Preparing for death means living a good life. The better the life, the less fear of death and the
more peaceful death. There is no longer death for those who have gone through the sublime deeds.
(死への準備をするということは、良い人生を送るということである。良い人生ほど、死への恐怖は少なく、安らかな死を迎える。崇高なる行いをやり抜いた人には、もはや死は無いのである。)
The only significance of life is to live for others.
(人生の唯一の意義は、人のために生きることである。)
Лев Николаевич Толстой
(レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ)
〜時は流れ白狼家・自宅での家族葬〜
《ハッ!ここは…え、俺の家…ってことはまさか…そうか…全く最後にこれを選んでくるとは…導き人とやらは人が悪いな…ホント》
「……白狼…!ほんっとうにあんたって子は…!…あれ程、いつまでも…元気に…って!」
「…母さん、未練を残すな…あの世であいつが笑えないぞ…」
「…白狼ちゃん…まだお若いのに…あそこでも元気でやるんだよ…」
「悔いを残すなよ…ゆっくり休め…」
《父さん…母さん…爺ちゃん、婆ちゃん…ごめんな…先に早く旅立ってしまって…》
「……うっ!…うぅ…」
「ち、千里…あまり泣かないで…」
《ち、千夜!?…良かった!…無事だったか…!!》
「はい…でも…やっぱり私は…ううぅぅ…ロベル先輩もいなくなって、今度は…白狼先輩まで…うっ…えぐ…!」(ポタポタ!)
「…そうね…ごめんなさい菊川先生…私、あいつを救ってやれなかった…!!本当に…私…!!」(ポタポタ!)
「…仕方のないことです。人はいつか必ず別れが来ます。このような別れ方は本当に残酷なものです。病気ではなく、寿命ではなく、突然の事故で人命を失うものほど…これ以上に無念なことはないでしょう。ですが彼は違います。彼は命を覚悟して、看護師としてのあなたではなく、愛人として愛おしい存在のあなたを必死で守ろうとしたのです。おそらくそのきっかけをあの大都会の東京で学んできたのでしょう。彼の命を無駄にしてはいけません。彼の行動に敬意を払いなさい」
「…はい…」
「…いつもふざけている先生が…そんなことを言っても…説得力が…ありませんよ…うぅ…うぅ…」
「こういう時だからこそ、言わせてください千里さん…白狼くん、よく千夜さんを守ってくれましたね…こんなになるまで必死になって命を懸けてまで彼女を守った行動に、また貴方が私の生徒であったことに敬意を払います。どうか…願えるなら我々の居合道の道士であることを忘れずに、ロベルくんと一緒の世界に行けることを祈るばかりです」
「…先生…!」(ブワッ!)
「…菊川先生…!」(ブワッ!)
《くっ、千夜、千里、菊川先生すまない…!あとは頼んだぞ!…だが俺の行き着く先はロベルと一緒になるかはわからないんだ…すまないな…》
白狼は仲間との別れを涙を堪え、耐え忍んでいた。すると次の来訪者は後々白狼が世話になる人の姿が見え、白狼は驚いた。わざわざ自分のために遠方から来てくれたのかという表情で来訪者を見る。
🎼Back
Ground Music 》》》
「こんばんは…遅くにすみません。そちらは二ノ宮さんのご両親の方で間違い無いでしょうか?」
「…ええ」
「…そうですが…あの貴女様は…?」
《…!西野さん…そうか…俺のために東京から和歌山まで来てくれたのか…》
「…申し遅れました。私は生前、二ノ宮白狼くんの勤めていた職場で彼と仕事仲間であった西野ありさというものです。この度は二ノ宮白狼くんへのご冥福をお祈りします故、訪ねてきた所存でございます」
「!!…あなたが白狼の言っていた…あの西野さん…」
「…!……そっか…白狼くんから聞いていたのね…」
「…はい、あ…!あいつの顔…見てあげてください…」
「…ええ…では失礼します…!」
《西野さん…すまないな…ごめん本当に…!あんなことを言っておいて心配かけてしまって…》
「こんばんは…久しぶりだね…二ノ宮教官…いえ…今日ばかりは白狼くんと呼ばせてもらうね…確かに黒髪から少し銀髪になったわね…でもあなたにとっても似合っているよ…」
「あの後…上と掛け合ってみたらぜひ紹介してくれ!すぐに採用したいと言われてね…できれば生きているうちにそれを伝えたかった…」
《…ありがとうございます!…そうか…俺も生きているうちにそれを聞きたかったよ…》
「もし生きていたなら…あなたと一緒に仕事ができる日々を楽しみにしていたけど…こんなことになって…とても悲しくなって…ね…!!…っグスッ!」
《俺もだよ…!俺も同じ気持ちだよ西野さん…だから…泣かないでほしい…!!》(ポロッ!)
「白狼くん…あなたがあの事故に見舞われたのは後から知ったわ。その時にあなたからの連絡が来ず、とても嫌な胸騒ぎがしたの…」
「まるであの時、妹のゆいが危篤状態になって、救急治療室に運ばれたときのように…とても…とても嫌な予感がしたのよ…」
「…それが今になってこんなことに…でも、ニュースの目撃証言を見てあなただと思ったの…!」
「一人の女性を必死になって守り、自衛隊員としての誇りを忘れず、その責務を貫き通したのだから…」
「…本当に優しい子だね…君は…無茶ばかりするけど…それでもその人を守りたかったのね…すごいよ…本当に君は…!」
《そんなことはない…俺はまだまだ…未熟だ…!千夜は救うことはできたが…その他の人までは救えなかった…!!…ハヤト…最初はくそったれの殺人鬼としか思っていなかったが後から事情を知って…あいつを理解したのだから…》(ポロポロ!)
「…だから胸を張って向こうでもいつまでも変わらないあなたのまま…元気でいてね…あなたがどうしても妹のことを引きずってて立ち直れなかった私に大事なことを伝えてくれたように…」
「…私は人生の中で、あなたに逢えて…本当に良かった…あなたのことを一生忘れない!!……ありがとう!…あと…」(ポタポタ!)
「…!」
「!?」(ほう、なんと大胆な…!)
《えっ!?に、西野さん…!?///》
「……っ」(…もし、天国と地獄でもないもう一つの世界があるのなら…もしそこに妹のゆいがいるなら…あの子を守ってあげて…!…頼んだよ…白狼くん!!)
《…!…ああ!…ああ…!!…任されたから…もし何かの縁で【paradiso】の世界でそのゆいって子と会う事があれば…俺は絶対にその子を守って見せるよ…!…だから…西野さんはもう泣かないでくれ…そんな辛い顔をしないでくれ…!…いつものように笑っていてほしい……》(ポタポタ!)
・・・
「…この子のために遥々と、遠いところから足を運んでいただき、ありがとうね」
「…ああ、全くだ。最後にこんなべっぴんさんに最期を見届けられるのは、本当に羨ましくて幸せだと思うぞ」
《と、父さん!?///》
「…もう!お父さん…不謹慎よ!こんな場所で!…でも、遺族一同、感謝の言葉とします。ありがとうね。西野さん…」
「…はい。で、あなた方が白狼くんの友達の…?」
「…はい。千夜と言います。…白狼の…彼女と言えばいいのでしょうか…白狼…私を守るために犯人と戦って、そんな時にあの大事故があって、私は看護師として必死になってその惨状の救護を担当しました。しかし、あいつだけは…!…あいつだけは…!!どうしても助けられなくて…!」(グスッ!)
《…!そうか…やっぱりあの後で……それをお前は必死になり負傷者の看護を…ご苦労だったな…千夜!》
白狼が知っているのはハヤトとやりあった最後の時まで、それ以降の出来事がまるでわからなかったが、千夜の様子から、その後大きな事故に遭遇し、彼女は必死になってその現場での救助活動を支援したのだと白狼自身はそれを理解し、安堵した。
「…そう、大変だったわね。千夜ちゃんか…そう言えば白狼くんからも少し聞いてたわね…昔祖父が亡くなってからその時から看護師を目指している居合道の仲間がこの東京にいるって…あなたのことだったのね…とても辛かったわね、あなたはとても…よく頑張ったね……」(…ダキッ!)
「…!!…あぁぁぁぁーーーっ!!!」
《西野さん…千夜を慰めてくれていたんだな…やっぱりこの人はなんか聖母の慈愛のような本当に暖かいオーラを持っている…なんか心なしか輝いて見えるよな……本当に…》
「…ふふっ。あの子と同じね…懐かしいな〜いつも抱いたらこんなふうに泣いていたのを思い出すわね…そちらの子は?」
「は、はい。私は千里と言います!今大学二年生で、海外への留学経験もあり、将来はキャビンアテンダントを目指しています。…ただ、白狼先輩と…同じロベルという先輩が病死して…それで今回は…白狼先輩が…亡くなって…わたし…ううぅぅ…あぁぁーーー!!」(ダキッ!!)
千里は二人の居合道の先輩が先に旅立ち、耐えきれなくなったのか、悲しみの涙を流しながらそういうと西野に抱きついてきた。西野はしょうがないという仕草で優しく微笑み、千夜、千里の二人を優しく抱きしめた。その姿はまるで、海外の教会にあるかのような幻想的な絵画のように神々しく写り、温かみのある空間ができた。親族一同はその光景に思わず息を飲む。
《もうすっかり二人のグランドマザー的な存在だな西野さん…無責任な言い方かもしれないけどまた二人が困ったことがあれば助けてくれると…俺は嬉しい。》
「なるほど。白狼くん、あなたがこのような女性に惹かれた理由…何となくわかりましたよ。あ、申し遅れました、私は菊川と申します。白狼くんの通っていた居合道の師範代で龍川神社の神職をしております者です」
「あ。…これはどうも。……神職。……つまりは神主さん。…そうですか、あなたが白狼くんの先生で、この度は本当に…」
「あ、いいのですよ。あなたの方こそ、遥々と遠い中、白狼くんを見に来てくれて私は嬉しいものです。きっと彼も同じことを思っているでしょうね。さっきの話を聞く限りあなた様には妹さんの不幸事があったようですね…でも白狼くんが限りある時間の出会いから、あなたを励ましてくれたのです。これからも元気で、白狼くんと妹さんの分まで頑張ってください」
「…!…はい!」
《…菊川先生…ありがとうな…!それでこそ俺の先生だよ!》
「…先生…西野さんがあまりにも美人だからってイケイケな言葉を使わないでください…」
「…千里さん、私は至って真面目ですよ。まあ確かに彼女の美貌に惹かれて少しかっこよく言ってしまっ!!ゲフンオッホン!!」
「…ふふっ、白狼くんの言ってたようにユーモアがおありの先生のようですね♪」(二コッ!)
「あ、いえ///」(ドキンッ!!///)(あ〜危ない〜あの笑顔は反則だって〜!思わずこの歳でときめくところだった…あ、いや、私ももういい歳か…)
……ポリポリ!
《…まあそれでも先生は先生だな…だけど今までありがとうな先生…あんたから学んだこと…忘れないよ!》
・・・
・・
・
〜二ノ宮家・自宅での家族葬〜
「すみません、次の来訪者が来られたようです。お通してよろしいでしょうか?」
「あ、はいどうぞ」
白狼の両親はそういうと、次の来訪者を招く。するとそこには深々と帽子を被り、コートを羽織った紳士的な男性が訪れた。紳士は帽子を取り、遺族に深々と挨拶をした。
《…!…そうか…多忙の中来てくれたんですね…三橋三等海佐!!》
「初めまして。私は以前、元海上自衛隊・横須賀基地にて彼、元二ノ宮海士長の上官であった、三橋三等海佐というものです。今回の件は誠にご冥福をお祈り申し上げます」
「あ、これはこれは。ほら白狼起きなさい!貴方の上官よ!」(ぺシッ!)
「…母さん、白狼はもう起きないのだぞ…」
《…はは…母さん…》
「…あ〜これはこれはなんと立派な上官で…」
「うむ、まさに現在を生きる軍人の面構えだ…!」
「…すみません、二ノ宮くん…いえ白狼くんの顔を拝見してもよろしいですか?」
「…!はいどうぞ見てやってください!」
「母さん堅くなりすぎだ…」
🎼Back Ground
Music 》》》
《三橋三等海佐…約二ヶ月ぶりですね。》
「こんばんは、二ノ宮海士長。いやもう階級呼びはやめようか…では改め、白狼。君が海上自衛隊に所属して三年の月日の中で、君が学んだことを今回の件で実践し証明したようだな」
「さぞ、君の行動には敬意を払いたい。あの渋谷付近で起こった大事故のことは横須賀基地からも聞いていた。その時に死亡者リストに君の名前があったことに気づいた時、私はすぐに横須賀から和歌山まで駆けつけたのだ」
《…辞めた後もご迷惑をおかけして…すみません。》
「君があの時、犯人を止める行動がなければさらに被害が出ただろう。君の行動は本当に驚かされた。簡単にできることではない。普段の君の行動は、本能的に考えもなしに行動し、悪い方にも飛べば時に機転が効いたのか、良い方にも行く」
「本当に、君は私が今まで見てきた隊員の中で何かと輝きを持っていた。不思議なほどに…あの時、海上自衛官として在籍して功績をあげていれば、私と同じように幹部になれる器があったのに…とても残念だよ」
《俺はまだまだです。本当に上に行ける実力がなかったんですよ…俺には…》
「だけどその結果、このような形で君と会って上下関係なく、割り切って対等に話すことができたのだ。それだけはお礼を言いたい」
「もし、あの世に行ったとしても、君は人助けをするだろう、その時は私の教え通り責務を果たしてほしい!」
「君なら私の教えを、自分だけが優越感に聳え立ち、他人を蹴落とすような欲に溺れた使い方をせず、本当に自分の守るべきものに力を出してくれることを心より願っている!」
「では、白狼、あの世でも達者で。私は君が亡き後でも落胆せず、常に向上の意欲を忘れずに前に行くことを約束する!…さらばだ!…我が戦友!二ノ宮白狼!!」(ビシッ)
《…ハッ!……グスッ!…ありがとう…ございます…三橋三等…海佐…俺、向こうでも…!!》(ポタポタ!)
三橋は白狼の勇気ある行動に敬意を表し、敬礼をした。するとしばらく席を外していた千夜、千里、菊川先生、西野が戻ってきた。すると四人はとても驚いた。特に西野は昔の知人を見るかのように目を開き、他の三人は実に三年ぶりであった。最初の出会いは商工会館で後にこの人と写真を撮った中であり、千里が驚き、声を出した。
「み、三橋さん!?」
「み、三橋一等海尉!!」
「これはこれは三橋さんどうも。そうですか…その階級章を見る限り…とうとう三等海佐になられましたか…」
「!?……え……」(…え…嘘…!!なんで…!?…そうか白狼くん……あなたとは本当に縁がありましたね…)
「やあ君達、三年ぶりか…久しいな…また君達に会えて嬉しいよ…菊川先生もご無沙汰しております…そして…十年ぶりの再会になるかな…ありささん」
「「「…!」」」
《…!三橋三等海佐と西野さん、お互いに知り合いだったのか…!?…偶然にしては…本当に出来過ぎているな…》
「…はい。その節はお世話になりました…」
「ゆいちゃんは…今はどうしてる?」
「…妹のゆいは…最近お亡くなりになりました。でも白狼くんが私を励ましてくれて…もう平気です」
「…!…そうか…それは残念だ。…すみません、白狼くんのお母さん、少し席を外しても…」
「いえいえ構いません!そのままこの子のそばで聞かせてやってください!三橋さん…西野さんも…それとみんなも、私達は何も問う気はありません。ねぇお父さん?」
「うむ、おそらくこいつもそれを望んでおる。思う存分聞かせてやってくれ」
《…父さん、母さん…ありがとう。》
「…はい。三橋さんとは昔、私が20歳の時、妹のゆいが9歳の時、父と一緒に防衛大学校の開校祭の時に知り合った仲なんです」
「「「えっ!?」」」
《当時、防衛大に在籍していた三橋三等海佐と西野さんが…そうだったのか…》
「ああ。だが懐かしいな…私は当時儀仗隊として式典の時、ミスすることなくこなし、お好み焼きの模擬店の方へ向かっていたその時にゆいちゃんと君に会ったんだ。あの時は元気そうだったのだが…」
「…あの子、昔から病弱だったんです。幼き頃、少しでも慣れさせるために祖母と一緒になって薙刀術を教えていたのです」
「確か当時ゆいちゃんがそう言っていたな。…その後はどんな感じで?」
「…はい、その後、あの子は中学も病院に通院しながら登校し、成績は優秀で有名女子校に通っていたのですが、16歳の時に白血病を患い、私もあの子の治療のために働きましたが…19歳でこの世を去りました」
《そのことがきっかけで西野さんは大企業を辞め、その後に女性警備員となり俺と出会ったんだよな…本当に何かしらの縁を感じるな…》
「そうか…病院さえわかれば、私も行けたのだが…幹部ともなると無闇に外出はできないことが多くなってな…どこの病院で入院を?」
西野は胸の方に手を添えて握り、妹が入院していた病院の場所を三橋に伝える。
「…広島の竹内総合病院です。そこに妹は入院していました」
「…な!!…そうか…よりにもよって私の地元で、祖母が通院している病院とは驚いた…!」
《三橋三等海佐は広島県出身の人だったんだよな…祖父が日本海軍の軍人だったとも聞いている…そして西野さんの妹が広島の病院で入院…これは本当に偶然を通り越して奇跡だな。》
「えっ!?、そうなんですか、確かゆいは、あかりちゃんとフネおばあちゃんがいつも話をしてくれたと言ってましたね。元気がない時にフネおばあちゃんが昔沖縄で体験したことを話してくれて、なんだか生きる希望が出てきてすごく元気が出たとよく…」
「…!!…はぁ…全く…ゆいちゃん…うちの祖母とも関わりがあるとは本当に…」
…全く…暇な神様がいたものだ…
その後、長居をしたら迷惑という事で、その後はみんな解散となった。泊まる場所はなくて、菊川さんが道場を貸してくれて千夜、千里、そして西野さんが仲良く川の字になって泊まったそうだ。三橋三等海佐は和歌山地区の基地に用事があったのでそこで夜を過ごすのだそうだ。翌日、俺の遺体は地元の火葬場で焼かれ、遺骨となってロベルの墓がある法光寺の墓に埋葬される形となった。
〜法光寺〜
🎼Back Ground Music 》》》
♪〜犬夜叉より・Dearest〜Strings Ver.〜
「グスッ!グスッ!…白狼…」「…我が息子よ…」「白狼ちゃん…」「…っ白狼っ!!」「「ううっ…ああぁぁぁっ!」」「白狼くん…」「白狼くん…こんなになったのね…」「白狼よ…安らかにな…」
白狼の墓の前には両親、祖父母、千夜、千里、菊川、西野、三橋が集まり、白狼への追悼の意を込めていた。
《…いよいよ火葬されたな…俺…そして墓になった…だがロベルとこうして隣になれたんだ…現世では三年ぶりに会えたんだな…ロベル…》
皆が悲しみに暮れる中、三橋は千夜に何かを語りかけた。
「…千夜ちゃん」
「はい……三橋三等海佐…」
「三橋でいいよ。これを君に託す。火葬した後、焼け切らずに残ったのだそうだ…」
「?……!?これって、私がアイツに渡した十手!…でもなんで…」
「彼は君からそれを貰ってからずっと手離すことなく使い込んでいたよ。…任務に明け暮れていた時、一度紛失しかけてしまった事もあったが偶然にも私がそれを見つけ、丁重に預かっていた時期もあったがね。……そして今回、犯人との揉み合いの中、それを使い……まるで騎士のようで……武士道のような英断をして君を守る為に命を賭けるという最後までその意志を貫き通した……誇るべき私の元教え子……そして君の愛人のモノなのだ…大切にしたまえ…」
「…!…はい…はい!!」(ギュッ!)
(フワァーッ!)
《…!!ここで…!…今度は千夜の記憶か…》
・・・
・・
・
〜時は戻り、白狼・千夜の高校一年生の時代〜
「ちょ!ちょっと!?一体なんなのよアンタたち!?」
「あぁん!?…てめえ〜が俺達が万引きしたのを店員にチクるから悪いんだろうが!!オラッ!」(ガスッ!!)
「あぁぅっ!!」(ドテッ!)
「!?///ほお〜っ///…良い声だな〜それによく見たらすげぇ良い身体してるし、なんか興奮して来たわ〜!よ〜しお前ら!こいつの身包み剥がすぞ!!」
「「「オーッ!!!」」」
「っ!?」(い、いやっ!だ、誰かぁ…!)
ドゴォーーン!!
「…えっ…」
「なぁっ!?ふ、不良Aが吹っ飛んだ!?」
「だ、誰だ!?」
ザッザッザ!
「…全く、追い剥ぎなら他所でやれや…女子高生一人を一斉にフルボッコなんざ男のすることかよ…」
「っ!!」
《あ〜あったわ〜!俺がなんかコンビニでマンガを立ち読みしてて偶然、千夜が男共に因縁つけられて、路地裏に連れて行かれるのを見たから、それで…あの時からあいつ俺のこと気になり始めて…》
「な、なんだてめえ!?おいお前らやっちまえ!!」
「「覚悟しろや〜っ!!」」
「ん?お、ちょうど良い棒があるな!」
「うおら〜!!」
バキッ! パン!!
「グハッ!!」「うぅ…!」
「な、なんだこいつ強えぇ!!」
「ち、覚えておけや〜!」「ヒィーーー!」「逃げるんだよぉぉ〜!」
「誰が、もう1秒でも忘れてやるよ!……おい、大丈夫か!?災難だったよな〜!?」
「…えっ…!ええ、まあ///」(ドキドキ!!///)
「じゃあ俺はこれで…」
ガチャン!!…シャーッ!……(リンリ〜ン♪)
《客観的に見たら何もなく自転車のベル鳴らす俺って…まあ癖なんだろうな〜》
「…///」(アイツ…一体何だったの?……よし、後をついて行ってみよう…!!///)
〜龍川神社〜
「ヘぇ〜っ!龍川神社ね〜!…意外と渋いわね!」
「せいっ!!」「ハッ!!」
「ん?掛け声?」
「ロベル、一気に三段切りか…早くなったな!」
「白狼の方こそ、以前よりも居合の抜刀の速度が速くなったように思うよ!」
「ん?そうか?」
《…ロベル…っ!……いや。…もういいんだ…これは記憶の中なんだ…》
「!?」(あ、いた。…ヘぇ〜!居合道やってたんだ。…それで強いわけね!)
千夜はこっそり白狼とロベルの居合道の練習を見物していると、後ろから声をかけられた。
「…あの〜?…うちの道場に何か御用かな?」
「ひゃあぁッ!?…あ、あのどちらさまですか?」
「ああ…失礼、私はこの神社の神職ならびに、この道場の居合道の師範代やらせてもらっている菊川と言います。以後お見知り置きを…」
「ああ。これは、どうも!」(ぺこり!)
「菊川先生?…さっき女性の声が聞こえたんですが、どうしたんですか?…あれ?」
「ん〜?!?お〜お前はさっきの!来てたのか!?」
「あ。さ、さっきはあ、ありがとう!///」
「ん〜?君達知り合いなの?」
白狼は千夜との事の経緯を菊川に教えた。
カクカクジカジカ……
「ふむ、なるほどね〜。しかし守る為とはいえ、私の教えた技を使用するのは少々やり過ぎでしょうが、今回は多めに見ましょう…」
「あ〜すいません、菊川先生」(ぺこり!)
「でも白狼、戦わないと彼女が危なかったんだ。無視するより彼女を守るほうが正解だと思うよ!」
「そうだよな〜!…まあ、確かに同じ一年でもこんなに色気あって、それに、んな身体してたら、そりゃあ男どもは無視しなさそうだしな…!!」(ジーッ!)
ムニっ…!
「…!?…なっ!!///」
「ん?」
「どこ見て言ってるのよ〜!!///」(ブン!!)
ペシッ!!
「ヘブし!!!」
バタン!
「白狼!?」
「ほう…」(お〜これは早い……居合の才能、実にあるやもしれませんね…あーいい手刀だ〜!!)
《若いとはいえ、俺もつい言葉に出てしまったんだよな〜まあそれが、千夜との出会いでもあるのか…》
「ったく、初対面なのに馴れ馴れしいのよ!…もう!///」
「…あ〜君、この道場に入門する気はありますかな?」
「えっ?」
「いや別に強制はしないんですね〜。…ただね〜この道場には白狼くんと《ロベルトくん》の二人しかいなくてですね。…それでそろそろ一人の生徒を増やしてもいいかと思っていたんですよ〜」
「」(カチン!)
「え!?そうなんですか。そうですね…私特に部活はやっていないんで、別に構いませんが…いいのですか?」
「はい。まあ、うちは基本、自由がモットーで通っているから、そのせいか型のあるプロ意識を持つ生徒はみんな辞めていくからね〜。で、この二人しかいないという訳なんです。……どうしますかな?」
「……!」
千夜は少し悩んだ。だが、すぐに結論が出た。自分を助けてくれた人が一緒にいて、自分も強くなれるなら構わないと思っていた。
「わかりました。これも何かの縁という事で入門させていただきます。千夜と言います。これからよろしくお願いします!!」
「そうですか…ではこれからよろしくお願いしますね〜……!!…少し用事を思い出したので……」(シュバッ!!)
ダダダダッ!
「え、ええっ!突然なんですか!?」
菊川は背後からの殺気を感じ取ったので、素早く逃げ出す。それは名前を間違えられてすこぶるイライラしていたロベルが鬼神のような表情で怒って来たからだ。そしてロベルは木刀を持って執拗に追いかけ回した。
「…先・生…僕の名前はロ・ベ・ルですよ!!ロベルトではないんです!!いい加減覚えてください!!!!」(ダダダダッ!!)(ブン!!ブン!!)
「あ〜だから言ってるんですよ!私は普段から未知の流行りの《ハイカラ》な言葉であるカタ…カナ?は苦手だと〜!!」(ダダダダッ!!)(ヒョイ!!)(ピョン!!)
「間違えるのにも限度があります!何なんですか一体、ひどい時にはユベロだとかロリベルだとか悪口ですか!!??」(ダダダダッ!!)(ブン!!)
《確かここ、ロベルの名前を三回くらい間違えてロベルがキレたんだっけか…親につけられた名前を気に入ってるのか、貶されるとキレるんだよな…》
「あ、あはは…大丈夫なのかしら…この道場…」
「気にするな。あれでもあれが先生とロベルとのスキンシップなんだよ」
「へぇ〜!…!!…って!!?あ、アンタ起きたの!?」
「ああ。後話も聞いていた。この道場に入門するんだっけ?よろしくな!!」(サッ!)
「え、ええ…よろしく!…///」(グイッ!)
《ああ、その一年後には千夜の後輩の千里が入門して来て、いつもの四人になったんだよな。んであまりにデリカシーのない菊川先生が千夜の手刀チョップをもらっていたんだよな…》
〜時は流れ白狼・千夜の高校二年生の時代〜
「は、はじめまして千夜先輩の後輩の千里と言います!今日からこの道場の女生徒として頑張りますので…よろしくお願いします!」
「あ〜よろしくね千里ちゃん。その道着女性用で胸元がスカスカで大変だろうけどじきになれrブッ!!」(ぺシッ!)
「先・生…新入生の前で早速セクハラ発言とはいい度胸ですね〜!!」(グキゴキゴゴゴ…)
「あ〜どうもすいませんね。でもあなたの手刀チョップ…なかなか効きましたよ〜!そしてちょうどいい感度で〜…」(ドキドキ!)
「あぁっ!!??」(ギロッ!!)
「あ、何でもないです、ハイ…」
《先生…この頃から千夜に尻に敷かれてるな…でも心なしか嬉しそうだな〜!》
「あの〜大丈夫なんでしょうか…ここ?」
千里は道場そのものは初めてであったので、少し緊張気味であり、今の光景に写っている千夜と菊川先生の掛け合いを見て不安になった。そんな時、ロベルが千里に優しく声をかけて来た。
「大丈夫だよ。ああ見えてあの二人仲は良いから!菊川先生もあれでいい人だから…まぁ唯一の悩みは、僕の名前を間違えることと道場に酒を置いていたくらいだね…」(ハァ〜)
「そ、そうなんですね。あの…あなたの名前は?」
「ああ、僕の名前はフィル・ロベル京一!ドイツ人の父と日本人の母のハーフでみんなからロベルって言われてる!…まあ菊川先生にすごく間違えられるけどね…」(ハァ〜)
「…ロベル…先輩…!ロベル先輩!!はい!私覚えました!!あの、これからよろしくお願いします!!」(ぺこり!)
「ああよろしく!元気な後輩でこの道場も賑やかになりそうだね!こちらこそよろしく!!」(ガシッ!!二コッ!)
「…!あ、あうぅ〜!///」(ドキッ!!)
ロベルは笑顔で千里に握手をした。千里はロベルの爽やかな笑顔と握手で一目惚れしたのか顔が赤くなっている。そして、千夜が千里の元へと戻ってきた。
「まったくもう!…千里。…この道場どうかしら?…気に入った?」
「はい、千夜先輩!この道場いいです!…先輩方と長く続けられそうです!!」(キラキラ!!)
「そう、良かった!」
《んで、確か俺が千夜に借りていたものを返す約束をしてたけど、その探し物が見つからなくて遅くなったんだよな〜》
シャーーッ!!……キキーーッ!!!
「はぁっ、はぁっ、悪りぃ遅れた〜!」(チリンチリ〜ン♪)
「もう!遅いわよ白狼!?…アンタ一体今まで何してたの!?」
「ああ、悪い。…前に借りてた本、探すのに時間がかかったんだ。つかお前さんデカルトの《方法序説》とか読むんだな、こんな難しい本…」
「ええ!気晴らしになるし……どう?読んでて何か気になったことはある?」
「そうだな〜…確か、《我思う、故に我あり》って言葉かな…あんまよくわからんが直感でなんか途方もない世界がずっと続いているように思えてなんか深くてだな〜!」
「ヘぇ〜!?…アンタ見かけによらず良いとこ見るじゃない!その言葉の意味はね……」
「…あの〜?…あの男の人は?千夜先輩の彼氏さんですか?」
「ああ。彼は二ノ宮白狼…僕と千夜と同じく同級でこの居合道場の仲間さ…彼と僕は無二の友の仲でね!」
「そうなんですか!?…ヘぇ〜!なんか千夜先輩…あの人と喋っている時、なんか凄く嬉しそうですね♪!」
「ああ!…千夜は不良にからまれていた所を白狼に助けられてこの道場に入門したんだよ。それだけ、彼に感謝するところがあるのかもしれないね!」
「…そうなんですか…なんかとても素敵な話ですね〜♪」
「…ああ。とてもね…」
《それが、千里との出会いもあり、いつか千夜との思い出もより深くなっていったんだな…そしてこの四人との時間は本当にあっという間だったな…》
〜卒業式後〜
「いやはや、それにしても早いね〜君達、もう卒業なんだね〜…」
「はい!今までお世話になりました!」「菊川先生、三年間本当にありがとうございました!」「ありがとうございました先生!」「菊川先生♪三年間ありがとです〜♪」
「いやいや三人はまだしも千里さん、あなたはこれから高校三年生になるのですから卒業にはまだ早いって!…と言ってもあなた達三人は後数日ですか…寂しくなるものですね…」
「千里がいるじゃないですか!ねぇ千里!?」
「はい!とりあえず大学受験までは居ようと思っています〜♪」
「現実的ね…あなた…」
あの〜すみませ〜ん!
すると、誰かが訪問して来たのか、声が聞こえた。
あ〜どうも長谷川寿司のものです。特上二人前!お持ちしました!
菊川は出前として寿司を頼んでいたらしい。どうやら、卒業祝いにみんなで食べる為にと律儀な一面を見せる。
「あ〜ありがとうございます。こちら代金です」
「どうも〜!あ、器は使い捨ての為、お返しはしなくていいですので、では!」
「あ、先生、それって!?」
「寿司です。皆さんで召し上がってください。少し緑茶を汲んできますから、先に召し上がっといてくださいな」
「わ〜い寿司です〜♪」
「イクラとかうに、あるかな!?」
「よ〜し寿司か!ロベル!お前好きだからよかったな〜!」
「うん!今日は好きなだけ食べれるね!!」
「よ〜し、それでは…」
「「「「いただきます!!!!」」」」
・・・
「…それにしても…これで俺達がこの道場で集まるのは…もうそんなにないんだよな…俺は海上自衛隊で勤務だし」
「…そうだね…僕は今度はドイツに住むからここへはしばらく来れないね…」
「…うん…なんか寂しいわね…」
「私はしばらくここにいますよ〜♪…でも…ロベル先輩と別れるなんて…うっ!…ふうぇぇぇぇえん!」(ダキッ!)
「おわっ!?…もう、千里…心配いらないよ!…僕はまた帰ってくるから!…絶対にね!」
「グスっ!……約束ですよ?」
「ああ!」
《…ロベル……っ…》
「相変わらずあの二人熱いわね〜!……ん?あれいくらは?」
「ん?どした?」
「えっ!?……!?…あ〜〜っ!!!…ちょっとアンタ!私のいくら!」
「早い者勝ちだろ!!そもそも、誰のものでもないだろ!」
「ほ〜う!じゃあこれ!」(ヒョイ!!)
そう言って千夜は白狼が食べようとしていたマグロを一口食べてしまった。それを見た白狼は千夜に迫った。
「だぁ〜っ!?お、お前!!…俺のマグロを〜!?_」
「ふん!食い物の恨みは怖いのよ!ベ〜だ!」
「…太るぞ」(ボソッ!)
「あぁ〜っ!?///な、なんですってぇ〜!?///アンタこそっ!…そうね、いつかその頭の色の毛ストレスとかで抜け落ちそうよね〜♪!?」
「な、何だとぉ〜!?つまり俺がハゲると遠回しに言ってるのかお前はぁ〜っ!?」
ギャーギャー!!
《ハハハッ!…今となっちゃあ、これは予言になったな…まあハゲることはないだろう…ハハ!…よくこうして千夜と…痴話喧嘩したな…くっ…(ポロポロ!)》
「…やっぱりうちの道場の景色といえばこれですね〜♪」
「ああ。ほんとにこの二人を見ていて飽きないね…もしかしたら付き合うね…あの二人…」
「やれやれ…神聖な道場で、痴話喧嘩などして欲しくないのですがね〜。…お茶です」(コトッ…)
「あ、先生ありがとうございます〜♪!もし良かったら先生も寿司どうぞ!」
「あ、私は大丈夫です。ほらどん兵衛がありますので…やっぱりどん兵衛は最高ですね!!」(ズズーッ!)
「「……何故にどん兵衛?」」(首かしげ!)
「〜♪」(ズルズル……)(ふふっ…やはり…私が欲しかったのはもしかしたら…この限られた時間を共に生きる若人の姿をこの道場で見てみたいという願望なのですかね…もうすぐ春も近いですね〜!)
《あの時、四人で食べた寿司の味は忘れられなかったな…居合道をして来たもの同士としてみんなと集まって食事したのは本当に最初で最後の食事会だった…色々あったが…俺は一度きりの人生でこの三人と、菊川先生に会えて…本当に良かった。そしてその後の未来で会うことになる三橋三等海佐、西野さん、バイト仲間達、関西弁の散髪屋さん…本当に色んな人に会ってきたな…俺はこれからみんなの知らない途方もない旅に出る…俺は前を向いていくよ…みんな、本当にありがとう…》