〜回想終了〜
「てなわけだ!」
「…でその髪になったわけね……」
「まあたまにはこういうのも悪くないと思ったな〜!いや〜しかしあの店員さん、なかなかいい腕だった!!」(えっへん!)
「ふ〜ん、でもその髪型のアンタ…wよく…見てみると…ふふふ、あーっはっはっはっはっ!!」(バンバン!)
「ちょっ!おまっ!笑うなよ!」
「いや、だってアンタ!こんなの笑うなっていうのが無理な話でしょ〜が!?w…あっはっはっはっ!あ〜お腹痛いってのほんと!!」(バンバン!)
「!?…///」(あ…こいつ普段笑うことがないから、こう笑うとすげえ可愛い一面があるんだな〜…///まあこんなとこカメラで撮ったりしたらただで済まなそうだな…)
千夜は白狼のヘアースタイルを見てあまりにもおかしくなり、笑いを堪えきれなくなってしまい膝を思いっきり叩きつつ、腹を抱え爆笑していた。そして普段クールで笑うことは滅多にない千夜の笑顔の姿が珍しく白狼は思わず赤面してしまった。そして、少しだけ落ち着き、これまでの海上自衛隊での出来事、そして現在何をやっているかを1〜10まで千夜に説明した。
・
・
・
「へぇ〜塗装屋のバイトでパワハラとか度が過ぎる違法労働があってばっくれたと…んで、その西野さんって人が、次の就職先をうまく取り合ってくれてるって訳ね!」
「まあそんなとこ。西野さん…あの人は、本当にすげえ良い人だよ。…それに…」
「それに?…!」
「………!」(しんみり…)
千夜が見た白狼の表情は、とても寂しげで、届けられない無念の思いが込められている、重い表情をしていた。白狼と西野との間には、何かしらの事情がある事を察したのか、千夜は、とりあえずこの空気を変えようとある提案を開いた。
「あ、そうだ!折角だし、近くの喫茶店でお茶でもしない?私、いい店知ってるの!!」
「ああ、良いぞ。なんかすまないな…よし行くか!」
「…ええ」
白狼は道中、千夜のことも聞いてみた。あれから千夜は猛勉強の末、三年制の看護学校を無事に卒業し、無事に正看護師の国家資格を修得し、ある病院で新米看護師として勤務しているそうだ。仕事内容はとても大変でお局様やらベテランの人間関係の話を聞いていろいろ大変な思いをしているようだ。だがそれでも毎日頑張っていると聞き、俺は嬉しくなった。千里の方は、レベルの高い大学に通っており、将来は航空会社に就職して《キャビンアテンダント》の資格を目標に頑張っているそうだ。そして最近、海外の語学留学をしていることから昔の可愛げはなくなり、自分の進路に向かって跳躍しているようだ。だがそれを聞くと、白狼はロベルのことがますます知りたくなる。彼はこの三年間の間、どんな風になっているか?ちゃんと生きているのか?とそう思っていると目的の喫茶店に着いた。
「あ、着いたわね」
「ここか、確かに洒落た店だな!」
カランコロン♪
「いらっしゃいませ…」
店内に入ると、とても紳士的でダンディーな雰囲気を持った高齢なマスターがカウンター越しで挨拶した。
「あ、マスター、こんにちは」
「あ〜千夜ちゃんじゃないか!ん、何だい?その人が噂の彼氏かい!?」
「っ!?」
「ちょ、マスター!!///」
「はっは。いや〜めでたいね〜!それに、線が細く見えるようで引き締まった屈強で頼り甲斐のある子だね。…もしかして元兵隊さんだったかね君?」
「…元海上自衛官です」
「お〜当たっていたか〜!?いや〜まだわしの目は落ちぶれてはいないようだね〜!よし、ゆっくり喋れるように特等席をとっているから案内しよう!」
「いいんですか?」
「ああ構わないとも。いつも頑張っている千夜ちゃんの為だ。……こちらへ」
マスターの案内で、この店で一番の特等席の部屋へ案内してくれた。そこにはネイビーのカーテンで装飾され、上の照明は小型のシャンデリア、付近には数多くの壁掛け時計が並び、壁にはマスターの家族写真が金の額縁で飾られて並んでおり、それはレトロで幻想的な空間だった。白狼自身も、その場所は不思議と落ち着いていた。
「へぇ〜、こんな部屋があるなんて知らなかった…」
「はっはっは。とっておきの一室だからね!…で、何にするかね?」
「あ、じゃあコーヒーセットでお願いします!」
「俺も同じもの、お願いします」
「かしこまりました。すぐに用意するからね…」
ガチャ!!…バタン!
「…お前、常連さんなんだな〜」
「うん、看護学校からの顔馴染みでよく来てたのよ!」
「…そうか」
「で、私に何か聞きたい事…あるんでしょ?」
「ああ。…じゃあ単刀直入に聞くわ…」
チク…タク……
室内に響き渡る掛け時計の秒針の音。静けさある一室の中で白狼はその口を開いた。
「…ロベルの事について聞かせてくれ!」
「…!!」
千夜はその話題は避けたかったと感じ、しばらく黙りを通すが、白狼の目は本気だった。もう言い逃れができない雰囲気だった。
「…頼む。…教えてくれよ。…俺はお前を尋問するような事をしたくないんだ!!…あいつの事何か知ってるんだろ……?」
「……」
千夜は目を閉じて黙りを通していたが、もう観念したかのように口を開いた。
「…分かったわ…ちょっと待ってて…」
ガサゴソ…
そう言うと、千夜は持参のバッグの中を開け、何かを探している。見つかったのかその物を取り出した。それは一枚のタブレットだった。そして、タブレットの電源を起動し、何かのファイルを探している。そして見つかったのか、あるファイルを開き、ゆっくりとテーブル席に置き、真面目な表情をして白狼に見せる前に同意を得るかのように話す。
「…今開いているのはロベルのお父さんからの手紙…今からおよそ二年前にこれが送られてきたの。私は医療分野の関係でドイツ語を学ぶ必要があったから読めることができた。和訳にもして書いてみたの…けど…もしかしたら間違いの訳もあるかもしれない…それでもあなたは…この手紙を読む…?」
「!?」(ロベルの親父からの手紙……今から《二年》も前の…)
「……どうするの?……白狼?」
「………!」
ドドドドドド………
千夜から感じられる、重々しい雰囲気。このようなやり取りに対し、今まで経験していたものとして似たような出来事を白狼は思い出した。それは女性警備員の西野が妹のゆいの不幸事の事を話していた時の雰囲気と何処か酷似ていた事だ。しかし白狼の回答は引き下がることはなかった。
「ああ…!そのために来たんだ。…あいつ…今何やってるんだろうかな…」
白狼自身は心の中で、もしこの内容に不幸事が書かれていたとすれば、その時俺は立ち直れるのか。いやもしかしたらあいつがドイツで何かやって出世して、あまりにも恥ずかしいので仕方なく父親に手紙を委ね寄越したのだろう。そうに違いないと白狼はファイルの中を開く。そこにはレトロチックにタイプライターで文字が打ち込まれ、その昔ながらの雰囲気ある文字のフォントが今いるこの空間とマッチしていた。その下に千夜が翻訳したのか日本語が打ち込まれていた。白狼はその内容を確認すると、出世とはかけ離れた、衝撃の事実がここに記されていた─────
🎼Back Ground
Music 》》》
♪〜ブラックジャックより・Your pain
Phil Blanc
(フィル・ブラン)
Sehr geehrter Herr, zu Roberts bestem Freund ...
(拝啓 ロベルの親友達へ…)
Plötzlich werde ich einen Brief von meinem Vater schicken.
(急であるが父である私から手紙を送ることとする。)
Bitte beruhigen Sie sich und lesen Sie den Inhalt dieses Briefes.
(落ち着いてこの手紙の内容を読んで欲しい。)
Es ist sehr schmerzhaft für uns Familie und Sie, diese Tatsache zu erzählen, aber ich werde es
direkt melden.
(この事実を告げるのは私達家族や君達にとって…とても辛い思いをすることなのだが、単刀直入に報告させてもらう。)
Robert starb plötzlich.
(ロベルが急死した。)
Die Todesursache war ein akuter Herzinfarkt. ...Das wurde mir gesagt.
(死因は急性の心筋梗塞と。…そう告げられた。)
Wenn Sie möchten, wollte unsere Familie diese Tatsache leugnen!
(もし願えるなら私達家族はその事実を否定したかった!)
Warum muss mein geliebter Sohn im Alter von 19 Jahren gehen ...
(なぜ愛する我が息子が、19歳という若さで旅立たなければならないのかと…)
Robert steht normalerweise früh auf. Als ich ihn morgens wecken wollte, war mein Körper sehr kalt.
(普段は早起きのロベルが遅いから、朝からロベルを起こそうとした時、身体はとても冷えこんでいた。)
Ich versuchte verzweifelt, es aufzuwecken. Erhöhen Sie Ihre Stimme viele Male. Viele Male! ...
aber Robert ist nie aufgewacht ...
(私は必死になり、起こそうとした。何度も声を荒げて。何度も!…それでもロベルは目を覚さなかった…)
Ich habe sofort versucht, eine Herzmassage durchzuführen. Zu dieser Zeit hielt Roberts Brust ein
simuliertes Ritualschwert, das als Andenken gegeben wurde!
(早急に心臓マッサージを実行しようとした。その時にロベルの胸には、お土産として渡された儀礼刀の模擬刀が力強く握られていたのだ。)
Egal wie stark er es versuchte, Robert behielt sein Ritualschwert ...
(どんなに強く取ろうとしても、ロベルは儀礼刀を離さなかった…)
Selbst wenn ich in einer starken Absicht starb, als wäre ich mit einem Ritualschwert, erfüllte ich
es ... Ich hatte ein sehr friedliches Gesicht.
(まるで儀礼刀と共にあるかのように力強い意志を命尽きてもそれを全うしていた…表情もとても安らかな顔をしていた。)
Meine Frau und ich kümmerten uns bis zum Ende um Robert, hatten ein Ritualschwert auf der Brust
und stellten Blumen auf, um ihn zu begraben.
(私と妻はロベルを最期まで看取り、胸元には儀礼刀を持たせ、花を並べて火葬をした。)
Die Überreste wurden in einem örtlichen Tempel in der japanischen Präfektur Wakayama beigesetzt,
nachdem sie von der Botschaft und dem Konsulat die Erlaubnis erhalten hatten, nach Japan geliefert zu
werden, einem Land, das Robert mag.
(遺骨は、ロベルが好きな国、日本へと送り届けるように、大使館、領事館の許可を得てから日本の和歌山県の地元にある法光寺へと埋葬させてもらった。)
Ich denke, unsere Familie hat alles getan, was sie kann.
(私達家族はできるだけのことは尽くしたと思う。)
Ich würde es auch begrüßen, wenn Sie Roberts Grab am Tag des Gedenkgottesdienstes, dem Bon, und
wenn die Äquinoktialwoche nahe ist, besuchen könnten ...
(また法事の日や盆、彼岸が近くなる時にロベルの墓参りに訪れてくれれば幸いだ…)
Ich möchte mich bei allen bedanken, die nach Japan gekommen sind, aber es schwer hatten, sich als
Freunde an das Schulleben zu gewöhnen.
(日本に来たものの、学校生活に馴染むのに苦労したロベルを友達として迎えてくれた君達にお礼を言いたい。)
Vielen Dank!
(感謝する!)
Und als Roberts Vater hoffe ich aufrichtig auf Ihren zukünftigen Erfolg und guten Kampf ...
(そして、ロベルの父として君達の今後の活躍と健闘を心から願っている…)
・
・
・
・
「………っ………」
コト………
手紙の内容はここで途切れていた。白狼は、読み終わってから千夜から手渡されたタブレットをテーブルにゆっくり置いた。すると拳を力強く握り、悲しみと無念かつ悔しさが混じり合った感情が爆発しそうになった。海上自衛隊に在籍し、様々な訓練と任務に明け暮れて三年。そして退任し再会を誓い合った友が今から二年程前に急死したという突然の訃報の知らせに白狼は冷静ではいられず、人生初の喪失感に見舞われた。今となっては西野の妹が亡くなった時の気持ちが少しだけ理解できたのか、涙がこみ上げてきた。その感情をあらわにしながら、千夜にこう問いかける。
「…この事……千里は知っているのか…!?」
「…ええ、当時それを知ってすごく泣いていたわ。私も忙しい中、何時間も私はあの子を慰めたわ。でもそれが効いたのか、『いつまでも先輩ばかりに頼ってはいられません!…ロベル先輩の分まで私は真剣に生きて、自分の夢であるキャピンアテンダントを目指します!』……って強く言っていたわ……」
「……っ!!」(……千夜…ッ!!)
ガタッ!
「………っ…!」(……ごめんなさい……でも……)
「…!…っ…」(…お前。……)
白狼は『何故この事実を自分にも早く伝えなかったのか!?』と感情を曝け出そうと席を立ち、彼女に強い眼光を向ける。しかし、今の千夜の表情からは出来れば《現役》していた時に伝えたかった。しかし伝える事で正気ではいられなくなり、任務に支障が出てしまうリスクを踏まえ、その《真相》は時が来るまで告げないようにしていたのだと、白狼自身は彼女の悲痛の表情と哀しみの目からそれを読み取った。
「……すまない…」
白狼はひとまず落ち着き、席に座って会話に戻る。
「…そうか。…俺の両親には話したのか…?」
「…いえ、でも手紙に書いているように……法光寺は地元のお寺だから、もしかしたら…」
「…!…そうか…だから父さんと母さん……俺が東京に戻る前……あんなこと言ったのか…」
白狼はふと家族の変わった様子に何か思い当たる節があった。それは海上自衛隊を去った後、東京で賃貸を見つけてから地元和歌山県の実家へ三年ぶりに戻ってきた時の両親の様子だった。
〜時は戻り、和歌山の実家に戻りし時〜
・・・
・・
・
「ただいま!」
「あ、あんた!おかえり!もう心配したのよ!!身体は大丈夫なの!?」
「大丈夫だよ!心配かけたな…母さん」
「もう本当によ!!虐めにあわなかったかい!?訓練とかで銃で撃たれてない!?他の国の捕虜になって命の危険に晒されたとかは!?」
「あ〜もうないから!!虐めはともかく、他の二つはそんなことは滅多にないっての!洋画じゃああるまいし!!」
「虐めはとにかくって…でも…よかった…本当に」(ポタポタ!)
「おいおい、大袈裟だよ母さん…!」
白狼は泣いている母を宥めていると、その後ろにひょっこりと父が現れる。相変わらず寡黙ではあるが、その表情には笑みが見られた。
「…戦から帰ってきたか…我が息子よ!」
「…父さん、また何か戦争系洋画見ただろ…」
「うむ。…まあともかく三年ぶりだ。…立派になって帰ってきたな!以前に比べ、軍人らしくなったのか毅然としとるな…」
「…ありがとな父さん」(ビシッ!!)
「うむ」(ビシッ!!)
その後、久しぶりの母の手料理を白狼は美味しく食べ、その様子に父母は落ち着いて食べなさいと言ったが、自衛隊での癖でつい早食いになると説明し、その分味わって食べるように意識しているとこう説明する。食事を終えた後、白狼は父の書斎にて二人で話をした。
「…白狼、お前これからどうするつもりだ?何か進路は決まっているのか?」
「まだなにも…だが俺は東京に住むことにしたよ」
「…そうか、まあ一度きりの人生だ。お前の好きにしたらいい。自由に生きろ。だがお前に言っておくことがある!」
「…?…なんだ、父さん?」
「自分の身内が突然連絡が途絶え、行方知れずとなってしまった時、お前はどう考える?」
「………」
白狼はその父の発言の意図に、じっくり考察して真剣な眼差しとトーンでこう答えた。
「探す。なにがあっても探す!米粒を見逃さないよう徹底的に!見つからないとすれば負傷、もしくは敵の捕虜となり、捕まったか…最悪…死したとすぐに判断されるからだと、尊敬する上官に教えられてきたから。俺は今でもその人から学んだ事を大切にしているんだ!」
「…そうか。…だが《死》という言葉。……安易に使ってはいけないぞ。…今の若者は命を軽く見ているように聞くが、本当は《死》という言葉を軽視してるのだ。……遊び半分にぞんざいに扱い、《死》そのものを軽んじるあまり、自分では見えた見えてるつもりでも、本当に見えていないところが多い。特に自殺や過労死と、本来《死》の意味というのは一体何の為に?何故来る時に訪れるのか?……そして別れ際に何を託されなくてはならないのか?……その意味を理解していない者達が年々増えてきておる。…昔の事を誇張して言うつもりではないが、昔の人間程、その《死》という体験に多く関わり、涙を多く流したもの、死にたくなくても死ぬしかなかった者達、守りたいものがあって自分の命を犠牲にしてでも死んだ者、その人達を多く見てきたからか、《年の功》と言える人間は客観的に人を見る目を持っているし、その本来の意味を知っておる。彼らはその経験から何を学び、何の為にこの日本の国を繋いできたのか。……それをじっくり考え、お前の道を歩んでいくといい……」
「…わかった。ああ父さん、最後にいいかな?」
「?……何だ?」
「…渡したいものがあるんだ…」
・・・
・・
・
〜翌日〜
「じゃあ東京に戻るわ!」
「もう行くのかい!?ゆっくりしていけばいいのに…」(ダキッ!!)
「十分ゆっくりできたよ。……つか母さんはいい加減子離れしろっての!!いい歳して気持ち悪いんっだっての!!」
「あ〜ら♪愛しの母さんに向かってその口の聞き方は何なんだろうねぇ〜!?」(ニコニコゴゴゴ…)(ヘッドロック!!)
メリメリメリ!!!
「!?い、いでででででで!!ギブギブ!!」(カンカンカ〜ン!)
「…まあまあ母さんそのくらいで…また長い休みになったら戻ってくるのだぞ、我が息子よ…」(スッ!!)
「…!…おう!」(ガシッ!!)
「「後は…あんた(お前)だけはどうか…無事にずっと元気で…!」」
「…?」
両親との挨拶を済ませた後、一応菊川先生の所へ顔を合わせようと、龍川神社へと足を運んだ。『菊川先生は温泉旅行のため不在です』と巫女さんから言われて、仕方ない、とりあえずといった気持ちで帰りの安全を願って賽銭を入れ、俺はそのまま東京へと帰京した─────
・・・
・・
・
〜回想終了〜
「そっか…父さん達、知ってたんだろうな……おそらく…!!…うっ…!」
白狼はそう思っているとマスターがコーヒーセットとケーキセットを持ってきてくれたようだ。
「はい、おまちどおさま…」
「あ、ありがとうございます!」
「?……おや?…君泣いているのかい?…千夜ちゃん、何かあったのかね?」
「…実は…」
千夜は事の経緯をマスターに伝え、とても切なそうな表情をしていた。だが年の功というべきか、すくっと普段の表情をし、白狼に優しく語りかけた。
「…そうか、それは残念だったようだね…そこまで悲しい表情をしてるとなれば、その親友さんととても仲が良かったのだね…」
「…無二の友のような存在です…」
「……なるほど。…私にもかつてそう呼べる友人がいたな…」
「えっ、どんな人ですか…?私、知りたいです!…ねっ白狼も!」
「…俺は…」
「ああ、無理はしないで、ゆっくり聞いてくれればいい。…私は昔、当時18歳の時に仙台のパイロットを養成する機関に所属し、後に戦争に参加して適性を受け。…その後《日本海軍》の《ラバウル航空隊》に所属していた《零戦パイロット》だったのだ」
「…!…なっ!?」
「ええっ!!それって…本当ですか!?」
「ああ、写真があるよ…これだ」(ピラッ!!)
マスターはそういうと、カーテンに隠れていたもう一つの壁を見せてくれた。そこにはマスターの若き日の写真と隣には奥さん、上には《零式艦上戦闘機》(通称:零戦)と若き日のマスターがラバウル航空隊の戦闘服を見に纏い、笑みを浮かべた写真があった。その隣には退役記念の勲章が飾られ、額縁で納められていた。
「…確かに、これはラバウル航空隊の当時の写真だ!」
俺が知っている中では、ラバウル航空隊は第二次世界大戦中の日本軍は、ニューブリテン島(現在パプアニューギニア)に集結して、この空域に展開しての戦闘に参加するために創設された日本軍自慢の航空部隊の事だ。ラバウルの戦いで日本軍は南方作戦によるオーストラリアの委任統治領であったニューブリテン島を見事制圧、その後日本海軍の航空隊は南太平洋諸島を確保、その後にトラック諸島の海軍根拠地の防衛・機動部隊の支援を目的としてラバウルに進出したと聞く。その同じ年末に日本陸軍航空部隊が進出し、結果的に重要な拠点とされたと聞いている。だがそれはあくまで最初の段階、後々戦局が悪化するにつれて航空隊の重要性がなくなってきて、少数の残存者・航空機を除きラバウルから撤退したが、その後も残存者や航空機は終戦になるまで偵察活動を続けたと聞いている。
「あれ?マスター、その親友の写真は?」
「ん、あ〜ここだ!」
マスターはその写真を指を指し、白狼と千夜は視線を合わせる。そこには、日本海軍の軍服を見に纏い、その隣には作業服を着た若人が笑顔でお互い肩を持ちながら和気藹々に写真を撮られていた。
「この人が…無二の友…兵隊さんじゃなかったんですね…」
「…ん?後ろは会社か?……!?マスターこの人って!?」
「ああ、友は当時零戦を開発している会社に勤めていた。主に開発を専門にした部署にいた。まあ零戦の設計に携わったのはまた違うお偉い人なんだがね…」
「この人、今はどうしてるんですか…?」
千夜はマスターの安否を聞くと、少し重い口調でこう言った。
「…私が零戦に乗り、戦争にて戦地へと旅立ち。……その終戦後に彼は亡くなったよ。……病死だった」
「!!」
「そ、そんな…!」
「彼は肺炎を発症していて、合併症で髄膜炎を患ったのだ。彼は飛行機が好きでよく話をした…だが彼の亡くなる前の最後の言葉はいまだに忘れないよ。あの言葉で私は無事に帰って来れたと言っても過言ではない…」
そう言い、マスターは長話になるかなと思い、運よく客もいなかったため、一度外へ出て表の看板を準備中にした。そして二人も元へ戻り、当時の友人との出会いのことについて詳細を説明してくれた─────