GiorGiaNo

 
《Paradisoシリーズ〜導かれし七人の現世人の冒険譚》


A.:GiorGia

〜第一章:白狼と誓いの儀礼刀〜

第5話:プロローグ〜ゆい編 Part2



プロローグ〜ゆい編 part1の続きです。




《Capitolo・1》
物語を開始しますか?

🎼Back Ground Music 》》》



You have to look at it with your heart, and you can't see things well. The simple thing is invisible.
(心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ。)

Humans are looking for fulfillment, not happiness.
(人間は充実を求めているのであって、幸福を求めているのではない。)

Antoine de Saint-Exupéry
(アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ)



〜広島・竹内総合病院〜

あれからゆいが入院して一年半の歳月が経過した。ゆいと相部屋であったあかりとはあれから個室対応となり、今は同じ病室にはいない。しかしたまにゆいは外のベンチに行っては、そこであかりと会う約束をしている。そして今日も天気がいいので看護師が見守る中であかりを待っていた。

「ここで良いでしょうか?」

「あ、はい大丈夫です。用が済んだらこのコールでお知らせしますので!」

「わかりました。では用を済ませましたら、お呼びください…」

看護師は多忙なのか愛想のない淡々とした返事をしてその場を後にした。そうしていると、向かい側からゆいとこの入院生活で深い関わりを持ったあかりが姿を現した。だがその姿は普段の様子と違っていた。

「あ、ゆいちゃ〜ん!」(フリフリ!)

「あ、あかりちゃん!…あれ?…!!」

ゆいはあかりの姿を見て驚いた。それは車イスに乗って移動していたからだ。どうやらあれから体調はみるみる衰えているようで、髪の毛がないのか帽子を被っている。その光景を見たのか、ゆいはやはりあかりは元気そうに見えて病気であることに変わりはないと心の中で思った。そして、いつかは自分もと思うと少し悲しくなった。

「…あかりちゃん、足どうしたの?」

「うん、それが最近足が動きにくくなってね…私、どうやら頭に病気があるらしいの…でも大丈夫!まだ口と腕は元気だから!…ゆいちゃんは?なんか元気ないね…」

(そっか。…そうなんだ。)「あ、私は大丈夫!今日あかりちゃんと会えて嬉しいのか、身体の調子がすごく良いから!」

「そっか!それなら良かった!じゃ、お話しよ!!」

「…うん!何から話す?」

「ん〜?じゃあお姉ちゃんの薙刀の話!」

「え!?…ゆいちゃん渋いですね。もっと女の子らしい話の方が…」

「ううん、私は薙刀の話がいい!どうして、ゆいちゃんが薙刀を覚えたくなったのか知りたくなってね…話してくれるかな?」

「…あかりちゃんが言うならわかりました。前にも少し話したけど…薙刀はあかりちゃんと同じ歳くらいにね、私のおばあちゃんに教えてもらったの…少しでもこの病弱な身体を乗り越えようとしてね…でも、その薙刀術の見極めがすごく大変で…」



・・・
・・


🎼Back Ground Music 》》》



〜時は戻り西野ゆいが6歳の時〜

西野ゆいはある名のある家の二女として生まれる。しかし、生まれた頃からあまり元気がなく、医師からもゆいは生まれつき病弱な体質であるということを聞かされる。だが西野一家はそれを理解してゆいを責任持って育てるという決意を持っていた。そしてゆいが6歳の時、その病弱体質を克服するきっかけをゆいが自分から見つけようとしていた。

西野家の敷地内に当時祖父の道場があり、祖父は病気によりこの世を去り、代わりに祖母がこの道場を支えている。祖父は剣道を、祖母は薙刀術を学んでいた仲であり、どういった経緯で二人は結婚したのかは家族はあまり知られてはいない。だが祖母は祖父のことを好いていたようで、祖父の竹刀を大事に保管しているようだった。

「やあ!!」「ハァッ!」「やあ!!」「ハァッ!」

「はい、休憩!!」

「ふぅ…」

「……」(ジーっ!)

ありさは祖母のもとで薙刀の稽古に勤しんでいた。そして、ゆいはその様子を見守っていた。ありさの薙刀に取り組む姿勢は、何故かゆいにとって輝いて見えたからだ。

「ありさ、だいぶ型が安定してきたわね!その調子!」

「ありがとうおばあちゃん!」

「ねえおばあちゃん…」

「ん?どうしたんだいゆいちゃん?」

祖母はしゃがんで、ゆいの目を見る。するとゆいは祖母に笑いながらこう話した。

「私、おばあちゃんとお姉ちゃんのやってるそれ!やりたいです!」

「「!」」

すると祖母とありさはすぐ止めるように返答した。

「だめ!!危ないですよ!それにあなたは身体が弱いのだから!」「そうですよ、ゆいちゃん!無茶なことはおやめなさい!?」

「でもしたい!私、元気になりたい!少し身体も動かさないとそれこそ身体に悪いと思うの…それでもだめですか?」

「「……」」

ありさと祖母はゆいの返答に困っていた。確かに、医師からは少しの運動ならしても良いとは言われている。だが薙刀術の運動量は激しい。一歩間違えば怪我をしてしまうことだってあるだろう。だが身体の弱いゆいが自分から志願してくるのは珍しい。もしかしたらやっていくうちに少しは病弱体質が多少落ち着くかもしれないと思い、祖母とありさは話しあい、ゆいに返答した。

「…わかりました!ただし、やっているうちに身体がしんどくなったらすぐに言うこと!後さっきのように振りの時は勢いがあるから滑ってこけるかもしれないから気をつけること!それを守れるならやっても良いです。」

「ホント!やった〜!」

「ハァ〜とは言うものの、困りましたね。あの子ついていけたらいいのですけど…」

「まあその都度私とあなたが見ておけばいいでしょう。では再開しましょうか。ではゆいちゃん。はいこれ!」

「えっ!?あ、これ何おばあちゃん?」

「それは道着です。道場では必ずそれを着て薙刀をします。それとも着るのが嫌なのでやめますか?」(ニコニコ!)

祖母は少し嫌みな感じでゆいにそう答える。しかしゆいはその回答に対し言葉を返す。

「そんなことはありません!…わかりました!着替えてきます!」(てってって!)

「あら、行っちゃったわね…」

「予想が外れましたね…本当はこんなの着るの嫌と言ってやめておいてくれた方がまだ良かったのですが…」

「そうね…アテが外れたわ」

〜5分後〜

「ふぅ…何とか着れました。」

「あらぴったりね!さすが私のお古!…様になっているわね!」

「…そ、そうですか!?」

「ゆいちゃんはいこれ。今日からこれを使って練習しなさい。それはお姉ちゃんが昔使っていたのものなのよ。大事に使いなさいね!」

「はい!」

「よし!では始めて行きましょうか!」

そう言うと、ゆいは道場内で祖母に後ろに付いてもらい、薙刀の振り方を伝授してもらっていた。その隣にありさが見守りながら、型の練習に勤んでいた。元気よくゆいは竹で出来た薙刀を振る。ふっていた時のゆいはとても嬉しそうであった。

「えいっ!」「えいっ!」「て〜い!」(ブン!)

「ゆい?…楽しい?」

「うん!なんか振っていて気持ちがいいよ♪」

「そう!…それなら良いけど、あまり無理しないでね…」(コテッ!パーン!)

「うん!…あ」(ポロッ!)

「あらあら、落としてしまったわね。まあよく振っていたしそろそろいいかしら?」

「いや〜!まだ大丈夫です!」

「あら、思った以上に夢中になっているわね。これはもしかしたらね〜」

「えい!」「てやっ!」「とうっ!」

その日、ゆいは夢中になり薙刀を振り続けていた。その顔は今まで見たことがないほど清々しい表情だった。しかしその翌日、熱を出して寝込んでしまっていたが、限られた人生の中で自分が打ち込めるものに出会ったのか、特にしんどそうな表情ではなかった。それ以来ゆいはありさ、祖母と薙刀術を指南していくことになった。

〜三年後〜

「めんっ!!」(パン!)「どうっ!」(パン!)「こてっ!」(パン!)「すねっ!」(パン!)「つきっ!」(パン!)

「あらあら、あれから三年が経ってから型も整ってきたようね!それにあの時よりも元気そうね〜」

「ええ。最初はどうしようと思っていたけど、姿勢も良くなっているし、踏み込みもいい感じ。思った以上に飲み込みが早いですね。」

二年の歳月が流れ、ゆいは9歳になり小学三年生になっていた。いまだに通院するときもあるが、あの時に比べて格段に元気に成長している。それが嬉しいのか、ありさと祖母は成長していくゆいの様子を見て微笑みを浮かべていた。

「本当にあの姿を見ていたら、普通の子と同じように思えるのよね〜」

「ええ…ホントに…そろそろあれをやらしてもいいのではと思うのです。」

「…!…ええ!おばあちゃん!…あれをですか!?」

「ええ。あれだけ型が出来ているならそろそろ試してもいいと思うの…」

祖母のいうあれとは見極めのことである。祖母は昔の伝承から、一人前の薙刀術としての資格があるのかを伝統で引き継いてきているという経緯がある。姉のありさも昔受けたことがあるがその見極めは厳しく、合格するまで五年はかかったという。今の病弱体質で、まだ学んで二年と日の浅いゆいに酷ではないのかという意見をありさは祖母に主張する。

「で、でもあれは激しいし、ゆいに何かあれば私…」

「ふふっ…心配はいりませんよ。体育でも特に運動後の体調不良はないと聞いていますし、それに、あの孫の打ち込む姿を見ていると、身体がウズウズしてきましてね…」(ゴゴゴ!!)

「…!!」(おばあちゃん…これは本気ですね!)

「ゆいちゃん〜ちょっといいですか?」

「あ、はい!?なんでしょうか?」

「今から私と実践試合をしますか?」

「えっ!?いいの!?」

「ちょっちょっと!?おばあちゃん!あれをやってゆいが怪我したらどうするのですか!?」

すると祖母は不敵の笑みを浮かべながらありさの質問に答えた。

「うふふ、心配はいりません。私は手を出すつもりはありませんよ。ですが、私から一本でも取れる覚悟…あなたにはありますか…ゆいちゃん?」(ゴゴゴゴ!!)

「……」

祖母からとてつもないオーラを感じる。それはまさに歴戦の強者と言ってもいいくらいの激しい気迫を感じる。しかし、ゆいは祖母の気迫に怯むことなく、自信を持って答える。

「やります。お願いします!」

「…!ゆい!!」

「確かに承りました…では真ん中へ来てください…ありさ、審判をお願いね!」

「は、はい!」(ゆい…くれぐれも気をつけてね!)

そう言うと、ゆいと祖母は薙刀を地面に置いて座り、今か今かと試合の合図を待つ。

「それではこれよりゆいとおばあちゃんによる取り組みを開始します!」

「ゆいちゃん!…覚悟はいいですか!?」(ゴゴゴ…)

「はい!いつでも準備できています。」

「では両者構え!!」

そう言うと、ゆいと祖母は薙刀を持ち、真剣な表情で構え、お互いじっと目を見ている。

「よ〜い!始め!!」

🎼Back Ground Music 》》》




「っ!!」(ダッ!!)

ありさの声でいよいよ見極めが開始された。先に前に出たのはゆいの方である。巧みなステップで、祖母の方へと薙刀の先を当てようとするが、祖母はそれをたやすく受け止める。

(早いですねぇ〜ゆいちゃん。あの時と比べて良くなりましたね!…ですが…!)(ブン!)

祖母は薙刀を振り、ゆいの薙刀に当てようとする。しかしゆいはそれを素早くかわす。そしてすかさず、薙刀を祖母に向けようとする。

「甘いねゆいちゃん!」(ガキっ!)

「くっ!まだまだ…!」

「ヘぇ…ゆい粘りますね…でもその薙刀がいつまで持ち切れるかしら…」

「えいっ!」(ブン!)「やぁー!」(ブン!)

「あらあら…大振りになってきてますよ…ゆいちゃん!…そこ!」(ブン!)

「あっ!!」(キン!)

すると祖母は前に出てゆいの薙刀をはたき落とそうとした。しかしゆいはふらついたが薙刀を離さない。目の色も絶対に諦めないという意思が伝わってくるような芯を持っている。

「ほう…あれに耐えるとは…でもそろそろ時間の問題ですね…!」(シュッ!!シュッ!!)

「…!つきですか!?」(サッ!サッ!)

「今度は下がお留守です!…な!!」(パーン!)

「…くっ!…危ないところでした」(ギリギリ!)

「…ゆい…あなた…」

「やぁっ!!」(ブン!)

パーーン!!

「!!」

🎼Back Ground Music 》》》



ゆいは祖母の薙刀捌きを見事受け流しかわしつつ反撃し、祖母の薙刀先端を見事捉えた。捉えた拍子に祖母はよろめいたがすぐに態勢を立て直す。その光景にありさは何かを感じていた。ゆいには何か隠された潜在能力があるようにも思われる。祖母は不敵に笑い、ゆいを称賛する。

「……」(生まれた時から身体が弱く、それでもここまでやるとは…お見事ですねゆいちゃん…!ですが…そう簡単には取らせませんよ!…そろそろいかせてもらいます!!)

チャキッ!!

「えっ!?」

「あれは…棒術…おばあちゃんもいよいよ本気のようですね」

祖母は、いきなり薙刀術とは違う、棒術の構えを取った。古来日本武術の伝統武術であり、薙刀の刃が折れたとしてもそれでも戦闘を続行するかの如く、棒術独特の棒回しでゆいに迫っていき、三連撃を重ねる。

「はい!」「いえあ!」「どう!」

ブン!シュ!シュ!

「うっ!!」(さっきより重い…!)

カン!カン!キン!

「…ゆい」(これはまずいですね…私も過去に一度あれで一本取られたことがあるの…ゆい…あなたは……)

「…ハッ!」(ぶん!)

「……」(キン!)

「……!!」(おばあちゃん…先ほどよりも守りが硬いですね…でも…!)

「ヤァっ!」(シュッシュ!)

「突きですか!?…でも…!」(ブン!)

「くっ…!はぁっ…はぁっ…」(少し…疲れが出てきましたね…でも私は諦めません!)

「ゆい…頑張って…」(グッ!)

「…はぁっ!」(ブン!)

「……!」(キン!)「はいや!」(ブン!)
 
「…!」(ヒョイ!)「ていや!!」(シュッ!)

「……!」(キン!)「め〜ん!」(ブン!)

「くっ!まだ諦めません!…ハァ…私は!」(ギリギリ!)

お互い一歩も譲らない見極め。ゆいは息を切らし、不利な状況である。それでも祖母に一本取るか、もしくはゆいの薙刀をはたき落とされるまでこの見極めは続く。一本を取るだけでも困難な状況に対し、ゆいは息を切らしそうながらも諦めない。

(ゆいちゃん…ここまで粘るとは息も切らしてさぞ辛いことでしょう…そろそろ終わりにさせてもらいましょうか…!)(ダッ!)

「…!!」

「特攻を!?」

祖母はいよいよ強行突破をし、すぐに決着をつけるような様子でゆいに迫ってくる。ゆいは薙刀を構え、ここで打ち込む姿勢を取る。

「…!!」(シャッ!シャシャッ!)

「…!!」(ブン!)

パーン!!!

「…え!?…嘘…」

「…え!?」(あ、当てた。一本取ったんだ…おばあちゃんから…)

「…ふふ」(スネ…ですか…少しこのご老体で少々痛いですが…お見事です…ゆいちゃん!私は嬉しいものです…孫がよくぞここまで…)

「…!スネあり一本。ゆいの勝利です!!」

🎼Back Ground Music 》》》



「や、やった〜!!おばあちゃんから一本取ったんだ!!」

「やりましたねゆい〜!!あなたはすごいわ!ホントに!」

ありさとゆいは喜んでいた。すると祖母が近づき、ゆいに手を差し伸べた。

「おめでとうゆいちゃん。今回の見極めは…合格です!…よく諦めませんでしたね〜久しぶりに私もいい試合ができたように思います…」(なでなで!)

「ありがとうおばあちゃん…でも疲れてしまいました…」

「おほほ。では今日はたんと腕を振りますからしっかり食べて元気をつけてくださいな…ではそろそろ夕飯の支度をしますのでそろそろ上がりましょうか」

「「はい。ありがとうございました!!」」(ぺこり。)

その日の夕食は豪勢であった。祖母が孫に一本取られたことに成長を感じたのか、とても喜びその日はゆいを祝福した。それを聞いたのか、父親はゆいを快くお祝いし、今度の休日前に父が東京に出張に行くため、その時に姉のありさとゆいと一緒に同行することになり、それがきっかけで防衛大学校の開校祭にて、三橋と大山との出会いに発展することになる…

・・・
・・



B. いいえ


《Capitolo・2》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》


ベンチに座り、ゆいは薙刀の話をし、それを聞いたあかりはとても驚いた様子であった。そしてゆいに対してこう語った

「そうなんだね〜でも薙刀術?って今も続けているの…?」

「それが…15歳の秋でやめたんです。その時は受験もありましたし…」

「そっか…でもその頑張りのおかげでその後にお父さんとお姉さんと東京行って自衛隊の大学に行って、その広島焼きのお兄ちゃんと会ったんだよね!?」

「はい!それはもう本当に楽しくて…あのね!…」

pipipipipi!

するとあかりの方からコールが鳴った。どうやら時間切れといったように看護師が迎えにきた。

「はいは〜いあかりさん。時間ですよ〜!」

「ああ、もう終わっちゃったね…」

「そうですね…でも、話の続きはまた明日お会いして話しましょう!…約束ですよ!」(フリフリ!)

「うん!また明日!約束〜!!」(フリフリ!)

「……!」(西野さん…ごめんなさい…おそらく今日くらいにあかりちゃんは…くっ!…)

二人はまた明日に白いベンチに二人で来て再会を約束した。だがあかりの命の時間は思った以上に短く、はかなく小さいものであった。看護師は長い時間の中で患者の死の直前の様子を何度も観察しており、今日あかりには何かが起こることを予想していた。

🎼Back Ground Music 》》》



その夜のこと…あかりは急激な発作が起こり、頭が割れるかのようなとてつもない頭痛に襲われる。その後呼吸困難が起こり、意識が無くなった。後からあかりの家族が到着したが面会謝絶の状態であり、医師はすぐに集中治療室へと連れて行き、処置するもあかりは目を開けることもなく…翌日の朝に息を引き取った。あかりの家族は落胆した。まだ6歳なのにどうしてと…そして昼頃、昨日と同じくらいの時間に約束したあかりを待つゆいがいた。

「あかりちゃん…来てないな〜今日会うって約束したのに…あれ?」

ゆいは誰かがこちらへと歩いてくるのを発見する。それはあかりの両親であった。だがそれはいつもの優しい表情をしておらず、とても哀愁漂う悲しそうな表情であった。そして重々しい口調でゆいに挨拶し、話しかけた

「…こんにちは…ゆいさん…」「…こんにちは…」

「あ、こんにちは。あかりさんのお父さんとお母さん。…お久しぶりです。…あの…どうかされましたか?…あかりちゃんは。」

「…あかりは…今朝…亡くなった…」「…うぅ…あかり…!」

「…………え?……」

(聞いたかねーああ聞いたーあかりちゃんだったかね!ー小児ガンの子ー今日の今朝亡くなったらしいんだよ!!ーかわいそうに!!ー元気な姿をよくここで見かけたのにね)

ゆいは唖然とした。突然のことでゆいは目の前が真っ白になった。まるで暗闇の中を照らす明るい光が突然消えるかのように。そしてゆいは悲しみの涙を流した。

「嘘…うそよあかりちゃん……嘘…だよね…昨日あんなに元気だったのに…今日も会うって約束したのに…いや…そんなのいや…いやーーーーー!!」(ポタポタ!)

「…くっ!!…なんで…!」(ポタポタ!)「あ、あぁぁぁ!!」(ポタポタ!)

ゆいとあかりの家族は病院の外のベンチでひたすら泣いた。だが声を抑えきれなかった。10分には落ち着いた。そしてあかりの両親から何かを手渡される。

「…これを…」「…もらってあげてください。」

「…これは……!あかりちゃんの髪につけていたひまわりのヘアピン……それとあかりちゃんの写真!」

「…あかりからゆいさんにと…」「手袋のお礼ですと…」

「あ…ああ…!…あかりちゃん…!!」
 
すると、それを持つと、あの時、ゆいの家族を励ましてくれたあかりの明るく和かなまるでひまわりのような笑顔を向けていた時のことを思い出す。

(もう!ゆいちゃんのお父さんお母さんおばあちゃん!…せっかくゆいちゃんの顔を見に来たんだからなんか元気づけてあげなよ〜!もうこんな時ぐらいだよ!元気そうで良かったと笑い合えるの!だから笑おうよ!!笑っていたら明るく前向きになって元気になれるよ。気持ちもスッキリするから!っね!!)(二パ〜ッ♪)

「う…うぁぁぁぁああああああ!!!」

ゆいは再び泣いた。それは人生初の喪失体験であった。自分の限られた人生の中でお互いに唯一信頼され、繋がりをもつことができた6歳の子供が、急死したことのショックが大きく、その日はひどく落ち込んだ。

〜翌日〜

次の日のゆいも元気がなかった。昨夜は一睡も出来ず悲しみに暮れていた。食欲もなく、とても落ち込んでいた。もう生きる希望が見出せないかのようにひどく落ち込んでいた。するとそこに約一年半ぶりに顔を出した面会者がいた。

「やぁ…ゆい…来たよ…!!…ゆい!?どうしたの!!…あなた…」

「……」(…お姉ちゃん…)

そう。面会者はありさだった。今勤めている仕事が落ち着き、約一年半ぶりに妹のゆいを面会にきたがその時のゆいの状態はとても落ち込んでいて、食欲もないせいか、一つも手をつけていない状態であった。それを心配して見かねたありさは、ゆいに食べるように促す。

「ご飯食べてないんだね…食べる?」

「…いらないです…」

「そう言わずに…ほら…」

「…いいんです…!」

「食べないと元気が出ないの!食べなさい!!」

ありさは無理してでも、ゆいに食べさせようとする。それに対し我慢の限界に達したゆいはありさに対して激しく拒絶した。

「……!!…いらないっていっているじゃあないですか!!!!」(ぱしっ!!)

「ちょっ…!?ちょっとゆい!?どうしたっていうの!?」

「黙っていてください!!大体なんなんですか!?なんで今の一年過ぎになってやってくるんですか!!??本当に仕事なんですか!!??私の病気を治すとかいってホントは私のことを放っておいて遊んでいたんでしょう!?だから来てくれなかったんですよね!!??」

「……!!…ゆい…私は…本当に!…本当に…!!!あなたの病気を治すために……ねぇいったい何があったっていうの、教えなさい!ゆい!!」

「もう言うことはありません!!…ここは病院です!!静かにしてすぐに出ていってください!!お姉ちゃんなんか、いや…あなたなんか来て欲しくなかった!!!」

「…!!…ゆい…私は…あなたのために…」

ありさはゆいの発言に痺れを切らしたのか、まるで理性の切れたかのような音がしてゆいに近づいた。そしてゆいの服を掴んで無理やり起き上がらせ、普段の温厚なありさとは違い、鋭い目つきでゆいを睨みつける。そして無意識にゆいの頭上に手をあげていた。

「……仕事をしていたの!!!」(パシーーン!!)

「………!」

「……あ!…あぁ…うっ…ごほっ!!けほっ…けほっ…くっ…はぁ…はぁ…」(ドバッ!)

バターーン!

「…!!お、お姉ちゃん!!!」

振り落とされた手は病室に響き渡った…だがありさは急に倒れてしまい、口から多量の吐血が見られた。すぐさまゆいはNC(ナースコール)で看護師を呼び、ありさをすぐにストレッチャーにて移乗させ、手術室へ行き救急オペ処置を施した。

【手術中】

「先生!?こ、これは!?」「ああ、胃腸にひどい潰瘍ができている。」「おそらくよほど無理をしていたのでしょう…」「過剰な過労とストレスが考えられるな…とにかく患者を治すのだ!!」

ありさは病院内にて現在救急手術を受けている。それを聞いたのか。父母家族が駆けつけた。

「先生!!」「ありさは!?ありさは大丈夫なんですか!?」

「まだ何とも言えません。ただ…彼女よほど無理をしていたのでしょう…おそらく過剰な過労とストレスですね…しばらくちゃんとした睡眠も取れていない状態だったのでしょう…」

「…!!…ありさ…お前」「ああ…ありさ…あなたは…何でそんな無茶を…」

手術室前で悲しみに明け暮れる西野家の父母、そして悲しみにくれるのは両親だけではなかった。

(うぅ…ごめん…本当にごめんなさい!…お姉ちゃん…私…私のせいで…!!!)

ゆいは病室で泣いていた。自分の発言がありさを傷つけてしまい、より悲しみと罪悪感を感じていた。ゆいは心の中で感じていた。自分自身が姉や家族への負担を担っていると考え、自分に対して強い嫌悪感を感じていた。自分が、自分さえいなくなれば家族は救われるという気持ちにまでなりそうになっていた。だがあかりのヘアピンは不思議と光っており、そんな運命を見透かしたかのように絶望に浸っていたゆいに希望の手を差し伸べようとしていたことをゆいは後ほど知ることになる。

・・・
・・


〜時は戻りゆいの墓前〜

「…今思えば思いっきりあなたの頬を叩いてしまったんですよね…仕事が多忙とはいえ、寂しい思いをさせてしまってごめんね…ゆい。」

「仕方のない事だ。君も色々疲れやストレスを抱えていたのだから…」

「私、あの子のことがいつも気になってあまり眠れない日々も続いて、時々家族にも連絡はしていたんです。あかりちゃんって子がいてその子と仲良く入院生活をしていると聞いて。…でも私からしたらゆいの病気を治すためにこんなに辛い思いをしているのに…と言ったちょっと嫉妬にも近い気持ちから、無意識のうちにストレスを感じてたのでしょうね。それで無理に仕事して…過労になって倒れて…」

「…無理をしていたんだね」

「…はい。でも私、あの子のこと放って置けなくてね…ちゃんと話聞いてあげれば良かったわ…でもそれが起こった1週間後くらいにあの子からごめんなさいって言ってきたのは忘れられないわ…フネさんの説得がよっぽど効果があったのかしらね…」

「あかりちゃんの死んだ後、精神的にも不安定であった状態のゆいちゃんを説得できるような人…そんなことができるのは…私の祖母としか思えないね…」

すると三橋は、祖母フネのことについて話した。



B. いいえ


《Capitolo・3》
続きを読みますか?

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♪〜ペルソナ4より・夢想曲

ありさが入院して一週間後、ゆいはいまだにあかりのことを引きずり、生きることに絶望を感じていた。自分の体験したあかりの突然の別れの悲しみによるやるせない気持ちから、姉のありさに強く当たってしまい、ストレスと過労が引き金になり、倒れてしまったことを気にしてしまい、その気持ちが治ってくれず、悩んでいた。天気がいいので気晴らしに外へ出て、いつもあかりと話をしていたベンチへと足を運ぶ。するとそこに年配の少し小太りな高齢女性が座っていた。

「ん?…おや、あんたさんがゆいさんかね?」

「…え?…はい…そうですけど…あなたは?」

すると高齢の女性はうっすらと笑い、ベンチを叩きながらこう答える。

「まぁ立ち話も何だし、座んな!あんた病人だえ。私はこう見えて看護婦やっていたからわかるよ。…さあ…どうぞ!」

「あ、はい。…では失礼します…」

ゆいは高齢女性に言われて腰をかける。だがさすが看護婦なだけあって少し寄り添うようにして座っていた。

「あ…あの…」

「あかりちゃんのことは残念だったね…」

「!!…何でそれを…」

「わかるよ…あんたの持っているそのひまわりのヘアピン…それあかりちゃんのだろ…本当に太陽のように温かくて、ひまわりが上に向くかのような明るい子じゃったな…」

「…そうですね。…でも何で私のことを知っていたのですか?」

すると、高齢女性の方は笑い、自己紹介をした。

私の名前はフネいうもんじゃ!んであかりちゃんとはな、ここに来てから知り合ってね。あかりちゃんがいなくなった時に備えて、亜麻色の髪の毛をしたゆいという女の人が辛い時になればここにくるだろうから任されたと言えばいいのかね。とにかく引き継ぎされたと言えばいいんかね〜…まあそういう感じじゃ。

「!!」

高齢女性の名前はフネというらしい。年齢は90歳で老い先は短いと言っているが目ははっきりし、意思疎通も普通に出来ている。ちなみに出身は沖縄県らしい。そしてゆいが驚いたのはあかりは自分がいなくなることを想定し、その時にゆいを支えてくれる、この人なら信用できる後継人を探していたというところに驚いた。

「まあそういうことじゃ。んで、何について悩んどる?」

「あの…私…」

ゆいはフネにこれまでの事を話した。自分は白血病でもうあと半年しか生きられないこと。その問題にゆいの家族は大きな負担になっているとわかり、自分はいなくなれば家族は幸せなのではと感じ、その気持ちを誘発する引き金になったのは今週初めに起きたあかりとの別れから自分の気持ちの整理がつかず、仕事に多忙でしばらく満足な睡眠もしておらず、ゆいの病気を治すために必死になって働き、約一年半ぶりに来た姉のありさに強く当たってしまい、入院させてしまったこと。それで自分自身に強い嫌悪感を感じ、絶望に浸っていた事を伝えた。するとフネはこのように話した。

「ひとつ聞いていいかね?」

「…はい。」

「あんたは死にたいと言われて後悔残さずに死ねるかい?」

「‼︎」

ゆいはフネの発言に突然驚いた。そしてフネは続けて言葉を語り続ける。

「言っただろう。私も昔看護婦じゃった。だがなうんと昔はこんな綺麗な病院なんか無かった…洞穴じゃった。そこで私はな、何度もアンタ、いんやそれ以上の苦痛を持った者達を見てきた。あんたは、まだ五体満足で歩けるだろうが、その病院では手足はないおろか、最悪、内臓が剥き出しなった状態で搬送された兵士がいたよ…死にたい…殺してくれとな…彼らはそういっていた。だが私たちはその兵士を手厚く…手厚く看病してやった。」

「…」

ゆいは傾聴してフネの話を聞いている。その話は今後の自分にも直面する問題であると察し、聞いていたが話の中の兵士というワードがゆいを何かに気づかせてくれた。

「あの、ちなみに兵士ということは……!…まさか!?」

「ああ、ご推察どおり。それはかつて昔沖縄で起こった日本と米国との戦争であった。私たちの所属していた学徒隊の犠牲者の中でわたしの親友だったヨネって子が流れ弾に撃たれて犠牲になり、200人中その半分くらいが亡くなってしもうた。私たちは、その戦争で負傷した日本兵士の人達を手厚く看病した…そして私に対しその負傷者の中の一人の兵士の人が私に恋をしてた。だがその人は、私たちを庇うために、一人で米国の軍人に立ち向かって行ったのじゃ。私たちを逃すために…だけどなその人も戦死してしまってな…」

「……!」

その話から、ゆいは自覚した。自分はそのフネの壮絶な時代を生きてきた人に比べ、軽い気持ちで死ぬ事を選んでいたことに。今の世の中では病気が治らず苦労している人はたくさんいるのに、自分だけ、その責務から逃げようとしていた。そしてゆいは先程のフネの話でまだ自分が死ぬことが怖いという自覚がまだある事をゆいは心の中で感じていた。

「……」

「はっは。そんなにいじけなさンな!…どれこれからの子なんだ。その時の事を詳しく話そうかね〜」

フネは当時体験した学徒隊の出来事を詳細に教えてくれた。

・・・
・・

🎼Back Ground Music 》》》




Unless you continue to make progress, you will be retreating.Raise your purpose high.
(あなた方は進歩し続けない限りは退歩していることになるのです。目的を高く掲げなさい。)

As a nurse, we always ask what humans are and how they live, but we need to study.
(看護を行う私たちは、人間とは何か、人はいかに生きるかをいつも問いただし、研鑽を積んでいく必要がある。)

Florence Nightingale
(フローレンス・ナイチンゲール)


〜時は戻り沖縄での戦争〜

* This content is just fiction!)
(※この内容はあくまでフィクションです!)

ダダダダダダダン!!

「うわぁぁ…!」

「ま…まずい…負傷だ!!…すぐに手当てを!搬送急げ」

戦時中の沖縄は日本と米国との戦争が勃発していた。その当時の沖縄は看護の手が不足しており、13〜19歳の女学生を対象に女学校で看護技術を学び、看護専門の学徒隊が結成された。戦争が始まり、出撃の指令が出れば、学生達は前向きに国の役に立てればといい、快く引き受けていた。病院というものの小さな洞穴に何人もの負傷した兵士が担ぎ込まれ、衛生面も悪く、その中は壮絶な現場になっていた。

「う…うぅ…」「あ…あぁあ!俺の腕が…!…腕が!!」「あ…あぁ死にたい〜」「く、ハァ…ハァ…苦しい!!」

「すぐに急いで!次の患者がくる!」

「はい!!」

その現場はとても慌ただしく、この世の地獄のようにも思える光景であった。聞こえてくる唸り声、悲鳴、むせ返ってしまうような汗、血の生臭い匂い。そんな壮絶な現場で次々と負傷してくる兵士が運ばれてくる。中には目を背けたくなる光景まである。その中で学徒隊に所属していたフネは必死になって兵士の負傷を手当てしていた。

「誰か!!包帯持っていない!?こちらの方は足りなくなったわ!」

「フネ!」これ使って!!」

「ヨネ…ありがとう!」

ヨネとはフネの幼なじみである。同じ学校で育ち、二人で看護技術を身につけ、今日という日のために頑張ってきた仲だそうだ。その中で負傷した兵士が大きく悲鳴を上げた。

「うぉぉォォ!!」(ブンブン!)

「…くっ…危ない!」(サッ!)

処置をしていると、兵士があまりの痛さに耐えきれず、腕が飛んでくる時だってあった。その時は身体を押さえつけ、鎮圧して治療を行った。しかし、それでも次の負傷した兵士が運ばれる。そして暴れた中の兵士が学徒隊のメンバーの一人に手を挙げてしまった。

「やめてくれ!!」(パシン!!)

「あっ!!」

「だ!大丈夫!?」

「…!いつっつ!…私のことはいいから兵士を優先して!!」

「…分かった!」

「おい!!防空壕まで物資を取りに誰か行ってくれないか!?そろそろ行かないと、包帯、薬品が切れてしまう!!」

「!!」

兵士長が物資を切れたため、学徒隊を派遣し何としてでも、物資を尽きないようにしていた。その時、フネは兵士長に強く志願した。

「私が行きます!!」

「そうか!だが、もう一人誰か行けるか!?」

「フネが行くなら私も行きます!!」

「ヨネ…ありがとう。」

そう言って二人は洞穴から外に出た。だが外は発砲音の飛び交う戦場であった。上になれば戦闘機からの発砲も免れない。それらに細心の注意を払い、フネとヨネはひたすら道を歩いていく。

「どこを向いても発砲音だらけ…四方八方で気を配らないとね…」

「ええ。でも久しぶりに外の空気を吸えて、少し落ち着いた。」

「ヨネ…もうこんな時にそれ言われたんば気が抜けるからやめなしてよ〜」

フネとヨネは歩きながら話をしつつ、目的地まで向かっていく。だがそこに会う事を願いたくないものが、目の前に現れた。

Stop with the women there! !!
(そこの女共止まれ!!)

「「!!」」

そこには米国の兵士が立ち、目の前に銃を突きつけ、少しずつフネとヨネに迫ってくる。その様子に二人は、もうなす術なしかと思い、目を瞑った。だがとこからか銃声が聞こえた。すると米国兵士に命中したのか、口から血を流して二人にこう告げた。

「…oh…shit!!」
(く、くそ!!)

「「…え?」」

🎼Back Ground Music 》》》



「お前達!!何をボサッとしている!早く逃げるんだ!!」

「「!!」」

振り向くと、そこには二人と同じくらいの年齢の若い日本兵士が立ち尽くしていた。そしてさっきの光景から彼が二人を守ってくれたのだろうと、そしてその兵士はまたもや戦場へと突き進んで二人の視界から姿を消した。

「…行こうヨネ!あの人の頑張り、無駄にしてはいけない!!」

「そうだね!…急ごう!」

二人は約三時間後、やっとのことで防空壕まで辿り着き物資を持っていくことに成功した。だがその帰り道に、とんでもないものが落ちていた。それは敗れた日本兵士の腕や足、そして首まで…とあまりに衝撃なものを見たせいか、二人は気分を悪くする。だがそれでも気を強く持ち、拠点へと戻っていく。すると頭上から戦闘機の音が聞こえてきた。

ブォーーーン!!

「!!ヨネ隠れて!!」

「!!」

二人は草むらへと身を隠し、戦闘機が過ぎ去るのを待った。運よく敵には気づかれなかったのか、発砲されることなく、戦闘機は過ぎ去っていった。過ぎたのを確認したのか、二人は顔を上げた。

「はぁ〜びっくりした。」

「でも運良く助かったね。さあ早く行こ。また見つかったら次はないかもしれない。」

「…そうだね行こう。」

そう言って二人は警戒しながら拠点へと戻っていく。するとやっと拠点が見えてきていた。

「ヨネ着いたよ!」

「ええ、やっと着い…!!」

ダーーン!

「え…!…!」

すると、どこかの流れ弾なのか、ヨネの頭を銃弾が貫いた。その拍子にヨネは無惨にも倒れてしまった。それを見てフネはすぐにヨネに歩み寄った。

「…あ!…ああ…!…ヨネ!!?…しっかりして!!」

「…ご…ごめんね…フネ…ヘマしちゃった。もう私はいいから…早く物資を…」

「で、でも!」

「あなた…は私の分ま…頼んだ…よ…」

するとそれを言った後、ヨネは絶命した。フネは苦しくなり、涙を流した。幼なじみの子をこの戦争で奪われた事を…とても絶望してしまった。だが、言いつけ通りに前を向き、物資を拠点まで持ち帰ることに成功し、兵士長に報告した。

「よくやった。…ヨネのことは残念だったな…」

「…はい。」

「だが落ち込んでいる場合ではないぞ!さらに兵士が運ばれてくるのだ。彼女の為にも尽力を尽くせ!」

「はい!」

「おい!!次の運ばれたぞ!手当てを頼む!!」

「はい!すぐ行きます!!」

フネは気持ちを切り替え、負傷者の兵士の救護をする。すると、その兵士はどこかで見た顔をしていた。

「あ、あなたは!?」

「…ああ、君学徒隊だったのか…よく無事だったな…もう一人の子は…」

「動かないで!すぐに処置するから!!」

そう、負傷者はあの時フネとヨネを助けてくれた若い兵士であった。腹部への出血がひどく、所々傷を負っていた。それを見かねて、フネはあの時この人がいなかったら、私たちは間違いなく米国の兵士にやられていたと感じ、手厚く処置を施した。

「すまないな…うぅ…!!」

「あなただけは絶対死なせたくない!!必ず生きてもらいます!!」

その日の夜になり、周囲はしばらく休まった。だが次の開戦がいつになるかわからない。その緊張感の中で、フネと若き兵士は少しだけ話をしていた。

「…そうか、もう一人の子…ヨネちゃんは亡くなったのか…」

「…はい…流れ玉に巻き込まれ、頭を貫かれて…」

「…そうか。それは気の毒だったな…」

すると若い兵士は、気を紛らわそうと、フネの頭を優しく撫で、そして優しく抱き寄せた。だがその兵士の手はとても震えていた。

「…なっ!?…え?」

「こればかりは…同情する。私も今日で部隊に所属していた同志とも呼べる戦友を何人も失った。私は仇を打とうと、米国の兵士の前に出てこの様なのだ…この怪我を負って死んだのではないかとも思った…だがそれを君が手厚く処置を施し、助けてくれた…感謝する。」

「……はい!」(ギュッ!)

フネはつくづく思った。戦争で人が失っていき、血を流して別れを経験して辛い思いをするもの達、そして看護の技術を学び、負傷した人たちを手厚く看病する慈悲の心を持って行うたびに、命の尊さをこの戦争でフネは学び実感した。だがそれと比例して知るたびにフネは涙を流していた。

「う…うぅ…!」

「今は泣くな…誰しも、泣きたい気持ちを堪えているんだ。泣く時は…我々が勝利した時でしかない。前を向くんだ。後ろ向きの気持ちでは君の友人も顔向け出来んだろう」

「…そうですよね…」

「それにこれは、個人的なことだが…私は君を守りたい。あの時君と初めて会って本能的に助けたいと…思えたのだ…!」

「…え!?///」

「…君名前は?」

「…フネと言います///」

「…いい名だ…私は…修一」

そしてお互いの一夜は過ぎていく。だがその一夜が過ぎた翌日、学徒隊から衝撃的な事を聞かされる。

「…!え!!学徒隊が…解散!?」

どうやら戦局は不利になり、日本軍は撤退し、学徒隊も解散を余儀なくされた。上官は自分の身は自分での一点張りであった。すると、米国の足跡がこちら側に近づき、攻めていることに気付いた。そして瓶を穴の中に投入され、あちこちに煙が立ち込めた。

「まずい!毒ガスだ!すぐに退避しろ!」

「…く、苦しい!!」「!!」「あああ!」

「こっちだ!早く出るんだ!!」

兵士の修一は、フネ、その他の学徒隊メンバーを洞穴の外へと誘導する。そして、こう言い放った。

「君達は無事に生き残れ!私が奴らを引き付ける!君たちは私を見ずに走り、逃げ切るのだ!!」

「そ、そんな…一緒に逃げましょう修一さん!!!」

「…健闘を祈る!!」(ビシッ!)

そう言って、修一は米国の軍勢の方へと走り去っていった。その間にフネは修一の無事を祈りながら、学徒隊のメンバーを連れて走る。途中米国との銃撃に遭うこともあったがそれでも、フネは立ち止まらず、米国からの攻撃からの難を逃れ、無事に逃げ延びる。だが今回の米国の攻撃により、フネを含めた学徒隊が200人中半分は戦死した。その後、電報から自分達を守ってくれた修一も戦死した事を告げられ、フネは悲しんだがあの時、守ってくれてありがとうと感謝の意を込めた。現在では沖縄は米国の基地ができ、学徒隊のあった学校には慰霊碑を建てられている。フネは25歳に沖縄から広島に移り住み、そこで三橋修一というあの兵士と名が一緒であり、当時戦争中の時代では戦艦榛名の乗組員であった男と結婚し、娘が生まれ、フネの影響で看護師となる。その後に男と結婚し、後に防衛大学校首席卒かつ幹部自衛官として活躍していく三橋宗一郎が誕生する。

・・・
・・



B. いいえ


《Capitolo・4》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



「ふぅ…今思えば色々あったね〜広島に来ては、被災した広島の復興のために尽力を尽くし、また看護婦として被災したものの看護までして、色々あったものだよ」

「……」

「今思えばあの修一という兵士の人はもいつかこんな日がいつか来るだろうと思い、かつて日本にはこんな出来事があったのだと命をかけてまで、大事なことを伝えてもらうために私たちを必死に助けてくれたのだと思うよ」

フネの話を傾聴して聞いていたゆい。そしてゆいは、あることを聞いた。

「今でもヨネさんと修一さんの死を引きずってはいませんか?」

「いんや…といえば嘘になるかね…私もあの頃若かったからね〜。よく亡くなった当時の人たちのことを夢で見たものだよ。今でもたまに夢で出てくるよ。でもね…あの時の出会いがあるからこそ悲しみで済ませてはいけないと思い、あの人たちの分まで多くの人たちを助けてきたよ。それだけ命の尊さをあの戦争の現場で体験したのだから…!あんたはさっきから何かとクヨクヨしとるようやけどいつまでもクヨクヨしちゃあいかん。先に行きたいのならクヨクヨせずに前をむかんせ!」

「…!!」

ゆいはフネの年の功と言える言葉で、心が動いた感覚に襲われた。そしてフネは続けてこう語った。

「今は戦争がない世の中やけどそれでも辛くなって誰にも素直な気持ちを伝えられず、簡単に命を捨てる若者が増えてきてるのは確かやね。やけどそんな今やからこそ最期の日になるまで人は諦めてはいかん!ここは病院やけど昔のような鉄砲の玉も飛んで早死にすることはないし、前よりか笑顔をさらけ出せる世の中になった。…後これだけ言っておくわ!あかりちゃんはな、あんたに生きることの辛さ、苦しさといった絶望を感じさせるために死んだんとは違う!あの子にもあんたにも命があって、それは平等に限られとる命の尊さ、そして病気で亡くなるというはかない現実があるということ。でもそれでも最後まで諦めずににこやかに明るく元気に過ごし、何よりあんたを大事に想ってくれている家族を大切にすること。これがあの子があんたに伝えたいことやったと思うんや…!」

「…!!……う…ぅ…あかりちゃん!!」(ポロポロ!)

ゆいはフネの力強い発言に涙した。そしてようやく、自分の後ろ向きな気持ちになって入ってしまった底無し沼から救いの手を差し伸べられ、助けられたのような感覚になり安堵した。そして涙を拭いてフネにお礼を行った。

「…ありがとうございます!」

「後これをあんたにあげるよ。闘病のお守りとしてね!」

フネからお守りを渡された。その文字には病気平癒守と書かれていた。それを受け取りゆいはフネにお礼を言った。

「…大事にします。…本当にありがとうございました!」

「礼なら良いよ。それよりも先にやることあるんやろに、早いとこ姉さんとこに行ってあげなはれや!」

「はい…失礼しました。フネおばあちゃん。今日は本当にありがとうございました。ご恩は…いつまでも忘れません!」

「フフフ…分かったから早くおいき!!」

そうフネに言い、ゆいは病院へと戻っていった。その表情はさっきまでの暗く沈んだものとは違い、晴々な気持ちな表情をしていた。

「…ふう…柄にもないこと言ってしまったねえ…もうあかりちゃんは最後にこんな仕事を持ってくるなんて…まあ悪くないか…さ、家に帰って、今幹部自衛官になってる孫に飯の準備を手伝ってやるかね〜」

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜金色のガッシュベルより・優しい風

〜ありさの病室〜

「…あ、あれ?ここは…病室?」(パチッ!)

「あ、西野さん!気がつかれましたか!?」

ありさは目が覚めて、周囲を確認する。そこには看護師が近くで見守っていたようだ。すると看護師がこう伝えた。

「あ〜よかった目が覚めて…ありささん、あれから一週間も眠り続けていましたから…疲れがあったのか、よっぽど睡眠が取れていなかったのでしょうね」

「えっ!?…そんなにですか…でもなんで私…あ、そうです!…ゆいは!?」

「ええ、少々お待ちを…ゆいさんどうぞ。」

「お、お姉ちゃん…!よかった…本当によかった!!…お姉ちゃん!!!」(ダキッ!)

「…わっ!!…ゆい…!ごめんね!…本当にごめんね!!あの時無理やりぶってしまって!…ゆい〜!!」(ポロポロ!)

「こちらこそごめんなさい!!…もういいの!私が悪かったの、間違えていたんですから!…お姉ちゃんが倒れた時は本当に心配しました!!…これは本当の気持ち…です!!…ああ…お姉ちゃん…!!」(ポロポロ!)

「心配かけたね…ゆい…もう大丈夫だから…あなたの言う通り…今になってあなたに会いにきて…ホントお姉ちゃん失格ね…!寂しい思いさせてごめんね…でもこんな私を許してくれて…ありがとう…!」(ポタポタ!)

「ううん……お姉ちゃんの身体…温かい…すごく安心します…やっぱり私…お姉ちゃんのこの温かみが好きです…」

「…ゆい…!」(ポタポタ!)( ギュッ!)

「…お姉ちゃん…!」(ポタポタ!( ギュッ!)

夕方になり、その場面がドラマチックに彩られ、二人の姉妹の抱擁が神秘的に見える。それを見守る看護師はその様子から、あの出来事から仲直りができたのを見て安堵する。あれからゆいは起こった事の経緯をありさに説明して納得し、そしてあれから1週間が経過する。

〜ありさの退院日〜

「ではそろそろ行きますね。しばらく休んだから仕事が溜まっていると思うから」

「気をつけてね。ほら…ゆい。ありさに何か行ってあげなさい。」

「……」

「どうしたゆい?」「ゆい?どうしたの?」「ゆいちゃん?」

「…お姉ちゃんもう無理しないでね!…私もできるだけ頑張るから…最期まで諦めないから…だから!」

「…ふふっ…分かった…元気にしておきなさいね!」(ダキッ!)

「…はい…!!」(二コッ!)

(((ニコッ!!)))

その時、西野一家から優しい風が吹いたように思う。とても家族愛に満ちたとても清々しく温かい風が吹いたように…家族は久しぶりに家族としての明るさを取り戻していたようだ。そして…来るべき残り一年半という運命の日が来るまで…ゆいは最期まで諦める事はなかった。

・・・
・・


〜時は戻りゆいの墓〜

「フネさんってすごい苦労…されていたんですね」

「ああ。私にとっても自慢の祖母だ。いつも母が苦労していた時、祖母が助けてくれた。私自身祖母の話を聞いてそれがきっかけで誰かの役に立つ仕事をしたいと思ったのだ。」

「それで防衛大学校を出て今では幹部自衛官に…そうなんですね。でも三橋さんらしいです。彼が慕う理由がわかりますね…」

「…そろそろ行こう。また来るよゆいちゃん…」

「またね。ゆい…!」

そういうと二人はかかとを裏にして帰路に行こうとする。すると何か優しい風が吹いてきた。とても爽やかで清らかな風が吹いていた。

「いい風ですね…なんか優しいと言いますか……あれ?」

「ああ。とても清々しい……ん?」

二人は、寺の外に出た。すると二人は現実的ではないことに遭遇して気づいた。二人の前には霧のようなモヤが出現する。するとそのモヤからどこからか声がしたように思えた。

《ミツハシサントウカイサ! ニシノサン! イツマデモオゲンキデ!》《オニイチャン! オネエチャン! ワタシハオカゲサマデカラダハケンコウデス!イツモゲンキニスゴシテイマスヨ!》

「「!!」」

それは二人がよく知る人物の声であった。それが聞こえた後、モヤは風が吹いたかのように消えていった。

「あ…ああ…!……ゆい!………ありがとうね……君も…どうか……お元気で…!」(ポタポタ!)

「…そうか……君は…ゆいちゃんと…その子のこと…よろしく頼んだぞ!!」(ビシッ!!)

二人は、まるで信じられないが現実で実際にこの出来事を体験した。そしてその優しい風はまた何処かで困っている人に巡り巡っていくだろう。いつまでも…






《To Be Continued…→》
 
 
 

 
 
 


第4話:プロローグ〜ゆい編 Part2
《完読クリア!!》



次の話へ進みますか?

A. はい 
B. いいえ