🎼Back Ground Music 》》》
You have to look at it with your heart, and you can't see things well. The simple thing is
invisible.
(心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ。)
Humans are looking for fulfillment, not happiness.
(人間は充実を求めているのであって、幸福を求めているのではない。)
Antoine de Saint-Exupéry
(アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ)
〜広島・竹内総合病院〜
あれからゆいが入院して一年半の歳月が経過した。ゆいと相部屋であったあかりとはあれから個室対応となり、今は同じ病室にはいない。しかしたまにゆいは外のベンチに行っては、そこであかりと会う約束をしている。そして今日も天気がいいので看護師が見守る中であかりを待っていた。
「ここで良いでしょうか?」
「あ、はい大丈夫です。用が済んだらこのコールでお知らせしますので!」
「わかりました。では用を済ませましたら、お呼びください…」
看護師は多忙なのか愛想のない淡々とした返事をしてその場を後にした。そうしていると、向かい側からゆいとこの入院生活で深い関わりを持ったあかりが姿を現した。だがその姿は普段の様子と違っていた。
「あ、ゆいちゃ〜ん!」(フリフリ!)
「あ、あかりちゃん!…あれ?…!!」
ゆいはあかりの姿を見て驚いた。それは車イスに乗って移動していたからだ。どうやらあれから体調はみるみる衰えているようで、髪の毛がないのか帽子を被っている。その光景を見たのか、ゆいはやはりあかりは元気そうに見えて病気であることに変わりはないと心の中で思った。そして、いつかは自分もと思うと少し悲しくなった。
「…あかりちゃん、足どうしたの?」
「うん、それが最近足が動きにくくなってね…私、どうやら頭に病気があるらしいの…でも大丈夫!まだ口と腕は元気だから!…ゆいちゃんは?なんか元気ないね…」
(そっか。…そうなんだ。)「あ、私は大丈夫!今日あかりちゃんと会えて嬉しいのか、身体の調子がすごく良いから!」
「そっか!それなら良かった!じゃ、お話しよ!!」
「…うん!何から話す?」
「ん〜?じゃあお姉ちゃんの薙刀の話!」
「え!?…ゆいちゃん渋いですね。もっと女の子らしい話の方が…」
「ううん、私は薙刀の話がいい!どうして、ゆいちゃんが薙刀を覚えたくなったのか知りたくなってね…話してくれるかな?」
「…あかりちゃんが言うならわかりました。前にも少し話したけど…薙刀はあかりちゃんと同じ歳くらいにね、私のおばあちゃんに教えてもらったの…少しでもこの病弱な身体を乗り越えようとしてね…でも、その薙刀術の見極めがすごく大変で…」
・・・
・・
・
🎼Back Ground
Music 》》》
〜時は戻り西野ゆいが6歳の時〜
西野ゆいはある名のある家の二女として生まれる。しかし、生まれた頃からあまり元気がなく、医師からもゆいは生まれつき病弱な体質であるということを聞かされる。だが西野一家はそれを理解してゆいを責任持って育てるという決意を持っていた。そしてゆいが6歳の時、その病弱体質を克服するきっかけをゆいが自分から見つけようとしていた。
西野家の敷地内に当時祖父の道場があり、祖父は病気によりこの世を去り、代わりに祖母がこの道場を支えている。祖父は剣道を、祖母は薙刀術を学んでいた仲であり、どういった経緯で二人は結婚したのかは家族はあまり知られてはいない。だが祖母は祖父のことを好いていたようで、祖父の竹刀を大事に保管しているようだった。
「やあ!!」「ハァッ!」「やあ!!」「ハァッ!」
「はい、休憩!!」
「ふぅ…」
「……」(ジーっ!)
ありさは祖母のもとで薙刀の稽古に勤しんでいた。そして、ゆいはその様子を見守っていた。ありさの薙刀に取り組む姿勢は、何故かゆいにとって輝いて見えたからだ。
「ありさ、だいぶ型が安定してきたわね!その調子!」
「ありがとうおばあちゃん!」
「ねえおばあちゃん…」
「ん?どうしたんだいゆいちゃん?」
祖母はしゃがんで、ゆいの目を見る。するとゆいは祖母に笑いながらこう話した。
「私、おばあちゃんとお姉ちゃんのやってるそれ!やりたいです!」
「「!」」
すると祖母とありさはすぐ止めるように返答した。
「だめ!!危ないですよ!それにあなたは身体が弱いのだから!」「そうですよ、ゆいちゃん!無茶なことはおやめなさい!?」
「でもしたい!私、元気になりたい!少し身体も動かさないとそれこそ身体に悪いと思うの…それでもだめですか?」
「「……」」
ありさと祖母はゆいの返答に困っていた。確かに、医師からは少しの運動ならしても良いとは言われている。だが薙刀術の運動量は激しい。一歩間違えば怪我をしてしまうことだってあるだろう。だが身体の弱いゆいが自分から志願してくるのは珍しい。もしかしたらやっていくうちに少しは病弱体質が多少落ち着くかもしれないと思い、祖母とありさは話しあい、ゆいに返答した。
「…わかりました!ただし、やっているうちに身体がしんどくなったらすぐに言うこと!後さっきのように振りの時は勢いがあるから滑ってこけるかもしれないから気をつけること!それを守れるならやっても良いです。」
「ホント!やった〜!」
「ハァ〜とは言うものの、困りましたね。あの子ついていけたらいいのですけど…」
「まあその都度私とあなたが見ておけばいいでしょう。では再開しましょうか。ではゆいちゃん。はいこれ!」
「えっ!?あ、これ何おばあちゃん?」
「それは道着です。道場では必ずそれを着て薙刀をします。それとも着るのが嫌なのでやめますか?」(ニコニコ!)
祖母は少し嫌みな感じでゆいにそう答える。しかしゆいはその回答に対し言葉を返す。
「そんなことはありません!…わかりました!着替えてきます!」(てってって!)
「あら、行っちゃったわね…」
「予想が外れましたね…本当はこんなの着るの嫌と言ってやめておいてくれた方がまだ良かったのですが…」
「そうね…アテが外れたわ」
〜5分後〜
「ふぅ…何とか着れました。」
「あらぴったりね!さすが私のお古!…様になっているわね!」
「…そ、そうですか!?」
「ゆいちゃんはいこれ。今日からこれを使って練習しなさい。それはお姉ちゃんが昔使っていたのものなのよ。大事に使いなさいね!」
「はい!」
「よし!では始めて行きましょうか!」
そう言うと、ゆいは道場内で祖母に後ろに付いてもらい、薙刀の振り方を伝授してもらっていた。その隣にありさが見守りながら、型の練習に勤んでいた。元気よくゆいは竹で出来た薙刀を振る。ふっていた時のゆいはとても嬉しそうであった。
「えいっ!」「えいっ!」「て〜い!」(ブン!)
「ゆい?…楽しい?」
「うん!なんか振っていて気持ちがいいよ♪」
「そう!…それなら良いけど、あまり無理しないでね…」(コテッ!パーン!)
「うん!…あ」(ポロッ!)
「あらあら、落としてしまったわね。まあよく振っていたしそろそろいいかしら?」
「いや〜!まだ大丈夫です!」
「あら、思った以上に夢中になっているわね。これはもしかしたらね〜」
「えい!」「てやっ!」「とうっ!」
その日、ゆいは夢中になり薙刀を振り続けていた。その顔は今まで見たことがないほど清々しい表情だった。しかしその翌日、熱を出して寝込んでしまっていたが、限られた人生の中で自分が打ち込めるものに出会ったのか、特にしんどそうな表情ではなかった。それ以来ゆいはありさ、祖母と薙刀術を指南していくことになった。
〜三年後〜
「めんっ!!」(パン!)「どうっ!」(パン!)「こてっ!」(パン!)「すねっ!」(パン!)「つきっ!」(パン!)
「あらあら、あれから三年が経ってから型も整ってきたようね!それにあの時よりも元気そうね〜」
「ええ。最初はどうしようと思っていたけど、姿勢も良くなっているし、踏み込みもいい感じ。思った以上に飲み込みが早いですね。」
二年の歳月が流れ、ゆいは9歳になり小学三年生になっていた。いまだに通院するときもあるが、あの時に比べて格段に元気に成長している。それが嬉しいのか、ありさと祖母は成長していくゆいの様子を見て微笑みを浮かべていた。
「本当にあの姿を見ていたら、普通の子と同じように思えるのよね〜」
「ええ…ホントに…そろそろあれをやらしてもいいのではと思うのです。」
「…!…ええ!おばあちゃん!…あれをですか!?」
「ええ。あれだけ型が出来ているならそろそろ試してもいいと思うの…」
祖母のいうあれとは見極めのことである。祖母は昔の伝承から、一人前の薙刀術としての資格があるのかを伝統で引き継いてきているという経緯がある。姉のありさも昔受けたことがあるがその見極めは厳しく、合格するまで五年はかかったという。今の病弱体質で、まだ学んで二年と日の浅いゆいに酷ではないのかという意見をありさは祖母に主張する。
「で、でもあれは激しいし、ゆいに何かあれば私…」
「ふふっ…心配はいりませんよ。体育でも特に運動後の体調不良はないと聞いていますし、それに、あの孫の打ち込む姿を見ていると、身体がウズウズしてきましてね…」(ゴゴゴ!!)
「…!!」(おばあちゃん…これは本気ですね!)
「ゆいちゃん〜ちょっといいですか?」
「あ、はい!?なんでしょうか?」
「今から私と実践試合をしますか?」
「えっ!?いいの!?」
「ちょっちょっと!?おばあちゃん!あれをやってゆいが怪我したらどうするのですか!?」
すると祖母は不敵の笑みを浮かべながらありさの質問に答えた。
「うふふ、心配はいりません。私は手を出すつもりはありませんよ。ですが、私から一本でも取れる覚悟…あなたにはありますか…ゆいちゃん?」(ゴゴゴゴ!!)
「……」
祖母からとてつもないオーラを感じる。それはまさに歴戦の強者と言ってもいいくらいの激しい気迫を感じる。しかし、ゆいは祖母の気迫に怯むことなく、自信を持って答える。
「やります。お願いします!」
「…!ゆい!!」
「確かに承りました…では真ん中へ来てください…ありさ、審判をお願いね!」
「は、はい!」(ゆい…くれぐれも気をつけてね!)
そう言うと、ゆいと祖母は薙刀を地面に置いて座り、今か今かと試合の合図を待つ。
「それではこれよりゆいとおばあちゃんによる取り組みを開始します!」
「ゆいちゃん!…覚悟はいいですか!?」(ゴゴゴ…)
「はい!いつでも準備できています。」
「では両者構え!!」
そう言うと、ゆいと祖母は薙刀を持ち、真剣な表情で構え、お互いじっと目を見ている。
「よ〜い!始め!!」
🎼Back Ground
Music 》》》
「っ!!」(ダッ!!)
ありさの声でいよいよ見極めが開始された。先に前に出たのはゆいの方である。巧みなステップで、祖母の方へと薙刀の先を当てようとするが、祖母はそれをたやすく受け止める。
(早いですねぇ〜ゆいちゃん。あの時と比べて良くなりましたね!…ですが…!)(ブン!)
祖母は薙刀を振り、ゆいの薙刀に当てようとする。しかしゆいはそれを素早くかわす。そしてすかさず、薙刀を祖母に向けようとする。
「甘いねゆいちゃん!」(ガキっ!)
「くっ!まだまだ…!」
「ヘぇ…ゆい粘りますね…でもその薙刀がいつまで持ち切れるかしら…」
「えいっ!」(ブン!)「やぁー!」(ブン!)
「あらあら…大振りになってきてますよ…ゆいちゃん!…そこ!」(ブン!)
「あっ!!」(キン!)
すると祖母は前に出てゆいの薙刀をはたき落とそうとした。しかしゆいはふらついたが薙刀を離さない。目の色も絶対に諦めないという意思が伝わってくるような芯を持っている。
「ほう…あれに耐えるとは…でもそろそろ時間の問題ですね…!」(シュッ!!シュッ!!)
「…!つきですか!?」(サッ!サッ!)
「今度は下がお留守です!…な!!」(パーン!)
「…くっ!…危ないところでした」(ギリギリ!)
「…ゆい…あなた…」
「やぁっ!!」(ブン!)
パーーン!!
「!!」
🎼Back
Ground Music 》》》
ゆいは祖母の薙刀捌きを見事受け流しかわしつつ反撃し、祖母の薙刀先端を見事捉えた。捉えた拍子に祖母はよろめいたがすぐに態勢を立て直す。その光景にありさは何かを感じていた。ゆいには何か隠された潜在能力があるようにも思われる。祖母は不敵に笑い、ゆいを称賛する。
「……」(生まれた時から身体が弱く、それでもここまでやるとは…お見事ですねゆいちゃん…!ですが…そう簡単には取らせませんよ!…そろそろいかせてもらいます!!)
チャキッ!!
「えっ!?」
「あれは…棒術…おばあちゃんもいよいよ本気のようですね」
祖母は、いきなり薙刀術とは違う、棒術の構えを取った。古来日本武術の伝統武術であり、薙刀の刃が折れたとしてもそれでも戦闘を続行するかの如く、棒術独特の棒回しでゆいに迫っていき、三連撃を重ねる。
「はい!」「いえあ!」「どう!」
ブン!シュ!シュ!
「うっ!!」(さっきより重い…!)
カン!カン!キン!
「…ゆい」(これはまずいですね…私も過去に一度あれで一本取られたことがあるの…ゆい…あなたは……)
「…ハッ!」(ぶん!)
「……」(キン!)
「……!!」(おばあちゃん…先ほどよりも守りが硬いですね…でも…!)
「ヤァっ!」(シュッシュ!)
「突きですか!?…でも…!」(ブン!)
「くっ…!はぁっ…はぁっ…」(少し…疲れが出てきましたね…でも私は諦めません!)
「ゆい…頑張って…」(グッ!)
「…はぁっ!」(ブン!)
「……!」(キン!)「はいや!」(ブン!)
「…!」(ヒョイ!)「ていや!!」(シュッ!)
「……!」(キン!)「め〜ん!」(ブン!)
「くっ!まだ諦めません!…ハァ…私は!」(ギリギリ!)
お互い一歩も譲らない見極め。ゆいは息を切らし、不利な状況である。それでも祖母に一本取るか、もしくはゆいの薙刀をはたき落とされるまでこの見極めは続く。一本を取るだけでも困難な状況に対し、ゆいは息を切らしそうながらも諦めない。
(ゆいちゃん…ここまで粘るとは息も切らしてさぞ辛いことでしょう…そろそろ終わりにさせてもらいましょうか…!)(ダッ!)
「…!!」
「特攻を!?」
祖母はいよいよ強行突破をし、すぐに決着をつけるような様子でゆいに迫ってくる。ゆいは薙刀を構え、ここで打ち込む姿勢を取る。
「…!!」(シャッ!シャシャッ!)
「…!!」(ブン!)
パーン!!!
「…え!?…嘘…」
「…え!?」(あ、当てた。一本取ったんだ…おばあちゃんから…)
「…ふふ」(スネ…ですか…少しこのご老体で少々痛いですが…お見事です…ゆいちゃん!私は嬉しいものです…孫がよくぞここまで…)
「…!スネあり一本。ゆいの勝利です!!」
🎼Back Ground
Music 》》》
「や、やった〜!!おばあちゃんから一本取ったんだ!!」
「やりましたねゆい〜!!あなたはすごいわ!ホントに!」
ありさとゆいは喜んでいた。すると祖母が近づき、ゆいに手を差し伸べた。
「おめでとうゆいちゃん。今回の見極めは…合格です!…よく諦めませんでしたね〜久しぶりに私もいい試合ができたように思います…」(なでなで!)
「ありがとうおばあちゃん…でも疲れてしまいました…」
「おほほ。では今日はたんと腕を振りますからしっかり食べて元気をつけてくださいな…ではそろそろ夕飯の支度をしますのでそろそろ上がりましょうか」
「「はい。ありがとうございました!!」」(ぺこり。)
その日の夕食は豪勢であった。祖母が孫に一本取られたことに成長を感じたのか、とても喜びその日はゆいを祝福した。それを聞いたのか、父親はゆいを快くお祝いし、今度の休日前に父が東京に出張に行くため、その時に姉のありさとゆいと一緒に同行することになり、それがきっかけで防衛大学校の開校祭にて、三橋と大山との出会いに発展することになる…
・・・
・・
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