GiorGiaNo

 
《Paradisoシリーズ〜導かれし七人の現世人の冒険譚》


  A.:GiorGia

〜第一章:白狼と誓いの儀礼刀〜

第2話:プロローグ〜白狼編 Part2



 

プロローグ〜白狼編 part1の続きです。




《Capitolo・1》
物語を開始しますか?



〜ある職場の塗料作業〜


「お〜いバイト〜、これ頼む!」

「はい!」

「あのバイト元気アルね!」

「よっ!元ジャパネーズネイビーソルジャ〜!」

白狼が海上自衛隊を退職してもう二ヶ月は経つ。季節は春を過ぎ、現在は6月、季節的に暑くなる東京での生活もそろそろ慣れてきた頃、白狼は今時の若者らしく、バイトしながら生活する、いわゆるフリーター生活を満喫している。収入はそんなにないが、海上自衛隊での規律に沿ってピリピリしていた環境よりも、まだ自由が効くため、白狼はハキハキと仕事に励んでいた。同僚の人たちはほとんど海外からの外国人労働者が多いが特に抵抗もなく、非流暢の日本語ではあるが普通にコミュニケーションを取りながら仕事に励んでいる。

〜時は流れ、夕方〜

「よ〜し。今日はここまで!!」

「お疲れ様です!(デシタ〜)」

「…ふぃ〜!…終わったな!」

白狼は時計を確認すると、もう17時になるのを確認すると職場を後にし、電車に乗り出し、次の職場へと向かう。白狼は物価の高い東京では生活費がどうしても赤字になる傾向があるため、ダブルワークをする生活をしている。白狼は片手に自衛隊時代に三橋に勧められた本を読みながら次の職場へと白狼は向かう。その間に電車から、東京の風景をじっと眺めていた。ずっと田舎育ちで自衛隊基地にて生活することが多かった白狼にとって、東京のような大都会は近未来のような風景に見えているようであったのだ───────

(やっぱいつ見てもでかい建物が多いな…やっぱ街なんだよな、東京ってのは。)

ピロロロ…シブヤ〜シブヤ〜

白狼は渋谷駅に着いたようなのですぐに電車から降り、改札を出た。最初来た時はこの渋谷駅そのものが迷路みたく複雑で、駅員に声をかけようかと思うことがあったのを思い出し、少し苦笑いした。今となってはルートも覚え、特に困ることはなかった。そして駅の外に出ると、帰宅帰りのサラリーマンやらネット中継をして収入を稼ぐ人気ユーザーの姿が多いハチ公前を白狼は黙々と歩いていた。この付近に次の勤務先があるそうだ───────

ガヤガヤ…

「やっぱこの時間は混んでるな〜!!」

あ〜そこの人〜今暇ですか〜今こんな企画やってて〜!!  お〜い、コーラの一気飲みやりま〜す!!  ウェーイ!!

「…はあ…厄介なことになる前に早く行くか。」(スタスタ!)

白狼自身、この街渋谷に来ては最初は様々なパフォーマンスを披露するユーザー達を見て、毎日がお祭り騒ぎといった新鮮さを感じていたが、こう毎日同じ光景を見ていると、もう飽きてしまっているのか、少しばかりうんざりとした気分であった。そう思っているうちに、次の職場へ辿り着いた───────

「お疲れ様です!!」

「ああ、白狼くんお疲れさん。今日はここのフロアの清掃を担当できるかな?」

「わかりました。他に何か変わったことはないですか?」

「う〜んそうだね。……!!あ、そうだ!最近トイレットペーパーの補充がないとクレームが出ていたんだ。掃除のついでにトイレの方も気を使ってくれるとありがたいね〜!」

「わかりました。確認しておきます!」

「頼んだよ。では私は上がるから、22時には交代で退勤する警備員が来るからしっかりお願いしておくよ!」

「はっ!…お疲れ様でした!」(ビシッ!!)

「…白狼くん。別に敬礼はいらないからね……」(バタンッ!)

「…さ〜て、やるか!!」

白狼はそう言って、黙々と掃除をし始める。白狼のもう一つの仕事とは、《清掃業者》である。元々自衛隊でも清掃に厳しかったので、清掃面のスキルを生かし、活躍の場を設けていた。勤務時間は18時〜22時までの4時間。時給は1200円。つまり4800円の日給である。ペンキ塗りは9時から始業して17時まで、休憩は1時間なのでおよそ7時間勤務。時給は1500円と割と高めのバイトだ。つまり、掛け持ちで今日の稼ぎは15300円といったところだ。月10日の休みから差し引かれても合計でなんとか30万は行くだろう。だが、東京は出費の激しい場所だ。今まで生活費は自衛隊の防衛費で工面してくれていたが、これからは食費や家賃、光熱費、通信料、携帯代の毎月の請求だけで多く出費が激しくなる。そう思うと、一度地元に帰るのも一つかと本人は考えている。

ゴシゴシ!!

「…む、なかなか落ちないな〜!」

フキフキ…!!

「…ギラついてるな…夜景…」

カランカラン!!

「ん、なんだ?」

白狼は突然何かが転げ落ちた音が聞こえたのですぐに向かう。そこには不自然であるが一本の空き缶が転がっていた。

「…なんだ、ただの空き缶か…」(ゴミ箱へポイ!)

「?」(あれ、このフロア俺一人しかいないのに、なんで空き缶なんかあったんだ?)

「…まあいいか。さて、あとはさっき言ったようにトイレットペーパーの確認と…」

〜時は流れ、22時〜

コンコン!ガチャッ!

「お疲れ様です」

22時になり、交代でこれから帰宅する警備員が顔を覗いてきたようだ。今日現れた警備員は男性ではなく、意外にも女性であり、ネームプレートには《西野》と書かれている。年齢を予想するのは失礼であるが三十路くらいかと感じ、警備員は基本男の仕事だと思っていたがと白狼は疑問に思うも、女性に対し、普通に挨拶を行った。

「あ、警備員さんどうも!」

「あっ!二ノ宮くんどうも、今日はもうあがっていいわ!…本日も一日!本当にご苦労さまだね♪」

「はい。…え〜と?…西野さんでいいんですかね?…今日もお勤めご苦労様です!」(ぺこり!)

「ふふっ!は〜い♪…ああそうだ二ノ宮くん、良かったら。…これ飲んで」

「ん?ブラックコーヒー?」

「この時間になると眠気がひどくなるからね!…二ノ宮くん、見た感じ若いし、元気に勤めてもらわないといけないから。…これ飲んでリラックスして」

「はぁ〜……では、ありがたく頂きます」(ゴクゴク!)

「ふふふ♪…あら、そういえば今日は金曜日!…二ノ宮くん!…明日は君、休みだったよね?」

「え、はい。…まさか、また急に仕事入ったからとか言うんじゃあないですよね?」

「え!?…いやいや違うよ!…明日休みならご飯でも食べながら少しだけ…お姉さんとお話ししない?……それとも、こんな年増と話すのとかそんなに……嫌……なの?」(うるうる…)

「う。……!!あ、いえ別に嫌ではないです。…良いですよ!」

「よ〜し!そうこなくてはね〜!!…ウフフ♪」(パァーッ!)

「……」(やれやれ…)

白狼と女性警備員の西野はそういうと職場を後にし、手軽に食べれる大手牛丼チェーンへと足を運んだ。店の中は思ったより空いており、話をするならばと、人目の少ないテーブル席を選び、白狼と西野は向かい合わせで腰をかける。すると店員がテーブル席まで足を運び、注文を問いかける。

「こんばんは、いらっしゃいませ〜!注文は何にしますか?」

「じゃあ私生姜焼き定食(大)いいですか?二ノ宮くんは何にするのかしら?」

「…そうですね。俺はこの肉カレー(大)お願いします!」

「かしこまりました〜!!少々お待ちください…!!生姜焼き定食(大)1つ牛カレー(大)1つ入りま〜す!!」

タッタッタ………

「ふう、それにしても意外ですね。西野さんも牛丼屋とか行くんですね?」(グビグビ…)

白狼は、女性警備員西野の意外な一面を見て、お冷やを飲みながら問いかける。

「ええたまに来るの。仕事終わりとかで、特に今日みたいな金曜日とかの締めって気分でね」

「へぇ〜、…まあその気持ちは分からなくもないですね。俺も似たような経験があったりしますし…」

白狼自身、今回カレーを注文したのにも理由がある。それは海上自衛隊に在籍していた時、いつも金曜の日にカレーを食べる習慣があったからだ。俗に言う海上自衛隊カレーと呼ばれ、航海になれば曜日感覚が狂って来るのでそれを防ぐために毎週金曜日にカレーを食べる習慣がある。白狼はその経験を元に女性警備員西野の話を合わせるかのようにそう答えた。

「ねえ、二ノ宮くんって歳いくつ?」

「今年で21歳です」

「そうなんだ!?…なんだか意外ね!二ノ宮くんってさ、歳の割になんか落ち着いているわよね?」

「まあそれなりに。でもただ単に喋るのが面倒だからとも言えますよ」

「う〜ん、でも私にはそう思えないのよ。なんか雰囲気的に困っている人を見てたらほっとけないって感じもするし…」

そんなふうにお互いが談話を続けていくうちに、注文していた料理が届いた。

「お待たせしました。生姜焼き定食(大)1つ牛カレー(大)1つずつです〜。ご注文の品は以上でよろしいですか?」

「「あ、はい!」」

「わかりました〜♪では、ごゆっくり召し上がりくださいませ〜!!」

そう言い残し、店員さんはその場を立ち去り、白狼は食べる準備をする為にスプーンと割り箸一本を取り出す。

「西野さん。はいこれ」

「え!あ、ありが……!」(ハッ!)

(お姉ちゃん!はいこれ!)

白狼は割り箸一本を西野に手渡そうとした。すると西野の方はその光景を昔どこかで見たかのように目の前に現れ、少しの間沈黙する。

「……」

「あの〜西野さん?」

「え!あっやだいけない私ったら!!お箸ありがとうね!!」

「はい。ではいただきます」

「うん。……いただきます」

二人はそう言い、注文した料理を口に含んでいく。白狼はカレーが少し辛かったのか、水を含みながらカレーを口に運んで行った。西野の方は綺麗な姿勢かつ箸をしっかり綺麗に持ち、少しずつ料理を口に含んでいく気品ある様子で食事していた。その様から相当育ちが良い人だと白狼自身はそう感じた。食事を平らげてから、少しお腹が膨らみ、西野と話を交わした。

「…西野さん、なんか上品な食べ方してましたね…」

「えっ!そ、そうかしら?」

「ええ。だって食事の仕方、姿勢とか以前俺のいた職場の地位の高い幹部の上官はそんな感じで食事してましたし…」

「へぇ〜。あ、そういえば二ノ宮くんって噂で聞いたんたけど……確か、元海上自衛隊に勤務していたのよね?」

「はい。まあ三年の満期を得て退職しましたがね…」

「そうなんだ!?…でもすごいね〜!三年も続くなんて!……普通なら一年もしないうちに辞める人もいるのに…」

「俺の同期もそんな奴らが多かったですね。基本訓練もあまりに過酷でしたし」

「そっか。……それで今日の金曜日にカレーをね…」

「まあそんなとこです。それにしても西野さん詳しいですね。知り合いに現役自衛官の方でもいるんですか?」

「ええ。…もうしばらく会っていないんだけど、…昔、防衛大学校に同年代の人が居て、確か出会いは開校祭の日に儀仗隊の人がいてその時に…!!…あ…い、妹がその人を気に入ってねっ!そこから知り合ったの…」

「そうなんですね。…へぇ〜西野さん、妹がいたんですね」(?…なんかどっかで聞いたような展開だな…)

「…!!…ええ…まぁ…」

「……」

「…ねえ、二ノ宮くん…」

「?何ですか?」

西野の方は何か深刻そうな顔をしながらも、突然白狼に対し、ある思いもよらない話題を問いかける───────

「…二ノ宮くんは。……あの世の事とか……信じる?」

「……は?」

白狼は西野の突然の発言に少し呆気にとられたのか、何をいってるんだこの人と思い、思わず言葉が出てしまったが、質問に答える。

「あの世って、天国とか地獄とかのあれですか?」

「うん…基本的に死後の後はその冥界にある二つの世界に行くことになってるって言うでしょ?その権限を持つ閻魔大王が死者を現世での行いで判断してどちらかの世界に行くように裁きを下すって言うわよね……?」

「…まあ、基本的にはそう言われてますよね」(ゴクゴク!)

「…もしも、その天国と地獄とは違うもう一つの世界が存在するとしたら…どう思う?」

「…え?」

白狼は西野の突然問いた仮説に対し疑問を感じていた。だが流すかのように適当にこのように答える。

「いや〜そんな話、あまり聞いたことがありませんね…」

「……そうだよね」

西野は少し笑みを浮かべるも、少し切なしげにいいつつ話しを進める。

「臨死体験っていうじゃない?…話によるとずっと植物状態になった人が何年も眠っている間に見知らぬどこかの世界をただひたすらに歩いていたとか……」

「あ〜なんか聞いたことがあります。んで誰かに後ろから肩を叩かれて、振り向いたら眩い光が刺して気がついたら病室のベットで、近くには家族が見守っていたと言うのは結構聞きますね」

「そうね…だけど世界中では全ての人がそのような現象を体験したとは聞かないわね。でも世界は広いし、互いが共通している死後の世界って存在するかもしれないわね…」

「世界は広いですし、まあそんなことがあってもおかしくないでしょうね。ま、動物もそうですが人は出産して生まれて育って生きて…そして死ぬが運命って決まってますし…」

「…!!…私自身、死について説明せよとか言われたら、皆が悲しみ、望みたくない、後悔だとか、この世に留まりたいという未練じみたものが大きく出てくるものだと私は思うの…例えば昔流行っていた心霊写真とか大きな例じゃないかと……そう思うわね……」

「ああ…なんか地縛霊だとか、はるか昔に酷い仕打ちを受けた家族に対し強い恨みを持った霊だとか…憎しみを持ったものほどこの世に留まりやすいって聞きますね」

「ええ…実際それでお祓いを受けて除霊させるって言うけれど、でもその悪霊的なのを除霊したとしてその霊の行き先はどこへ行くのかと…一度気になることは……!!あったわね」

「…確かに、天に昇らずに、除霊されてもまた他の人に取り憑き、赤の他人で関わりがないはずが前世のことを記憶しているというのもありそうですしね…」

「…もし…死んだ後に安らかに成仏して天国と地獄ではないもう一つの世界があるとしたなら…あの子が病弱な身体ではなくなってて、幸せな世界で元気に過ごしてくれたらと……!!私はそう願うばかりで…」

「…あの西野さん?…いきなりそんな非現実的な話とその妹の事と…って…!?」

「………う、うぅぅ!グスッ…!」

白狼は、西野の方を見ると、悲しみの表情を見せていた西野の姿があった。その表情から今にも泣きそうな感情を顕にし、涙が出そうな状態であった。そして先ほどからの話の内容から白狼はやっと西野の伝えようとしていた事情を察したのか心配になって優しく語りかける。

「…そうか西野さん…そんな辛い事情があったんですね」

「…いいの、気にしないで…グスッ…こちらこそごめんね…せっかくの食事なのに妙なこと言ってしまって…うぅ…」

「………」(なんか…悪い事してしまったな……)

西野は涙を流していた。どうやら大事な最愛の家族の一人を失い、その悲しみや悩みを誰にも告げられず、ずっと一人でやるせない気持ちを抱え込んでいたようだ。最初の時と比べて情緒不安定な様子に白狼は心配したのかハンカチを一枚西野に手渡した。

「…よかったら使ってください」

「うぅ…ありがとう…優しいのね…二ノ宮くん…」

「…自分なりの情けってやつですよ」

白狼は西野が落ち着くのを気を長くして待地、約5分後には落ち着きを見せていた。

「ほ、本当にごめんなさい///恥ずかしいところを見せてしまったわ…」

「良いですよ別に、気にしてませんから」

「…あなたに全てを話しておくわ」


・・・
・・


🎼Back Ground Music 》》》



西野さんは自分のこと、妹のことについて語り出した。西野さんは兵庫県神戸市の長女の生まれで下の名前はありさといい、警備員になる前は有名な大企業で働いていたらしい。次女の妹の名前はゆい。年齢は10歳ほど離れている。昔から身体が弱く、病院にも入退院を繰り返していた状態で少しだけでも身体を鍛えようと祖母と西野さんからの協力で薙刀術を教わったこと。ありさが20歳、ゆいが9歳の時に、親の仕事で一緒に東京に行き、防衛大学校の開校祭に訪れた際に妹さんが自分から儀仗隊の人に話しかけ、その縁でその人と友達になり、お互いの励ましになったらしい。学校に通う日は限りがあったのに勉学の要領は良く、高校は地元で有名な女子校に入学することが出来たらしいが、その半年後の16歳の時急に倒れ、病院で精密検査を受けた結果、妹さんは急性白血病と診断され、状態はとても酷い状態だったらしい。医師からは余命は持って二年と宣告され、それを聞いた西野さんと祖母を含めた家族は落胆し、一晩泣いたらしい。だが西野さんは何としてでも妹さんの治療を続ける為に無理をして働き、時には西野さん自身も無理が重なり、過労で倒れることもあった。それを心配して妹さんは無理しなくて良いと言ったが、西野さんは妹は必ず治ると心に決め、死に物狂いで働いた。だがそれでも西野さんの努力は実らず…妹さんは19歳の若さで帰らぬ人となったらしい。それは最近の出来事だったとのことである。その後西野さんは蓄積された疲れと妹さんが助からなかったショックからなのか、精神的な疲れが出てきてしまい、不安定かつ無気力状態の日々が続き、長年続けた仕事を辞めて最近になり、今の仕事に従事しているといった経緯だ。この出来事を聞いて、自分は納得した。通りでこの人は前向きで話しているように見えて心の中では辛く、重い孤独を背負っていたのだと実感した。

「……」

「…ごめんなさいね、長々とこんな話をして、疲れたでしょう……」

「…まあ無責任で厳しい言い方をするかもしれませんが、俺から言わせてもらえば西野さんはいつまでも妹さんとの別れを引きずり続けるのはよろしくないと思うんです」

「…えっ…」

「妹さんのことを忘れずに思い続けるのはまだ良いと思います。だけど妹さんの死んだことをずっと引きずり続けながら生きていくのはその妹さんの心の奥底をきちんと理解していないように思うんです。死んだことをいつまでも引きずってしまっても、その人が生き返ることはありません。そもそも引きずるって言葉は引っ張っていくとは違い、引きずるっていうのは地面に引きずられて相手が痛々しくなってもその痛みを気にしないまま、いつまでも離さない状態をいいます」

「!!」

「そう…西野さんは知らず知らずのうちに、妹さんの事実から向き合っていないまま、自分本意の押しつけにも近い気持ちで傷つけてしまい、判断を下させないまま別れができずにずっと引きずっていたのだと思います…」

「……」

「…まあ俺も海上自衛隊で似たような話ではありますが昔日本海軍の特攻兵団の手紙にも、特攻で死んでも、戦争で散ってしまったあの世の仲間と家族に会えるって風潮があったりしました。結果的にそれがどんな風潮で流行り出したのか、またその人が結果的に特攻してあの世で仲間や家族と再会できたのか…まあそんなアバウトな事…今のこの現在になっても結局調べようがないものですし…むしろ出来ないからこそ教材として美談にして取り上げる人もいれば、爆破テロだとか無駄死にだとか言ってる人もいます」

「………っ」

「まあとにかく、俺からしたらその人達に変わってするべきことは、彼らにとって命を懸けてまで覚悟ある行動を起こしたからこそ、今こうして日本を繋ぎ止めていることが事実なんだということに敬意を払うことですね。結果的に日本は負けましたが、いつまでも立ち向かう意思を持たずしかり。前を向かずに無駄死だったということで終わらせはいけないものです。自分がどのように生き、何をなすべきか常に考え、次の世代に繋ぎ、繋いだ人から次の世代に繋いでいくことが必要なんだということを、一人の自衛官として俺は学んできた次第です」

「…!」

「…だから西野さんも元気出してください。妹さんが亡くなった今でも、あなたの人生は時間が続く限り続いています。命あれば人生はいくらでもやり直せます。俺よりも社会人としてもキャリアを積んできたベテランなのですから自信持って次へ繋いでください。未来は思った以上に明るいはずです!」

「……うん!!」

「…それに、悲しみに暮れて泣いてしまい、ネガティブ思考になっている西野さんはなんか本来の西野さんらしくないというか、俺としては、西野さんには笑顔でフランクなあなたでいて欲しいと思うんです」

「…え!?///」

「…まあとにかく前向きにと言った感じです。真面目も良いですが程々にして、これからもよろしくお願いします。西野警備員さん!!」

「!!……ふふっ、そうだね♪…こちらこそよろしくね!…二ノ宮くん…いえ、二ノ宮教官!」

「…えっ!?きょ、教官…って…!?」

「だって、あんなこと言われて、私を立ち直らせてくれたのだから…色々責任取ってくださいね…///」

「!!ち、ちょっ!?///」

「あ、そういえば二ノ宮教官の下の名前聞いていなかったよね?何ていうのかしら?」

「…白狼です。白い狼と書いて、しろうです!」

「白狼か…なんか孤高な感じでいい名前だね!今後ともよろしく、二ノ宮白狼教官!!」(ビシッ!)

「…こちらこそ!…長話しましたしそろそろ出ますか」(ビシッ!)

白狼と西野は互いに敬礼し、店の勘定にいった。

「今日はありがとう。私が奢るわ!」

「えっ!悪いですよ!?割り勘でいいですって!!」

「いえ奢らせて。今日の勉強代として払わせてよ…」

「…じゃあご厚意に甘えます」

「ふふっ、よろしい♪」

「ありがとうございました〜!またのご来店お待ちしております!!」

「…もう夜も遅いですね」

「ええ。…!?あら、もう23時過ぎ!!…そろそろ帰らないとね…」

「送って行きましょうか西野さん?…最近何かと物騒ですし…それに…」

「えっ!?///…い、いえ別に大丈夫よ!…心配なんてしなくても、もう私は平気だから、あ、そうだ!せっかくだし連絡先を交換しないかな?そうすれば安否確認にもなるし、それに仕事仲間でもあるし…あと…///」

「あと…?…まあ別にいいですが」(ピッ!)

白狼と西野はお互いのSNSアカウント情報を送り友達登録を完了した。

「…でも、今日は本当にありがとう。君のおかげでスッキリした!」

「俺で良ければいつでも相談乗りますよ。また暇あればかけて来て下さい」

「ふふ!…ありがと。じゃ、お疲れ様」(フリフリ!)

「は〜い、気をつけて〜」(フリフリ!)

スタッタッタッタ……

白狼にそう伝えると西野はそのまま人混みに紛れ、帰路へと歩みを始める。その光景を見届けた白狼は照れ臭いながらもまんざらな笑みを浮かべて夜空を見上げる。

「はぁ〜俺も帰るか…元気付けるためとはいえ、柄でもないこと言っちまったなぁ…」(スタスタ…)

コツン……コツン………



チラッ?……!!??

!!…え?…あれって…まさか!?…な…何でアイツが渋谷に!?…今自衛隊にいるんじゃ…

・・・

白狼は西野と別れて、自宅マンションに戻り、するとSNSの通知が来た。内容を確認すると『今日は本当にありがとう。私もこれからあの子の分まで私の道を歩いて行きます!ではおやすみなさい!二ノ宮教官殿!!』という内容だった。白狼は笑みを浮かべた。だが白狼自身、このメールのやり取りで不安なことが一つだけあった。それはロベルのアカウントだった。三年前までロベルはこのSNSの情報を知り、みんなでアカウント共有し、連絡し合っていたがその一年後から急に連絡が来なくなり、途絶えままだった。メールにも既読がついていないことが長い期間続いていた。もしかしたらアカウントが凍結したからなのか…今となっては調べる術がないーーー

「…三年後に会おうって行ったのにこれじゃあ約束は果たせられないな…今日は遅いしもう寝るか…」

白狼は今日は色々あって疲れたのか、眠気が差してきたので部屋の電気を豆電球に変え、眠りについた───────
 
・・・  
・・  


B. いいえ


《Capitolo・2》
続きを読みますか?


AM6:00〜

〜ラッパ音の着信音

「!!」

ガバッ!!

「…よ〜し、朝だ!」

室内にラッパ音の目覚ましの着信音が鳴り響き、朝になったのを白狼が確認すると、テキパキと布団を畳み、折り畳み式のちゃぶ台を用意し、電気ポットで沸いた熱湯を使って緑茶を沸かし、インスタント味噌汁とご飯を用意する。そしていただきますと一言入れ、朝食を食べる。

ピロリーン♪

すると、スマホから着信音が流れる───────

「ん?誰からだ…西野さんか?…あ…千夜からか。……久しぶりだな」

白狼はSNSの内容を確認する

【千夜】    (久しぶり。)6:05

【はくろー】  (どうした?朝から…)6:05 既読

【千夜】    (あんた今日は土曜だから自衛隊休みなんでしょ?)6:06

【はくろー】  (…あれ?伝えていなかったっけ?俺2ヶ月前に自衛隊満期になって退職してるって)6:06  既読

【千夜】    (ハァッ!?私知らなかったんですけど!?)6:06 既読

そのやりとりを続けていた途中、千夜から着信が来た

流石にこのまま室内で話すのは近所迷惑なので外に出てから折り返し電話を行った。

prrrrrr…カチッ!

【白狼】『おう』

【千夜】『おう…じゃあないわよあんた!!一体何考えてるの!?せっかくロベルとの約束もあったのに辞めるなんて!』

【白狼】『だあぁっもう!朝からうるせえよ!お前は俺の母ちゃんかってんだ!』

【千夜】『それに昨日だって何処かの歳の離れた綺麗な女性と一緒にいてそれに連絡先まで…!』

【白狼】『う…それは否定できない。…!?ってえ〜お前、あんな時間にあそこをほっつき歩いてたのかよ!?…はぁ〜ッ、あれは職場の先輩だ。仕事終わりに飯食いに行ってその後に仕事仲間同士、連絡先交換しようってなったんだ』

(まあ、半分は西野さんが大きく迫ってきたんだけど…)

【千夜】『…!…はぁ〜!……んで退職したこと、あんたの家族には相談したの?』

【白狼】『ああ、退職後に賃貸借りてから一度実家に戻ったよ。まあ母ちゃんからは、銃で打たれてないかだとか、他国とか危ない所に拉致されたり連れて行かれなかった!?と大袈裟に大騒ぎしてたよ。まあ母ちゃんは俺が受かった時も自衛隊なんて危険だからあんたは普通の職に就きなさい!っていってたからな〜。父さんは何か察したのか、軍人らしくなって一回り大きくなって戻ってきたな。と褒めて讃え、敬礼されたよ』

【千夜】『…へ、ヘぇ〜…相変わらずあんたら一家、キャラが濃いわね…』

【白狼】『ほっとけ。あ、そうだ…聞きたいことがあるんだけど…』

【千夜】『?…何よ?』

白狼はロベルがしばらくの間連絡が来ない為、千夜は何か知っているかと思い、こう伝えた。

【白狼】『ロベルについて何か知らないか。…あいつ、あれから三年も経ってるけど連絡一つも来ないんだが?』

【千夜】『…!!』

【白狼】『ん…千夜?』

【千夜】『…ねえ白狼…明日時間あれば会える?』

【白狼】『ん?…ああ、休みだけど?』

【千夜】『…そう…ごめんちょっと忙しくなったから。じゃあ明日の昼くらい、渋谷でいいかしら?』

【白狼】『…わかった』

【千夜】『…ごめん!!切るわね』

プツ…プープー…

「…何だったんだ?…結局ロベルのことは聞けなかったか…」

そう思っていると、スマホの通知が鳴り響く───────

「ん、何だ?…えっ!?」

【主任】 (おはようございます)6:15 既読

【主任】 (二ノ宮くん悪いけど今日は出勤してくれないかな?ちゃんと手当て弾むから)6:15 既読

「マジかよ…まあ特に予定入れてないし…」

【二ノ宮】(大丈夫です。いけます)6:15 既読

【主任】 (助かるよ。今日は朝まででいいから、昼に代わりがきてくれるように調整したから頼んだよ!)6:15 既読

「はぁ…行くか」


〜ある職場〜

「いや〜助かるよ二ノ宮くん!突然朝に用事ができたらしくてね!」

「まあ構いませんよ。朝までだったら…」

「…ほぉ…もしかしてデートかな?」

「…え、ええ。まあそんなとこです」

「はっはっは。若いねえ!では今日は頼んだよ!!」

(昼から明日千夜と会う為の服とか買っときたいしな…あと髪とかも切っておかないと…よし!)

「さ〜てさっさと終わらせるか!」

白狼は黙々と作業に入った。季節はもう6月…都会の暑さは凄まじく、作業しているだけで汗がこみ上げてくる。作業着も汗だくになり重みが増してくる。また髪の毛も蒸れてきた。海上自衛隊の時は髪を切っていたが、今となっては髪は伸び上がっており、そろそろ髪も切り時かと思いながら作業を進めていく…そして時間は昼になり、白狼がそろそろ上がる時間が近づいてきたのを確認し、蒸れていた帽子を脱いだ時にトラブルが起きた───────

「ふう、終わりが近いな…あ〜髪が蒸れるな〜」

「…!oh〜!!Mr白狼〜!危な〜いデース!!」

「え…?…げっ!!」(バシャン!)

白狼は、他の作業員の声が聞こえたので上を見ると、何と不運にも上から青のペンキが落ちてきたのだ。どうやら作業中の作業員がペンキを転かしてしまったようだ。そしてその青色のペンキは白狼の頭上にドップリかかってしまったようなのだ。最後の最後に…油断ダメゼッタイ!!

「「「しろーー!!!」」」

「……」(ピチャッ…ピチャッ…)

「どうしたんだ!?…うぉっ!!二ノ宮くん!!これは大変だ!早く落とすんだ!!」

「リョーカイデース!!(アルヨ!)」(フキフキフキ!!)

「い、いででででっ!!!みんな、痛いって!!!」

作業員は早急にペンキ落としを使って白狼の付着したペンキを懸命に落としてくれた。だがそれでもなかなか落ちないところがあった。それは髪の毛だった。引っ張られるとかなり痛みが走り、色を取るだけでも苦痛であり、これほどの苦行は自衛隊以来だと白狼自身は思った。

しばらくして───────

「…はぁ〜」(ぐったり)

「ふむふむ、身体の方はシャワー室があって助かったな白狼くん。…だが…おいバイト!!!あれほどペンキを転かすなと注意を払っていただろう!!!」

「ス、スミマセン…」

「あぁっ!!!すみませんで済むか!!この無能が!!」(パン!!)

「ohch!!」

「…!!」

「貴様のような他国のとこから来たのをうちが雇ってやってるんだ!ありがたく雇用してるというのにこいつは…うちの優秀なバイトによくも!!」(バシッ!バシッ!)

「うっ!イタイ…!!ユルシテクダサイ…」

「まだだ!まだまだまだまだまだーーーー!!」(セイサイヲ〜)

「ヒ、ヒィィィッーー!!」

「っ!!」

ガシイィッッ!!!

「なっ!!」

「…ミ…Mrハクロー!?」

主任にパワハラレベルの暴力・暴行の仕打ちをされていた外国人労働者を見て耐えられなかった白狼は、怒りのあまりに主任の腕を思いっきり掴み、その後、胸倉を掴んで壁に押しつけ、ゆっくりドスの効いた威圧的な声で迫る。

「もういいでしょう…主任!!」(ギラッ!!)

「ヒッ!!二、二ノ宮くん!!しかし…」

「俺のことはもういいので…つか俺、バイト今日限りで辞めさせていただきます!!こんなことしてる職場には俺は長くいるつもりはないので…主任のことを尊敬していたのにこんな仕打ちをする人と思い本当に幻滅しました。ではお世話になりました。給料必ず振り込んどいてくださいね。振り込んでいないことがわかったらすぐに労基へ報告しますんで!!…では」(バッ!!)

「そ、そんな…」(チーーン!)

「…は、はくろー、ありがとー!!」

「my hero is ハクロー!!タスケテクレテアリガトネー!!サスガモトJAPAN NAVY TEAMネ!!」

「アリガトウアルネ〜ハクロー!!ゲンキデー!!」

ワーッ!ワーッ!ワーッ!!!

「あんたら!!…俺の名前はシロウだ!!」

俺はあの職場のバイトを辞めた。翌日主任から電話にて、『昨日はすまなかった!戻ってきてくれ!!』と言われたが、俺自身、首を縦に振ることはなかった。その後、会社は労基の強制監査により、不法労働、及び労基違反、パワハラ・モラハラ防止法違反等、様々な違法労働の証拠が明るみになった。決定打は外国人労働者に仕込ませておいたボイスレコーダーと映像が信憑性に至ったためである。労働者から以前から主任による暴行や休日出勤が頻繁に行われ、今回のように対策しておければ予想どおりに事が運ばれた。最終的に会社は刑事告訴が決まったのだそうだ。

〜翌日昼過ぎの渋谷〜

白狼は昨日のバイトを辞めたこと、そして次の職場のあてを探そうと西野に連絡を取っていた。





「…ってことがあって俺ばっくれたんです…」

「ヘぇ〜!何だか二ノ宮教官らしいですね!…でも私だってそんな酷いことする職場なんかすぐに辞めるわ!君は悪くないよ、ゼッタイ!!…だから元気出してね…」

「…ありがとうございます。ただ、今の仕事は清掃しかないですし、これからどこ探すのか。…といったとこです」

「……!…あっ!!…もし良かったらウチに来ない!?正社員だし、最近定年退職した人がいて一人募集してたとこなのよ!」

「え、本当ですか!?……でも髪型だとか、その〜…髪色の指定はありますよね?」

「う〜ん、全然ないと思うよ〜!うちの職場普通に金髪くんの警備員いるし……?あれ、でも二ノ宮教官。……黒髪でしょ?」

「あ。…いや〜最近…イメチェンを……」

《二ノ宮白狼21歳・ヘアースタイル:ベリーショートウルフ銀・黒髪ヘア!!》

《バァァーーーンンンッッ!!!!!》

ウワー!!アノ人ゼッタイDQNだわw チョ〜コワイ〜!! マタカミノハナシシテル…(・ー・) カミガドウシタトコラ!!

「そ、そうなんだ〜!なんだか意外だね!…まだまだ若いですし、髪染めてるくらいでは何も言わないと思うのだけれど。……むしろ君の職歴はすごい重宝されるだろうから、アピールポイントに十分なるよ!」

「そうだといいんですが…」

「とりあえず、採用あるか聞いておくわね!」

「本当にすみません西野さん!…お世話になります!」

「いいのよ。…君には私の件で助けられてるし、これくらいするわよ。また何か困ったことがあったら連絡してね。それじゃ!また職場で!」

「はい、休日なのにすみません。ゆっくり休んでください。それでは!」(ピッ!)

西野と相談し、どうやら就職先の一つが見つかりそうだ。白狼からすれば、あの人は癒し、いやもはやあれは聖母の存在だと感じ、何かお礼をしなくてはと思っていた様子である。そうしているうちに、千夜との約束の時間が近づいている事に気づく───────

カチッ!…カチッ!

「さ〜て、そろそろ時間か…メッセージ送るか…ん?」

「ん〜、そろそろ来る時間よね〜…アイツ。…久しぶりに会うけれど。…どんな風になっているかな…あ。…アイツからメッセージ来た」(ワクワク)

「…!?」(もしかして…あいつか!?……年月経っても…やっぱ色気あるな〜アイツ!…よし!)

スタ…スタッ……

「お〜い!」

「え?」

「よう!」

「…あの…どちら様ですか?」(ジー…)

「俺だよ!《二ノ宮白狼》!!昔菊川先生の元で一緒に居合道学んだ仲で、その後海上自衛隊に入隊して三年で辞めた!!んでお前と会う約束した!」

「」(絶句)

「ん、お〜い、千夜〜?」

「…えぇぇぇぇえ〜〜〜!!??………!…あぁぁ……」(フラフラ〜!)

バターーン!!

「!?なぁっ!?…!!ハッ!!」

ザワザワ… 何だ何だ!! おいあのDQN!美人さんを気絶させたぞ!! 警察に電話した方が…!

街行く野次馬の者達がガヤガヤと騒ぎ出す────

「お、おい千夜〜!しっかりしろ〜!!あーもう何でこんなことに!!」(ダキッ!!)

白狼のあまりの変わり様にショックを受け、その場に倒れ伏せた千夜。白狼はすぐに彼女を抱き抱え、その場から遠ざかろうとする。

おい、あいつ逃げたぞ!!追え〜 おぉぉぉぉぉ!!逃すな〜 これは再生数伸びるぞ〜!!

一同は騒ぎ出し、それを面白半分で追走する者達。人目の少ない場所を探し、ヤジから逃げるようにして何とか白狼は振り切る事に成功した───────

〜代々木公園のベンチ〜

「ハァ……ッ…ハァッ〜…ここまで来りゃあ安心か。……ったく、ほんと最近災難続きだぜ〜…」

「う、う〜ん…」(むくり…)

気を失っていた千夜は目を開き、身体を起こす。その様子に白狼は声を掛ける。

「お、千夜。……気がついたか!?」

「う、うん。……ごめんなさい。……!でもびっくりしたわ〜!!アンタ、本当に白狼なのよね!?」

「だからそうだって!俺だよ!この髪はそもそもバイト先でペンキが付いて全く落ちないから床屋行って、手違いでこうなったんだよ!!」

白狼は一体何故このような奇抜な髪色になってしまったのかについて、その経緯や詳細を千夜に説明した。

・・・
・・

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜こち亀より・両津のテーマ:2-2

〜時は戻って昨日の東京都内のある下町〜

「ふぅ〜それにしてもなかなか落ちないな〜こりゃあ。……ん?」

白狼は髪に染まり、なかなか落ちないペンキを気にして東京の下町を歩く─────

〜ヘアサロン ゴッドハンド〜

右手には《ヘアサロン ゴッドハンド》という名前の散髪屋を見つける。          

「あれ床屋か。この際だから切るか!」

白狼自身、洗っても落ちないのなら、この際だからバッサリ髪を切ってもらおうとすかさず店内に入った。だがそれが《悲劇》いや《喜劇》の始まりとなることも知らずに─────

チリンチリ〜ン♪

「こんにちは〜!!」

「!!い、いらっしゃいませ〜!」(うわ〜客がきたどうしよ〜店長は今出かけてるしぃ〜…)

「あの〜髪切りたいんですけど〜今空いてますか?」

「あっ!!…は、はい、どうぞ!座ってください!」

「じゃあ失礼してと…」

「で、あの〜、どんな髪型を希望してますですか!?うちでは、このように表札へ希望のある髪型と色を書いて、この席に置いて分かりやすく誰がどんな髪型にするのかを明確にするようにしていますですはい!!」

「へぇ〜結構凝ってるんだな〜店名の通りゴッドハンドは伊達ではないってやつか」(…なんかすんげえ緊張してる店員だな〜…新人か?)

「は、はい!」(よ〜しとりあえず長々と説明して店長が帰ってくるまでの時間を稼ぐぞ〜!)

ペラペラ〜!

「よ〜し、じゃあ俺は短めって書いとくわ。ここのペンキがついているのが全然落ちなくてさ〜!」

「……えっ?」(えっこの人、決断早すぎない!?もっと悩んで欲しいんだけどちょっと…!!)

「じゃあとりあえず、頭から先に洗ってくれますか?」

「あ、はい!!」(…まあ洗髪くらいなら…)

ゴシゴシゴシゴシ…

「お湯加減どうですか?」

「…ちょうど良い…良いぞ…zzz」

「あ、寝てしまった……!!」(よーし。寝ている隙に髪を切ればなんてない!)

カランカラン♪

「!?」

新人の理容師が白狼の頭を洗髪していると、次の来客者がやってきた。その風貌は今時のチャラ男という感じの金髪でピアスのつけたやや太った男であった。

「ちょりーっす!!」

「あ、いらっしゃいませ!」

「ようよう、今空いてる?」

「いえ、今接客中なんですが……」

「え〜ちぇっ、仕方ねえ、待つか…〜♪」(へへ、髪の色を銀髪に染めて俺もホストの仲間入りだぜ〜♪)

「ほっ…」(よし、続きやりますか!)

カランカラン♪

「ウィ〜す!……ん?……!?」

「!!あ、先輩!!」

「お、先輩ってことは、もう一人の店員か〜!?」

「ちょっ!?おま!?…ああ、とりあえずお客さん、席に座ってくださいな!」

「お、そうか〜!んじゃあ、そうさせてもらうぜい〜♪」





「…ったく!何してるんやお前!?あれ程店長から見習いやから坊主とかならまあ許し出てるけど、マトモなヘアースタイルの髪切りは俺らの許可なしにやったらあかん言わとるやろがい!!」

「ヒエェ〜!!す、すみましぇ〜ん!!」(ぴえん!)

「……ったく、しゃあないの〜!…ほな、俺しばらく着替えるから、ちゃんとオーダー聞くんやで〜自分!」

「え!俺がですか!?」

「当たり前やろがい!こんな格好で髪切られへんから、とにかくちゃんと聞いときや!」

「は、はい…」

先輩の理容師はそう言うと、更衣室へと向かい、制服に着替え準備をする。そして新人理容師はチャラ男客の接客を行う。

「あの〜お客さんどんな髪型にしますか?」(うっ、髪の毛すげえ匂い…)

「おお、髪を少しだけカットして銀髪に染めてくれ!!それで俺も夢のホストデビューだぜウェーイ!」

「あ…そうですか。では塗料探してきますので少々お持ちくださいね」(カキカキ)

「あいよ〜!」

新人理容師は銀髪用の塗料を探しにその場を後にした。

「あ〜眠い、そういえば今日含めて三徹でネトゲーしたからな〜」(ググ〜……!)

ブォン!

ドスッ!!

「うぉっ!?いてぇ〜!何だ何だ!?」(ビクッ!!)

「ぐガー!」

「!?」(ち、チャラ男…うっ!こいつの頭くさ!)

白狼が気持ちよく寝ていた所を、隣のチャラ男が上に伸ばされた腕が振り下ろされた拍子で腹にダイレクトアタックを浴び、一度目が覚めた白狼はチャラ男の方を見る。すると、チャラ男を見て思ったのが髪の毛からただならぬ異臭がするという事。そして表札には髪は少しで銀髪にと書かれていた。起こされてイライラを感じていた白狼は、たまたま新しい表札があったので近くのボールペンを使い、表札に《丸坊主》と書いてチャラ男の席に置いた。そして持っていた銀髪注文の表札を捨てようとした時、店員が戻ってきたのを確認すると慌てて表札を床に落とし、また眠りに入る───────

コツンコツン……

「はあ、はあ、見つかった…まさか倉庫に入れっぱなしだったとは。…とほほ…」

ガチャ!

「ふぅ〜やっと出た〜!あ〜スッキリしたで〜!…よ〜し、ほなやろか!」

「は、はい先輩!」

「んで、ちゃんと注文取れたんかいな?」

「は、はい!!《表札に書いている通り》でありますです!!」

「そうか〜…ほなら、おっ始めるかの〜!…ん?なんや、表札が落ちとるで?……風で落ちたんかいの〜?」

先輩理容師は表札を確認する。結果的にチャラ男が丸坊主に、白狼は手違いで少しだけカットの銀髪染めにという設定になった。先輩理容師はすぐ様、白狼の座っていた椅子のブレーキを解除し、移動させる。

ウィーーン!!

「髪染めのお客さんは俺が担当するさかいに、お前はそのチャラ男頼んだで。丸坊主ならそんなに難しくないさかい、お前でもできるやろ?」

「あ、はい分かりました!……?」(あれ?確かチャラ男が銀髪だったんじゃ…)

パチパチパチパチ!!

「…う…」(それにしてもよく寝てるな〜しかし髪の毛にすげえ汗がついていて臭うし、気持ちが悪い……暫く風呂とか入ってなさそ〜…)

「zzz」

「…よし!カットは終了!…後はバリカンで!」

ブィィィィィィン!!

・・・

「…zzz」

「…それにしてもこのお客さん所々ペンキがついてるな〜!それで、これを機に髪染め希望っちゅうことか」(パチパチパチ!)

先輩美容師は黙々と作業に入る。白狼の髪の毛に付着したペンキの跡は綺麗に切り落とす。それでも落とし切れないところもあった。そこで理容師は考え抜いて銀髪の染め料を使い、白狼の髪の毛に神業の如く素早く塗料を塗り、キャップをしてしばらくの間待つ。その間に顔剃りをしている。その頃、新人理容師はというと─────

ブィィィィィィン!!

「……」(…あれ?でもやっぱりこの人チャラ男最初銀髪希望だったような…気が変わったのかな…まあ良いか!坊主の方が楽だし)

ブィィィィィィン!!

〜時は流れ数分後〜

「お客さんお客さん、起きて下さいな!」

「ん、終わったか!いや〜よく寝た…って…!?」

キラキラキラキラ〜!!

白狼は目の前の鏡に写り込んだ自分の姿を見て驚愕した。注文通り、自分の髪は少しだけ短髪になった。それは良い、良い事なのだ。だが問題は、自分の髪の毛の色素が落ちて、銀髪と黒髪が混じり合った奇抜な髪色になっていた事だったのだ。白狼は先程の記憶を思い返すと、確かに銀髪とか書いていた表札を自分の席近くに落としてしまっていた事を思い出す。その後は後の祭りかと思い、白狼は驚いた。

「…理容師さん…」(ゴゴゴゴ…)

「…はい、いかがいたしやしたか?」(ごくり)

その姿を見て何を思ったのか、白狼は口を開き、先輩理容師に対しこう返答する。

「この髪色…!?これ…良いんじゃあないですか!!いやこれ良い!すげえ良いわ!」(パァーッ!)

「!?ほ、ホンマかいな!お客さん!?」

「はい!なんかこの髪色気に入りました!」

白狼はご満悦のようだった。白狼は今までの人生において、髪染めなど一度もした事がないのだ。自衛隊でも奇抜なヘアカラーは禁止されていた為、白狼自身この体験は返って新鮮な気持ちになり、これを機に《心機一転》するのも悪くないと感じたのだ。そしてちょっとした注文を先輩理容師に問いかける。

「あと店員さん!もう一ついいですか?」

「はい、何なりと!!」

「なんか最近のサッカー選手によくあるような最近流行ってる…え〜とベリ〜何とかウルフってやつ?」

「お、もしかして《ベリーショートウルフ》の事かいな!?」

「そう!それです!!こんな状態になっても可能ですか!?」

「それくらいの髪量なら。…!!十分可能でっせ!!」

「では、お願いします!」

先輩理容師はまるで難波(ミナミ)の街で《金貸し》を生業とする、ある個人金融屋の相貌を連想する覇気でそう言い放つ。そしてすぐさま神業の如く、巧みなハサミ捌きで白狼の髪を見事にカットしていく。そして終えた後には、まるで遥か壮大な雪原を孤高に走り抜ける気高い白い狼を連想させるかのようなヘアースタイルとなった。その様子に白狼は目を輝かせていた。

キラーン!

「おぉぉぉ〜!」(キラキラ!)

「いかがですかい!?」

「いや〜バッチリです!おかげで《心機一転》頑張れそうです!」

「それはよろしいでんな〜!」

「じゃ、え〜と値段はいくらで?」

「ほなカットと染めで6000円になります!」

「結構安いんですね、はい」

「ちょうどお預かりします!それにしてもあんたさん、名前は何と言いますの?」

「二ノ宮です。二ノ宮白狼…しろうは白い狼という名前をとってです!」

「ほぉ〜ええ名前やないですかい!それにその髪型とも相性がバッチリやで〜!俺のセンスにハズレはないこっちゃ〜!」

「お世辞が上手いですよ〜関西弁の旦那!!」

は〜っはっはっはっは!

「…!!ふざけんじゃあねえぞ!こんな店二度と来るか〜!!!」(びぇ〜ん!!)

「「!!」」

何か急に店内が慌ただしい様子になり、様子を見にいくと、チャラ男の姿はなく、新人理容師が茫然と立ちつくしていた。

「おい新人、どないしたんや!」

「いえ、チャラ男のお客さん、それが先程起きて髪の毛がないことに気づいて、急に立ち上がっては泣き出して店に対する不満だけを言い残して去って行きました…」

「…ったく、なんやねんな…自分から丸坊主にしろ言うといてからに…!《銭》も払わんと出ていき腐りおってからに〜……ホンマ男の片上にもおけんやっちゃな〜!!」(グキゴキ!)

「あ、あはは…」(勝手に表札書いたのは内緒にしておくとするか…)

その後、《ヘアサロン ゴッドハンド》は数日後にチャラ男の両親がやってきては『うちでニートをやってるバカ息子が何かのドラマを見て影響されたのか急にホストになると言い出して困っていたので、目を覚まさせるために丸坊主にして髪を切ってくださって…この度はありがとうございます!!』と感謝を述べ、チャラ男の代わりに散髪代と、家で作っている野菜を持参してくれたらしい。チャラ男の方は心を入れ替えたのか、とりあえず就活しているらしい。その噂もあり、《ヘアサロン ゴッドハンド》という店はその人の人生を変えるというコンセプトがモットーに、後に有名なヘアサロンとして名を残すがそれはまた別のお話─────

・・・
・・



B. いいえ


《Capitolo・3》
続きを読みますか?





〜回想終了〜

「てなわけだ!」

「…でその髪になったわけね……」

「まあたまにはこういうのも悪くないと思ったな〜!いや〜しかしあの店員さん、なかなかいい腕だった!!」(えっへん!)

「ふ〜ん、でもその髪型のアンタ…wよく…見てみると…ふふふ、あーっはっはっはっはっ!!」(バンバン!)

「ちょっ!おまっ!笑うなよ!」

「いや、だってアンタ!こんなの笑うなっていうのが無理な話でしょ〜が!?w…あっはっはっはっ!あ〜お腹痛いってのほんと!!」(バンバン!)

「!?…///」(あ…こいつ普段笑うことがないから、こう笑うとすげえ可愛い一面があるんだな〜…///まあこんなとこカメラで撮ったりしたらただで済まなそうだな…)

千夜は白狼のヘアースタイルを見てあまりにもおかしくなり、笑いを堪えきれなくなってしまい膝を思いっきり叩きつつ、腹を抱え爆笑していた。そして普段クールで笑うことは滅多にない千夜の笑顔の姿が珍しく白狼は思わず赤面してしまった。そして、少しだけ落ち着き、これまでの海上自衛隊での出来事、そして現在何をやっているかを1〜10まで千夜に説明した。





「へぇ〜塗装屋のバイトでパワハラとか度が過ぎる違法労働があってばっくれたと…んで、その西野さんって人が、次の就職先をうまく取り合ってくれてるって訳ね!」

「まあそんなとこ。西野さん…あの人は、本当にすげえ良い人だよ。…それに…」

「それに?…!」

「………!」(しんみり…)

千夜が見た白狼の表情は、とても寂しげで、届けられない無念の思いが込められている、重い表情をしていた。白狼と西野との間には、何かしらの事情がある事を察したのか、千夜は、とりあえずこの空気を変えようとある提案を開いた。

「あ、そうだ!折角だし、近くの喫茶店でお茶でもしない?私、いい店知ってるの!!」

「ああ、良いぞ。なんかすまないな…よし行くか!」

「…ええ」

白狼は道中、千夜のことも聞いてみた。あれから千夜は猛勉強の末、三年制の看護学校を無事に卒業し、無事に正看護師の国家資格を修得し、ある病院で新米看護師として勤務しているそうだ。仕事内容はとても大変でお局様やらベテランの人間関係の話を聞いていろいろ大変な思いをしているようだ。だがそれでも毎日頑張っていると聞き、俺は嬉しくなった。千里の方は、レベルの高い大学に通っており、将来は航空会社に就職して《キャビンアテンダント》の資格を目標に頑張っているそうだ。そして最近、海外の語学留学をしていることから昔の可愛げはなくなり、自分の進路に向かって跳躍しているようだ。だがそれを聞くと、白狼はロベルのことがますます知りたくなる。彼はこの三年間の間、どんな風になっているか?ちゃんと生きているのか?とそう思っていると目的の喫茶店に着いた。

「あ、着いたわね」

「ここか、確かに洒落た店だな!」

カランコロン♪

「いらっしゃいませ…」

店内に入ると、とても紳士的でダンディーな雰囲気を持った高齢なマスターがカウンター越しで挨拶した。

「あ、マスター、こんにちは」

「あ〜千夜ちゃんじゃないか!ん、何だい?その人が噂の彼氏かい!?」

「っ!?」

「ちょ、マスター!!///」

「はっは。いや〜めでたいね〜!それに、線が細く見えるようで引き締まった屈強で頼り甲斐のある子だね。…もしかして元兵隊さんだったかね君?」

「…元海上自衛官です」

「お〜当たっていたか〜!?いや〜まだわしの目は落ちぶれてはいないようだね〜!よし、ゆっくり喋れるように特等席をとっているから案内しよう!」

「いいんですか?」

「ああ構わないとも。いつも頑張っている千夜ちゃんの為だ。……こちらへ」

マスターの案内で、この店で一番の特等席の部屋へ案内してくれた。そこにはネイビーのカーテンで装飾され、上の照明は小型のシャンデリア、付近には数多くの壁掛け時計が並び、壁にはマスターの家族写真が金の額縁で飾られて並んでおり、それはレトロで幻想的な空間だった。白狼自身も、その場所は不思議と落ち着いていた。

「へぇ〜、こんな部屋があるなんて知らなかった…」

「はっはっは。とっておきの一室だからね!…で、何にするかね?」

「あ、じゃあコーヒーセットでお願いします!」

「俺も同じもの、お願いします」

「かしこまりました。すぐに用意するからね…」

ガチャ!!…バタン!

「…お前、常連さんなんだな〜」

「うん、看護学校からの顔馴染みでよく来てたのよ!」

「…そうか」

「で、私に何か聞きたい事…あるんでしょ?」

「ああ。…じゃあ単刀直入に聞くわ…」

チク…タク……

室内に響き渡る掛け時計の秒針の音。静けさある一室の中で白狼はその口を開いた。

「…ロベルの事について聞かせてくれ!」

「…!!」

千夜はその話題は避けたかったと感じ、しばらく黙りを通すが、白狼の目は本気だった。もう言い逃れができない雰囲気だった。

「…頼む。…教えてくれよ。…俺はお前を尋問するような事をしたくないんだ!!…あいつの事何か知ってるんだろ……?」

「……」

千夜は目を閉じて黙りを通していたが、もう観念したかのように口を開いた。

「…分かったわ…ちょっと待ってて…」

ガサゴソ…

そう言うと、千夜は持参のバッグの中を開け、何かを探している。見つかったのかその物を取り出した。それは一枚のタブレットだった。そして、タブレットの電源を起動し、何かのファイルを探している。そして見つかったのか、あるファイルを開き、ゆっくりとテーブル席に置き、真面目な表情をして白狼に見せる前に同意を得るかのように話す。

「…今開いているのはロベルのお父さんからの手紙…今からおよそ二年前にこれが送られてきたの。私は医療分野の関係でドイツ語を学ぶ必要があったから読めることができた。和訳にもして書いてみたの…けど…もしかしたら間違いの訳もあるかもしれない…それでもあなたは…この手紙を読む…?」

「!?」(ロベルの親父からの手紙……今から《二年》も前の…)

「……どうするの?……白狼?」

「………!」

ドドドドドド………

千夜から感じられる、重々しい雰囲気。このようなやり取りに対し、今まで経験していたものとして似たような出来事を白狼は思い出した。それは女性警備員の西野が妹のゆいの不幸事の事を話していた時の雰囲気と何処か酷似ていた事だ。しかし白狼の回答は引き下がることはなかった。

「ああ…!そのために来たんだ。…あいつ…今何やってるんだろうかな…」

白狼自身は心の中で、もしこの内容に不幸事が書かれていたとすれば、その時俺は立ち直れるのか。いやもしかしたらあいつがドイツで何かやって出世して、あまりにも恥ずかしいので仕方なく父親に手紙を委ね寄越したのだろう。そうに違いないと白狼はファイルの中を開く。そこにはレトロチックにタイプライターで文字が打ち込まれ、その昔ながらの雰囲気ある文字のフォントが今いるこの空間とマッチしていた。その下に千夜が翻訳したのか日本語が打ち込まれていた。白狼はその内容を確認すると、出世とはかけ離れた、衝撃の事実がここに記されていた─────


🎼Back Ground Music 》》》




♪〜ブラックジャックより・Your pain



Phil Blanc
(フィル・ブラン)

Sehr geehrter Herr, zu Roberts bestem Freund ...
(拝啓 ロベルの親友達へ…)

Plötzlich werde ich einen Brief von meinem Vater schicken.
(急であるが父である私から手紙を送ることとする。)

Bitte beruhigen Sie sich und lesen Sie den Inhalt dieses Briefes.
(落ち着いてこの手紙の内容を読んで欲しい。)

Es ist sehr schmerzhaft für uns Familie und Sie, diese Tatsache zu erzählen, aber ich werde es direkt melden.
(この事実を告げるのは私達家族や君達にとって…とても辛い思いをすることなのだが、単刀直入に報告させてもらう。)






Robert starb plötzlich.
(ロベルが急死した。)

Die Todesursache war ein akuter Herzinfarkt. ...Das wurde mir gesagt.
(死因は急性の心筋梗塞と。…そう告げられた。)

Wenn Sie möchten, wollte unsere Familie diese Tatsache leugnen!
(もし願えるなら私達家族はその事実を否定したかった!)

Warum muss mein geliebter Sohn im Alter von 19 Jahren gehen ...
(なぜ愛する我が息子が、19歳という若さで旅立たなければならないのかと…)

Robert steht normalerweise früh auf. Als ich ihn morgens wecken wollte, war mein Körper sehr kalt.
(普段は早起きのロベルが遅いから、朝からロベルを起こそうとした時、身体はとても冷えこんでいた。)

Ich versuchte verzweifelt, es aufzuwecken. Erhöhen Sie Ihre Stimme viele Male. Viele Male! ... aber Robert ist nie aufgewacht ...
(私は必死になり、起こそうとした。何度も声を荒げて。何度も!…それでもロベルは目を覚さなかった…)

Ich habe sofort versucht, eine Herzmassage durchzuführen. Zu dieser Zeit hielt Roberts Brust ein simuliertes Ritualschwert, das als Andenken gegeben wurde!
(早急に心臓マッサージを実行しようとした。その時にロベルの胸には、お土産として渡された儀礼刀の模擬刀が力強く握られていたのだ。)

Egal wie stark er es versuchte, Robert behielt sein Ritualschwert ...
(どんなに強く取ろうとしても、ロベルは儀礼刀を離さなかった…)

Selbst wenn ich in einer starken Absicht starb, als wäre ich mit einem Ritualschwert, erfüllte ich es ... Ich hatte ein sehr friedliches Gesicht.
(まるで儀礼刀と共にあるかのように力強い意志を命尽きてもそれを全うしていた…表情もとても安らかな顔をしていた。)

Meine Frau und ich kümmerten uns bis zum Ende um Robert, hatten ein Ritualschwert auf der Brust und stellten Blumen auf, um ihn zu begraben.
(私と妻はロベルを最期まで看取り、胸元には儀礼刀を持たせ、花を並べて火葬をした。)

Die Überreste wurden in einem örtlichen Tempel in der japanischen Präfektur Wakayama beigesetzt, nachdem sie von der Botschaft und dem Konsulat die Erlaubnis erhalten hatten, nach Japan geliefert zu werden, einem Land, das Robert mag.
(遺骨は、ロベルが好きな国、日本へと送り届けるように、大使館、領事館の許可を得てから日本の和歌山県の地元にある法光寺へと埋葬させてもらった。)

Ich denke, unsere Familie hat alles getan, was sie kann.
(私達家族はできるだけのことは尽くしたと思う。)

Ich würde es auch begrüßen, wenn Sie Roberts Grab am Tag des Gedenkgottesdienstes, dem Bon, und wenn die Äquinoktialwoche nahe ist, besuchen könnten ...
(また法事の日や盆、彼岸が近くなる時にロベルの墓参りに訪れてくれれば幸いだ…)

Ich möchte mich bei allen bedanken, die nach Japan gekommen sind, aber es schwer hatten, sich als Freunde an das Schulleben zu gewöhnen.
(日本に来たものの、学校生活に馴染むのに苦労したロベルを友達として迎えてくれた君達にお礼を言いたい。)

Vielen Dank!
(感謝する!)

Und als Roberts Vater hoffe ich aufrichtig auf Ihren zukünftigen Erfolg und guten Kampf ...
(そして、ロベルの父として君達の今後の活躍と健闘を心から願っている…)









「………っ………」

コト………

手紙の内容はここで途切れていた。白狼は、読み終わってから千夜から手渡されたタブレットをテーブルにゆっくり置いた。すると拳を力強く握り、悲しみと無念かつ悔しさが混じり合った感情が爆発しそうになった。海上自衛隊に在籍し、様々な訓練と任務に明け暮れて三年。そして退任し再会を誓い合った友が今から二年程前に急死したという突然の訃報の知らせに白狼は冷静ではいられず、人生初の喪失感に見舞われた。今となっては西野の妹が亡くなった時の気持ちが少しだけ理解できたのか、涙がこみ上げてきた。その感情をあらわにしながら、千夜にこう問いかける。

「…この事……千里は知っているのか…!?」

「…ええ、当時それを知ってすごく泣いていたわ。私も忙しい中、何時間も私はあの子を慰めたわ。でもそれが効いたのか、『いつまでも先輩ばかりに頼ってはいられません!…ロベル先輩の分まで私は真剣に生きて、自分の夢であるキャピンアテンダントを目指します!』……って強く言っていたわ……」

「……っ!!」(……千夜…ッ!!)

ガタッ!

「………っ…!」(……ごめんなさい……でも……)

「…!…っ…」(…お前。……)

白狼は『何故この事実を自分にも早く伝えなかったのか!?』と感情を曝け出そうと席を立ち、彼女に強い眼光を向ける。しかし、今の千夜の表情からは出来れば《現役》していた時に伝えたかった。しかし伝える事で正気ではいられなくなり、任務に支障が出てしまうリスクを踏まえ、その《真相》は時が来るまで告げないようにしていたのだと、白狼自身は彼女の悲痛の表情と哀しみの目からそれを読み取った。

「……すまない…」

白狼はひとまず落ち着き、席に座って会話に戻る。

「…そうか。…俺の両親には話したのか…?」

「…いえ、でも手紙に書いているように……法光寺は地元のお寺だから、もしかしたら…」

「…!…そうか…だから父さんと母さん……俺が東京に戻る前……あんなこと言ったのか…」

白狼はふと家族の変わった様子に何か思い当たる節があった。それは海上自衛隊を去った後、東京で賃貸を見つけてから地元和歌山県の実家へ三年ぶりに戻ってきた時の両親の様子だった。




〜時は戻り、和歌山の実家に戻りし時〜


・・・
・・


「ただいま!」

「あ、あんた!おかえり!もう心配したのよ!!身体は大丈夫なの!?」

「大丈夫だよ!心配かけたな…母さん」

「もう本当によ!!虐めにあわなかったかい!?訓練とかで銃で撃たれてない!?他の国の捕虜になって命の危険に晒されたとかは!?」

「あ〜もうないから!!虐めはともかく、他の二つはそんなことは滅多にないっての!洋画じゃああるまいし!!」

「虐めはとにかくって…でも…よかった…本当に」(ポタポタ!)

「おいおい、大袈裟だよ母さん…!」

白狼は泣いている母を宥めていると、その後ろにひょっこりと父が現れる。相変わらず寡黙ではあるが、その表情には笑みが見られた。

「…戦から帰ってきたか…我が息子よ!」

「…父さん、また何か戦争系洋画見ただろ…」

「うむ。…まあともかく三年ぶりだ。…立派になって帰ってきたな!以前に比べ、軍人らしくなったのか毅然としとるな…」

「…ありがとな父さん」(ビシッ!!)

「うむ」(ビシッ!!)

その後、久しぶりの母の手料理を白狼は美味しく食べ、その様子に父母は落ち着いて食べなさいと言ったが、自衛隊での癖でつい早食いになると説明し、その分味わって食べるように意識しているとこう説明する。食事を終えた後、白狼は父の書斎にて二人で話をした。

「…白狼、お前これからどうするつもりだ?何か進路は決まっているのか?」

「まだなにも…だが俺は東京に住むことにしたよ」

「…そうか、まあ一度きりの人生だ。お前の好きにしたらいい。自由に生きろ。だがお前に言っておくことがある!」

「…?…なんだ、父さん?」

「自分の身内が突然連絡が途絶え、行方知れずとなってしまった時、お前はどう考える?」

「………」

白狼はその父の発言の意図に、じっくり考察して真剣な眼差しとトーンでこう答えた。

「探す。なにがあっても探す!米粒を見逃さないよう徹底的に!見つからないとすれば負傷、もしくは敵の捕虜となり、捕まったか…最悪…死したとすぐに判断されるからだと、尊敬する上官に教えられてきたから。俺は今でもその人から学んだ事を大切にしているんだ!」

「…そうか。…だが《死》という言葉。……安易に使ってはいけないぞ。…今の若者は命を軽く見ているように聞くが、本当は《死》という言葉を軽視してるのだ。……遊び半分にぞんざいに扱い、《死》そのものを軽んじるあまり、自分では見えた見えてるつもりでも、本当に見えていないところが多い。特に自殺や過労死と、本来《死》の意味というのは一体何の為に?何故来る時に訪れるのか?……そして別れ際に何を託されなくてはならないのか?……その意味を理解していない者達が年々増えてきておる。…昔の事を誇張して言うつもりではないが、昔の人間程、その《死》という体験に多く関わり、涙を多く流したもの、死にたくなくても死ぬしかなかった者達、守りたいものがあって自分の命を犠牲にしてでも死んだ者、その人達を多く見てきたからか、《年の功》と言える人間は客観的に人を見る目を持っているし、その本来の意味を知っておる。彼らはその経験から何を学び、何の為にこの日本の国を繋いできたのか。……それをじっくり考え、お前の道を歩んでいくといい……」

「…わかった。ああ父さん、最後にいいかな?」

「?……何だ?」

「…渡したいものがあるんだ…」

・・・
・・


〜翌日〜

「じゃあ東京に戻るわ!」

「もう行くのかい!?ゆっくりしていけばいいのに…」(ダキッ!!)

「十分ゆっくりできたよ。……つか母さんはいい加減子離れしろっての!!いい歳して気持ち悪いんっだっての!!」

「あ〜ら♪愛しの母さんに向かってその口の聞き方は何なんだろうねぇ〜!?」(ニコニコゴゴゴ…)(ヘッドロック!!)

メリメリメリ!!!

「!?い、いでででででで!!ギブギブ!!」(カンカンカ〜ン!)

「…まあまあ母さんそのくらいで…また長い休みになったら戻ってくるのだぞ、我が息子よ…」(スッ!!)

「…!…おう!」(ガシッ!!)

「「後は…あんた(お前)だけはどうか…無事にずっと元気で…!」」

「…?」

両親との挨拶を済ませた後、一応菊川先生の所へ顔を合わせようと、龍川神社へと足を運んだ。『菊川先生は温泉旅行のため不在です』と巫女さんから言われて、仕方ない、とりあえずといった気持ちで帰りの安全を願って賽銭を入れ、俺はそのまま東京へと帰京した─────

・・・
・・


〜回想終了〜

「そっか…父さん達、知ってたんだろうな……おそらく…!!…うっ…!」

白狼はそう思っているとマスターがコーヒーセットとケーキセットを持ってきてくれたようだ。

「はい、おまちどおさま…」

「あ、ありがとうございます!」

「?……おや?…君泣いているのかい?…千夜ちゃん、何かあったのかね?」

「…実は…」

千夜は事の経緯をマスターに伝え、とても切なそうな表情をしていた。だが年の功というべきか、すくっと普段の表情をし、白狼に優しく語りかけた。

「…そうか、それは残念だったようだね…そこまで悲しい表情をしてるとなれば、その親友さんととても仲が良かったのだね…」

「…無二の友のような存在です…」

「……なるほど。…私にもかつてそう呼べる友人がいたな…」

「えっ、どんな人ですか…?私、知りたいです!…ねっ白狼も!」

「…俺は…」

「ああ、無理はしないで、ゆっくり聞いてくれればいい。…私は昔、当時18歳の時に仙台のパイロットを養成する機関に所属し、後に戦争に参加して適性を受け。…その後《日本海軍》の《ラバウル航空隊》に所属していた《零戦パイロット》だったのだ」

「…!…なっ!?」

「ええっ!!それって…本当ですか!?」

「ああ、写真があるよ…これだ」(ピラッ!!)

マスターはそういうと、カーテンに隠れていたもう一つの壁を見せてくれた。そこにはマスターの若き日の写真と隣には奥さん、上には《零式艦上戦闘機》(通称:零戦)と若き日のマスターがラバウル航空隊の戦闘服を見に纏い、笑みを浮かべた写真があった。その隣には退役記念の勲章が飾られ、額縁で納められていた。

「…確かに、これはラバウル航空隊の当時の写真だ!」

俺が知っている中では、ラバウル航空隊は第二次世界大戦中の日本軍は、ニューブリテン島(現在パプアニューギニア)に集結して、この空域に展開しての戦闘に参加するために創設された日本軍自慢の航空部隊の事だ。ラバウルの戦いで日本軍は南方作戦によるオーストラリアの委任統治領であったニューブリテン島を見事制圧、その後日本海軍の航空隊は南太平洋諸島を確保、その後にトラック諸島の海軍根拠地の防衛・機動部隊の支援を目的としてラバウルに進出したと聞く。その同じ年末に日本陸軍航空部隊が進出し、結果的に重要な拠点とされたと聞いている。だがそれはあくまで最初の段階、後々戦局が悪化するにつれて航空隊の重要性がなくなってきて、少数の残存者・航空機を除きラバウルから撤退したが、その後も残存者や航空機は終戦になるまで偵察活動を続けたと聞いている。

「あれ?マスター、その親友の写真は?」

「ん、あ〜ここだ!」

マスターはその写真を指を指し、白狼と千夜は視線を合わせる。そこには、日本海軍の軍服を見に纏い、その隣には作業服を着た若人が笑顔でお互い肩を持ちながら和気藹々に写真を撮られていた。

「この人が…無二の友…兵隊さんじゃなかったんですね…」

「…ん?後ろは会社か?……!?マスターこの人って!?」

「ああ、友は当時零戦を開発している会社に勤めていた。主に開発を専門にした部署にいた。まあ零戦の設計に携わったのはまた違うお偉い人なんだがね…」

「この人、今はどうしてるんですか…?」

千夜はマスターの安否を聞くと、少し重い口調でこう言った。

「…私が零戦に乗り、戦争にて戦地へと旅立ち。……その終戦後に彼は亡くなったよ。……病死だった」

「!!」

「そ、そんな…!」

「彼は肺炎を発症していて、合併症で髄膜炎を患ったのだ。彼は飛行機が好きでよく話をした…だが彼の亡くなる前の最後の言葉はいまだに忘れないよ。あの言葉で私は無事に帰って来れたと言っても過言ではない…」

そう言い、マスターは長話になるかなと思い、運よく客もいなかったため、一度外へ出て表の看板を準備中にした。そして二人も元へ戻り、当時の友人との出会いのことについて詳細を説明してくれた─────



B. いいえ


《Capitolo・4》
続きを読みますか?






〜時は戻りしマスターの時代〜

第二次世界大戦時代、マスターは零戦に乗り、ミッドウェー海戦、ガダルカナル島の戦いと、様々な戦いに必ず零戦に搭乗し操縦していた。その練度は他の航空部隊の中でも随一で名のしれた腕を持っており、後に一人の部下から影の撃墜王としての異名を残す。マスターが唯一終戦時まで何故零戦一筋で闘ったのか…それは一人の友人との出会いからだった。

🎼Back Ground Music 》》》

 


♪〜君の名はより・デート

〜マスターの高校時代(当時18歳)〜

「ふぁぁ〜!!あぁ〜腹が減ったな〜!」(チリンチリ〜ン♪)

若き日のマスターはあくびをし、自転車に乗りながらベルを鳴らしながら走らせる。

お〜ら〜出せよ〜金出せ〜!!

「ちょ、やめて…痛いって…」

「ん?…あっ!ま〜たあいつらか〜!?」

そこに有名ないじめっこが弱いものいじめをしているのを発見する。当時の若き日のマスターは、学ランに帽子、当時《バンカラ》と言われていたマントを羽織った格好をしていた。そのマントは父のお下がりのものでマスター自身は当時、気に入っていたので常に着込んでいた為、周りからは番長として恐れられていた。

「おいそこの!また弱いものいじめか!?」

「あっ!やべっ番長だ!!おい、ずらかるぞ!!」

「覚えてろ〜」(逃げるんだよ〜)

「…ったく、懲りないな〜、おい大丈夫か?」

「…大丈夫。僕は、だけど…」

「ん?おいこれ…」

マスターは、同年代くらいの青年の下に散らばった紙切れを確認する。何やら設計図が描かれた一枚の紙と、世界の飛行機の図鑑らしき書物があった。マスターは笑みを浮かべ、彼にこう話した。

「…へぇ〜…飛行機好きなのか?」

「…!?」

マスターの問いに、青年は急に笑顔の表情を浮かべ、ハキハキとこう答える。

「うん!!僕飛行機は昔から好きで将来飛行機に携わる仕事をすると決めているんだ!子供の頃からライト兄弟とか読んでて、そこから飛行機が好きになってそれで!!!」

「お、おう、そうか…その話聞く限りじゃあ、お前から本当に飛行機が好きなことは伝わったよ」

「あの〜君は飛行機は嫌いなの?」

「別に嫌いじゃあないな、どっちかてっと空を見るのは好きな方だ」

「おぉ〜じゃあ好きなんだね!!」

「そういや、名前聞いてなかったな、名前は?」

「ああ、僕の名前は榎河(えのかわ)。君は?」

「ああ、まあよく番長とか呼ばれてるけど、俺の名前は空川(そらかわ)って名前だ」

「空川…おお空、それに川!!」

「ん?」

「そうか空川くんか〜よろしく!!」

「お、おう」

マスターの本名である、空川は飛行機好きの榎河とつるむようになった。榎河は空川と同年代でとにかく勉強ができた。飛行機の飛行距離とか燃料の感度でどこまで飛行ができるかなど色々知っていた。榎河の両親のことを聞くと、父は車の整備士らしい。榎河も父の仕事を手伝ったりしていくうちに機械系が好きになり、それがきっかけで航空関係の方に進路を決めているようだった。そしてある日、野原に二人で寝転がって空を見ていた時、榎川が言った一つの言葉が、空川を広大な空の世界へと導いた。

「空、青いなあ〜」

「そうだねぇ。飛行機とかだったらもっと綺麗に見えそうだね〜」

「…なんか女口説くようないい方だぞ榎河…」

「え?何?」

「…はぁ〜何でもない。だがしかし、…日本はまた戦争するのかな…俺の親父やじいさんも戦争経験者らしいし…」

「そうだね。もしそうなったら、日本の空は誰が守るんだろうね」

「そりゃあ、飛行機とかじゃねえの、銃とかつけて戦闘機って名前つけて…」

「もしそうなれば、搭乗員は腕の良い人でないとね〜」

「だな。お、あそこに鳥が飛んでいる!」

「え!?どこ!?」

「あそこだあそこ!」

「あ、ほんとだ!…空川くん目が良いんだね」

「…まあいつも暇があれば空を見てるからな〜!」

「…あ!?そうだ〜!!」

「うぉっ!なんだよ突然!?」

突然榎川が叫び出したので空川は驚いて起き上がった!すると榎河は目を輝かせて空川にこう言った。

「そうだ、空川くん!君、パイロットになりなよ!!」

「えっ!俺が!!」

「うん、それでもしこの国が戦争になったら僕がこの国を守る戦闘機を作って、空川くんが活躍して戦果を上げてこの国を守るんだ」

「…!」

「僕たちでこの国を、空を守ろうよ!!」

「……」

空川は榎川の必死な訴えを聞き、少し冷静にもなった。もし空で戦闘になれば、相手国の銃撃を撃たれて撃墜でもされたら操縦不能になり墜落して死ぬのはわかっている。だが、もし戦争になれば、広大な空の景色を見ることもなく早死になる可能性だってある。もしそうなるんだったら俺は間違いなく後悔するだろう。親が産んでくれた一度きりの人生だ。悔いを残したくない…この目で飛行機に乗って遥か広大な大空を見てみたい…そして、この国を…家族を…そして今生きている時代のその先にある未来を見てみたい!そう思い、榎河にこう答えたい。

「…ったく、変な飛行機作りでもしたら承知しねえぞ!!」

「!!えっ!ってことは…!」

「ああ、その依頼、引き受けるぜ!どうせなら撃墜王を狙ってやろうか!!」

「おぉ〜!!空川くんならきっと出来るよ!よし!交渉成立だ!!」

「ああ、俺と!!」

「僕で!!」

「「あの大空のように高く、誰よりも上に行くんだ!!!!!」」

・・・
・・


その後空川は榎河に勉強を教えてもらい、高校卒業後、仙台にある地方航空機乗員養成所へと進学し、そこで軍人のパイロットとしてのスキルを徹底的に叩き込まれた。訓練中、空川は血の滲むほどの過酷さを感じたが、それでもあの大空の中を飛べると思えばなんてことはなかった。一方榎河は東京帝国大学の航空学科に無事合格し、そこで航空に対する分野を学び、空川を空の世界に連れていくことを目標に勉学に励み、あっという間に年月が過ぎ五年後の歳月が流れた。

〜ある会社〜

「ここか〜あいつがいるのは…」

あれから五年が経ち、空川は航空養成所を卒業し、その後日本海軍の航空隊の下士官兵に所属している。榎河も大学を無事に卒業し、現在は愛知県にある航空研究の会社にて戦闘機の開発担当として勤務している。今日は新しい戦闘機の試験飛行であり日本海軍の名を受け、その会社を空川が視察に訪れていた。会社内を歩いていると、五年の歳月になって、あれから大人になったもう一人の空を夢見る同士が姿を現した。

「やあ空川くん!」

「お!榎河!!」

「五年ぶりだね!」

「ああ、お前背が伸びたな〜。驚いたぞ!」

「ああ…遅い成長期ってやつかな…空川くんもその軍服様になってるよ。昔のバンカラも良いけどカッコいいね!」

「ありがとよ。で、いよいよ出来たか…」

「ああ、いよいよだよ。設計図は違う上のお偉い人が書いたけど、その分期待に応えるように僕が開発作業員としてメンテナンスして調整しておいたから!」

倉庫に入り、前にはシートで覆った機体がそこにあった。翼は並行でフォルムは飛行機らしく、空を見上げたフォルムをしている。

「…楽しみだな、今日は俺がこいつの試験飛行の搭乗員か」

「緊張してる?」

「まさか、楽しみすぎで武者震いしてるよ…」

「ははっ、そこんとこ変わんないね、君は…ゲホッ!コホッ!!」

「お、おい大丈夫か榎河!?」

「う、うん最近無理していたから疲れが出たんだと思う。…最近咳き込むことがあるんだ…」

「そ、そうか…まあ無理すんなよ。休める時は休んどけ」

「そうだね…さあそろそろ時間だ!」

「ああ、行こうぜ」

〜飛行場〜

「ではシートをめくります。」(バッ!!)

「こ、これは…すげえ…」

空川はシートを外された飛行機を見る。それはフォルムが美しく、全体が白のボディで翼部には日本の象徴である赤丸が書かれている。空川は全身に鳥肌が立ち、今からこれを操縦するのかと思うと、胸が躍るようで熱くなっている。

「この飛行機の機体の名前は何というのですか?」

「零式艦上戦闘機二十一型(通称:零戦)という機体だ。最高で500キロは出ると予想されている!」

(零戦か!…いい名前だ!)

「準備はいいかね、空川下士官!!」

「はい!!」

強く空川は返事をすると、零戦へと乗り込んだ。座り心地は良好。長時間の対空戦でも戦えるようにきちんと配慮されている。これを設計した人の情熱がこれでもかと言うほど伝わってくる。空川は笑みを浮かべ、離陸体制の準備に入る。

「準備はいいか!?」

「はい!いつでも準備できています!」

「よし、計算上によると零戦の離陸距離は最低でも600m以上とされる!健闘を祈る!!」

「では…飛行準備用意!!」

そう言われ、空川は零戦のエンジンを起動する。プロペラが回転し、エンジン音は良好でプロペラ音も特に異常はない。あとはもしものためのパラシュートが起動するかだ。『いやその心配はない!榎河が自信を持って勧めてくれた機体だ。心配はいらない』と空川は自分に言い聞かせる。空川は離陸に備え、スロットルレバーを調整してエンジンの出力を上昇させていき、速度を上げていく。

「現在200m通過!」

「よし、あげていくぞ!」(ブーン!)

「400m!」

エンジンの出力が上昇し目標の離陸距離が近づく。十分な助走が出てきたため、いよいよ零戦は離陸体制に入る。

「600m!」

「よし、発艦始め〜!!」(ブーーーーーン!!!)

「離陸完了確認!!」

空川を乗せた零戦は空高く宙を翔んでいた。飛行状態はとても良好で、異常は見つからず、優々と空と一体化し風に乗って飛んでいた。

「と、飛んだ。飛行状態も安定している…今のノット数は200で370.4キロ!!、今までの機体で安定してて早いかもな!」

「ほぉ〜早いな。よし次は300ノットを出す!指示を出せ!!」

「はっ‼︎」

(…どうだい、空川くん、僕が設計図をもとにして開発した零戦…これなら戦争が来ても戦えるだろ…)

「…よし次は300ノットを目指すぞ!」(ブーーーーーン!!!)

「おお、急上昇している!さらに速度を上げています!」

「よし、急降下して、速度を測定する。指示を仰げ!」

「はっ‼︎」

(…すげぇ…もう500キロは出てるんじゃないか!こんな戦闘機は生まれて初めてだ。乗っていて気持ちがいい!!)

「降下してくるぞ!!退避準備!!」

ブーーーーーーン!!

「…これは失敗したら大惨事は免れない!必ず成功させねば…だがありがとよ!榎河、そして零戦の設計者さん!俺は今までの人生の中でこの零戦に乗ることができて、二人に感謝の意を込めたい…!」

「…よし、測定開始!!」

「…もうすぐだな…よし立て直すぞ!」

空川は機体の傾きを修正し、地上へと猛スピードで通り抜けるように準備し、そして機体は地上と並行になる体制となって、轟音となり一気に通り抜ける。

ブーーーーーーン‼︎

「「「「!!」」」」

「よーし!かなりスピード出てたな!!だけどあの風速だ。ちゃんと記録取れてるかな…」

「な、何キロだ!?」

「ただいまのノット数305ノット!時速に直すと564.86kmです!!」

「よし!!終了だ!着陸指示用意!!」

「はっ!!」

「おっ、どうやらこれで今回の試験飛行はおしまいか…また乗る機会があるだろうし、戦場になればよろしくな。零戦二一型!」


その後空川は着陸し、飛行時間の距離、旋回能力、速度等どれも基準を満たしているため合格とし、正式に零戦は日本軍公認の戦闘機として採用された。空川は榎河とそしてこの零戦の設計者の人と握手をした。第一印象は丸メガネが特徴で物腰が柔らかい人であり、私が設計した飛行機を褒めていただき、誠に光栄です。美しい飛行機を作りたかったのでここまで褒めてくれると設計した甲斐があります。また、あなたの操縦技術、とても美しい曲線を描いていました。これからの活躍を心から期待しています、と操縦技術を称賛し、とても清々しい気持ちにさせてくれる風が立つイメージを持つ設計者だった。試験飛行を終えた後に会社内の広報部から一枚写真をということで空川と榎河との二人での写真が撮られ、これが後に壁に飾られていた思い出の一枚となった。その後、米政府から圧力をかけられていた日本軍は当時アメリカ軍の領土であった真珠湾を攻撃し、いよいよ太平洋戦争が勃発し、空川はこの零戦の搭乗要員の主力として数多の戦場を飛び回った。特に空母部隊が苦戦したのはミッドウェー海戦であり、この戦いで正規空母の一航戦の赤城、加賀、また二航戦の蒼龍、飛龍が再起不能となり、空母精鋭部隊が一気に壊滅寸前となる事態に陥った。その後、航空部隊の拠点はラバウルへと移され、航空部隊は次の作戦を指令されるまでの間、母国への一時帰国を命じられる。そして空川の方は戦場で活躍し、上官から功績が認められ、下士官から少尉に任命されるという昇進があった。だがこの後、空川の運命を動かす、辛い運命が待ち受けていた。

〜とある病院〜

「榎河…大丈夫…か…!?」

空川は電報で榎河が肺炎で入院したと聞き、一時帰国後、すぐに入院している病院を訪ねに行った。病室には、電報通りベットに寝込んでいた榎河がいた。だが症状は思っていたより深刻で、顔色もあまり良くなさそうだと空川は感じていた。榎河は空川に気づいたのか振り向くと腕を上げていた。空川は、その様子を見て近くまできて顔を合わせて久しぶりの再会を祝うかのように面会をした。


「ああ、空川…くん…この通りさ…実は僕…肺炎なんだ…それ…も厄介に…細菌が転…移し…て髄膜に…も炎症が…合併し…てる…らし…ごほっ…くて、髄膜炎ら…しいんだ…ごほっ…」

「‼︎…そ、そうか、試験飛行の時も咳があったな…もしかしてあの時からか?」

「…あれか…ら、さらに…ひどく…なってね。開…発作業…中に喀血…の症状…が出て…きて、この様だ…もう、最近に…なって…足も動かなく…なってね…」

「‼︎」

「だけ…ど、まだ口は…動く。だか…ら、君に…伝えたいことが…あって…ね」

「…‼︎縁起でもないことを言うな!俺だってあれから幾多の戦場の対空戦で活躍して…下士官から少尉まで上がったんだ…まだ俺もお前も…これからなんだ…だから…よぅ…」(ぶわっ!)

榎河の弱々しい声を聞いて、我慢出来なくなった空川は、涙を流しながら榎河の手を握り、元気付けようとした。だが榎河の手は冷たく、血の通いが悪くなっており、呼吸も浅くなっているようだ。だが榎川は、空川の今まで自分が開発してきた零戦を自在に操縦して身についた手を握られ、自分の開発作業に携わった零戦が空川の手によって活躍していることを知り、報われたのか安堵な表情でこう伝えようとした。

「…君の為…に開発…した零戦があるん…だ…おそら…く、次の作戦で…使用…され…るはず…尾翼に…書いてない…下の方に…赤丸の目印をつけて…る。僕の…ゲホッ…自信…作だ…」

「いいから…もうしゃべるな…!俺は…そんなことをして勝つつもりなんか…」(ポタポタ!)

「…もう、日本の戦局は…ごほ…思った…以上…にごほっ…悪い…ほうに…はぁっ…来ている…いずれ上…も捨て身…の作戦…を決行して…く…るだろう。…だか…ら。君は特攻…に屈せず…生きる…んだ…」

「馬鹿…!俺は自分から命を落とすことなんか…誰が…俺は…俺の実力で…敵国と戦う!…それに…五年前に一緒に約束したじゃないか…!」

「ああ、懐か…しいね…あの…大空のよう…に高く…誰より…も上に…行く…んだ…って…」

「…覚えてるんじゃあないか…だから…!…うぅ…ぅ…!!」

「…最後…の時は…せめ…て君と…一緒に…ゼロに…乗っ…て…君…と………………」

榎河は伝えることを伝えて安堵したのか目を閉じ、意識を失ったかのように眠りについた。

「‼︎…おい、おい‼︎榎河!…目を覚ませよ!頼むから…ぐっ…!だ、誰か!看護婦はいないのか!?」

「…‼︎先生、患者の意識が‼︎」

その後、医師の診断で榎河は髄膜炎による意識喪失を起こし、植物状態に近いらしい。このままではもう長くはないと医師からも宣告される。空川は、もしこの日本が手に負えなくなり、俺たち搭乗員を特攻などで使い捨てにし、犠牲を増やしてでも勝利を優先するようならこちらにも考えがあると意志を固くし、上官の命令に背くことになろうとも、仲間同士で無事に生きて必ず帰ると。榎河が残り少ない命を使い教えてくれたことを無駄にしたくないと心に決め、空川は病院を後にして歩き出した。そしてまた戦いの火蓋はもうすぐそこに迫っていることをーーー



B. いいえ


《Capitolo・5》
続きを読みますか?




🎼Back Ground Music 》》》



♪〜永遠の0より・メインテーマ

そして、戦争は間も無く終盤へと突入した。榎河の予想通り、日本軍は空川を含む航空隊に特攻を命じられた。もし断れば重罪、軍法会議ものだと上官に圧を掛けられるも、空川はその命令を全て断り、自分達の力で作戦を練り、特攻せずに敵艦隊を爆撃する作戦を取る。現に他の航空部隊、主に大卒出の優れた者達も特攻によって何人もの尊い命が失われた。この犠牲は何を恨めばいいのかと空川は思ったが、雑念が入れば今度は自分がやられる。雑念を押し殺し、空川は覚悟を決めて戦場に行く。彼の搭乗している零戦五十二型乙は榎河が意識を失う前に伝えた自慢の零戦であり、戦闘力、移動距離、機動力、旋回能力も申し分ない。後は自分達の実力、練度を考えた上で爆撃作戦を決行し、敵国と対抗する。だが終盤に差し掛かり、戦闘機の機動力は零戦を大きく上回り、率いていた仲間が何機打ち落とされたのかは数え切れない程だ。敵国の正規空母や戦艦も以前よりも強力なものになり、対空や制空権も圧倒的に不利な局面になっている。

〜ある海域での海戦〜

「Think and shoot down Zero Fighter!」
(観念して撃ち落とされろ零戦!)

ブォーーーン!!

「……!!っちぃっ!」(…くっ、早いな…相手の戦闘機、いつの間にか後ろに回り込まれる…練度も高い。他のやつらもこいつらと敵対して何人かやられた。流石に魚雷を積んだままでは機動力は落ちるか…)

ダダダダン‼︎

「‼︎」

そう思っていた矢先、敵空母からの機銃の流れ弾が来る。空川は流れ弾をかわしながら、目標の相手の空母へと爆撃にて着弾しようするも、相手の対空対策が万全なのか前に進めない。まるで航空母艦という名の鉄壁の要塞だと言えばいいのか、ここまで苦戦を強いられるのはミッドウェー海戦以来だと空川は手に汗を握りしめ、スロットルレバーを動かす。

「Don't do that Zero Fighter. But we can't lose!」
(あの零戦、やるな。だが我々も負けられない!)

ブーーーーーーーン‼︎

空川が敵の戦闘機と空母に気を取られていたらもう一人の空川率いる航空部隊の零戦パイロットの生き残りの応援が駆けつけた。相手の対空射撃に耐え切ったのはどうやら彼のみのようで、他の仲間はあえなく散ってしまったようだ。

「くっ、空川少尉殿!俺が行きますので、敵空母をお願いします!」

「…わかった!気をつけろ、敵の戦闘機、練度は尋常ではないぞ!…必ず生きて帰ってこい!」

「はっ‼︎」(ブーーーン‼︎)

そう言って、空川の部下は敵の戦闘機を誘導し、空の彼方へと姿を消し、空川は敵空母へと一気に詰めて行こうとしたが左翼に流れ弾が当たり、少しバランスがよろけてしまったが熟練した操縦技術で機体を立て直した。そして今までこの敵空母の流れ弾や敵の戦闘機にやられ、特攻を出来るとこまで届かず、無念な死を遂げた優秀な隊員の死を無駄にしてはならない、そして…この自慢の零戦の開発に携わった高校時代からの親友榎河のためにも、命の重みを知った零戦パイロットとして意地と覚悟を決め、さらに敵空母へと接近しようとする。

「Zero fighter is approaching!」
(零戦が近づいてくる!)
「I'm loading bombs! Shoot it down quickly!」
(爆撃を積んでるぞ!早く撃ち落とすんだ!)

「…あいつらはいつもここでやられていた。近づけば近づくほどあの敵空母の機銃の着弾の危険が出てくるんだ。…なら…!」

ブーーーーン‼︎

空川の零戦は翼部を右下に傾斜し、少しずつ上昇させて空高く上へと天へ登り、機体を反転させて、敵空母へと突入を図る。

「…よし、ここで急下降してあの忌々しい敵空母へと着弾させる!!…覚悟しろ!」

「It's empty! Shoot it down!」
(ガラ空きだ!撃ち落とせ!)

敵空母の機銃に放たれる弾幕が零戦へと狙いを定める。だがそれでも空川はスピードを決して落とさなかった。コックピット内の空川は、冷静になり敵空母に接近し、距離を積める。だが接近中に機銃の銃弾が空川の左肩を貫き、激痛が走り出血もひどい状態であるにも関わらず、それでも接近していく。

「…ぐっ!!…まだまだ…絶対に俺は…!」

「Farewell! Zero Fighter」
(さらばだ!零戦)

無数の弾幕が空川の乗る零戦に襲いかかる。だが、空川は負傷している左肩を動かし、旋回してフルスロットルで突入し、敵空母との距離が、約200メートル地点まで来た。空川はついに敵空母の機銃の弾幕を突破し、ここというタイミングで爆撃の投下を決める。

「よし!!投下‼︎」(シャッ!!)

投下して10秒後、敵空母から轟音が鳴り響く!!空川は見事誰もなし得なかった敵空母への爆撃を決めた。結果的に敵国の脅威である空母を大破させることに成功し、撤退を余儀なくされる。だがその時、空川の負った左腕の負傷は思ったよりひどく、操縦中、ふらつきやめまいのような貧血に近い症状が見られた。そして…手の握力も少しずつ落ちてきた。

「…くっ思った以上に出血がひどい。せっかくあの空母に致命傷負わせたというのに…まずい意識が……!?」

意識が朦朧としている時、横から零戦が見えた。だがその零戦には見覚えがある。それは、空川が初めての試験飛行で搭乗したあの白の零戦二十一型だった。搭乗員の姿は良く見えないが、零戦二十一型はこっちだと言わんばかりに、進むべき進路に飛行している。空川はまるで流れる川のように後を追った。そしてしばらく飛行していると、もうすぐ拠点としているラバウル航空基地が見えてきた。そして空川は再度白い零戦二十一型の方を向くが薄々と姿を消そうとし、乗っている搭乗員の姿を見て、空川は驚愕した。零戦二十一型の搭乗員は空川によくやったと言わんばかりに敬礼し、風に吹かれるようにその姿を消した。そして無事にラバウル基地に着陸し、零戦の座席にもたれかかり、空川は呟いた。

「意識が朦朧として見えた幻影とはいえ…少しだけだが、約束通りお前と誰よりも広大な大空をかけれたな…ありがとう…ゆっくり休めよ…榎河…!」(ビシッ!!)

そう言い、空川の目線は視界が暗くなり、意識を失った。そしてしばらくすると目が覚め、気がつくとそこは日本軍専門の病院で、近くには率いていた部下一人が安堵したかのような表情をしていた。

「目が覚めましたか!空川少尉殿!」

「…ああ、お前か、よく無事に帰ってきたな!あっ…!いてて…!!」

「ご無理を…その左肩…どうやら複雑骨折になっているそうなのでしばらくの療養が必要です!」

「…そうか。…だがお前だけは無事で…本当によかった。よく生き残ってくれたな!」

「はっ!命令通りに無事帰還しました!しかし、私もあの敵の戦闘機の追跡を振り切るのは苦労しました。後、敵空母への爆撃を成功させるとはお見事です!」

「ああ、もしかしたら、爆撃もできずに犬死にしたかもしれなかった。自分でも驚いた。この左肩の骨折だけで済むとは…」

「ええ、本当に……空川少尉殿が敵国の空母の弾幕にやられたのではと思いましたので…私は…!本当に心配しました!!」

「ば…馬鹿野郎!早々俺がくたばってたまるか!〜あ〜いててて…傷に響く…!」

「無事に帰還されたことに誇りを思います!特攻していざ気よく死ねという上の命令を背いたとはいえ、この先誰が否定しようとも…私はあなたを認めます!いよっ!…影の撃墜王!空川少尉殿!!」

「…影の撃墜王って…まあいいか…!」

空川が入院生活を送るうちに、戦局はますます悪化し、ラバウル航空隊はソロモン方面へと基地を移されたが、特に重要な役割とされず少数の残存者や航空機を除き、ラバウルからの撤退を余儀なくされた。だがその後も生き残った者や航空機が終戦に至るまで偵察などの活動を続けたと聞いている。そして、結果的に日本は敵国に降伏し戦争に負け、終戦を迎える。それと同時に電報が届き、榎河が息を引き取ったと聞き、本当の意味で空川の壮絶な空翔ける広大な戦争の日々は終焉を迎えたのだった─────

・・・
・・

B. いいえ


《Capitolo・6》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



〜時代は進みマスターの喫茶店〜

「…と言ったようなものだ。今となって生きていられるのは友の開発した自慢の零戦と意志、あとは何より慕ってくれていた仲間がいたことじゃな…」

「……」

「……」

白狼と千夜は昔のマスター、空川の友榎河との出会いから始まった零戦の物語、ラバウル航空隊での戦闘のストーリーを振り返り、戦争の恐ろしさと犠牲になった者達、だがその中で死した者達が、誰かのために意志を繋ぐ事の大切さについて。とても貴重なことを今日ここで学んだように実感する。千夜はこう話した。

「…あの、マスター…今でもその榎河さんのこと、思い続けていますか?」

「…ああ、当時の私は、息を引き取ったと電報で聞いた時、私はとても落胆した。だが彼が苦しまず、安らかに旅立ってくれたのなら私は一向にかまわん…それに幻影とはいえ、約束通り…あの広大な空を一緒に飛べたのだ。悔いはないよ。今も決して彼と過ごした日々を忘れたことはないよ」

「…そうですか」

千夜はそう聞くと安心したのか安堵な表情をしていた。彼女は看護師である。亡くなった後の人を思う感情にどうしても敏感になるのだろう。そんな時、白狼がマスターにこう問いかける。

「…今の言い方で言えばですが。……その零戦、マスターとその榎河という開発者がつないでくれたのかもしれませんね…その人に強い愛着や想いがあれば、物に意志が宿ると言いますし…」

「フッ、その通りだね。その後、敗戦ということもあり、私は軍法会議を免れ、またこれといった非難を受けなかった。戦後の日本は貧困な日々が続き、数々の苦労もあったが、今こうして喫茶店を開いて、妻もできて、孫もできた。こんな日々を過ごせるとは夢に思わなかったよ…ただもう私も歳だ、いつか必ずこの世に別れが来るだろう…別れとは生のある者の宿命だ。それを君達には忘れて欲しくない…むしろ知っておいて欲しい。君達には未来があるからね…頼んだよ」

「「は、はい!」」

「…そうだ、白狼くんと言ったね君?」

「は、はい!」

マスターは白狼の姿を見て真剣な表情をして語りかけ、その後笑みを浮かべ、このように語った。

「君も、若いのに共に誓い合った親友を亡くすという喪失体験をした。それはとても辛い経験だ…だが君はまだ若い!これからも日々を過ごしていくうちに大事な人が出来て、色々悩む日々があるだろう。だが心配するな。その人を大切にするという気持ちがあればどんなに離れていてもつながりがある。それはかけがえのないもので君の人生で最も大切な宝なのだ。…それを忘れないで日々を過ごして欲しい!…良いかね?」

「は、はい!…でも何で俺にそんなことを?」

白狼は、マスターにこう答え、マスターは笑みを浮かべ、このように申した。

「…まるで、昔当時若りし広大な空に憧れていた自分と面影が似ていてね…それに元自衛官なのだろう?……学んだ事、しっかり身についているかい?」

「はっ!!自衛官として学んだ事、経験は一生忘れません!…ですが、辞めた自分はこれから前を向き、元自衛隊員としてではなく、《二ノ宮白狼》という一人の男の人生を歩もうと思います!…親友ロベルの分まで…精一杯生きます!! 」(ビシッ‼︎)

「うむ、期待しとるよ!」(ビシッ!)

二人はお互いに敬礼をした。マスターの方は高齢になった歳でも未だに身体に染み付いているのか、ラバウル航空隊独特の敬礼をした。その姿はとても凛のある姿勢だった。その後に今後の健闘を祈るかのように握手を交わした。


カランコロン〜♪

すると店内のベルが鳴り響いた。マスターはお客さんかと思い、ドアを確認すると、そこには家族が来客し、杖をついたマスターの妻とその娘と孫のようだ。後ろには、マスターより少し若いが円背気味の高齢男性の姿があった。

「おじいちゃ〜ん!遊びにきたよ〜」

「お〜孫よ!久しぶりじゃな!よ〜しよしよしよし!」

「ちょっ、おじいちゃん髭痛い〜!」

「もう、本当にお父さんが好きなのねこの子ったら…」

「ははは…でもホント元気な孫やわね〜昔のあんたも同じくらいやんちゃやったわいな…」

「ちょ、ちょっとお母さん!」

「マスター殿の家族は…やはり活発な子が多いですな〜」

「はは、まったくだよ!」

「あ、そういえば店の看板準備中になっていましたよ。どうかしたのですか?」

「ん?ああ、ワシのちょっとした昔話を未来ある若者に話をしていたのだよ。お〜い」

「あ、どうも初めまして!」

「こ、こんにちは!」

二人はマスターに呼ばれ、部屋を後にし、喫茶店の入り口に招かれた。するとマスターの孫が目を輝かせて千夜の方を指差す。

「あ〜っ♪!!千夜お姉ちゃんだ〜!!」(キラキラ!)

マスターの孫は千夜の方に寄ってきて嬉しそうに抱きついてきた。

「あら!孫さんも来てたのね〜!」(なでなで!)

「えへへ〜♪」

あまりにも人懐っこいところが可愛げがあるのか、千夜はマスターの孫の頭を優しく撫でる。

「ほぉ〜マスターの孫さんと知り合いか?」

「ええ。確か二年前にこの子がたまたまこの近くの道で転んで怪我をしてるの見かけて、手当てをしたらすっかり懐いちゃって…その時にここの喫茶店を知ってマスターと知り合ったの」

「…そうだったのか。よっ、さすがは看護師だな!」

「あら、こういう時『お前にも優しい時があるんだな〜』とかいうんじゃないの?」

「…んなこと言ったらお前の必殺の手刀が飛んでくるだろう。今更同じ鉄は踏まないぜ〜!」

「あら残念」

「う〜ん、ねえねえ、もしかしてその人が千夜お姉ちゃんの恋人の兵隊さん?」

「え、ええっ!!///」

「ち、ちょっ!!///」

「あはは、二人共顔赤い〜♪」

「あらあら〜そうなの〜!?ふふっ!」(男の子はまだ若いのに苦労しているのか、髪の毛の色が白いのね〜♪)

「あ〜その反応だと互いに、よほど強くて両思いで好きなんだね〜いや〜若い若い〜のう。うちの旦那と初めて会ったことを…思い出すわいに〜」

「婆さんや〜わしも気持ちだけは…若いよ〜」(キリッ!)

「おい貴様…何をさりげなくマスターである私に差し置いて妻を口説こうとしておる…出禁にするぞ…!!」(グキ!ゴキ!…ゴゴゴゴゴ!)

「あ、これまた無礼なことを…ワシには先立たれた妻がいなくなってついですな〜…いやはや失礼しましたね〜空川少尉殿…」

「!?なっ!その名前と階級呼び…!」

「えっ!?じゃあこの人…」

「…はぁ〜家族がいる前で話したくないのだが、そう…このジジイは、元私の部下であの戦場を生き残った同士の一人だ。たまにこうやって店に来てはコーヒーを飲みにくる。たまに孫と遊んだりするんじゃ…オセロで。しかもボロ負けと来てな、接待が上手いのなんのって!」

「あ、どうも…ジジイです。今でも空川少尉殿の孫さんの相手をしております故」

「…は、はあ〜…これは…」(あんなこと言われてもキレないのね…)

「どうも……」(年の功ってやつだな)

「まぁとにかく見ての通り、激動の時代を乗り越えた私は、今こうして幸せな家族やその他の大切な人に囲まれておる。…君達も生きていればこれから出来るのじゃ。もちろん人生は良いことばかりではない、辛いことも多い。だからこそ生きているという実感があるのだ。だから一度前を向いて生きてみなさい。君達には、必ず心の中に大切なものは何かと考える力があるのだから!…これからの活躍を大いに期待しとるよ!」

「!!……はい!」

「今日は貴重な話を聞かせていただき、ありがとうございました!!じゃあ俺達はそろそろ…」

「またいつでもいらしてくださいね〜♪…お父さんったら、最近寂しいことが多いのか…ねえお母さん?♪」

「ええ〜孫が来なくて寂しいよ〜って泣きついて仕方なくってね〜…ホント〜にぃ〜…♪」

「こ、こらお前達…!余計なことを言うな!///」

「空川少尉殿〜もしかしてマザコンの孫バージョンでいうマゴコ…」

「あぁ〜んっ!?」(ギラッ!)

「あ…なんでもありませぬ。空川少尉殿…」

「おじいちゃん…怖い!!」(ビクビク!)

「(・-・)」(ガーーーン!)

「あれま、固まったわね〜…」

「仕方ないですね〜…私が代わりに店番をしますね〜お父さん!」

マスターの娘は身支度をすると、妻の方は二人を出迎える。

「では二人とも気をつけてのう〜最近、この付近で不審者がウロウロして物騒らしい〜から、そこの昔の主人に似たハンサムな若い方、しっかりボディ〜ガ〜ドしてやるんじゃよ〜!」

「了解しました!」(ビシッ!)

「ほぉ〜う、兵隊さんじゃったか…どうりで昔の主人とそっくりなんじゃな〜それは頼りがいがあるの〜う、では、お行きなさいな〜…」

「じゃあ開けるね〜♪えいッ!」

ガチャ!

カランカラン♪

そう言うと孫が気を利かせて店のドアを開けた。そして手招きをしている。

「じゃあ俺たちはこれで」

「すみません長い時間…店で屯してしまい…」

「いえ良いのですよ!またいらしてくださいね!」

「千夜ねえちゃ〜ん、あと恋人の兵隊さ〜ん!まったね〜♪」

「!?」

「なっ、ちょ、ちょっと!///」

「こ〜ら、茶化さないの!」

「む〜、は〜い!」

「…はぁ〜さて行くか!」

「……ええ///」(ドキドキ…!)

・・・
・・


白狼と千夜は喫茶店を出て時間を確認する。するともう16時になっていた。マスターの話に夢中になって長々と話を聞いているうちに時間を忘れてしまったようだ。そろそろお腹も減る頃だと感じた白狼は千夜にこう問いかける。

「ちょっと早いけど、飯でも食べにいくか?」

「……」

「ん?お一い!…千夜〜?」

白狼は沈黙する千夜に声をかけるが返答はない。だが意を結したのか、千夜は白狼に微笑みこう問いかける。

「…ねぇ…白狼…!」

「?……何だよ?」

「…ちょっと…お互い真剣な話をしない?」

「……え?」







《To Be Continued…→》  
 
 
 

 
 
 


第2話:プロローグ〜白狼編 Part2
《完読クリア!!》



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