GiorGiaNo

 
《Paradisoシリーズ〜導かれし七人の現世人の冒険譚》


A.:GiorGia 

〜第一章:白狼と誓いの儀礼刀〜


第1話:プロローグ〜白狼編 Part1


親友ロベルとの誓いで海上自衛隊に入隊し、満期にて退職した元隊員がある日を境に現世にて突然の死を実感する。ユートピアの世界【Paradiso】へ旅立つも、悲しみやその他の雑念に振り回される。それでも立ち向かい、生きようとしていく現世人【Hux・row】────現世では《二ノ宮白狼》として生きていた男が体験した前日譚の物語である───────




《Capitolo・1》
物語を開始しますか?

🎼BackGround Music 》》》


♪〜

明け空告げる海を行く
歓喜湧き立つ朝ぼらけ備え堅めて高らかに
今ぞ新たな日は昇る
おお堂々の海上自衛隊海を守る我ら〜♪


「……もう、この歌も聞けなくなるな…」

海上自衛隊歌《海をゆく》の一番が聞こえる中、基地内で荷物をまとめる《二ノ宮白狼》は、この三年間を色々感傷に浸っていた。 教育隊から門を潜った者として────基礎訓練、実施訓練、一般教養、法律の学習、戦略について学び、現場に赴く事となれば、初めての《航海演習》が実行され、早朝に仲間を総員起こしして甲板をくまなく清掃し、ソナーやら機雷、魚雷の管理・整備の任務に従事してきた。 辛い日もあったがこれも日本の領海を守る必須なスキルでもあるし、海外での海の問題が起こりし時にも、迅速に、いつでも出動できるようにと常に考え、想定して動く重要性を彼自身は、ここ《横須賀基地》で学んだのだ。

ザザ〜………

そんな日々が続き、静けさな海の音をこの耳で聞きつつ、今日で俺はここを去る時が来たようだ。俺は自衛官候補生で、そこから曹候補生の試験を受ければ昇格できるのだが、自分は残念ながらその試験に落ちた。つまり、昇格が出来なかったのだ。元々勤務成績は他の隊員と比較しても、そこまで高くなく、任務中も自分が足を引っ張ったところもあり、周りに迷惑をかける事がしばしばなのは日常茶飯事。勉学も疎かにしていたから当然とも言えると俺は実感していた。上官からは在籍期間を延長し、また再試験は出来る。…とは言っているが自分の時間には限りがあることを伝え、丁重にお断りした。そう考え事に耽っていると気がついた時には基地の外が見えていた。

ザッザッザ………ズザッ!

「いよいよか…」

意気込みを思い立て、噛み締めながらも胸を撫で下ろしつつ、基地の外まで歩もうとしたその時だった。

「二ノ宮海士長、待ちたまえ」

「!!」

誰かから声をかけられたので振り向くと、黒の制服に身を結み、《水上艦艇き章》、《潜水艦き章(ドルフィンマーク)》、《防衛記念章》、その他数々の功績が物語っていると言っても過言ではない勲章を身につけし、厳格かつ紳士の雰囲気を持つ上官が立っており、白狼は思わずハッとした声で返事をした。

「…三橋三等海佐!!」(ビシッ!!)

白狼は素早く敬礼したのを確認すると三橋と名乗る三等海佐はゆっくりこちらへ歩み寄った。

「もういくのか?」

「はい。長居は無用なので」

「そうか、ご苦労だったな」

「はっ。今までお世話になりました!」

「うむ。ああそうだ。君に渡すものがあった」

そう言って、三橋は胸元から何か包んだものを取り出し手渡された。少し重く大きく布で包まれていたがこの感触には覚えはあった。

「開けてみたまえ」

そう言われ、中身を確認すると、一本の十手だった。それを見て白狼はこう伝えた。

「!?これは、私が広島の呉教育隊に配属されたときから所持していたものであります!…当時紛失して困っていたのに……!!三橋三等海佐!!…一体どこでこれを!?」

白狼の焦ったかのような問いかけに三橋ははっはと笑い、こう言った。

「君の言ったように呉教育隊基地内のロッカーの中に入っていたらしいのだよ。処分される前に私が預かっておいた。君の大切な友人からの贈り物なんだ。忘れ物はだめだよ!」

「はっ。申し訳なく思います!!」

「ああいいよ。だが、君はそれをとても大事に使っていたようだな。君は中学から居合を学んでいたらしいから、その名残を今でも忘れてはいないか?」

「はい。忘れはしません!」

「そうだろうな。君が教育隊に在籍していた時、余暇時間に人の目を盗んでその十手で素振りをしたり、護身術を独学で熱心に取り組んでいた姿を今でも覚えているよ」

「」

白狼はそれを伝えられ、見られていたのか〜!!とすごく発狂したくなる気持ちになった。例えで言うなら母親に隠していたピンクの本が見つかり、机の上に堂々と置かれているくらいの恥ずかしい気持ちになった。

「はっはっは。まあさておき。…《二ノ宮海士長》!…これからの進路は決めているのかね?」

「いえ、ですがこれからのことは自分の足でゆっくり決めていきたいと思います!…それに一度居合道の仲間とも会って色々伝えたいことがありますので!」

白狼はその旨を上官である三橋に伝え敬礼した。その姿勢に敬意を表し、相手も綺麗に敬礼を返す。

「期待しているよ。後、彼らにもよろしく伝えておいてくれると私は嬉しいよ」

「はっ。失礼しました!」

そう言い残し、基地のゲートを潜ろうとしたその時だった。

「止まれィ!!」

「!!」

突然、三橋三等海佐は強く声を張って白狼を静止させた。

「二ノ宮海士長!!君は出入の警備担当にまず出入記録簿に記入して許可を得てから門を出るようにという教えを忘れたのか!?」

出入担当の警備隊と三橋三等海佐の冷ややかな視線が突き刺さり、冷や汗が出そうになった。

「失礼しました!!」

安心しきっては危うく最後の最後に服務事故の処罰を受けるところだった。そう思いながら白狼は出入記録簿にきちんと記入し、許可が降り、ようやく白狼は門を出た。立ち去る白狼の後ろ姿を見て、三橋三等海佐は安堵の息を吐き、それと同時に彼がここを立ち去り、寂しそうな気持ちにもなった。

「…ふう、行ってしまったか。彼がいなくなると、ここも寂しくなるものだな…」

「三橋三等海佐殿!…失礼ですが二ノ宮元海士長のこと、何か知っているのですか!?なんか顔見知りというか、昔から彼の事を知っているかのような親しみにも近いものを感じましたが…」

「別になんでもないよ。さ、任務に戻って!」

「はっ!!」(ビシッ!)

「……」(…ふむ…彼とは本当に偶然とは思えないほど縁があるように思う。最初は和歌山の地方で行われた自衛隊の式典から彼と出会い、次に呉教育隊で私は教官役として彼を教育し、そしてここ横須賀では彼の航海演習での副航海長を私が務め、彼は索敵担当の作業員だったな。この三年を振り返ると、彼はあの時と比べ、一回りも二回りも大きくなったように思う。本来ならこの自衛官の曹候補生も易々と合格し、最終的に幹部まで昇格を期待したのだがな…だがあるいは非科学的な考えではあるが彼自身この場所で羽を休める運命ではなく、他に何か重要でやるべき使命をまっとうするために昇進させなかったとも言えるかもしれないな…)

三橋は白狼の進路について色々考えに耽りながら、基地内の建物に入っていった。

・・・

ヒラヒラ〜…

横須賀基地を後にした白狼は道を歩いていると前から何か小さな淡い色のした半ビラが一枚一枚横切っていた。前を向くと、そこには桜の花びらが舞い散る光景が広がっていた。その付近にバス停があり、待ちぼうけを喰らっていた最中、先ほど見た桜の花びらを見て昔の友人のことについて思い出にふけっていた。

「そうか、もう春だもんな!」

ヒラヒラ〜…サラサラ〜…

「桜を見ていると…やっぱあいつを思い出すな。悪いなぁ〜ロベル…こんな形でお前の憧れだった自衛隊を辞めることになってしまって………」

ロベルとは幼少期の頃の幼なじみで、日本人の母とドイツ人の父の間に生まれたハーフである。昔から日本文化が好きで特に寿司とか相撲を見るのも好きだった。中学生の頃から共に居合道を習っていた仲で、稽古を終えた後、他の生徒が帰った後に菊川先生が見ている中で木刀での実践形式の剣劇を欠かさず行っていた。その勝負の数は約1000以上は試合している。剣の腕はほぼ同等で引き分けの日がとにかく多く、白狼が勝つ時もあればロベルが圧勝する日もあった。何故彼が居合の道に足を出したのか、きっかけは自衛隊のイベントで見た儀礼刀を持ち、指揮する隊員の姿に心惹かれたのが大きな理由。ロベル自身、いつか自分も剣術を学び、自衛隊員になってあの人のように数々の隊員を指揮する立派な人になりたいと心に決め、進路は自衛隊に行こうと昔から夢見ていたようだ。中学時代、特に何もしていなかった帰宅部の白狼がその時にロベルから誘われて入門し、お互いに居合道を学ぶ仲となった。だがロベルは高校三年の春先の季節に親の仕事の都合で来年の卒業式が終わった後にはドイツへの移住が決まっていた。白狼はそれを知りロベルに対し進路をどうするか迫った日があった。

・・・
・・


〜時は戻り高校時代ーーー


「なあロベル、お前やっぱ家族と一緒に海外に行くのか?」

白狼は片手に飲みかけのブラックの缶コーヒーを持ちながらロベルにそう問いかけた。

「ああ、こればかりは仕方ないさ。本当は自分の進路通り自衛隊の方面で行きたかったんだけどね」

「…そうか、まあ仕方ないな。」

「…なあ白狼」

「ん、なんだ?」

「君は進路、決めているのかい?」

白狼はロベルにそう言われ、返答に対する答えを待つかのように缶コーヒーを一口飲み、彼にこう言った。

「そういや、まだ何もだな。特にやりたいことってのもないしなぁ〜!…まあ普段、今をこうやって楽しく生きて行ければそれでいいと思ってるからな〜俺」

そう返答し、飲みかけの缶コーヒーを再び口に含む。

「ふふっ、全く君らしいな…本当に!」

ロベルは白狼の自由奔放な返答にああ、本当この人はーーと呆れを通り越して一緒にいると本当に退屈しないなと言った感じで笑みが出た。息を整え、ロベルは白狼に対してこう問いかける。

「ねえ白狼、僕の代わりに自衛隊の試験受けてみてはどうかな?」

「!!」
 
白狼はロベルの発言に驚き、口の含んでいたブラックのコーヒーを吹きそうになった。だが、運よく吐き出すほどではなかったが多少むせかえった状態でロベルに話しかけた。

「げほっ、げはっ、お前、本気で行ってんのか!?」
 
ロベルは真剣な表情とトーンで強い意志で答えた。

「僕は本気だよ。君なら必ず受かると確信している。そして未来に大きく活躍し、大きな功績を残すだろうね…君なら!!」

「…!!」
 
ロベルの目は本気だった。その目の色は、自由奔放な白狼に対する嫉妬のため、代わりに自衛隊に行かせるという押し付けに近い短楽的なものではない。いつか白狼は将来大きな功績を上げていき、権力を持つ立場になっても欲に溺れず、日々妥協せずに数多の人を引き連れ、困っている人達のために働く活躍をするという未来を見据えての発言であった。故に彼にはそれだけの素質と器量、覚悟があることを見込んでロベルはそう告げたのだ。白狼は少し考えに考えを重ね、渋々返答した。


「…どう?受けてみるかい?」

「………」

ロベルの申し出に対し、白狼の返答は意外にも腹が据わっておりすかさず返答をする。

「…なあロベル?…お前なら自衛隊の試験の過去問一つくらい持ってるだろ?」

その返答にロベルは嬉しくなり、白狼に迫った。

「じゃあ引き受けてくれるのかい!?」

「まあ最悪レベルの低い大学に行くことになって学費と時間を無駄にしてパチスロ漬け生活をするのも勘弁だから、ちゃんと勉強するってだけさ」

「全く、素直じゃあないね…君は…はは!でも僕はその答えを期待していたよ!」

少し呆れたようなため息混じりな返答をした。だがロベルは心の底から安堵したかのように笑みが溢れていた。この出来事により白狼は明確な進路を決める。しばらくしてからロベルから陸・海・空のうちどこに所属したいかを問い、白狼は海上を希望した。何故海上を決めたのかと問うと、昔から泳ぎが得意だから、海が好きだからという軽率な気持ちもあり、ロベルは真面目にと少し怒り口調で迫った時もあったが、最近日本海軍の実在した艦隊のゲームにはまっていて、戦艦や駆逐艦、戦闘機のエピソード、戦略に心惹かれたところを流暢に話しかけている姿を見て、本来の自分を騙して堅苦しく言うよりも白狼のシンプルかつその素直な性格が相手にもしかしたら良い印象を与えると思い、ひとまず納得した。

そして時は過ぎ、夏頃に始まった自衛官候補生の試験を白狼は受けることになった。問題は一般教養(国語・数学・社会・英語・作文)が出題され、なんとか問題を解くことできた。肝心な面接も、日本の海を守る重要性や近年起こった領海でのトラブルに海上自衛隊としてどう立ち向かうか、また、将来自衛隊で活躍してどのようなキャリアを目指しているかを面接官に向かってはっきり伝え、試験を終えた。そして冬頃に自衛隊事務所から連絡が来て晴れて合格という知らせが来た。ロベルやその他居合道の菊川先生と女生徒達に報告し、みんなで祝福し合って、菊川先生が奮発して寿司を奢ってくれたりし、ロベルは喜んでいた。その後卒業式も迎え、入隊までの間にロベルと居合道に力を入れていた。

〜渡航前日・早朝〜

ブン!…!!ブン!

「せい!!…はぁっ!!」

ロベルは腹の中から声を出し、人形に見せた藁を真剣で切り落とす。渡航前に気を紛らわす為に道場内で剣を振っていた。居合道の道場は、町から外れた辺鄙な山の近くの龍川神社敷地内の建物にある。そのせいか空気が澄んでおり、早朝から落ち着いて鍛錬に臨んでいた。

「…ふう、少し休むか」

ロベルは外に出て風にあたり、ドイツ人独特の炭酸の入った天然水を飲みながらクールダウンをする。もうこの道場とも今日でお別れかと思うと少し切なくなる。そんなふうに思っているとある者が顔を出した事に気づいた。

ザッザッザ……

キラーーン!

「やあ、ロベルトくん。頑張っているようですね」

ロベルの前に姿を現したのは、痩せ型で170cm代後半とやや長身の中年男性であった。特徴としては坊主頭であり、緑茶のような色をした和服を着込み、黒縁の丸眼鏡を付けており、男のトレードマークと言っても過言ではない様であった。ロベルは相手に対し、名前を間違えられたのが癪に触ったのかすかさず撤回を命じる。

「…僕の名前はロベルですよ、菊川先生。…いい加減覚えてください。あと道場内に酒の缶が落ちていましたが、また道場内で飲酒したのですか!?あれほど酒の管理とかしっかりしてくださいと伝えたのに!!……全く、あなたって人は…」

その者の正体は、居合道の師範代で菊川と名乗る男であった。

「あ〜分かってますって。…ですがベルトくん。君にそう言われても全く説得力がありませんとも。だってさ〜!あ〜なんだ…そう、バレンタ……インという行事のえ〜…ホワ…イト?…白の付くお返しだとかで、まさか酒の入ったカタ…カナのチョコレ……ート?という名前のお菓子を彼女達に渡そうとするとは、全くもって不純だと思われ……であるからして、つまり申し上げました通り、あなたの様な勘の鋭い生徒を持つととても厄介なのだと……そう………?」

「………」

「あの〜?もしも〜しリベロく〜ん?」

「……」(…イラッ!!)

「!!」(ぞわっ!!)

菊川はロベルの冷たく凍るような視線に冷や汗をかいていた。若いながら闘争心と同時に強い殺気じみた闘気を放っている。次間違えたら容赦はしないというのがひしひしと伝わってきたようだ。

「」(あ、これ次しくじったら命の保証ないわ、まじでヤバい、先生ヤバいわ、あ〜怖いな〜!!…もうなんで最近の若い子は冗談が通じないのかねぇ〜ほんと!先生の若い時なんざ〜つか、昔からカタ…カナとやらは苦手なんだよ私はっ!!)

そんなロベルと菊川によるイザコザの中、白狼が眠たそうにあくびをしながらリズミカルにベルを鳴らして自転車を漕ぎ、道場へ顔を出した。当の菊川は、『あ〜来てくれたか、これで一安心!!』という様子で内心ホッとした態度を見せる。

キキーー!!!

「ふぁ〜……ようロベル〜、Guten Tag〜!」
(ドイツ語でこんにちは!)

「…白狼、今はGuten Morgenだよ。」
(ドイツ語でおはよう。)

「あ〜はいはいGuten Morgen、Guten Morgen、…。つか、日本語でよくないか?」

「!!」(ブチッ!!)


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜七人の侍より・勘兵衛の怒り

♪〜デンデンデンデ〜ンデンデンデ〜ンデデデ〜ン♪

○ ○
○ ○
○ ○


〜ど〜





「」(あっ、終わった…)

菊川は、ロベルが怒りのあまりに理性が吹っ飛んだような警笛が鳴り出した事をその場で察知した。白狼の朝から発した空気の読めない《ドイツ語》の挨拶が、ロベルの怒りを遂に解き放ってしまったようだ。その彼の様は、菊川自身が若き日の世代から知る《白黒映画》を連想したのか、それは黒の名が付く《巨匠》の映画監督が世に送り出した《アクション映画》の《原点であり長点》として君臨し、その名を世界へ知らしめた《日本映画作品》であった。作中に出てくる野原に放たれた《40騎》の野盗武士───────通称《野伏・野武士(のぶせり・のぶし)軍団》───────その者達の侵略から略奪の限りを尽くされ、虐げられてきた《百姓》の者達を助ける為、各地方から訪れ、結成された選ばれし《七人の》腕の立つ《侍》そのメンバーのある一人の俳優を連想させる《迫真》の形相で、口元から静かなる不気味な笑い声が聞こえてきた───────

「…ふふっ、ふっふふははっ…」

「ん?おい、ロベル?どうした?」

「あはは…こりゃあ先生は退却した方が良いね〜では!!」

菊川は出来るだけロベルから距離を取ろうとした───────が、時すでに遅く、ロベルは鬼のような速さで菊川の首元の襟を掴み、そして白狼の胸元の服を掴みかかった。二人は逃れようと抵抗するが、万力の如く強い握力で握られており、振り解くことができない。掴みながらロベルはまるで呪文でも唱えているかのように口を動かしていた。

「Oka…wi…bei…erden…」

「ちょっ!?ろ、ロベル!!まあ〜落ち着けってぇ〜!?」

「無駄だよ、白狼くん…無駄さ!!…無駄な抵抗!!…こうなってしまった《ロベルト》くんは…もう誰にも止められないんですから…」

「き、菊川先生!?ちょっ!?名前!名前間違えてるって〜〜!!」

「」(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……)

「「!?」」

菊川先生と白狼はとてつもない悪寒がしたのでゆっくりロベルの方を向いた。それはまるで鬼神のような表情をし、凄まじい怒りと同時に闘気に満ちあふれていた様子だった。ロベルはようやく大きな口を開くと二人に対して強くこう唱えた。

ドドドドドドド……!!!

「Okay, wir beide werden dir heute mehr Schmerzen als die Hölle bereiten, also sei vorbereitet‼︎‼︎」
(ドイツ語でよーし二人とも今日は地獄以上の苦痛を与えてやるから覚悟しやがれ!!!!)

「」「」

う、うわあぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!

・・・

何処かの戦争系の洋画でありそうな台詞をドイツ語で罵声した後、とてつもない力で二人を道場内に引きずり込んだ。二人はなす術もなくただ悲鳴を上げ、ロベルの制裁を受けることになった。後々訪れた道場の女生徒A・Bからは、道場にはとても清々しい気分で綺麗に床を掃除するロベルの姿と後ろには死体のように横たわる白狼と菊川先生の二人がいたらしい。その付近には紙に《オタスケ…。タスケ…テク…レ》とダイイングメッセージじみたものが書き残されていたらしい。生徒からは何があったのかを察した後、女生徒Aは『クワバラクワバラ……』とお察し申し上げ、女生徒Bは、『まちがえば、ふたりなかよく、じごくいき〜♪』と《575》の《七五調》の俳句を読むかのように語ったそうだ───────



時は流れ夕方〜

「さて、そろそろ終わるか!」

「ああ、だが今日は散々だったよな〜菊川先生!?」

「全くですよ、本当に……」(やれやれ…)

「「「自業自得(よ!!)です!!」」」

「も〜う!菊川先生はいい加減カタカナに慣れてくださいよぉ〜っ!!」

「そもそもロベルには京一というもう一つの名字があるんですから、そう言っておけばこんなことにならなかったのではないのでしょうか?」

「ふむ。……確かにそうだね〜…いやはや面目ない」

白狼と菊川は今朝のロベルのしごきがだいぶ効いたのか、夕方になってもくたくたな状態だった。道場に入門している二人の女生徒A・Bからも今回の件は弁明の余地はないのでロベルと一緒に自業自得とハモるように返答した。そんな時、女生徒Bがロベルに話しかけた。

「…でもロベル先輩、今日でもうお別れなんですよね……」

「ああ。君とは二年間という短い間だったけど、今まで本当にお世話になったね!」

「…こちらこそですよ///…本当に…うっ、でも、やっぱり寂しいです〜!…グス…ッ!」

「えっ!?ちょ、ちょっと!?」

「お〜!?ロベルが女の子泣かした!」

「いやはや青春だね〜!!先生の若い頃はもっとお熱く───────」

「ふんっ!!」(バシッ!!)

「「ヘブし!!」」

女生徒Bは別れのあまりに涙を堪え切れなくなり、泣き出してしまったことに戸惑うロベル。そして悪ノリをしていた二人に女生徒Aは容赦無く手刀を脳天に繰り出し、それが見事にクリーンヒットさせて成敗する。二人は当たりどころが悪かったのかのたうち回っている様子だった。白狼は痛がりながらも少しずつ立ち上がり、女生徒Aの方に視線を戻す。

「…!!」(ジタバタ!)

「あ〜いてて、モロに入った〜!!」

「ったく、こんなバカ共と一緒にいるとホントストレス溜まるっての!」

「バカは余計だ!まったく普段は色気あるのにハメ外すとホント残念だよなぁ〜あんた!!」

「なっ…///!なんですって〜!!」(カッ!)

「お、やるけ?」(カッ!)

白狼と女生徒Aの目はお互い凄まじい剣幕で睨みつけている。一触即発のムードであったが、その間にロベルが二人以上に鋭い剣幕で割り込み、二人の争いを静止させる。ロベルの手には木刀が二つも持っていたのを目撃すると白狼と女生徒Aは身の危険を感じたのか距離を取る。だがロベルの方は白狼の方に歩み寄り、木刀の一本を白狼に近づけ、言葉を発した。

「…白狼、勝負だ!」

「…えっ?!」

「ちょっ!?え、勝負って…!?」

「ロベル先輩と白狼先輩が…試合…!?」

「…どうする?」

「………」

ロベルの目は、真剣そのものであった。ここで自分達との戦いに終止符を打ちたいと言わないばかりにロベルの放った言葉には気高い狼のような覚悟が感じられたーーー



B. いいえ


《Capitolo・2》
続きを読みますか?



その問いに対し、白狼もまたロベルとの絆があったからか、声高らかに宣言する。

「…わかった!」

「…ふ〜む…」(…ほ〜う、今日は道場生徒が見ている中で勝負をするとは…これは見物ですね。あ〜しかしさっきの手刀は痛かったけど悪い気はしなかったなぁ〜うん///)

ロベルの問いに対し、腹を括り快く返答し、覚悟を決めた白狼に木刀を手渡した。白狼は内心突然のロベルからの返答に少し驚き、間の抜けた声が出ていたが、それでも運命が後押ししたのか後には退くことはなかった。女生徒A・Bは、これから二人が試合すると聞き、驚愕を隠せない様子だった。ロベルは白狼にそう言い、道場の中央部に立って真剣な目をして待ち構えている。白狼自身、今朝からのハードワークで疲れも感じていたが彼と勝負するのは、明日以降からできなくなる、だからこそ今やらないでいつやるんだ。今日こそどちらが強いかはっきりさせとかないとな、と言わんばかりの覚悟を決め、ゆっくり道場内の中央に歩み、ロベルの前に立ちはだかった。その後に菊川が中央に立ち、審判を取る形になり、両者の表情を自慢の眼鏡越しにてじっくりと観察した。

「……」(…ふむ。両者どちらも闘争心に満ちた非常にいい目をしている。これはどちらに転がるかわからないですね…)

「う〜ん、一体どちらが勝つと思いますかー先輩?」

「どうせロベルの圧勝だと思うわよ!」

「内心先輩は白狼先輩のこと応援してるのではありませんか〜?」(ニヤニヤ)

「えっ…!?///…ち、ちょっ!?///な、何言ってんの、怒るわよ!!///」

「〜♪」(…ふふっ、赤くなってますよ〜先輩♪)

ドドドドドドドド…

「……」(ロベルの目つき、今まで戦ってきた中で一番覚悟が座った目をしている。これは油断したらあっという間にケリが着いてしまいそうだ。)

「……」(白狼、その様子だと君も相当な覚悟を決めたようだね。だけど今回の勝負…僕が勝たせてもらうよ!)

白狼とロベル、両者共に放っている圧倒的なプレッシャーは菊川先生のみではなく、女生徒達、その他周囲の山を飲み込むかのように大きな波紋となって広がりつつある。菊川先生は着々と準備段階に入り、試合の準備を着実に進めようとしていた。もう後戻りはできない。刻一刻と時計の針が1秒、2秒と無慈悲に進んでいく音が聞こえてくる。

「…では両者共、準備はよろしいですか?」

「「…はい!!」」

「ではこれより第1497回、白狼氏とロベル氏による木刀での実践剣劇を開始します。制限時間は10分までとします!」

「!?」(え、先輩達そんなに戦っていたのですか…!!…ってか先生…カタカナ喋れるジャン!)

「……っ!!」(いよいよ…始まる!!)

「両者!…構え…!」

カチャッ!!

ザザッ!!

「剣劇…始め!!」

「「ウォーッ!!」」

「「!?」」((は、始まった!!))

「と言ったら始めてください」

ズコー!!!

「「…やっぱりそうきたか!!」」

菊川先生の絶妙なフェイントの入った開始の合図を素早く察したのか、両者共々相手に直撃する目の前で木刀を止める。

「えっ、えっ…!?」

「ちょっ、ちょっと先生!?突然なんですか!?」

「いや〜あまりにも二人共力が入り過ぎているから決戦前のリラックスも兼ねてだよ。…悪気はないので、気にしないでください…」

「え〜…」

「リラックスって…ちょっとあんたらも、決戦前なのにこんなことされてるのに、なんで怒んないのよ!?」

「「いやいつものことだから慣れている(よ)」」

「」「」

二人両者共々冷静に二人にそう問いかける。白狼とロベルは数多の対戦回数を経験することで、菊川先生の開始の合図のタイミングについて把握済みと言ったところである。

「でも先生〜、程々にしてくださいよ〜!」

「そうですよ!見てるこっちは、今か今かと待たされているのですから!!」

「あ〜すまないね、では気を取り直してと…」

菊川先生はそう言って仕切り直すように体制を整える。そして気合を入れて試合の合図を送ろうとしていた。───────だが───────

「では両者…剣劇…始っ、ハッ、ハ〜ックション!!」

ズコー!!!

今度は、試合の合図ではなく、菊川の壮大なくしゃみが道場内に響き渡った。いよいよ痺れを切らした女生徒Aは菊川に迫ってきた───────

「先生!!私達も暇ではありませんので!もう帰っていいですか!!?」

「いや〜すまない。ほんとごめんなさい!ほんとにほんと、わざとじゃあないんで!ちゃんと三度目の正直で戦いするから〜ッ!!」

「ったく、もう!!」

「…先生、今日に限って緊張してそうだね…」

「俺も思う。…これまでのお前との剣戟で、あんなにぐずり出すのは早々になかったからな。まあ、多めに見てやろうぜ!」


🎼Back Ground Music 》》》




♪〜龍馬伝より・クロノスの刻みⅡ

白狼とロベルは、菊川先生の心情をお察しする。そして今度は正真正銘、本気で剣劇試合の合図が来ると確信し、両者は真剣な表情で身構える。

「では、三度目の正直にて…剣劇……」

「……」

「……」

《開始〜!!!》

「「ッ!!」」

カーーーン!!!

開始の声と同時に白狼とロベルの木刀が力よく振られ、お互いがぶつかり合い、道場内周囲に大きな衝撃が波紋となって響き渡った。

「せい!!」(カン!)

「でやあっ!!」(カカン!!)

「そこだ!!」(シュッ!)

「踏み込みが甘いよ!!」(ガキン!!!)

「やはりか…だが前進するのみ!!」(ブン!!)

「胴がガラ空きだよ!」(ブン!!)

「おっと、当たらねえよ!」(ヒョイ!)

「次は俺からだ!!」(ダッ!!)

「さすがだね。でも、突っ込めばいいってものじゃあないよ!」(スッ)

「!?」(防御の姿勢…突っ込んでカウンターを狙う気か。…なら!)

ロベルは防御の姿勢を取りカウンターを狙っているようである。白狼とロベル───────両者の戦いは遂にきって時を刻みつつ落とされた───────

「うぉおおおおお!」(ダダッ!!)

「!!」(さらに距離を詰めてきた!…でも対処できる範囲だ!)

「ここだっ!」(ブンッ!!)

ロベルは突進してくる白狼目掛けて木刀を振る。しかし、振った木刀は空を振っていた。

「なっ!!かわされた!!」

「隙ありッ!!」(ブォン!!)

パァーン!!

「!?」

「「「!!」」」

ロベルの背中に白狼の木刀が接触し、直に命中する。白狼は、抜刀の姿勢でロベルに特攻を開始し、相手が繰り出してきた縦に振り下ろされた木刀を飛んで回避してロベルの身長を飛び越え、その際に木刀を振り下ろして当てたのだ。無論ロベルは何があったのか、瞬時に察した。

「…そうか。…飛んでいたか!!」(ブン!!)

「ああ!!…とりま一本ってな!!」(カン!!)

「…すぐに取り返すさ!!」(ギリギリ!!)

「そうかい、やれるものならやってみろっ!!」(キン!!)

「…凄いわね…二人共、なんて激しい戦いなのかしら…なんか気分が高揚してくるわ…!」

「す…凄い!!二人ともすご〜い。白狼先輩〜!ロベル先輩〜!頑張って〜!」

(ふむ、まずは白狼くんが一本取ったか。だがロベルくんの目付きはさっき以上に真剣そのもののようですね。次はそう易々と取らせてくれないよ。あと8分…それまでどう決着がつくか…)

「はあああっ!!」(シュッ!シュッ!シュッ!)

「うぉっ!!…とうとう突きも混ぜてきたか!……!!」

「そこっ!!」(パーン!!)

「ぐっ!!」(グラッ!!)

「白狼!!」

「お〜ロベル先輩が一発取り返しました!」

「……」(ふむ、ロベルくんも取り返してきましたか…)

今度はロベルの木刀が白狼の脛骨目掛けて直撃した。白狼はあまりの衝撃と痛みに少しよろけたがすぐに立ち直った。

「って〜!!やるな〜ロベル!」(ブン!!)

「まだだよ、白狼。…ほら、べらべら喋っているともう一発狙うよ!」(キン!!)

「へっ!上等!!」(ブン!!)

「はあっ!!」(ブン!!)

「ッチ!!」(カン!!)

ザザ〜ッ!!

「…両者共に一歩も引かないようね…」

「はい、でもお二人は《1000回以上》も対戦してるだけあって。……型も様になっていますよね!」

「まあそれだけ私の教えの賜物といったところだね〜」

「はぁ〜…」

「なるほど!」





「…ってあれっ?…先生!?」

「せ、先生いつの間に!?ってかなんでここに!?」

女生徒二人はいつの間に隣にいた菊川先生に驚き、思わず話しかけた。

「いや〜流石にあの剣劇の付近だと二人の木刀がいつ飛んでくるか分からないからね〜とりま避難といったところです」

「だからといって音もなく私達の隣に来られたらびっくりしますよぉ〜!」

「いや〜先生もたまにはこうして肩を並べて青春真っ只中の若い子とお話しして色々情報を共有したくなるものですので」

「え……えぇ〜…」

「…先生まじで引くわ〜、ないわ〜」

「ちょっと〜!?何その嫌悪感丸出しのストレートな発言!!先生傷ついてもう涙目だよ!?いや、でも悪くなッゲフン!オッホン!!」

「あ、あはは…」

「さ、ほっといて二人の戦いの続きを見るわよ!」

白狼とロベルの剣劇が始まることもう5分以上が経過し、いよいよ折り返し地点まで差し掛かってくると、両者の汗の量、呼吸の回数が増えてきた。ここまできたら消耗戦は避けられない。一気に叩き込む不屈の闘志の姿勢を両者は見せていた──────

ダダダダダ!!!!

ブン!!

「せいっ!!」(ブン!!)

「何の!!」(ヒョイ!!)(ブン!!)

「くッ!!」(カン!!)

チャキッ!

「……っ!」(白狼…君は本当に…)

「はあっ!!」(シュッシュ!!)

「ぐっ!!」(カン!!)

「……っ!」(ロベル…お前ってやつは本当に…)

シュタッ!!

「……へへっ!」(ロベル…やっぱ強ぇえな!……すげえよ!本当に!……だが、そろそろ時間も半分まで来た。さてどう攻めるか…)

「………」(…白狼。……君は本当に……っ!)

「ハァッ〜…よし!!」(スッ!!)

「…!…フッ…わかった!」(チャッ!!)

「!!」

「二人共抜刀術の構えを…!!」

「ほう、そろそろ出しますか…あなた方の自慢の……!!一閃をっ!!」(ニヤッ!)

「…先生、その不気味なニヤケ顔やめてください…」

「(・-・)」(ショボーン……)

両者共々大技を繰り出して決着をつけようとしていた。辺りはもう夜の静けさが広がり、無音で満ちていた。風の音はとても静かに吹き、目を閉じると自分の心臓の音が鳴り響く。だが目の前にはお互い決着をつける相手が面と向かっている。そんな静かな空間がしばらく続く中、白狼とロベルは集中していた。お互いの汗が少しずつ頬を流れ、顎を伝って一滴の雫となりて道場の床に落ちる。それと同時に両者の瞳孔が開き、一気に特攻を仕掛ける。

ダダダッ!!

「うぉぉぉぉぉおお!!ロベルゥゥゥゥーー!!」(シャッ!!)

「はぁぁあぁぁああ!!しろおおぉぉぉーーー!!!」(シャッ!!)

ブン!!………!!!

パァ───────ン!!

「「「なぁっ…!?」」」

道場内に、お互いの木刀がぶつかる音が響き渡った。それはまるで大きな鉄と鉄がぶつかり合うことで生まれる重低音の如く迫力のある音で、菊川と女生徒達はそれを聞き取り、身体全身に鳥肌を感じていた───────

「ほぉーう!」

「な、なんて音…木刀でこんなにもハッキリと…!!」

「す、すごいです…こんなの…初めて…!」

「ゼェ…ゼェ…!いつつ…」(ググっ!)

「はぁ…はぁ…くっ…!」(ググっ!)

白狼は脇腹を、ロベルは脇を押さえていた。お互いの抜刀術がぶつかり、木刀の先端が二人の身体に強く打ち付けられた。しかし、両者は倒れる気配はなく、お互いの面を合わせて木刀を握り締めていた。そして両者はさらに追撃をかけていく。

「オラあぁ!!」(ブン!!)

「くっ!…さすがだね!!」(カン!!シュッ!)

「ああ。こんな面白い勝負、まだまだ終わらせないっての!」(ヒュッ!ブンッ!!)

「それはこちらの台詞だよ。…だけど!!」(カッ!!ブンッ!!)

「…!…ああ!!」(カン!!シュタッ!!)

「「勝つのは…」」(シャッ!!)

「「俺だ!!(僕だ!!)」」((パーーン!!))

またお互いの木刀が強く響き渡る。両者の闘志が込められた木刀の衝撃は、試合開始時より激しさが増していた。残された時間はあと2分と少ない。それでもお互いの放つ一振りの木刀がぶつかり合う。菊川先生は感慨深く白狼、ロベルの今までの戦歴がフラッシュバックし、思い返していた。

(…最初の頃は、二人が木刀でチャンバラしていたのがこの剣劇の始まりだったかな…まだ技の型も学んでいなかったから無作法なものでただの子供同士の喧嘩だと思っていたね〜。だが日が経つにつれ、私の教えていた型を彼らはどんどん実用していき、気がつけば昔の武士のような闘気を放つ戦い方をするようになったんだよね〜。そして今この光景を見てハッキリ思うよ。今彼らが手にしているのは、木刀に見せた一本の刀だと!それらがお互いの意思でぶつかり合っている。いや〜生涯に渡り、こんな名勝負を見れるとはね…)

「…ああ!もう我慢できないわ!!白狼〜!!あと少しよ〜!負けるな〜!!」

「せ、先輩…!…ロベル先輩〜!!ファイト〜!!」

「………」(ふむ。………二人共、白熱していますね。まあ無理もないでしょう。このような激しい試合を見ていると、こう胸が熱くなるのは…)

「はあっ!そりゃっ!でやあぁっ!!」(ブン!ブブン!!)

「くっ、はぁっ!せい!!」(カン!!、シャシャッ!ブン!)

「ゼェ…ゼェ…ロベル…!」(ニッ!)

「はぁ…はぁ…フッ…白狼…!」(ニッ!)

「今どんな気分なんだ?…ゼェ…」

「分からない…でも今までやってきた戦いの中で一番最高な気分なのは間違いないよ…!」

「へっ、そうかい…」(スッ!)

「…さて…」(スッ!)

「!!」

「また抜刀術を!?」

「ふ〜む、時間的に正真正銘、互いに最後の抜刀術になりそうだね。」

制限時間は残り僅か。両者共々、最後の一振りに懸ける思いで、抜刀術の構えに入り、集中している。刻一刻と時計の秒針が迫っている。これが自分達にとって一生に一度の戦いになる覚悟を決め、静かに剣を持った。二人はこれまでの長きにわたる戦いのことについて思い出し、お互いの人間性を認め合っていた。

「……」(ロベル…お前は本当に俺が会ってきた人の中で一番闘志が燃えた奴はいない!…お前に出会えたこと、そして居合道に誘ってくれてお互いに剣術を学び、日夜お前と剣劇を交えて教えられた事を俺は一生忘れない。今までの人生の中でお前に出会えたことに誇りを持ちたいくらいだ!)

「……」(白狼…君とは小学校くらいからの仲で僕自身、ハーフだからという理由で周りのクラスメイトから全く相手にされなかった。だけど君はそんな壁を軽々と乗り超えて対等な立場で僕に接してきた。今はここに立っているが、君と出会えなければ今ここに立つことすらできなかっただろうね…白狼、僕は一度きりの人生で君と出会えたこと…胸を張って誇りに持てるよ!)

「…いよいよね…!」(グッ!!)

「…!」(グッ!!)

「……」(…さて、あなた方の最後の勝負です。悔いのないよう、決着をつけなさい)

沈黙が続き、皆が見守る中で白狼とロベルは最大限の力を加えている。両者の手には木刀が持たれ、握っている掌から血が流れていた。もう手の感覚もないだろうとも思われる。だがここで打ち込まずに終わってしまえば二人は一生後悔する。それを止められるのは菊川先生でも、女生徒二人組でもない。己の身体と時間のみである。

「………」(勝負は一度きりだ。もう普通の抜刀術では勝ち目がない…だが最後まで俺は諦めない…!!)

「………」(白狼。…君は恐らく何か奥の手を隠しているようだね。……それならば、僕も敬意を払って……!!臆する事なく向き合うまでだ!!)

ツーッ………


ピトン!………

「ッ!!!!」(シュタンッ!!)

「ッ!!!!」(シュタンッ!!)

シュン!!

二人の伝ってきた汗が床に溢れ落ち、それが《決着の刻》となりて二人は特攻する。その速さに驚きを隠せない女生徒A・Bは口に手を添える。

「は、早い!!」

「あれが…先輩達の…全力!!」

「ほう…これほどとは…!!」

互いに同等のスピードで交差し合い、最後の特攻に走り出した。助走による勢いは万全、いつでも全力の一撃を叩き込めるという自信を両者は持っている。あとはタイミングを見て、自分の全力をぶつけるかのようにそのタイミングを見計っている。白狼とロベルの心臓の鼓動が激しさを増す。

(ドクン!ドクン!!)(タタタタタッ!!)

(ドクン!ドクン!!)(タタタタタッ!!)

(ドクン!ドクン!!)(タタタタタッ!!)

(ドクン!ドクン!!)(タタタタタッ!!)

……キラキラキラキラ……!!カン!

「「…!!ここだ!!」」

「「「!!」」」

白狼とロベルはいよいよ、叩き込む場所のポイントを掴んだ。もう後戻りは出来ない。両者は全力で木刀を打ち込む態勢に入った。

「…これで最後だぜ…ロベル!!」(チャッ!)

「Das Ende(終幕)だ…白狼!!」(チャキッ!)

「ウォーーッ…ハァッ!!」(タンッ!!!)

「な!!」

「と、飛んだ!!」

「た、高い…始まりの時よりも…さらに高く飛んでいます!!」

「最後は空中戦…だがいつもよりも高く飛んでいる…!まるであなたの名前のように狼の如く気高く、大きく跳躍するその様…見事です!」

「…君はそうくるのか。…なら!!」

白狼は得意の跳躍跳びで高く飛び上がり、上から奇襲を狙う。だがロベルは、その白狼に立ち向かうべく、ガードはせず、柔軟な身体を利用し、まるで白鳥の湖のように優雅で無駄のない澄んだ動きで身体を素早く回転させ、大振りで勢いついた木刀を全力で相手に叩き込む姿勢を取る。

「なぁっ!?」

「さあ来い!白狼!!」(ブン!!!)

「…叩き込んでやるぜ…ロベルー!!」(ブン!!!)

カーーーーーーン!!!!

「ぐっ!!」(ググッ!!)

「っ!!」(ググッ!!)

パキーーーン!!!

「「!!」」

「二人の木刀が…!!」

「折れた…」

ブンブンブン!!

「あ…!キャッ!!」(サッ!!)

「危ない!!」(ダキッ!!)

「ふん!!」(ぺシッ!!)

カランコロン…

Pi…Pi…Pi…

白狼とロベル、両者の一世一代の渾身の一撃に耐えきれず、二人の木刀は無残にも砕けてしまった。一部の破片が女生徒Bに飛んでくるのを女生徒Aがすぐに抱き寄せ、庇って身を守り、菊川が前い立ち塞がり、折れてしまった木刀の破片を素早く払い除ける。そして時計は10分が来たのでタイマーが道場内に鳴り響いた。

「ふぅ〜大丈夫!?怪我してない!?」

「は、はい!私は大丈夫です。先生は!?」

「私も大丈夫ですよ。心配はいりません。それよりも…」

「え…あ、そうだ!決着は!?」

「あ、あそこ!」

「…はぁ…はぁ…」(グッ!)

「……はぁ…はぁ…」(グッ!)

互いの全力と全力がぶつかり、白狼とロベルの木刀は両者共に折れてしまった。それでも木刀を手放す気配はなかった。両者の手には痛々しいほどの流血がみられ、流した分だけ自分たちの全力を振り絞り、気力を使い果たしたのが伝わってきた。そして菊川先生の審判の結果が来るまで両者共々、その場を動かずに立ち尽くしていた。

「…ふむ、では私も戻るとしますか…」(タッタッ!!)

「…っ!」(一体…どっちが…!!…白狼…!)

「…!!」(…っ!ロベル先輩…!)

女生徒達が戦いの結末を見守る中、菊川先生は白狼とロベルの間に入り、二人の顔色を覗き込んだ。二人とも、これまでの戦いの中で一番やり切ったと言える清々しい表情をしていた。

「……ふむ」(よくこんなになるまで頑張りましたね。あなた達二人の生徒を持てたことに誇りが持てます。そして敬意を表します…)

「フッ!ではこれより第1497回、白狼氏とロベル氏による木刀での実践剣劇の試合結果を申し上げます!!」

「「!!」」(グッ!!)

「…!」(!グラッ!)
「…!」(!ふらっ!)

「今回の勝敗は!………!!」

・・・
・・








B. いいえ


《Capitolo・3》
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ブーーーン!!(車の走行音)

「次は〜町でございます!」(ピンポーン!)

「……!」

ガバッ!!

「……ふう、懐かしい夢を見てたな…」


白狼はバスに乗車してうたた寝をしていたところを、誰かのバスの乗り降りのボタンの音で目が覚める。昔の夢を見ていたようでその後の後日談を頭の中で回想し始めた。

「……」(あの決着の日の後のことはあまり覚えていない。後日菊川先生から聞いても、《もう伝えたので二度は言言いませんよ。》とか言われたし、あいつら二人に話を聞いても《散々私達に心配かけたんだから内緒よ!ったく、アンタって奴は本当に無茶するんだから!!///バカ!!///………だけど…///》《ロベル先輩とあんな名勝負を見せてくれてありがとうございます!》とこれを褒められる。ロベルから聞いても俺と全く同じ回答だったらしい。ただ後で聞いた話だと、あの戦いの後、俺たちは約二時間ほど寝てしまったようだ。寝ている間に激しいぶつかり合いの際に起こった俺とロベルの手の平の出血を女生徒Bが丁寧に手当てしてくれていたそうだ。夜も遅くなり、ロベルの両親もさぞ心配になって、その日は悪い方に大きく盛り上がったらしい。俺の方からは父は特に何も言わなかったが母からの落雷が落ちた日でもあったがな…)

・・・

〜ロベル渡航日当日

AM 4:00(ジリリリ!! カチッ!)

「う〜ん!よく寝た…!」

「あらおはよう。いつになく早いわね〜あんた!」

「ああ、おかん、おはようさん。行くとこがあるんだよ」

「行くとこ…ああロベル君のとこね。今日から両親と一緒に海外に居住するんだっけ。…!!あ〜あんた!まさか…また勝負だとか言うんじゃあないわよね!?」

「いや、昨日決着つけたからしないよ!」

白狼は昨日の対決から眠りについたため、今日は朝早くに目が冴えていた。台所に行くと、白狼の母が朝食の準備をしていたので軽くおはようと一声かける。どうやら昨日心配させた事をまだ根に持っているので軽く誤解を解き、食卓に座って電気ポットでお湯を沸かし、ご飯を装ってお茶漬けの素を入れて口の中へかきこんだ。早めの朝食を終えるとやや大きめの荷物を背にかけ、行くべき場所に足を運んだ。


「よっと、さ〜てと、そろそろ行くか!」

ガチャン!

「…あ!?あんたそれ木刀じゃあないの〜!?じゃあやっぱり!!」

「だから違うっての!これは餞別!贈り物だっての!!ほら、ラッピング梱包!!」

「はれま…ホント!!でも無駄に大きいわね…まあ許す、よし!!」

「…はぁ〜……じゃあ行ってくるわ」

「はぁ〜い、気をつけていってらっしゃい〜!」(フリフリ!)

「あいよ〜」(バタンッ!)

「…う〜ん」

「あら、あなた起きたの?」

「うむ、騒がしかったからな…」

「あらあら、ごめんなさい。朝から騒がしくして。でもあなたも!あの子昨日はあんだけ心配かけたんだからもっと言ってあげてもよかったんじゃあないの〜?」

白狼の母は息子想いが強い方だ。それ故に少し過保護とも言える一面がある。白狼の父は母を宥めるように、急須に入れていたお茶を湯呑みに注いで飲み、一息ついて母を安心させるようにこう呟いた。

「…母さん、男ってのはなぁ…これだけは譲れないものがあり、互いにぶつからないといけない時もあるんだ。それにあいつも後1ヶ月もしないうちに自衛隊に入隊するんだ。今のうちに無理を買っておくのも一つじゃあないのかと俺は思う」

「…お父さん、それ前に見たなんかのドラマのセリフ混ぜて言ったでしょ?」

「…そうだったかな?」

「まあ、確かにあの子、いつの間にか、あんなに大きくなったのよね〜!」

「ああ、以前の時よりも良い目をしている。もう良い大人になったものだな…さて、もう一眠りするか…」

「は〜い、朝ご飯になったら起こすからね♪」

「おう」

父は軽く返事をして寝床へ再び戻り、母は朝ご飯の支度に再び戻る。


〜某関西圏の空港

AM 6:30

「はあっ、はあっ、ふう〜着いた!」(ロベルの乗る便は確か8時にフライトだって聞いていたし、まだいるだろう…)

キョロキョロ。……!

「あっ!!おーい!!」

「ん、あっ女生徒A!」

「もう!…その呼び名はいい加減やめなさいな!私にはちゃんと《千夜》って名前があるのっ!!!」

女生徒Aの本名は千夜という名前らしい。白狼自身茶化してそう呼んでいたが、改めて彼女の名前を告げる。

「あ〜わかったわかった!…だがまあ〜千夜ちゃんね〜!……なんかどっかの和菓子店で働いてそうな人の名前にも聞こえるんだよな〜!」

「な…なぁっっ!?///」(カァ〜ッ!///)

「ん?」

「…気安くちゃん付けするなぁ〜!!///」(ブンッ!!)

バキッ!!

「ゲフッ!!」

女生徒Aこと千夜の激しい手刀が白狼の脳天を昨日以上にクリーンヒットした。あまりの激痛に激しくのたうちまわりたいが場所は空港、目立つことはできるだけ避けたい。いやもう十分目立っていることを自覚しており、少しずつ立ち上がり千夜に注意を促す。

「お前なぁ〜場所考えろよ!!ここ空港だろうが!!」

「アンタが気安く私の名前とちゃん付けで呼ぶからびっくりしただけよ!!///まったく!そもそも昔からアンタのそういうところがね〜!!///」

「あ〜俺もこの際だから言わせてもらうが、お前はいつも羽目外したら…!」

ギャーギャー!! 

トントン!

「…ごほん、君たち、ちょっといいかな?」

「「え?」」

白狼と千夜が肩を叩かれ、声を掛けられたので振り向くと空港常駐の警備員が立ち尽くしていた。その表情を見ると、とても迷惑そうでタチの悪い厄介者を見るかのような目でどっしりと身構えていた。

「ちょっとついてきてもらおうか?」

「「…はい…」」

空港内で騒がしくしていた白狼と千夜は警備員事務所に同行され、口頭での厳重注意がなされた。長々と続くようなら親御さんや学校に連絡するなり、空港から追い出すところだったと…二人は深々と謝罪をして10分後には釈放された。

「…はぁ…行くか…」

「そうね…」

「「「ヒュ〜ヒュ〜!朝からお熱いね〜!よっ今年の春一番の最大の痴話喧嘩バカップル!!」」」「チッ、リア充どもよ、駆逐すべし!!」「嫉妬すんなし!」(べしっ!)「った〜!!警備員さんこの人暴力振りましたよ〜!!」(ガヤガヤ!!)

「「…///」」

お互い、タチの悪い野次を聞き流しながら赤面し、自分たちの行いに反省しながら早歩きでその場を後にし、ロベルのいるエリアを目指す。そしてしばらくすると、女生徒Bの姿が見えた。

「う〜ん。……!?…ああっ!!先輩方、おはようございま〜す!」

「おはよう」

「よう後輩!迷わなかったか〜?」

「ム〜!失礼な!!私はもう去年の先輩方と同じ華の高校三年生ですよ〜!それより先輩方もここへ一緒に来る途中に騒がしくしませんでしたか〜?」

「!!…ええ…!」(ドキッ!!)

「!!お、おうよ…!」(ドキッ!!)

「ふ〜ん、じゃあこれ他人なのですかね〜!…なんかSNSで堂々のトレンド一位、某関西の空港で今年春一番のバカップル爆誕!記事には空港内で背の高いスタイル抜群女性が空手チョップを繰り出し、それを全力で身体を張って受け止める謙虚な男性の姿が目撃される。証言には熱い夫婦喧嘩にも近い痴話喧嘩を繰り出す熱烈カップルの姿が多数目撃されると…!?…ん〜!?///」(ジタバタ!!)

「「それ以上は言うな(言わないで)…///」」

「…三人ともなにしてるんだい?」

「あっ!」

「ん?よう、ロベル!」

「ん〜ぷはっ!!あ〜苦しかったです…あ、ロベル先輩♪」

「やあ《千里》(女生徒Bの名前)、後二人も見送りに来てくれたのかい?」

「ええ。菊川先生の方は今日神社の式典参列で来れないそうよ。でもお元気で、と挨拶を頂いたわ。後これお餅。良かったら機内で食べなさい!」

「うんありがとう。また菊川先生によろしく言っといて!」

千夜は菊川先生の欠席事情を説明し、神社での行事の餅をロベルに渡した。そして白狼は背中に背負っていた荷物を下ろし、ロベルに渡した。

「ロベル、俺からも、ほい!これはお前への餞別だ!」

「そういえばさっきからずっと持ってたわよね?」

「なんですか〜それ?」

「ロベル。持ってみろ!」

「?…!!白狼…これって!?」

チャキッ!!


🎼Back Ground Music 》》》




♪〜大逆転裁判2より〜それぞれの道

「ああ、俺達の無二の誓い、由緒正しい昔の伝統ある日本海軍が使っていたとされる儀礼刀だ!…まあ流石に本物ではない模造刀だがな〜!」

「フッ…そうか!…ありがたく受け取るよ。……大切にする!」

「おう!」

「でも刃物系の土産物の持ち込みなんて大丈夫なのかしら?」

「預け入れする荷物(受託手荷物)としてチェックインカウンターで事情を説明してOKがもらえたらお預けしてくれるらしいですよ♪」

「「「ヘぇ〜……」」」」

「…あ、そうだロベル先輩!!」

「ん?何だい千里?」

「…あの!これ受け取ってください!!///」(バッ!!)

女生徒Bの千里からロベルに差し出したのは何とラブレターだった。その大胆な行動にロベルと白狼、千夜は驚いた。中身を確認すると、メールアドレスと連絡先の書かれた名刺と、『今までずっと好きでした♡』───────と年頃の女の子の文字で書かれた恋文が同封されていた。ロベルは軽く笑みを浮かべ、千里に優しくこう問いかけた。

「ありがとう千里、君の気持ちは伝わったよ…!!」

「!…じゃあ!?」

「だけど、まだ気は早いよ。まずは友達からでいいかな?遠距離恋愛で寂しい思いをするかもしれないけどこんな僕でいいなら…よろしくお願いします!」

「!!…はい!」

「良かったわね、千里!」

「はい!…まあそれも朝からの白狼先輩と千夜先輩の熱烈カップ!?っあいたたた!ギブギブですぅ〜!!」(グリグリ!)

「…もう!調子に乗るとすぐこうなんだからっ!!///」

「…ははは、じゃあそろそろ時間だから僕はこれで!」

「ロベル!元気でね。もし帰ってこなかったら承知しないわよ〜!!」

「ロベル先輩!!今までありがとうございました。…私、ずっとずっと待ってます!」

「ああ千夜、また必ず戻ってくるよ。千里も時間が空いたらメールは必ず送るから安心して!」

「ロベル。気をつけて行ってこいよ海外へ!…いや世界進出ってやつだな!」

「ああ。白狼こそ、この日本の領海と、この国の海を守る防衛任務……!!確かに任せたよ!」

《ビシッ!!》

白狼とロベルは互いの健闘を称え、敬礼した後に握手を交わし、ゲートへ向かっていく。今度は三年後に再会する事を約束し、ロベルの両親とも挨拶を交わし、今度こそ別れの挨拶を終えた。そして、別れ際に放ったロベルの言葉が今になっても白狼の頭の中に残っていた───────

《どんなに離れていても、僕達は生涯の友でありたい!》

・・・
・・

B. いいえ


《Capitolo・4》
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🎼Back Ground Music 》》》



♪〜大逆転裁判より成歩堂龍之介・冒険の前奏曲

〜時は流れ、地元の商工会館

カシャッ!!カシャッ!!

ロベルとの渡航の見送りを終えて日数が経過し、白狼は地元の商工館で自衛隊主催の新規自衛隊員の入隊記念パーティーに参入していた。参列者の中には地元の市長、自衛隊関係では陸尉、海尉、空尉のそれぞれの幹部自衛官が参列しており、皆が見送る中、白狼は自衛隊員としての門出を開く時でもあった。白狼の服装は、自衛隊関係者の計らいもあり、海上自衛隊公認の夏制服を着用していた。白の清潔感ある制服はまるで西洋の騎士を連想する風貌を見せていた。その後、市長から『これからあなた方は自衛官として様々な災害や困難な事にも直面されるでしょうが、国家の為に、そして国民の生活を守るという自覚を持ち、日本の将来を担う立派な自衛官として勤めてくれる事を心から期待する』という激励の挨拶が済まされた。その後、白狼は様々な現役幹部自衛官と接触し、いろいろと情報交換をして時間を過ごしていた。そして一段落し、外の空気を吸いにと外に出た。



「…ふぅ〜。制服って結構肩が凝るな〜…やっぱり幹部の人は上の立場なだけあって、重圧を感じるもんなんだな…」

「お〜い、お疲れ…!」

「ん?…よお千夜!来てたのか!」

「え…ええ。ついでにアンタの自衛官の制服姿を見て笑いにも来たんだけど…その…意外と…///」

「ん?…何だよ?」

「に、似合ってるわよ…///…うん!」

「おう、ありがとよ!」

「…///それから…ん!!」(スッ!)

「ん?何だこれ?」(ヒョイ!ススッ)

白狼の制服姿に見惚れていた千夜は、渡すなら今と言わんばかりに布の巻かれたものを白狼に手渡した。重量感があり、質量もあった。布を取り出し、中身を確認すると、そこには護身用の十手が入っていた。

「これは…十手か!?」

「ええ…アンタにあげる!最近何かと物騒だから、国を防衛するのもいいけど、自分の身を守れないような奴が国を守れる訳がないでしょ!?……だから///」

「へへ、ありがとよ。…大事にする!」

「ふ、ふん、感謝しなさいよね!!///」

「ところで千夜。…お前、進路決まってるんだっけ?」

「ええ。昔おじいちゃんが亡くなった事もあったから。……私、色々考えて《看護師》を目指す為に《看護大学》へ進学するわ!…それも東京のね」

「へぇ〜東京か〜!…確かにお前、怪我の手当てとか手際がよかったよな!?…そうか。………頑張れよ!!!」

「ええ。アンタの方は、この地域にも基地があったし、入隊後は地元勤務なんでしょ?」

「いや、幹部自衛官の話だと。…俺はまず広島の呉って町の教育隊からスタートしてその半年後には、各地にある京都の舞鶴とか長崎にある佐世保、後は神奈川県にある横須賀らへんに配属になる予定らしい。まあ俺としては呉にも勤務地があるから教育期間終了後はそこになると移動がすげえ楽なんだがな〜!」

「そ、そうなんだ…大変そうね…」

「ああ、まあでももし横須賀に配属なら東京から近いだろうし、休暇の日にお前と会えるのも案外悪くないかもな!!はっは!」

「!?…〜///」(プシュゥ〜!)

「ん?千夜どうした?さっきから顔が赤いぞ?」

「アンタのせいでしょうが〜!!///」(シュッ!!)

「おっと、もうその手には乗るかよ!!」(バッ!)

パシン!!

「あ…あ!///」(こ、こいつ!わ、わ、わ、私の手を!!…///)

カシャッ!!

「「!!」」

突然どこからか、カメラのシャッター音が聞こえたのでと、二人は音の鳴る方へ視線を向ける。そこには見覚えのある人影が見え、ゆっくりこちらに近づいてきた。

コツン…コツン…

「いや〜相変わらずお熱い二人ですね〜!よっ、さすが春一番の熱愛カップル!」

「ち、千里!///」

「よう千里!来てたのか!」(バッ!!)

「ふふ〜ん♪…私だけではないんですよ〜!…お〜い先生〜!せんせ〜い!!」

千里の呼ぶ声で、木の後ろに隠れていた者が姿を現す。そこには眼鏡がトレードマークの痩せ型の中年男、そして白狼や千夜、千里、そして現在海外に在住のロベルと深い関わりのある人物、菊川が姿を現した───────

「あ〜っ、やれやれ。…見つかりましたかね〜。……やあ白狼くん、その白の軍服を着ていると、本当立派に見えてしまい。……まるで西洋の騎士みたいだね…見違えましたよ」

「おう、菊川先生も来てたのか!…あ〜、後これ軍服じゃあなくて制服ですよ」

「ふっふっふ♪…では役者も揃った事ですし、早速みんなで記念撮影しませんか〜?…もちろん白狼先輩と千夜先輩とのツーショットも一緒に!!」

「えっ…えええ〜〜っ!?///」

「…!!」

後輩の千里の突然の発言に困惑する千夜、菊川先生はもちろん参加すると即参加の申し出を受ける。白狼の方は、いつになく真剣になり、こう答える。

「…なあ千夜。…俺と一緒に撮ってくれるか?」

「え、えぇぇぇぇぇ〜〜っ!!///」

「頼む!……俺達が会えるのはしばらくないと思うんだ。だから今のうちに俺は、いや俺達は後悔のない方を選んでおきたいんだ!」

「…!!」

「…どうか、よろしくお願いします!」

「…う、うん、わかったわよ…///」

「は〜い!では正門の前で撮りますよ〜準備はいいですか〜?」

「おう!」

「…ええ///」(モジモジ…///)

「…ふむふむ」(お〜やま〜、あの二人、いつの間にあんな関係で…ああ先生は嬉しいものです。いつかあなた方の仲人をすることに期待しておきますよ。)

「あっ!そうだ!…白狼先輩〜!どうせ立つのなら〜!…その十手を軍刀に見立てた感じのポーズをお願いしたいです」

「ん、こうか?」

「それです!いや〜なかなか様になるものですね〜♪」

「へっ!そうかい!」

「はい、では撮りますよ〜♪!」

《そこの君達、待ちたまえ!》

誰かの声が聞こえたので振り向くと、そこにはスーツ姿で帽子を深々と被り、長い目のコートを羽織った一人の紳士が立っていた。その紳士はゆっくりと歩み寄り、こう答えた。

「外では暗いでしょうから、せっかくですし中に入って撮影しませんか?…いい場所がありますので」

「良いのですか?」

「ええ。…せっかく彼の晴れ舞台です。一生に一度しかない若者に敬意を評し。…盛大に祝いたいのでね。では皆さん、ついてきたまえ!」

そう言われ、白狼達は紳士の後をついて行き、商工会館の中に入る。そしてしばらくすると、ある部屋の扉に辿り着く。

「…ここです。………」

スッ……

「どうぞ入りなさい」(ガチャッ!)

「「は、はい!」」

「では、失礼します!」(ぺこり!)

「お、おじゃましま〜す!」

その部屋に入ると、室内の手入れがよくされており、目の前には執務をする際に使われるアンティーク調の執務机と椅子があった。左側には大きな日章旗が掲げられ、いかにも厳格な人が仕事をする歴史を感じる趣のある部屋だった。

「…す、すげえ〜!」

「…ふむ、昔からの伝統ある執務室といったところかな…」

「す、すごい…まるで官僚の人達が仕事する部屋といった感じですね!」

「本当によろしいのですか。こんな場所で撮影をしても?」

「はっはっは。どうぞ気にしないでくれたまえ。これは、自衛隊へ入隊する若者と、その大事な人への祝いと思って好きに使ってください」

「は、はい。ありがとうございます!」

紳士からの盛大な祝いに感謝し、後輩の千里は、こんな日の為に、という形で高画質一眼レフデジカメでの写真撮影が行われた。ポーズは先程千里から言われた通りに十手を左手に持ち、軍刀に見立てたポーズでの白狼の写真を撮影。その後に椅子に腰掛け、少し気恥ずかしそうに頬を赤らめているが、少し微笑みを入れた千夜とその左側に先程のポーズから右手に持ち替え、直立不動で胸を張って立たせた白狼の2ショット写真の撮影が行われ、その後に、何故か千夜と千里の2ショット写真、師範代の菊川先生を混ぜて三人、そして最後にと、現居合道のメンバー四人全員を含めた写真を紳士が代わりに撮影し、記念撮影会は終了した。

「いや〜ありがとうございます。わざわざここまでして頂いて……」

「「「本当にありがとうございました!」」」

「いえいえ、こちら側もとても有意義な時間を使わせて頂いた事。実に良く思っているよ。これも何かの縁でしょうし、せっかくですからあなた方の名前を聞いておきましょうか。まずはそこの新人自衛官くん。君の名前は何と言うのかね?」

「はい、二ノ宮。二ノ宮白狼といいます。苗字はよく白い狼に因んで《はくろう》と間違えられますが本当は《しろう》と言います!」

「《にのみやしろう》か。……良い名前だな!…白い狼…うむ。…今の君の姿にピッタリハマるような名前だ。これからの活躍に期待しているよ!」

「はっ、ありがとうございます!」(ビシッ!)

「で、そちらのお嬢さん方は?」

「は…はい!私は千夜と言います。将来は《看護師》を希望しております!」

「ほう、千夜さんね。将来は看護師か。……私の祖母も母も、看護師であったから、その苦労は知っているつもりだよ。……大変な仕事ではあるだろうが、将来立派な看護師になって活躍する事を心より期待しているよ」

「!!…はい。ありがとうございます!」

「私は千里と言います!たまにせんりと間違えられたりしますが《ちさと》って呼びます!華の高校三年生です!将来の事はとりあえず大学に進学してから考えています!あ。…後、いま海外に住んでいるハーフの彼と現在お熱い遠距離恋愛してま〜す♪♡!!」

「!?…こ、こら、千里!言い方がはしたないし、相手に失礼だぞ!」

「そうよ!相手は物腰の柔らかい目上の人なのよ!?失礼のないようにもう少し言葉を考えて言いなさい!!」

「え〜っ?…空港内で騒いで警備員さんに口頭で注意されるくらいの痴話喧嘩に発展して誕生した熱烈カップルの人達に、はしたないとか言われましても説得力がありませんよ〜♪」(クスクス!)

「な…!?なぁっ!?…お、お前〜!その口ぶりだと、あの一部始終始めから全部見て知っていたのか!?…あっ」

「ちょっ!?///あ、アンタねえぇ〜!?///それを今ここで言う!?もう、信じられないわよホントにぃ〜〜ッッ!!///…あっ」

白狼と千夜は千里の節操もない発言を注意しようとするが、その前に千里が白狼と千夜のやらかした恥ずかしさ全開のいますぐにでも記憶を抹消したい黒歴史を掘り返され、紳士の前で見事、素が出てしまい墓穴を掘ってしまった。千里の腹黒さあるクスクス笑いが静かに聞こえる中、白狼と千夜は目の前の紳士に快く頭を下げて謝罪した。

「す、すみません!お見苦しいところをお見せしてしまい!!」(ペコリ!)

「お騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした!!///」(ペコリ!)

しかし、紳士の方は無礼な態度に嫌悪感は微塵も感じておらず、寧ろ寛容な態度で笑い、二人にこう問いかけた。

「いやいや構わんよ、はっはっは!……実に今時の元気がおありの活発で愉快な子だ!…千里さんか。…年相応の愛想が良い印象を感じるよ。それに君達の仲の良さが本当に伝わってくるよ」

「そうでしょう。本当に退屈しなかったね〜この三人ともう一人にも…。あ〜私の名前は菊川と申します。彼らの居合道の先生で師範代やってます。普段は龍川神社の住職を本職にしているものです」

「ほ〜う。あの龍川神社の。……神職務めで、居合道の師範代とはなかなか伝統ある経緯をお持ちの方だ。そうか、あなたのような立派な指導者の下でこの三人方が育ったのですな。……いや〜何卒感慨深いことだ!」

「でも《ド》がつくほどの《M気質》なんですよね〜!…昔から千夜先輩の手刀を喰らっても痛覚を通り越して快感の域に達するほどですからね〜♪もうほんと、ある意味で見習うところがありますよ〜♪!」

「…千里さん。…私は千夜さんの放つ手刀如きで、快感を感じるとか。そこまで敏感に過剰反応してしまうといった、《既成事実》は一切ございませんよ。ですがまあ、確かに。…たま〜に悪くないと思う時が……!!ゲフん!…おっほん!」

「菊・川・先・生…!あ・と千・里…!余計なこと言わないの!…わかった!?」(イライラ!)

ゴゴゴゴゴゴ…

「(・−・)」「(・-・)」

は、はい…

「……」(菊川先生…見事に千夜の手刀の虜になってるんじゃあないのか〜?)

「はっはっは!…なかなかユーモアがおありの居合道の先生でさぞ毎日が楽しそうな事だったろうね!……そういえば、そのもう一人というのは?」

「ああ、それはですね……」(かくじか…)

白狼は紳士にロベルの事を伝える。今までの剣劇のことや高校三年生の卒業後に渡航した事。そして千里と現在遠距離恋愛をしている事といった、一部の事情を伝え、説明する。

かくかくしかじか……

「ふむ。……そうか、残念だったな。そのロベル君の事情がなければ、二人で自衛隊に入隊していた可能性もあったということか」

「いえ、こればかりは仕方のないことですよ。流石に俺らでも彼の家族の事情に首を挟めませんから。でも俺は平気です!出発前に別れも済ませましたし、今度は三年後にまた会おうと約束しましたし、今から三年後が本当に楽しみです!!」

「…強いのだな、君は…」

「いえ、俺はまだまだです。だからこれから上り詰めて行きますから、これからご指導よろしくお願いします!……!!」

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜アニメメジャーより・まさかの重圧

《一等海尉殿!!》

「「!?」」

「……」(ふむ…)

白狼は突然紳士の事を《一等海尉》と呼ぶ。紳士は眉を潜め、その問いに何故そうなのか答えを問いた。

「…何故そう思ったのかな?」

「単純ですよ。この春先なのに長い目のコートを羽織っていますし、後その深々と帽子を被っているのは素顔をできるだけ晒さないよう、自分の身分を隠すためです。おそらくそのコートの中にはスーツではなく海上自衛隊の制服。特に幹部自衛官の人がよく着ている、冬服の黒の制服を着用してるのでしょうね。先程、四人で写真撮影した時にコートの袖の中で、うっすらと金の二本ライン、それも均一のサイズのラインが見えました。おそらく二本を超えた先に桜の章があるんでしょうね。後、先程この部屋に入る際の入室前の時です。あれは明らかにドアの前で不動の状態、すなわち気をつけの状態を保っていました。職業柄、その不動の動作を疎かにすれば服務事故などの罰則があるからです。以上の観点からそう推察させていただきました」

「………っ」

スッ…!

白狼は紳士の方にそう解釈し推理すると、紳士は笑みを浮かべ、深々とかぶっていた帽子を取る。見た感じではまだ二十代後半くらいの若い容姿をしていた。

「お見事!」(パチパチパチパチ!)

紳士改め幹部自衛官の男は白狼を褒めるかのように静かな拍手を送った。

「えっ!?…じゃあ、本当に現役の…《幹部自衛官》の人なんですか!?」

「証拠を見せよう。……ふう。…どうも初めまして!」(ヌギヌギ!)

幹部自衛官の者は、コートを脱ぎ、椅子にコートと帽子を置く。身嗜みを整え、全員に披露した。白狼の推察通り、そこには黒の制服を身に包み、金の留め具ボタンには海上自衛隊の伝統あるシンボルが刻まれており、腕章には二本の均一のラインの上に桜の章の刺繍が施されていた。また左胸に水上艦艇き章、潜水艦き章(ドルフィンマーク)、防衛記念章の勲章が身に付けられていた。

「わぁ〜っ!!す、すごい勲章の数ですね〜!!白狼先輩とは大違いですね〜!!」(キラキラ!)

「ええ。……勲章を見ているだけで、どんだけ凄い人なのかがよ〜く分かるわ。……白狼…アンタにこの責務が務まるかどうかも怪しくなってきたわ…」

「おいお前ら!?言い方にも限度があるぞ!!」

「はっは!大したことはないよ。だが二ノ宮君。…君も自衛隊の任務内で必ず訓練を受けてこのような資格試験を突破し、修了したら晴れて授与されるから安心したまえ。そして君と呉教育隊で一緒に学び、一緒に仕事ができることを楽しみにしているよ!」

「え、一緒に学ぶって!?」

困惑する白狼に、幹部自衛官の男は胸ポケットから海上自衛隊のシンボルの刻印が入った名刺ケースを取り出し、それぞれ四人に名刺を手渡した。そこには防衛省、海上自衛隊呉教育隊指導教官 《三橋宗一郎》階級は、白狼が突き止めた通りに《一等海尉》と書かれ、メールアドレスと携帯番号が記されていた。さらに三橋という名前の一等海尉は笑みを浮かべ、白狼にブラックライト付きのペンを手渡し、『照らしてみてくれ』という指示があったので少し照明を暗くしてペンライトを当てる。すると特殊インクで書かれていたのか文字が浮かび上がり、そこには学歴が書かれていた。《防衛大学校首席卒》と書かれており、これには白狼はすこぶる驚いた。《防衛大学校》とは、自分が受けた自衛官候補生と、軍隊で用いられる下士官の立場にいる《曹》の位を目指す、一般曹候補生のような試験とはレベルが違う。18歳以上の者が自衛隊の《幹部候補》、すなわち将来の自衛官のリーダーを養成する、防衛省お墨付きの大学なのだ。普通の防衛大の他にも防衛医科大学校や防衛歯科大学校、防衛看護学校など医療にも力を入れている機関の学校も存在している。学校生活そのものはハードで、規律に厳しく入学から卒業までも狭き門というのを聞いているがまさかこの人がその防衛大学校の卒業生並びに首席卒ときたら《エリート》と言われても過言ではない。

「………」

「…フッ!」

バッ!!

「!?」

そう思っていた白狼は、三橋がゆっくり迫ってきて握手を交わそうと手を差し伸べられた。

「………」

「という訳だ。来月から《呉》で待っているよ!」

白狼は最初真剣な眼差しで三橋を見つめていたが次第に表情を崩し、笑みを浮かべて堂々と握手を交わした。

「こちらこそよろしくお願いします!」

「うむ。しかし、菊川先生。あなたは私の正体について。……二ノ宮君と同じように気付いていたのでしょう?」

「「「えっ!!」」」

「ふ〜む〜……まあ雰囲気からして、ただの紳士ではないと思いましたのでね。その体格といい、振る舞い方といい、どうも軍人さん独特の習慣が身についているように思いましたのでね…」(クイッ!!)

「ヘぇ〜!菊川先生凄いですね〜!!」

「お、千里さんありがとね。…何なら先生の事、見直してくれるかな?」

「いえそれはないですね〜♪」

「(・-・)」(ショボーン…)

「さて長居したし、そろそろ私は失礼するよ!じゃあ二ノ宮くん、今度は呉で会おう!」(ビシッ!!)

「はい!本日はお忙しい中、ありがとうございました!!」(ビシッ!!)

ガチャッ!

白狼と三橋がお互いに敬礼し合い、執務室を退室しようとしたその時─────

「ん〜、あ〜!!そうです!!待ってください、三橋さん!!」

「む?」

バタン!

千里が三橋に対し、声を掛ける。その様子に二人は口頭での注意を促す。

「お、おい千里!相手は一等海尉だぞ!気安く三橋一等海尉をさん付けで話すな!」
 
「そうよ!それに向こう側も忙しいのだから、止めたら迷惑でしょう!」  
 
「………」(ふむ、今日の千里さん、いつもよりパワフルと言えばいいのかね〜?。あ〜やっぱカタカナ使うと難しいわ〜)  
 
「ああ君達。…私は別に構わないよ。で、まだ何か用があるのかい?千里ちゃん?」  
 
「あの!?…もしよかったら最後に白狼先輩とのツーショット写真を撮らせて頂きたいのですが。……構いませんか?」  
 
「…ほう!」  
 
「ちょっ、千里!?何を恐れ多い事を!?」  
 
「そうよ!!本当に何を考えているの〜!?…三橋一等海尉はこれ以上私達と付き合う程暇じゃあないというのに、全くこの後輩は〜!!」  
 
「………」  
 
《あの…お兄ちゃん、写真撮ってもらってもいいですか?》  
 
「…フッ、いいよ。…お安い御用だ!」(ニコッ!)  
 
「「!?」」  
 
三橋は何か昔のことを思い出したのか、笑みを浮かべて写真撮影に参加すると返事をした。迅速に写りの良いポイントを素早く模索した。すると、日章旗の付近の場所をポイントとし、素早く白狼を招き入れ、白狼と三橋がお互いに握手をした状態で撮影のシャッターが切られた。この出来事が記念すべき白狼と三橋との最初の出会いの一ページになった。そして今度は三橋が笑みを浮かべ、次のように話し出した。  
 
「よし、では次に、二ノ宮くん、千夜ちゃん、前へ来てくれるかな?」  
 
「「は、はい!」」  
 
「…えい!」(グイッ!!)  
 
「「え?」」  
 
パシャッ!!  
 
「「!!///」」  
 
三橋は、白狼と千夜の間に入り、お互いの肩に腕をかけ、割り込んで少し密着させた状態で映り込み、笑みを浮かべていた場面を千里がタイミング良くシャッターを切る。まるで三橋が二人の兄貴分のように写り込んだ。  
 
「ふぅ〜ちゃんと撮れたかい、千里ちゃん?」  
 
「はい!もうバッチリです!!」  
 
「ほ〜う、どれどれ?…!おお!!バッチリだよ〜」  
 
「ほうほう、これは綺麗に写ってるね〜!…二人の顔が真っ赤だよ!」  
 
「「……」」(ポカーン…)  
 
「しかしだ。…千里ちゃん。…何故、私に対して最後の最後に写真を撮ろうって言ったのかな?」  
 
「あ〜それは私も気になるね〜…何でかな?」  
 
千里は考えるように顎に手をつけ、上半身を振り子のように振り出し、思った事を答えた。  
 
「う〜ん。…何となくですけど〜!…三橋さんがなんか心なしか寂しそうだな〜!と、そう思ったんです。写真を撮っていた時とかも、なんか浮かない顔をしていたようにも思いましたし…」  
 
「…!!」  
 
《お兄ちゃん…なんか寂しそう…私何となくわかるんです!》  
 
「…ほう」  
 
「なるほど」  
 
三橋は頷き、この娘には自分が孤独に悩まされ、一人で寂しい思いを無理に隠し通していた事を察知されたらしい。確かに防衛大学校時代からも日々訓練に明け暮れ、クラブ活動では儀仗隊に入り、大臣や官僚なども来賓する行事で粗相のないように日々の鍛錬を怠ることはなかった。開校祭の時、儀仗隊の行進を披露し終えた後にある少女と出会い、励まされることでその時は心を保てた日もあったが、開校祭を終えたぐらいに小付制度により自分が部屋長の補佐として小付に抜擢され、学年内のリーダーとして激務ながらも完璧に任務をこなさなくてはならない日も続き、精神的な疲れのせいか、時々眠れない日もあった。学校行事にわたる多忙なスケジュールに後輩に対する引き継ぎ作業も一から一まで教えられるような体制を取れるように努力を怠らず、自主的に行動した。四学年になり部屋長になれば、さらに後輩の指導を徹底した時もある。また防衛大卒業後首席卒というレッテルもあり、幹部候補生として下兵の曹長、士長の育成、管理の任務に日々考え、中途半端にならないように真剣に従事しなくてはならない苦悩の日が続いていたのは事実であり、自分の中で心の温もりを忘れていたのはあるかもしれないと、10年前の少女との出会いから今度は千里という高校三年生の娘に教えられたのだと、三橋は納得して笑みを浮かべ、千里を褒めるように言いながら歩み寄ってきた。  
 
「そうか。…はっは。まったく大したものだよこのお嬢さんは…!」(スタッ!スタッ!)  
 
「?」(くびかしげ)  
 
「ありがとう。君のおかげでまた一つ、勉強になったよ!」(なでなで!)  
 
「ひゃっ!!///」(ドキッ!)  
 
「「!!」」  
 
「はっはっは。では今度こそ失礼するよ。また撮った写真、メールアドレスに添付するなりして送ってくれても良いから。それでは!」(ビシッ!!)  
 
「は、はい!気をつけてお帰り下さい///」(シューッ…)  
 
「おやま、千里さん。…もしかして早速浮気ですかな〜?よっ《罪深き乙女》な年頃な事ですね〜♪」  
 
「〜!!///むぅ〜!違いますっ!!///もう先生のバカ〜!!///千夜先輩直伝の手刀チョーップです!!///」(ブン!!)

バキャッ!  
 
「オーバーヘブン!!…あ、悪くないわ〜これ…」  

バタリ!
 
「…ふん!!///」(プンプン!!///)  
 
「…な、なんか少し変わった所がある人だったな〜…」  
 
「そ、そうね…」  
 
 
 
・  
・  
・  
 
〜時は流れ────東京のあるホテル内〜  
 
 
 
 
 
 
 
 
「…今思えばあの時、千里が声を掛けてくれたから、三橋三等海佐との出会いに発展したんだよな。在籍中……本当にあの人には世話になったよ。……」  
 
白狼は、三年前に撮影された真ん中に当時一等海尉の地位であった三橋、左には白狼、右に赤面した千夜の写真を手に持ち、昔を懐かしみつつ、笑みを浮かべる。  
 
「さて、そろそろ遅いしもう寝るか。明日は家探しから始めないとな…」  
 
白狼は、安堵したのか写真をベッドサイドに置き、眠りについた──────  
 
そして白狼自身は、この後に待ち受ける運命のカウントダウンの秒針が動き出している事を、まだ知る由もなかった───────  
 
 
 
 
 
 
 
 
《To Be Continued…→》  
 
 
 

 
 
 


第1話:プロローグ〜白狼編Part1
《完読クリア!!》



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