事件の犯人も事故に巻き込まれ、死亡したと大きく報道される。目撃者によれば犯人に怯むことなく、一人の女性を守りながら立ち向かう勇敢な銀髪の青年がそこにいたという目撃証言もあった。

・・・

B. いいえ


《Capitolo・3》 
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜ワーグナー・カラヤン演奏より〜タンホイザー序曲

千夜は睡眠を取らず、早急に白狼が運ばれた搬送先の病院へと向かった。受付の人に二ノ宮白狼の名前を伝えるとすぐに場所を案内され、大急ぎで向かった。

「はぁっ…!…はぁっ…!はぁっ…!…白狼!!」(タッタッタ!)

【手術中】

現在白狼は手術を受けている為、手術室の前にて待つ千夜。両手を握りしめ、白狼の無事を願った。

「!!…お願い、神様…白狼を…!どうか…救ってください!」

手術中 (ガチャッ!)

「!!」

手術室のランプが消え、医師と看護師が出てきた。だがその表情は苦悶かつ深刻な表情をしていた。すると千夜は立ち上がり、白狼の安否を聞いた。

「…!先生!!白狼は…無事なんですか…!」

「…残念ですが…」(フリフリ…!)

「……!……ああ、そ…そんな…!」(ポタポタ!)

医師は首を縦には触れなかった。病院に着いたときには、息がなかった。バイタルも安定しておらず、手の施しようがなかった。それでも医師達は諦めず、一人の人間を救うために尽力した…それでも届かなかった。そして千夜からは白狼のいつもの顔が思い出の中でフラッシュバックし、さらに涙がこみ上げてきた。

「あ……ぁぁ……!!」

あああああああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!!!」

ポタポタ…!

千夜は思いっきり泣いた。ようやく叶った恋路をたった数分しかなかった、あの温かいムードに包まれた大切な一生の時間を、突然の事件と事故に巻き込まれることで全てを失った。その喪失体験は計り知れない。看護師として命を守る仕事に従事する千夜にとって愛する者の突然の別れにより、命の大切さを知るきっかけになった。だが千夜は無念のあまり、涙を流すしかなかった。結局帰ってくるのは病院内で響く自分の号泣の声─────

その声で白狼が戻ってくることはなかった─────

・・・
・・


〜時は流れ白狼の出身和歌山県のある自宅での家族葬〜

〜チ〜ン〜チンチ〜〜ン……

白狼の葬儀は大袈裟なものでなく、ひっそりと自宅による家族葬で行われた。白狼自身、そこまで大人数で見送られるような柄ではないため、今回そのような措置が取られた。派遣されたセレモニースタッフの手には、今まで白狼と関わりのある中学時代、高校時代のクラスメイトのコメントが書かれた色紙メッセージがあった。そしてひっそりとした畳の部屋で、葬式姿の白狼の両親、祖父祖母、そして千夜、千里、菊川が棺で安らかに眠る白狼の姿を見守っていた。

「……白狼…!ほんっとうにあんたって子は…!…あれ程、いつまでも…元気に…って!」

「…母さん、未練を残すな…あの世であいつが笑えないぞ…」

「…白狼ちゃん…まだお若いのに…あそこでも元気でやるんだよ…」

「悔いを残すなよ…ゆっくり休め…」

「……うっ!…うぅ…」

「ち、千里…あまり泣かないで…」

すると、突然我慢できなくなったのか、千里が涙を堪えきれず、涙を流した。千里はロベルを失い、そして、その親友だった白狼も失った。あまりの悲しみに涙は堪えてくれることはなかった。

「はい…でも…やっぱり私は…ううぅぅ…ロベル先輩もいなくなって、今度は…白狼先輩まで…うっ…えぐ…!」(ポタポタ!)

「…そうね…ごめんなさい菊川先生…私、あいつを救ってやれなかった…!!本当に…私…!!」(ポタポタ!)

「…仕方のないことです。人はいつか必ず別れが来ます。このような別れ方は本当に残酷なものです。病気ではなく、寿命ではなく、突然の事故で人命を失うものほど…これ以上に無念なことはないでしょう。ですが彼は違います。彼は命を覚悟して、看護師としてのあなたではなく、愛人として愛おしい存在のあなたを必死で守ろうとしたのです。おそらくそのきっかけをあの大都会の東京で学んできたのでしょう。彼の命を無駄にしてはいけません。彼の行動に敬意を払いなさい」

「…はい…」

「…いつもふざけている先生が…そんなことを言っても…説得力が…ありませんよ…うぅ…うぅ…」

「こういう時だからこそ、言わせてください千里さん…白狼くん、よく千夜さんを守ってくれましたね…こんなになるまで必死になって命を懸けてまで彼女を守った行動に、また貴方が私の生徒であったことに敬意を払います。どうか…願えるなら我々の居合道の道士であることを忘れずに、ロベルくんと一緒の世界に行けることを祈るばかりです」

「…先生…!」(ブワッ!)

「…菊川先生…!」(ブワッ!)

菊川は白狼に別れの挨拶を済ませる。すると、セレモニースタッフから、次の来訪者が来たとのことなので両親は通してといい、来訪者を玄関に招き入れた。

そこには、白狼が今後お世話になるはずであった一人の大人びたどこか気品の感じられるライトブラウンのセミロングの髪色をした女性が訪れた。その雰囲気から、《Hayley WestenraのAmeizing grace(アメイジンググレイス)》がよく似合うイメージの女性であった。


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜Hayley Westenraより〜Ameizing grace

「こんばんは…遅くにすみません。そちらは二ノ宮さんのご両親の方で間違い無いでしょうか?」

「…ええ」

「…そうですが…あの貴女様は…?」

「…申し遅れました。私は生前、二ノ宮白狼くんの勤めていた職場で彼と仕事仲間であった西野ありさというものです。この度は二ノ宮白狼くんへのご冥福をお祈りします故、訪ねてきた所存でございます」

西野は育ちの良さが出たのか丁寧に、白狼の親族や親しい友人に挨拶を交わす。その時、千夜は西野という姓に聞き覚えがあったのか、思わず西野に話しかけた。

「!!…あなたが白狼の言っていた…あの西野さん…」

「…!……そっか…白狼くんから聞いていたのね…」

「…はい、あ…!あいつの顔…見てあげてください…」

「…ええ…では失礼します…!」

西野は白狼の顔を確認した。顔には傷があり、ひどい有様だった。それでも去り際に彼はやりきったと、とても清々しい表情をしたのか、関西弁の散髪屋が仕立てた銀髪のベリーショートウルフはとても輝いて見える。まるで神々しく孤高の白い狼のようにも思えた。西野は安堵の表情を浮かべながら、涙まじりでこう呟いた。

「こんばんは…久しぶりだね…二ノ宮教官…いえ…今日ばかりは白狼くんと呼ばせてもらうね…確かに黒髪から少し銀髪になったわね…でもあなたにとっても似合っているよ…」

「あの後…上と掛け合ってみたらぜひ紹介してくれ!すぐに採用したいと言われてね…できれば生きているうちにそれを伝えたかった…」

「もし生きていたなら…あなたと一緒に仕事ができる日々を楽しみにしていたけど…こんなことになって…とても悲しくなって…ね…!!…っグスッ!」

白狼の死が悲しいのか思わず涙が出て泣きそうな気持ちになるのを西野はじっと堪えた。そして少しずつ落ち着き、また白狼に語り続けた。

「白狼くん…あなたがあの事故に見舞われたのは後から知ったわ。その時にあなたからの連絡が来ず、とても嫌な胸騒ぎがしたの…」

「まるであの時、妹のゆいが危篤状態になって、救急治療室に運ばれたときのように…とても…とても嫌な予感がしたのよ…」

「…それが今になってこんなことに…でも、ニュースの目撃証言を見てあなただと思ったの…!」

「一人の女性を必死になって守り、自衛隊員としての誇りを忘れず、その責務を貫き通したのだから…」

「…本当に優しい子ね…君は…無茶ばかりするけど…それでもその人を守りたかったのね…すごいよ…本当に君は…!」

「…だから胸を張って向こうでもいつまでも変わらないあなたのまま…元気でいてね…あなたがどうしても妹のことを引きずってて立ち直れなかった私に大事なことを伝えてくれたように…」

「…私は人生の中で、あなたに逢えて…本当に良かった…あなたのことを一生忘れない!!……ありがとう!…あと…」(ポタポタ!)

「…!」 

「!?」(ほう、大胆な…!)

西野は白狼の頬と頭を持ち、額に自分の額を密着させ、願うならばと彼になら任せられるといった心にある想いの言葉を伝える。

《…もし、天国と地獄でもないもう一つの世界があるのなら…もしそこに妹のゆいがいるなら…あの子を守ってあげて…!…頼んだよ…白狼くん!!》
  
・・・

その後、西野は白狼に合掌し、念仏を唱え、白狼の遺族に挨拶をした。西野は白狼の緊急連絡先の情報を見て大急ぎで東京から遥々と和歌山まで足を運んできたことを伝えると、遺族は涙ぐるましく、西野に挨拶をした。

「…この子のために遥々と、遠いところから足を運んでいただき、ありがとうね」

「…ああ、全くだ。最後にこんなべっぴんさんに最期を見届けられるのは、本当に羨ましくて幸せだと思うぞ」

「…もう!お父さん…不謹慎よ!こんな場所で!…でも、遺族一同、感謝の言葉とします。ありがとうね。西野さん…」

「…はい。で、あなた方が白狼くんの友達の…?」

「…はい。千夜と言います。…白狼の…彼女と言えばいいのでしょうか…白狼…私を守るために犯人と戦って、そんな時にあの大事故があって、私は看護師として必死になってその惨状の救護を担当しました。しかし、あいつだけは…!…あいつだけは…!!どうしても助けられなくて…!」(グスッ!)

「…そう、大変だったわね。千夜ちゃんか…そう言えば白狼くんからも少し聞いてたわね…昔祖父が亡くなってからその時から看護師を目指している居合道の仲間がこの東京にいるって…あなたのことだったのね…とても辛かったわね、あなたはとても…よく頑張ったね……」(…ダキッ!)

西野は千夜をそっと優しく抱擁した。西野はよく身体の弱っていた妹のゆいをよく抱いていたためか、それはとても温かみのある、まるで天使の翼に包まれたのような聖母の慈悲とも言える抱擁で千夜を慰めるかのように優しく抱いた。千夜はその温かみのある西野の抱擁にまるで洗礼の雨で流されるかのように深く傷ついた心が浄化され、清らかになったのか…とても温かい、歓喜の涙を流した。その様子に西野は、昔の妹を抱いているかのように優しく語りかけた。

「…!!…あぁぁぁぁーーーっ!!!」

「…ふふっ。あの子と同じね…懐かしいな〜いつも抱いたらこんなふうに泣いていたのを思い出すわね…そちらの子は?」

「は、はい。私は千里と言います!今大学二年生で、海外への留学経験もあり、将来はキャビンアテンダントを目指しています。…ただ、白狼先輩と…同じロベルという先輩が病死して…それで今回は…白狼先輩が…亡くなって…わたし…ううぅぅ…あぁぁーーー!!」(ダキッ!!)

千里は、居合道に所属していた二人の先輩が先に旅立たれ、耐えきれなくなったのか悲しみの涙を流しながら西野に抱きついてきた。西野はしょうがないという仕草で優しく微笑み、千夜、千里の二人を優しく抱きしめた。その姿はまるで、海外の教会にあるかのような幻想的な絵画のように神々しく写り、温かみのある空間ができた。親族一同はその光景に思わず息を飲む。

「なるほど。白狼くん、あなたがこのような女性に惹かれた理由…何となくわかりましたよ。あ、申し遅れました、私は菊川と申します。白狼くんの通っていた居合道の師範代で龍川神社の神職をしております者です」

「あ。…これはどうも。……神職。……つまりは神主さん。…そうですか、あなたが白狼くんの先生で、この度は本当に…」  

「あ、いいのですよ。あなたの方こそ、遥々と遠い中、白狼くんを見に来てくれて私は嬉しいものです。きっと彼も同じことを思っているでしょうね。先程の話を聞く限りあなた様には妹さんの不幸事があったようですね…でも白狼くんが限りある時間の出会いから、あなたを励ましてくれたのです。これからも元気で、白狼くんと妹さんの分まで頑張ってください」

「…!…はい!」

「…先生…西野さんがあまりにも美人だからってイケイケな言葉を使わないでください…」

「…千里さん、私は至って真面目ですよ。まあ確かに彼女の美貌に惹かれて少しかっこよく言ってしまっ!!ゲフンオッホン!!」

「…ふふっ、白狼くんの言ってたようにユーモアがおありの先生のようですね♪」(二コッ!)

「あ、いえ///」(ドキンッ!!///)(あ〜危ない〜あの笑顔は反則だって〜!思わずこの歳でときめくところだった…あ、いや、私ももういい歳か…)



・・・
・・


〜一方二ノ宮の自宅前〜

「…ここでいい。ありがとう。用が済んだらまた連絡する」

「分かりました。お気をつけて」

ブーーーーーン!

「…さて…行くか…そろそろ寂しい頃だと思っていたのだろう、君は…」

男は送迎車から降り、深めに帽子を被り、6月という暑い季節に対し、長めのコートを羽織っている。だがそれでも紳士的な雰囲気を持っていた。そして、派遣されたセレモニーホールの受付へと足を運んだ。

「夜分遅くにすみません、こちらは二ノ宮白狼さんの実家でよろしいですか?」

「は、はい。あの、貴方は一体…?」

「ああ、失礼、私はこういうものです。今日は突然のこととはいえ、彼に人目合わせようと思いましてな〜」

「わ、分かりました。こちらになります」

男は少し哀愁漂っていた。だがその背中には、何故か日本海軍の象徴と言える旭日旗が背中に靡いているかのように思え、凛とした立ち姿の大和魂を持つ男がいた。

B. いいえ


《Capitolo・4》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》




♪〜日本国歌・海行かば

〜♪

海行かば 水漬く屍
山行かば 草生す屍
大君の 辺にこそ死なめ
顧みへりみはせじ
長閑には死なじ

<意訳>
海に行ったならば 水に漬かった屍(死体)になり
山に行ったならば 草の生えた屍になって
天皇の お足元で死のう
後ろを振り返ることはしないぞ
穏やかな死に方はしないぞ

「…よく祖父がこの歌を鼻歌まじりで歌っていたな…今となっては、彼がこの歌を聞く宿命か…」

男は車内でイヤホンをして昔の軍歌と言われていた《海ゆかば》を聴きながら昔のことを振り返っていた。

「……」(私の祖父は広島出身で、20歳の時、徴兵で日本海軍として活躍。金剛型の高速戦艦《榛名》の乗組員と聞いている。戦後になれば榛名は、広島の復興資源の為に解体され、祖父は『あの戦艦は長い間不思議な縁があったように思う…本当にあの戦艦に乗って過酷な戦場から生き残れたことに幸運を感じた』と語っていた。その後、沖縄県出身の当時看護婦であった祖母と結婚し、私の母が生まれた。母は、祖母が昔学徒隊で兵士を救護した経験の話から看護師の道を行き、行く末に父と結婚して私が生まれた。だがあまり父とは仲が良くはなく、私が10歳頃に父と母は離婚した。私は母について行き、姓も変わらず《三橋》のままで過ごし、女手一人で私を育ててくれた。その後、私は祖母や母の苦労話や、平和学習の研究の一環として、当時私自身が進んで調べていたウランを用い開発された……《原爆》。…通称原子爆弾。…1945年8月6日に投下されたそれは……広島型原爆《リトルボーイ》として今もなお、第二世界大戦の記憶として平和記念公園内に。…そして聳え立っている《原爆ドーム》が、当時の悲惨な現状を証明するかのように…現在も物語っている。我が故郷…広島。かつて戦時中での当時の人々の暮らし、どのように再建を果たしたのか……それを聞いていくうちに、誰かの役に立つ仕事に就くと。…そう考えるようになり、防衛大に入学。その後主席で卒業し、幹部自衛官として現在三等海佐の地位を得て現在に至る。今思い返してみれば私には誰を守るのかという具体的なものがなかったように思う。だがそれを教えてくれたのが、防衛大に知り合った当時9歳のゆいという少女と私とも同年代20歳の姉のありさ、そして最終的な階級は海士長であるが、他のものよりも何かを秘め、情熱を持っていた。その若者の名を二ノ宮白狼と言い、彼を慕う居合道の仲間もとより同士がいる。そして何よりも、具体的に守るべきものを本能で分かっていた自衛官だったと私は思っている。そして今日は彼との決別の日でもある。)

〜二ノ宮家・自宅での家族葬〜

「すみません、次の来訪者が来られたようです。お通してよろしいでしょうか?」

「あ、はいどうぞ」

白狼の両親はそういうと、次の来訪者を招く。するとそこには深々と帽子を被り、コートを羽織った紳士的な男性が訪れた。紳士は帽子を取り、遺族に深々と挨拶をした。

「初めまして。私は以前、元海上自衛隊・横須賀基地にて彼、元二ノ宮海士長の上官であった、三橋三等海佐というものです。今回の件は誠にご冥福をお祈り申し上げます」

「あ、これはこれは。ほら白狼起きなさい!貴方の上官よ!」(ぺシッ!)

「…母さん、白狼はもう起きないのだぞ…」

「…あ〜これはこれはなんと立派な上官さんで…」

「うむ、まさに現在を生きる軍人の面構えだ…!」

「…すみません、二ノ宮くん…いえ白狼くんの顔を拝見してもよろしいですか?」

「…!はいどうぞ見てやってください!」

「母さん堅くなりすぎだ…」

家族はそういうと、三橋はコートを脱ぎ、自分の手元を置いた。そこにはもう夏も近いせいか、幹部自衛官の着用する長袖の純白の制服を羽織った三等海佐の自衛官がそこにいた。三橋は白狼にこう語る。

「こんばんは、二ノ宮海士長。いやもう階級呼びはやめようか…では改め、白狼。君が海上自衛隊に所属して三年の月日の中で、君が学んだことを今回の件で実践し証明したようだな」

「さぞ、君の行動には敬意を払いたい。あの渋谷付近で起こった大事故のことは横須賀基地からも聞いていた。その時に死亡者リストに君の名前があったことに気づいた時、私はすぐに横須賀から和歌山まで駆けつけたのだ」

「君があの時、犯人を止める行動がなければさらに被害が出ただろう。君の行動は本当に驚かされた。簡単にできることではない。普段の君の行動は、本能的に考えもなしに行動し、悪い方にも飛べば時に機転が効いたのか、いい方にも行く」

「本当に、君は私が今まで見てきた隊員の中で何かと輝きを持っていた。不思議なほどに…あの時、海上自衛官として在籍して功績をあげていれば、私と同じように幹部になれる器があったのに…とても残念だよ」

「だけどその結果、このような形で君と会って上下関係なく、割り切って対等に話すことができたのだ。それだけはお礼を言いたい」

「もし、あの世に行ったとしても、君は人助けをするだろう、その時は私の教え通り責務を果たしてほしい!」

「君なら私の教えを、自分だけが優越感に聳え立ち、他人を蹴落とすような欲に溺れた使い方をせず、本当に自分の守るべきものに力を出してくれることを心より願っている!」

「では、白狼、あの世でも達者で。私は君が亡き後でも落胆せず、常に向上の意欲を忘れずに前に行くことを約束する!…さらばだ!…我が戦友!二ノ宮白狼!!」(ビシッ)

三橋は白狼の勇気ある行動に敬意を表し、敬礼をした。するとしばらく席を外していた千夜、千里、菊川、西野が戻ってきた。

「み、三橋さん!?」

「み、三橋一等海尉!!」

「これはこれは三橋さんどうも。そうですか…その階級章を見る限り…とうとう三等海佐になられましたか…」

居合道所属の三人組は、実に三年ぶりであった。最初の出会いは商工会館で後にこの人と写真を撮った仲でもあった千里が驚いて声を出す。しかしそれだけではなかった様子だった─────

「………」

「!?……え……」(…え…嘘…!!なんで…!?…そうか白狼くん……あなたとは本当に縁がありましたね…)

西野は昔の知人を見るかのように目を開き、三橋を見つめていた。

「やあ君達、三年ぶりか…久しいな…また君達に会えて嬉しいよ…菊川先生もご無沙汰しております…そして…十年ぶりの再会になるかな…ありささん」

「「「…!」」」

「…はい。その節はお世話になりました…」

「ゆいちゃんは…今はどうしてる?」

「…妹のゆいは…最近お亡くなりになりました。でも白狼くんが私を励ましてくれて…もう平気です」

「…!…そうか…それは残念だ。…すみません、白狼くんのお母さん、少し席を外しても…」

「いえいえ構いません!そのままこの子のそばで聞かせてやってください!三橋さん…西野さんも…それとみんなも、私達は何も問う気はありません。ねぇお父さん?」

「うむ、おそらくこいつもそれを望んでおる。思う存分聞かせてやってくれ」

「…はい。三橋さんとは昔、私が20歳の時、妹のゆいが9歳の時、父と一緒に防衛大学校の開校祭の時に知り合った仲なんです」

「「「えっ!?」」」

「ああ。だが懐かしいな…私は当時儀仗隊として式典の時、ミスすることなくこなし、お好み焼きの模擬店の方へ向かっていたその時に君と妹のゆいちゃんと会ったんだ。あの時は元気そうだったのだが…」

「…あの子、昔から病弱だったんです。幼き頃、少しでも慣れさせるために祖母と一緒になって薙刀術を教えていたのです」

「確か当時ゆいちゃんがそう言っていたな。…その後はどんな感じで?」

「…はい、その後、あの子は中学も病院に通院しながら登校し、成績は優秀で有名女子校に通っていたのですが、16歳の時に白血病を患い、私もあの子の治療のために働きましたが…19歳でこの世を去りました」

「そうか…病院さえわかれば、私も行けたのだが…幹部ともなると無闇に外出はできないことが多くなってな…どこの病院で入院を?」

西野は胸の方に手を添えて握り、妹が入院していた病院の場所を三橋に伝える。

「…広島の竹内総合病院です。そこに妹は入院していました」

「…な!!…そうか…よりにもよって私の地元で、祖母が通院している病院とは驚いた…!」

「えっ!?、そうなんですか、確かゆいは、あかりちゃんとフネおばあちゃんがいつも話をしてくれたと言ってましたね。元気がない時にフネおばあちゃんが昔沖縄で体験したことを話してくれて、なんだか生きる希望が出てきてすごく元気が出たとよく…」

「…!!…はぁ…全く…ゆいちゃん…うちの祖母とも関わりがあるとは本当に…」

三橋は、この世に神がいるとすればこの当てはめ過ぎている運命の悪戯を呪うかのように、笑みを浮かべながらこう告げた────

…全く…暇な神様がいたものだ…







二ノ宮白狼は現世で突然の死を遂げた───



しかし、世界というものは途方もなく広く、時に奇妙な事が起こる事がある。───人生で何度も言われたことがあるだろう。─────何が起こるか分からない。───自らがその目で認知し、見て触れて世界を知り────培ってきた物事の考え方とはとても予想ができない大きな巡り合わせと遭遇する事だってある。─────西野が告げたように、亡くなった者の魂は──────あたかも《輪廻転生》として運命の歯車となりて─────次の可能性へと誘わせる、奇妙な世界へ足を踏み入れる巡り合わせも───────あるのやもしれない───────



God created heaven and earth, and everything that exists between them.
(神は天と地、およびその間に存在するすべてを創造した。)

Having a good spirit is not enough, it is important to use it well.
(良い精神を持っているだけでは十分ではなく、大切なのはそれを良く用いることだ。)

Rene Descartes
(ルネ・デカルト)

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜TODより〜Holy light

・・・
・・

〜???の世界〜

「……はっ!」

「あ、気付きました?どうでしたか?みんな寂しそうでしたか?」

「…ああ…だが最期に今まで関わってきた大切な人達に見送られて、俺は幸せだったんだな…」

そこは真っ暗であるが天井に小さな光が等間隔に、スポットライトのように広がっている道の中で、白の狼を連想させる銀髪の男は、シルバーブロンドの髪色でロングヘアー、胸元に十字架のマークのワンポイントに青白のワンピースを着た一人の少女と出会い、現世ではなく、別の世界での波乱の物語が幕を開けようとしていた──────

〜時は戻り少し前の出来事〜

カラ〜ンカラン♪

「zzz…んっ…!…ハッ!……!?な、なんだここ!?」

何やら鐘の音が聞こえたので、白狼は目を覚ました。中はとても狭く、周りには白い薔薇が囲まれており、顔の前にはドット状の穴があった。どうやら窒息を防ぐための措置かと白狼は考え、一度、前の扉を押し出す。

「よっ…と!」(ガタン!)

白狼は扉を開け、身体を起こして周囲を確認する。下を見るとそれは案の定、白狼は棺で眠っていたようだ。周りは空間は薄暗く、もやがかかった空間が広がり、目の前には白い道が続いていた。そして天井は高さが見えない。そんな時、白狼は何か物音の気配を感じたのか周囲を警戒した。

ガタッ… ゴゾッ…

「…!…何か…いる…!?」

「呼びました?」(ひょっこり!)

「えっ?」

「ん?」

「……」(ジーッ…)

「?」(くびかしげ)

白狼は、何かの気配を感じ取り、警戒していると誰かの顔がひょっこり現れる。あまりに衝撃的だった為、白狼は唖然とする。

「うぉぉぉっっー!!びっくりしたーっ!!」(バッ!)

しばらくして状況を察知したのか、思わず驚いて棺から飛び出す。

「やっほ〜♪」(ニパ〜!)

「なな…な…!…ん?…女の…子供…?」

「こんにちは〜♪初めましてってやつです!」

白狼はすかさず確認すると、シルバーブロンドの髪色でロングヘアー、肌は白く、胸元に十字架のワンポイントに青白のワンピースを着た笑顔の一人の少女がそこにいた。少女はすかさずニコニコと挨拶をした。

「私の名前は、導き人の一人《オロア》!よろしく〜♪…そしてあなたをユートピアの世界へと勧誘に来ました!」

「ユートピア…【Paradiso】って世界のことか?」

「おぉ〜!よく知ってましたね〜♪」  

「…まあ現世でも、やたら都市伝説で噂になってたからな〜。んで、その導き人さんが俺をその世界に勧誘に来たと…」

「はい!♪」(二コッ!)

「……」

白狼はこのオロアという少女のことを少し考えていた。突然現れてこのお気楽にその【Paradiso】のことを喋るところを聞けば、よくよく考えると罠があるのではと疑い、少し質問を変えて話してみた。

「…じゃあここは死後の世界で間違い無いんだよな?…俺死んだんだよな!?」

「はい!」

「【Paradiso】に行くとか言っといて、本当は地獄に送るとかじゃあないよな!?」

そういうと、オロアは笑みを浮かべ、白狼の身体をジロジロ見ながら白狼の質問に対し、こう答えた。

「ふっふ〜ん♪…それはあなたの実力次第ですよ、二ノ宮白狼さん♪」

「?……どういうことだ?っつか俺の名前、なんで知ってるんだ!?」

すると、オロアは白狼に納得させるかのようにこう答えた。

「よくぞ聞いてくれました〜♪私導き人には死者の情報はなんでも知ってま〜す!あなたはどうやら、現世にてかけがえのない一人の恋人を庇うために連続殺傷事件の犯人と勇敢に戦い、犯人を押さえ込んでいた時に、クレーンに吊り下げられてた鉄板が雨のように空から降ってきてそのまま下敷きになり、死んでしまったと言えばいいですかね〜?」

「…当たりだ。…どうやら本当みたいだな。あ、そうだそれならもう一ついいか?」

「はい!なんなりと〜♪」

白狼はオロアに対し、自分のかけがえのない、無二の親友の名前を問いかける。

「フィル・ロベル京一って名前のやつ…【Paradiso】にいるか?」

「ん〜?いや聞いたことがないですね〜♪」

「そ、そうか…すまないな…妙なこと聞いて」(…そうだよな。そんな都合よく、んな世界に来るわけないよな…)

白狼は今からおよそ二年前に亡くなった《無二ノ親友》の存在であるロベルの事について聞くが、彼自身が死後の世界に訪れているのかについて不明瞭な点があるのか【導き人】のオロアの返答は即座に知らないと答える。

「大丈夫ですよ〜♪では!そろそろ行きましょうか〜♪」(ピューッ♪)

「え、どこへ?…って!?足速ーっ!!」

「あはは♪早くしないと置いて行きますよ〜♪」(キャッキャッ♪)

「ヤベェ〜あいつ見失ったら、本当に地獄行きかもな…お〜い待て〜!!」(ダダダダッ!)

白狼は導き人のオロアを追いかけ続ける。進むにつれ、視界は暗闇が広がっていく。それでも白狼は足を止めずに走り出す。そして走り出してから10分ぐらいになるとだんだん暗闇から光が見えてきた。

「はぁ…はぁ…やっと追い着いた…だが死んでいても、疲れとかは感じるもんなんだな…」

「お、着きましたか〜♪ではあちらを見てください!」(指差し!)

「な、何だあれは!?…まるで人気の無い路地裏みたいだな」

オロアが指差したところを白狼が確認するとそこには真っ暗闇な道に天井に小さな光が等間隔に、スポットライトのように広がっている道が続いている。その道を見て白狼はオロアに問いかけた。

「あの光は一体なんだ?まるでスポットライトみたいな感じだが…」

「あれは現世の世界の光の一部です!光を浴びると、あなたの生前の様子だとか、その他の人の身体を借りて、いろんな追体験できたりと…まあとにかく色々な価値観に触れるのがありますね〜♪あ、特に害はないのでご安心ください!」

「ふ〜ん…って!それってなんかの試練みたいだな!?その【Paradiso】って世界に行く前に現世の記憶を見て一度振り返り、今の自分がその世界に行く資格があるのかを自分で判断するかのような…」

白狼の発言に、導き人はニヤリと笑い、このように答えた。

「ご名答といえばそうですね〜!でもどちらかといえばそれに打ち勝つ力はあなたにありそうなので私達は基本ノータッチですね〜♪」

「ん?達?」

「と〜にか〜く♪早く入ってくださいね〜、時間が押してるので♪」(トンッ!)

「えっ、って!?…う、うぉぉぉー!!吹っ飛ぶ〜!!!」(ビューっ!)

「いってらっしゃ〜い♪」(ニコニコ〜フリフリ〜!)

「てんめ〜!覚えてろ…おっ…!」(フッ!)

オロアは、白狼の背中を軽く叩くとその直後、とてつもない突風が吹いたかのように白狼の身体が吹き飛ばされる。そしてスポットライトのある方に近づき、白狼が光に接触すると、光の中に消えていった。

(…さて、あなたはこの関門をクリアできますでしょうか…実物ですね♪)

・・・
・・


B. いいえ


《Capitolo・5》
※《残酷表現》あり。苦手な方は閲覧を控えてください!
以上を確認された上で、続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》

         

♪〜TOXより・悲壮と憎悪の狭間で
 

If you want to be happy, you must act so that you have moderation and justice.
(幸福になろうとするならば、節制と正義とが自己に備わるように行動しなければならない。)

Envy is the corruption of the soul.
(嫉みは魂の腐敗である。)

Socrates
(ソクラテス)
 
 

〜誰かの部屋〜

《…ん?ここはどこだ?》

白狼は、見知らぬ誰かの部屋にいるようだった。だがそれは白狼の意思では動いておらず、例えでいうなら動画で個人が部屋紹介をして、周りをものをカメラ目線で紹介するかのように誰かの記憶の中をカメラで観測しているような感覚に白狼は襲われた…つまり追体験ってやつかと感心しながら思っていた。その乗り移った男はやっと目が覚めたのか身体を起こした。

「…う〜ん…もう13時か…」

ドンドン!!!

《ん?ドアの叩く音か?》

「おい!!ハヤト!!いつまで寝てるんだ!!今は働いていないかもしれないがもう遅刻なんだぞ!!分かっているのか!もう少し社会人としての自覚をもて!!!」

《ふ〜ん、話の内容からこいつは無職か?なんか親父は厳格そうだな…》

「あ、ああ。分かってるよ親父!!必ず探すから…」

「そう言って一度もハロワに行った試しがないじゃないか!!!?お前本気で仕事する気があるのか!!!?そんな中途半端なことを言うなら…今日から家を出て行ってもらおう!!!!」

《!!!…親は本気そうだな…こいつはどう来るんだ…》

「…あーそうかよ!!!こんな家、こっちから出て行ってやる!!!もう連絡してくるな!!」(バン!!)

「あっ…ハヤト待て!!はぁ…くそ…どこまであいつは…!!」

「…ッチっ!!」

「あら。ハヤト、部屋から出てきたの、せっかく食事を部屋に持っていこうと思ったのに…」

「…母さん…俺、旅に出るわ」

「!!…えぇっ…!突然何言い出すの!?」

「こんな家にいたら、俺はいつまでも変われない…自分で考えて自分で行動できるようになって早く自立したい。今までお世話になりました。それじゃ!」

「ち、ちょっとハヤト!」

「ほっとけ!!…どうせあんなふうに言ってすぐ帰ってくる!!」

「…あなた…」

《…夫婦仲もあまり良くないか…これは思った以上に重いな…》

「…くそっ、くそっ!!ほんとむかつくぜ!俺の事何も知らないであんなことを…!…っくそがっ」(カンッ!)

ハヤトは落ちてた缶を蹴り、その缶は宙を浮いて誰かの頭に当たった。それは不運にもここいら付近で有名なDQNであった。

「ってーな!?…!てめーか!蹴ったのは!?」

《お、おいおいおいおい…》

「あ、いや…その…」

「あぁぁーっ!?聞こえね〜んだよぉ〜!!?」(壁ドン!)

「ヒィッ!?」

「…おい、ちょっと面かせや!!」

《これはまずいな…くそっ!記憶の中だから介入できないのが…》

「あーっ!!いてっ!いででででで!ゆ、許して…」

「おーおー聞こえないな〜お、これ財布か?」

「あっ!返せよ!」

「ふーんなんだこれっぽちかよ。貰う価値もないな…お前みたいなのを…負け犬って言うんだよ!社会でもどうせ使い物にならなくて、お荷物で《最低編》って感じのシナリオってあだ名ついてたんだろなぁ!」

「!?」

「あはははは!!…負け犬の最低編…あれ地味にうまくね…ギャハハ!!」

《…お、おい、そこまでにしとかないと…》

「……れよ」

「あぁ?なんて?おお?」

するとハヤトはポケットに入れていた鉛筆を素早く取り出し、DQNの鼻の穴へと思いっきり突き刺した。

「い、いてぇぇぇ!」

《!?…よせぇぇぇぇ!!》

「黙れよぉぉっ!!お前みたいなゴミカスにっ!!俺の何がわかるってんだよぉぉっ!!??」(ゴスガス!!)

「あ!あが!がうぅ……」

するとハヤトは、差した鉛筆をさらに入れ込むようにDQNの方に強く蹴った!!もう無意識のあまりに理性が壊れて歯止めが効かなくなってしまったのだ。そして気づいた時にはDQNは、手が動いていなかった。気を失ったのかと思っていたが、ハヤトはやっと気がつき、DQNがもう息をしていないことに気づいた。

「ひ、ひぃ…う、うわぁぁぁぁぁっ!!!!!」

ハヤトは逃げ出した。そして自分は人生で初めての経験をしてしまったのだ。そう…一生取り返しのつかない経験を。だがハヤトは何故かその後にこんなことを考えていた。

(そ、そうだ、今のは正当防衛なんだ…向こうから仕掛けてきたんだ。反撃しなかったら僕はあいつに殺されていたんだ…だから…はは、俺は何も…そうさ、俺が正しいんだ!!はは、ざまあみやがれ!!よし、俺は決めたぞ!これから俺は…大物になってやる!!そしてこの町で…救済を!!)

《…!…ッばっかやろうが!!!!》

そしてハヤトは数少ない資金で作戦に乗りかかった。まず刃物を購入し、寝泊りは、ホームレスのフリをして、夜遅くに歩く者達を次々と斬りつけていき、傷害を負わせていった。これが大事になり、ニュースでも無差別殺傷事件として報道が取り上げる形となった。

「…ふぅ…あれからあまり稼げなくなったな…ホームレス生活も飽きたし…よし、そうだこの際だから刑務所に入るか。ただ飯食えるし、宿もある!…となるともう次の犯行で潮時だ…誰にするかな…」

「あ〜ん、マー君たらもう!」(イチャイチャ♡)

「お前こそ昨日は〜」(イチャイチャ♡)

《お、おい…まさか…》

「ちっリア充どもが、実に不愉快だ…よしそうだ次は…ふふふ」

ハヤトは不敵な笑みを浮かべ、作戦を実行しようとする。まずは自分の身分を隠すようにパーカーで深く顔を隠し、刃物も殺傷性のあるものへと変え、その結構の日は近づいていた。

「さて、誰にするか…ん?」

「いいっていいって!今日は俺が奢るから…それに俺達の祝いでもあるし…///」

「…もう!こんなとこでそれ言う!?…ったくアンタって奴は本当にバカなんだから!///」

「ハハ!……よし、じゃあ行くか!」

「…うん///」

(よ〜し!…オラぁぁぁ!!!)

《やめろおぉぉっ!!千夜!!!今すぐ逃げるんだ!!!》

白狼は叫ぶ。しかしその中は白狼の体験した記憶の中…過ぎ去りし惨状の記憶、いくら叫ぼうとも修正することはできなかった。

ズサッ!!

「…えっ…」(グラッ!)

バタリッ!!

「ん?…!!なっ…千夜!!」

キャー!! おいあいつ、なんか持ってるぞ〜!! 逃げるんだよ〜 あれはもしかして最近ニュースでやってる無差別殺傷の容疑で現在逃走中の犯人なのでは!

「…!!」

(ふふふ、リア充女が…俺の前でイチャイチャした罰だ…俺が裁いてやる!)

「…!させるか!!」

「!!」

(な、なんだこいつ離せ!!)

「くそ、大人しくしやがれ!!」

「……!!」

(くらえ!)

ピカッ!!

「なっ!!」

「!!」(ブン!)

(オラァ!!)

「グハッ!!」(ドスッ!)

「……!!」(ブン!)

(俺の粛清を邪魔しやがって!まずお前からだ!!!)

「うぐっ!!…!!ごあぁぁっっ! あっ…あぁぁっ……!!」(ザシュッ!!)

「白狼っ!!!!…い、いやあぁぁっっ!…」(ブワッ!!)

(よ〜しくたばったか…しぶとい奴だ…さ〜て次は女だ…)

「い、いや……!!」

「…」(スッ!)

(これで…終わりだ!)

《…!ま、まずいそろそろ鉄板が!!!!》

『…ギイィィィィ!!ガタガタ!!』

「……!!…なっ!!クソが〜!!」

「…!!」

(な!あんなに刺してまで!!こいつ…バケモノか!!…ぐはっ!!)

《…………そうだ。…俺はこの後……》


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜ブラッディマンデイより・After BLODDY MONDAY

白狼はこの後に千夜に何を伝えたのかを思い出した。確かこの後に敷鉄板の落下が起こり、大事故になるのが予想できた。白狼は千夜を巻き添えにしたくないという気持ちで意識が朦朧とした中で千夜に四文字でこう伝えた。

「……◯◯◯◯…!」

《……生きろよ…!…ちゃんと聞き取れたか分からないが俺は千夜にそう言った。看護師としてこの惨状を打開できるのはあいつがいないと不利だ…今思えば重荷だったよな…だが本音はお前には長く生きていて欲しいから…俺はそう願ったんだ!…そしてハヤトと決着がついたのがこの後だった。》

「…よし来た!!…そろそろか…!」

キンッ!!

「!!」

「なっ!?」

(十手!?)

「へっ…十手だ!オラッ!!」(…グググ!)

「ぐ、グオオぉ…」(ジタバタ!!)

(は、刃物が、クソ、クソー!!)

「…そして、ハァ…上見てみろや…間抜け!」

「…!」

(え!?…!!なっ!?)

「うぉぉぉぉぉ…は、離せ!!!俺はまだ死にたくない〜!!俺は何も悪くない〜!!!!悪いのはあいつらなのに〜!!!なんで俺だけこんな目に合わないといけないんだよぉぉぉ〜!!!」(ジタバタ!!)

(フワァーッ!!!)

《な、なんだ、頭の中に何か…》

白狼の頭の中に何かが入り込んでくる。すると、ハヤトの昔体験した悲惨な過去の出来事が白狼の中でフラッシュバックして再生された。

・・・
・・


『ハヤト!!お前また98点か!?あれほど100点でないとダメだと言っただろう!!!』(パシン!!)

『ご、ごめんなさい!』(ビクッ!!)

『ハヤトのご飯だと…抜きにしろそんなもの!!!!』

『あ、あなた…』

《な、なんだ!?…まさかこれって…ハヤトの生い立ちか…!?》



『ハヤト、家でゲームしようぜ!!』

『…ごめん!家で勉強しないといけないんだ…』

そ、そうか。……チッ、ノリ悪いな!…あんな奴ほっとこうぜ〜!



『くそっ!…くそっ!!…本当は僕だってみんなと遊びたいんだ…それなのに…』(ポロポロ!)

《…!……あいつ…》

・・・

〜ハヤト社会人〜

『おい!!ハヤト〜お前何度言ったら覚えるんだ!?あぁ!!?』(バン!!)

『す、すみません!!』

『……なあお前よぉ〜?それしか言えねえのかよ!!なぁ!?小学生でもまだまともなこと喋れるぞ!!!!本当にわかってんのかよ!なぁ!!…お前…!人の話聞いてるのかぁっ!!??』(ドン!)

『…ッ!!はい…!申し訳ございませんでした…!』(…グスッ!)

おい、またあいつ部長に怒られてるぞw! まあそう言うなよ…あれでもあいつなりに頑張ってるんだし…w

『……っ!!』(……くそっ、俺だって頑張っているんだ!!…それなのに…くそっ!!!)

ポタポタ!!

・・・

『…あの、これどうするんですk』

『……』(スッ…)(スタスタ…)

『あの……』

『……』(つーん…)(スタスタ…)

『!!……っ!!うぅ……グスッ!……う、うぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁああ〜!!』

ポタポタ……

『何ぃ〜!?…鬱になって会社を辞めただと…!?…ふざけるなぁ!!何を考えているんだお前はぁぁあ!!!』(ガシャン!!)

『……』

『おい、ハヤトおおお!!!なんとか言ったらどうなんだ!?』(ガシッ!!)

『…離せよ…もう…!俺は…!もう誰とも関わりたくない!!』(パシッ!!)

『ハヤト!!』

『ほっとけ!!!あぁ〜全く話にならんな…本当に昔から…あいつはもう本当にダメな奴だ!!』

バタンッ!!

『……っ!!』(……一体、俺の何がいけないって言うんだ…昔から親父の言うことばかり聞いてちゃんと完璧に頑張ってきたのに…なんで…なんでなんだよぉぉぉぉおっ!!!)

ポタポタ!!

《……そうか。ずっと孤独だったんだな…ハヤト…本当はもっとみんなと仲良くしたかったが出来なくて…そして誰にも弱みを打ち明けられなかったんだな…だがどんなに後悔しても…お前の行った過ちはもう取り返しはできないんだ…》

・・・

「…お前から言えることは、言語道断、自業自得、そして…ハァ…」

ヒューーーン!!

「…因果応報だ!!」

ゴーーーーーーーーーー!!



「いやだあぁ!!離せぇぇぇぇ!俺は、こいつらを殺して、刑務所に入ってただ飯を食う人生をぉぉぉ望m!!!!!」

(違う…今になって分かった…俺は…俺はただ…自由が欲しかったんだ…普通の家庭で育って…友達を作ってみんなと遊んだり、笑ったり、一緒に勉強して楽しく過ごしたり…会社に行って、結婚して…そして…幸せに…)(ポタポタ!)

ドーーーーーーン!!!!!!!!!ガラガラ…

・・・
・・


「……はっ!」(フッ!)

「あ、気付きました?どうでしたか〜?」

「…ああ…おかげさんでな…クソッ…導き人さんよ〜、これ、捏造とかしてないよな…」(ポロッ!)

「は〜い♪正真正銘貴方の現世での記憶ですよ!そうですか〜そんなに涙が出るほどですか〜♪」

「…ああ、クソッ…何だってんだよ…!!クソッ…!…クソッ!!」(ポタポタ!!)

白狼はとてもやるせない気持ちになった。最初犯人と会ったときは、ただ人を傷つける事しか考えていない殺人鬼だと思っていた。だが実際はただみんなと同じように過ごしたり、普通に生活することを望んでいた、ただの普通の青年だったのだと…どんな人でも生活環境が合わなければ人は育たないということを白狼は実感した。そして、思わず涙が込み上げていた。

「となると〜質問ですが、貴方は犯人のしたことを許せますか?」

導き人のオロアは、白狼に先程の見た記憶について白狼を試す。白狼はその問いに首を縦に振らず、横に二回、振りその問いを否定した。

「いやそれは出来ない!ハヤトには必ず審判を下してもらう。…もし【Paradiso】に行って、自分の欲のことしか考えず他人を蹴落とすような奴でいるならば…その時は…俺が止める!!」

白狼の決心は固い。その意志はまだ幼いが、三橋にも肩を並べれるような大和魂をも感じさせるくらいの武士道のオーラを放っていた。その様子に導き人のオロアはその様子を見て笑みを浮かべ、元気よく白狼に語りかけた。

「わかりました〜♪では張り切って次の試練パート2!!行ってみましょ〜う♪よっ!どんどんパフパフ〜♪」

「えっ!?もう次かよ!?…早くないか…?」

「当然で〜す♪こちらも忙しいので〜!そ・れ・と・も・辞めますか〜?」

「…ハァ〜分かった」

「はぁーい♪あ、白狼さん、肩に毛がついていますよ〜!」

「えっ!?どこ?」

「えい♪」(トン!)

「はっ!!アーーーッ!!」(ビューっ!)

「いってらっしゃ〜い♪」(ニコニコ〜フリフリ〜!)

「てんめ〜!わざとだろ〜!!おっ…!」(フッ!)

オロアは、今度は白狼の肩に軽く叩き、とてつもない突風が吹いたかのように白狼の身体がまた吹き飛ばされる。そしてスポットライトのある方に近づき、白狼が光に接触すると、光の中に消えていった。

「〜♪」(…さて、今度は第2の試練…今度もクリアできますか実物ですね〜♪しかし…ふふっあんなのに引っかかるなんて〜♪意外と天然な所あるんですね〜♪)

・・・
・・

B. いいえ


《Capit0lo・6》
続きを読みますか?



What is right now and what is wrong a few years later. On the contrary, it may be wrong now or it may be correct a few years later.
(今、正しい事も数年後間違っていることもある。逆にいま間違っていることも、数年後正しいこともある。)

And we were convinced that the plane would fly in the sky.
(そして我々は、飛行機はきっと空を飛ぶと確信していた。)

Wright brothers
(ライト兄弟)


🎼Back Ground Music 》》》




♪〜風立ちぬより・夢中飛行

〜時は戻り戦前の日本〜

《…今度は何の記憶だ?〜ん?空?》

白狼が最初に見たのは広大な空。その空はとても広大で、和歌山の頃に見上げた空と同じ光景でもあった。そして周りを見渡すと、野原がたくさんあり、自然に溢れていた。そこに二人の若者が野原で寝そべりながら仲良く談笑していた。だがこの話を最近知ったように白狼は感じた。

「空、青いなあ〜」  
 
「そうだねぇ。飛行機とかだったらもっと綺麗に見えそうだね〜」  
 
《なっ!帽子に学ランそれにマント…そうか、今度はマスターの若かりし日、空川少尉とその親友、榎河さんの記憶か〜》  
 
「…なんか女口説くようないい方だぞ榎河…」  
 
「え?何?」  
 
《昔のマスター…俺にそっくりだと聞いてるけど…確かに面影は似てるかもな…》  
 
「…はぁ〜何でもない。だがしかし、…日本はまた戦争するのかな…俺の親父やじいさんも戦争経験者らしいし…」

《…!…そうか…歴史上では後5年もすれば戦争なんだ…》

「そうだね。もしそうなったら、日本の空は誰が守るんだろうね」

「そりゃあ、飛行機とかじゃねえの、銃とかつけて戦闘機って名前つけて…」

「もしそうなれば、搭乗員は腕の良い人でないとね〜」

《…この会話でその腕のいい搭乗員はその隣、そして腕のいい開発者は先ほど発した貴方だ!》

「だな。お、あそこに鳥が飛んでいる!」

「え!?どこ!?」

「あそこだあそこ!」

「あ、ほんとだ!…空川くん目が良いんだね」

「…まあいつも暇があれば空を見てるからな〜!」

「…あ!?そうだ〜!!」

「うぉっ!なんだよ突然!?」

「そうだ、空川くん!君、パイロットになりなよ!!」

「えっ!俺が!!」

「うん、それでもしこの国が戦争になったら僕がこの国を守る戦闘機を作って、空川くんが活躍して戦果を上げてこの国を守るんだ」

「…!」

「僕たちでこの国を、空を守ろうよ!!」

「……」

《…この時のマスター…すごく悩んだんだろうな。命を懸ける覚悟がないとパイロットが務まらない時代でもあったからな…》

「…ったく、変な飛行機作りでもしたら承知しねえぞ!!」

「!!えっ!ってことは…!」

「ああ、その依頼、引き受けるぜ!どうせなら撃墜王を狙ってやろうか!!」

「おぉ〜!!空川くんならきっと出来るよ!よし!交渉成立だ!!」

「ああ、俺と!!」

「僕で!!」

「「あの大空のように高く、誰よりも上に行くんだ!!!!!」」

《…そうか。このことがきっかけで二人の伝説が始まったと言えるんだな〜!!》


・・・
・・


〜飛行場〜

「ではシートをめくります」(バッ!!)

「こ、これは…すげえ…」

《お〜零戦二十一型!!これが実物か〜!!…初めて見たが、この時代でも今の時代にも匹敵する綺麗な機体だな》

「この飛行機の機体の名前は何というのですか?」

「零式艦上戦闘機二十一型(通称:零戦)という機体だ!最高で500キロは出ると予想されている!」

「準備はいいかね、空川下士官!!」

「はい!!」

《…いよいよ零戦の搭乗か…記憶の中とは言え、ここで、初の零戦の飛行を見ることができるのか…!》

「準備はいいか!?」

「はい!いつでも準備できています!」

「よし、計算上によると零戦の離陸距離は最低でも600m以上とされる!健闘を祈る!!」

「では…飛行準備用意!!」

そして、白狼自身は今か今かと言わんばかりに、零戦の飛行を楽しみにしており、いよいよ零戦が空を飛ぶ時間となった。

「離陸完了確認!!」

空川を乗せた零戦は空高く宙を翔んでいた。飛行状態はとても良好で、異常は見つからず、優々と空と一体化し風に乗って飛んでいた。

「と、飛んだ。飛行状態も安定している…今のノット数は200で370.4キロ!!、今までの機体で安定してて早いかもな!」

「ほぉ〜早いな。よし次は300ノットを出す!指示を出せ!!」

《す。すげえ…これが零戦を乗る景色。空川少尉の操縦技術も良好。これなら飛行を楽しめそうだ!それに速い!!》

(…どうだい、空川くん、僕が設計図をもとにして開発した零戦…これなら戦争が来ても戦えるだろ…)

《榎河さんすげえ機嫌がいいな…まあ親友に自分の開発した機体を操縦されて嬉しくないわけがないよな!》

「…よし次は300ノットを目指すぞ!」(ブーーーーーン!!!)

「おお、急上昇している!さらに速度を上げています!」

《うぉっ!!思ったより気圧の影響で身体にくるな…だが凄えよ…これが空の景色!!》

「よし、急降下して、速度を測定する。指示を仰げ!」

「はっ‼︎」

(…すげぇ…もう500キロは出てるんじゃないか!こんな戦闘機は生まれて初めてだ。乗っていて気持ちがいい!!)

「降下してくるぞ!!退避準備!!」

ブーーーーーーン!!

《うぉっ、急降下…となればいよいよ時間を取るのか!だがマスターの腕だ!失敗はしない!》

「…これは失敗したら大惨事は免れない!必ず成功させねば…だがありがとよ!榎河、そして零戦の設計者さん!俺は今までの人生の中でこの零戦に乗ることができて、二人に感謝の意を込めたい…!」

「…よし、測定開始!!」

「…もうすぐだな…よし立て直すぞ!」

空川は機体の傾きを修正し、地上へと猛スピードで通り抜けるように準備し、そして機体は地上と並行になる体制となって、轟音となり一気に通り抜ける。

ブーーーーーーン‼︎

「「「「!!」」」」

「よーし!かなりスピード出てたな!!だけどあの風速だ。ちゃんと記録取れてるかな…」

「な、何キロだ!?」

「ただいまのノット数305ノット!時速に直すと564.86kmです!!」

《さすがマスターだ!!本当に見事な操縦技術でした!!》

「よし!!終了だ!着陸指示用意!!」

「はっ!!」

「おっ、どうやらこれで今回の試験飛行はおしまいか…また乗る機会があるだろうし、戦場になればよろしくな。零戦二一型!」

《この後に確かマスターの親友…榎河さんが肺炎になって髄膜炎を併発するんだよな。この当時、ワクチンも無かったから治るものも治らなくてこの時の時代は本当に激動の時代だったんだよな…》

白狼はこの当時、戦争で命を落とす他にも流行していた病に蝕まれ、亡くなると言うことにも一目置いていた。西野の妹も病気でなくなった経緯もあるため、白狼自身も感慨深く、思っていた。



「…君の為…に開発…した零戦があるん…だ…おそら…く、次の作戦で…使用…され…るはず…尾翼に…書いてない…下の方に…赤丸の目印をつけて…る。僕の…ゲホッ…自信…作だ…」

「いいから…もうしゃべるな…!俺は…そんなことをして勝つつもりなんか…」(ポタポタ!)

「…もう、日本の戦局は…ごほ…思った…以上…にごほっ…悪い…ほうに…はぁっ…来ている…いずれ上…も捨て身…の作戦…を決行して…く…るだろう。…だか…ら。君は特攻…に屈せず…生きる…んだ…」

《それが本当になるとは…それでもマスターはその上官の命令の特攻の言い分を聞かず、自ら真剣勝負でこれからの戦いを戦っていくんだよな…本当に信念を持った凄腕のパイロットだ!》

「馬鹿…!俺は自分から命を落とすことなんか…誰が…俺は…俺の実力で…敵国と戦う!…それに…五年前に一緒に約束したじゃないか…!」

「ああ、懐か…しいね…あの…大空のよう…に高く…誰より…も上に…行く…んだ…って…」

「…覚えてるんじゃあないか…だから…!…うぅ…ぅ…!!」

「…最後…の時は…せめ…て君と…一緒に…ゼロに…乗っ…て…君…と………………」

榎河は伝えることを伝えて安堵したのか目を閉じ、意識を失ったかのように眠りについた。

「‼︎…おい、おい‼︎榎河!…目を覚ませよ!頼むから…ぐっ…!だ、誰か!看護婦はいないのか!?」

「…‼︎先生、患者の意識が‼︎」

「ジジ〜………」(無線ラジオの音)

するとどこから流れたのかラジオから、現在日本軍の方からの通達で、ラバウル航空隊部隊が、敵国の空母を爆撃に成功したとの知らせが伝えられる。

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜RADWIMPより・グランドエスケープ

(フワァーッ!!!)

《な、何だもしかして……あ、また頭の中から…》

先程のハヤトのように白狼の中に、今度は榎河の思い出がフラッシュバックしていた。そこには榎河家族の温かみのある映像が流れ込んできた。

〜榎河の家の工場〜

「お父さん〜!!」

「ん?どうした?また車に乗りたいのか?」

「違うよ!これ!これ!」

「ん?世界の飛行機の図鑑か〜なかなか良いな〜!!」

「そうじゃなくて…これだよ…」

「ん?…!これは飛行機の設計図か!?お前が描いたのか!?」

「…うん!僕、将来飛行機に携わる仕事に就きたいんだ!!特に開発を主な仕事にしたいんだ!!」

《…やっぱりこの人は飛行機が好きなんだな…》

「ほうほう、そうかそうか〜!!お前はどう思う?」

「私も、それはいいと思うわ〜いつか貴方も空にいくのね〜あ…いえ、二人でね」

「…二人?」

《夫婦仲も良好だ。榎河さん…昔から愛されていたんだな…ん?二人?…ってことはこの記憶は…記憶ではなくて…榎河さんの見ている夢なのか…?》

「うむ。二人でな…いつかあの大きな空を飛ぶと約束したもんな!」

「二人で……?あれ…僕…何か…大事なことを…確か…あ…そうだ!…僕は確か今病院のベットで…!!ッ……僕は!お父さん、お母さん…僕は……グスっ!!」(ダキッ!!)

「ふふっ、さあお行きなさい。あなたのかけがえのない親友が待っていますよ…あの広大な大空で!!!」(ダキッ!!)

「ああ、早く行ってやるといい。彼は敵国の空母を爆撃して今流れ弾の負傷を負っているらしいのだ。早く行ってあげるといいぞ!」(ダキッ!!)

「…!!そうだ!空川くんは今敵国と戦っているんだ!あの大空の中で…助けに行くんだ!!…空川くんが敵国の空母に爆撃を成功させたけど酷い負傷を負って意識が朦朧としているに違いない!あの時、僕は空川くんと出会い、僕の飛行機好きなことに偏見もなく親身に付き合ってくれて…大切なことを教えてくれて助けてくれたんだ…!!…今度は…僕が空川くんを助ける番なんだ!!…では…お父さん、お母さん…!僕、彼の元へ行って来ます!」(ビシッ!)

「「…行ってきなさい。親友の空川くんの元へ!!零戦二十一型に乗ってあの大空を空高く飛翔してきなさい!!!!」」

榎河は父と母との会話後、目を閉じて空川のことを念じた。すると次に目を開けていたときには、零式艦上戦闘機二十一型に搭乗員として操縦していた榎河がいた。そして広大な大空を優雅に飛行していた。するとそこに自分の開発した人生で自信作と言っても過言ではない誓いの零戦五十二型乙がゆらゆらと飛んでいた。間違いない、空川だと気付き、誘導する。

ブーーーーーーーン!!!

「…あれ?あれって…零式艦上戦闘機二十一型…」

「…!」(…助けにきたよ…空川くん!!!一緒に誰よりも広大な空を飛んで帰ろう!!!!)

「…何だか懐かしいな…俺が最初に試験飛行で乗った零戦だ…幻影とは言え…俺は嬉しい…よし!」

♪〜夢に僕らで帆を張って〜

ブーーーーーーーン!!!
ブーーーーーーーン!!!

二機の零戦はきれいに優雅に舞っていた。本当の親友であるからこそ息の合う二人のチームワークのなせるコンビネーションの技の如く綺麗に零戦は空を舞う。飛行していくうちにラバウル航空隊の航空基地が見えてきた。

ブーーーーーーーン!!!
ブーーーーーーーン!!!

《…驚いた…!…こんなにお互いの操縦技術の波長が合うなんて…やっぱりこの二人…凄え…凄えよ…!!》

「…ありがとよ…幻影とは言え、俺を誘導し…て…く…!!!!」

「っ!!」(よくやったね!!空川くん!!本当に君はすごいよ!!君こそ…僕にとっては本当の撃墜王だよ!じゃあお元気で…親友、空川少尉!!)(ビシッ!!)

サーーーーーーッ!!

零戦二十一型と榎河は風に吹かれるようにその姿を消した。そして無事にラバウル基地に着陸し、零戦の座席にもたれかかり、空川は呟いた。

「意識が朦朧として見えた幻影とはいえ…少しだけだが、約束通りお前と誰よりも広大な大空をかけれたな…ありがとう…ゆっくり休めよ…榎河…!」(ビシッ!!)

《二人の繋ぐ零戦への想いが、偶然だったのか奇跡と言えるのか、再び二人を繋ぎとめ、広大な大空の中で再会したんだ。約束通り二人で空高く飛んでいき、その二人を結ぶ絆は誰よりも深く高いんだ!俺とロベルも…あの剣戟でそんな関係を結べたのかもしれないな…!》


・・・
・・


「……はっ!」(フッ!)

「あ、気付きました?どうでしたか〜?」

「…ああ…俺はあの二人の零戦の話…やっぱり好きだわ…!」(ポロッ!)

「あらあら♪そうですか〜そんなに涙が出るほどですか〜♪」

「…ああ、クソッ…ホント何だってんだよ…!!クソッ…!…クソッ!!」(ポタポタ!!)

白狼は再び、涙を流した。だがそれは、先程のようなハヤトのような切ない涙ではない。二人の友情が生んだとても熱く、お互いの零戦への情熱に満ちたとても熱いドラマを体験し、涙を流さずにはいられない。また記憶の中とはいえ、零戦の飛行をこの身体で体験することができたのだ。これほどの嬉しさはないと白狼は思った。

「でも、あなたの現世にも〜あの二人の波長と近い人がいるようでしたね〜♪仲が良かったんですか?」

「ああ…もう亡くなっているが昔からの無二の友だった。別れ際に儀礼刀を渡した仲だ!」

「ふむふむ♪」

「アイツが死んだと聞いた時、それは凄まじい喪失感に見舞われたよ…だが喫茶店のマスターの空川少尉からさっきの零戦の話を知り。…今となっては、乗り越えなくてはいけないと決めている!!」

「わかりました〜♪ではいよいよ〜最後の試練です!!最後の締め行ってみましょ〜う♪よっ!どんどんパフパフ〜♪」

「…これで終わり…最後のは、本当の意味で涙腺崩壊もんかもな!」

「さあ〜?あなたの体験して来た記憶の中でのエピソードですからね〜♪…どうしますぅ〜?…そ・れ・と・も!ここまで来て辞めるような《腰抜け》ですか〜♪?」(プークスクス♪)

「…!!」(こ、こいつぅ…!!…まあ確かにここで諦めるのも筋が通らない…行くしかないな〜!)

コツン……コツン…!

「…ついにいよいよ最後だ…」

「白狼さん、いよいよですよ〜♪!」

「ああ…そうだな」

「ふっふ〜ん♪…えい♪」

「おっと…!もうその手に乗るか!」(サッ)

ムニッ!!

「あ」

「!?」

白狼は導き人オロアの不意打ちを避けようとした。だがその拍子にオロアのまだ発達途上の胸に触れてしまったようだ。その様子に、白狼は導き人オロアの顔を垣間見る。その顔は笑顔ではある。だがその笑顔には心無しか殺気が立っていた。そして、オロアはニコニコして素早く白狼の背後を取った。

「」(…ダラダラ!)

「……♪」(…二コッ!♪)

…ゲシッ!

ピューーン!!!

「だぁぁ〜〜っ!!今度はタイキックかよぉぉ〜!?」(ビューっ!)

「いってらっしゃ〜い♪あ〜スッキリした〜♪」(ニコニコ〜フリフリ〜!キラキラ〜!!)

「毎度毎度不意打ちやめろってのぉ〜!!……!?おっ…!」(フッ!)

オロアは白狼に対し、タイキックを決め、まるでサッカーボールのように蹴り飛ばし、ゴールインするかのようにスポットライトの光の中にへ消えていった─────

「〜♪」(…さて、いよいよ最後の試練…ここまで来たら無事にクリアしてほしいですね〜♪しかし…ふふっ意外と大胆なとこあるんですね〜///♪現世での恋愛は鈍い所あったのに、でもこれもあなた自身の成長だと言っておきましょうか〜♪)

・・・
・・


B. いいえ


《Capitolo・7》
続きを読みますか?




Preparing for death means living a good life. The better the life, the less fear of death and the more peaceful death. There is no longer death for those who have gone through the sublime deeds.

(死への準備をするということは、良い人生を送るということである。良い人生ほど、死への恐怖は少なく、安らかな死を迎える。崇高なる行いをやり抜いた人には、もはや死は無いのである。)

The only significance of life is to live for others.
(人生の唯一の意義は、人のために生きることである。)


Лев Николаевич Толстой
(レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ)


〜時は流れ白狼家・自宅での家族葬〜

《ハッ!ここは…え、俺の家…ってことはまさか…そうか…全く最後にこれを選んでくるとは…導き人とやらは人が悪いな…ホント》

「……白狼…!ほんっとうにあんたって子は…!…あれ程、いつまでも…元気に…って!」

「…母さん、未練を残すな…あの世であいつが笑えないぞ…」

「…白狼ちゃん…まだお若いのに…あそこでも元気でやるんだよ…」

「悔いを残すなよ…ゆっくり休め…」

《父さん…母さん…爺ちゃん、婆ちゃん…ごめんな…先に早く旅立ってしまって…》

「……うっ!…うぅ…」

「ち、千里…あまり泣かないで…」

《ち、千夜!?…良かった!…無事だったか…!!》

「はい…でも…やっぱり私は…ううぅぅ…ロベル先輩もいなくなって、今度は…白狼先輩まで…うっ…えぐ…!」(ポタポタ!)

「…そうね…ごめんなさい菊川先生…私、あいつを救ってやれなかった…!!本当に…私…!!」(ポタポタ!)

「…仕方のないことです。人はいつか必ず別れが来ます。このような別れ方は本当に残酷なものです。病気ではなく、寿命ではなく、突然の事故で人命を失うものほど…これ以上に無念なことはないでしょう。ですが彼は違います。彼は命を覚悟して、看護師としてのあなたではなく、愛人として愛おしい存在のあなたを必死で守ろうとしたのです。おそらくそのきっかけをあの大都会の東京で学んできたのでしょう。彼の命を無駄にしてはいけません。彼の行動に敬意を払いなさい」

「…はい…」

「…いつもふざけている先生が…そんなことを言っても…説得力が…ありませんよ…うぅ…うぅ…」

「こういう時だからこそ、言わせてください千里さん…白狼くん、よく千夜さんを守ってくれましたね…こんなになるまで必死になって命を懸けてまで彼女を守った行動に、また貴方が私の生徒であったことに敬意を払います。どうか…願えるなら我々の居合道の道士であることを忘れずに、ロベルくんと一緒の世界に行けることを祈るばかりです」

「…先生…!」(ブワッ!)

「…菊川先生…!」(ブワッ!)

《くっ、千夜、千里、菊川先生すまない…!あとは頼んだぞ!…だが俺の行き着く先はロベルと一緒になるかはわからないんだ…すまないな…》

白狼は仲間との別れを涙を堪え、耐え忍んでいた。すると次の来訪者は後々白狼が世話になる人の姿が見え、白狼は驚いた。わざわざ自分のために遠方から来てくれたのかという表情で来訪者を見る。


🎼Back Ground Music 》》》




「こんばんは…遅くにすみません。そちらは二ノ宮さんのご両親の方で間違い無いでしょうか?」

「…ええ」

「…そうですが…あの貴女様は…?」

《…!西野さん…そうか…俺のために東京から和歌山まで来てくれたのか…》

「…申し遅れました。私は生前、二ノ宮白狼くんの勤めていた職場で彼と仕事仲間であった西野ありさというものです。この度は二ノ宮白狼くんへのご冥福をお祈りします故、訪ねてきた所存でございます」

「!!…あなたが白狼の言っていた…あの西野さん…」

「…!……そっか…白狼くんから聞いていたのね…」

「…はい、あ…!あいつの顔…見てあげてください…」

「…ええ…では失礼します…!」

《西野さん…すまないな…ごめん本当に…!あんなことを言っておいて心配かけてしまって…》

「こんばんは…久しぶりだね…二ノ宮教官…いえ…今日ばかりは白狼くんと呼ばせてもらうね…確かに黒髪から少し銀髪になったわね…でもあなたにとっても似合っているよ…」

「あの後…上と掛け合ってみたらぜひ紹介してくれ!すぐに採用したいと言われてね…できれば生きているうちにそれを伝えたかった…」

《…ありがとうございます!…そうか…俺も生きているうちにそれを聞きたかったよ…》

「もし生きていたなら…あなたと一緒に仕事ができる日々を楽しみにしていたけど…こんなことになって…とても悲しくなって…ね…!!…っグスッ!」

《俺もだよ…!俺も同じ気持ちだよ西野さん…だから…泣かないでほしい…!!》(ポロッ!)

「白狼くん…あなたがあの事故に見舞われたのは後から知ったわ。その時にあなたからの連絡が来ず、とても嫌な胸騒ぎがしたの…」

「まるであの時、妹のゆいが危篤状態になって、救急治療室に運ばれたときのように…とても…とても嫌な予感がしたのよ…」

「…それが今になってこんなことに…でも、ニュースの目撃証言を見てあなただと思ったの…!」

「一人の女性を必死になって守り、自衛隊員としての誇りを忘れず、その責務を貫き通したのだから…」

「…本当に優しい子だね…君は…無茶ばかりするけど…それでもその人を守りたかったのね…すごいよ…本当に君は…!」

《そんなことはない…俺はまだまだ…未熟だ…!千夜は救うことはできたが…その他の人までは救えなかった…!!…ハヤト…最初はくそったれの殺人鬼としか思っていなかったが後から事情を知って…あいつを理解したのだから…》(ポロポロ!)

「…だから胸を張って向こうでもいつまでも変わらないあなたのまま…元気でいてね…あなたがどうしても妹のことを引きずってて立ち直れなかった私に大事なことを伝えてくれたように…」

「…私は人生の中で、あなたに逢えて…本当に良かった…あなたのことを一生忘れない!!……ありがとう!…あと…」(ポタポタ!)

「…!」 

「!?」(ほう、なんと大胆な…!)

《えっ!?に、西野さん…!?///》

「……っ」(…もし、天国と地獄でもないもう一つの世界があるのなら…もしそこに妹のゆいがいるなら…あの子を守ってあげて…!…頼んだよ…白狼くん!!)
  
《…!…ああ!…ああ…!!…任されたから…もし何かの縁で【paradiso】の世界でそのゆいって子と会う事があれば…俺は絶対にその子を守って見せるよ…!…だから…西野さんはもう泣かないでくれ…そんな辛い顔をしないでくれ…!…いつものように笑っていてほしい……》(ポタポタ!)

・・・

「…この子のために遥々と、遠いところから足を運んでいただき、ありがとうね」

「…ああ、全くだ。最後にこんなべっぴんさんに最期を見届けられるのは、本当に羨ましくて幸せだと思うぞ」

《と、父さん!?///》

「…もう!お父さん…不謹慎よ!こんな場所で!…でも、遺族一同、感謝の言葉とします。ありがとうね。西野さん…」

「…はい。で、あなた方が白狼くんの友達の…?」

「…はい。千夜と言います。…白狼の…彼女と言えばいいのでしょうか…白狼…私を守るために犯人と戦って、そんな時にあの大事故があって、私は看護師として必死になってその惨状の救護を担当しました。しかし、あいつだけは…!…あいつだけは…!!どうしても助けられなくて…!」(グスッ!)

《…!そうか…やっぱりあの後で……それをお前は必死になり負傷者の看護を…ご苦労だったな…千夜!》

白狼が知っているのはハヤトとやりあった最後の時まで、それ以降の出来事がまるでわからなかったが、千夜の様子から、その後大きな事故に遭遇し、彼女は必死になってその現場での救助活動を支援したのだと白狼自身はそれを理解し、安堵した。

「…そう、大変だったわね。千夜ちゃんか…そう言えば白狼くんからも少し聞いてたわね…昔祖父が亡くなってからその時から看護師を目指している居合道の仲間がこの東京にいるって…あなたのことだったのね…とても辛かったわね、あなたはとても…よく頑張ったね……」(…ダキッ!)

「…!!…あぁぁぁぁーーーっ!!!」

《西野さん…千夜を慰めてくれていたんだな…やっぱりこの人はなんか聖母の慈愛のような本当に暖かいオーラを持っている…なんか心なしか輝いて見えるよな……本当に…》

「…ふふっ。あの子と同じね…懐かしいな〜いつも抱いたらこんなふうに泣いていたのを思い出すわね…そちらの子は?」

「は、はい。私は千里と言います!今大学二年生で、海外への留学経験もあり、将来はキャビンアテンダントを目指しています。…ただ、白狼先輩と…同じロベルという先輩が病死して…それで今回は…白狼先輩が…亡くなって…わたし…ううぅぅ…あぁぁーーー!!」(ダキッ!!)

千里は二人の居合道の先輩が先に旅立ち、耐えきれなくなったのか、悲しみの涙を流しながらそういうと西野に抱きついてきた。西野はしょうがないという仕草で優しく微笑み、千夜、千里の二人を優しく抱きしめた。その姿はまるで、海外の教会にあるかのような幻想的な絵画のように神々しく写り、温かみのある空間ができた。親族一同はその光景に思わず息を飲む。

《もうすっかり二人のグランドマザー的な存在だな西野さん…無責任な言い方かもしれないけどまた二人が困ったことがあれば助けてくれると…俺は嬉しい。》

「なるほど。白狼くん、あなたがこのような女性に惹かれた理由…何となくわかりましたよ。あ、申し遅れました、私は菊川と申します。白狼くんの通っていた居合道の師範代で龍川神社の神職をしております者です」

「あ。…これはどうも。……神職。……つまりは神主さん。…そうですか、あなたが白狼くんの先生で、この度は本当に…」

「あ、いいのですよ。あなたの方こそ、遥々と遠い中、白狼くんを見に来てくれて私は嬉しいものです。きっと彼も同じことを思っているでしょうね。さっきの話を聞く限りあなた様には妹さんの不幸事があったようですね…でも白狼くんが限りある時間の出会いから、あなたを励ましてくれたのです。これからも元気で、白狼くんと妹さんの分まで頑張ってください」

「…!…はい!」

《…菊川先生…ありがとうな…!それでこそ俺の先生だよ!》

「…先生…西野さんがあまりにも美人だからってイケイケな言葉を使わないでください…」

「…千里さん、私は至って真面目ですよ。まあ確かに彼女の美貌に惹かれて少しかっこよく言ってしまっ!!ゲフンオッホン!!」

「…ふふっ、白狼くんの言ってたようにユーモアがおありの先生のようですね♪」(二コッ!)

「あ、いえ///」(ドキンッ!!///)(あ〜危ない〜あの笑顔は反則だって〜!思わずこの歳でときめくところだった…あ、いや、私ももういい歳か…)

……ポリポリ!

《…まあそれでも先生は先生だな…だけど今までありがとうな先生…あんたから学んだこと…忘れないよ!》

・・・
・・



〜二ノ宮家・自宅での家族葬〜

「すみません、次の来訪者が来られたようです。お通してよろしいでしょうか?」

「あ、はいどうぞ」

白狼の両親はそういうと、次の来訪者を招く。するとそこには深々と帽子を被り、コートを羽織った紳士的な男性が訪れた。紳士は帽子を取り、遺族に深々と挨拶をした。

《…!…そうか…多忙の中来てくれたんですね…三橋三等海佐!!》

「初めまして。私は以前、元海上自衛隊・横須賀基地にて彼、元二ノ宮海士長の上官であった、三橋三等海佐というものです。今回の件は誠にご冥福をお祈り申し上げます」

「あ、これはこれは。ほら白狼起きなさい!貴方の上官よ!」(ぺシッ!)

「…母さん、白狼はもう起きないのだぞ…」

《…はは…母さん…》

「…あ〜これはこれはなんと立派な上官で…」

「うむ、まさに現在を生きる軍人の面構えだ…!」

「…すみません、二ノ宮くん…いえ白狼くんの顔を拝見してもよろしいですか?」

「…!はいどうぞ見てやってください!」

「母さん堅くなりすぎだ…」

🎼Back Ground Music 》》》




《三橋三等海佐…約二ヶ月ぶりですね。》

「こんばんは、二ノ宮海士長。いやもう階級呼びはやめようか…では改め、白狼。君が海上自衛隊に所属して三年の月日の中で、君が学んだことを今回の件で実践し証明したようだな」

「さぞ、君の行動には敬意を払いたい。あの渋谷付近で起こった大事故のことは横須賀基地からも聞いていた。その時に死亡者リストに君の名前があったことに気づいた時、私はすぐに横須賀から和歌山まで駆けつけたのだ」

《…辞めた後もご迷惑をおかけして…すみません。》

「君があの時、犯人を止める行動がなければさらに被害が出ただろう。君の行動は本当に驚かされた。簡単にできることではない。普段の君の行動は、本能的に考えもなしに行動し、悪い方にも飛べば時に機転が効いたのか、良い方にも行く」

「本当に、君は私が今まで見てきた隊員の中で何かと輝きを持っていた。不思議なほどに…あの時、海上自衛官として在籍して功績をあげていれば、私と同じように幹部になれる器があったのに…とても残念だよ」

《俺はまだまだです。本当に上に行ける実力がなかったんですよ…俺には…》

「だけどその結果、このような形で君と会って上下関係なく、割り切って対等に話すことができたのだ。それだけはお礼を言いたい」

「もし、あの世に行ったとしても、君は人助けをするだろう、その時は私の教え通り責務を果たしてほしい!」

「君なら私の教えを、自分だけが優越感に聳え立ち、他人を蹴落とすような欲に溺れた使い方をせず、本当に自分の守るべきものに力を出してくれることを心より願っている!」

「では、白狼、あの世でも達者で。私は君が亡き後でも落胆せず、常に向上の意欲を忘れずに前に行くことを約束する!…さらばだ!…我が戦友!二ノ宮白狼!!」(ビシッ)

《…ハッ!……グスッ!…ありがとう…ございます…三橋三等…海佐…俺、向こうでも…!!》(ポタポタ!)

三橋は白狼の勇気ある行動に敬意を表し、敬礼をした。するとしばらく席を外していた千夜、千里、菊川先生、西野が戻ってきた。すると四人はとても驚いた。特に西野は昔の知人を見るかのように目を開き、他の三人は実に三年ぶりであった。最初の出会いは商工会館で後にこの人と写真を撮った中であり、千里が驚き、声を出した。

「み、三橋さん!?」

「み、三橋一等海尉!!」

「これはこれは三橋さんどうも。そうですか…その階級章を見る限り…とうとう三等海佐になられましたか…」

「!?……え……」(…え…嘘…!!なんで…!?…そうか白狼くん……あなたとは本当に縁がありましたね…)

「やあ君達、三年ぶりか…久しいな…また君達に会えて嬉しいよ…菊川先生もご無沙汰しております…そして…十年ぶりの再会になるかな…ありささん」

「「「…!」」」

《…!三橋三等海佐と西野さん、お互いに知り合いだったのか…!?…偶然にしては…本当に出来過ぎているな…》

「…はい。その節はお世話になりました…」

「ゆいちゃんは…今はどうしてる?」

「…妹のゆいは…最近お亡くなりになりました。でも白狼くんが私を励ましてくれて…もう平気です」

「…!…そうか…それは残念だ。…すみません、白狼くんのお母さん、少し席を外しても…」

「いえいえ構いません!そのままこの子のそばで聞かせてやってください!三橋さん…西野さんも…それとみんなも、私達は何も問う気はありません。ねぇお父さん?」

「うむ、おそらくこいつもそれを望んでおる。思う存分聞かせてやってくれ」

《…父さん、母さん…ありがとう。》

「…はい。三橋さんとは昔、私が20歳の時、妹のゆいが9歳の時、父と一緒に防衛大学校の開校祭の時に知り合った仲なんです」

「「「えっ!?」」」

《当時、防衛大に在籍していた三橋三等海佐と西野さんが…そうだったのか…》

「ああ。だが懐かしいな…私は当時儀仗隊として式典の時、ミスすることなくこなし、お好み焼きの模擬店の方へ向かっていたその時にゆいちゃんと君に会ったんだ。あの時は元気そうだったのだが…」

「…あの子、昔から病弱だったんです。幼き頃、少しでも慣れさせるために祖母と一緒になって薙刀術を教えていたのです」

「確か当時ゆいちゃんがそう言っていたな。…その後はどんな感じで?」

「…はい、その後、あの子は中学も病院に通院しながら登校し、成績は優秀で有名女子校に通っていたのですが、16歳の時に白血病を患い、私もあの子の治療のために働きましたが…19歳でこの世を去りました」

《そのことがきっかけで西野さんは大企業を辞め、その後に女性警備員となり俺と出会ったんだよな…本当に何かしらの縁を感じるな…》

「そうか…病院さえわかれば、私も行けたのだが…幹部ともなると無闇に外出はできないことが多くなってな…どこの病院で入院を?」

西野は胸の方に手を添えて握り、妹が入院していた病院の場所を三橋に伝える。

「…広島の竹内総合病院です。そこに妹は入院していました」

「…な!!…そうか…よりにもよって私の地元で、祖母が通院している病院とは驚いた…!」

《三橋三等海佐は広島県出身の人だったんだよな…祖父が日本海軍の軍人だったとも聞いている…そして西野さんの妹が広島の病院で入院…これは本当に偶然を通り越して奇跡だな。》

「えっ!?、そうなんですか、確かゆいは、あかりちゃんとフネおばあちゃんがいつも話をしてくれたと言ってましたね。元気がない時にフネおばあちゃんが昔沖縄で体験したことを話してくれて、なんだか生きる希望が出てきてすごく元気が出たとよく…」

「…!!…はぁ…全く…ゆいちゃん…うちの祖母とも関わりがあるとは本当に…」

…全く…暇な神様がいたものだ…


その後、長居をしたら迷惑という事で、その後はみんな解散となった。泊まる場所はなくて、菊川さんが道場を貸してくれて千夜、千里、そして西野さんが仲良く川の字になって泊まったそうだ。三橋三等海佐は和歌山地区の基地に用事があったのでそこで夜を過ごすのだそうだ。翌日、俺の遺体は地元の火葬場で焼かれ、遺骨となってロベルの墓がある法光寺の墓に埋葬される形となった。


〜法光寺〜

🎼Back Ground Music 》》》



 
♪〜犬夜叉より・Dearest〜Strings Ver.〜  

「グスッ!グスッ!…白狼…」「…我が息子よ…」「白狼ちゃん…」「…っ白狼っ!!」「「ううっ…ああぁぁぁっ!」」「白狼くん…」「白狼くん…こんなになったのね…」「白狼よ…安らかにな…」

白狼の墓の前には両親、祖父母、千夜、千里、菊川、西野、三橋が集まり、白狼への追悼の意を込めていた。

《…いよいよ火葬されたな…俺…そして墓になった…だがロベルとこうして隣になれたんだ…現世では三年ぶりに会えたんだな…ロベル…》

皆が悲しみに暮れる中、三橋は千夜に何かを語りかけた。

「…千夜ちゃん」

「はい……三橋三等海佐…」

「三橋でいいよ。これを君に託す。火葬した後、焼け切らずに残ったのだそうだ…」

「?……!?これって、私がアイツに渡した十手!…でもなんで…」

「彼は君からそれを貰ってからずっと手離すことなく使い込んでいたよ。…任務に明け暮れていた時、一度紛失しかけてしまった事もあったが偶然にも私がそれを見つけ、丁重に預かっていた時期もあったがね。……そして今回、犯人との揉み合いの中、それを使い……まるで騎士のようで……武士道のような英断をして君を守る為に命を賭けるという最後までその意志を貫き通した……誇るべき私の元教え子……そして君の愛人のモノなのだ…大切にしたまえ…」

「…!…はい…はい!!」(ギュッ!)

(フワァーッ!)

《…!!ここで…!…今度は千夜の記憶か…》

・・・
・・


〜時は戻り、白狼・千夜の高校一年生の時代〜

「ちょ!ちょっと!?一体なんなのよアンタたち!?」

「あぁん!?…てめえ〜が俺達が万引きしたのを店員にチクるから悪いんだろうが!!オラッ!」(ガスッ!!)

「あぁぅっ!!」(ドテッ!)

「!?///ほお〜っ///…良い声だな〜それによく見たらすげぇ良い身体してるし、なんか興奮して来たわ〜!よ〜しお前ら!こいつの身包み剥がすぞ!!」

「「「オーッ!!!」」」

「っ!?」(い、いやっ!だ、誰かぁ…!)

ドゴォーーン!!

「…えっ…」

「なぁっ!?ふ、不良Aが吹っ飛んだ!?」

「だ、誰だ!?」

ザッザッザ!

「…全く、追い剥ぎなら他所でやれや…女子高生一人を一斉にフルボッコなんざ男のすることかよ…」

「っ!!」

《あ〜あったわ〜!俺がなんかコンビニでマンガを立ち読みしてて偶然、千夜が男共に因縁つけられて、路地裏に連れて行かれるのを見たから、それで…あの時からあいつ俺のこと気になり始めて…》

「な、なんだてめえ!?おいお前らやっちまえ!!」

「「覚悟しろや〜っ!!」」

「ん?お、ちょうど良い棒があるな!」

「うおら〜!!」

バキッ! パン!!

「グハッ!!」「うぅ…!」

「な、なんだこいつ強えぇ!!」

「ち、覚えておけや〜!」「ヒィーーー!」「逃げるんだよぉぉ〜!」

「誰が、もう1秒でも忘れてやるよ!……おい、大丈夫か!?災難だったよな〜!?」

「…えっ…!ええ、まあ///」(ドキドキ!!///)

「じゃあ俺はこれで…」

ガチャン!!…シャーッ!……(リンリ〜ン♪)

《客観的に見たら何もなく自転車のベル鳴らす俺って…まあ癖なんだろうな〜》

「…///」(アイツ…一体何だったの?……よし、後をついて行ってみよう…!!///)

〜龍川神社〜

「ヘぇ〜っ!龍川神社ね〜!…意外と渋いわね!」

「せいっ!!」「ハッ!!」

「ん?掛け声?」

「ロベル、一気に三段切りか…早くなったな!」

「白狼の方こそ、以前よりも居合の抜刀の速度が速くなったように思うよ!」

「ん?そうか?」

《…ロベル…っ!……いや。…もういいんだ…これは記憶の中なんだ…》

「!?」(あ、いた。…ヘぇ〜!居合道やってたんだ。…それで強いわけね!)

千夜はこっそり白狼とロベルの居合道の練習を見物していると、後ろから声をかけられた。

「…あの〜?…うちの道場に何か御用かな?」

「ひゃあぁッ!?…あ、あのどちらさまですか?」

「ああ…失礼、私はこの神社の神職ならびに、この道場の居合道の師範代やらせてもらっている菊川と言います。以後お見知り置きを…」

「ああ。これは、どうも!」(ぺこり!)

「菊川先生?…さっき女性の声が聞こえたんですが、どうしたんですか?…あれ?」

「ん〜?!?お〜お前はさっきの!来てたのか!?」

「あ。さ、さっきはあ、ありがとう!///」

「ん〜?君達知り合いなの?」

白狼は千夜との事の経緯を菊川に教えた。

カクカクジカジカ……

「ふむ、なるほどね〜。しかし守る為とはいえ、私の教えた技を使用するのは少々やり過ぎでしょうが、今回は多めに見ましょう…」

「あ〜すいません、菊川先生」(ぺこり!)

「でも白狼、戦わないと彼女が危なかったんだ。無視するより彼女を守るほうが正解だと思うよ!」

「そうだよな〜!…まあ、確かに同じ一年でもこんなに色気あって、それに、んな身体してたら、そりゃあ男どもは無視しなさそうだしな…!!」(ジーッ!)

ムニっ…!

「…!?…なっ!!///」

「ん?」

「どこ見て言ってるのよ〜!!///」(ブン!!)

ペシッ!!

「ヘブし!!!」

バタン!

「白狼!?」

「ほう…」(お〜これは早い……居合の才能、実にあるやもしれませんね…あーいい手刀だ〜!!)

《若いとはいえ、俺もつい言葉に出てしまったんだよな〜まあそれが、千夜との出会いでもあるのか…》

「ったく、初対面なのに馴れ馴れしいのよ!…もう!///」

「…あ〜君、この道場に入門する気はありますかな?」

「えっ?」

「いや別に強制はしないんですね〜。…ただね〜この道場には白狼くんと《ロベルトくん》の二人しかいなくてですね。…それでそろそろ一人の生徒を増やしてもいいかと思っていたんですよ〜」

「」(カチン!)

「え!?そうなんですか。そうですね…私特に部活はやっていないんで、別に構いませんが…いいのですか?」

「はい。まあ、うちは基本、自由がモットーで通っているから、そのせいか型のあるプロ意識を持つ生徒はみんな辞めていくからね〜。で、この二人しかいないという訳なんです。……どうしますかな?」

「……!」

千夜は少し悩んだ。だが、すぐに結論が出た。自分を助けてくれた人が一緒にいて、自分も強くなれるなら構わないと思っていた。

「わかりました。これも何かの縁という事で入門させていただきます。千夜と言います。これからよろしくお願いします!!」

「そうですか…ではこれからよろしくお願いしますね〜……!!…少し用事を思い出したので……」(シュバッ!!)

ダダダダッ!

「え、ええっ!突然なんですか!?」

菊川は背後からの殺気を感じ取ったので、素早く逃げ出す。それは名前を間違えられてすこぶるイライラしていたロベルが鬼神のような表情で怒って来たからだ。そしてロベルは木刀を持って執拗に追いかけ回した。

「…先・生…僕の名前はロ・ベ・ルですよ!!ロベルトではないんです!!いい加減覚えてください!!!!」(ダダダダッ!!)(ブン!!ブン!!)

「あ〜だから言ってるんですよ!私は普段から未知の流行りの《ハイカラ》な言葉であるカタ…カナ?は苦手だと〜!!」(ダダダダッ!!)(ヒョイ!!)(ピョン!!)

「間違えるのにも限度があります!何なんですか一体、ひどい時にはユベロだとかロリベルだとか悪口ですか!!??」(ダダダダッ!!)(ブン!!)

《確かここ、ロベルの名前を三回くらい間違えてロベルがキレたんだっけか…親につけられた名前を気に入ってるのか、貶されるとキレるんだよな…》

「あ、あはは…大丈夫なのかしら…この道場…」

「気にするな。あれでもあれが先生とロベルとのスキンシップなんだよ」

「へぇ〜!…!!…って!!?あ、アンタ起きたの!?」

「ああ。後話も聞いていた。この道場に入門するんだっけ?よろしくな!!」(サッ!)

「え、ええ…よろしく!…///」(グイッ!)

《ああ、その一年後には千夜の後輩の千里が入門して来て、いつもの四人になったんだよな。んであまりにデリカシーのない菊川先生が千夜の手刀チョップをもらっていたんだよな…》

〜時は流れ白狼・千夜の高校二年生の時代〜

「は、はじめまして千夜先輩の後輩の千里と言います!今日からこの道場の女生徒として頑張りますので…よろしくお願いします!」

「あ〜よろしくね千里ちゃん。その道着女性用で胸元がスカスカで大変だろうけどじきになれrブッ!!」(ぺシッ!)

「先・生…新入生の前で早速セクハラ発言とはいい度胸ですね〜!!」(グキゴキゴゴゴ…)

「あ〜どうもすいませんね。でもあなたの手刀チョップ…なかなか効きましたよ〜!そしてちょうどいい感度で〜…」(ドキドキ!)

「あぁっ!!??」(ギロッ!!)

「あ、何でもないです、ハイ…」

《先生…この頃から千夜に尻に敷かれてるな…でも心なしか嬉しそうだな〜!》

「あの〜大丈夫なんでしょうか…ここ?」

千里は道場そのものは初めてであったので、少し緊張気味であり、今の光景に写っている千夜と菊川先生の掛け合いを見て不安になった。そんな時、ロベルが千里に優しく声をかけて来た。

「大丈夫だよ。ああ見えてあの二人仲は良いから!菊川先生もあれでいい人だから…まぁ唯一の悩みは、僕の名前を間違えることと道場に酒を置いていたくらいだね…」(ハァ〜)

「そ、そうなんですね。あの…あなたの名前は?」

「ああ、僕の名前はフィル・ロベル京一!ドイツ人の父と日本人の母のハーフでみんなからロベルって言われてる!…まあ菊川先生にすごく間違えられるけどね…」(ハァ〜)

「…ロベル…先輩…!ロベル先輩!!はい!私覚えました!!あの、これからよろしくお願いします!!」(ぺこり!)

「ああよろしく!元気な後輩でこの道場も賑やかになりそうだね!こちらこそよろしく!!」(ガシッ!!二コッ!)

「…!あ、あうぅ〜!///」(ドキッ!!)

ロベルは笑顔で千里に握手をした。千里はロベルの爽やかな笑顔と握手で一目惚れしたのか顔が赤くなっている。そして、千夜が千里の元へと戻ってきた。

「まったくもう!…千里。…この道場どうかしら?…気に入った?」

「はい、千夜先輩!この道場いいです!…先輩方と長く続けられそうです!!」(キラキラ!!)

「そう、良かった!」

《んで、確か俺が千夜に借りていたものを返す約束をしてたけど、その探し物が見つからなくて遅くなったんだよな〜》

シャーーッ!!……キキーーッ!!!

「はぁっ、はぁっ、悪りぃ遅れた〜!」(チリンチリ〜ン♪)

「もう!遅いわよ白狼!?…アンタ一体今まで何してたの!?」

「ああ、悪い。…前に借りてた本、探すのに時間がかかったんだ。つかお前さんデカルトの《方法序説》とか読むんだな、こんな難しい本…」

「ええ!気晴らしになるし……どう?読んでて何か気になったことはある?」

「そうだな〜…確か、《我思う、故に我あり》って言葉かな…あんまよくわからんが直感でなんか途方もない世界がずっと続いているように思えてなんか深くてだな〜!」

「ヘぇ〜!?…アンタ見かけによらず良いとこ見るじゃない!その言葉の意味はね……」

「…あの〜?…あの男の人は?千夜先輩の彼氏さんですか?」

「ああ。彼は二ノ宮白狼…僕と千夜と同じく同級でこの居合道場の仲間さ…彼と僕は無二の友の仲でね!」

「そうなんですか!?…ヘぇ〜!なんか千夜先輩…あの人と喋っている時、なんか凄く嬉しそうですね♪!」

「ああ!…千夜は不良にからまれていた所を白狼に助けられてこの道場に入門したんだよ。それだけ、彼に感謝するところがあるのかもしれないね!」

「…そうなんですか…なんかとても素敵な話ですね〜♪」

「…ああ。とてもね…」

《それが、千里との出会いもあり、いつか千夜との思い出もより深くなっていったんだな…そしてこの四人との時間は本当にあっという間だったな…》

〜卒業式後〜

「いやはや、それにしても早いね〜君達、もう卒業なんだね〜…」

「はい!今までお世話になりました!」「菊川先生、三年間本当にありがとうございました!」「ありがとうございました先生!」「菊川先生♪三年間ありがとです〜♪」

「いやいや三人はまだしも千里さん、あなたはこれから高校三年生になるのですから卒業にはまだ早いって!…と言ってもあなた達三人は後数日ですか…寂しくなるものですね…」

「千里がいるじゃないですか!ねぇ千里!?」

「はい!とりあえず大学受験までは居ようと思っています〜♪」

「現実的ね…あなた…」

あの〜すみませ〜ん!

すると、誰かが訪問して来たのか、声が聞こえた。

あ〜どうも長谷川寿司のものです。特上二人前!お持ちしました!

菊川は出前として寿司を頼んでいたらしい。どうやら、卒業祝いにみんなで食べる為にと律儀な一面を見せる。

「あ〜ありがとうございます。こちら代金です」

「どうも〜!あ、器は使い捨ての為、お返しはしなくていいですので、では!」

「あ、先生、それって!?」

「寿司です。皆さんで召し上がってください。少し緑茶を汲んできますから、先に召し上がっといてくださいな」

「わ〜い寿司です〜♪」

「イクラとかうに、あるかな!?」

「よ〜し寿司か!ロベル!お前好きだからよかったな〜!」

「うん!今日は好きなだけ食べれるね!!」

「よ〜し、それでは…」

「「「「いただきます!!!!」」」」

・・・

「…それにしても…これで俺達がこの道場で集まるのは…もうそんなにないんだよな…俺は海上自衛隊で勤務だし」

「…そうだね…僕は今度はドイツに住むからここへはしばらく来れないね…」

「…うん…なんか寂しいわね…」

「私はしばらくここにいますよ〜♪…でも…ロベル先輩と別れるなんて…うっ!…ふうぇぇぇぇえん!」(ダキッ!)

「おわっ!?…もう、千里…心配いらないよ!…僕はまた帰ってくるから!…絶対にね!」

「グスっ!……約束ですよ?」

「ああ!」

《…ロベル……っ…》

「相変わらずあの二人熱いわね〜!……ん?あれいくらは?」

「ん?どした?」

「えっ!?……!?…あ〜〜っ!!!…ちょっとアンタ!私のいくら!」

「早い者勝ちだろ!!そもそも、誰のものでもないだろ!」

「ほ〜う!じゃあこれ!」(ヒョイ!!)

そう言って千夜は白狼が食べようとしていたマグロを一口食べてしまった。それを見た白狼は千夜に迫った。

「だぁ〜っ!?お、お前!!…俺のマグロを〜!?_」

「ふん!食い物の恨みは怖いのよ!ベ〜だ!」

「…太るぞ」(ボソッ!)

「あぁ〜っ!?///な、なんですってぇ〜!?///アンタこそっ!…そうね、いつかその頭の色の毛ストレスとかで抜け落ちそうよね〜♪!?」

「な、何だとぉ〜!?つまり俺がハゲると遠回しに言ってるのかお前はぁ〜っ!?」

ギャーギャー!!

《ハハハッ!…今となっちゃあ、これは予言になったな…まあハゲることはないだろう…ハハ!…よくこうして千夜と…痴話喧嘩したな…くっ…(ポロポロ!)》

「…やっぱりうちの道場の景色といえばこれですね〜♪」

「ああ。ほんとにこの二人を見ていて飽きないね…もしかしたら付き合うね…あの二人…」

「やれやれ…神聖な道場で、痴話喧嘩などして欲しくないのですがね〜。…お茶です」(コトッ…)

「あ、先生ありがとうございます〜♪!もし良かったら先生も寿司どうぞ!」

「あ、私は大丈夫です。ほらどん兵衛がありますので…やっぱりどん兵衛は最高ですね!!」(ズズーッ!)

「「……何故にどん兵衛?」」(首かしげ!)

「〜♪」(ズルズル……)(ふふっ…やはり…私が欲しかったのはもしかしたら…この限られた時間を共に生きる若人の姿をこの道場で見てみたいという願望なのですかね…もうすぐ春も近いですね〜!)

《あの時、四人で食べた寿司の味は忘れられなかったな…居合道をして来たもの同士としてみんなと集まって食事したのは本当に最初で最後の食事会だった…色々あったが…俺は一度きりの人生でこの三人と、菊川先生に会えて…本当に良かった。そしてその後の未来で会うことになる三橋三等海佐、西野さん、バイト仲間達、関西弁の散髪屋さん…本当に色んな人に会ってきたな…俺はこれからみんなの知らない途方もない旅に出る…俺は前を向いていくよ…みんな、本当にありがとう…》  


B. いいえ


《Capitolo・8》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



God created heaven and earth, and everything that exists between them.
(神は天と地、およびその間に存在するすべてを創造した。)

Having a good spirit is not enough, it is important to use it well.
(良い精神を持っているだけでは十分ではなく、大切なのはそれを良く用いることだ。)

Rene Descartes
(ルネ・デカルト)

・・・
・・



「……はっ!」

「あ、気付きました?どうでしたか?みんな寂しそうでしたか?」

「…ああ…だが最期に今まで関わってきた大切な人達に見送られて、俺は幸せだったんだな…」

白狼自身、今回の試練で最初の試練で、ハヤト側の視点を見て、彼自身の孤独で後悔のある、やるせない幼少期の経験を見て純粋悪ではなく、そのような人間になってしまった経緯がある客観的な視点を身につけた事。次に二人の零戦での話では零戦に懸ける情熱と夢を持つ自己実現の視点。最後に仲間に見送られ、限られた時間の中で自分の仲間達と過ごす日々の大切さ、それらを取り巻く友好関係の重要性を知る社会性の視点に辿り着いた。

「そうですね〜♪あと彼女がいるにも関わらず〜♪あのような聖母の持つ母性に満ち溢れてる女性の人にも惚れられるなんて…白狼さんて《女の敵》なんですね〜♪」

「……一言多いってのお前っ!」(デコピン!)

「よっと♪…さ〜て、これであなたの三つの試練は全て乗り越えました!おめでとうございま〜す♪…そ・し・て…これを身に付けていただきま〜す♪」(サッ!)

「ん?何だこれ?…勲章?」

白狼はオロアに渡されたものを確認した。それは勲章であり、確認すると十字架のマークが刻まれ、下にはSpecific deadという文字が刻印されていた。

「これであなたも無事に死者から特定死者へとランクアップですね〜♪次は現世人を目指して頑張ってくださいね〜♪」

「…特定死者?現世人?なんだそりゃ?」

「特定死者は、わかりやすくいえば先ほど体験した三つの試練で、現世での行いを振り返り、何を学び、何を感じたのかを知り、その記憶と向き合い、試練を無事乗り越えたものに与えられるものです。階級は死者よりも上で、ユートピアの世界【Paradiso】へ行くための試練を受けることができる資格の者といった立場ですね〜♪現世人とはユートピアの世界【Paradiso】でのあなた達の種族の俗称となる名前です!…つまり今度は、その現世人の地位になるための試練を受けていただきま〜す♪」

「はぁ…【Paradiso】って世界に行くのはまだまだ長いか〜」

試練を全て乗り越え、白狼自身はこれでユートピアの世界に行けると安堵していた。しかし導き人オロアの返答は予想外のものだった。白狼は理解した。ユートピアの世界は思った以上に過酷な道だということを。

「ではでは…最初の三つの試練はあくまで準備段階です!あなたにはこれから最終試練に挑んでもらいますよ〜♪」(ニッコリ)

「…はぁ〜こうなればやるしかないか〜!!」

「最終試練会場はすぐそこです!ではついて来てくださ〜い♪」(ピューーッ♪)

「だから〜!早いんだっての〜!!」(ダダダダ)

白狼は、神速の如く走り抜けるオロアを追いかける。そうしていくうちに一枚の扉が見えて来た。

「ここがその最終試練の扉で〜す♪」

「ここか…」

「ですがその前に後ろをご覧ください〜♪」(ビシッ!)

「ん?…!?な、なんだあれ!!」

導き人オロアが指を刺した方向を見ると、今まで眠っていた白い棺が天井にある満月に吸い込まれている。それは白狼だけのものではない。とてつもない数の棺が宙を舞い、螺旋状に満月の模様に吸い込まれていく。

「あれは一体なんなんだよ!?」

「あれは冥界の満月っていうもので、直接あの世とつながっています。中には私たちの言い分を無視して寝過ごしたものや、私のような導き人の試練に乗り越えられなかった人もいくつか混じっています♪」

「…じゃああれか?…俺が知らず知らずのうちにあの棺の中で眠り続けていたり、あの試練を乗り越えられなかったらあれに連れて行かれてたってことか?」

「その通りですよ〜♪あ〜!あとあれをご覧くださ〜い♪」

「ん?……って!?あれは…人だ!!で、何か黒い服を着た奴らが纏わりついて浮いているぞ…」

「あれは執行者です。どうやら私達の試練に乗り越えられず連行されたようですね!主に死者を平等に裁いてもらうために、今から閻魔大王の元へ行き、裁いてもらう途中のようですね〜♪ちなみに私達のことを毛嫌いしていて、執行者の部署はあなたたちの現世での言い方だとブラックな部署でもありますよ〜♪」

「そんなトリビアどうでもいいわ!!あの世でもブラック企業とかさっきの最初の試練といい、なんか生々しいな!!」

「さて、本題に戻りまして…あなたは今回の試練を乗り越えて普通の死者から特定死者として認定されました!次の試練はいよいよ【paradiso】へと行くための重要な試練です!とても過酷な試練になりますが大丈夫でしょうか?」

「………」

白狼はさっきの試練とここまでの経緯を思い返していた。おそらくこの試練を受けさせるからには自分の行く【paradiso】という世界は、ユートピアの世界とはかけ離れた反対のディストピアのようなものではないのかと思っている。だが行くからには、もう後戻りはしない。あの思い出を見たからには自分の生きる証を残したいという目標を見出した…そしてこの言葉が、胸によぎった。

(俺は、乗り越える…何としてでも…それが最果てが見えない途方な道でも…)

「準備はできている…行くぞ!」

「はぁ〜い。では行きますよ〜…って〜ッ♪!!」(ゲシッ!)

ドゴーーーン!!

「」

導き人のオロアはその扉を思いっきり蹴り飛ばし、粉々にした。その光景に人とは思えぬ恐ろしい怪力を見たあまり、白狼は驚愕して放心した…

「あ、これ扉に見せかけた壁なので〜!では行きましょう〜♪」

「…やれやれ〜…俺はもしかしたらとんでもない世界に行こうとしてるんじゃないか…」

白狼はオロアの後を追う…そして出た外の光景は信じられない非現実な光景が広がっていた。

「な、何だ…!?ここは…まるで絵本とかに出てくる雲の世界じゃないか…!?」

そう…白狼が見た景色はまるで昔、何か探し物をする本でみたことがあるファンタジー的で幻想的な雲の世界の光景が広がっていた。そしてこの世界で、白狼は壮絶な逃走劇の戦いが幕が開けるーーー









《To Be Continued…→》  
 
 
 

 
 
 


第3話:プロローグ〜白狼編 Part3
完読クリア!!



次の話へ進みますか?

A. はい 
B. いいえ