🎼BackGround
Music 》》》
♪〜
明け空告げる海を行く
歓喜湧き立つ朝ぼらけ備え堅めて高らかに
今ぞ新たな日は昇る
おお堂々の海上自衛隊海を守る我ら〜♪
「……もう、この歌も聞けなくなるな…」
海上自衛隊歌《海をゆく》の一番が聞こえる中、基地内で荷物をまとめる《二ノ宮白狼》は、この三年間を色々感傷に浸っていた。
教育隊から門を潜った者として────基礎訓練、実施訓練、一般教養、法律の学習、戦略について学び、現場に赴く事となれば、初めての《航海演習》が実行され、早朝に仲間を総員起こしして甲板をくまなく清掃し、ソナーやら機雷、魚雷の管理・整備の任務に従事してきた。
辛い日もあったがこれも日本の領海を守る必須なスキルでもあるし、海外での海の問題が起こりし時にも、迅速に、いつでも出動できるようにと常に考え、想定して動く重要性を彼自身は、ここ《横須賀基地》で学んだのだ。
ザザ〜………
そんな日々が続き、静けさな海の音をこの耳で聞きつつ、今日で俺はここを去る時が来たようだ。俺は自衛官候補生で、そこから曹候補生の試験を受ければ昇格できるのだが、自分は残念ながらその試験に落ちた。つまり、昇格が出来なかったのだ。元々勤務成績は他の隊員と比較しても、そこまで高くなく、任務中も自分が足を引っ張ったところもあり、周りに迷惑をかける事がしばしばなのは日常茶飯事。勉学も疎かにしていたから当然とも言えると俺は実感していた。上官からは在籍期間を延長し、また再試験は出来る。…とは言っているが自分の時間には限りがあることを伝え、丁重にお断りした。そう考え事に耽っていると気がついた時には基地の外が見えていた。
ザッザッザ………ズザッ!
「いよいよか…」
意気込みを思い立て、噛み締めながらも胸を撫で下ろしつつ、基地の外まで歩もうとしたその時だった。
「二ノ宮海士長、待ちたまえ」
「!!」
誰かから声をかけられたので振り向くと、黒の制服に身を結み、《水上艦艇き章》、《潜水艦き章(ドルフィンマーク)》、《防衛記念章》、その他数々の功績が物語っていると言っても過言ではない勲章を身につけし、厳格かつ紳士の雰囲気を持つ上官が立っており、白狼は思わずハッとした声で返事をした。
「…三橋三等海佐!!」(ビシッ!!)
白狼は素早く敬礼したのを確認すると三橋と名乗る三等海佐はゆっくりこちらへ歩み寄った。
「もういくのか?」
「はい。長居は無用なので」
「そうか、ご苦労だったな」
「はっ。今までお世話になりました!」
「うむ。ああそうだ。君に渡すものがあった」
そう言って、三橋は胸元から何か包んだものを取り出し手渡された。少し重く大きく布で包まれていたがこの感触には覚えはあった。
「開けてみたまえ」
そう言われ、中身を確認すると、一本の十手だった。それを見て白狼はこう伝えた。
「!?これは、私が広島の呉教育隊に配属されたときから所持していたものであります!…当時紛失して困っていたのに……!!三橋三等海佐!!…一体どこでこれを!?」
白狼の焦ったかのような問いかけに三橋ははっはと笑い、こう言った。
「君の言ったように呉教育隊基地内のロッカーの中に入っていたらしいのだよ。処分される前に私が預かっておいた。君の大切な友人からの贈り物なんだ。忘れ物はだめだよ!」
「はっ。申し訳なく思います!!」
「ああいいよ。だが、君はそれをとても大事に使っていたようだな。君は中学から居合を学んでいたらしいから、その名残を今でも忘れてはいないか?」
「はい。忘れはしません!」
「そうだろうな。君が教育隊に在籍していた時、余暇時間に人の目を盗んでその十手で素振りをしたり、護身術を独学で熱心に取り組んでいた姿を今でも覚えているよ」
「」
白狼はそれを伝えられ、見られていたのか〜!!とすごく発狂したくなる気持ちになった。例えで言うなら母親に隠していたピンクの本が見つかり、机の上に堂々と置かれているくらいの恥ずかしい気持ちになった。
「はっはっは。まあさておき。…《二ノ宮海士長》!…これからの進路は決めているのかね?」
「いえ、ですがこれからのことは自分の足でゆっくり決めていきたいと思います!…それに一度居合道の仲間とも会って色々伝えたいことがありますので!」
白狼はその旨を上官である三橋に伝え敬礼した。その姿勢に敬意を表し、相手も綺麗に敬礼を返す。
「期待しているよ。後、彼らにもよろしく伝えておいてくれると私は嬉しいよ」
「はっ。失礼しました!」
そう言い残し、基地のゲートを潜ろうとしたその時だった。
「止まれィ!!」
「!!」
突然、三橋三等海佐は強く声を張って白狼を静止させた。
「二ノ宮海士長!!君は出入の警備担当にまず出入記録簿に記入して許可を得てから門を出るようにという教えを忘れたのか!?」
出入担当の警備隊と三橋三等海佐の冷ややかな視線が突き刺さり、冷や汗が出そうになった。
「失礼しました!!」
安心しきっては危うく最後の最後に服務事故の処罰を受けるところだった。そう思いながら白狼は出入記録簿にきちんと記入し、許可が降り、ようやく白狼は門を出た。立ち去る白狼の後ろ姿を見て、三橋三等海佐は安堵の息を吐き、それと同時に彼がここを立ち去り、寂しそうな気持ちにもなった。
「…ふう、行ってしまったか。彼がいなくなると、ここも寂しくなるものだな…」
「三橋三等海佐殿!…失礼ですが二ノ宮元海士長のこと、何か知っているのですか!?なんか顔見知りというか、昔から彼の事を知っているかのような親しみにも近いものを感じましたが…」
「別になんでもないよ。さ、任務に戻って!」
「はっ!!」(ビシッ!)
「……」(…ふむ…彼とは本当に偶然とは思えないほど縁があるように思う。最初は和歌山の地方で行われた自衛隊の式典から彼と出会い、次に呉教育隊で私は教官役として彼を教育し、そしてここ横須賀では彼の航海演習での副航海長を私が務め、彼は索敵担当の作業員だったな。この三年を振り返ると、彼はあの時と比べ、一回りも二回りも大きくなったように思う。本来ならこの自衛官の曹候補生も易々と合格し、最終的に幹部まで昇格を期待したのだがな…だがあるいは非科学的な考えではあるが彼自身この場所で羽を休める運命ではなく、他に何か重要でやるべき使命をまっとうするために昇進させなかったとも言えるかもしれないな…)
三橋は白狼の進路について色々考えに耽りながら、基地内の建物に入っていった。
・・・
ヒラヒラ〜…
横須賀基地を後にした白狼は道を歩いていると前から何か小さな淡い色のした半ビラが一枚一枚横切っていた。前を向くと、そこには桜の花びらが舞い散る光景が広がっていた。その付近にバス停があり、待ちぼうけを喰らっていた最中、先ほど見た桜の花びらを見て昔の友人のことについて思い出にふけっていた。
「そうか、もう春だもんな!」
ヒラヒラ〜…サラサラ〜…
「桜を見ていると…やっぱあいつを思い出すな。悪いなぁ〜ロベル…こんな形でお前の憧れだった自衛隊を辞めることになってしまって………」
ロベルとは幼少期の頃の幼なじみで、日本人の母とドイツ人の父の間に生まれたハーフである。昔から日本文化が好きで特に寿司とか相撲を見るのも好きだった。中学生の頃から共に居合道を習っていた仲で、稽古を終えた後、他の生徒が帰った後に菊川先生が見ている中で木刀での実践形式の剣劇を欠かさず行っていた。その勝負の数は約1000以上は試合している。剣の腕はほぼ同等で引き分けの日がとにかく多く、白狼が勝つ時もあればロベルが圧勝する日もあった。何故彼が居合の道に足を出したのか、きっかけは自衛隊のイベントで見た儀礼刀を持ち、指揮する隊員の姿に心惹かれたのが大きな理由。ロベル自身、いつか自分も剣術を学び、自衛隊員になってあの人のように数々の隊員を指揮する立派な人になりたいと心に決め、進路は自衛隊に行こうと昔から夢見ていたようだ。中学時代、特に何もしていなかった帰宅部の白狼がその時にロベルから誘われて入門し、お互いに居合道を学ぶ仲となった。だがロベルは高校三年の春先の季節に親の仕事の都合で来年の卒業式が終わった後にはドイツへの移住が決まっていた。白狼はそれを知りロベルに対し進路をどうするか迫った日があった。
・・・
・・
・
〜時は戻り高校時代ーーー
「なあロベル、お前やっぱ家族と一緒に海外に行くのか?」
白狼は片手に飲みかけのブラックの缶コーヒーを持ちながらロベルにそう問いかけた。
「ああ、こればかりは仕方ないさ。本当は自分の進路通り自衛隊の方面で行きたかったんだけどね」
「…そうか、まあ仕方ないな。」
「…なあ白狼」
「ん、なんだ?」
「君は進路、決めているのかい?」
白狼はロベルにそう言われ、返答に対する答えを待つかのように缶コーヒーを一口飲み、彼にこう言った。
「そういや、まだ何もだな。特にやりたいことってのもないしなぁ〜!…まあ普段、今をこうやって楽しく生きて行ければそれでいいと思ってるからな〜俺」
そう返答し、飲みかけの缶コーヒーを再び口に含む。
「ふふっ、全く君らしいな…本当に!」
ロベルは白狼の自由奔放な返答にああ、本当この人はーーと呆れを通り越して一緒にいると本当に退屈しないなと言った感じで笑みが出た。息を整え、ロベルは白狼に対してこう問いかける。
「ねえ白狼、僕の代わりに自衛隊の試験受けてみてはどうかな?」
「!!」
白狼はロベルの発言に驚き、口の含んでいたブラックのコーヒーを吹きそうになった。だが、運よく吐き出すほどではなかったが多少むせかえった状態でロベルに話しかけた。
「げほっ、げはっ、お前、本気で行ってんのか!?」
ロベルは真剣な表情とトーンで強い意志で答えた。
「僕は本気だよ。君なら必ず受かると確信している。そして未来に大きく活躍し、大きな功績を残すだろうね…君なら!!」
「…!!」
ロベルの目は本気だった。その目の色は、自由奔放な白狼に対する嫉妬のため、代わりに自衛隊に行かせるという押し付けに近い短楽的なものではない。いつか白狼は将来大きな功績を上げていき、権力を持つ立場になっても欲に溺れず、日々妥協せずに数多の人を引き連れ、困っている人達のために働く活躍をするという未来を見据えての発言であった。故に彼にはそれだけの素質と器量、覚悟があることを見込んでロベルはそう告げたのだ。白狼は少し考えに考えを重ね、渋々返答した。
「…どう?受けてみるかい?」
「………」
ロベルの申し出に対し、白狼の返答は意外にも腹が据わっておりすかさず返答をする。
「…なあロベル?…お前なら自衛隊の試験の過去問一つくらい持ってるだろ?」
その返答にロベルは嬉しくなり、白狼に迫った。
「じゃあ引き受けてくれるのかい!?」
「まあ最悪レベルの低い大学に行くことになって学費と時間を無駄にしてパチスロ漬け生活をするのも勘弁だから、ちゃんと勉強するってだけさ」
「全く、素直じゃあないね…君は…はは!でも僕はその答えを期待していたよ!」
少し呆れたようなため息混じりな返答をした。だがロベルは心の底から安堵したかのように笑みが溢れていた。この出来事により白狼は明確な進路を決める。しばらくしてからロベルから陸・海・空のうちどこに所属したいかを問い、白狼は海上を希望した。何故海上を決めたのかと問うと、昔から泳ぎが得意だから、海が好きだからという軽率な気持ちもあり、ロベルは真面目にと少し怒り口調で迫った時もあったが、最近日本海軍の実在した艦隊のゲームにはまっていて、戦艦や駆逐艦、戦闘機のエピソード、戦略に心惹かれたところを流暢に話しかけている姿を見て、本来の自分を騙して堅苦しく言うよりも白狼のシンプルかつその素直な性格が相手にもしかしたら良い印象を与えると思い、ひとまず納得した。
そして時は過ぎ、夏頃に始まった自衛官候補生の試験を白狼は受けることになった。問題は一般教養(国語・数学・社会・英語・作文)が出題され、なんとか問題を解くことできた。肝心な面接も、日本の海を守る重要性や近年起こった領海でのトラブルに海上自衛隊としてどう立ち向かうか、また、将来自衛隊で活躍してどのようなキャリアを目指しているかを面接官に向かってはっきり伝え、試験を終えた。そして冬頃に自衛隊事務所から連絡が来て晴れて合格という知らせが来た。ロベルやその他居合道の菊川先生と女生徒達に報告し、みんなで祝福し合って、菊川先生が奮発して寿司を奢ってくれたりし、ロベルは喜んでいた。その後卒業式も迎え、入隊までの間にロベルと居合道に力を入れていた。
〜渡航前日・早朝〜
ブン!…!!ブン!
「せい!!…はぁっ!!」
ロベルは腹の中から声を出し、人形に見せた藁を真剣で切り落とす。渡航前に気を紛らわす為に道場内で剣を振っていた。居合道の道場は、町から外れた辺鄙な山の近くの龍川神社敷地内の建物にある。そのせいか空気が澄んでおり、早朝から落ち着いて鍛錬に臨んでいた。
「…ふう、少し休むか」
ロベルは外に出て風にあたり、ドイツ人独特の炭酸の入った天然水を飲みながらクールダウンをする。もうこの道場とも今日でお別れかと思うと少し切なくなる。そんなふうに思っているとある者が顔を出した事に気づいた。
ザッザッザ……
キラーーン!
「やあ、ロベルトくん。頑張っているようですね」
ロベルの前に姿を現したのは、痩せ型で170cm代後半とやや長身の中年男性であった。特徴としては坊主頭であり、緑茶のような色をした和服を着込み、黒縁の丸眼鏡を付けており、男のトレードマークと言っても過言ではない様であった。ロベルは相手に対し、名前を間違えられたのが癪に触ったのかすかさず撤回を命じる。
「…僕の名前はロベルですよ、菊川先生。…いい加減覚えてください。あと道場内に酒の缶が落ちていましたが、また道場内で飲酒したのですか!?あれほど酒の管理とかしっかりしてくださいと伝えたのに!!……全く、あなたって人は…」
その者の正体は、居合道の師範代で菊川と名乗る男であった。
「あ〜分かってますって。…ですがベルトくん。君にそう言われても全く説得力がありませんとも。だってさ〜!あ〜なんだ…そう、バレンタ……インという行事のえ〜…ホワ…イト?…白の付くお返しだとかで、まさか酒の入ったカタ…カナのチョコレ……ート?という名前のお菓子を彼女達に渡そうとするとは、全くもって不純だと思われ……であるからして、つまり申し上げました通り、あなたの様な勘の鋭い生徒を持つととても厄介なのだと……そう………?」
「………」
「あの〜?もしも〜しリベロく〜ん?」
「……」(…イラッ!!)
「!!」(ぞわっ!!)
菊川はロベルの冷たく凍るような視線に冷や汗をかいていた。若いながら闘争心と同時に強い殺気じみた闘気を放っている。次間違えたら容赦はしないというのがひしひしと伝わってきたようだ。
「」(あ、これ次しくじったら命の保証ないわ、まじでヤバい、先生ヤバいわ、あ〜怖いな〜!!…もうなんで最近の若い子は冗談が通じないのかねぇ〜ほんと!先生の若い時なんざ〜つか、昔からカタ…カナとやらは苦手なんだよ私はっ!!)
そんなロベルと菊川によるイザコザの中、白狼が眠たそうにあくびをしながらリズミカルにベルを鳴らして自転車を漕ぎ、道場へ顔を出した。当の菊川は、『あ〜来てくれたか、これで一安心!!』という様子で内心ホッとした態度を見せる。
キキーー!!!
「ふぁ〜……ようロベル〜、Guten Tag〜!」
(ドイツ語でこんにちは!)
「…白狼、今はGuten Morgenだよ。」
(ドイツ語でおはよう。)
「あ〜はいはいGuten Morgen、Guten Morgen、…。つか、日本語でよくないか?」
「!!」(ブチッ!!)
🎼Back Ground
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♪〜七人の侍より・勘兵衛の怒り
♪〜デンデンデンデ〜ンデンデンデ〜ンデデデ〜ン♪
○ ○
○ ○
○ ○
卍
〜ど〜
・
・
・
「」(あっ、終わった…)
菊川は、ロベルが怒りのあまりに理性が吹っ飛んだような警笛が鳴り出した事をその場で察知した。白狼の朝から発した空気の読めない《ドイツ語》の挨拶が、ロベルの怒りを遂に解き放ってしまったようだ。その彼の様は、菊川自身が若き日の世代から知る《白黒映画》を連想したのか、それは黒の名が付く《巨匠》の映画監督が世に送り出した《アクション映画》の《原点であり長点》として君臨し、その名を世界へ知らしめた《日本映画作品》であった。作中に出てくる野原に放たれた《40騎》の野盗武士───────通称《野伏・野武士(のぶせり・のぶし)軍団》───────その者達の侵略から略奪の限りを尽くされ、虐げられてきた《百姓》の者達を助ける為、各地方から訪れ、結成された選ばれし《七人の》腕の立つ《侍》そのメンバーのある一人の俳優を連想させる《迫真》の形相で、口元から静かなる不気味な笑い声が聞こえてきた───────
「…ふふっ、ふっふふははっ…」
「ん?おい、ロベル?どうした?」
「あはは…こりゃあ先生は退却した方が良いね〜では!!」
菊川は出来るだけロベルから距離を取ろうとした───────が、時すでに遅く、ロベルは鬼のような速さで菊川の首元の襟を掴み、そして白狼の胸元の服を掴みかかった。二人は逃れようと抵抗するが、万力の如く強い握力で握られており、振り解くことができない。掴みながらロベルはまるで呪文でも唱えているかのように口を動かしていた。
「Oka…wi…bei…erden…」
「ちょっ!?ろ、ロベル!!まあ〜落ち着けってぇ〜!?」
「無駄だよ、白狼くん…無駄さ!!…無駄な抵抗!!…こうなってしまった《ロベルト》くんは…もう誰にも止められないんですから…」
「き、菊川先生!?ちょっ!?名前!名前間違えてるって〜〜!!」
「」(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……)
「「!?」」
菊川先生と白狼はとてつもない悪寒がしたのでゆっくりロベルの方を向いた。それはまるで鬼神のような表情をし、凄まじい怒りと同時に闘気に満ちあふれていた様子だった。ロベルはようやく大きな口を開くと二人に対して強くこう唱えた。
ドドドドドドド……!!!
「Okay, wir beide werden dir heute mehr Schmerzen als die Hölle bereiten, also sei vorbereitet‼︎‼︎」
(ドイツ語でよーし二人とも今日は地獄以上の苦痛を与えてやるから覚悟しやがれ!!!!)
「」「」
う、うわあぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!
・・・
何処かの戦争系の洋画でありそうな台詞をドイツ語で罵声した後、とてつもない力で二人を道場内に引きずり込んだ。二人はなす術もなくただ悲鳴を上げ、ロベルの制裁を受けることになった。後々訪れた道場の女生徒A・Bからは、道場にはとても清々しい気分で綺麗に床を掃除するロベルの姿と後ろには死体のように横たわる白狼と菊川先生の二人がいたらしい。その付近には紙に《オタスケ…。タスケ…テク…レ》とダイイングメッセージじみたものが書き残されていたらしい。生徒からは何があったのかを察した後、女生徒Aは『クワバラクワバラ……』とお察し申し上げ、女生徒Bは、『まちがえば、ふたりなかよく、じごくいき〜♪』と《575》の《七五調》の俳句を読むかのように語ったそうだ───────
時は流れ夕方〜
「さて、そろそろ終わるか!」
「ああ、だが今日は散々だったよな〜菊川先生!?」
「全くですよ、本当に……」(やれやれ…)
「「「自業自得(よ!!)です!!」」」
「も〜う!菊川先生はいい加減カタカナに慣れてくださいよぉ〜っ!!」
「そもそもロベルには京一というもう一つの名字があるんですから、そう言っておけばこんなことにならなかったのではないのでしょうか?」
「ふむ。……確かにそうだね〜…いやはや面目ない」
白狼と菊川は今朝のロベルのしごきがだいぶ効いたのか、夕方になってもくたくたな状態だった。道場に入門している二人の女生徒A・Bからも今回の件は弁明の余地はないのでロベルと一緒に自業自得とハモるように返答した。そんな時、女生徒Bがロベルに話しかけた。
「…でもロベル先輩、今日でもうお別れなんですよね……」
「ああ。君とは二年間という短い間だったけど、今まで本当にお世話になったね!」
「…こちらこそですよ///…本当に…うっ、でも、やっぱり寂しいです〜!…グス…ッ!」
「えっ!?ちょ、ちょっと!?」
「お〜!?ロベルが女の子泣かした!」
「いやはや青春だね〜!!先生の若い頃はもっとお熱く───────」
「ふんっ!!」(バシッ!!)
「「ヘブし!!」」
女生徒Bは別れのあまりに涙を堪え切れなくなり、泣き出してしまったことに戸惑うロベル。そして悪ノリをしていた二人に女生徒Aは容赦無く手刀を脳天に繰り出し、それが見事にクリーンヒットさせて成敗する。二人は当たりどころが悪かったのかのたうち回っている様子だった。白狼は痛がりながらも少しずつ立ち上がり、女生徒Aの方に視線を戻す。
「…!!」(ジタバタ!)
「あ〜いてて、モロに入った〜!!」
「ったく、こんなバカ共と一緒にいるとホントストレス溜まるっての!」
「バカは余計だ!まったく普段は色気あるのにハメ外すとホント残念だよなぁ〜あんた!!」
「なっ…///!なんですって〜!!」(カッ!)
「お、やるけ?」(カッ!)
白狼と女生徒Aの目はお互い凄まじい剣幕で睨みつけている。一触即発のムードであったが、その間にロベルが二人以上に鋭い剣幕で割り込み、二人の争いを静止させる。ロベルの手には木刀が二つも持っていたのを目撃すると白狼と女生徒Aは身の危険を感じたのか距離を取る。だがロベルの方は白狼の方に歩み寄り、木刀の一本を白狼に近づけ、言葉を発した。
「…白狼、勝負だ!」
「…えっ?!」
「ちょっ!?え、勝負って…!?」
「ロベル先輩と白狼先輩が…試合…!?」
「…どうする?」
「………」
ロベルの目は、真剣そのものであった。ここで自分達との戦いに終止符を打ちたいと言わないばかりにロベルの放った言葉には気高い狼のような覚悟が感じられたーーー