GiorGiaNo

 
《Paradisoシリーズ〜導かれし七人の現世人の冒険譚》  

A.:GiorGia


〜第二章:ダブルフェイス・黒豹と法と秩序の契り〜


第15話:掃除屋兼便利屋ギルド【Hopera】維新事変勃発───────沈黙されし異次元ノ《0》




【Veno・nix】は【Varisk】の【Bran】による毒の負傷で昏睡状態に陥り、再び長い眠りにつく───────次に目覚めた時には、列車内にいた【Lawrence】と、現世の彼の友天野の姿をした幻影の者に導かれ、激励を受け今宵再び再覚醒するその間───────運命の歯車に巻き込まれた【Paradiso】で過ごす者達の宿命───────それぞれの者達が体験し語られた隠されし真相───────動き出した道は闇へ向かいつつ───────0から1への追憶の迷い路に進もうとしていた───────












《Capitolo・1》
物語を開始しますか?

🎼Back Ground Music 》》》



I don't like or hate it. I like it, I'm indifferent, isn't it?
(好き、嫌いじゃないですよね。好き、無関心ですよね反対語は。)

A little step will create a new point of change. When a new change point is born, it becomes clear that there are no major things that I was worried about, and that I understand and do not understand.
(ちょっと一歩やると新たな変化点が生まれる。新たな変化点が生まれると悩んでたことの大したことと無い事と、分かった事と分からないことが分かってくる。)

TOYOTA Akio
(豊田章男)





〜【Paradiso】歴2000年:7/22・朝方【E島】・【Velkana】・街外れの教会〜

コツン…コツン……!!

コトッ……

「……久しぶり。…半年ぶりだね。…ベルナ姐さん…」

「……お母……さん…」

時は、【Paradiso】歴2000年7/22───────【E島】の【Velkana】にある市民街の街外れにある教会で、【Beanne】と【Roar】が訪れていた。【Beanne】の手には梅酒の酒瓶、【Roar】は、《成功》を冠した白い《ネモフィラ》の花束が持たれていた。それらを【Bellna】の墓地の前に備え、彼女を供養するようにこう伝える。

「…姐さん。…無事に終わったわ。…ここでの任務。…でも私はあくまで【Dail】邸の主を確保に協力しただけ。…肝心の…あの男の情報を知る【Makiras】(マキラス)からは何も得る事は出来なかったわ。……ごめんなさい」

「……ベア…姐さん」(ギュッ!)

【Beanne】は【Bellna】に対し報告をする。隣で彼女の身体にしがみついている【Roar】は不安そうに見つめる。

「……〜♪」

なでなで♪

「!?///」(テレテレ///)

それを【Beanne】は、安心させるように彼女の頭を優しく撫でる。

「心配しないで、ロア。…私は大丈夫だから。……ありがとう♪」

ダキッ♡

「〜!?///…ベア姐さん…///苦しい…///」(プシュ〜!)

【Beanne】は【Roar】に思いっきり抱きつき、【Bellna】と過ごしていた日々の事を思い返しつつ、今の現状を更に伝える───────

「ふふ〜ん♪…あぁ〜!落ち着くな〜♪……昔こんなふうにベルナ姐さんが抱きしめてくれたな〜♪…よく《ちんちくりん》だとか《甘えん坊の鼻垂れ娘》とか色々言われてさ〜!…ふふ〜ん、でもこうして大人なアダルティーで、晴れてあの【Makiras】を倒した。…今、私が教育係としてスパイやアダルティーのノウハウを教えてる自慢のフィアンセ♡新人【現世人】《ハクローくん》とね〜♡ルーシスおじさんとベルナ姐さんと同じくらいイチャイチャラブラブ生活を満喫してるよ〜♡…ま、今は【Grazia】(グラージア)で入院中だけどね……」

「!?///……ハクロー…さん……早く身体が良くなって欲しい……です…///」

「ふふ〜ん、大丈夫だよ〜!ハクローくんなら私に会いたいが為にすぐに目が覚めてくれるよ〜!必ずね〜♡!」

タッタッタ…

「やっぱりここにいたのかい。…ベア、ロア?」

「んん〜?…あ、ルーシスおじさん遅〜い!」

「お父…さん」(ぺこり!)

二人に声を掛けた者は、【R・P】社ギルド室長の【Lu-cis・H】であった。その手には彼女の形見であるのか、ペンダントが持たれていた。

「…ごめんね。…迎えに来るのが遅くなってしまったようだ。……終わったんだな……」

ジャラッ!……

「………」

「……ルーシスおじさん…」

「…お父さん…」

【Lu-cis・H】は墓地の前にしゃがみ込み、一同を代表して彼らから手渡された色取り取りの花束を置き、今回の任務について心に念じ、黙祷する───────

「……」(ベルナ。……どうやら今回の任務は我々【R・P】社のギルドメンバーだけでなく、アガルタからの伝令でルーヴェスやフカベ君に…ルビアにルクナ…そしてオリアナのメンバーの一人の…アリア【Aria】という名の女性の協力もあって無事成功したみたいだ。……本当に良かった。……だが出来れば僕も今回の任務に居合わせたかった。…けど皆に止められてね。……ここは、将来を担う次の世代の部下に任せて託すべきだと……結果的に遂行する事が出来たみたいだ!…感謝している!)

《黙祷》

「……」(黙祷)

「……」(黙祷)

一同は黙祷し、その場面を見守る───────そして暫くしてから立ち上がり、【Beanne】に視線を合わせる。

「……ベア。…いいかい?」

「?…何、ルーシスおじさん?」

「…ついてくればわかるよ。……ロアも一緒に」

「…はい」

タッタッタ……

一同は教会の外に出る。そこには、ある現世でも見慣れたものがそこに安置されていた。




🎼Back Ground Music 》》》



♪〜Gr4より・Moon Over the Castle

ブロロロロr………

「?……!?…ルーシスおじさん…この車って!?」

「!?…あの時……今回ターゲットの怖い男の人(【Dail】)…が乗っていた……黒い…車…!?」(ビクッ!!)

二人の目の前に現れたのは、【Dail】が乗車していた一台の車であった。しかし、それを【Lu-cis・H】は首を振り、こう説明する。

「これはあくまで仮初。…ダミーだよ。……本当の正体はね……」

ガチャッ!……バタン!

「…んん〜?」(首かしげ?)

「?」(首かしげ?)

二人は首を傾げていた。【Lu−cis・H】は車内にあった暗証番号のコードを打ち込む。入力を終え、一度車から降りる。

ガチャッ!…バタンッッ!!

「…これでよし!」

「?…ルーシスおじさ〜ん?一体どういうこと〜?」

「?……お父さん。……一体…これは…」

二人の質問に対し、【Lu-cis・H】はこう告げた───────

「…これはね。…元々ベルナの愛車だったんだ。…どうやら上手く姿を隠しつつ、今回の事件の情報を、極秘に手回ししてくれてね」

「!?」

「!?…え。…!!ええええ〜〜〜〜〜!!??」

二人は驚く。そして続きを語る───────

「懐かしいよ。…この車にはね。……《フォーム変換機能》を備えているんだ。…今はいない技師に頼み込んで、特別にオプションを備えてくれたんだ。……唯一お気に入りだったのは。…彼女と妹のネラが現世で両親から代わりばんこに助手席へ乗せてもらっていた……」

ブロロロロロr…………!!



ブォ〜〜〜ンン!!!!

「!?…す、スポーツカー!?」

「し、白い…です!!」(キラキラキラ!!)

暗黒の黒に染められたその車は、現世に存在したあるペガサスホワイトカラーに彩られた《スポーツカー》へとその姿を変える。フロント・リアにはメーカーのエンブレムは一才見当たらなかったが、《2000GT》と名残のある刻印が刻まれており、2ドアではあるがカスタムされていたのか、後部座席が存在しており、本来2人までの乗車制限が、最大《5人》までの乗車が可能な仕様となっている。駆動方式は《FR(後輪駆動)》で構成され、そのフォルムは当時の時代でも、そして現在の時代でも通用する革新的で洗練されたカーデザイン。

──────まさに《レジェンドカー》と呼ぶに相応しい仕様となっている。



「ルーシスおじさん…」

「…お父さん…!!」(キラキラ!)

「…サプライズだよ。…さて、ベア!運転頼めるかな?」

「!?え、ええ〜ッッ!?私でい、いいの!?」

「べ、ベア姐さん…!?」

「構わないよ。…君が運転してくれるならベルナもきっと喜ぶ。…それに、【V・Prestina】の他にも車の運転はお手のものだよね?」

「…あ、あはは。…〜♪…まあ〜ね〜♪」

「…!!」(ワクワク♪)(運転…ベア姐さんの運転……ちょっと怖そうですけど。……お母さんが乗っていた車…かっこいい…です!……この白い色…お母さんのようで……まるでハクローさんの髪の色みたい…です…!///)

黒い車は、白のペガサスホワイトへと変貌を遂げる。それは恰(あたかも)も、《色欲》と《強欲》に塗れた独裁政権により、黒に染め上げられ、支配されていた花の街【Velkana】が、来るべき清算されし時の訪れによって《神秘なる歌姫》による、オペラ合唱の恩恵と祝福が施され、生前彼女が愛していた白い潔白のイメージのある、元の花の街へと還元され、再び形ある姿として平和を象徴とする意を成しているようにも見受けられた。

キラキラキラ………

「…じゃあベア、頼んだよ」

「運転、お願いしました……ベア姐さん」(ぺこり!)

「任せて〜♪…ふふ〜ん!…腕が鳴るね〜♪」

ブンブォ〜ン!!………!!

ブロロロロロ!!!!!…!!

グォーーーンン!!!!!

「!?…〜♪」(Wo〜w〜♡…スタートダッシュも直線もはや〜い♪!!)

ブォーーーーン!!!!

車はとてつもないスピードで直線道路を疾走する。これには助手席に乗っていた【Lu-cis・H】と後部座席に座る【Roar】はすこぶる驚く───────

「!?……」(これは驚いた。…ベルナ以来だね。………軽く300km…いや、400は軽く出ているようだ。……それに…楽しそうだね…ロア!)

「っ!?…〜♪」(ワクワク!)(これが…速さの世界……!!…凄い…です!!お母さんが乗っていた…車!!)

ブロロロロロ!!!!

隼のように疾走する車。しかし目の前には急カーブが立ち塞がる──────

「……ベア。…もうすぐで急カーブだよ。…スピードを落とし……!?」

「!?」

「…………」(にぎにぎ…)

【Beanne】はある某走り屋漫画に出てくる豆腐配達を生業にしている者の如く、運転にめっきり集中してハンドルを握り締め、決して減速せず立ち塞がるカーブにそのまま直進し、曲がろうとする。

ブォオオオオオンン!!!!!

「よ、よせベア!!そんなスピードでは曲がれない!!!」

「き、危険です!!…ベア姐さん!!」

「……〜♪」

《ハクローくんの大切にしている《侍》スタイル……《居合道》のように…風を斬るかの如き曲線で……この峠のコーナーを制する!!》

ブロロロ………!!!

キキ〜ーーッ!!!

「!?…くっ!!」

「き、キャ〜〜〜ッ!!!!」(ブワァッ!!!)

「………!!」

《取った!!!》

キキ〜……!!

ブロロロロ!!!!……

ブォーーーン!!

【Beanne】は華麗なハンドル捌きで後輪を横滑りに摩擦させ、まるで技の一つである路肩の溝にタイヤを進入させ、ジェットコースターのようにほぼスピードを落とすこともなく大技のドリフトを決める。その様子に【Lu-cis・H】は笑みを浮かべ、【Roar】は涙目を浮かべる。

「…そうか、ベア。…《風と地の能力》を使ったようだね。…邪道ではあるけど…」

「大正解だよ〜ルーシスおじさん♪…流石に能力使わないと事故するからね〜♪…まあいいじゃん♪お陰でスリルあったでしょ〜?ロア?」

「は、…はい。……こ、怖かったです……うぅ〜……」(ぴえん…)

【Beanne】は森羅万象の地・水・火・風の能力の内、風と土の能力を使用し、華麗に事故する事もなくカーブを曲がり、そのまま超高速のスピードで道路を疾走していく───────



───────※あくまでフィクションかつファンタジーの世界です!危険運転の為、絶対に真似をしないで下さいッッ!!!

・・・
・・


〜数分後〜

ブロロロロロ……

「………」

ブォーーーン!!

「…そろそろトンネルの区間か。…恐らくは……!!」

チャカッ!!

「お、お父さん…!?」(ビクゥッ!!)

突然【Lu-cis・H】はハンドガンを持ち出す。その様子にロアは驚く。

「心配しないで、ロア……どうやら追手が来たようだからね。…これで撃ち落とさせてもらうよ」

ダァン!! ダァン!!

パキャン!!

『kdkf48439403』

『kdsldsjs85473』

チュドォーーン!!!

「………」(チャキッ!!…リロード…)

【Lu-cis・H】は車の窓から顔を出すと、ドローンの飛行体に弾丸を浴びせる。命中したからか、そのまま爆発し、トンネル内に轟音が鳴り響く。

「ヒュ〜♪…やるね〜ルーシスおじさん!」

「…伊達に身体は覚えているよ。室長といえど、鍛錬は疎かにしていないからね」

「すごい…です…お父…さん」(キラキラ!)

【Roar】は【Lu-cis・H】を父親としてしっかり信頼しており、理想とも言える存在であった。その様子を察したのか、少し意地悪そうにこう答える。

「はは、ロア。…君にもハクローくんという、いい兄さんが出来たから、もう親離れをしたらどうかな?」

「!?///…お父さんの意地悪…です…///」(プイッ!///)

「…〜♪」(久しぶりの一家団欒〜♪…良かったね〜!…ベルナ姐さん♪)

・・・

〜更に数分後〜


〜【Paradiso】歴2000年:7/22・昼方【D島】・【CronoSt】・【R・P】社・地下駐車場〜

ブロロロ……!!

キキーーッ!!!!

「〜♪ふぃ〜!…着いた着いた〜♪」

「…やれやれ、もう少し加減してほしかったよ、ベア。…ロア。…大丈……夫!?」

「〜……」(キュ〜……)

【R・P】社に着くも【Roar】はどうやら刺激的なドライブになったのか、運転の途中で気絶してしまったようだ───────

「…仕方ないね」

ダキッ!

「おっ!ルーシスおじさん!」

「普段ネラに任せっきりにさせていたから、相手してあげられなくて寂しそうにしていたからね。……今日くらいは面倒を見るよ。…助かったよベア。…それに…」

「?…んん〜?…それに〜?」

……ニコッ!

「…!!…はは!…なんでもないよ。……久しぶりに刺激的で、いい時間のドライブになったよ。…本当にありがとう。…今回の任務。…誠にご苦労だったね。…今日はゆっくり休んでよ」

タッタッタ…

「…?」(一体なんだろ〜?)

【Beanne】は【Lu-cis・H】が浮かべた笑みを見て何処かミステリー気分になっていた───────

・・・
・・

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜滝廉太郎より・荒城の月

〜その夜〜

「………zzz〜♪」

その夜【Beanne】は自宅で眠りについていた。しかし服装はというと─────

「…!?///…もう!!ベアさん!!///また下着姿のままで眠っているんですか〜!?///……もう……風邪引きますよ……」

ファサッ!!

【Beanne】が暮らしている自宅には、同居人として【Linea】が共に生活をしている。どうやら彼女は下着姿のままで就寝していた為、それを見過ごせなかった【Linea】は彼女に布団を被せる。

「……zzz〜♪…もう食べられましぇ〜んん〜♪…!!はぁ〜〜〜んんん♡ハクローくぅ〜ん♡そ、そこダァメぇ〜〜♡♡はぁ〜〜〜ンン♡」

「〜!?///…も〜うっ!一体どんなふしだらな夢を見てるんですかぁ〜!?///」

ペチペチ!!

「あぁ〜〜んん♡///もっとぉ〜♡……zzz…zzz……」

「うぅ〜〜っ!!///もう知りません!!///」

バサっ!!

「…zzz………っ!!……………」

季節的にも熱帯夜の為、彼女の身体は暑いのか、夢の中で【Hux・row】と愛を育む夢の中で浸っていたようであった。しかし眠りが浅くなるにつれ、何処か寂しげな表情を浮かべていた──────

・・・

〜【Beanne】の夢の中〜

「あれ?……こ、ここは?…確か私、ハクローくんが入院中で寂しいから……妄想に浸って…」

ガラガラガラ………ガタン……ガタン………

「?……歯車?……あれって。……城?」

【Beanne】が夢の中で立ち止まっていた場所は霧が立ち込めていた。目の前には霧に隠れる城が聳え立っており、周囲には巨大な歯車が時を刻んでいるかのように見せていた。その様は、まるで《天空の城》を連想させており、現世でもイタリアの国ローマに現存する《チヴィタ・ディバニョレージョ》と呼ばれる観光名所を連想させる、場所であった。

〜♪

「………この歌って……《荒城の月?》」

ブロロロロロrr………

「!?……え?」

ブォーーン!!

「……《2000GT》。……でもどうして?」

【Beanne】は、現世の作曲家《滝蓮太郎》が作曲した歌曲《荒城の月》が何処かで流れていた事に気づく。その音楽は、先程運転した《2000GT》であり、何故か彼女はその場にいた。車内からは悲しげなピアノにヴァイオリンで演奏された音源であり、儚く寂しげに見せていた様子であった。

〜♪

「……ベルナ姐さん…」

【Beanne】は《2000GT》のハンドルを優しく撫でる。彼女の瞳には少しばかりの涙の滴がこぼれ落ちていた。曲調から、《悲しみの再会》とも言えるものが心にあったのか、切なしげにこう言った。

「……うぅ……!!会いたい……会いたいよぉ〜!!!………会ってこの姿を一目でも……いや、何度でも見て欲しかったよぉ〜〜〜!!!………っ!………姐さん…!!ベルナ姐さん……」

ポロポロ………

【Beanne】は【Bellna】の事を思い、ひたすら泣く。彼女は目の前に広がる《天空の城》の周囲に時を刻んでいる歯車に対し、もう一度あの時、【Bellna】と共に過ごしていた時間に戻して欲しいという訴えがあるように見られた。しかし無慈悲にも歯車は動きを止めることはなかった。

ガタン…ガタン……

「……あれから10年…私は……結局……何も《奴》の事を………」

……ポタポタ……

……そんな姿になっても、まだあなたは泣いているのね?

「!?」

突如、【Beanne】に話しかける者が、助手席から姿を現す。

「……《白き羽衣》」

「………」

【Beanne】の目の前に現れたのは、《白き羽衣》と名乗る白いコートに身を包み、長いもみあげなのか、桜色の髪色をした一人の女性が立っていた。

「…久しぶりだね〜…ベア!」

「……うん。……銃剣【Arbitro】(アルビトーロ)の名付け以来だったね、確か……」

「そうね〜!今から2年前。…まだあなたが幼い姿をしていた。…ちょうど今日の日くらいの事ね〜!」

【白き羽衣】と【Beanne】との関係は、昔から交流があるようだ。

「……そして……ちゃんと理解してくれたのね……イタリア語で《審判》を冠する事柄として銃剣【Arbitro】と。………確かに、この《時間軸》でも、そう名付けてくれたのね。……ふふっ!…安心したわ」

「?」

【白き羽衣】の放った言葉には、何処か引っかかるワードがあるように彼女は感じ取った為、返答する。

「……《時間軸》?それって、どういう意味なの〜?」

【Beanne】は彼女から聞かされた《時間軸》に対する疑問について【白き羽衣】から聞こうとする。

「…残念だけれど。…あなた自身は、まだその領域には《干渉》する事は出来ないわ」(フリフリ!)

「……《干渉》…?」 (一体、何を…?)

【Beanne】は混乱する。その様子に対し、【白き羽衣】は─────

「……ひとまずは安心しなさい。………と、そう言いたい所なのだけれど……そうも言っていられないのよ…ベア。……あなた自身のおかげでね」

ドドドドドドド………

「!?」(な…何?……雰囲気が……変わった…?)

フード越しに隠していた本性を曝け出す─────

「……もうすぐ、あなたの存在によって誰かの命が犠牲になる未来が訪れる。…それは決して抗うことは出来ないわ」

「…っ!!」

ガシッ!!

「………」

「……ッ!!」(ギラァッ!!)

【Beanne】は咄嗟に【白き羽衣】の胸倉を掴んでいた。その瞳にはおちゃらけた彼女の表情はなく、クールで高潔な、もう一人の閃光の瞳を持つ自分が映し出されていた。

ギリギリ……

「…………」

「あなた。…さっきから、一体何《支離滅裂》な事を言ってるの?…知っている事があるのなら勿体ぶらないで、この場で素直に教えなさい!」

「………ふふ。……境遇は違えど、そのあなたが映す《閃光の瞳》は。……《あの人》と全く同じ色なのね……」

「……あの人?……どういう事かしら?」

その問いに対し【白き羽衣】は掴まれている胸倉を払い除け、【Beanne】にこう答える。

「……一度、車から降りてみたらどうかしら?…ただし、降りたらもうその場は《戦場》になる事を覚悟しなさい……」

「……それ。……私を試そうとしているのよね?」

【Beanne】の問いかけに相手は笑みを混ぜて返答する。

「…そうだというのなら?…ふふふっ……」(クスクス)

「……いいわよ」

ガチャッ!

【Beanne】は【白き羽衣】に言われるがまま、《2000GT》から下車する。地面は白い空間で広がっており、聳(そび)え立つ《天空の城》の景色が見える中、両者はその場で見つめ合う──────

「………」

ポイっ!

カランカラン……

「…レイピア………?」(…刃があるわ…)

「あなたは、本来彼女ベルナ(【Bellna】)が所持していた《拳銃剣【Clessfia】(クレスフィア)》に憧れて、細剣による突きを多用していた。…でも何故銃剣【Arbitro】の刃に。…斬りつける為の刃を採用したのかしら?」

「………」

「答えなさい」

「……ベルナ姐さんと同じで《奴》の被害者で今はいない【Velkuy】騎士団長…ルーくんとの出会いからよ。…彼自身、剣の関心がとても強くて。…私とは真逆で、現世では《居合道》を学んでいたから、斬る事にこだわって、高みを目指そうとしていたわ」

「…だからあなたも、突きだけでは奴…《武神》に太刀打ち出来そうにはないから斬る方向にも視野を広げたと?」

「ええ」

「……それだけかしら?」

「それだけよ」

【Beanne】の問いに対し【白き羽衣】の返答は、皮肉にもそれは《正解》とは言えない様子であった。

「…期待外れの解答ね」

「!?」

「……そんな事で誰かを守れると。……本気で思っているのかしら?…ベア?」

「…何が言いたいの?」

「そのままの意味よ。……かつてのあなたなら、本当に見通すべき本質を見出せている筈なのにね」

「……っ!!」

【白き羽衣】は【Beanne】という女性の人間性を、よく理解していた様子であった。そして更に追求を続ける。

「……あなた自身からは、あの時のような覇気がまるで感じられないわ。……【Makiras】(マキラス)との闘いでのあなたの腑抜け振りにも呆れてしまったのだけれど……その《仮初》の変わらない姿で私の前に現れてしまうとはね。……あなた…本当は《偽物》ではないの?」

「!!…違う!!…私は私よ!!」

「果たしてそうかしらね?…未だに《森羅万象伝説》を残した、かつて【R・P】社エージェントの英雄と語り継がれ、《【Ciel noble・0】(シエル・ノービル・零)》…《気高き零の大空》の異名を持つ《彼女》に比べても。……あなたはまだその領域にも踏み込めてすらいないわね……未だ、その装いをした姿のあなた自身がそれを《証明》している」

「!!」

【白き羽衣】はフードを被り、身分を隠すも【Beanne】自身の指し示す本当の心と姿を、この目で確かに見たような顔をしていた。

「………っ!!」

その言葉に対し、【Beanne】は─────



🎼Back Ground Music 》》》



♪〜TOM3より・Scutum-decisive battle

チャキッ!!

「黙りなさい!!」(ギラァッ!!)

「黙らないわ。…所詮あなた自身のこの十年間は……《無駄》でしかなかった。…ただそれだけ」

「っ!!……なら認めさせるまでよ!」

チャキッ!!

【Beanne】はレイピアの先端を相手に向け、《前言撤回》を要求するが、その要求を【白き羽衣】は無慈悲にも否定する。痺れを切らした彼女は、遂に攻撃の合図を始める。

「…………」(…名誉挽回…と言ったところかしら?…なら…)

チャキッ……

「………来なさい」

「…言われなくても!!」

シャッ!!

キィィーーン!!!!

「!?」(なぁっ!?)

ギリギリ……!!

「……」「……」「……」

【Beanne】の目の前には、突如として3人の【白き羽衣】が姿を現した。奥にいる彼女を合わせて《4人》の【白き羽衣】が立ちはだかり、【Beanne】と敵対する。

ギリギリギリギリ……

「…どうしたの?…その程度かしら?」

「…っ!!……あなた。…オーラルさんみたいなこんな技まで隠し持っていたなんて…本当に昔からずるい真似してくれるよね〜【白き羽衣】さん♪……気に入らないわね!」

キィンン!!

ボアァアアッッ!!!!

「!?」「!?」「!?」

「…早速火の能力を使うのね?」

【Beanne】は早速自らの【Fiducia】である《森羅万象》の火の能力を発動し、剣身に炎を宿す。

ゴゴゴゴゴ………

「…覚悟は…いいかしら?」

「そっちこそ。…余所見してるわよ」

ブォン!!

「…甘いわよ!」

ブン!!

ボアアアアア!!!!

【Beanne】は背後から奇襲を仕掛けてきた【白き羽衣】の分身を聖火の焔を灯したレイピアの剣身で迎え撃つ。

ザシュッ!!

「…!?」(ほ、他の分身!?)

その攻撃を目にも止まらぬ速さで、もう一人の分身が【Beanne】に迫り、脇腹に深く細剣を差し込む。

「……」「……」

ザシュザシュッ!!!!

「あぁぐっ!!……!?……っちっ!!」

更にその他の分身も、今が好機と言わんばかりに、隙だらけの彼女の身体の周囲を斬り付ける。

「…翻弄されているわよ。……未だにこの剣に愛着でもあるの?」

チャキッ!!

「…っ!!…別にないわよ」

【Beanne】は否定するも顔に出ていたのか、【白き羽衣】はすぐに察する。

「嘘は良くないわ。…形は違えど。…この剣は、あなたが親愛しているベルナの愛用武器…拳銃剣《クレスフィア》と何処か素材が酷似ているのだから。…伊達にこれまであなたを数年間、剣の修行に付き合った訳ではないのよ」

「………」

「…この剣、《アルビオーネ(【Arbione】)》が気になるの?」

「…どうでもいいわ。…ただ一つあるのは。……あなたの本性なのか、長年隠していたその横柄な態度が気に入らないだけよ!」

【Beanne】は意地でも諦める姿勢を見せない。すると【白き羽衣】は飛び込んだ質問を下す。

「……どうする気?…その炎の剣で私を斬る?…それとも《魔女裁判》でいう魔女を処刑するかのように。…貫いて炙り殺すのかしら?」

「……後者よ!」

シャッ!!

【Beanne】は意地でも敵を貫いて勝利を収める方法で強行突破の策を取る。それを【白き羽衣】は、呆れたように右手に持たれた【Arbione】を下げ、左手を前に出し、分身達に指示を下す。

「あの《お転婆娘》に分からせてあげなさい。……本当の現実をね」

「………」「………」「………」

コクッ!!

シャッ!!

「…!!」

《白き羽衣・一斉攻撃》

《【Santa benedizione】(サンタ・ベネジオーネ)!!》

シュンシュン!!

「…この技は!?」

「せめてあなた自身の技で《闇》に葬り…《光》となるように斬り裂き…切り拓いて。……そのまま行くべき道へと引導を渡してあげる」

【白き羽衣】は彼女自身の【Beanne Formula Sacred Sword】(べアンヌ式神聖剣)の内、Ⅱの奥義で聖なる洗礼の意味を持つ大技を繰り出し、彼女を追い詰めようとする。

「……っ!!」

ガキィーーン!!!!

「!?」「!?」「!?」

【白き羽衣】の分身達は【Beanne】を斬り付けようと攻撃を繰り出したが、その場に彼女の姿はなく、空振りした刃は互いの分身の持つ剣身がぶつかり合っていただけであった。

ジャキン!!


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜SAOより・Sacred Swords

「……もう容赦しないわよ」(ギラァッ!!)

ボアァアアア!!!!

「…無事躱したようね。…褒めてあげるわ」

チャキッ!!

【Beanne】はレイピアを銃剣【Arbitro】を持ち、構えるかのように目の前の【白き羽衣】に、現世の世界の国イタリアの言語の言葉で言い放った。

「……Siete pronti?(覚悟はいいかしら?)」

「!?」「!?」「!?」

「………」

・・・

〜【白き羽衣】の追憶〜

『……Siete pronti?(覚悟はいいかしら?)』

『…!!…ええ、来なさい!ベア!』

『………』

『よくも私の大切な仲間を……!!友達をっ!!…みんな、あなたが殺したんだっ!!…許さない…っ!!…絶対に許さないんだからぁ!!…覚悟しなさいべア!!…忌まわしい過去の厄災!!…《白き羽衣》の名にかけ……《四聖剣》のリーダーとして、あなたに報いを与え…ここで………殺すッ!!』

チャキ……!!ジャキッ!!

『……救われない娘ね。……なら道を正してあげるまでね』

『!!……っ!!』

うああああああぁぁぁぁっ!!!!!!

シャッ!!

・・・

「…ふふっ!…そうね。……その閃光の瞳に宿す気高い聖なる眼光。…それこそが、あなた自身に宿す本当の《心》……先代の《白き羽衣》がベア姐と敬愛した、かつて私が戦い…道を正そうとしたあのベアンヌ。……べアンヌ…」

《零(れい)!!》

「………!!」

ボアアアア〜〜〜!!!!!

ジャキン!!!!

《【Beanne Formula Sacred Sword】(べアンヌ式神聖剣)Ⅲの奥義》

『……ベア姐さん』

「……!!」

《リシア!!》

ブォン!!!

十・十・十

ザシュザシュザシュ!!!!

「!!」「!!」「!!」

「………!!」

《Finale!!》

ヒィーーン!!………!!!

ザシュッッ!!!!

「!!………」

ブンブン!!

ジャキーーン!!!!

【Beanne】は目の前にいた3人の分身を業火の焔を起こす聖火の炎を灯し、《十字架》状に目にも止まらぬ速さで斬りつけ、とどめとして剣身に宿された煌びやかな閃光の一閃を3人の分身達に放たれた。

「………」

ヒィーーン!!!!!

「!?」(…な…何?)

「……どうやら、《試練》を乗り越えたようね。……行ってきなさい。……本来のあなた自身の心を移す場所にね」

キィーーン!!!!!

「っ!!」

【Beanne】は目の前に放たれた光に介入する。それは決して自分へ危害を加えるものではない様子であった。

ヒィーーン………

「…!!」(なんだろ。…温かい…光……)

【Beanne】はそのまま光の中に介入していく────

・・・
・・






🎼Back Ground Music 》》》



♪〜ブルリフより・OVERDOSE

「……ハッ!」

キラキラキラ………

「……ここは?…………オーロラ?…どこかの雪国…なのかしら?」

【Beanne】は目を覚ます。目の前には星々に散りばめられたオーロラの景色が星空となって広がり、場所はある水郷なのか、凍てついた湖の上に立っていた。しかし氷は透き通っており、水鏡となって彼女の顔を映し出していた。

《クスクス……》

「…!!…だ、誰?………!?」

《ニコッ!》

【Beanne】の目の前に微笑みを浮かべた一人の女性が立っていた。その女性はまるでおいでと言わんばかりに抱き寄せようと腕を広げていた。彼女の姿を観測した【Beanne】の瞳には自然と涙が溢れており、その女性の名前を呼ぶ。

コツン…コツン……

「……べ……ベルナ…姐さん……!!」(ポロっ!)

ベルナ姐さん!!!

【Beanne】の目の前には【Bellna】の面影が立っており、彼女の表情は、温かい微笑みを浮かべていた。

《ニコニコ!》

「……っ!!」

ベルナ姐さぁぁ〜〜〜ん!!!!!

ダキッ♡!!

スルッ!

「?……あら〜?」

ズザ〜〜ッ!!

「う、うわぁ〜〜〜っ!!!!!」

シュバ〜〜!!!!…………!!!

ドォーーン!!!

【Beanne】は勢いよく凍った湖の上をヘッドスライディングするかのように滑ってしまい、目の前にある雪の塊へダイブしてしまったようだ。辺りは雪の結晶で舞い散り、彼女は自らの頭を撫でて尻餅をついた姿勢を取っていた。

パラパラ……

「い、いたたぁ〜!……一体何がどうなって〜?……?」(スリスリ!)

《クスクスッ!》

スッ

「!!…っ!」

ガシッっ!

《〜♪》

「つ、掴めた!?…でも…!!んも〜う!!///酷いよぉ〜!!ベルナ姐さぁ〜〜んん!!!///」(ジョ〜ッ!!!)

【Beanne】は滝のような涙を流し、少女のような幼気(いたいけ)な表情を浮かべる。

《……クスっ!》

【Bellna】はやれやれ、仕方ないと言った呆れた表情をしているが、内心では『何年経っても相変わらずの鼻垂れのちんちくりんさんね〜♪…でも見直したわ。…本当に大きくなったわね〜♪ベア!』と、そう言わんばかりの心からのメッセージを確かに伝えていた様子であった。彼女は嬉しそうに彼女の手を掴むと、目の前に広がる零地点まで凍て付いた果てしなく続く水鏡の湖を見つめ、行動を起こす。

《〜♪》

ズザア〜!!!

「!?えっ!?…う、うわぁ〜!!!」

クルクル〜!!

《〜♪ニコッ!》

「あ。…!!あはは!!へぇ〜♪…慣れると楽しいぃ〜♪…そっか。伝えたい言葉は聞こえないけど、その顔で分かったよ。こうして大きくなった私とアイススケートをしたかったんだね〜♪ベルナ姐さん!」

《クスクス♪》

【Bellna】は【Beanne】と共に凍て付く水鏡を滑っていく。二人は息の合ったコンビネーションで氷の湖を滑っていき、ターンやらトリプルアクセルと大技を決め、心ゆくまでスケートを楽しんだ。

ズザァ〜〜!!!!

《ニコッ〜♪》

ダキッ♡!!トントン!♪

「!?///…ふふっ!……ありがとう。…ベルナ姐さん……」

《クスクス!…………》

キラキラキラ………!!

「!?…っ!!…ベルナ姐さん!?」

《…ニコッ!》

『どうやらもう時間切れのようね。…ベア』そう言わんばかりに彼女の身体は光に包まれ、少しばかり名残惜しそうにするも笑顔の表情を見せる【Bellna】。その様子に【Beanne】は再び涙を流す。
 
「!!…待って!行かないでよベルナ姐さん!!私を置いて行かないでよぉ〜〜!!」

《…フリフリ!……ッッ!!》

ギョロッ!!

「ヒッ!!」(ビクッ!)

泣きべそをかく【Beanne】に【Bellna】は少しばかり《喝》を入れるような険しい表情を浮かべる。去り際の彼女は【Beanne】に対し、心からあるメッセージを送った─────

《いつまでもあの時のように引き摺ってウジウジしないのッ!!…あなたはもう立派なお姉さんなんだから、しっかりしなさい!!……ウフフ♪!…これからも鈴美や私の家族…若旦那のルーシス坊やと彼との間の愛する可愛い我が子。…ロアの事…私の代わりに頼んだわね…》

「…!!…っ!!」



コクッ!

ポタポタ……

【Beanne】はこくりと頷くと【Bellna】は安心したのか穏やかな表情になり、更にもう一つの話題を心の中で発言する────

《ベア。あなたにはこれから予想だにしない大きな闘いが待っているわ。…だから、これから出会い。…パートナーになる…ウフフ♪私のマブダチとよく似ているあの彼女の事。……あ・と・は☆あなたが今交流を深めているあの白狼坊やや、ダンディーな男前さんの事も。…そしてあなたが妹として護ってあげたい、あの亜麻色娘のお嬢ちゃんを含めた…みんなの事。……いつまでも仲良くして互いにしっかり護りあって進みなさい。……大丈夫よベア。私はいつでもあなたを見守っている……》

《あなたのそばにいるわ────》

ヒィーーン!!!!




・・・
・・



「…!!」

「…気がついたようね。…ベア」

「…白き羽衣…私…」

【Bellna】からのメッセージを受け取った【Beanne】は目の前に立っていた【白き羽衣】と目線を合わせる。相手はすかさず彼女自身の変化を伝える。

「…あなたの今着ている格好。…その目でよくご覧なさい」

「?……!?」

パタパタパタ………!!!

バサァ〜!!!



🎼Back Ground Music 》》》



♪〜ロックマンゼロ4より・Esperanto

【Beanne】が着ていた服は純白に彩られていた。上はセーラー服のような服装に彼女【Bellna】の憧れでもあるからか、彼女のイメージングカラーである《フロストブルー》カラーのスカーフに、ラインは【Beanne】自身が持つ《気高き大空》のイメージングカラーに因み、蒼のラインが刻印されたフード付きのセーラー襟が施されたマリンチックに、極めて特殊な装いで洗練されたコート姿であった。下は彼女の自慢なスレンダーで引き締まった生足が露出した、白のショートデニムパンツが着用されていた。

「この服は…!……これは一体、何?」

「あなた自身の真なる《心》が持つ本質。…《Esperanto(エスペラント)》…その象徴となるあなた自身の意志が芽生えた証明となって具現化した装いの姿。…ただそれだけよ」

「……《Esperanto》」

【Beanne】は【白き羽衣】が発言した《Esperanto》というワードを、何処かで聞き覚えがあるようだ。現世ではその言葉を《人工言語》として持て囃されており、起源となる創案者は、ポーランド人《ルドヴィゴ・ザメンホフ》が1887年の時期にて、世界中にいる人類が容易に学び、習得出来る事を目的に、第二言語となる《国際補助語》に分類させ、これを提唱した。現世の国日本では1906(明治39年)日本エスペラント協会が設立されたという歴史がある。

「……それは即ち、《希望》っていう意味合いが込められていると。そう言いたいのかしら?」

「その通り。…その人は現世ではユダヤ人の《眼科医》だったそうよ。…その言語の象徴となる三つの《フラッグ》のイメージカラーはというと。…皮肉にも。…どれもあなたのその瞳に宿すエメラルドグリーンカラー。…無論【Velkuy】騎士団長の《彼》自身も然りなのだけれどね。…現世から来た【現世人】ハーフというのは、嫌でも《奇妙》かつ《過酷》で《悲惨》な運命を引き当てるようね……」(やれやれ…)

「………何が言いたいの?」

【Beanne】は少しばかり不機嫌そうな様子であった。《Esperanto》を象徴する三つのフラッグには、それぞれ《緑星旗》(緑の旗と呼ばれ、グリーンはシンボルカラーとして《希望》。白は平和と中立・ペンタグラム(星)はオリンピックでもお馴染み五大陸となるアジア・ヨーロッパ・アフリカ・アメリカ・オーストラリアと、それぞれの大陸を示している。)《ユビレーア・スィムボーロ》(直訳は記念シンボル。時は国際的対立抗争の《冷戦》時代────ソビエト連邦の共産主義の陣営とアメリカ合衆国の資本主義の陣営が対立していた為、平和を願う為、東洋と西洋が一つとなる《希望》の形をイメージし、採用された。)《緑の星》(緑星旗と意味合いが同じであり、エスぺランティストと呼ばれる者達が使用するシンボルの旗として1905年の時代に定められた。)の様々なマークが存在する。《エスペラント語》には、それぞれ《希望》という意味合いが込められており、新たなる《希望》ある時代を切り拓いていくにおいて、旋風のように世界を駆け抜け、《革新》的な発想で跳躍して進む者達。互いに手と手が取り合い、《調和》を目指す為にと救済の心を持ち《希望》を持つ者達。《真実》《理想》という《矛盾》の壁が立ちはだかろうとも希望を信じ続け、深淵の深闇を、閃光のように眩い瞳を放ち、斬り裂き、意志を貫き通し、道を開いて突き進んでいく。そう、《永遠の輝かしい現実》を目指すその日まで。その意味の込められた強い意志を【白き羽衣】は【Beanne】に回りくどくも肖(あやか)ってそう伝える。

「…それぞれの意味を踏まえ、《Esperanto》を知り、使用する彼らは…《エスぺランティスト》と……記述ではそう呼ばれていたわ」

現に《希望》という目的を持った《エスペランティスト》は、《エスペラントの聖歌》を。それは時として《エスペラント界の国家》として布教し、全世界で行われている大会や式典でも歌われ、各地に広められたそうだ。

「…それが私と何の関係があるっていうのかしら?」

「…まだ分からないのかしら?…あなた自身にも、その《希望》となる人。…その《者達》と同等の素養があると言いたいのよ」

【白き羽衣】の訴えに【Beanne】は首を横に振った。

「あなたの言い分は理解したわ。…でもね。…そんな事。…別にどうでもいいわ」

「!?」

「……ただね。…確かに私は…《希望》という言葉。…別に嫌いではないわね」

「……どういうことかしら?」

【白き羽衣】はその真意を【Beanne】に説いてみせる。

「……それはね。……この十年間の間に、幻想だとはいえ。…私はあの人に……!!憧れのあの人にまた会えた事が……嬉しいのだから!……これは、あなたが言った《Esperanto》を名乗っている人からくれた願いだとかじゃあ決してないのよ。……これはあくまで……ふふっ♪」

《私自身の本能が叫んでいて…ずっと心の中で……ただ願っていたの。…またあの人(あの子)に会いたいっていう…希望なの!(だから〜♪)》

ポロポロ……

カチッ!…カチッ!
      
カコーン♪…カコーン♪

「………」

時は刻み、遥か上空を漂う《天空の城》から大きな鐘が鳴らされる。【Beanne】は涙を流し、《2000GT》の向かい側にいる【Bellna】の幻影と目線を合わせ、対面する。心なしか空中には、先程見たオアシスに広がる煌びやかな砂漠の砂が星々となって宙を舞う。そのカラーは【Beanne】の髪色であるオレンジカラーに見立てられた金色。そして【Bellna】自身の氷の色であるフロストブルーに見立てられた煌びやかな光が舞い散り、先程の光景で観測したオーロラのように演出していた。

キラキラキラ……

「………」

ザッザッザ……

「………それが。…あなたの答えなのね?」

「……うん!」(コクリ)

「そっ。……ならいいわ」

ザッザッザ……

「?…【白き羽衣】?」

「…〜♪ふふっ!…!!あ〜はははははっ!!」

「!?…な、何っ!?」

突然【白き羽衣】はお腹を抑え、顔を抑えて高笑いをする。その様子に【Beanne】は驚いた。彼女自身、相手が一度も見せたことのない感情を見て驚きを隠せなかった様子であった。

「ウフフ!…ならベア。…示してみなさい。…あなた自身が目指すその《希望》の姿と、未来ある《幻界》(ビジョン)を。……私にね!」

……スッ!

「!!」

【白き羽衣】は手を差し伸べ、【Beanne】の意志を尊重する意向を示す。

「…言われなくとも。へへ〜ん♪」(ニコニコ!)

ガシッ!!

【Beanne】と【白き羽衣】は握手を交わす。それは互いに《希望》を願い、中立的な立場で実現を志す、強い繋がりを感じさせる。

「…あえて期待しておく、という言葉は使わないわ。……もし道を間違えるようならばその時は…」

「いちいち心配しないでよ。……ここで見ていなさい。…もう私は、あの歯車のように。…もう《止まれない》のだから。この【Paradiso】の世界の人々や、私の大切な人達を傷つけようと目の前に現れる刺客…《我欲の障壁》が立ち塞がってくるのなら容赦はしないわ。…必ず…」

《審判を下して……私自身の意志で裁くまでよ!》

「……その強がり…どこまで続くか実物ね。…みんなの《希望》のベア…」(…待っていたわ。…その姿。…そしてその閃光のような瞳が、《まやかし》ではない事を祈るばかりね。…いえ、どうやらその心は確かに本物のようね。……あの《厄災》を起こした彼女とは違う。…どの世界線でもあなたには、本質的な高潔な心は等しく存在しているようね。……彼女…《ベア姐さん》のように)

【Beanne】の意志は固い様子であった。それが彼女の本当の意志なのか、【白き羽衣】は彼女の行く末を見守ることにする。そしてここから、彼女自身の存在が、皆の《希望》となる壮大な冒険が幕を開ける────






B. いいえ

《Capitalo・2》
※性的描写、グロテスク要素あり。苦手な方は閲覧を控えてください!
以上を確認された上で、続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》







♪〜大逆転裁判より・推理大戦・始

〜後日〜

〜【Paradiso】歴:2000年6/23・【D島】【Crono・St】【R・P】社・ギルド室長室〜

「では、そういう事だから宜しく頼むよ、ネラ」

「了解〜ルーシス義兄さん!…いやぁ〜!…審議会での【Olvex】審議長との話し合いの末で、まさかあの名刀【Louvel】の獲得権まで握っちゃうとはね〜!」

「別に大したことではないよ。新人のハクローくんとビルくんの活躍がなければ、ここまでの功績を残す事は不可能だったからね…」

「あはは!きっと喜ぶよ〜♪…それにありがとね。…アマ姉の車まで取り戻してくれてさ……」

「…当たり前だよ。…ベルナはあの厄災の男と接触した後……所持していた車を独裁者となる前の【Dail】に手渡されてから……この男はいきなりの富を築き上げ…のし上がってしまったのだからね」

【Dail】邸での事件から日数が経ち、ギルド室長室には【Lu-cis・H】と秘書官的立場にあったからなのか、【Agente】ギルド参謀の【Campanella】が伝達を行なっていた。

コンコンコン♪

「〜?…はいは〜い!どうぞ〜!」

ガチャッ!!

「し、しし、失礼します!ルーシス室長!」

「ビルよ!そう固くなるな。室長。…今回の事件の報告書を提示に来ました」

訪室して来たのは、【Bill】と【Rolan】の二人であった。その様子に隣にいた彼女は微笑みを浮かべる。

「あ、噂をすればやらだね〜♪…はいはいご苦労様〜♪」

「?…あれ?ネラさん、何でここにいるんだ?」

「ネラ、一体何があった?」

「ああ〜!ちょっとルーシス義兄さんと色々とね〜♪」

スッ!

「……ああ、ビルくん、ロラン。…今回の任務、本当にご苦労だったね!」

「ありゃりゃ…」(スカッ!)

【Campanella】はすかさずイチャイチャアピールをかまそうとしたが、それを丁重に避け、二人に近づき、報告書を拝見する。

「…どれどれ…うん、ご苦労様!」

「あ、ありがとうございます!」

「…ですが室長。…まだハクローの方は眠ったままです。……次の任務へは」

「ああ、ロラン。…それについてだが、まあ安心してくれ」

「…今回ハクローくんには遅れて別の任務を与える事にしているから、暫くは休ませてあげないとね〜♪」

「…そうですか」

【Rolan】は【Lu-cis・H】と【Campanella】の言葉を聞き、少しばかり安心した。その様子に【Bill】はある男の名前を口にする。

「…でも今回初めて受けた任務は、色々酷い事する奴ばかりだった!…【Dail】…俺の家を壊した【Makiras】……特に縄使いの男【Jeil】(ジェイル)!!…アイツ、各地にある女の人達をリーネのようなメイドにして、あの縄で散々抵抗出来ないようにして酷い事してきた!!…捕まった今となってもアイツ、許さない!!」

「!?」

「…ビル。…そうだな。…お前はあの男に連行され、その取り巻き連中に洗いざらいの拷問を受けたんだったな。…本当に遅れてすまなかったな!」(トントン!)

「それは大変だったね〜ビルくん……あ〜マジで気持ち悪ぅぅ〜……噂には聞いてたけどさ〜私のようなか弱い女の子を散々世界中から拉致してあんなことやこんなことをする縄使いの男があの屋敷ん中に潜んでいたとはね〜!」(うへぇ〜……)

【Campanella】は【Bill】の話を聞き、少しばかり気分を悪くする。【Rolan】もまた痛ましそうな表情で心配する。

「ロラン兄貴。ネラさん。……大丈夫!兄貴と教官達が助けに来てくれたおかげで助かったから!!…でも一つ…ジェイルの事で気になる事があったんだ。…室長、ネラさん!」

「?」

「それは、一体何だい?」

【Bill】は【Jeil】と取り巻き連中との会話のやり取りについてこう振り返る───────

・・・
・・

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜大逆転裁判2より・プロフェッサー

〜【Bill】【Jeil】の追憶〜

『……っ…ゲホっ!…………』

『い、いやぁッ!!……び、ビルさん!!!しっかりし…!!あぁんん♡!!///』

『ククフフ♪……まあ落ち着きなさい。…愛しのリーネ。…フフフ♡その股縄の味に暫く酔っていなさい…クックック…』

コツン…コツン…

『……それで、どうですか?』

『ダメですね〜…この野郎、なかなかゲロってくれませんね〜!』

『…そうですか。……ですがある者の情報でありますが。…彼は今から一年前に【C島】で出現した【現世人】である事が発覚しました…』

『!?…ほ、本当ですかい、ジェイルさん!?』

『ええ。…ですが、あのマキラスの《虐殺》から無事逃げ出し、その後マキラスからの処刑を受けたジェイク(【Jeik】)と接触したそうなのですが。……その時、彼が【R・P】社所属の者達と【D】島に繋がるトンネル内部にて行動を共にしていた事を……ね』

『…!?まさか、コイツは!?』

『その使者である。…その可能性は十分にあり得るでしょうね。…このモノクルがさし示す情報によれば。…ですがね〜♪ククフフ…』

『モノクル…!?……そ、それって……ジェイルさん。…アンタ一体…』

スッ!!

『!?』

『………っ』(耳元で……一体…)

『…ほ〜う。…このモノクルの正体を知っているのですか〜?あなたは?』

『!!』

『……まあいいでしょう。…この者の報告は、出来れば【Dail】様……いえ、あの男には伝えないでいただきたい』

『!?な、何故ですか!?』

『何故……と?……それ以上詮索して聞きたいのですか?……あの罪人集団《ヘイケホタル》の……かつてのあの参謀のように暗殺され、遺体を回収された後、ミンチに成り果てて肉塊となり…生まれ変わる覚悟をしてでも?』

バッ!!

…シュルル………

『!?』(ゾクっ!!)(う……腕が……!!)

『………っ………』(…な…縄……)

『……ククフフ♪……これは手品では決してございませんよ〜。……ですが感心は出来ませんね〜あなた。…あまりこのような《闇事情》へ踏み入れるようであれば、もう後戻りする事が出来なくなる事を。……こちら側の人間であるというのにもうお忘れなのですか…?……私も。…ふふ〜ん♪……あ〜♪我が妻【現世女】リーネ〜♪…私のその麻縄の快楽に溺れ…身体中がエクスタシーにも《恍惚感》(こうこつかん)を感じて縄酔いし…《忘我》(ぼうが)となりて、嬉しそうにされている、あの美しき様をよく見てからモノを言いなさい。…真実を知った者が一体どのような罰を受けるのか』

コツン…コツン…

『………とくとその目でご覧なさい!!』

パチーーン!!!

ギュギュ…!!ギュチュ〜〜♡

『ああぁっ♡!!…〜!!///』

あぁ〜〜〜〜ンンン♡♡///

『!!……っ!!』(ゾクっ!!)

シュルル………

『ククフフ♡』(……あぁ〜…良い……実に良い嘆きですよ〜リーネ〜♪…ますますこの私の肉体の大半を構成している縄があなたの豊満な身体がそのように全身を縛り上げ、優しく抱き締め抱擁し合い…決して離れることのない愛を育み………存分に《性的欲求》を満たし、さぞ興奮させてくれますね〜私のリーネ〜♪)

ククハハハハハ!!!!!

ニュルニュル……

『!!』

『………っ…』(コイツ…!!本当に狂ってた!!…でも!……《ゲンジホタル》?…ミンチ?…肉塊……って……コイツ……一体何隠してる!?)

・・・
・・


〜時は戻る〜

「ヘイケ……ホタル?………そう言っていたのか!?奴が!?…確かなのか!?」

「ああ、ロラン兄貴!…あの時能力を使っていて、聴力を強化していたから!…確かに聞こえたんだ!なんか部下の耳元に囁いて、ミンチだとか肉塊がどうとかそう言ってた!!…それにアイツの身体、俺達【現世人】の魂の身体とかじゃあなくて……《縄》で身体が出来ていたんだ!」

「…!!…ええっ!?」(う〜わ〜……それで女の身体を縛ってたって…想像しただけでマジ気持ちわるいんですけどぉ〜……)

「……縄で編み込まれた身体で構成されて造られた人工人間…《縄人間》。……!!まさかそれは、現世での《鋼兄弟》の異名を持つ錬金術が舞台の…あの話に出てくる《キメラ》という事なのか!?』

「それだ……!!恐らくそうかもしれない!!…アイツ…《闇事情》に触れるなだとか言ってやがった!……やりやがったんだ…」

【Bill】の聞き取った発言から、【Dail】邸での一連の騒動に潜む《暗中飛躍》の闇が少しだけ明らかとなった。

「……ふむ。マキラスを倒した後、俺達に姿を現さず縄で縛られた状態のハクローが救助された事から、予め奴が縄に身体を変化させ、咄嗟に斬撃を躱した為、致命傷には至らなかったという事か……」(チラッ)

「……ッ!!」(チラッ!)(……でも…それってさ〜ルーシス義兄さん…)

「……」(コクッ!)(うん。…かつての私も。…そして今からおよそ5年前。…私がギルド室長に昇進した時期。…ロランと同時期に配属された彼女…【Lisia】(リシア)が関わり、追っていた怪奇事件の重要証拠証言…【標本見聞解体新書】…それに大きく関わる事柄だ!!……それに……《ヘイケホタル》……)

【Lu-cis・H】と【Campanella】は【Bill】の証言を聞き、【Jeil】という男の存在について、謎の真相が少しずつ明らかになっていた様子であった。

コンコンコン!!

「!?」「!?」「!?」

その時、室長室内にノックの音が響き渡る。

お〜いルーシスおじさ〜ん!来たよ〜♪

「!?」

「お、この声はベア姉さんだ!」

それは【Beanne】の声であった。声を聞くとすかさず【Campanella】は楽観的に声を掛ける

「どうぞ〜!」

「お、おい、ネラ!」

「ふふ〜ん♪…まあまあいいじゃ〜んロラン♪…幸いさっきの話をベアが聞いていた訳じゃあないんだから〜♪…でもこの話題は極力避けるようにね!……ビルくん!…君、今回はどうやら《大手柄》を引いちゃったようだね〜☆…くれぐれも墓穴掘らないようにね〜♪」

「ん?」(首傾げ?)

ガチャッ!!

「やっほ〜!ネラ〜!…ってあれ〜?ビルくんにロラン?…何でここにいるの〜?」

【Beanne】は元気に入室し、二人に声を掛ける。

「ああ、ベア姉さん!俺は報告書を渡しに来た!」

「ビルと同じだ」

「……ふぅ〜ん…」

「で、どうしたの〜ベア?」

「そこにいるルーシスおじさんの頼みでね〜♪今回の【Dail】事件の被害者だったギルド志願者のお二人さんを連れてきたんだよ〜♪」

【Beanne】は、ギルド志願者を召集する係として今回抜擢されたようた。

「………」(……どうするべきか)

「あ、あ〜そうだったね〜!…うん!」

「それって…リーネとステラか!?」

「?…そうだけど。…んん〜〜?ビルく〜ん?…何でそんなにテンションが高いのかな〜?」

「ああ!それはっっ!?んん〜〜〜!!!!」

「あ、あはは!!んも〜ビルく〜んたら〜♪そんなにリーネちゃんとステラさんの事が好きになっちゃったの〜!?アハハ!!」(ま、マズイよぉ〜ロラン!)

「!?…う、うむ、ビルよ!いくらリーネとステラが綺麗だからといって男が女のロマンを語るのにも場所を弁えるのだ!」(ああ、ベアに今回の事件でその縄男が発したワード……を…)

「………」(…危険ではあるが。…今回の事件の真相が明らかになるのは。……今かもしれない!)

タッタッタ……!!

コツン!

「…ベア、いいかい?」

「?…ん〜?」

「んんん〜〜!?」(ジタバタ!)

「る、ルーシス義兄さん!?」

「「し、室長!?」」

【Agente】に属する者達は、古参メンバーの一人である【Beanne】にはくれぐれも悟られないように沈黙する。しかしその沈黙を破ったのは、意外にも【Lu-cis・H】であった。

「…君が調べている《屍人》に関する事件で、新たな進展となる情報が今回の件で明らかになったようだ」

「!?」

バッ!!

「!?る、ルーシス義兄さん!!」(あっちゃ〜!!それダメだってば〜!)

「!!ゲホっ!!…し、室長!ベア姉さん!」

「ビル。…もう遅いのだ。…だが心配するな。…今回お前は悪くない。…すまなかったな…」

「!!………」

コツン…コツン…スタッ!!

《…ベア姐さん……》

「………ッ!!」(…リシア…)

【Beanne】は旧友であり、かつて【Agente】のメンバーであった【Lisia】に対する私情を挟みながら、話題を聞こうとする。

「……聞かせて。…一体何が分かったっていうの?」

「!?」

「!?」

【Beanne】は真剣な目で【Lu-cis・H】と向き合う。その問いかけに対し、【Lu-cis・H】は、まず初めに交渉としてこのような提案を持ち掛ける。

「……今回の被害者が扉の前にいる。なら《十分間》までだ。…そして、ここにいるビルくん、ロランの二人のメンバーが。…今回の任務実行の捜査対象となる。…それが前提条件の任務だ」

「!?」

「…その交渉が承諾出来ないのであれば、この話を君に伝える事は出来ない。…ベア。…どうする?」

「んん〜〜?ルーシス義兄さん〜?私は〜?」

「ネラ。…君は僕の大事なバックアップ係だ。…今回の任務にはどうか関わらないでここに居てほしい。…いいかな?」

「えぇ〜!?……いいよ〜♡♪///」(やたぁ〜♡これで一歩進展したよ〜アマ姉〜♡)

【Campanella】は内心嬉しそうにしていた様子だ。【Beanne】からは何処かやるせない表情をするも、こう返答する。

「…わかったわ」

「!?」

「!?べ、ベア姉さん!?」

「…覚悟は出来てるようだね?… ベア?」

「…うん。……で、一体何があったっていうの?」

「………」

カクカクジカジカ……

一同は【Beanne】に対し、縄使い【Jeil】が発言した情報を整理し、約十分間の間だけ会談をする。話を聞いていくうちにつれ【Beanne】の表情は険しくなる。それでも彼女自身は大人しく、その情報をインプットしていく───────

・・・
・・


「…なるほどね。…《ヘイケホタル》……名前だけは何処かで聞いた事があるわね」

「?…ベア、それを何処でだ?」

「…あまり詳しくは………でも名前を聞く限り和名だよね?…現世の《螢》の名前の……」

「うん、《平家蛍(ヘイケホタル)》!!《源氏蛍(ゲンジボタル)》って種類のもいるけど、その子よりも少しばかり小柄だね〜!」

「蛍か〜!小さい頃に母ちゃんと見に行ったけど!今となっては暴走族時代で見たバイクのテールランプみてえだ!!」

「蛍……といえば…墓…だな…火垂る……しみじみとするロマン映画だ。…うむ。………凄まじく切ないものだ……弱々しく衰弱していくあの子を…ああ、思い出してしまう………」(うるうる…)

「蛍といえば卒業式の歌だね〜♪…あぁ〜…あの時のアマ姉の巣立ち姿…本当に輝いてたな〜♪……ぅぅ…!!」(うるうる………)

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜螢の光

螢の光〜♪…窓の雪〜♪…書讀む(ふみよ)む月日重ねつつ〜♪

《思い出補正》からなのか、一同は突然、現世の歌である《蛍の光》をアカペラにてコーラス合唱で歌い出したのだ。

〜♪

「!!ゲフン!オッホン!!…しょ、諸君!!今この場で現世の別れ歌である《螢の光》を歌ってどうするんだい!?…まだ昼だ!!仕事はまだまだ終わってないから!!」

現在時刻は昼方──────始業してやっと折り返し地点に着いたばかりである為、一人の男は口頭で注意をする。

「え〜っ?でぇ〜も〜室内でそのレコード鳴らしてるルーシスおじさんがそれ言っても説得力ないよ〜♪」(クスクス!)

〜♪(螢の光低ボリューム)

「!?い、いつの間に!?……!!ネラぁ〜!」(クワッ!)

「あはははっ!またまたやらせていただきました〜♪」(テヘペロ〜♪)

【Campanella】はどうやら皆の目を盗み、隙を見てはレコード型音楽再生機に《蛍の光》を鳴らすよう細工していた様子である。

「ささっ!!物騒な仕事話はこの歌に因んで閉めにしといて、ちゃっちゃと新入歓迎会しちゃおうよ〜♪」

「そ、そうだね〜♪」

「う、うむ!…先程室長が告げたように任務要請は、室長の指示で動くように!…それまでは【Agente】内での内職……!!以上だ!!」

「よ、よし!!」(…うぉ〜見ていてくれ、教官!!これは俺が招いた種だ!!アンタが身体を休めてる間…!!絶対に事件を解決するッッ!!……!!いや…!!)

《してみせる!!!》

・・・
・・


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜ジョーカーゲームより・結城



〜その数日後〜

〜【Paradiso】歴:2000年6/30・【夜方】【D島】【Crono・St】・【R・P】社・ギルド室長室〜

「………」

カキカキ………

発令準備から数日後、ギルド室長室の執務机にて書類の執筆をしていた【Lucis-H】は、負傷したのか左腕にギブスを付けたまま、作業に追われていた。

カキカキ……

「……」(…うん、左腕の方はもう痛みが引いてきているようだ。…でも、まさか驚いたよ。…ハクローくんとリーネくんの現世での恩人《三橋》という人が僕とそっくりだとはね。…出会ってまだ間もないけれど。…二人には本当に驚かされる事ばかりだね。……ふっ!…………同じ顔をした……者……か……)

〜♪

コンコンコン☆コン!コン!コン!コ〜ン!

「ネラかい?…入って来なよ」

ガチャっ!

「はいは〜い!…えへへ〜♪」

タッタッタ……

「ど、ども!室長!」「室長。…失礼します」

テクッ!…テクッ!

バタン!!

「こんばんは!…ルーシスおじさん!」

数日後、夜の時間帯に【Campanella】を筆頭とした【Bill】【Rolan】【Beanne】の三人が招集された。

「………」

コトッ!

「その目。……ネラ。…何かあった様子だね?」

「さっすが鋭いね〜ルーシス義兄さん♪……良いニュースと〜♪………悪いニュースがあるの。…どっちがいい?」

【Campanella】は気楽そうに報告するも、少しばかり困惑気味な表情を浮かべている。

「まずはいいニュースから聞かせてくれるかな?」

「了解〜♪…実はさっき【J島】の【Kagoya】の町にいるハクローくんから連絡あってね〜♪どうやらハクローくんは無事、元【Melton】の頭領だった【Orbin】さんを訪ねて、名刀【Louvel】の《復活》に成功したらしいの!」

「!!そうか!……わかった。…では続けて悪いニュースとは一体何だい?」

相手の返答に【Campanella】は少しばかり深刻そうな表情を浮かべる。

「…うん。…どうやらハクローくんはね。……また新しい《脅威》と接触しちゃったらしいの。……ここに来る前に巻き込まれた【C島】での騒ぎや【Dail】事件で会った【Demister】(終焉ノ使徒)【Rowdy】とは違うもう一人と…」

「…!!」

ガタンッ!!!

「!!…し、室長?」

「…室長」

「…ルーシスおじさん…」

「!!……っ!!」(…おかしい。……いくらなんでも妙な話だ。……昔に比べ、一般の【現世人】との接触・出現回数…並びに遭遇して現れる頻度が活発的になっている…!…………【Demister】……彼らは今まで《終焉》が訪れる時にしかその姿を現さなかった筈だ。…それなのに。…わざわざ率いている仲間の集団を町中に出現させて……ハクローくん達と接触して悪目立ちするかのように行動してる…だって?……一体何が!?)

ギリギリ………!!

「る、ルーシス義兄さん!?」

「……!!」(室長!!なんか怪我してる腕を掴んで…怒ってる!?)

「!!」(……室長があのような感情を見せるとは……一体何が起こっているというのだ?)

【Lu-cis・H】は過去に【Demister】との因縁があるのか、彼らの不可解な行動理念に何かしらの《矛盾》を感じている様子であった。

「…ルーシス義兄さん。…まだ続きがあるけど、大丈夫?」

「……問題ないよ。……続けて。ネラ」

「うん。……ハクローくんの話では。…その一人は【Auro】(アウロ)って名前の女性だったらしくってね。…なんかリーネちゃんが持ってる【Fiducia】の《治癒能力》に興味があるからか、突然奇襲を仕掛けてきたらしいの。…取り敢えずはハクローくんが追っ払ってくれたらしいから、大事には至らなかったらしいよ」

「……そうか」

【Lu-cis・H】は少しばかり胸を撫で下ろす。そして続きにと【Beanne】が口を開く。

「…もう一つ肝心な事忘れてるよ〜ネラ!……後ね。…今【Kagoya】の町を騒がせている《辻斬り》さんの一人にも出会ったらしいよ〜ルーシスおじさん。……確か【Varisk】の【Zeal】(ジィール)って名前らしいよ〜!」

「!!……怪我の具合は!?」

「う〜ん…どうやら斬り傷だけで済んだらしいよ〜!」

「…それならいい。……他には何か話していなかったかい?」

すると今度はもう一つの話題を【Rolan】が口にする。

「お言葉ですが室長。…ハクロー達はどうやら、鍛冶屋兼猟師ギルド【Melton】の【Orbin】氏と接触し。彼もまた《辻斬り》の被害者なのだそうです。幸い負傷の傷をリーネが治療し、現在健在との事です」

「!!…そうか。…ロラン。情報提供、感謝するよ!」

「お褒めに預かりまして…」

【Rolan】は【Lu-cis・H】に対し、少しだけ頭を下げる。

「…でも、《辻斬り》って、現世でいう《通り魔》みたいな悪いヤツの事だな!?…もしかしたらただの下っ端とは違いそう!…なんか俺、教官やリーネが危険だ、心配だっ!!」

「まあまあ、ビルくん!それに日本語がおかしいよ〜!普通は『危険な目に遭っていそうだから、すごく心配する〜!』とかでしょ〜!?」

「ビル!!とにかく落ち着くのだ!!…まだハクロー達は健在であるのだか………む?…ネラ?」

「んん〜〜っ?………いやぁ〜案外ビルくんの《野生の勘》は結構冴えてるかもしれないよ〜ロラン、ベア!」

「!!」

「!?」

一同は感情的になる【Bill】を静止させる声に対し、まるで助け舟を出すかのように賛同する者として【Campanella】が名乗り出た。

「ねぇ〜ルーシス義兄さん!……確かあった筈だよね〜!?【Kagoya】の町で毒を使う腕利きの《始末屋》についての情報〜♪」

「!?」

「ど、毒ッ!?」

「む、ネラ!?」

「ハァ〜。……察しがいいね、ネラ。…コッソリ君自身の【Fiducia】のナビ能力を使って、【Dail】邸で押収した【Varisk】のメンバーに関する書類の中を洗いざらい調べていたんだね?………ご推察通り。…元【Melton】の首領だった【Orbin】さんも、何者かによる《辻斬り》の一人による暗躍で、毒の襲撃に遭ったのは確かな事だよ。…だから今回、我が【R・P】社ギルド。治療・救済ギルド【Grazia】の中でもグランドクターの地位にいるユートピア人【Eiwas】(エイワス)……その彼女とも肩を並べられる程に高い【Fiducia】の治癒能力を持つ日の浅いリーネくんを新人研修という名目で急遽ハクローくんと共に派遣させ、救助に向かわせようとした」

「…!!」

「ほ、本当か!?」

「………っ」(…【Varisk】所属の毒使い……初めて聞くわね…)

【Beanne】は少しばかり困惑の表情を見せる。

「…時は今から三日前の6/27日の昼方…【Orbin】さんが住み込みの弟子少女と行動を共にしていた時に足を斬られ、患部に毒を盛られた事件が発生した。…そして今回の件はネラの報告から推察するに、結果的に【Melton】の関係者と接触し、今回同伴で派遣したリーネくんの持つ【Fiducia】《治癒能力》によって無事怪我は治ったと見て良いだろう。……そして肝心の人斬りの情報は、【Kagoya】の町に存在する治安組織【御用見廻組】による報告では人相状があって、【Cize】(シーゼ)と名乗っているそうだ」

ペラッ!

「……これって…」

「見た感じ、女性だよね?」

「…だが殺しを請け負っている以上…身分を隠している事も考えられる。…う〜む…」

「ロラン兄貴!!もしかしたら案外怪盗アニメみたいに女に化けた男の殺し屋なのかもしれない!!……【Kagoya】って《京ノ国》とも言われてるんだろ!?だったらコイツを裏で!!え〜と、そう!時代劇に出てくるような《悪代官》がいたりいて!ソイツが命令して町の人を片っ端から襲って悪い事を!!…あの【Dail】達みたいに!!」

「!!」

「!!」

「!!」

《カカン!!》

「…………」

「?……へ?」

【Bill】の発言に対し、一同は驚愕の表情を見せており、【Lu-cis・H】も少しばかり沈黙し、考えに耽っていた。

「…では、ビルくん。……どうしてそう思ったんだい?」

「!!は、はい、室長!!…え〜っと……いやぁ〜……!!と、とにかく……!!そう!!《山勘》でそう思っただけでっす!!」

ヒュゥゥ〜〜ンン………

「……」

「……」

「……」

【Bill】はどうやら出まかせかつ、当てずっぽうなハッタリ事を言ったのか、一同はやれやれと言わんばかりに沈黙していた。しかしながらそれを笑って賞賛する者がいた─────

「…っ!!プッ!!ア〜ッハハハハ!!!!んも〜!!ビルくん、最っ高〜♪!!マ〜ジで笑えるわぁ〜!!!ア〜ッッハハハハ!!!」

パンッ!!パンッ!!

「い、いててっ!!ネラさん、い、痛いっ!!」

【Campanella】は【Bill】が口に出した憶測を通り過ぎた根拠の無いハッタリ満載の衝撃的なフィクション展開が口から出てきた為、面白おかしいのか、腹を押さえながら彼の肩を叩く。

「………ふむ」(……ビルくん。…出任せな発言だとはいえ。……確かにその線は案外的を得ているかもしれない。……過去に【御用見廻組】に所属する者が無差別に殺傷された事件の中に、何故か【Melton】の者も含め被害を受けた事例が一つだけ挙げられていた。……恐らくは何かしらの《利権》を持つ影の権力者が【Kagoya】の裏の世界に潜伏している可能性は。……十分にあり得る話だ……)

ガタン!

トントン!

「!?…し、室長…?」

「?…室長?」

「?ルーシス兄さん?」

「ルーシスおじさん?」

【Lucis・H】は立ち上がり、【Bill】に対し、少しばかり言動する内容にはくれぐれも慎むように促す。

「…ビルくん。…残念だけど確信的な根拠もなく、ただ臆測で考えた上での《空論》は、ただ嘘で塗り固めた《虚言》。……時にそれは法に触れる《虚飾》の大罪を招く事だから、実に感心も出来ないし宜しいとは、とても言えないかな…」

「!!…ご、ごめんなさいっ!」(ぺこり!)

【Bill】は自ら発言した言葉にこれといった確信的な根拠は無く、ただの上部だけの発言をして勢いで乗り切ろうとしたのだと皆は思っていた。しかし彼の言葉に【Lu-cis・H】は─────

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜実写版カイジより・OPENING TITLE2

「ふっ!…でもそれはあくまで悪気や悪意を行使して不当に《利益》を得ようとすれば当然そうなる。…君の言ったように…その現世でかつて存在していた《悪代官》のようにね」

「!?」

「大丈夫だよ、ビルくん。…君はあくまでも自らの本能によって揺れ動かしている《仲間意識》の《心》で自ら私に訴えかけたんだろ?……大切な仲間であるハクローくんやリーネくん達を、ただ助けたいという事を」

「っ!!」

【L-cis・H】は【Bill】の表情と焦りから、彼自身が本当に何を訴えているのかの熱い真意を察していた様子だ。すると彼自身の返答はこう返ってくる。

「…お、おう、室長!!俺っ!今遠くの地方にいる教官やリーネが大変な事件に巻き込まれているから……心配なんだ!!…今すぐにでも行って!教官達の力になりたい!!」

「!!…ビルくん」

「…ビルよ…お前…」

「…ビルくん」

「………ふっ!」(…山吹色の大地を揺るがす稲妻に…野生の血が騒いでいるような目の瞳の輝き。……それに、この単純明快で明るくて仲間思いの情に熱い所も含めると。…やっぱり昔を思い出す。…本当によく似ていて懐かしい気がするよ。……《ジャカル》…君を!!)

【Lu-cis・H】は笑みを浮かべつつ、旧友の【Jakal】と過ごしていた日々を思い返し、少しばかり天井を見つめていた。

「…?…室長?」

「別になんでもないよ。……わかった。……見事な《名推理》だよ、ビルくん!…まるで君はその仄かに輝かせている金髪からなのか。…ミステリー作家の《初めの一歩》を踏み込んだのかも知れないね!」

「!?」

「!?」

「!?え、ええ〜っ!?ちょ、る、ルーシス義兄さん、このあり得そうにない話を……!!マジで信じるわけ〜!?」

【Campanella】の発言に【Lu-cis・H】はコクリと頷く。

「…そうだよ、ネラ。……これはあくまで《開発》におけるモノづくり上でのプロセスを踏んだ段階での例え話だけどね。……車や自分達の生活の身近な物で例えてもいい。…ある一つの《最先端技術》の実用を目指す上で特許を得る為、必ず実施される《臨床実験》。……そのプロジェクトを始動する場合でも。…最初はまず仮定から入り。……実行し、《安全性》並びに基準を満たして《運用》可能かといったデータ上の水準をクリアする為、ただひたすら挑戦を続けていくうちに、やがて革新的な《機能美》溢れる《技術》が、後についてくる。…無論それはこの不可解な事件でも言える事だよ。…相手の動機や動向が分からない以上、最初はあくまでも《仮説》から始まり、目的を得る為に泥臭い目に遭ってでも情報を探り。…物的な証拠と証拠を照らし合わせ。……あとは《真犯人》を特定して証拠を《つきつけて》真相を明らかにするだけなのだから。……それに。…先程のビルくんが発言した根拠が無い些細な言動が、実際《立証》してみた結果。…それは期待以上の大きな《センス》ある《価値》となりえる真実を見出してくれるのではと。…私はあえて彼、ビルくんなりの推量な発言を信じ。……《賭け》てみようと思う!」 

「…!!」

「!?…か、賭ける…ですか!?」(正気なのか、室長は!?)

ざわ……ざわ……

「う〜わぁ〜っ………それって無謀な《ギャンブラー》の考え方だよぉ〜ルーシス義兄さん……普通に考えても負け確定な、か〜なりリスキーでリターンの大きい《高レート》の賭けだよぉ〜……ふふ〜ん♪で〜もビルくんってさ〜!ミステリー作家目指すくらいなんだったらぁ〜♪……な〜んか泥まみれな《奴隷》の住む地下の環境から命懸けで這い上がって人生を大逆転するあの大物ギャンブラーみたいな雰囲気を何気に漂わせてるくらいに鍛錬と根気は必要だよ〜♪…ま、頑張って!」

「??……お…!!おうっ!ネラさんっ!なんかよくわかんないけど?…ありがとな!!」

「…ビルくん、それ御世辞にも褒められてるとは言わないよ〜……」(やれやれ…お気楽だね〜ビルくん…)

「ビルよ。……もはやそれを言った以上、タチの悪い《ヤミ金融》に借金をした挙句に『だって!』という子供のような言い訳は。…一切通用しないぞ!…これはあるギャンブラーの話なのだが心して聞くのだ。…うろ覚えではあるが、現世では《ダイムラー社》と呼ばれ。……その名を持つ者と、《それにつけてもおやつは》のフレーズでお馴染みのあのスナック菓子の名前を持つ者と共同して、名のある会社を立ち上げ、現在に至る黒塗りでロマン級の高価な値の高級車の《顔》……所謂象徴とも言える《エンブレム》の窃盗をギャンブルに負けた腹癒せからか、その悪行を繰り返しているうちに、運悪く《黒服》に連行され、そのまま《希望》を意味する舟に乗せられて早速人生を賭けた《ジャンケン》やら、《鳶職》の男ですらも勇気が必要とされる道である《鉄筋渡り》にあとは………」

「あ〜!あぁ〜あぁ〜!!んもぉ〜ロラン!!冗談だってばさ〜!……それに、それはあくまでフィ・ク・ショョ〜ン!!!《架空》の漫画に出てくるギャンブラーの人生なんだから滅多に起こらない事だから大丈夫っ!!つか、むしろそれをむやみやたらに喋っちゃったら余計色んな方面から指さされて怒られるってぇ〜マジで〜!!…ゴホン!!///とにかぁ〜く!!皆っ!!それにルーシス義兄さんもっ!!こればかりは《骨折り損の草臥儲け》!!になるだけじゃあ済まない、すっごく厄介事が起こりそうな危険なニオイがプンプンする賭けな〜のぉ〜!!…わかったぁ〜!?///」

【Campanella】は現世で流行っているギャンブルをテーマにしたある漫画が【Rolan】の話によってすぐ思い浮かび上がり、敗者が一体どのような末路を辿ったのかを知っていた為、何やら不吉な運を呼び寄せてしまうのではと、直ちに皆を静止させる。しかし、その中には車のメーカーの由来となる意味に覚えがあるのか、興味をくすぐられていたメンバーが一人いた。

「んん〜〜?…で〜もその象徴は《スリーポインテッド・スター》ね〜。…………ま、いいんじゃあないの〜♪」

「!?」

「ちょ、ベア〜!?」

「べ、ベア姉さん!?」

賛同する者として声を出したのは、【Beanne】であった。

「ふふ〜ん♪…車好きのパパからも聞いた事があったけど〜♪…確かあのマークは星を意味していて、それぞれの行き着く先は《陸・海・空》を准(なぞら)えていてさ〜♪…それぞれの分野で頂点に君臨する意味合いを込めてるんだよね〜♪…アハハ♪いい響きの意味だよね〜♪………だから…」

バサァッ!!!

「!!」

「!!」

「!?……べ…ベア…」

パサっ……

キラキラキラキラ………

「………!!」(こ、これは…)

「…………」

突然【Beanne】は皆の前で羞恥心もなく着用していた服を脱ぎ出し、瞬き程の速さでその姿を変える。それは《変幻自在》とも呼び気象変動と表現すればいいのか、彼女の姿は黒とチェックのスカートから純白な装いの服へと変貌す。そして────

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜TOVより・「鐘を鳴らして」より・人々の英断

「…私もビルくんのその希望の箱舟に。…《Espoir(エスポワール)》の導きに賭けてみるとするわ。…どうやら。……もう雑談している場合じゃあなさそうだからね」

長い白の衣を風で靡かせ、フランス語で《希望》を意味する言葉が彼女の口から発せられた。

バサバサ……

「!!べ…ベア姉さん…!!し、白い!?」

「ベア。…お前その服は一体…?」

「?セーラ服?……!!それにスカーフの色って!?……ベア…そのカラーって…あの時アマ姐が着てた……《フロストブルー》の……」

「…ええ。…そうだよ、ネラ。………だから」

タッタッタ……

タンッ!

【Beanne】は【Lu-cis・H】の前に立つ。そしてこう宣言する──────

「…私は行くわ【Kagoya】の町に。……この話を聞いていると。…どうやら以前話したリシア(【Lisia】)との関係が深い、《屍人》の事件にも関与している可能性がありそうだから…」(キリッ!)

「!?」

「!?」

心なしか、彼女の瞳には長きに渡って留まり、散らばったまま未完となっていた純白のピースが組み上げられ、ここに来て再び繋がった達成感のように近い清々しさと確信を持ち合わせる煌びやかな目をしていた。その《英断》と呼べる覚悟に【Rolan】は戸惑いながらも彼女に話しかける。

「ベア!……つまり、それは…」

「…ええ、あなたのご推察通りよ、ロラン。……一週間前での【Dail】事件と、そして今回の【Kagoya】での《辻斬り》騒動は。……以前から誰かが糸を引いて。…《繋がっていた》のよ」

ミシミシ……!!

《ガシャーーン!!!!!》


《十》


「…!!なぁっ」

「!!…え、ええ〜っ!?」

「な、ナンダッテー!!??」

「………」

彼女の放った一言が、長きに渡り暗く閉ざされていた《沈黙の闇》の壁が十字架状に切り裂かれ、閃光のように貫き、突き破られる。心なしかその冷たく闇を封じ込め、閉ざしていた黒い壁は、【Bellna】が眠っている教会の名残からなのか、光り輝く十字架状のスリットが斬り込まれ、温かい光が差し込んだ《光の教会》を表していた。もう誰も悪党の手には《支配》させたくないと願う、《気高き大空》の意志を示すと共に─────

「……っ!!」

トントン!

「…?」

「…ふっ!……!!やはり、これだ!……うん、面白い!…ベルナが見込んだ事はある!!…あれから数年!ここに来て、とうとうその片鱗を見せ始めたようだね!……やっぱり君は面白いよ、ベア!…そうだ!散らばった時の歯車…それらを緻密に完成させ、真実の《時間》の秒針を差し指す一つの世界時計を創造していくんだ!!……それこそが諜報活動の醍醐味の一つなんだ!」

「!!」

「!?え、ええ〜っ!?ち、ちょ、ルーシス義兄さん!?」

「し、室長!?」

「室長…!?」(…うむ。…珍しく熱くなっているとは…)

【Lu-cis・H】は亡き妻【Bellna】の意志を【Beanne】が確かに継承し、受け継いでいると確信した。

「………」

「では聞かせてもらおうか、ベア!…その根拠を!?」

【Lu-cis・H】は口頭で【Beanne】に根拠となる考えを述べようとする。

「…【Dail】邸で保護したメイドさんの中に。…現世でいう風俗の名残りである《遊廓(ゆうかく)》出の人を保護したわ。…話を聞くと、その人は【Kagoya】の町で普通に生活をしてたらしいんだけど。…突然ある《町役人》の者に捕らえられて、そのまま闇市で売られたらしいの。……そして彼女を捜索していた両親がね。…《辻斬り》の粛清に遭って殺された事を知ったらしくて、酷く悲しんでいたわ。…だよね?…ビルくん?」

「!!あ、ああ!!……他の女のメイドさんもどうやら各島で普通に生活してたらしいんだけど、突然男に襲われて誘拐されて、気がついたら【Dail】邸で酷いイジメを受けたらしいんだ!!…リーネやステラ姉さんみたいな…!!くっそ〜っ!!やっぱり許さない!!」

「……ビル…」

「……ベア…」(そうだね。…ベア。…確かあなたも…この【Paradiso】に来て早速闇市で人身売買の被害を受け…《奴隷》のように扱われて。……整形する前の…あの時のまま、時間が止まっていた小さな少女の身体なのに………っ!!)

《今となってはさ〜♪…私の実の姉なのに……!!あなたがアマ姐と表裏一体に思えるなぁ〜♪!!》

【Campanella】には彼女の側面には実の姉である【現世人】【Bellna】の幻影がその場に立っているように見せていた。

コツン…コツン…

「……わかった。……ではビルくん。…ロラン。…ベア。これより任務を伝えるよ」

「!?」

「は…!!はっ!!」

「…あくまでも可能性の話であるかも知れないが、現在活動中のハクローくんが滞在している【J島】【Kagoya】の町の裏にて暗躍している《闇事情》について……これから調べに行ってきて欲しい。……いいかな?」

「むっ!?」

「!?ええっ!?こ、これから!?」

「どええっ!?」(ヒェ〜!今からぁ〜!?…う〜わぁ〜スパルタだね〜ルーシス義兄さぁ〜ん……)

「?…どうしたんだい、ビルくん?……《善は急げ》なのだろ?」

「!!…わ、わかった!!……よし、大丈夫だ!!睡眠なら!教官の話を見習って、どんな乗り物でも十分取るようにする!!」

「おい、待てビル!別に明日早朝からでも良いの……!!」

「………」(ジィ〜………)

「!!」

【Beanne】はいつになく真面目な目つきで【Rolan】とアイコンタクトをする。どうやら彼女もこの好機を逃してはならないと言わんばかりの熱い視線を送っている。

「っ……う、うむ!…《緊急事態》であるのならば仕方ない!!……では俺からも今回の作戦について、一つ案を伝える!!」

「!!」

「…!!」

「ろ、ロラン!?」

【Rolan】は、一つの行動の策を説明する。

「……俺達が作戦決行中の間。…ハクロー達には暫くの間、【Kagoya】の町から離れた場所で避難してもらおう…」

「?…それは一体何処にする気なの?」

「……うむ。…それは…」

「【Mystia】山がいいだろう。……私から《彼女》に伝えておこう」

「!!」

「!!…恩に着ます。…室長」

「え、ええっ!?る、ルーシス義兄さんが、アガルタさんに、み、自らぁ〜!?///」

「?…。そうだけど?…一体どうしたんだい?」

「い、いやぁ〜あはは!///別になんでもないよ〜なんでも〜!…っ!///」(ちぃっ!!そうだった、抜かってた〜!!///恋のライバル出現か〜!!///…け・ど☆絶対に私が〜!!)

ボォ〜〜!!!

【Campanella】は恋愛に燃えていた。背後には燃ゆる炎のようなオーラを放ち、彼女自慢の赤髪が何処か現世で過ごす若者女性のように引き立ち、映えていた。

「!!」(ね…ネラさん……なんか真剣な顔して燃えている!?…そっか!!それだけかなり危険な任務って事か!?)

【Bill】は何を勘違いしたのか、結果的に今回の任務に対するメリハリつけていた。その後メンバーは緻密な作戦案を出し合った────

カクジカカクジカ……

・・・

〜【Paradiso】歴:2000年6/30・【夜方】【D島】【Crono・St】・【R・P】社・地下〜

ブロロロロロロ………

バタン!!

「…今回も車のようだね〜♪んじゃま、気をつけていってらっしゃい!」

「……頼んだよ。みんな……」

PIPIPI

プルルル……

【Lu-cis・H】  (私だ。)

【Agartania・F】(!!…まあ、これはルーシスさん。…珍しいですね)

【Lu-cis・H】  (もう何年振りだろうかな。…今からおよそ七年前のベルナの墓参り以来だね…)

【Agartania・F】(…そうですね。…その節は本当に……)

【Lu-cis・H】  (私なら大丈夫だ。…君の方こそ、もう怪我は大丈夫なのか?…【Velkuy】騎士団長…《彼》の事もあるのだろう?)

【Agartania・F】(…もう大丈夫です。……私ならば……)

【Lu-cis・H】  (…それならよかった)

【Agartania・F】(…あの、ルーシスさん?今回は一体何を?)

【Lu-cis・H】  (…どうやら、最近入ってきた【R・P】社の新人が、【Kagoya】の町で《人斬り》に遭ったようだ。……今応援を寄越した為、暫くの間は新人達の方をよろしく頼みたいのだが…)

【Agartania・F】(…分かりました、あなた様の頼みとならば、御安い御用です)

【Lu-cis・H】  (…助かるよ、アガルタ)

【Agartania・F】(…あの、ルーシスさん……)

【Lu-cis・H】  (?…なんだい?)

【Agartania・F】(…あなたも…どうか、無理をしないでくださいね…///)

【Lu-cis・H】  (……ふっ!…今になって。…僕を口説いているのかい?)

【Agartania・F】(ッッ!!///……全く、何年も変わらずあなた様の《ハーレクライン家》の《H》は不潔や不純の《象徴》のようですね!?///…あの時、私の《婚約》を前提としたお見合いをすっぽかし!!……あぁ〜……まさか、ロアさんを孕っていたベルナさんと《出来ちゃった結婚》をする、と〜ッてもスケベかつ非常識なお方でもすものね、あなたは昔から…〜!!///この、変態ルーシスさん!!///)

【Lu-cis・H】  (!!///い、いやいや、あれは《不可抗力》と言えばいいのか、そもそも当時はユートピア人と【現世人】との間に子供が産まれるなんて、そんなイレギュラーな事…よく知らなくて!!)

【Agartania・F】(言い訳なら結構です!!///…それに身近に居たのではありませんか!?…あなたの大の親友であり、彼の所属する【狼志組】の局長である彼女だって!!)

【Lu-cis・H】  (!!……そこまでだ。…僕達と同じ貴族でも、特殊な血を引いている彼女が、何かの因果で何処かで生きていると知られれば、また君に被害が…!!)

【Agartania・F】(ならば。……護っていただけるように私と《再婚》してくださるのですか?///)

【Lu-cis・H】  (!!)

【Agartania・F】(…どうなのでございますか?///…かつての私の自称《ナイトリーダー》…ルーシスさん…///)

【Lu-cis・H】  (…もう昔の話さ。今となっては僕自身妻であるベルナを忘れられないからね…)

【Agartania・F】(!!///あぁ〜…およよよ。……ぅぅ…私……夜な夜な寂しい毎日なのですよ〜…///)

【Lu-cis・H】  (…わざとらしい嘘泣きをしてもダメだよ)

【Agartania・F】(ッ!!///…む〜…///おけちですね…///)

【Lu-cis・H】  (何とでも言ってくれ。…それに、僕は彼女と約束をした上でこの道を選んたんだよ。…君と別れた後も…この《H》は、皆と共に繋がりを築き上げる証として。…そして、彼女があの時【Demister】の長と名乗る【Alvious】(アルヴィオス)が、去り際世界に暗雲をもたらそうとしたあの時、彼女が放った《光輝の明星》…それが転じて教えてくれた、どんな壁が立ちはだかろうとも貫き通し、立ちあがろうとする《気高き意志》。………それを君が亡き今も。…《貴族》のみんなと繋がり、いつまでも意志を貫き通して見せるとね)

【Agartania・F】(……!!)

【Lu-cis・H】  (…だから、ごめん。…君との《婚約》は…)

【Agartania・F】(…フフフ)

【Lu-cis・H】  (…?)

【Agartania・F】(…それでこそ、私が愛する《ナイトリーダー・ルーシス》さんです…///…昔から本当に紳士的…素敵で♡…よく怪我をされた時には私が手当をして差し上げましたものね…ふふっ…///)

【Lu-cis・H】  (…アガルタ…そうだね。…君には本当に助けられた。…ベルナの事もだけど……僕自身も、本当に助けられた。…昔も。…そして……今も!)

【Agartania・F】(ふふふ。……ではお教えいただきましょうか?…【R・P】社のギルドメンバーの中で。…一体どなたが、この【Mist Garden】(ミスト・ガーデン)を訪ねに来られるのですか?)

【Lu-cis・H】  (…ああ…それはね…)

・・・

【Agartania・F】(アガルタニア・フレイシア)【Lu-cis・H】(ルーシス・ハーレクライン)────二人はそれぞれ古くから伝わる、【Paradiso】の歴史において華族の上位地位にある《貴族》の中でも太古に存在する【最古の貴族】の末裔である。二人の内一人は、人と人との繋がりを重んじ、時に勇敢な騎士として、そしてもう一人は《癒し》を重んじる、救護の役目を担い、仲間と共に助け合ってきた過去がある。二人は互いに結ばれない《運命》にあれど、固い《絆》で結ばれていた様子であった。その《契り》は時を超え、いつしか叶わなかった《Promise》は、次世代の者達へと受け継がれて行くであろう。何故ならば物事には《終》はなく、時が進む限り、《始》があるのだから─────

その数日後、滞在中に何か変わった様子はないか、密に報告を寄越すよう【Campanella】から指令を下された【Kagoya】の町滞在中の【Hux・row】と【Linea】達は、特に変わった様子もなく、【Agartania・F】が裏での手回しをした為、【Melton】の合同演習と言う名目で【Keito】を引き連れ、その間に交代で到着した【Beanne】達に町の護衛をさせつつ、【河原木亭】の管理を担当する【Senno】の護衛も兼ね、【Kagoya】の《闇事情》を暴く任務が【Paradiso】歴2000年:7/1に決行された─────












   
B. いいえ


《Capitolo・3》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜相棒より・終わりの始まり

【Paradiso】歴2000年7/9・夜方【J島】【Kagoya】下町通り・古民家〜

時は進み、【Paradiso】歴2000年:7/9─────夜方の事であった。

「………」

カチャカチャ!!

「………さ〜て、こんな所かの〜。…ふう〜…驚いたぞ。…まさか、このような年代物に……眠っていようとはな………」

コトン!

コツンコツン…

「…ん〜?どないしたんや〜親方?」

「ああ、ケイトか?…今帰ったのだな?…んで、どうじゃ?…あれから何も町に変わった事はないのか?」

場所は下町通りにひっそりと佇む古民街。そこには鍛冶屋の【Orbin】が何やら置物のような物の整備をしていた時、共に生活していた同居人の【Keito】が顔を出す。

「ああ、こっちは特に何もあらへんかったで〜!…?…んで?…その狸の置物一体何やねんな〜親方?」

「…うむ。……その前にじゃ。……」

スッ!

「…?何やコレ?…封筒かいな?………!?」

【Keito】に手渡されたのは、一枚の封筒であった。【Orbin】の眼差しは真剣そのものであり、目が血走っていた。

「…耳を貸してくれるかの?」

「…ええやろう」

彼女は、相手がふざけておらず、これは本気だと言わんばかりに大人しく要件に従う。すると【Orbin】は彼女の耳元で囁くと、決して周りに盗み聞きをして悟られぬよう、簡潔に述べた。

「……よいか。……」





「……ほ、ほんまかいな、それ!?」(ひそひそ!)

「うむ。……よいな?…お前の【P-Watch】の預け入れ機能にしっかり入れて置くのじゃ…」(コソコソ…)

「!?……分かったで…」

ピッピッピ…

シュン!!

【Orbin】から渡された、ある一枚の封筒をそのまま【P-Watch】に保管する。それを見届けると【Orbin】は安堵した。

「……よし。…後はこの人形を……!?」

ジジジジ………!!!!

ドォーーーン!!!!!!!

「!!っぐっ!!」

「うわぁっ!!!!」

突如、何処から、火花の音が程走り、そのまま大きな花火が打ち上げられたように、甲高い爆破音が鳴り響く。それに伴う爆風と共に、家の中で黒煙と焔が立ち込めてきた。どうやら何者かが火を放った様子である。

バチバチバチ……

「!!か、火事やでぇ〜!!…ったく、どこの阿呆やぁ〜!?ウチは《鍛冶屋》とは言え、火事が好きやとちゃあうんやで〜!!《焼肉焼いても家焼くな》ってこと、教わらんかったんかいな〜!!」

「ゴホッ!!ゴホッ!!言うてる場合かぁ〜このぉ〜……!?」

ガタガタガタ……!!!

「!!まずい!!…伏せろぉぉ!!!ケイトぉぉぉ!!!!!」

ドォン!!!!

「うわぁっ!!……!?」

ガタァーーンン!!!!!

「!!……」

ぐあああああっっ!!!!!!

バチバチバチ………

「!!…お…お…!!」

親方ぁーーーーーッッ!!!!!!

【Orbin】は彼女を庇う為、突き放して距離を取らせると、そのまま天井が抜け落ち、無惨にも家の下敷き状態となってしまった。

「!!っ今助けるでぇ〜!!」

「…ッ!!」

バカもぉーーン!!!!

「!!」

「…!!」(キッ!!)

【Orbin】は意地でも声を叫んで彼女を静止させる。辺りからは、彼自身の肉体が火に焼かれ、焼き焦げた匂いが立ち込めて来ており、このままでは自らの命も危ういと踏んでいたが、その気持ちをグッと堪え、【Keito】に対し、道を切り拓く言葉を交えその場を撤退させようとこう告げた。

「このままでは共に下敷きして共倒れじゃ!!…これからのピチピチ世代の若いもんが年寄りにベタついてどうするのじゃ!?……頼んだぞ、ケイト…これからお前は…一人で生きねばならんのじゃ……お前の持つ弓矢を飛ばし、指し示す方へ……ッ!!……さあ、行け!!…っ!!」

《行ってくるのじゃ…星々のように散りばめられ、こうして何かの縁で集められた新しい関わりを持つ者達と共に……まだ誰も見た事がない……まるで《ピチピチギャル》のヒップのような美麗な光を放つ大地…《広野ノ昴》へと……》

バチバチバチ………

「……!!」

ポタポタ………!!

ダダダダダダダッ!!!!

【Keito】はその最期の言葉を聞き終え、離脱する。

タッタッタ……

「…これでいいのじゃ…これで……ふっ。……」(ワシはここまでか。……じゃが悔いは無い。……最後にヤエカちゃんの引き締まった、スレンダーボディーに、リーネちゃんのふくよかボディーに触れ、拝み崇拝し、垣間見た《天国》へとワシは到達したのじゃからな〜♪……)

コツン…コツン…

「〜♪…あらあら〜大丈夫ぅ〜ジジイ?…!!ギャハハハ!!!!」

「おうおう、ジジイが火に焼かれてるぜぇ〜!!」

「!?……ぐ……お前達は……!!そうか。……噂をすればなんとやら……か…!!」(やれやれじゃ。…どうやら……《地獄》の使者が訪れると来たか…)

【Orbin】の前に立ち塞がったのは、黒いドレスを着た者と、もう一人はグレーの特攻服を身に纏った二人組の者達であった。

ガチャッ…

「おいおい、これって人形かい?」

「んだこりゃ?…古くてきったねえな〜……」

「!!…お前……達………っ………」

バタリ…

【Orbin】の意識はここで途絶えた。その様子に二人組はタチの悪い《DQN》のような煽り文句を口に出し、更に貶す。

「あらあ〜ら!もうこのジジイ、虫の息寸前だよ〜?…どうしちゃう〜?」

「へへへっ、なら。…いっそここでよ〜♪」

オイオイ、小火(ボヤ)起こしたくれえで、いつまでもジタバタしてんじゃあねえっ〜!!!

ザッザッザ……

「あん?…!!」

バキャッ!!!

「グォホッ!!……」

バタリっ!!

「ちょ、おいカルバン!?…ったく、【Bran】!!アンタ!何してくれんのさ!?…私らを一体何だと思ってる訳だい!?…天下の…」

「【Demister】とでも言いてえのか!?…こんな大事引き起こしておいて、老いぼれの回収も碌に出来ねえのか!?…それにこんなのが、世間ではお前らのリーダー名乗ってるのか?…ったく、とんだお笑い草だぜ!!」

相手の二人組の正体は《【Demister】(終焉の使徒)》に属する【Izaya】と【Calban】だった。

ガラガラ……!!

ブチッ!!!

「…!!」

「………」

【Bran】は、遺体となった【Orbin】の胴体だけを回収する。

ザザザザ……

「……」「………」「………」

そうしていると、【真・ユートピア創造士隊】の者達が目の前に現れ、待ち構える。

「…このジジイの遺体を有効活用してくれ。…大事な《技能》を持った頭脳の持ち主だからな。……《くだらねえ》記憶とかは消去しとけや」

ハハッ!!

ガシッ!!

ザザザザザザッ!!!

「…へぇ〜♪…優しいとこあるじゃない♪」

「…うるせえよ、犬みたいにキャンキャン吠えるくらいしか脳のねえ女(アマ)の分際で…!?」

ボアアアァァぁぁ!!!!!

「…今、私に何つったかしら?」
     
シャシャ〜……!!!!

ゴオオオオオオオオ!!!!!!!

「!!…《摩擦熱》だと。…オイオイ正気かテメエ!?」

女は古民の町に掻き傷を作る。暫くするとそこから火が灯され、瞬く間に辺りは火の海と化し、町中は業火に焼き払われ、灯火が町中に広がっていく。

ボアアアアアア!!!!

「…まさかテメエ。…奪い取ったってのか、あの《一番隊隊長》の能力を!?」

「ギャハハ!!…ああそうさ〜♪…見事奴の《特殊能力》を奪ってやったのさ!!…ま、せいぜい摩擦熱程度のもんだけど。…んでさっきのは、このカルバンのちゃっちい空気を作る能力を使って、私の焔の能力を蓄積させ、それを凝縮させドカンとしたのさ。……こんな風にね〜♪…」

パチン!!

ドォーーン!!! ドォーーン!! ドォーーン!!

カンカンカン!!カンカンカン!!【Kagoya】の下町で火災が発生しました。

【Izaya】が指を鳴らすと【Kagoya】の町中が瞬く間に爆音が鳴り響き、火の海と化す。

「…始末された【Muu】みてえな爆弾魔かよ、てめえは?」

「アァ〜ヒャハハハ!!!!……やっばぁ〜マジ笑えるわ〜♪案外コイツの空気吐き出す能力も捨てたもんじゃあなかったようね〜♪…こうして全て……こんなしょうもないただの桜だけの町なんか消し炭になるといいのさ!…あん時、この私を不快な気持ちにさせた分まできっちりと火葬して葬儀させてやんないとね〜!ギャハハハハ!!!」

ボアァァアアアアアアアッッ!!!!!!

「…………っ!!」(クソったれが!…あぁ〜……マジでつまんねえッ!!)

「…んでさ?…アンタそれ一体なんなんだい?…変な人形だね〜?」

「……アンティークもんなら金目だろ、折角だから持ってくだけだよ!…精々花火でも散らして火遊びしとけや!…あばよ」

スタッ!!タッタッタ!!!

【Bran】は、【Orbin】の屋敷にあった一つの人形を持ったまま、その場を去る。【Demister】に所属する者達の所業に対し、何処か嫌気を差していた様子であった。自らが追い求める《理想》とはまるで違い、彼らがしている事は《救済》とは程遠くかけ離れ、身勝手かつ、強欲と傲慢な振る舞いをしていた事に、寂れた雰囲気を醸し出し、不愉快な気分を解消するが為にその場を後にする。

「……!!」

チッ!!…趣味悪!!…あぁ〜マジで鬱陶しい負け犬ねぇ〜ギャハハ!!…そぉ〜ら燃えな燃えなぁ〜燃えちまって燃え尽きなァァ〜ッッ!

あ〜ヒャハハハハハ!!!!

・・・

【Paradiso】歴2000年7/9・夜方【J島】【Kagoya】下町通り・広場〜

「…………」

バチバチバチ…………

更に時は進む。場所は下町通りの広場。そこには《スカイブルー》の燕尾服を身に纏い、両手を失った《剣士》が横たわっていた。周囲には機械の腕が粉々になっており、杖に見立てられた、《辻斬り》用途に使用していた《仕込み刀》が折られ、地面に落ちていた。その者の目はとても清々しい表情をしていた─────

ザッザッザ……

ズザっ……

「………プラン。…あなたでしたか。…その様子ですと、任務は達成したようなのですね」

男の前に立ち尽くしていたのは、【Varisk】所属の男【Bran】であった。するとニタついた笑みを浮かべてこう言った。

「…おう。…また噂の【Hux・row】とかいう若いただの【現世人】野郎にこっ酷く、返り討ちにしてやられたみてえだな〜ジィール(【Zeal】)!んでどうよ、俺の毒はよ〜!?…すげえだろ〜?」

男の正体は同じ【Varisk】所属の【Zeal】であった。どうやら彼は【Hux・row】と名乗る《白狼》の異名を持つ男と真剣で闘い、敗れた後の様子であった。

「…ええ、お陰様で今回も惨敗でしたよ。…ですが今は何故か気分が良い……」

「?…ああん?」

「……あの男の《覚悟》は…確かながら本物のようです。まるで《極道》の覚悟を背負ってまで。……昔、私の剣を見て下さった、本当の《人斬り》である…あの《方》のようにね」

「!!…それって、あの亡霊【Kyog】(キョグ)の事言ってやがるのか?…!!つかお前、今気づいたけどよ。………その傷。……まさか、テメエ!?」

【Zeal】は【Bran】に対し、【Hux・row】と敵対した時の真意を語った。

「…私は決してあの偽善集団の集まり…【Demister】などという世迷言集団に取り繕ろうなどとは一切ありません。ま、彼らの名前を使い、カマをかけて見ましたが。…あの者は見事信じ切って私に本気で挑んで来ました。しかしながら途中で何かに気づいたのか、《肉弾戦》を持ち込んで…私との決着をつけようとした」

「!!…通りでそんなちゃっちい〜時代遅れな義手を付けてたわけだ……!!バカだろ。…お前」

「……何とでも言いなさい。…あなたとは違い、私には私なりの意地があるのだと。……昔から言っているでしょう?……私は《邪道》な手になど一切染まる事もなく、その使命を全うする者だとね。……元私の《相棒》のブランさん」

「……!!っ!!」

ガシッ!!

【Bran】は【Zeal】の胸倉を掴み上げる。すると腕を振り下ろそうとする体勢を取り、こう言い放った。

「……さっきそこの民家で下敷きになっちまってた、あの《鍛冶屋》のジジイみてえによぉ〜、顔面がミンチになる前に一つだけ聞いておくぜ。……テメエ。…一体俺との闘いの後、何があった?」

「……それを私の口から言わせるつもりなのですか?……いいでしょう。今から二日程も前の話です。……皮肉にも私をまるで《捨て犬》のように拾い上げた一人の《女性》がいたのですよ。……あの瞳に映るのは、ただ真実を探求し、追求する純粋な《正義》を重んじる《刑事》のような強い眼差しでしたがね……」

「!?……おい。……まさかその《女》ってはぁよぉ〜?」

「……勘が鋭いようですね。……そう。今回の騒動である、この《維新事変》を招いた《元凶》。……その内の一人の《男》の出生の秘密の鍵を握る、一人の《女性》……【G島】【Olfes】の町にある救済ギルド所属の者【Aria】(アリア)ですよ」

「!!……っ!!」

ダァン!!!!

パラパラ………

「………」

「………」

【Pran】は複雑な表情で壁を強く殴りつけた。叩きつけた壁はクレーターを生じさせており、《メリケンサック》からは何処か悲しげに泣いていたのか、手には《魂の雫》が流れ落ちていた─────

ポタポタ………

「!!……そうかよ。…それに救済ギルドで、その腕をくっ付けた奴ってのは………!!くそがぁっ!!……してやられたぜ!!!」

ガシッ!!

「………!?」

突如【Pran】は【Zeal】を抱え、広場から距離を置くかのように歩みを始める。

ザッザッザ………

「……何をしてるのですか!?」

「あぁっ!?……探すんだよ。…そのアリアって女と、その義手付けた《闇医者》をよぉ!!」

「!?…よしなさい!!」

「うるせえ!!…まだ勝機はあるようだぜ。……こうなったら奴の居所を探り。…奴ら《ヘイケ・ホタル》の遺産である《真実ノ目》の保管場所を探し当て…そしてお前を【Varisk】に連行し、【真・ユートピア創造士隊】の礎にでもなってまたコキ使わせて貰うだけだぜ!!」

「…やれやれ。……無駄な事を。…もう遅い事でしょう。…目覚める頃には、彼女の口にて。…全てを証言されますよ。…この町を仕切っている《悪代官》の本当の顔。…【Kunizu】に化けたあの者の本当の正体について……今更どう有耶無耶にしようとも、あなたの出世人生は。…もう《終わった》も……」

「!!…黙りやがっ…!!!」

ブォン!!!!

「!!……くっ!!」

バッ!!

「……!?っ!!」

ジャキッ………

「…………」

二人の目の前には、《XIII》の文字が刻まれた大剣を背負った男の者が立ち塞がる。

「……!!…な、なんだ…コイツはよぉ〜!?……結構デカイ獲物を持ってやがるが………!!」

ゲシッ!!!

【Zeal】は突然【Pran】を蹴り上げる。

「!!……っ!!な、何しやがっ…!!」

「っ!!…早く走りなさい!!……少しでも長生きをしたいのであれば言う通りにしなさい!!!」

「!!」

【Zeal】自身は感情を曝け出し、強く【Bran】に言い聞かせる。その目の前に現れた相手の男に覚えがある様子だ。特徴としては、白髪に朱色のタトゥーが刻まれた何処か《歌舞伎》の風貌が感じられる、白のコートを身につけた男である。その者の手に持つ大剣は、オプションとして銃が仕込まれた《銃大剣》を所持していた。

「……」

チャカリッ!!

タッタッタ!!!!

・・・

「…っち!!…おい!?…一体、何者なんだよ〜?…アイツは?」

「……どうやら時間のようですね。……私を置いて早く逃げなさ……い…!?」

ドクン……ドクン…

「……いいから………教えろ……」(ゾワゾワ…)(俺でも分かってんだよ!…あの野郎から感じた…得体の知れない力って奴をよぉ〜!!)

【Bran】はどうやら動けなくなった【Zeal】を置き、その場を後にする前に相手の素性を聞き、正体を知ろうとする。その目には相手が発していた《絶対的強者》のオーラを感じ取っていたのは事実であった。

「………あの【狼志組】《二番隊隊長》…ニヤノ(【Niyano】)…あの方にとって宿命の関係であり、以前【C島】へ私の部下である【Cize】を今回の一件から逃れさせようと一時的に派遣されるも、計画が漏れてしまったからなのか、当に《粛清》されてしまった…あなたと同じ毒使いの剣士……《死神》ハーデ(【Hadn・tuLs】)。……彼があの者の《後釜》として《命》を引き継ぎ、就任する前の今から約《10年前》。…かつて【Varisk】の中でも《処刑人》を意味する集団《【X・III】(サーティーン)》その中でも唯一の称号(コードネーム)として存在する《イレイザー》の地位を彼は与えられた。かつて私の付き人であった【Makiras】様もそれを目指すも、敢えなくあの《男》に敗れ去った。……それを聞いたら。…あなたはもうお分かりでしょう?」

「!!…じゃあアイツはよぉ〜?…まさか【Capo】が寄越したってのか!?……まだ【C島】で油を売ってたんじゃなかったのかよ!?」

「……やはり知っておりましたか。……6/17日に【C島】で発生した【真・ユートピア創造士隊】支部襲撃事件の内容を。…【真・ユートピア創造士隊・最神官】の地位に君臨していた、施設の支部長【Logias】(ロギアス)が何者かによって首を切り落とされ、葬られたのは確かな事です。……そしてあの刃物から推測するに。…いま確信しましたよ。…【Capo】は、かつての《亡霊》を遂に蘇えらせてしまったのですよ。…あの《催し物》による恩恵の力によって。……共に行動していた《死神》を粛清された今、我々を含め、《維新事変》が起こりしタイミングを見計らい。《10年前》以上前に起きた《大火》の出来事を知る者達全てを。彼の持つ《イレイザー》の名に相応しい《虐殺》を企て。……今宵《終焉》を迎え入れようとしているのですよ。……特にあの者はユートピア人の中でも武力に長けた種族。……《白豹族》の生き残り………」
 
《【豹嵐】(ひょうらん)……【Gara】(ガラ)!!!》

【Zeal】は相手の素性を曝け出した。それを聞いた【Bran】は怒りに狂っていた。

「クソガァ!!……じゃあ今回の件で、《悪代官》を裏でコキ使ってた、その《闇》に触れちまった俺らは……余計な奴らとの接触で明らかにされた《裏事情》の秘密を知り過ぎちまった俺達は……!!【Capo】にとっては俺達はぁッッ!!…ただ使えるだけ使ってよぉ〜!!…後はあの《亡霊》の飢えを満たす《餌》だってぇ〜のかぁ〜〜!?」

「…今回の戦略プラン上の盤で例えるのであれば、そうなる事でしょう。…してやられました。…我々を散々利用させた挙句、《皮革》として剥ぎ取り、自らを彩る《虚飾》の大罪を彼らは《枷》とした。……皮肉にも始末を、あの《歌舞伎》のような顔をした《デスマスク》。……それらは全てを物語っているようですね。……《10年前》の《蛍》の灯し火と…《大火》の日を…」

「!?…おい!?…そいつぁ〜どう言うことだ…………!?」

ドクン…ドクン……ドクン…ドクン…………!!!

バタン!!!

「!!……お…おい……」

【Bran】が振り向いた時には【Zeal】の胴体は無惨にも二つに両断されていた。不思議な事に壁には傷一つ斬り込みがなく、あたかも【Zeal】のみをターゲットに絞り、葬ったようにその目で観測した真実をつきつけられる。

ガシッ!!

「しっかりしやがれや!?…おい!!??」

「……まだそんな顔をするのですね。……全く……両断された所とて。……喋る事が出来るとは……あの《偽善者》連中の《華女(カメ)》の接吻の恩恵を受けてこれだけですか。……全く、実に《虚偽》なデマでしたね…」

「!!…ジィール…お前……!?」

ポタポタ…

【Bran】の目から少しばかりの涙が溢れ出す。

「……やれやれ、全く仕方ない方ですね。…昔からあなたは。…ですがもう時間はありません。…早くお逃げなさい。…ここにいては危険です。…《影斬り》によって、このように両断されますよ……」

「…《影斬り》?」

【Zeal】は【Bran】に冥土の土産という形でこう話す。

「…【Gara】の攻撃方法の一つとして、壁を斬り込まれた跡も無く、まるで鎌鼬(かまいたち)のように斬撃を座標内に飛ばす技を持っているのですよ。…今回彼が放った斬撃は。…まずは私を切り刻んだようです…」

「!!…っ!!……わかった…もう話すな」

スクッ!!

【Bran】は流す涙を拭き、目を輝かせる。その瞳にはかつての思い入れがあるのか、《バブル期》のギラついた街の風景を脳内で浮かばせているのか、真っ直ぐな気持ちで前を向いていた──────

「……どうか、振り返らず。…あなたはあなたの《道》を行きなさい」

「…わかってるぜいよ。………死に損ない」

タッタッタ!!!!

「……やれやれ。…それが最期の言葉ですか。…悪くありませんね」

………

ザッザッザ………

「………」

「…おやおや。…どうやら本当にお迎えが来たようですね」

【Zeal】は相手に目線を合わせる。そこには鉢巻を靡かせた、黒い髑髏の仮面を被った、黒衣の忍び装束を着た男が目の前に立っていた。

「…【Varisk】所属【Kyog】(キョグ)でござる。…【Capo】の命により、貴様を始末しに来た。…と言いたい所でござるが、もう無用な殺生は必要無いようでござるな………」

フルフル…

バサバサ……

【Zeal】の目の前に現れたのは、【Varisk】所属の【Kyog】(キョグ)と名乗る者であった。どうやら首を振り、もう《虫の息》である事を知った。

「……あなたの現世での実の弟…九番隊隊長【Kyusaku】(キュウサク)さんには無事会えましたか?」

「……何の事でござるか?」

「惚けても無駄です。…私はあれから調べたのですから。……【Kyog】…あなたの事をね」

「………」

「これは、ある現世での刑事ドラマにある《終わりの始まり》……その展開を意味していたとは……驚きましたよ……そうですか。…まさか。……あなたが……やっと戻って来れましたか…」

【Zeal】は残り少ない時間の中で、相手の素性を口に出す。


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜Rainyより・Find the truth

「……やっと会えましたね。…元私の付き人…《師匠(マスター)》。……元《ヘイケ・ホタル/【Progecter】(プロジェクター)》メンバー所属の死神《暗部ノ執行人》。そして【御用見廻組】所属であった。………自称《トリプル・フェイサー》」

《…【Kokyou】(コキョウ)さん……》

彼には【Kyog】といった名前の他に【Kokyou】(コキョウ)というもう一つの名前が存在した。それと同時にこれまでの軌跡で彼自身、様々な組織に潜伏する、多重スパイの身分である事も明らかとなった。

「…その名は捨てたでござる。…今は【Kyog】でござる…」

「……ふっ。…そうですか」

キラキラキラ……

「…自らの持つ高潔さを取り戻した以上。もう残りの時間は少ないようでござるな。……最期に言い残す事はないでござるか?」

「……どうやら、あなたが抱えているその不条理な仮面の問題に。……一つだけ打開出来る方法が見つかりました。……あなたが暗躍し、抱えている世界。……《暗部》に照らされた一筋の光でありますがね…」

「………」

すると【Zeal】は微笑んで【Kyog】にこう伝え、散り行く──────

《…私は、あの《白狼》の男【Hux・row】と出会い。…皮肉にも剣を交える内に。……いつの間にか正しき道に導かれたのか、あなたと初めて出会い、純粋に剣を交えていたあの初心の頃の気持ちへようやく辿り着きました。……この事は謹んで、死んでもあの男には言いたくはありません。…ですが、もう悔いはありませんよ。……あなたもいつかは【現世人】【Kokyou】(コキョウ)として、表舞台で堂々と胸を張れる刻が…あの男による《維新》にて、それは実現されるかと思われます。…どうか胸を張ってその男と出会うその日まで、この《異名》を預かってはもらえませんでしょうか──────》

・・・

ザッザッザッザ……

「……確かに託された。…我が元弟子。…ジィール(【Zeal】)。……今は安らかに眠れ。……今拙者は、その【Varisk】、【御用見廻組】並びに、あの組織…【P・Fixer】(プレテンション・フィクサー)。……《國威》による刺客にも追われている《無法者》の身でござる。……だが、いつか会って見たいものでござるな。……お主が見込んだ、【Hux・row】という男に。……あの時、拙者の正体を【Capo】に知られ、そのまま消息を絶った後、お前を【Makiras】に明け渡された後、暫く見ない間に《闇》の《人斬り》に染まる運びとなってしまった、その誤った分岐の道を絶ち切り。…正したのだからな。……感謝するでござるよ」

チャカッ!!

「……そしてこの義手は。……お主達が着けてくれたのでござろう。我が《ヘイケ・ホタル》の同志。…医学博士の【Sekimi】(セキミ)…そして、治療する者はその弟子。…【Yakubisi】(ヤクビシ)。……実に。…恩に着るぞ」

タッタッタ!!

【Kyog】はその場を去り、再び【Kagoya】の町の闇に身を投じ、暗躍する。しかし彼自身は無差別に人を殺める真似をしない《信念》があるようだ。例え《漆黒》に彩られた黒衣の忍び装束とあれど、彼自身には信じられる《受け継がれし意志》があった。

ボアアアア!!!!!!

「………」(また。…10年来の大火が勃発するとは。…《暗黒ノ歴史》はいつでも起こってしまうのでござるな……《ベルナ》。お主がいない今、かつて10年前以上に存在した、【Varisk】の《イレイザー》……【嵐豹】の【Gara】。……あの者を《拳銃剣》で天罰を下すも【Capo】の持つ力で、あのような形で10年の時を得て、あのような形で復活を果たしてしまった以上。…圧倒的に不利な時代が到来したのやも知れぬぞ………)

【Kyog】もまた、【現世人】である彼女【Bellna】と面識があった様子だった。そして少しばかりの思い出に浸る。

・・・

〜【Kyog】の追憶〜

『〜♪……ウフフっ!♪』

ガチャン!!…クルクルクル!!

パシっ!

『…?…一体何のつもりでござる?…何故攻撃を止めたでござるか?』

『…あら、ごめんなさいね〜♪……《キョグ》だったかしら?……あなたって【Varisk】の筈なのに〜♪…《悪党》の側じゃあなくて、《悪党》を裁く方の側なのね〜♪…ウフフ♪』

『……察したでござるか?』

『んも〜う!解りやすいわよ〜♪…私だって伊達にみんなのお姉さんをやってきた訳じゃあないんだから〜♪』

『…そうでござるか』

『あらぁ〜つれないわね〜…』

『……ベルナ。…一つ良いでござるか?』

『〜?…何かしら〜?』

『お主も、この《暗部》に介入したとあらば、後々表舞台での安息な生活が出来なくなるやもしれんのでござるぞよ。……それ故に、何故お主は危険を顧みず、この領域に足を踏み込み。…進んで来たのでござるか?』

『…簡単よ。…《暗部》って〜♪要するに暗がりの事を言うのでしょ?…ならっ♡……私がその暗闇を照らす光になればいいだけの話じゃあないの〜♪』

『…!!』

『アハハ!!…何鳩が《豆鉄砲》に当てられたような顔をしてるのよ〜♪……もう一つ言うとね〜♪……この暗がりの場所は今後更に暗雲とかが立ち込めそうだから、今の内に晴らしておかないとね〜♪』

『…何の為にでござるか?』

『ウフフ♪…次の《世代》として、この【Paradiso】を私達が暮らしていた世界。…《現世》から遥々訪ねに来る、まだ見た事もない《希望》溢れる私達【現世人】…まあ結局整形でもしない限り、どんなに歳をとっても姿は変わらないのだけれどね〜アハハ♪…とにかくみんなの為にも、この暗がりを晴らして、みんなが笑い合って生活する事が出来る《未来》の可能性を切り拓いていくだけ。……私の若旦那のようにねっ///…〜!!///んもぉ〜♡♡言わせないでよ〜♪きゃ〜〜〜〜♡♡♡』

『……よく分かったでござる。…お主にも、帰る《家庭》…居場所があるという事を……』

『ウフフ♡…あ・と・は☆……あの《鼻垂れ娘》の分まで、私は頑張らないといけないのよね〜♪』

『?…それは一体誰の事でござるか?』

『ウフフ♡…そ・れ・は・ね〜♪…最近人身売買の連中を月に代わってお仕置きしてたら、偶然成り行きで保護しちゃった娘でね〜♪…ん〜何て説明すればいいかしらね〜♪…確かカナダ人と日本人の両親の間から生まれたハーフの娘らしくてねぇ〜♪まるで翼が折れてしまって、そのまま天から海へと真っ逆さまに堕ちてきた天使なのかしらね〜?♪ウフフ♡…でもね〜♪両親にベッタリのお子ちゃまだったのかしらね〜♪…まだまだ甘えん坊の《12歳》で本当に《ちんちくりん》でよくべそかいたりするから、私の娘のロアよりも手がかかって、お世話とかもすっごく大変なのよ〜♪…でもね。…確かに《Speranza(スペランツァ※イタリア語で希望の意味)》…《希望》を感じる娘なのよ〜♪……あの子はね…いつか将来私以上の大きな事を成し遂げて……まだ見ない世代の子達の皆の《和》になっては、輝いて煌めく光になって。……共に突き進んでいける強い《意志》があるのよね〜♪』

『?……それは一体何者でござるか?』

『…ウフフ♡…キョグ。…あなたは《セドナ》って名前をご存知かしら〜?』

『…太陽系の中でも《最速の天体》の名前であるとは聞いているでござる』

『あらあら〜♪…ふふ。…流石、私と同じ【現世人】さんのようね〜♪しかも結構《博識》で気が合うのね〜♪……私も《天体観測》は好きなのよ〜♡……でも違うのよね〜♪その意味とは♪』

『?…む。…では一体』

『…あの子の母国《カナダ》による神話の言い伝えにあるのだけれどね〜♪…北米の中でも極北の寒い地方に住んでる人達の言い伝えでね。…《イヌイット神話》に出てくる《海の女王》の名前なのよ〜♪』

『…そうでござったか。…では一体どのような功績を残した大層な《神》でござるか?』

『ウフフ♪…《セドナ》はまるで人魚の姿をした、とても綺麗な神様らしくてね〜♪大海原で生活する動物や《海洋生物》を温かく見守っていた、とても良く出来た娘らしいのよ〜♪…ま、彼女自身の夫は門番の《犬》らしくてね〜♪…それに家族間の仲が最悪だったから、それはそれはも〜う《波乱万丈》が相応しいくらいの色々複雑な事情があったらしいのよ〜。……そして肝心な彼女の神としての役割はね。…』

《人間の祖》の祖霊なのよ》

『…!!っ!?…では…』

『そうなのよ〜♪…まあこればかりは憶測なのかも知れないけれど〜♪…あの鼻垂れ娘は案外その《セドナ》との関係が深いのかもしれないわね〜♪…それを証拠付けてくれたのが、あの子が持つ…まあ私は会った事は無いのだけど、《【導き人】三姉妹》からの試練で発現した【Fiducia】の中でも、《長きに渡る勤務の歴史史上初》と言わしめる程の類まれなる能力。……それを物語っているらしいのよね〜♪』

『?…それは…一体?…そもそも、お主は…あの者達以外の【導き人】の…誰の導きでこの世界を訪れたのでござるか?』

『ふふっ!…教えなぁ〜い♪…ウフフ♡……んん〜っ…でもまあ、これくらいなら教えてあげてもいいかしらね〜♪あの子が言ってたんだけど〜♪成長はと〜っても遅いらしくて【Aランク】になるまで、《最低10年》は待たないといけないらしくてね〜。…そこがベルナお姉さんはすっごく残念なのよね〜。……でも、楽しみね〜♪今はまだ微弱だけど。…いつか必ずその《片鱗》を見せてくれるわぁ〜♪…あの子なら、あなたがさっき言った、《太陽系最速の天体》…最速という言い方を言い換えるのならば、それは《閃光の速さ》とも捉える事も出来るのではないのかしらね〜♪』

『……《閃光》でござるか。……』

『ウフフ♪…やっぱり、《光》というワードに触れられれば、自ずとピンとくるでしょうね〜♪あなたなら♡…だって、そうでしょ〜?…元《ゲンジ・ホタル》メンバーの【Kokyou】(コキョウ)さん♪』

『…むっ!?』

『…あの時の災害で、カワラの事は本当にごめんなさい。…でも大丈夫。……あなたが追っている《黒幕》の正体。……大体は見当がついているのだから……』

『…!!…それは一体何者でござるか!?』

『…ウフフ♪…そ・れ・は♡……あなたが既に接触している筈よ〜♪…だから、簡単に誰かから聞いて答えを知ろうだなんて、《カンニング》のような卑怯な事をしてちゃあダメよ〜僕ぅ〜?』

『………やむを得ないでござるな。……だが拙者としても。…それを聞けただけ良しとするでござるよ…さらばでござる…』

ザッザッザ……

『あら〜…行っちゃったわね〜♪……さ〜て。…仕事も終わった事だし、ベアの所へ戻ろうかしらね〜♪…ここにあの人がいるのならもう安心だろうし、次は【Velkana】の街でも探ってみようかしらね〜♪……それに気になるわね〜♪…このリストにある、『《武神》を名乗る、闇に染められた盗賊にご注意を!!』【G・lrof】…ね〜♪。…一体どんな奴なのかしらね〜♪』

スタッタッタッ〜♪

『…《ベア》という名の少女…でござるか。…その名。…覚えておくでござる』

・・・
・・


〜時は戻る〜

「……」

ドロドロドロ……

「…!!むっ!?…泥人形の軍勢…!?あれは」

茜色に染まり、燃えゆく【Kagoya】の町───【Kyog】の目の前には、何者かが召喚した《泥人形》の軍勢が立ち塞がる。その奥には【御用見廻組】の下っ端の隊士が応戦していた。

チャキッ!!

「はぁ…はぁ…!!もうダメやもしれん!!」「諦めるな!!」「それでも【狼志組】の志を持つ者なのか!?」「ただでさえ、一番隊隊長のソガミさんに、八番隊隊長のヤエカさんが……先に…!!それに九番隊隊長【Kyusaku】(キュウサク)さんが怪我の為不在とあれど、この場を凌がなければ町の者達は救われんのだぞ!!」

ワーッ! ワーッ! ワーッ!

「……致し方あるまい。……!!」

ジャキッ!!

《助太刀致す!!!》

リィーーン…♪【冥鐘】

ザシュッ!!

ドロッ!!

「!?」「!?」「!?」

「………」

チャキッ!!   

「…あ、あなたは!?」「この音…!?」「【冥鐘】!?」

【Kyog】は【冥鐘】を使い、相手の泥人形を薙ぎ払う。そして【狼志組】の隊士の方を振り向くと《凛》とした声で言い放った。

「ここは拙者が請け負う!…まだ《人斬り》の悲劇は終わってはおらぬ!…お主らはすぐさまこの町の住人を安全な場所に避難させるでござる!」

「!!」「!!」「!!……」

ハッ!!

タッタッタ!!

ドロドロドロ……

「!!…むっ!?…復活したでござる…!?」

ドロドロドロ……

【Kyog】に首を切り落とされた筈の《泥人形》は復活する。そして土の刀を突き付けようとしたその時であった。

ポタポタポタポタ……!!

ザザーーーッ!!!

「!!…雨…?」

タッタッタ……!!!

ザシュッ!!!

「む?…!!……!?」

「………」

ファサファサ……

チャキッ!!

リィーーン…♪【冥鐘】


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜TOVより・悲壮なる決意

「……フカベでござるか」

チャキリッ…

「……何年ぶりだろうか。……騒ぎを聞きつけこの町に来ていたか。…元【御用見廻組】…監察課所属の刑事…【Kokyou】(コキョウ)氏」

現れたのは【御用見廻組】所属の武力集団【狼志組】副長の【Fukabe】であった。彼が着用していたネイビーのチェスターコートは靡き、そのまま刀を突き立てていた。

ジャキッ…

「答えてもらおうか。……【Varisk】の身分として、この町を訪れた理由について」

「……10年以上前の…【Kawara】騒動の事件の《黒幕》に通づる内通者を追っていた。…と申せば、お主は納得するでござるか……」

「………」

「………」

チャキリッ!!

【Fukabe】はそのまま刀を収める事もなく、目の前にいる【Kyog】に対し、睨みを効かせるつつ、会話は穏便に伝えていく。

「…あなたの弟。…我々の九番隊隊長キュウサク(【Kyusaku】)は無事であると。…一言言っておきましょう」

「…誠にかたじけないでござる…」(ぺこり)

「……ですから、どうか我々の所へ……」

「………」(フルフル……)

【Kyog】は首を横に振る。そしてこう言い放った。

「…拙者はもう既に《國威》に目をつけられた。…アイツには手を出さぬようにと、このような日陰者として《黒衣》に身を包み、闇に染まりし任務を遂行する《暗部ノ執行人》でござるよ。……皮肉にも、その特権を利用し。…あの時《彼女》を救うが為に。…自らがその《罪》を請け負ったのでござる」

「!!…あれは。…上層部が【Yaeka】に対して圧をかけて下された事です。…あなたが背負う事では…」

「いや、それは出来ぬ。…【Sogami】にも協力を申し、我欲の為彼女の存在を守るよう仕向けていたのは事実。……名家の生まれであった彼女には《娘》がいた。…我々の身内の内のメンバーとの間に……だが………」

「………まさか、その《娘》とやらも…その《黒幕》に……」

【Fukabe】は少しばかり深刻そうな顔をする。その顔に【Kyog】は何かを察したのか、こう口を開く。

「…先程、お主の志士が話していた。…そうか。…キュウは負傷を負い……ヤエカはもう……」

「…………ヤエカは【千夜ノ桜】で昇華したとの情報を受けました。…そしてその場にいたのが。…【Hux・row】…【R・P】社側の人間で今はルーシス君を通じ、《臨時》としてウチに請け負っております」

「…その真実と向き合おうとせんばかりの顔つきでは、その者が彼女に手を下したとはとても言えぬでござるよ。……ましてやこの騒ぎ……」

ボアアアアアアアアアッ!!!

バチバチバチ……

「……やはりあなたも勘づいておりましたか。…一体誰がこの騒ぎを仕掛けたのか……」

「…《死神》を名乗る者は残り一人だけ。恐らくは【國威】の者が【Varisk】の親玉【Capo】を通じ、似非の《悪代官》を匿っている様子でござるよ。…後は。……ベルナを《脅威》と見做し、あの《武神》を名乗る賊者を呼びよせ。…手にかけた、現在進行中…この町を火の海としてるあの《偽善者》連中でござろう……!!!」

グググ………

ポタポタ……

「……コキョウさん。……っ」

シャーー…キン!!

リィーーン…♪【冥鐘】

スッ…

「…!?」

【Kyog】は過去の自分、まだ《闇に染まる前》の自分【Kokyou】としての感情の表れなのか、黒い骸のマスクから涙を零す。そして手には強く拳が握られていた。その気持ちから察するに彼自身もまた、【Bellna】がこの世を去った事に対し、悲しみにくれる側の人間として、今となっても晴れることはなく、とてもやるせない出来事でもあったのだろう。それは演技でもなく、紛れもなく彼自身の心が訴える悲痛の感情である事を察し、彼女と共に過ごした思い出を胸にその託された意志を伝えようと、刀を帯刀して【冥鐘】を鳴らし、相手にハンカチを差し出した。

「………かたじけない」

フキフキ……

「……私も同じ志だ。…彼女を失った事は私とて、夫のルーシスくんとて。……縁があるからか今でも忘れられないものだ。……本当に離れ離れになろうとも。…彼女と彼、私を含めた三人は。……今でも絆で結ばれし《心友》だからなのかも知れない」

「!!…」

【Fukabe】は茜色に染まった空に唯一凛々しく、煌めき輝く一番の《明星》を観測する。その瞳には、生前彼女自身の性分なのか、今でも誰かの為にどんなに《非難を浴びて憎まれ、虐げられても、迫害されようとも、それでも自らがそれらを背負い、信じるモノの為に貫き通す意志》を今でも受け継ぎ、背負っているようにも見受けられた。

キラキラキラ……

「……っ」

ズザッ!…ザッザッザ……

「……粛清はせずでござるのか?」

「…あなたの心にもベルナの意志が未だに宿っているのであれば、安心しました。…問題はありません。……陰の存在とはいえ、あなたは我々の《同志》です。……元《ヘイケ・ホタル》の粛清兼仕置人係…コキョウさん。……もう一つ言い忘れておりました。…我々の十傑メンバーの中で、古参の《一番隊隊長》ソガミも昇華されました。……あなたの言う《闇医者》の《ドクター・ストップ》を無視し、酷使して【Fiducia】の摩擦能力を行使し続けたその結果……《摩擦熱》で…」

「……そうでござったか。……ではこれで《十維新》幹部の志士…その内三人も被害者が出てしまったのでござるか。…誠に無念な事でござる」

【Kyog】は共感して申し訳なさそうなそぶりをする。その様子に【Fukabe】は首を振る。

「ですが安心してください。…彼らはそれぞれ。…残す者を残してくれましたから…」

「…?…それは一体…」

「………」

ジャキ……ッ

グサッ!!!

「!!…泥人形を…」

【Fukabe】は《泥人形》の残骸に刃を向け、それは息の根を止めると言わんばかりの《狼の牙》で首元を噛み殺すが如く、勢いのある斬撃で散らす。辺りは火の海と化し、茜色に染まるも彼の持つ刀は白く煌めいており、青白い光を放っていた。それは生前彼女が、自分の事は気にせずに、お構いなく前へ進み、上に行って欲しいという意志を託されたかのように煌びやかだった。

ヒィーーン……

「…欲に溺れ落ちた、この滑稽な泥人形のように謀叛(むほん)を企てたあの叛逆者とは違い。…彼ら志士にも…そして【R・P】社所属の《彼女》との交流があった、あの【森羅万象】の恩恵を受け、そして彼女譲りの《閃光》の眼差しを受け継いだ少女が、この町に巣食う《悪代官》を突き止めようと現れた事で。……我らのように繋げたい意志は、確かに受け継がれていたのですよ。……決して無駄死にではありませんよ。彼女は確かにバトンを託したのだ。…次の世代の者達に…!」

「……そうか。……よくわかったでござるよ。……」

スクッ!!

「……どうするおつもりで?」

【Kyog】の手には《爆弾》らしき物が持たれていた。しかし彼の黒い骸の仮面から見える無精髭の口元は、微笑みを浮かべており、それは何かが吹っ切れたかのように清々しい表情をしていた。

シュ〜〜………

「彼女の意志が消えず、受け継いでいる者達が未だにこの町にいるとするならば。…拙者は拙者なりに…先へ逝くのでござるよ。……フカベ。……キュウサクを。……いや、拙者の弟の事。…どうかこれからも頼むでござるよ」

ボン!!

タッタッタ!!!!!

「!!……煙幕……か。……コキョウさん……」

【Fukabe】は煙幕に紛れ、逃亡した過去の平家に仕えていた蛍の亡霊の一人【Kyog】の後を追わず、そのまま見届ける。

「………」

ズザっ!…ザッザッザ…

ドォーーン!!

町の何処かで大きな轟音が鳴り響く。その方角に【Fukabe】は目を合わせると直様場所を特定した。

「……【千夜ノ桜】の方向のようだ。……行くとするか。…妙な胸騒ぎがする」

ザッザッザ…!!!

【Fukabe】は町中を駆け抜けて進んで行く。その瞳に映るのは、散ってしまった【狼志組】の古参幹部メンバーである《十維新》の八番隊隊長【Yaeka】、一番隊隊長【Sogami】そしてもう一人の隊長も今回の騒動で散り行く結果となる事を容易に想像が出来たようだ。彼もまた《悲壮感》を感じる程の壮大な戦いを経験し、今でも生き続けていたのだろうと思われる。

ヒラヒラ〜☆

「…?…蛍?」

周辺には、灯籠の光に誘われたのか、煌びやかな光を放つ蛍が飛び交っていた。それは、今まで明らかにされていなかった暗がりに染まり、明かされていなかった真実が少しずつ明らかにされて行くかのように。そして物語は、いよいよ《佳境》へと進んで行く─────

・・・
・・








   
B. いいえ


《Capitolo・4》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



〜【Paradiso】歴2000年・7/9・夜方【J島】【Kagoya】・【清流通り】【Yaeka】の住まい〜

♪〜TOAより・Wish and sadness 願いと悲しみ

チョロチョロ…!!

カコーン…♪

〜【関蓮荘】(セキレンソウ)〜

「…………」

チィーーン♪………

獅子脅しが鳴り響く、清流溢れる【清流通り】に佇む一つの家【関蓮荘】(セキレンソウ)そこに住む八番隊隊長の【Yaeka】は仏間の部屋を訪れて鐘を鳴らし、墓標に映る、白黒に睡蓮の印象を持つ女性に目線を合わせる。

「……南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏……。…こんばんは。…ネファールさん。……これ、この町自慢のラムネです」

コトッ!

「…ごめんなさい。…何十年経っても、あのからくり人形の《謎》は、私の探知能力を使っても凄く難解でね。どうしても解けなかったの。…でも安心して。…これを解く事が出来る人に心当たりがあるから。…さっきその人に託したの…」

・・・

〜今から約一時間程前〜

〜【Paradiso】歴2000年・7/9・夜方【J島】【Kagoya】・【下町通り】古民家周辺〜

コンコン!

「ん?…んん〜?…誰じゃあ?…ケイトが帰ってきたんかの〜?」

ザザ〜…

「はいはい、どちらさ…ん…!?」

ボッ!キュッ!ボォン!

「…ふふっ♪はぁ〜い♡こんばんは〜オルビンさ〜ん♪」(ニコニコ♪)

「!?///んほぉ〜♡!!///…ヤエカちゃんじゃあないか〜い♡…こらまた久しぶりじゃの〜♡」

ダキッ♡

ムニムニッ♡

「あぁんん♡…あっハァ〜ん♡///…だ、ダメェ〜♡」

「ムフフ、良いではないか〜良いではないか〜♪♡……?…むむっ?」(この声……ッ!!)

「…なぁ〜んて、ウッソ〜♪アハハハハハ!!!」

「!?」(やはり、初心な娘のように感じた声では…!!ない!!??…まさか……)

【Yaeka】は、今から《維新事変》が起こる前の時間に遡り、何かの目的があるのか、【Orbin】の自宅を訪ねに行ったのだ。

「ねえ〜オルビンさん。…ちょっと相談したい事があるんだけど、いい?」

「!?…ゴホン!…んん〜〜っ?♡…なんじゃい〜♡…!?」

「………」(キリッ!)

キラキラキラ……

「…!!」(ナイスバディヤエカちゃんの瞳に映す…この目の光は。…うむ、なんかよう分からんが。…何やら腹を決めたという覚悟と見受けられた……)

【Orbin】は【Yaeka】の放つ茶色の目の奥に放つ光には、何かしらの希望に満ち溢れていたと同時にそれは、自分が散り際なのだとも言える覚悟を決めた華やかに咲き誇る桜のような煌びやかな瞳をしていた。

「…よかろう。…入りなさい」

「…失礼するわね」

ザザ〜………

【Yaeka】は【Orbin】に招かれて家の中に入る。

「…それで、話とは一体なんなのじゃ?」(キリッ!!)

「…ええ。…でもまずはね。……ふふっ///」

チュッ♡

「!?…や、ヤエカちゃん!?///」(ドキン♡)

「んふっ♡///」

【Yaeka】は彼に対し、お礼として頬にキスをした後、感謝の言葉を伝える。

「あの時、この刀【桜花月輪刀】を直してくれたお礼です。……オルビンさん…///あの時は本当に感謝しているわ♪…おかげさまで大切に使ってるんだから…///」

ジャキン!!

【Yaeka】は錆びた状態で、抜刀が出来なかった、現世の世界に両親から送られてきた刀【桜花月輪刀】を見せる。

「!!…そ、そうかそうか…///……うむ、状態も良い!…余程大切に使ってくれていたようじゃな!……で、その肝心な要件とはなんじゃ?」

「…今。…出しますね」

ピッ!ピッ!

シュン!!

「…!?」(!?…あ…あれは!?…や、ヤエカちゃん…それを一体…どこで…)

コトッ!

ある代物を見て【Orbin】は、見覚えがあったのか驚く。【Yaeka】が取り出したのは、《マトリョーシカ》に見立てられた、一つの《狸の置物》だった。

コトン!

「…この中に。…これまでと。…そして今回の人斬り事件で各島に糸を引いていた黒幕の正体の《鍵》がここにあるわ。…もし今回の任務で私に何かあればそれを開けて調べてみてください。…試しに斬っても傷痕一つすらつかなくて中は開けられず。……これは余程熟練した鍛冶屋の人でないと、とても解けそうになかったから……頼みましたよ、オルビンさん」

「!!……ヤエカ……ちゃん……それを一体何処で!?」

「聞かないで!!……話はそれだけです!……受け取り先の人の事は……お願いします。…どうか聞かないでください。……知ると。…本当に《危険》な代物なので。……ありがとう。……!!本当に…っ」

ポタポタポタ………

「…!!……や。…ヤエカちゃん///………っ!!」

【Yaeka】の目から涙が溢れていた。横顔は月光に照らされており、彼女の透き通った美しい魂の身体の肌が煌びやかに輝いており、その目で見た【Orbin】自身は、まるで《竹取物語》に出てくる《輝夜姫》のように見つめ、その美しく華のイメージある雰囲気を彼女は醸し出していた。涙を流す彼女はとても切なしげに救いたい人を救えなかったという罪悪感を心に塞ぎ込んでいた。それだけ彼女自身が心に秘めていた《闇》が深くある後悔の念を抱く程の《思い出の品》であったのだろう。そして【Orbin】は理解した。今回請け負う任務で、彼女は存在を脅かされる大規模な事件に巻き込まれるのだろうと、鍛冶屋兼猟師ギルド【Melton】で培ってきた野性的な直感が胸の中に警笛を鳴らしていた。

「……!!っ…では…オルビンさん…お世話になりました。……どうか。……!!」

さようなら!…お元気で!!

バッ!!タッタッタ!!!

「!?」

【Orbin】は過去の記憶なのか、この時に感じた心情が重なり合ったのか、【Melton】に所属していた同胞の者の一人の記憶を思い出していた。

・・・

『…オルビンさん。…申し訳ありません。……あの《裏》の世界に踏み入れてしまった以上。……私は……【Melton】へはもう戻る事は出来ません。……願いは聞き届けたかったのですが……どうか分かって下さい……』

「……!!」

「ま、待て!!行くな、ヤエカちゃん!!」

バッ!!

ガラララ!!!!

タッタッタ!!……

「…!?」

しーーん………

【Orbin】は駆け出してヤエカの後を追おうとした。しかし、もう彼女の姿はどこにもなかった。まるで《神隠し》にでもあったかのように、その場所は静かであった。

ヒラヒラ……

ピトッ!

「…!?…さ、桜?」

【Orbin】の頭には、【千夜ノ桜】から風で飛ばされてきたのか、ヒラヒラと舞ってきた桜の花が運ばれ、頭に乗っかっていた。

ヒラヒラ……

「…!!…こうしてはおれん!!」

ガララララ!!!

ガチャッ!…カタカタ!!

「…よし、暫くぶりであるが、その言葉が確かであるのならば。……中をこじ開けさせてもらうぞ!……【Kawara】くん!…君の現世で贈られてきた物…それは今となって、一体どんなものに化けてしまったというのかを!!…もし…これが《パンドラノ匣》であるというのならば……!!いや、行かせてなるものか!!…君が足を踏み入れてしまった《闇》とやらを……今度は彼女を引き摺り込もうと…!!やらせん!!やらせはせんぞォォ〜!!」

ガチャガチャ………

【Orbin】は過去の記憶を頼りに、マトリョーシカ仕掛けの人形の封印を解こうとする。そして彼女が、一体何故《維新事変》当日にこの人形を彼に託したのか。それには、一つの理由があった─────

・・・

〜時は更に戻り7/8の日〜

「………」

パラッ…

ロウシグミハチバンタイタイチョウニツグ─────オマエハ《ヘイケ・ホタル》メンバー────《ネファール》ヲソノテデシュクセイシタコトヲワレワレハシッテイル────コヨイワレワレハフタタビ《タイカ》ノ《ホタルノヒ》ヲオコス────ソノトキハホウフクソチトシテオマエノイノチモライウケルナリ────サクラヲミレルノモサイゴノヒトナロウ─────ムロンコノコトヲオマエノソシキニツゲルノナラバ────カワリニダイジナイモウト二テヲクダスマデ─────ヨロコベ────コレデオマエモカイホウサレルノダカラナ─────《インガオウホウ》ノツミヲソノムネニキザムガヨイ─────

「…!!」

グシャ…!!グググ……!!

「……ふざけないで……!!ふざけんじゃあないわよっ!!…っ!!…どこまで…!!…《ヘイケ・ホタル》の名を装って……トワにまで被害を加えようと……腐ってるわね………!!どこまでも卑怯な真似をしてくれて…!!……あ…ああ…それに……間に……合わなかった…!!副長が明日【Kagoya】へ招集だと言っていたから………恐らく明日に何かが起こるわね……きっと」

キラーン!

「…ルーくん。……ごめんね…私もどうやらお呼ばれしちゃった。……あなたが昇華する前にも【Velkuy】騎士団が結成され、所属したばかりの部隊の人達に次々と送られ…遂にはあなた自身にも送られてきて……名付けた死を呼ぶ電報《ステルベンノ電報文》が私にも届くなんてね。……いえ、私だけじゃあないわよね。……欠番になっていた…先代の【狼志組】十番隊隊長の席に座る筈だった……私自身、面識がない御用見廻組所属の【Kokyou】さんにもこれが送られてきたのか、何かの事件に巻き込まれ…濡れ衣を着させられて、そのままその席は《永久欠番》になっていた。…それなのに、何故あの子は自ら志願して選んだのかしらね。……私の妹。…《トワ》。…でも内心嬉しかったわね。……その時はあの子、私と一緒に戦いたいからと言い放って、喧嘩もしちゃったかな〜♪……ウフフ♡」

【Yaeka】はその時の【Towa】の様子を振り返る──────

・・・

〜【Yaeka】・【Towa】の過去〜

ブゥフゥゥゥ〜!!!!

『ゲホっ!!…ゴホッ!!…!?は、ハァ〜〜〜ッッ!!??…い、今永久欠番になってる…!!じゅ、《十番隊隊長》になりたい…ですってぇ〜〜!?』

『…う、うんそうだよ、ヤエカ姐さん。…僕は決めたんだ!』

『!?…だ、駄目よ〜!!そんなの駄目駄目駄目ぇぇっ!!!…そんな姿をしたあなたにはまだ早いわよ!!』

『そんな事ない!!…もう僕だってこの世界に来て早《7年》になるんだ!!…だからそろそろ本腰を入れて…』

『駄目ったら駄目!!まだあなた自身、下っ端だから分かんないかも知れないけど、…隊長とかになったら、本っ当に危ない仕事ばかりを請け負わないといけないのよ!!…それに、この【狼志組】の幹部になるって事は…!!』

『…?…なるって事は?』

『〜!!///…あ、このキョトンとして首を傾げたトワの顔…可愛い♡』

『…///…心の声が聞こえてるよ……ヤエカ姐さん……』

『はぁぁ〜っっ♡///…!!…ハッ!?…〜!!///…と、とにかく!!駄目ったら駄目よ!!』

『…………』





〜【狼志組】屯所〜

『!?…は、ハァ〜ッッ!!!!』

〜辞令・【狼志組】所属【Towa】〜

〜右の者は正式に今日付けで【狼志組】《十番隊隊長》の命に従事する事を許可する〜

『な、なぁっ!?///ちょ、ちょっと!?これどういう事なんですか、副長!?』

『言葉のままの意味だ。…それにこれは我々の局長が直々に決めた事だ。…今更撤回も出来ない』

『きょ、局長って……まさか…あの』

『ああ。…無論《彼女》の命においてだ』

『!!…そ、そんな……でも一体……何故?』

『…近々、あなた一人ではとても庇いきれない暗雲が立ち込める、熾烈かつ大きな戦いが待っていると、あの方が仰せつかったからですよ…』

『…サイガ…局長代理……』

『…それに、いつまでも《十番隊隊長》の座を野放しにはしておくのは、組内でも《叛旗(はんき)》を呼ぶ種になるだろう。……ウチの似非の《五番隊隊長》が良い例だ』

『!!……アキル…!!』

『…悔しいだろう。…だが奴自身は自ら悪欲の意志のままに闇の世界へ潜伏している。…そこから様々な情報を得ているようだ。…無論、正真正銘の五番隊隊長【Gryou】(ゴリョウ)を派遣し。…怪しい動きがないか睨みを聞かせている。……昔のように《八番隊隊長》に抜擢されて日が浅い時に発生したような大事な事件に、彼女を巻き込ませはしない。……心配はいらんよ』

『……信用できないわよ…トワに何かあったら…私…』

その点に関しては心配いらん

…トワの事は。

我々も全力を持って彼女を見守ろう。

ザッザッザ…

『!!…ミヨベさん、ナガワ!?…それにキュウさんまで!?』

『任務の際、我々も必ず同行する』

『それこそ、【狼志組】の使命なのだ。…この町の治安を守り、そして各島の治安を守る……』

『…この【冥鐘】の導きがあらん限りの……!!』

《契りを交わすまでと!!》

キン!!……!!

リィーーン…♪【冥鐘】





〜【Velkana】の町・【Towa】が大人の姿になって間もない頃の記憶〜

タッタッタ♪

『〜♪…着いたわよ〜トワ♡』

『…?…ここは?』

『ウフフ♡…ランジェリーショップよ〜♪…この街【Velkana】は《花の街》とも言われててね〜♪…女性にも人気のお召し物があったりするのよ〜♪ウフフ♡』

『〜!!///…そ、そうなんだ。…でも何で店の影にコソコソと、こうやってフードを被ってサラシをキツく巻いたりして、身分を隠すの?』

『……ここにはね。……私やトワのように可愛い娘だけを襲う《人身売買組織》の連中が屯してる噂があるのよ。…だからトワ!…この細部まで調べる事が出来る特殊望遠鏡を使って、あなた自身の目で自分が着たい下着を頭の中に叩き込んで記憶しておきなさい!!』

『〜!?///え、ええ〜っ!?///……』

『こらこら、大声を出さない!!それにモジモジしないのっ!!これは大人になる為の試練なのよ!?試練!!///…そして、店内に入るのも絶対に駄目!!…組織の連中があの中に潜伏している可能性だってあるんだから!!…いいわね!?』

『…わ、わかったよ、ヤエカ姐さん…!!よし。……』

ジィ〜………

コツン…コツン…

『……そこで何をしてる?』

『!?』

『…!?や、やばっ!!この街の兵隊だわ!!……逃げるわよ、トワ!!』

『!!…う、うん!!』

ダダダダダ!!!!!

『お、おい!!待て!!……ハァ〜……逃げられたでござるか。…だが先程の声。……それに…トワとは。……!?そうか。……ヤエカでござったか。…そしてあの隣にいた女性は。…あの少女であった…トワ。……何と、《Aランク》まで昇格し、整形していたのでござったか……大きくなったものでござるな…』





〜列車内〜

ガタンゴトン!…ガタンゴトン!

『…で、トワ。…どうだったの?』

『…ごめん、ヤエカ姐さん。…よく分からなかったよ』

『!!…分かんなかったって!?……ハァ〜…トワ。…あなたこれからノーパンで過ごしたい訳なの〜?』

『〜!!///い、嫌だ!!…そ、それにそんなものがなくてもこれで十分…!!///』

ブチッ!!ブチブチブチッ!!!

『!?///』

『…〜っ!!///…や…やぁ……〜…!!///』

『……ハァ〜…言わんこっちゃあないわね〜全くも〜!…ま、仕方ないわね〜♪…トワ〜♪…ちょっと次の駅で降りるから、ついてきなさい』

スタッ!!タッタッタ……

『〜!!///ね、姐さぁ〜ん……待っておくれよ〜……///』

・・・

〜ある駅に隣接している更衣室〜

『ここなら大丈夫のようね。……じゃあトワ。…服を脱いでくれる?』

『〜!!///ええっ!?///……は、恥ずかしいよぉ〜…///』

『ふぅ〜ん♪そう♡…なら私が脱がすわよ〜♡♪』

『!!///…わ、分かったよ…///』

脱ぎ脱ぎ…ファサッ…

『…〜!!///』

『あちゃぁ〜!…やっぱりストッキングのように所々伝線しちゃってるわね〜!…んも〜う!!///…トワ!!私達【現世人】の女は、かれこれ長年こうして息吸って過ごしてるけど、未だこの身体の尿意だとかそういう独特な生理現象には無縁なのかもしれないけれど、それが裏目に出ていつ時何が起こるか分かってない身体なのっ!!///…ここの貞操を守る為にも、下着とかは結構管理が必要だって事忘れてたの〜!?///…もし最悪のケースを考えてみたら、人前で《粗相》な事が起きたりするかも知れないじゃあないの〜!!///』

『!!///…ご、ごめん…///…!!で、でもそういうヤエカ姐さんだってルーさんと…!?///…あぅっ!!……い、いだだだだだ〜〜ッッ!?!?』

『あ〜あ〜〜っ!?///それ言っちゃう訳ぇ〜〜!?トワ〜〜♡♡!!…姉である私に口答えする気なのぉ〜!?///……ウフフ♡…仕方ないわね〜♡…本当に反抗期な年頃なのね〜♡…私もそうだったし〜♪』

バッ!!

『うぅ〜…い…痛いよぉ〜……///……?』

ファサッ♡

『…!?///…え?』

『ふふふ♡…心して着なさいよね〜♪…こんな事もあろうかと、あなたの為に選んでおいたのよ〜♪スペア分もバッチリ仕入れているのだから、大丈夫♡』

『む、紫に…桜柄の…パンティー…///』

『……着たい?』

『///…う…うん!!///』

・・・

『…!!ぴ、ピッタリだ!!…ど、どうかな…?///』

『あらぁ〜♡…やっぱ髪色が《紫紺色》だから、紫とかピンクがすっごく似合うじゃあないの〜♡…やっぱり私の見てくれはバッチリのようね〜♡キャ〜♡』

ダキッ♡…チュッ♡

『〜!!///や、ヤエカ姐さん…!!///は、恥ずかしい…から///や、やぁめておくれよ〜……///』

『嫌よ〜イヤイヤ♡…ウフフ♡…良かった///…やっと、大人になれたわね〜…トワ♡』





〜《維新事変》が起こる前日の出来事〜

ガタンゴトン…

『……う…ぅぅ…』(……とはいえ。……あなたとの約束もある。……この人形の存在を、【Kagoya】に潜伏している《悪党》が私を消した後、洗いざらい調べ上げるでしょうね。…そうなってしまっては、あなたが繋いでくれた努力は。……全て水の泡になる…!!それだけは…駄目っ!!……だけど、もう時間がない!…明日は一日警備を装っておかないと、何処かで奴らは奇襲を仕掛けてくる筈。…迂闊な行動は決して出来ない!……一体……どうすれば……)

ポタポタ……!!

キラーン!!

『?…【桜花月輪刀】……』

ヒラヒラヒラ………

《ああ約束するぞい!!必ずその刀を治して君に返そう!!…それに…ヤエカちゃんのそのナイスバディに触った分!きっちり丁寧に仕事させてもらうぞい!!》

『…っ!?』

バシッ!!

『いえ、まだよ。……もしこれが《本物》なら…!!あの《人》になら解けるかもしれないわ!!……そうと決まれば…後は……っ!!』

《……お姉さんとして…トワを……!!》

・・・
・・





〜時は戻る〜

カコーーン♪

「……ハッ!…御免なさい。……昔話に浸り過ぎていたわね。……ネファールさん。…あれからあの事件から《8年》が経つわ。……それでもあなたを陥れた《黒幕》の正体が未だ掴めていないわ……本当に…御免なさい…」

回想に浸っていた【Yaeka】は少しばかりしんみりとした表情をしていた様子だ。

ジョロジョロジョロ……!!

カコーン♪

ガラララ……

庭から鳴り響く《獅子脅し》の音。風流のある水の音が流れる中で、襖が開かれる音が室内に響き渡る。

「?…あ、ヤエカ姐さん。…お風呂上がったよ?」

「!!…あ、ああトワ!!…うん!…分かったわ!」

コトッ!

「…姐さん。…また、その写真の人に挨拶をしていたんだね?」

「…!!」

【Yaeka】は【Towa】の発言に、少しばかり癪に触ったのか、少しばかり注意する。

「もう、トワ!!ここに写っている人は、この家の元住居人の人なのっ!!そんな失礼な事を言ってると祟られても知らないわよっ!!」

「ひぃっ!!…ご、ごめんよ、姐さん!!」(アタフタ!)

「…まあいいわよ〜♪…私の世界で愛するたった一人の《妹》だもの〜♪!それくらい許してくれるわ〜♪……だからね。…トワ。…一ついいかしら?」

「!!…な、何だい姐さん?」

「……とりあえず、そこの座布団に座りなさい」

《聖天》

【Yaeka】が指を刺したのは、《聖天》という文字が印字された、《歓喜天》と呼ばれる仏教守護神の神の名が印字された座布団であった。彼女に言われるがまま、【Towa】はその場に正座する。

「……」

スクッ!!

「…じゃあ。…聞くわよ。…トワ」

「?…なんだい?…姐さん?」

【Yaeka】はこう発言する。

「…トワ。…あなた自身が今存在出来ている《器》。…その《魂の身体》の事。それは一体どこまで自覚していて…理解しているの?」

「!!……え?」

【Yaeka】は少しばかり深刻そうに本音を言い放つ。心苦しい気持ちを堪え、引き続き話を続ける。

「…私はね。…確かにトワが整形する事を楽しみにしていて、いつかはその姿になる事を願ってた。…でも、何だか変な違和感を感じるのよ。……まだあんなに小さかったあなたが。…いきなりそんな大人の姿になったのを見て。……何だかね」

「っ!……ね、姐さん…」

「…これだけは言っておくわよ。…トワ。…その大人の姿になったからには。…《代償》として。…必ずその身体に何かしらの変化が起こる筈なのよ!!……喋り方だとか、態度や振る舞い方だとか。……でもそれよりも。……後は……」

「!?……後は……」

「……っ!!」

【Yaeka】は心もなくその言葉を言い放つ。

「…あなたの身体は。…いつの日にか何も前触れもなく、誰かに殺められる事もなく、自然的に《昇華》する可能性だってあるという事を……」

「!!……え……」(ゾクッ!!)

【Yaeka】は心許なくも、その言葉を告げる。その言葉に【Towa】は─────
 
「…っ!!……な、何を言ってるんだい!?…ヤエカ姐さん!……そんな事…!!そんな事!!分かる訳っ……!!…ハッ!?」

「…そう。…《分からない》のよ。…この世の仕来(しきた)りの言葉でもあるでしょ。…この世界では、一体何が起こりうるかは誰にも想像出来ないし《分からない》のだって。……それが、この【Paradiso】の世界が時々下そうとする、抗えない《非情》だったりするのよ!」

「!!……」

【Towa】は沈黙する。【Yaeka】自身は、妹のような存在の《彼女》と過ごす事が出来る時間は残されていない。その事だけはどうしても告げる事は出来ない心情からか、自らが居なくなった時、彼女自身の自立の意志は本当にあるのか、その心の内を今の内に知っておきたく、少しばかり《厳格》な一面を見せる。

「それを踏まえて。…ちゃんと聞かせてもらうわよ。……トワ。…あなたは一体、何故あの時《十番隊隊長》になりたかったの?……そしてなってまで何を成し得たいの?…そして。……あなたは何故《ハクロー》くんを好きになったの?」

「…!!」

「答えなさい。…私としてもね。…何故あなたが《十番隊隊長》の立場になってまで、一体何を成し遂げたいのか、その胸の内をここで明かしておきたいのよ。……だから。…私の質問から逃げないで、今の自分と素直に向き合い…答えて欲しいの。……あの時のように…何も出来ず……護りたかった人を助けられず見殺しにしてしまった。……私のようになって欲しくないから………お願いだから……」

ポロポロ……

「…ヤエカ…姐さん……」

【Towa】自身は【Yaeka】の人が誰しもが持つ《弱さ》の一面を見せられ、困惑の表情を見せる。その様子に彼女自身は悟った。自分の《姉》代わりに育ててくれたもう一人の《家族》のような存在の彼女を見て、いつかは巣立たないといけない気持ちから、彼女自身が抱えていた《心労》を引き出してしまったのだとその場で理解した。

「……どうしたの、トワ?……まさかあなたにとって、《ハクロー》くんは。……!!《ルーくん》との深い関わりのある彼自身がこの世界に来た!!…だから代わりとして、私はあの子が好きなんだとあの時そう思ったから心の中で言いたいのッッ!!??…私があんな《尻軽》な事をして少しでも気が晴れたんだろうとか内心そう思ったのかしら!?」

「!!…ち…違うッ!!///……ぼ…僕は…!!」

「!!……っ!!」

ガシッ!!!

「…!!」(ビクッ!!)

「……っ!!」(キッ!!)

《いい加減自覚なさいッッ!!!》

ポロポロ!!

【Yaeka】は【Towa】の胸ぐらを両手で豪快に掴み上げる。彼女自身は、この【Paradiso】に来て初めて彼女に対する《威圧的》な行為であった。しかし、それは彼女に対する《憎悪》や《憎しみ》といった負の感情から表れたものではない。もしそうであるのならば、彼女に対し頬を叩き、自らの《価値観》を無理矢理押し付け、相手の言い分を一切聞かず、一方的にそのまま済ませるような言い方をする筈だ。あたかも、彼女のその訴えは。ある《女教員》の心の内の叫びの訴えにも聞こえる。過去に掛け替えのない一人息子が不慮の事故で亡くし、心に傷を背負う壮絶な過去を経験し、時に生徒に対し身体に一生残る古傷を負ってでも向き合い、その後教壇に立った黒衣の《闇》に染まった彼女の教えには、《女王》のような冷徹さの感じられる振る舞いをして教鞭を叩く。が、彼女のその心の中は誰よりも温かく、優しさと何よりも生徒に対し、現実から背く事もなく、逃げる事もなく、ただ真剣に向き合おうと接し、自らが考えてその力で新しい可能性を見出させ、将来、本当は何がしたいのかを自分達に問いかけ、その足で導かせようとする覚悟と、教育に対する確かな《熱意》と《真意》があった。【Yaeka】自身もまた、今回の《任務》において、自分が居なくなった後、身内として残る彼女自身が、次の《標的》になり得る事は明白であった為、もし自分の意志を受け継ぐ《後世道行く華ノ代》としての覚悟があるのかを今ここで見定めようとする。

「……いつまでそうやって自らを《僕》と言って、《僕っ娘》を演じて騙し通すつもりなのかなぁ〜トワ?…そうやって《男のフリ》をした所でね。…その女の身体になっちゃったあなた自身。…例え【冥鐘】を会得していたとしても、例えサラシを巻いて胸元を隠そうとも、もう男として誰も見てやくれないし、守ってすらくれやあしないのよっ!!!…私がいなくなったら、結局あなたはまた一人ぼっちになって!!…路頭に迷う事になるかもしれないのよ!!」

「……っ!!」

バシッ!!

「!!…」

「……っ!!」

ギリギリギリ……

ポロポロ……

【Towa】は胸苦しいのか、反抗して【Yaeka】の手を掴む。その彼女に映るのは涙を溢れさせながら目を瞑っていた乙女の姿をした【Towa】であった。

「…その涙は一体何?…私にこうして初めて《罵声》を浴びせられ続けられて、裏切られたから辛くて悲しくて泣いているの?……それとも苦しくなったから、降参して欲しいから泣いて許して欲しいのかしら〜?」

「……違…う……っ!!」

《違ぁうッッ!!!》

ガバッ!!

「…っ!!」

「……ハァ…ハァ…!!ケホッ!!……コホッ!!……っ!!」(キッ!!)

【Towa】は無理矢理【Yaeka】の拘束を解く。喉からは咳払いをするも、少しずつ呼吸を整え、彼女はこう告げる。

「…ヤエカ姐さん。……確かに《私》は。……あの男の事を。……!!《ハクロー》の事を…好いている///……好き…///…大好きなのだ……///」

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜Mr.Childrenより・永遠


フッ…

キラキラキラ……

「!!…トワ…」(この雰囲気!!…それに…目……瞳の…色が変わった!?)

【Yaeka】は【Towa】の瞑られた瞳が開眼され、その瞳に映る目の色を見て、今までの彼女とは違う、《神聖》な何かを感じ取った。彼女が映す瞳には、淡い紫に華やかな桜の光が示すシルエットが、煌びやかに発色するように見せていた。

「…だから。…これから言う私の話をよく聞いて。…ヤエカ姐さん。……これは昨日。…ハクローが所属する【R・P】社【Agente】(エージェント)。…彼の教育係を担ってるベアさんから聞いた話だ。…彼女がこれまで経験した闘いの話を聞いたんだ。……本当に壮絶な人生だったんだ。……肺炎で亡くなった私がこの【Paradiso】の世界に訪れ、どれだけこの刀を振って【冥鐘】を会得したとしても。…とても埋め合わせが出来ないくらいにね。……そんな彼女自身にハクローは出会ってから…【Makiras】と戦い。……それからだったかな。…ハクロー自身が見出し。…目指そうとする、大きな目標の話を……」

「………」

【Towa】は【Beanne】から聞いた【Hux・row】に関する事を彼女に語る────

・・・

〜【Towa】の追憶・時は7/8の夜〜

ドォーーン!!! ドォーーン!!!!

『ヒィ〜!!!』

『うぉわぁぁ〜〜ッッ!!!!』

ジャキン!!!!

『ウフ♡…ウフフフ♡…二人共逃がしませんよ〜♡<●><●>』

タッタッタ!!!!

・・・

『……ふぅ〜…ここなら暫くの間、避難出来るかな〜♪』

ゴツ…ゴツ…

『!!…これは…現世でいう《防空壕》!?……これがベアさんの【Fiducia】の能力の一つ…なのか!………しかし。…おぉぉ〜……我を忘れ、怒り狂うとあのように暴走してしまう人なんだね。…リーネさんというのは………』

『あはは!ま〜ね〜♪……ふふっ!…ねえねえ、トワさん?』

『…?…どうしたんだい?…ベアさん?』

ジィ〜………

『…んん〜〜……っ』

『…?…な、何だい?』

『〜♪……ちょっとごめんね〜♪』

ガシッ!…サワサワ♡

『〜!!///な、なぁっ!?///!!ひゃあっ!!あぁっ♡!!///…んっ!!///…んんぅっ♡!!』(ビクン♡)

キラキラ〜!!

『〜♪…あぁ〜っ!…やっぱりそうなんだね〜♪』

『くぅっ!!♡……ッ!!///』

パシッ!!ドンッ!!

『!!…あら〜ん♪』

『…〜ッッ!?///な、…と、突然何をするのだぁ〜ッ!?///……い、いいっ!!///〜!!///いきなり私のケツや…!!///…〜!!///こ、こここっ!?///…ここを触り、撫でくり回しおって…〜!!///…こ、この無礼極まりないけ、けしからん事をぉ〜…!!///』

キラキラキラ〜!!

『おぉ〜っ♪…その反応にその喋り方♪……〜♪へぇ〜そっか。なるほどね〜♪…トワさんも、私と同じように最近《整形》してたんだね〜♪』

『…!!///…ど、どうして分かったのだ!?』

『…ふふ〜ん♪…そ・れ・は・ね♪……こんなアダルティーでセクシーな事された時の反応がねぇ〜♪…《整形済の現世人》レディー限定にね〜♪…も・れ・な・く♡サービスとして、そんな感じに身体を《改造手術》されちゃったからぁ〜♡…触られた所がすっごく気持ち良くて〜♡…思わずもっと欲求を欲しがっちゃう《特徴的》な兆候と声がね♡…出てしまってたからかな〜♪』

『〜!!///そ、そそそ、…〜!!///そうだったのかぁ〜ッッ!?///』

『なぁ〜んちゃってウッソ〜♪♡アハハ!!…トワさんて意外に敏感肌で感じちゃう体質で〜♪案外こことか触られては《求愛》を求めちゃう結構積極的なタイプなんだね〜♡♪』

『〜!!///……っ!!………ベアさん。……』

ギョロッ!!

チャキッ!!

『!!あぁ〜ん!もぉ〜う、そんな吊り目になってドスのように鋭い睨み効かせられたら〜怖いってなんのってぇ〜トワさぁ〜ん!」

『………ッ!!』(…軽いノリだ。……ふざけているのか……?)(ギョロッ!!)

チャキリッ!!

『ちょっ!?…本当、ごめん!ごめんてばさぁ〜!茶目っ気なだけで悪気はなかったの〜!!ただ…///興味はあったかな〜と…///』

『……言いたい事はそれだけなのか?///……女の恥ずべき所を触り。…そのままぞんざいに辱め、悪びれもなく陥れる行いを働こうならば…!!ここで容赦無く粛清して斬るッッ!!』

チャキッ!!

『……!!ハハ〜ッ!《御代官トワさん!!》どうかお許しを〜!!お怒りを沈ませてくださいましぇ〜〜!!!』

《カンカンカカーン♪》

『っ!!………次はないぞ……全くっ!!///』

キン!!…リィーーン♪【冥鐘】

『…ふふ〜ん♪…で〜も♪…トワさん♪…ほらっ!はい!《鏡》!』

バッ!

『ん?……!?……え…?』

『…ふふ〜ん♪……その《瞳》の輝きの輝度の具合とか♪…どぉ〜う?…何か変わった様子はな〜い♪?』

キラキラ…!!

『!?…あ、ああ。…何か瞳孔の下に…桜のような模様があって、光を放つモノが私の瞳の中にあるようだが……!?だが、これは一体どう言う事なのだ!?』

『ふふ〜ん♪よくぞ聞いてくれました〜♪…それが整形した【現世人】の人にだけ現れる特徴的な〜……自称《魂ノ身体現象》の一つなんだぁ〜♪…現世でも《人体》の仕組みについても〜♪…未だ明らかにされてない点がいくつかあるようだからね〜♪…私も昔小さかった時にね♪…色々勉強しないとと思って〜♪自分の身体を《愛撫》したり〜♪一人エッチ♡して触ったりしてぇ〜♪…で〜も〜それだけでも満足出来ないからぁ〜♪それはそれは色んな人身売買をするお兄さん達にも触られていく内にねぇ〜♪…少しずつ分かっちゃってきちゃってね〜♪んもぉ〜言わせないでよ〜キャーーー♡♡♡』

『〜!!///…っ!!///……やはりけしからん事が好きな人なのだな!…ベアさん…あなたという者は…!!///』(キッ!!)

『アハハ!よく言われるよ〜♪今追いかけられているリーネちゃんや私の《フィアンセ》くんにもね〜♪…そっか!…それが本当に目指したい《トワさん》自身の《理想ノ意志》なんだね〜♪』

『?……どう言う事なのだ?』

『あれ?気づいてなかったの〜トワさん?…喋り方とか変わっちゃってるよ〜♪…一人称が僕から《私》になっちゃってるよ〜♪』

『え?……私が?………そ、そんな事はないぞ、ベアさん?……!?…あっ。……』

『アハハ!…その瞳の中の奥には、トワさん自身がこれまで長い期間、恐らくは整形前の私くらいの身体で過ごしてきた時、いつの間にか築き上げられてた本当の人格。目指したい自立の《意志》がね。…ちゃんとした《ビジョン》で映し出されているんだね〜♪…うん、凄いよ。……トワさん』

『…?…ベアさん?』

『……っ!!』

ポタポタ………

『!?…ベアさん?…ど、どうしたのだ!?』(アタフタ!)

『…平気だよ。……だけど私が映し出す光にはね。…トワさんのように誰かを《護る》といったような《清廉》で、あなたのトレードマーク《天道虫(テントウムシ)》のように天へと昇るイメージからか、《【天道ノ清廉】(てんどうのせいれん)》…そんな肩書きのある白い女性のイメージとは違ってね。…私自身、まだ程遠い空を見上げるだけの《井の中の蛙》。……井戸に閉じ込められたまま暗闇に閉ざされて、少しばかりの慈悲な意味合いが込められた《十字架》の光がうっすらと照らされた場所にいるようだから…』

『…!!…あ、あれはそ、その…///ただ素性を隠す為にだな…///べ、別に私は…〜いや僕は《天道虫》を好いている訳ではないのだぞ、断じて!!…そ、そもそもだッ!……それは一体どう言う事なのだ?………!?』

キラッ!!

『…!!…ベア……さん……』

『……ふふっ。……本当、私が《裁きを下したい奴》の名前を、臆せずに堂々と平気で言える彼の事が凄く羨ましいな〜!……そんな小さい世界にいた私を、広い世界へと引っ張り上げてくれた…大海を知るあの子には《ルーくん》以外にもね。…私と同じく打倒しようとする《標的》事の他に。…ちゃんとした《目標》と理由があって闘おうとしてるんだよね〜♪』

『!!…それは一体…何なのだ?』

『…お互い、《ルーくん》の親友の彼の事を心から本気で《好き》なんだったらもう分かる筈でしょ〜?』

『〜!!///…な、なぁっ!!///…っ!?///』

『フフフ♡…でも勘違いしないでね。…トワさん。…これは、あなた自身の《自立》に向けた言葉でもあるのだから』

『…!!……え?』

『トワさん。…あなた自身の目の輝度の輝きから推測するに、整形してから…およそ二ヶ月程の状態のようだね。…施術して間もない《魂の身体》にその《心》が馴染んでくるまで、まだまだ時間は必要だと思うから。……焦らず。…無理はしないでね……』

チャキッ!!

『!!…ベアさん。……?その剣は?…いや、銃…《銃剣》なのか?』

『…うん。…私のメインウェポン。…イタリア語で《審判》を意味している、銃剣【Arbitro】。…そしてこれが私の恩人であって。…《憧れ》…アルビノの【現世人】のベルナ姐さんの御守り。……今から《10年》以上も前にね。…《人身売買組織》に捕まっていた整形前の小さかった私を助けてくれて、手を差し伸べてくれたあの人が。……さっきも言った、ルーくんを殺した《奴》と闘って…昇華する前に渡してくれたものなの。…今となっても私達が繋がっている…《証》なの』

キラキラ……

『…ッ!!……そうだったのか。……すまない。……ベアさんの身内も…《厄災》を名乗る者によって。……何だか辛い事を思い出させてしまったようだな』

『…うんうん。……もう平気だよ。…そんな昔の事をいつまでもズルズル引き摺っていても、何も始まらないから。…そう、今もずっと。…だから私はこれまであの人の意志を受け継いでここまで生きて来れたの。……もう、後戻りはしないと決めているのだから』

『……ベアさん……』

『……トワさん。…最後にこれだけは言っておくわね。……シンプルに、ただ一言だけ送るわね』

『?…それは…』

『…ふふっ!これはね〜♪《ハクロー》くんも現世でも心残りがなくなったくらいに好きな言葉らしいんだよね〜♪…そ・れ・は♡』




キラキラビシュ──Z____ン!!!

ガシャーーン!!!!!!

『…!!…あ〜らら…』

『…!?…〜ッ!!??…あ…!!ぁぁ…!!』

ドドドドドドドド………

『ウフ♡…ウフフフフ♡…《ハクロー》さんというワードが聞こえてしまったので反射的にです♡…ウフ…ウフフフフ♡……さあ〜遂に見つけちゃいましたよ〜お二人共♡……いい加減に答えて下さいね〜♪…私の大好きなあの人は一体……!!何処にいるのですかァァ〜〜〜!!??♡♡(<●><●>)〜♡♡』

『…!!べ、ベアさん…は…ハクローは一体…ど、どんな言葉を……』(ぴえん〜…)

『…うん…丁度いい場面でその言葉が頭の中で過ぎっちゃったよ〜♪…はい、トワさん!!…いざ斉唱!!……そして、無事に…!!』(アセアセ)

ブォン!!!!




🎼Back Ground Music 》》》



♪〜Mr.Childrenより・生きろ

《生きなさい!!!!》

ドォーーン!!!!

・・・

〜時は戻る〜

「…そう。そんな事がね」

「これがベアさん自身が告げていた。…整形した【現世人】に起こる、人自身の持つ成長の過程から現れる心身・心境の変化の現れの段階。それが遅れながらもこうして追いついて来た人格の変化だという事を。…後は。…何故私が《十番隊隊長》の座を引き受けたのか。…それについてだ」

「…答えなさい」

【Towa】自身は、こう答える。

「…今こうして。…《妹》離れ出来ずにいるヤエカ姐さんと共に過ごせる時間が。……《永遠》にあるとは限らないからだ」

「!!…っ!!」

ガタッ!!

ググっ!!

【Yaeka】は握り拳を作り、心に抱えている感情を向けようとするが、その気持ちをじっと堪え話を続けようと進める。

「…続けなさい」

「……《十番隊隊長》になった私は、正義の力をと。…実力をつけ、自分の身は自分で守らないといけない。そう思うばかりに《増長》してしまっていた時期があったんだ。…その度に《四番隊隊長》のナガワに止められ…時に困らせもした。…今思えば、私は私自身が見えていなかったんだ。…男の身分として偽り。…《僕っ娘》に見せて無理矢理誤魔化していた自分の《人格》に頼ってばかりだったんだ」

「そうね。…だから私は《警告》したのよ。…それが裏目に出て、何(いずれ)はあなた自身が分からなくなって、何処かで誰かに因縁をつけられて、最悪…あなたが決して望まない結末や…逃れられない一生の《運命》を辿るかも知れなかったからと。………だから…私はあなたに危険を及ばせない為にと、あなたの影武者として他のギルドに在籍してた【Akane】(アカネ)さんを《女型》の偵察として引き入れたの。……今思えば、彼には悪い事をしたと思っているのよ」

【Yaeka】自身は胸の内を少しだけ明かす。例え血の繋がらない《妹》とはいえ、彼女なりの責任を背負っていたのだろうと。自らの所業で、彼女を不幸にさせたくはなかった。だから安全な場所で暮らして欲しかったのだと自らが危険な仕事を引き受けた。例え周りの志士達を犠牲にしてでも、《護りたい》対象として彼女がいた事を。しかし彼女自身が自らの役職である《隊長》の座に踏み込んだ以上、今度は彼女自身がその《業》を背負う事になる事をずっと《恐れていた》のだ。自らが粛清した者の分まで、罪の《十字架》を背負い、生きてきた後ろめたい事を【Towa】自身は見事に見通していた。

「…そして私は。…ヤエカ姐さんのようにその道を辿らない」

「!?……どうしてそう断言出来るの?」

「……《生き方》を見つけたから」

「!?…生き方…ですって?…じゃあ聞かせてちょうだい。…一体何の為に《生きる》って言うの?トワ?」

「私は。……ハクローと共に…アイツが目指そうとする《目標》を。…その先の未来へ。…私も共に歩んで生きる。…もう《共依存》の関係にあった《僕っ娘》の僕であったヤエカ姐さんと一緒に歩むのではなく、……これからは…私。…私自身…【現世人】【Towa】として、本当の自分の意志で行きたいんだ!!…この【Paradiso】の本当の世界の意味を……!!」

《この桜花の光が投影されたこの目を道標にし。……例え立ち込めて来る暗雲にも、暗闇の中でもこの光を照らし続け。…その先へと行きたいんだ!!!……この【Paradiso】の各島にある争いの火種の霧を晴らし。…姐さんを苦しめている《闇》が一切存在しない。…平穏な各島内での争いが起こる事のない。…平和が実現された世界を…!!》



《この目で見てみたいんだ!!!!》

「!!…っ!!」

ジャキンッ!!

リィーーン…♪【冥鐘】

「………」

「……っ!!」(キッ!!)

【Towa】の発した言葉に【Yaeka】は【桜花月輪刀】を【冥鐘】を鳴らし、強く罵声を浴びせる。

「…馬っ鹿じゃあないの!!…トワ!?…その言葉。……その意味を。…実現する事の重みを自覚した上で。……本気で言ってるのかしら!?」

「私は本気だ。…確かにこればかりは無謀な事だ。その為ならば。…一人、二人。…いや、今まで以上の犠牲が増える程の…これまでとは予想もしない大規模な戦い。……境界を張られた平穏の空に、雲が立ち込んできて混ざり合い。…混沌とした空によって秩序は乱れ。……《争乱》が渦巻く本当の《戦争》になる。だから、各島の治安を治め刀を取る正しき志を持つ私達【狼志組】十維新の志士達のみならず。……ギルド幹部を含め誰もが踏み込んでまで実現したり、自発的に実行しようとする者は一人としていなかった。これまで《境界》を定め、その秩序を保ってきたんだから。……だけど、ここ近年になって、その均衡を破った。…いや、破らざるを得なかった。…それが《ルーさん》だったんだ。……結果的にルーさん自身はその行動に加担した結果、《闇》に関わってしまい…あの《厄災》と衝突し。…犠牲になってしまったんだと。………だけどハクロー達はその障害を跳ね除けてでも、目指そうと動こうとしてる。…いや、ベアさんだってそうだ。………こうなる事は覚悟していた。…恐らく先代の《十番隊隊長》も。…その《闇》を払う道を自分から選んで生きようとしだんだ…!!だから…!!」

「駄目よ!!……その《闇》の道に踏み入れようとしてしまったら……!!あなたはもう…!!」

ジャキッ!!

「……ふふっ!!…本当に昔から仕方ない人なのだな〜!…ヤエカ姐さんは…」

スタッ!…タッタッ…

「!!…来ないで!!…来たら幾ら《妹》のあなたと言えど。……世界の敵に回る側の悪へ染まるなら!……ここで斬るわよ…」(キッ!)

「…好きにして」

ザッザッザ……

ダキッ♡

「……っ!!」

「………」

トントン!!

【Towa】は姉の【Yaeka】を優しく慈悲深く抱き抱える。その彼女の顔はとても《清廉》な雰囲気を醸し出していた。今まで少女の姿をして過ごしていた彼女は整形をして本来の大人になった彼女の身長は《約170cm前後》。【Yaeka】は《約160cm後半》と、彼女に比べるとやや下回り、軽々と姉の《深草色》が自慢な華のある《大和撫子》の頸(うなじ)を背後から覗かせる頭部に優しく頭を撫でる。

「………姐さんが抱えている。…この《心》に踏み込んでしまって抜け出せない…深く染まる《闇》があるのなら、こうして《光》を差し込ませて…日本神話に出てくる《天照大御神》のように、明るい世界を天照らすだけだよ…」

「!!…」

「…大丈夫。…私の事はもう心配いらないよ。私の為に必至に訴えかけようと……辛かったのに、こうして怒ってまで向き合ってくれた事…ありがとう。……昔から…そして今も。…本当に…好き…大好きだ。…///ヤエカ姐さん///……どうか、今回の任務…無事に《生きて》帰って来ておくれよ。…その写真の人の分まで……」

「……っ!!」

「……だけど。…今回の任務が無事に終わるまでは。…まだ《僕っ娘》の僕として戦う。……僕自身もね。…ここで自分の心としっかり決着をつけ。…《決別》しておきたいんだ!…《僕》が《私》として生きる為にも!!……どうか。…頼むよ!!!」

ギュッ!!

「…!!…っ……っ…っ!!…馬鹿…!!本っ当に馬鹿な《妹》よね〜!…一体、何処の馬鹿義姉に似たのかしらねぇ〜……身体だけじゃあなく、心まで……本当に大きくなっちゃって……///」

スッ……

チャキンキン……

【Yaeka】の手に持たれていた【桜花月輪刀】は手を放ち、畳に置かれた。彼女の瞳には涙が流れていた────

・・・

「じゃあ早いけど行くよ。……?姐さん?」

「ごめん、トワ!先に行っておいて!…私も後で行くから!」

「?…分かった。…じゃあ、また後で」

タッタッタ…!!!

「………」

【Yaeka】は【Towa】の後ろ姿を見送る。するとこう呟く。

「…ふふっ!…見ない間に、いつの間にか大人になっちゃったのね〜♪…まだまだ世話のいる娘だと思っていたけど、一体誰に影響されたのかな〜?…案外その【R・P】社【Agente】の《ベアちゃん》かな〜?…もしくは。……〜♪ふふ〜ん♪…では…あの子が大人になった記念に!……私自身も腹を決めて。……おっ初めますか〜♪」

スクッ!

カキカキ……

【Yaeka】は仏間にて、《写真》に写る女性の者を見ながら一枚の《手紙》を書いていた。

カキカキ…〜♪

「…ふふっ♡…ごめんなさいね〜♪……あなたとの約束は果たせなかったわ。…あの子もどうやら自分から踏み入れようとしてるわ。……《闇》へと。…関われば二度と抜け出せない《禁域》へ。……あの時のあなた自身も受け取ったのよね?…《ステルベンノ電報文》を。……もしこれが《六道輪廻》のように、ただひたすら回る《因果》になるのなら。…あの子の言う実現したい《目的》・《目標》のように。…【狼志組】の看板を背負ったままで、ただ《保身》だけに走ろうとせず、自らの意志で各島に広がる闇を《撲滅》する為に行動す。……その《心》が本当に確かなのなら。……ここで全て終わりにしないと行けないわね。……もしその因果を断ち切る《希望》があるとするのなら。…ウフフ♡……頼むわよ〜ハクローくん!…私の大切な《ここ♡》を初めての《ルーくん》みたいに何度も魂を込めて打ち込んできた君ならあの娘を♡………そして私ヤエカ姐さんは、確かに君へ太鼓判を押すぞ〜★」

カキカキ……

〜数分後〜

ガララララ………

「じゃあ行って来るわね。…ネファールさん。……もしそこにいる場所で会えたなら。…色々話をしたいわね…」

ズザっ!!タッタッタ!!!!!

【Yaeka】は【関蓮荘】(セキレンソウ)を後にする。その後、彼女は【狼志組】の屯所にて四番隊隊長の志士と話をし、自分が出会った《愛人》の関係、【現世人】《【Velkuy】騎士団創設者の騎士団長》と縁がある《白狼》の異名を持つ男の事について語る。その時の彼女の心境には、彼自身と剣を交えて感じ取ったのか、この世界で何かを成し遂げてくれる、現世で出会った者達を信じる心の《信念》、儀礼刀に見立てられた、《誓い》を期待し。彼女はその剣に生き、パートナーと共に彼らを見守り、歩む決意を固める─────

ヒラヒラ〜…

フワァ〜…

その決意がまるで見届けられたかのように、散りゆくように気付き上げてきた人を繋いでいた《契り》。その一枚の千夜ノ桜の花びらが舞い、そして暫くすると───────

ヒラヒラヒラ………!!!

ドォーーン!!!!!

!!な、なんだ!? …!!か、家事だぁ〜〜!!! 町中が爆発している!!! あ、ああ…!!火がぁ〜〜〜!!!!!!!

カンカンカン!!カンカンカン!!【Kagoya】の下町で火災が発生しました。

【関蓮荘】(セキレンソウ)の周辺の住宅が一棟、また一棟と火災が発生し、一帯を焔の炎で燃やし尽くされる。

バチバチバチ……

【関蓮……】

ボアアアアアア!!!!!

無慈悲にも瞬く間に【関蓮荘】へも火が燃え移る。燃え盛る炎は【Kagoya】の町中を全て燃やし尽くす。その《焔ノ海》と化した現場で、ある一人の《白狼》の異名を持つ男は──────

・・・

〜下町通り・広場過ぎ〜

ザッザッザ!!!

「…ハァ…ハァ……!!」



【Hux・row】(…トワさん!…聞こえるか!?)

【Towa】  (ああ、ハクローか!…僕は無事だ!!…すまない、急遽応援が必要になり、先程持ち場を離れてしまったんだ!!……ケイトさん達から、リーネさんがその……突然《ペルガ》という者に襲われ、町外れの山の方向へ飛ばされたという事で、今僕が捜索に向かっている!…それは聞いてるのかい?)

【Hux・row】(ああ、さっきケイトから連絡で聞いた!!……山か。……恐らくあの《女》が根を張ってるかもしれない!!)

【Towa】  (?……あの女。……!!まさか、副長が言っていた…例の!?)

【Hux・row】(ああ、ベアさんからも少しばかり聞いたと思うけど。…【Demister】メンバーの中に【Auro】(アウロ)っていう朝顔や植物を操ったりする、とんでもねえ奴がいる。…そいつは昨日、リーネに……っ!!…そして今回もその機会を狙ってる事だろうと……っ!!)

【Towa】  (!!…ハクロー……分かった。…アウロか。…その外道の名。…確かに覚えたよ。………助けるよ……必ず…)

【Hux・row】(ああ。…………っ!!………なあ…トワさん)

【Towa】  (?…何だい?)

【Hux・row】(………どうか。…くれぐれも油断しないでほしいんだ。……だってよ。……アンタだって……)

【Towa】  (女だから。……だろ?)

【Hux・row】(!!)

【Towa】  (アハハ!…案ずるな。……僕だって、【狼志組】十番隊隊長を請け負っている身だ。……そう簡単に外道の者に身体を許したりなぞしない!!!……もう…あの《時》のようにはいかない!!!)

【Hux・row】(……?…トワさん?)

【Towa】  (!!…すまない。…少しばかり熱くなってしまったようだ。………ありがとう。……僕の身を案じてくれて。…礼を言うよ……ハクロー///)

【Hux・row】(っ!………トワさん…俺。……アンタにどうしても伝えたい事があるんだ)

【Towa】  (!!///……そ、それは……何だい?)

【Hux・row】(……今は言えない。……これは、俺がアンタと直接面と向かって伝えたい言葉なんだ。……っ!!……だから!!!)

【Towa】  (!!///……そうか。……実は僕も、君に伝えたい事があるんだ。……だけど今は伝えない。…リーネさんを救い。…外道達の企みを必ず阻止し。………この任務を無事終えたら、それを君に伝える事とするよ。………必ず……《女》として…)

【Hux・row】(!……ああ。……分かった。………)

pi………



「士気がある時だってのに……こんな事。…今伝える時じゃあないよな。……トワさん。……アンタを。…これからも必ず守るなんて事。……本当……無責任な男だよな。……俺は……っ!!」

タッタッタ!!!

・・・

ザッザッザ…!!

白狼の男は、森林の山道を疾走する。彼の顔には汗が流れており、焦りの表情が見え初めていた。

「!!…クソが!!……あれからトワさんとの連絡が途絶えたままだ!!……嫌な予感がするぜ……!!…だがもうすぐ山の森林地帯だ!!……待っていろ!!リーネ、トワさん!!」

ザッ!


タッタッタ!!!!

ざわ……ざわ……ざわ………

「…っ!!」(頼む、トワさん!!…無事でいてくれ!!…アンタだけは絶対に守らないと…!!…身内のヤエカさんがいない今…!!俺の。……俺自身の意志で守らないと…!!一体誰が護ってくれるって言うんだ!!……俺はあの人を……!!)

《例えそれが原因で…全世界の奴らに刃を向けられて、敵になろうとも俺は絶対に生きて…リーネと…!!アンタを絶対に助ける!!…失わせない…!!死なせないっ!!……っ!!見殺しにはさせねえ!!!!ロベル……ヤエカさん…ラル…!!…三橋三等海佐…西野さん…!!千里……菊川先生……ロベル。…そして千夜…俺はみんなと約束したんだ!!!…必ず生きてやるって!!……だから!!》

タッタッタ………




シュルル…!!ニョキニョキ!!

「!!…あれは…」

白狼の男の目の前に植物の集合体が覆い尽くされたドーム状の歪な存在が壁として立ち塞がる。

シュルル……!!

ブォンン!!!

「!!」

一本一本が蔓と蔦で覆われ、纏わりついた植物の集合体は、男の存在を脅威と見做し、払い除けようと大きく豪快に鞭のようにしなる一撃を振り下ろす。

ドゴーーン!!!!

「…っ!!…趣味が悪いぜ〜…ったく。……っ!!」

そこをどけやァアアアアアッッ!!!!

スパーーン!!!!

パラパラ……


ピトーンン………


「………!」

白狼の脳裏からは、現世の世界にある国、《日本》で有名な《水琴鈴》のような音を感じ取り、誰かの嘆きの声が聞こえた。

・・・

ハクロー………早く……来ておくれ……

……白狼っ!!……

「………!!!」(…あの時の千夜が流した……涙……!……っ…トワさん……!!!!!)

《生きろよっ!!!!》

ガシャアアン!!!!

「!!」「なぁっ!?」「バカな!?…何故結界がどす!?…硬度はこの世界で最も硬い鉱物に匹敵するというのにどす!?」「一体…誰がどす!?」「!!あれは…!?」

「…ハァ…♡…ハァ…♡……だ…れ…?」

「…!?…っ!!」

「…!!」(クソガァァッッ!!…リーネだけでなく。…………よくもトワさんを好き勝手やってくれたなぁ〜……《妖怪朝顔女》…!!!!)

リィーーン♪【冥鐘】

ザシュッ!! スパン!! ブシャア!!!

「!!あぐっ!!」「うっ!!」「あぁ!!」「あうっ!!」

スパッ!!…パラパラ…

「……ッ!!」(シャーーキン!)

リィーーン…♪【冥鐘】

「!!…ハクロー…さん///」(ポタポタ!!)

「!!…ハク…ロ…ー///…うぅ!!…!!…うぉっ!?///」(ポタポタ!!)(…ハクロー…///…た、助かった…///…嬉しい…///…来てくれ…て…っ!!)

ダキッ!!

・・・

「……っ!!」(……守れなかった…俺は。……!!…本当に、今の俺は無力だ!!……でもな。…ヤエカさん……アンタの苦労…少しだけ分かったように思うぜ。………それだけ、アンタが踏み込んだ《闇事情》は深いんだろうな。……トワさんを守ろうと……アンタ自身があの怪物の桜の姿になるくらいにまで。……いや、多分ロベルの事もずっと抱え込んでいて……ただひたすらに…………!!だがよ。……だからこそ、アンタが居なくなってしまった今、この《負の遺産》と、争いの負の連鎖の火種を…!!《俺達の代》で終わらせないといけなくなったようだ!!…必ず、実現してやる!!……今はまだまだ途方も無く。…見えてすら来ないが。……俺は…かつて俺が中坊の時に…《中二病》だったからか、変に歴史を拗らせていた時に憧れていた、《三国志》以前に起きた紀元前…《秦》の国から始まった《中華統一》の大きな戦い。その《秦王》の始皇帝の歴史上に登場した、最も秦王に信頼されたと言われた、《秦ノ始皇帝ノ信剣》の異名を持つ武将……通称…)

《天下ノ大将軍!!……俺は少しずつ着実に……!!その高みへと!!…いつかなれるくらいにまで…全うな考えで必ず実力を付けて上り詰め、……外道共が引き起こした引き金の争いを集結させる!…各島で平和に暮らしている人達が、心から笑える平穏な日を。……そんな日を実現する為にも、乱世や動乱が絶える事のない…この【Paradiso】とやらの世界で……必ず俺は……!!俺達は…絶対に生き残ってやらぁ〜!!…トワさんや、俺の大切な仲間を守る為に!!…このロベルと、菊川先生から託され。…復活を果たした《白狼刀》。……名刀【Louvel】に誓い…千夜が俺に託した十手を胸に。……俺は敵として【Paradiso】の世界の唯一の味方だと履き違えてるお前らと宣戦布告してでも、戦うまでだ!!》

グググ……

「……っ!…グスッ……」(…ハクローさん……本当にすみません。………私は……本当に……何も出来ませんでした………)

「……っ!!…ぅぅ…」(ハクロー……あの時、お前にああ言っておいたのに。……こんな事になってしまい。……すまないな…本当に……///……ヤエカ姐さん。………大丈夫だ。……私は……あの卑劣な朝顔を操る【Auro】によって、女として大切なモノを奪われた上、なすがままにされ…犯されてしまった事は事実だ…///…だが、どんな苦難があっても。……私は絶対に諦めない。…次会った時…!!必ず奴らが企てようとする、下衆な野望を倍に返し……問答無用で斬り捨てる!!!…【十番隊隊長】の立場とはいえ、まだまだ未熟なようだ。…ベアさん。……あなたともこれからの事をゆっくり話しでもしたい。……奴らは《法》の裁きを受けるべきなのだろうが……それは出来ないようだ。………《法》といえば。…《ヴェノ》さん。……あなたは今どうしているのだろうか?)

三人はその後、そのまま下町通りの広場へと向かっていく。女性二人の目には涙が溢れていた。もう一人の《白狼》の異名を持つ男も少しばかり、悲しげな表情をする。しかしそれでも彼自身、失ったものはあれど、その目には輝きを未だ放っていた。その眼光には、自らが模範とする《目標》の存在があるのか、後方には靡かせるように日本海軍の象徴《旭日旗》を持つ《大和魂》を壮大に見せつけ、決して歩みを止める事なく進む《歩兵》として、着実にその歩みを始めていた。【Towa】自身は、自らの体験で遭遇した、ある男の名前が脳裏に浮かんでいた。それがきっかけなのか、《0》で閉ざされていた間の物語が遂に《1》へと向かおうと、《羅針盤》の方角は遂に指し示した事を一同は知らない。その当事者となる男の者と、過去に《闇》へ踏み入れた者である一人の女性以外は─────

・・・
・・









   
B. いいえ


《Capitolo・5》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜湘南乃風より・バブル

Oh〜♪ Oh〜♪

ワーッ!! ワーッ!! ワーッ!!

「…ッチ!!」

「オラオラ、どうした〜!?いつまでチンタラチマチマしてやがるんでい!?」

「…!!野郎!!」

ブン!!

「…へっ!!遅えぇ〜!!」

スカッ!!

「…!!くそ…!?」

バキャッ!!

「グフッ!!…!?」

ドカバキャッ!!べキャっ!!

「…〜♪今回も、決まりだぜ〜!!」

バキャッ!!!

「ゴファッ!!……っ…」

バタリ!!

カンカンカ〜ン!!!

勝負あり!!勝者〜!!………!!!

ワーッ!!ワーッ!!ワーッ!!

「…へへっ!!」

・・・

ワイワイ!!ガヤガヤ!!

「お〜らぁ〜!!レッツパーリィー!!!」

「…もう飲み過ぎですよ〜《石油王》さぁ〜ん♪」

「あぁ〜?…大丈夫大丈夫ぅ〜♪湯水のように金が沸いてきて有り余って仕方ねえぜ〜♪ここで使わねえと後で後悔すんぜ〜♪…ほら見てみろよ〜《時は金》と意識づけているのか、タクシー呼ぶのに万札靡かせてるぜ〜♪!!」

ヒラヒラ〜♪

お〜い!!乗せておくれよ〜!! おい、俺が乗るんだ〜!!!

ワーッ!!ワーッ!!ワーッ!!

…ピロリン♪

pipi♪

「ポケベル?んん〜?」



「…今から《ディスコ》にか〜?…ああ、わかったぜいよ〜♪」

スタコラ〜♪

・・・

「………」

カン!…シュボッ!!

「………」(タバコに火を付ける)

プハ〜ッ……

タッタッタ……

「…ウフっ♡!良い男はっけ〜ん♡…はぁ〜い、そこの《ヘビースモーカー》のお兄さ〜ん♡寄ってかな〜い♪」

「歓迎するわよ〜♡」

「…ん?…ああ、すまない。…間に合っている」

タッタッタ……

「んも〜っ…釣れない〜♡…でも、ウフフ♡…渋い声聞かせるダンディリズム♪…私嫌いじゃないわ〜♡」

「私もぉ〜♪…んも〜うこんな《ニューハーフ》に対してシャイな素振り見せるだなんて、ス・テ・キ♡」

時は現世で起こりしかつての《好況》時代。およそ1986年〜1991年まで続いた日本屈指の《湯水に金が浸かる》日々がひたすら続き、人々を大きな欲望の渦へ飲み込んで熱狂させ、日本の景気の《金銭感覚》の歯車を大きく狂わせた《バブル景気》の時代。それは、【Paradiso】でも同じ事。この世界にも、同じ時期の年には、各島に様々な《欲望》渦巻く激動の時代が到来した。力と暴力が支配し、富と権力が全ての《暗黒時代》が裏で貪り、そして表沙汰にもなる程の大きな動きをする《暗雲》の影が差し込まれようとした。ある者達の存在によって─────


〜【Paradiso】歴:1985年・【E島】【Velkana】の町に存在する裏路地の暗黒街〜

「………」

…ザッザッザ…

「……!!」

ウォラァアアッッ!!!!

ブォンッ!!

「…へへっ!!」

バキャッ!!!

ズシャァッ!!!

「グォハァッ!!」

ドサっ!!

「…へっ!こんな所かよ。……骨がある連中ばかりが屯している時と聞いていたが、俺の《爪》を前にして大した事がねえ野郎どもだぜぇ〜!…ったく……」

・・・

その頃〜【Kagoya】の【遊郭】

ワイワイ!!ガヤガヤ!!

ウフフ♡…お兄さ〜ん♪…遊ばな〜い♡?

お客さぁ〜ん♡♪

「うほ〜♡…こりゃあ顔福顔福ッ♡!!」

「ここが《桃源郷》ですか?///」

うっふ〜ん♡アッハ〜ん♡

「……クックック。…見事に女共に貢がされ、こうして《富》を伏せてくれよる…!!クックック…貴重な《情報》をな〜♪……実に愚かなる【御用見廻組】の者達よ…クックッ!…なるほど…。…よし。…後は…だ…」

・・・

〜【Kagoya】内の暗がりの路地〜

ザシュッ!!!

「ぐあぁっ!!……!?」

ドクン!ドクン!…

「!!お…俺の身体が…と、溶けて…!!」

「ああん?…おめえユートピア人だったのか〜?…ありゃりゃ、間違えちまったなぁ〜失敗失敗!…ま、御陀仏になっといて」

ドロドロドロ……

「う、うわぁああああ!!!!!!」

しゅ〜………

「…ったく、怖いねえ〜この毒っつうのは。…まあ【現世人】の身体やワクチンを接種した後の身体だと、ここまで《即効性》の強い効果が期待できなさそうだがな〜…この《毒》ってのはよ〜……さ〜て、その《毒》要らずで、確実に敵を葬るあの《イレイザー》さんはどうしてるかな〜?」

・・・

〜【C島】のある地方〜

「………」

チャキッ!!

「…や、やろぉ〜!!!!」

ブォン!!

「………」

チャキっ!!!

ブォオオンンン!!!!

ギィーーン!!!!!

「………」

「………」

シャキン!!!!!

「!!…………」

ズシャァ〜〜!!!!!…………

パキャーーン!!!!!

「…………」

チャキッ!!

ザッザッザ………

各島の地方にて暗躍する者達。ある島では力を武器に《組織》をまとめ、もう一つの島では色欲物を武器に情報を掠め取り、その者を脅し込み、骨の髄まで貪り尽くした後、骨を残さず、必ず足跡や痕跡は残さない。何故ならばその者を始末する者として、死神の役割として《イレイザー》と呼ばれる者に追われ、始末される運命にある。しかし、その時代も虚しく、その者達は遠からず《破滅》する運命を辿った。元にその者達の悪行は後に《太古の貴族》の者達によって阻止され、その内の一人の貴族出身の者は、その戦いで犠牲となった者がいた。そして事件は《公》にされた事でその騒動は収まった。しかし《人間》という生き物は一度覚えた《蜜の味》は忘れられず、またも同じ道を辿る、欲に忠実で生きようとする深い生き物である事を我々は忘れてはならない。

現に──────

時は戻り【Paradiso】歴:2000年7/8・夜・【Kagoya】の町外れの城【世原城】

「………」

ザッザッザ……

「……」

「……」

「……ケケッ!」

「…〜♪ほ〜ほほほ!…《維新》を起こす栄誉ある皆の者共、遥々よく来たでおじゃるな…♪まずは…」

《【Varisk】所属のAランク【Bran】》

《【狼志組】五番隊隊長・【Akill】》

「……そして。…フォッ!フォッ!フォッ!……よく来たぞよ〜♪…かつての蛆虫共が巣食う医学会で名を馳せ。…ある《毒物》をその手で完成させ、報復として恩人の者に毒を盛り込ませた挙句《追放処分》という不当な待遇を受けた、罪深き闇医者…」

《【Yakubisi】(ヤクビシ)よ!!》

「………【Oya】だ。……元検死官…【Kunizu】」

「フォッフォッ!…それはもう過去の事。……今はこの町で見事返り咲いた御奉行執行人【Kunizu】なりけり!……昔のよしみとは言え、無礼を働くようなら手打ちとして縛り首とし、この場で《あやつ》に始末を要請するぞよ〜♪」

「……っ!!」

「…フォ〜ッフォッフォッ!!………では、新たなる新生【Kagoya】を牛耳る誇り高き《宙ノ舟》(ソラノフネ)において命ずるぞよ。…これにて《維新》に肖り。……長年溜め込まれていた無駄な肥溜め共の掃除…基(もとより)……明日この時間…!!」

《汚物鼠共の駆除を開始するでおじゃる!!!!!》

ドドォーン!!!!

ドォーーーン!!…ドォーーーーン!!

自らの組織名を《宙ノ舟》と名乗る欲に溺れ、何者かに化けた醜く、光り輝く金箔虚飾に塗れ、コソコソと《闇》を隠そうとする怪物が町を新たに作り替えようとしていた。《報復》と影に彩られ、自らの身勝手な歴史を作り出そうと。その翌日、その者は躊躇無く町中一帯を火の海と変えた。その時代を変えようとする者が《白狼》の異名を持つ者であるのならば─────

・・・

タッタッタッ!!!!

「……っ!!」

ギュッ!!

「……まだ俺はその事実を認める訳にはいかないようだ。…この目…【Oya】が移植してくれたとはいえ、《陰陽術》の一つ《心眼》が働いているからか目隠しされても視力が維持していると同時に…ようやく目が冴えてきた。……奴は決してアンタに対し。…《杜撰》(ずさん)な事はしなかった筈だ。……【Sekimi】(セキミ)」

タッタッタ!!!

疾走する《黒豹》の風貌を持つ男。その彼には二つの側面があるように感じられた。一つは陰陽道の中でも八人の方位神(八将神)の一人《豹尾神》に因んだ《黒豹》の顔として。そしてもう一つは、豹によく似たネコ科生物でも、アメリカンタイガー《ジャガー》。その中でも黒に染まった、アステカ神話で広まりし、ジャガーを神化した《テスカトリポカ(Tezcatlipoca)》。大熊座の神・夜空の神としてアステカ民族の神殿に祀られた神であった。彼自身もまた、《運命》なのか、その神に導かれし片鱗を隠し持つ者の一人として、影で暗躍する陰を裁き、因縁を断ち切ろうと奮闘し、走り出す一人の者として、導かれたのやもしれない──────

・・・
・・

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜Death Noteより・Lのテーマ

〜時は戻り〜

〜【Paradiso】歴2000年7/9・朝方【J島】【Kagoya】の町内のある区間

・・・

pi…pi…pi……

「………zzz………!?」

ガバァッ!!

「………はぁ……はぁ……!!」

サワッ!!

「?」(……目隠し…か。……だが、見える…ようだな)

チラ…ホラ……

時は戻り、そこには黒豹の雰囲気を醸し出す一人の男が、心電図のような機器を胸に取り付けられたまま、医療用ベッドで横になっていた。彼自身、ふと目に撒かれていた目隠しに触れると、自らの目には視力は見えど、何の因果で目隠しをされないといけないのかという疑問が頭によぎる。

ザッザ……

「…気が付いたかい?…【Veno・nix】君?」

「…!!」

ガバッ!!

黒豹の男【Veno・nix】は、声を掛けてきた誰かの方を向く。そこにはブラウン色のハット帽とチェスターコートのコーデをした、中年の姿をした髭を生やした男がその場に立ち尽くしていた姿を、目隠しの奥にある瞳で直に観測する。

「……お前は。……一体何者だ…?」

男は自らの身分を名乗る。

「私は【Sekimi】。…君と同じ【現世人】。ランクはS4ランク。…今から約20年程も前に、この【Paradiso】に訪れた《医者》の者だ」

「!!…20年も前…だと?」

「ああ、そうだ。…その当時はまだ【現世人】に対する《医学》の発展に、目欲しい進化なく、未だ解明されてすらいなかったものだがね……」

「?…どういう事だ?」

【Veno・nix】の疑問に対し、医者【Sekimi】はこう話す。

「…目隠しをしている君の状態についてだが。…両眼の《眼球》は毒に冒されていた為、急遽《緊急オペ》を施させてもらった。…代わりとして、この【Paradiso】最新鋭の義眼【S・Visions】(サー・ヴィジョンズ)を君の《眼》(まなこ)として移植手術を施した」

「…!!……俺の元の目は…!?」

その問いに対し、相手は首を横に交互に振った。

「…残念ながら。…毒が深くにまで冒されていたのか、摘出した途端に昇華した。…だがそのままにしていたら君の身体は目を媒介にした毒により、已む無くそのまま《昇華》していただろう」

「…っ!!」

ググっ…

相手の言葉に【Veno・nix】は目隠しされている顔を険しくして拳を握らせる。しかし直様冷静さを取り戻す。

「…わかった。…恩に着る」

「話が分かるようで助かるよ」

「…【Sekimi】と言ったか。…少しいいか?」

「……なんだろう?」

【Veno・nix】は相手に対し、自らが《傍観》した当時の出来事にあった人物の名を口に出す。

「…【Kunizu】と【Kawara】…あの二人について。…何を知っている?」

「…………」

【Sekimi】は相手の問いに沈黙する。

「…どうした?…答えられないのか?」

「………ふむ」

【Sekimi】は少しばかり熟考していたのか、沈黙をかますも、直様口を開く。

「…君は【Kawara】兄弟の事を何処で知った?…いつ、誰によって?」

「…今から半年以上も前に起きた。……【現世人】独特の夢の中の世界に介入出来る現象【Sognare】の暴走事件からだ。……そこで【Kawara】やら、【Kunizu】の存在を知り。…そして先程の夢の中の世界でアンタはその二人を知っているような口振りだったようだが」

「……そういう事か」

ガタン…コツンコツン…

ゴソゴソ……

「……?」(何だ…一体…)

【Veno・nix】は相手が何やら引き出しの中に手を入れ、何かを探していた様子であった。

「………これだな」

ペラッ!!

「…これは何だ?」

【Veno・nix】は【Sekimi】に対し、渡された書類に対する疑問を投げかける。

「【ユートピア人】と【現世人】による種族の解剖学についてのレポート。…そう言わせてもらおう。…あれを見たのであろう?…【創造派】催しの《臓物ノ肉塊宴》を」

「……!!…どう言う事だ…」

「それを見れば分かる筈だ。…どうした?…目は失えど、脳内の記憶には確かに残っている筈なのだろ?……あの《闇》を垣間見て記憶に残したのだろう、君は?」

「…………っ!」

ペラッ!!…ペラッ!!

「…これは。……っ!!」

【Veno・nix】はその資料に目を通す。自らの疑問には、何故目隠しをしている状態であるのにも関わらず、こうして文字や図を見ることが出来るのかという疑問があった。そこには、【ユートピア人】と【現世人】の種族間による《秘密》が記されていた。



・・・



【ユートピア人】
・生身の人体で構成された肉体を持つ種族
・生誕に使われたとされる素材・材料
・《馬・深層ノ海水・【Paradiso】の太陽【Sole】》
・《【Creatore】(クリエトーレ)と名乗る母体の存在の者》



【現世人】
・現世で過ごしていた屍者。《魂の身体》で構成される
・【導き人】が送り出した《ヒューマノイド》の存在
・内臓は存在せず肉体に成長や変化の兆しはない為、歳を取らない。
・体内には、《後世》を残す役割を担う種族独特の《魂の蜜》が《16〜30歳》の姿をした女性にのみ分泌され、生成される。
・形成要因:極めてイレギュラー
《固有能力【Fiducia】の力は、陰陽道におけるチャクラの存在の一つと考えられる》
《魂の身体の著しい損傷による形成不良にて誘発される循環不全によって魂は回転する》
《その要因から、魂の処理速度を上昇させ、回転数が上限値に達する事で限界値に達し、魂の身体が耐えきれなくなり、昇華現象が起こる》
《これらは、ある現世人の者による節の提唱から実地試験並びに治験を実施する》
《研究の結果の末、それぞれの要因が証明され、メカニズムが少しずつ明らかとなった》





「………っ!」

バサァっ!!

「…見た通りの結果だ……!!」

ガシッ!!

資料を見終えた【Veno・nix】は、思い当たる節があったのか、相手に掴みかかる。そして思い様にこう話す。

「…貴様…俺の事を一体何処で知ったァっ!!??…こんな《モノ》を見せては。……一体何を企んでんだゾォッと!?」

「…………」

ガシッ!!…ギリギリ………

「!!……っ!!」(力が…強い……!!)

【Veno・nix】が掴みかかった手は直様【Sekimi】によって強く握られ、容易く払い除けられる。

「……まあ離したまえ。…穏便にお茶でも一杯どうかな?」

「……っち!」

ガバァッ!!

「………」

チャカッ…

コトコト…チョロチョロ…

【Sekimi】はティーポットに、《現世》での名残なのか、ハーブティーを淹れる。その様はまるで現代の《刑事ドラマ》に出てくる頭の切れる刑事のように、その雰囲気を醸し出す。

「……」

コトッ

「………っ!!」(一体…何だ?……何者だ…この男は?)

「…飲みたまえ。……冷めては折角の《紅茶》の味が堪能できないと言うのに…」

「………」

カタン…

「……ん」

ゴク…ゴク……

【Veno・nix】は紅茶を一口呼ばれる。口の中には、身体の緊張をほぐし、リラックス効果があるのか、先程の感情の昂りが少しばかり落ち着いたかのように感じさせる。

「…では話の続きだ」


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜Death Noteより・Lの壁

「…君は、《チャクラ》について何か心得はあるかね?」

「……チャクラ……」

【Veno・nix】は《チャクラ》の語源について、先程目を通したレポートの他に、何処かで聞いたようなそぶりを見せている。

「……ふむ」(…この様子。…講義の必要性は大いにありそうだな)

【Sekimi】はその様子に、彼自身には《チャクラ》との相性があり、習得に対する素質のようなものを感じ、興味深く観察する。

「…わかった。……出番だ」

ガチャッ!!

…あ〜はいはいでさ〜、わての《専門闇主治医》セキミさん!

「……!!この声。……あ、アンタは……」

スタン!!

「おぉ〜おぉ〜でさ〜!…ようやく気がついたようでさな〜ヴェノさん!」

【Veno・nix】の前に現れたのは、【狼志組】一番隊隊長【Sogami】であった。彼自身は患者側の【Veno・nix】の表情を見て安堵したのか、笑みを浮かべていた。

「……ソガミ。…アンタがこの闇医者の元へ送ったのか?」

「…いんや〜…そう思ったんだとアンタさんは思ったんでさ〜が。…そうと違うんでさ〜…」(フリフリ…)

「…?…一体どう言う事だ?」

【Sogami】はこう彼に言った。

「…アンタさんは。…《【Progecter】》(プロジェクター)メンバーの生き残り。ヤクビシ(【Yakubisi】)さんに引き取られ、助けられたんでさ〜」

「!!」

「…………」

【Veno・nix】は組織名はともかく、その名前には聞き覚えがあった。

「…【Oya】の事か」

「………」

「?…オヤ?」

「【Hopera】所属の闇医者としての彼の名前でさ〜。…無論知ってる筈でさよな〜?…元アンタさんの一番弟子だった、それはそれは優秀な医者だったんで…」

「ソガミ!!」

「……!!」

「………」

【Sogami】の発言に【Sekimi】は無理矢理にも静止させる。

「私にはこれといった弟子はおらん。…医学生生徒であった《彼》以外はな…」

「…それが【Kunizu】という事か……」

「………っ!!」

ガチャっ!!

【Sekimi】はドアノブを掴む。

「…セキミさん。…何処に行くんでさ〜?」

「…これから《往診》なのだ。…私も忙しい身。…だから患者である君に話を委ねたのだ。……どうしても《闇事情》を知りたがる彼に…」(ジロっ…)

「…!!」

《…その覚悟があるのなら。うんと話してやれ》

ギィィ………

バタンンンッッ!!!

【Sekimi】は彼自身の目隠し越しの瞳を見つめると、その覚悟を見届け、ドアを開け現在請け負っている患者の往診へと向かった─────

「……」(一体何なんだ。……あの男は…)

「…はぁ〜…やれやれださ〜…仕方ない人でさな〜……」

コツンコツン……

スタン!

「……ではではヴェノさん。…これで二人きりでさな〜…」

「妙な言い方はやめろ。そんな趣味はない」

「連れん人でさな〜。…しっかし、まあ〜全く。ここまで偉い無理する人とは思わんかったでさな〜!ウチんとこの女局長相手に《タイマン》は流石に無謀でさよ〜……おまけにその後には《神隠し》に遭って居なくなって、あれから結構探したんでさよ〜…兎になって淋しそうにしてたんではと心配したんでさ〜…」(やれやれ…)

「ほっとけ。…俺は眠りについていた間、知らん間にあの世界へ訪れていた。…ただそれだけだ」

「…ふぅ〜ん。……まさか、ゴーグルの出力なしであの【水門波紋境界】の領域に辿りつく事が出来るくらいまで深く介入出来たと。……これは【陰陽道】の取得の見込みのある才能持ちでさ〜」

「…《陰陽道》?」

「…さっきドクター・セキミが話してた話題でさ。…そう。…《チャクラ》でさよ」

「……ここで、その《オカルト》話か?……いいだろう。……聞こう」

【Veno・nix】は回り諄くも《チャクラ》についての疑問を投げかける。その表情には、【現世人】の隠された秘密を知ろうとする《真理》の意志があった。

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜龍が如く0より・Pandora's Place

「…了解でさ。…ではわてソガミんによる【現世人】独特の魂の身体の仕組み。…まずはそれについての《講義》から始めるでさな〜」

その覚悟は確かにあると見極めた【Sogami】は【Veno・nix】に対し、説明する。

「…先程アンタさんが目を通した資料に記載されていた《チャクラ》と魂の身体…【現世人】自身特有の能力【Fiducia】の因果関係でさが。…これは確かに立証されてるんでさ〜」

「…根拠は?」

「あの時、【導き人】三姉妹の長女オーラルさんが言った筈でさ〜。…くれぐれも【Fiducia】《能力》の過度な乱用・使用は控えろって忠告をでさ」

「…っ!!」

・・・

《ですが…乱用はいけませんよ…あなたはまだ【Fランク】の立場。乱用することであなたへの負荷も大きくなり、制御が効かなくなり、最悪あなたの身を危険に晒すだけなのでそれだけは念頭においてくださればと思います》

「……乱用すると。…一体どうなっていた?」

その問いに【Sogami】はこう答えた。

「【Fiducia】の能力の過剰使用により、枷の役割を果たしてるリミッターが解除され、制御してる《【Sector】》って管理された1から7つある《チャクラ》の内、その何処かに大きな負荷と摩擦が生じて《中枢》に大きな負荷がかかり。……まあ後はヴェノさんがその目で見た、知っての通りのシナリオでさ〜」

「!!……その1から7と存在している《チャクラ》。…その役割。…一体何だというんだ?」

「さっき見た図の通りでさ〜♪…まずは基本から…」

【Sogami】は7つの《チャクラ》の概念について懇切丁寧に説明する。

・・・

まずはでさ〜。チャクラの基本概念とは、《東洋医学》の分野におけるカテゴリーとして《心力・精神エネルギー・霊力》に分けられてるんだわさ〜。───それらが生身の肉体と一体化して、真の活力と生気の源…《【Elementare】(エレメンターレ)》と学術ではそう呼ぶように捉えていたとして、現世でもヨガやら《スピリチュアル》な神聖なものとして広まり、行使されてたんでさな〜。元々《チャクラ》は現世の古代インドのアーリア語に属する語源。意味として円に円盤。車輪に轆轤(ろくろ)。主にヒンズー教や仏教の分野でも人体の頭部に胸部、腹部といった、それぞれの生命器官に宿る魂の存在として強く作用してたらしいんでさなぁ〜




《【Sector・1】チャクラ》
・生存・生殖概念並びに欲求・生命エネルギーに関与している。
・位置:生殖器官のあった奥。(※男女の外性器そのものは存在するが、その奥の穴は幻影の霧の如く《魂の蜜》に満たされた状態で視認される)
・カラー:レッド色属性       宝石としての意味合い:ルビー、ガーネット

《【Sector・2】チャクラ》
・自立心・行動力・感情・本能型・創造性をも持ち合わせる。自らの力で、理想とする人生を見出し、歩む意志を持つ。
・位置:臍下
・カラー:オレンジ色属性      宝石としての意味合い:カーネリアン、サンストーン

《【Sector・3】チャクラ》
・決断・ポジティブ・楽観型・みなぎる活力を引き出す要素を司どる。
・位置:鳩尾(みぞおち)
・カラー・イエロー色属性      宝石としての意味合い:アラゴナイト、オパール

《【Sector・4】チャクラ》
・愛・慈愛、無条件の愛情・情緒を慈しむ力を司どる。
・位置:心臓
・カラー:ピンク・グリーン色属性  宝石としての意味合い:エメラルド、ローズクォーツ

《【Sector・5】チャクラ》
・コミュニティーとなる人と人の繋がり・真実を見つけると同時に、自己実現に向かおうとする意志
・位置:喉仏
・カラー・スカイブルー色属性    宝石としての意味合い:アクアマリン、ターコイズ(トルコ石)・ブルー・トルマリン

《【Sector・6】チャクラ》
・人生の叡智の泉。自己の見識を深める《審美眼》の力を引き出す。直感力・想像力・洞察力・集中力といった要素を司どる。
・位置:眉間
・カラー:ネイビー色属性      宝石としての意味合い:サファイア、ブルー・スピネル、ラピスラズリ

《【Sector・7】チャクラ》
・霊視・霊感・閃きを重んじる直感的な力・インスピレーションを引き出す第六感の力を司どる。
・位置:頭頂部
・カラー:パープル色属性      宝石としての意味合い:アメジスト

インドの哲学書《ウパニシャット》からは、チャクラを知らずして解脱(げだつ)な霊的進化から肉体を脱する事は決してあらずと、そう書かれているんでさ〜

「…そして、本来はそれ以上のチャクラは存在しないと言われていたんだわさ〜。…せやけん。…もう一つのシークレットチャクラ。……即ち【Sector・X】それが存在するんでさ〜♪」

「……【Sector・X】?」

「……今から説明するでさ。…これはかなり重要な事なんでさ〜」




《【Sector・X】チャクラ》
・永劫なる宇宙・未現の可能性を持つ秘められし未知の力
・1〜7の【Sector】に分類されたチャクラを作り出した、それらを統括し《超越》する伝導者のような存在。
・カラー:ホワイト・透明・虹色属性 宝石としての意味合い:ダイヤモンド、レインボークォーツ、《水晶髑髏》

・・・

「……っ!!……つまり」

「勘が鋭いようで。…そうだわさ〜。…恐らくは、現世で刑事やってた兄さん譲りの《アリア》さんみたく、《刑事ノ勘》を持つアンタさんなら大いに想像出来る事でさな〜。…その要素取り入れ、今管理している人の《存在》がいるとするんなら。……あのオーラルさん三姉妹含めた……【現世人】を導く側の存在。【導き人】さんらが、この魂の身体に対して、何らかの仕組み作りに関与してるんは、これまた《事実》とも言えるでさ〜」

「…確かに。…辻褄が合うかもしれないな。…現に俺達【現世人】に対し、地位を与える前《特定死者》として認識させ。この世界へと《入界》させた時。あのような試練を与えた。…【Fiducia】自身の能力が、この分類された《チャクラ》によって引き出された力というのであれば。…合っていると言えるのやもしれないな」

【Fiducia】の言葉の意味には、現世のイタリア語で《信託》を意味している。【Sogami】自身が伝えたい事柄として、試練の際、現世で過ごしていた自分自身。【Paradiso】へ向かおうとする自分自身に対し、それ相応の実力があるかを試し、それを担う対価として《信託》する形で【Fiducia】能力を授けるといった仕組みではとこう推測する。

「まあ、それはあくまで《仮説》の段階での話なんださな〜。この話題を早速ウチんとこにいる女局長さんの伝で、オーラルさんにこの事問いただそうとしたんださが、見事はぐらかされたんでさなぁ〜」

「…そうか」

ヒラヒラ〜…

バサっ…

「?…お?」

「?…何だ?…資料から何かが落ちてきたようだが」

【Veno・nix】が目を通していた資料の一部から一枚の紙切れが見つかった。何やら文字が刻まれている。

「……?」(チラッ!)

《七彩蓮華》

「?《シチサイレンゲ》と書いてるでさ」

「……蓮華…《蓮》……という事か?」

【Veno・nix】は拾ったメモを見て首を傾げつつも、その四文字の言葉の内容を少しずつ紐解いていた様子だった。

「蓮。…!!…はは〜ん。……ドクター・セキミ。…どうやら《【Padma】(パドマ)》と言いたいんでさな〜」

「…《パドマ》?」

【Sogami】はこう言い放った。

「パドマってのはインドの言葉で《蓮》を意味してるんでさ〜。インド神話でもアンタさんは《ラクシュミー》という名、聞いた事は?」

「ない」

「即答でさかぁ〜…はぁ〜。さいでさぁ〜…ヒンドゥー教の女神さんの一人でさ。まあ富に美、豊穣の女神の意味合いを込めていて。…漢名では《吉祥天(キチジョウテン)》そう呼ばれてるんでさ〜」

「………」

「そのインド神話の女神さんは《三女神》の一人。…サンスクリット語では《トリデーヴィー》言うてて、それぞれ創造と維持、そして破壊といった意味合いが込めとるんでさ。彼女ラクシュミーの他に、創造神《ブラフマー》から配偶を受けて生まれた学習・芸術・文化の発達という教養の面でも重視されとる《サラスヴァディー》、漢名では《大自在天妃(ダイジザイテンキ)》シヴァ神の妻である戦神《パールヴァディー》を含めた者達に、必ず肖って添えられとるんが、この《蓮華》の存在で……」

「………それが一体何を示すというんだ?」

話を打ち切ろうとする【Veno・nix】の問いに【Sogami】はすかさずこう答える。

「悟りを開くという言葉があるように。…どうやらこの《チャクラ》基…その神話に基づいた現世の言い伝えの《神》による恩恵…《パドマ》を開きて、自ら《信託》せんとする【Fiducia】能力これ解放せし。…という事でさ」

「…!!」

ガタン!!

「………」

「…っ!!…おいちょっと待て。…それはつまり」

「1〜7つある《チャクラ》。そう認識していた常識はでさ。……ヴェノさん。未だこの深い《謎》に気づいてなくも、密接に関わりあって、あらゆる相手の《嘘》を暴く《チャクラ》の力…《心眼》の本能に目覚めつつあるアンタさんが鍵となり。…今ここで七つの彩った光の蓮華…《【Padma】パドマ》という認識として、たった今、新たに定義付けして変わってしまったんでさ」

「…!!」

【Sogami】の言葉に対し、【Veno・nix】はすかさず反論する。

「ほざいてろ!!…実に気まぐれな解答で、馬鹿馬鹿しい愉快な雑談話に過ぎない……」

「まあ〜そうでさな〜。…《現世》でこんな話題してたら、さぞタチの悪い、ただのテロリズムを起こそうとする反社の《宗教団体》にとっても餌として《富と名声》を築こうとする、大好物そうな話題でさな〜。…ま、この世界でもそれを楯にした【真・ユートピア創造士隊】の御一行さん方がいるのもまた事実でさ。…案外それが《重視》されているとも言えるでさ。…現にヴェノさん。。アンタさん自身が《ドクター・セキミ》の手術によって、まだ移植したばかりで目が見えてなくも、《シヴァ神》の如く、第三の目…まあ、《サード・アイ》いう《暗視能力》持ちの力。…所謂《心眼》の内の力を発揮しては、こうしてわての姿を観測出来てるんでさで〜」

「!!…っ……腑に落ちないが……そうなるか。……ったく、気に入らない《オカルト》話ばかりだ。……道徳を疑う」

ガタン!

【Veno・nix】はそのまま椅子に座り直す。そしてこう語りかける。

「この話から推察するに。…あのセキミという男は、俺達【現世人】の次のステップとなる、新たな《可能性》を今も模索してる。…という訳なのか?」

「そういう事になるでさな〜!…まあとはいえ、あのドクターがその為にとアンタさんが関わった、《マッドサイエンティスト》みたく、非人道的な人体実験に加担し、関与しているとは。…まあ、わてにはとても考えられないんでさ〜」

「根拠は?」

【Veno・nix】は男に対する疑いの目を向け、追求を続けている。その姿勢に【Sogami】はやれやれと言わんばかりの姿勢を見せる。

「…あの目には《人情》が確かにある。…ただそれだけでさ」

「………」

【Sogami】は、専属のかかりつけ医師であるからなのか、【Sekimi】の事を信頼している様子だった。

「…?…待て。…一ついいか?」

「んん〜?なんでさか〜?」

「…この図を見る限り。…【Sector・X】という未知の《チャクラ》基…《【Padma】(パドマ)》があるとお前は言ったな?」

「そうでさ」

「……何か一つ。…見落としてはいないか?」

「?…どういう事でさ〜?」

【Veno・nix】は、メモに書かれた《七彩蓮華》という四文字の言葉に、ある一つの提唱をする。

「もし、1〜7に分けられた中の内、天高い場所に【Sector・X】があるならば、他にはないのだろうか?」

「?…他でさ?」

「言葉にするなら。…《天地》という言葉だ。…不遇な形で【現世人】としてではなく《零》としてカウントされ。…更に下の立場となる暗がりの奥深くの闇………」

「大地だとはとても言えない地下の地下。………【Sector・0】と、そう言いたいんでさか?」

「そうなるだろう。…現世での俺自身の経験談からか。…あの時オーラル達の試験を受けずしてこの世界へ訪れるも。…【Fiducia】の能力に目覚める事が一才なく、除け者扱いとして、不遇な立場に追いやられた者達が願い行きついてしまい、その場に縋りつこうとする場所。…恐らくはそのカテゴリーに含まれるのではと。…そう思ってな」

「ほほ〜!…それはそれは興味深い話でさな〜。…となれば、さっきの要領で当てはめると。…闇深く、世界に不吉な風評を染み付かせた、6つの《宝石》の意味合いを含めてでさ…」

カキカキ……

《【Sector・0】パドマ》
・暗がりの暗部。誰も立ち寄らない《魔ノ禁域》の地
・深層ノ闇の領域
・カラー:漆黒属性  宝石としての意味合い:《ジェット(忘却)》、コ・イ・ヌール・ダイヤモンド(不幸)、デリー・パープル・サファイア(不幸)、ラ・ペレグリナ・パール(破局)、ブラック・オルロフ(呪い)、ブルーダイヤモンド(呪い)、ホープダイヤ(呪い)



「?……ジェット?…不吉が絡んだ出来事の中で。…そんな宝石の名があったのか?……そもそも、それを含めてしまえば、6つではなく、7つになってしまうだろ?」

【Sogami】自身が提唱した節に何かしらの追求をする男【Veno・nix】。それを相手は、以前対峙した《偽善》と《救済》を装った脅威ある者が脳裏に浮かび、それを選んだかのように言い放った。

「いんや。…これは案外《黒歴史》を終わらせたいって意味合いを込め《忘却》という言葉を。…もう一つ《宝石》に当てはめてみた。…………ただ、それだけでさ〜」

「?………」(ソガミ。……一体、何を隠してる?………先程から何だ…?…この違和感は?)

【Veno・nix】は【Sogami】が記した、新たなる力の根源【Sector・0】について、何処か《不吉》なものを感じ取っていた様子だ。それは今まで非現実的な敵と対峙したとはいえ、今回明らかにされた【現世人】の魂の身体の器としての機能とシステム。それらの要素を含めつつ、頭の中にある女性の存在について問いただす。

「まあいい。………とりあえずはわかった。…もう一ついいか?…ソガミ?」

「…?…何でさか〜?」

「…アンタ。…優花。…いや、《アリア》に会ったのか?」

「………」(…ほう。…いよいよそれを聞いて来たでさか〜!)

「……どうなんだ?」

【Veno・nix】は真実を知ろうと、【Sogami】を問いただす。

「…んで?…何でここで《アリア》さん?…それは一体どっから湧いて出て、その話題を振ってきたんでさか〜?」

「…《刑事の勘》だとか言ってお前が出してきた話題だろ…?…もうはぐらかせはしないゾォっ!!」(ギロッ!!)

ダァン!!

「………」

【Veno・nix】の表情は険しかった。本能では、自分が《彼女》自身と会えない日々が続いたばかりに、ある危険な事に関わっているのではないのかと内心察していたからであった。その様子に【Sogami】自身は、まるで相手を話の聞かない凶暴かつ獰猛な《黒豹》を見ているかのように、すくりと立ち上がる。

「……しゃあない人でさな〜…」

ガタッ!

「…アリアさんは、確かにこの町【Kagoya】にいるでさ。…ある日【Varisk】のある男をこの町で保護したらしいんでさ〜。…せやけん治療を終えた後、その男は行方をくらませ、アリアさんも自らを《スイーパー》と言い放ったまま。…行方をくらましたでさ」

「……っ!!ふざけているのか!?」

「信じる信じないのはヴェノさん。…アンタ次第でさ。……まぁ〜…」

ジャキっ…

リィーーン…♪【冥鐘】

「…!!」

「わて自身が、世間では《赤血》のソガミと言われているくらい周りから恐れられとる一人。…その脅威となり得る【現世人】を前にして、よくアンタさんはビビり上がらないのが不思議なもんでさ。…余程ウチんとこの《局長》さんと戦って鍛え込まれたのか。…あるいはその夢の中の世界で、この【Paradiso】で未だ明かされる事がない…隠された闇事情の一部を誰かによって伝えられ。…時既にと《闇》がアンタさんの身体を蝕み、染まり上げられて何も感じなくなったのか。…そう言ったところでさか〜?」(ギョロッ!)

【Sogami】は突然【紅ノ壱刃】の刃を【Veno・nix】に見せつけると、まるで現世の《英国》でも有名な架空の龍の生物ドラゴンのような眼差しを見せる。彼自身は、所属している【狼志組】の中でも一番隊隊長の立場からか、任務とはいえ、限りなく暗がりの闇の中に染まる覚悟の上で、最前線へと赴いては敵の首を幾度となく斬り飛ばし、返り血を浴びて滲んだからなのか、彼自身が着用している軍服はワインレッドのように見せてはいるが、かつてそれは《白い軍服》として見せていたのではと思うくらいに、不自然にも深く染め上がっていたのだ。故に相手からはその様から《赤血》のソガミと言われ、周りからは恐れられる程の武力を持ち合わせている。風貌からは《狼》という事の他に、自称《炎ノ竜帝》という異名をも付けた自分がそれを物語っているように目付きは鋭くなっていく。

「………」

「……挑発のつもりなのか…ソガミ」(ギロッ!)

「いんや。……これは《警告》でさよ〜ヴェノさん。…たった今、もう講義の時間は《粛清》へと切り替わったんでさ〜。……これからアンタさんの実力。…とくと見定めさせてもらうでさ〜。……かなりの《暗がり》を通る事になるでさ、しっかりとついてくるでさ〜……」

「……っ!!」

ガタンっ!!

【Veno・nix】と【Sogami】は敵対する運命の運びとなった。言うなれば《対価》という事である。内部事情をただ聞くだけには留まらず、それを知ったからには、それ相応の《覚悟》があるのかを【Sogami】は【Veno・nix】に対し、委ねていた様子だったのだ。その狂い出した歯車は、時に隠されていた裏の《真実》に繋がる事を彼自身はまだ知らない─────






🎼Back Ground Music 》》》



♪〜ENDER LILIESより・A Nocturne for All




その頃

〜【Paradiso】歴2000年:7/9・昼方【J島】【Kagoya】・【河原木亭】〜

コツン……コツン

………ついてしまったか。……。セノくん。…元気にしているだろうか……

スッ…

リィーーン…【冥鐘】


〜♪

「〜♪…ふう〜♪…皆様…無事に巡回されてますでしょうか…少しばかり心配ですね〜…」

時は昼方。場所は【河原木亭】の和の一室────そこには、滞在中の【R・P】社所属ギルドの者達が町の警備の為にと外出し、今ここにいるのは、管理を任されている長きの時を過ごす【現世人】【Senno】(センノ)のみであった。彼女自身は【R・P】社に対する恩義があるのか、この家を長年管理している身であった。

タッタッタ………

チィーーン………

「………っ」(…カワラ様…)

そう。嘗(かつ)て主としてこの【河原木亭】の領主として過ごしていた、【現世人】【Kawara】(カワラ)の意志を受け継ぎ、今も彼女はこの家を代々守り続けているのだった。彼女は仏壇へと合掌し、目の前の写真の者と、この【Paradiso】の世界を訪れて日が浅かった自分が世話係として彼の隣にいた当時のツーショット写真を見て話し始めた。

「…カワラ様。…このセノ。…今も元気に、この【河原木亭】で元気に過ごしておいでです。…【R・P】社の方々はとても明るく、賑やかで…まるであなた様が現世でお好きになられていた…《螢》のようにとてもキラリと光り輝く希望を照らしております。……ですが…」

ギュッ!

【Senno】は胸を噛み締めながらこう話す。

「…私はこの世界に来て、老ける事もなく、当時の…《22歳》程の姿をしておいでなのです。……それが黶(あざ)になってしまい。…この下町奉行を生業とするあの人に目をつけられてしまいました。……あなた様の《弟君》だと言われていた【Kunizu】様。…しかし、私には分かります。…その弟君の方を装った…まるで別人の顔をしたあの方に…私は……!!」

ポタポタ………

【Senno】は涙を流していた。その者に何をつけ込まれたのかは不明瞭であるが、彼女からは《悲愴》の涙が溢れ、溢れていた様子だった。

「…《言霊》が伝えるのか。…あの方は…準備が整ったからと、この地区を含めた【Kagoya】の町全土を引き払い……自らの《帝國》にしようと目論んでいるように感じられるのです…私には分かるのです…私自身の【Fiducia】が訴えかけているのです。…あの時、ハクローさんとベアさんの側で笑顔に話しかけていた《座敷童子》さんとは違い………あのお代官様が発する…《毒気》を帯びたドス黒い欲望が。…再び《大火》の悲劇を招こうと。……そう目論んでいるのではと……うぅ……グスっ……」

ザッザッザ………

「…やはりここにいたのかね?」

「!!……せ、セキミさん……」

「………」

【Senno】の背後にいたのは、医者の【Sekimi】であった。どうやら彼女の往診にと【河原木亭】へ訪問に駆けつけていた様子であった。

「……ちゃんと呼び鈴を鳴らして入ってきてください……」(ポロっ…フキフキ……)

「【冥鐘】の一つの手法である《言霊》を通して君に知らせた筈なのだがね。……《霊能力者》の君になら無論、聞こえている筈だったろう?…だが君の返答はなかった。…緊急事態と思いすぐさま中へと入ったのだ。……まあ無事だったようだがな」

「…先程鐘を鳴らしたので、紛らわしく聞き取れなかったのだと思われます…」

「…そういうことか。……さて」

スクッ!

チャッ!

ボアァッ!

「………」

「………」

【Sekimi】は仏壇の前に座り、線香を立てて鐘を鳴らし、【Kawara】の写真を見つめる。するとこう呟く。

「…彼が大火での事件で亡くなって…もう10数年になるのだな」

「…はい」

「……すまないな」

「何故謝るのですか?」

「……すまなかった」

「………」

【Sekimi】自身は、【Kawara】と何やら関わりがあるようだ。そして世話係であった、彼との関わりが深い【Senno】に対し、申し訳ない気持ちにいた様子だ。

「……謝っても、あの人が戻ってくる事はありません」

「…理解している。…だから私は長年、【現世人】の《メカニズム》を研究し、君の【Fiducia】である《霊視能力》を高め。…【Kawara】君の無念を晴らそうと…」

「もう放っておいてあげて下さいましっ!!!」

「!!」

「……っ!!…」(ポロポロ……)

【Senno】の目には涙が溢れていた。

「もう…放っておいて下さい…そのせいで…私は…決して関わってはいけない、あの弟君のクニズ様の姿をしたあの欲に塗れた奉行者に目をつけられたのではないのですか!!??」

「!!」

「…ぅぅ…グス……」

自ら保身に走ってしまった彼女の頭の中には、当時の【Kawara】との思い出が頭の中に過る─────

・・・
・・



🎼Back Ground Music 》》》



♪〜サザン・オールスターズより・蛍

〜時は数十年前・ある島の貧民街〜

タッタッタ……

『…はぁ…はぁ……』

ポタポタポタ……

ザザ〜ッ!!!

『キャッ!!…あ…雨…っ!!』

バシャっ!!

『っ!!…ゲホっ!ケホッ!!』

ザザーーッ

『……止みませんね……っ!!』

オマエハココデシヌ…

カゼヲヒイテネツヲオコシ…

ソノママ《冥界》ヘトトモニイコウ

『…!!…い…いや…!!』

いやぁああアアアアッッ!!!!!!!!

ザザーーーッッ!!!!!

『ぅぅ……ひもじくて…寂しい。……私は…別に好きでここに来たかった訳ではなかった。……村の習わしとして…あの《寺》の人間として住む事が苦痛で…私はその場所から逃げるように…そして…今降り出している以上の大雨に見舞われ…運も悪く《土砂災害》に巻き込まれ。……その後は《摩訶不思議》にもオロアさんに導かれるように、この【Paradiso】の世界へと。…ふふっ!…あの時の《鬼ごっこ》は人生の中で一番楽しかったですね〜♪…特に、人生で初めて《男》という殿方をこの目で見て…あのように屈強な殿方と一緒に…男同士で抱き合うという事まで…///……本当に……』

ザザーーッ

『…ですが…彼女達が照らして下さったその灯火も…もうすぐ私自身自らの手で消えるのですね……すみません……本当に………これならば…あの時【Fiducia】?と呼ばれる能力を発現する試練の案を…素直に受け取っておくべきでしたね……痩せ我慢は…身を滅ぼすとは…まさに…この事で………』

ばたり………

・・・

フワ〜…フワ〜…

『……?…光…?』

フワ〜…フワ〜…

『……!!』

ガバッ!!

『……!!こ、ここは!?』

コツンコツン…

『おや?…目が覚めましたか…お若いレディー?』

『…!!…あ…あなた様は…!?』

『おおっと!…お待ちください。……どうか警戒しないで頂きたい!…ここは【J島】の【Kagoya】という町の【河原木亭】です!…あなたは他国の島で雨に打たれ、とても寂しい思いをされていたのか、《苦悶》に満ちた顔つきでもあった為、放っておけず、私が素敵なレディーであるあなた様を保護させて頂きました!!』

『…!!…そ…そうでした!………私は。……?…あの、あなた様は男の方なのですか?』

『?…え、ええ。そうですが?』

『では。……あの…まさか…私の身体を…///』

『!!///こ、これは失礼致しました!!…しかしあの状況で気を失っていた以上、不可抗力かと!!…ですがご安心を!!///…私はただあなた様の染み付いた泥を洗い流して着替えを着させただけです!!///決して行為に走るような事は何一つ御座いません!!///』

『…?…行為とは?』

『!?///…と、所であなた様は…一体?』

『…はい…実は…』

・・・

『…そうですか。……【Senno】さん。…君は現世では女の方だけしか暮らしていない《秘境》と呼ばれる村で育った【現世人】女性の方という事ですか……』

『…はい。…私はその村で長年過ごし、22歳の時に《祭》という事で…《寺》の者として出向く予定となっておりました。…しかし…』

『その運命を拒絶し、自ら村を出たという事ですか?』

『…はい。…そしてそのまま《土砂災害》に巻き込まれてしまい。……この世界へと…ですが【Fiducia】の力を持たない私は誰一人とて相手にはされず、命欲しさにずっと逃げ惑う生活をしておりました。……そこに…』

『私が君を見かけ、こうして話をしているという事ですね?』

『…はい』

『……そうですか』

スクッ

『…?』

『…ふふ〜ん♪…ならば』

ダキッ♡

『…!!///…え?』

『よく分かりました。…さぞ寂しかったでしょう。…お辛かったでしょう』

チュッ♡

『…///…私の額に…あなた様の唇が……あ…あの。…これは一体…?///』

『先程。…私が君に言った異性同士が行う《行為》の一つです。…ですが勘違いをしちゃあいけません。…あくまでもこれは人と人が触れ合うハグ。…《愛情表現》というものです』

『…!!///…これが…《愛》…///』

『どうです?とても心地良くて…温かいでしょう?』

『…は。…はい///…それに、この胸の中がとても脈立っていて…さっきから…《ドキドキ♡》としているんです…///…あの、これは《病気》なのでしょうか?///』

『いえ、違います。…これが《人情》…人独特の温かみなのですよ』

『…人情…///』

『……嫌でしたか?』

『…いえ…寧ろもっとこうして…その…///抱き締めていて…欲しいと…どうか今は…私を離さないで下さいませ…///』

『……まさかあなた。…私の事を』

『はい。…気に入りました…///…これから私【Senno】は…あなたにお仕え致します。…例え生まれ変わっても、【Kawara】様。…あなた様の元へと舞い戻り…共にお仕え致します』

『…!!…【Senno】…君は……?』

ヒラヒラ〜

『!!…こ、これは……《蛍》ですか?』

『!!…き…綺麗……とても…』

ヒィーーン!!!!

『!?…この光は…!?【Fiducia】!?』

『!!…え?…これが【Fiducia】!?…【導き人】様の試練を受けなかった私が……何故…』

ヒラヒラ〜

『……《奇跡》の光だ』

『…え?』

『…【Senno】…いや、《セノ》!!君は自らの心に光を照らしたのです!!』

『…私…達?』

『そうです!…セノ!…君はここに来て、《怨霊》や《亡霊》の囁(ささや)きに悩まされていた、その《闇》に。…自らの力で光を差し伸べたのですよ!』

『!!…私が…』

『そうです!…君は決して無力ではない!……私には分かるのですよ。あなたには確かなる《希望》を感じるのですよ!』

『…!!…はい!…ですが【Kawara】様。…これは決して私だけの力では御座いません』

『?…どう言う事です?』

『…フフッ!これは…【Kawara】様…あなたが私に初めて、《愛》という人の感情を、初めて芽生えさせて下さったお陰です…///』

ダキッ♡

チュッ♡

『!!///んんぅっ!?///』

『…ンフっ♡…ンンンっ♡』

ギュッ……♡

ポタ……





〜時は流れ・数年後に起きた大火の日〜



ダァン!!!!

『ぐぁあっ!!…ぐっ!!』

バタリ!!

『!!……か……!!カワラ様ぁっ!!』

ダキッ!!

『カワラ様ぁっ!!…しっかりしてくださぁいっ!!!』

ポタポタ………

『…セノ。…大丈夫ですか?…どこも怪我はありませんか?』

『!!はい!…私は無事です!!…ですからぁっ!!』

バチバチバチ………

ポタポタ……!!

ザザーーッ!!!!

キラキラキラキラ……!!

『!!…こ…これは…』

『……すみませんが、私とした事が深傷を負ってしまいました。……このように《昇華》が見られてしまった以上。…私はもう助かりません。……セノ。…君だけはどうか避難を…』

『お断りします!!…私も共にあなたと…』

『なりませんっ!!』

『…っ!!』

『セノ。あなたは生きるのです!…私の持つ《光》を君自身が灯し、照らして差し上げならなくてはなりません……!!』

『く、クニズ様ぁぁっ!あ…!!ああ。……いや…!!嫌ァアアア!!!!…あなた様がいない生活なんて…私、考えられません…』

ポタポタ…

『…全く、今の君の顔は。…あの時初めてお見かけした当時そのではありませんか…』

ピトッ!

『……!!』

『…セノ。…君の事を生涯見守って下さる方々と、私は関係を持ちました。…その方々は君が困った時、必ず力になってくれる事でしょう。……さあ、今ここが火で巻き込まれていない内に早く進み、避難しなさい。…どうか…《蛍》のように』

《暗がりで誰かが闇に染まりし時、必ず光となりて、あなたとまだ見ぬ方々が。…あなたを導いてくれる事でしょう。…我々をこの世界へと導いて下さった【導き人】様のように……必ず…》

バチバチバチ……!!!

ダァーーン!!!!





〜時は戻る〜

「………」

「…あの時、焔火が私を襲おうとしていた時、カワラ様は私を導き、助けてくださいました……自らの最期を看取られることもなく……」

「………」

「……ですから。…どうか私達の事は放っておいて下さい!!…お願い…します…どうか……」

「……ふむ」

コツン…コツン…

【Sekimi】は彼女の悲しみ表情を見ては、心苦しいものがあったのか、少しばかり背を向けて後ずさる。それでも自らが訴えかけたい言葉を彼女に伝える。

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜TOKIO・宙船

「当時……カワラ君とクニズ君の二人は。…《殺人》という《犯罪》に加担した者として、元々政府からは《粛清》の対象と見做されていた」

「!!…あなたまで有りもしないカワラ様方に対する《誹謗中傷》をっ!?」(キッ!!)

「………そして数十年の時が刻みし今、【Paradiso】歴2000年となった時を見計らい。…ここ【Kagoya】の町全てを破壊し尽くし、その後我欲な政府の派閥集団…仮名《宙ノ船(ソラノフネ)》。…その者達が舵を取り。…あたかも二人を《生贄》として再利用する事で一新される《維新》。…その悲劇の《魔弾》を再び彼らは起こそうとしているのにかね?」

「……!!」

【Sekine】はその非情な現実が迫った言葉を【Senno】に投げかける。

「そ、それは一体どう言う事なのですか!?……カワラ様…クニズ様、兄弟方が……《生贄》!?…あなたは一体…何を……!?」

「……すまないが。…もう我々では隠しきれない黒雲の《闇》がもうすでに迫ってきているのだよ。…セノくん。カワラ君が君に照らしてくれた光によって。…そう。…カワラ君とクニズ君はただ暗殺されたのではない。…元々は…《何者》かが長年計画し、この時を刻みし今となってようやく明らかとなったのだ。…彼らの真の目的である《譜面》のスコアのように奏でられた……」

《國威計画》によって…

「…っ!!」





〜その頃・【Veno・nix】サイド〜

コツン…コツン……

「……ここでさ」

「……!!…こ、ここは?」

ワーッ!!ワーッ!!ワーッ!!

ふふっ!…いらっしゃ〜い♡お客さ〜ん♪

歓迎するわね〜♡…ウフフ♡

長い路地を抜けた【Veno・nix】が目撃したのは、周囲がピンク色に染まった、繁華街のような場所であった。しかし、その場所は光に照らされる事がなく、ピンク色の桜の形をした照明に照らされたその建物には、はだけた姿をした色気のある女性が手招きして客人を持て成す光景が広がっており、何処か訳ありの場所にも見えていたのだ。

キャキャッ♪……ウフフ♡

「おい、ソガミ。……これは一体どういう事だ?…こいつは一体!?」

「…これがこの【Kagoya】の《闇》の真実なんでさよ〜ヴェノさん。……この町の…所謂《地下帝国》てのはでさ。《正義》だと言う戯れ事の綺麗事では済まされん……《賭博》や違法な薬物を打ち込まれて隔離された《嬢》までも沼と化して、…現世でいう《風俗》の意味なしてる色町《遊廓》。……そして…」

ワーッ!!ワーッ!!ワーッ!!

ザシュッ!!!!

あぎゃ〜!!!!

「…!?」

イエ〜イ!! ギャハハ!!!! 勝ち勝ちィィ〜♪ 今日も儲けさせてくれたぜェェ〜!!!

「…コロシアムか…」

「ただの《コロシアム》とはちと訳が違うだわさ〜ヴェノさん。……ここは文字通り。…本気の殺し合いの《審議》をする場所でさ。……《御用見廻組》が確保した罪人に富を築き、儲ける為にだけじゃあなく、新たな《軍閥》を築きあげ、武力開発を図ろうとする人身売買の連中が運営して仕切ってる場所なんでさ…」

「!?…っ!!」

ガシッ!!

ダァン!!

「………」

「そういう事か……っ!!ソガミ…貴様ぁっ!!」(ギロッ!!)

【Veno・nix】は【Sogami】に対し、胸倉を掴み、強く睨みつける。

「……一体何が目的だ?………先程《粛清》と言ったが…《罪人》の身分として確保した俺を…どう裁く謀りとするつもりだ…?」

「………決まった事でさよ〜ヴェノさん。……アンタさんに宿す【Padma】(パドマ)…【陰陽道】の素養ある力を駆使し。…《法》に従事する必要悪の者としてここを牛耳る《御用見廻組》の顔をした人間の化けの皮の正体を剥がし、真実を炙り出してもらうまで。…それも《今日中》にでさ。……それがリハビリ完了も兼ねた《ドクター・セキミ》がアンタさんに託した真の伝言なんでさ〜!」

「…!!」

【Veno・nix】は目の前にいる【Sogami】が決してハッタリでモノを言っている訳ではないと理解した。ここを牛耳っている《御用見廻組》内に潜む闇が、この町の陽があるように、必ず陰で塗り固められた《暗部》の現実がここにあると彼は知った。唯一残されたのは、遠くの地で輪廻のように回る灯台の微かなる《蛍》の如き灯火の光を頼りに、江戸時代の船乗りを意味する《水夫》としての立ち位置となった、《黒豹》の風貌を漂わせるただ一人の男に委ねられたのだった。

「さ〜て、どうするヴェノさん?…どちらにしてもこれは《タイタニック号》のように、最初は豪華な楽園を味合わせ、後は生き地獄といった《惨劇》と言える苦しい目に遭わせられる。…まさに《波瀾万丈》の《人生》そのものを物語っていると違うんではないのでさな〜?」

「……ほざいていろ。…ソガミ。…そんな戯言。…アンタには。…どうも似合わん…」

「ほおぉ〜!このクールな感じの雰囲気。…やっと半年前に会ったばかりの《朴念仁》だったヴェノさんらしさが戻ってきたでさな〜…わて、やっぱりそっちのアンタさんが好き…大好きだわさ…///」

「やめろ気持ち悪い」

「(・ー・)」(ショボ〜ン!)(つれない人だわさ〜…)

【Veno・nix】はクールにあしらい、目の前の劣悪なコロシアムを睨みつける。目は見えなくとも、確かなる自信があった。目の前にいるのは確実な悪人そのものが巣食う者達が待ち構えているであろうという事を。だからなのか彼自身は──────

「………」

……ジャキン!!

「…なんだかんだ言いつつ、乗り気でさな〜ヴェノさん♪」

「…お前の《粛清》という言葉を借りる気はない。…俺にあるのは違法な薬物を使い、女共を喰い物にする為にこの囲いの中に閉じ込めたクソッタレな悪党共。……その者達を俺は一人残らず…噛殺し…!!!」




《断罪の意を込め、刈り取ってやるだけだゾォっとォォッッ!!!!》



ワーッ!!ワーッ!!ワーッ!!


…お?何だ?挑戦者か〜?





オラオラやっちまえ〜!!





し、信じられな〜〜〜いィィ!!!!!!





圧倒的実力ッッ!!!!…突如現れた《心眼・黒豹》…ど…怒涛の…!!!


《100人抜き達成ダァァ〜〜!!!!》

ブンブンブン!!!

チャキリ!!

「……この程度か?」

ウォーー!!!!

未だに相手は衰えを知らずゥゥ!!!…だが、いよいよここで最後の挑戦者の登場だァァ!!!!!

ザッザッザ………

チャキリ…

「…………」

「……?」(重厚兵という奴か?)

さてさて〜!!これより新参者《心眼・黒豹》とォォ〜!!…これまでこのコロシアムにて数々の者達を闇に葬ってきた、闇社会に生きる重厚戦車〜!!……その異名はァァ〜!!…偉大なる十字架《グランド・卍(クロス)》!!!!…最強の者の称号はどちらに転ぶのかァァ〜!!??

「………」

「………」

両者の目つきから合意と見做して宜しいィィなリィィィ!!………これにて殺し合いの《エキシビションマッチ!!》………

始めたりィィッッ!!!!

黒豹の男が現れたコロシアムは一気に血気が盛んな闘いの雄叫びの渦が巻き上げた。その男は瞳には何処か白く濁っていたが、金髪のように煌びやかな光が宿っていたように見せていた。彼自身は現世にて《薬物所持》が原因で一人の女性の人生が狂わされた暗黒時代を経験した。その為《陽》には似つかわしくない《陰》の存在として生きる事が多かったのだ。だが決してその事を後戻りする事はなく、別れの際には涙を流す程に《人情》の感情をも芽生えていたのだった。そしてここから深々とした《闇》を暴こうと、荒れ狂う荒波に立ち向かおうとする一つのノアの箱舟が出港された──────




   
B. いいえ


《Capitolo・6》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》





♪〜大逆転裁判2より・プロフェッサー


〜【Paradiso】歴2000年:6/22・【E島】【Velkana】・兵隊駐在場〜

タッタッタ…!!

「…!!」

ダァン!!

「く、クニズ様!?」

「ど、どうかどうか落ち着きなさってくださいませ!」

「ホッホッホ。…罪人の身柄を確保しに来たというのにお主ら…!!一体何をグズグズしてるでおじゃる!?…何故に【Dail】と【Jeil】氏二名がいないでおじゃるのか!?」

「そ…それが…」

「ええい答えるでおじゃる!!まろを一体誰と心得ているでおじゃるか!?検屍官の権威かつ【Kagoya】の下町奉行代官…【Kunizu】であらせられるのだぞ!!」

ダァンン!!!

時は遡り、【Dail】邸事件の翌日。【Kunizu】は【Velkana】の街を訪れ、重要参考人である【Dail】と【Jeil】の身柄を拘束に出向く。しかし街の兵隊からは、確保された罪人は既に移送された事をただ知らされる。

「…!!うぅ〜…一体何奴がまろの許可なく。…勝手にぃ〜」

チャキッ…!!

「…っ!!」

「……静かに。…耳障りで五月蠅いし、邪魔」

「な、なぁっ!?」

【Kunizu】の首元に刀が突き立てられる。そこには《彼岸花》のような《紅》を漂わせた《高潔》なイメージある華のような男が刀を持ち、睨みを効かせていた。

「き、貴様あぁ〜〜!!まろを、まるでぷんぷん飛ぶ《蠅》のように邪険かつ、ぞんざいに扱いおって。…この曲者めぇ〜!!出会え出会っ!!」

トントン!!…ガシッ!!

「!?」

「…すまないが。…少し静かにしてもらえるだろうか?…【Kagoya】の奉行代官…【Kunizu】」

「!!…き、貴様は…!!そうか。…お主らの仕業だったか…幕末通りの【狼志組】…いや、最底辺の下町モグリの集まりの薄汚い《野良狼》共ぉ〜め…」

「………」

ジャキっ……

「!?」

「…いい、ナルサメ。…刀を引け」

「…了。…副長」

ジャ…キン!

リィーーン…♪【冥鐘】

彼を静止させたのは、【狼志組】副長の【Fukabe】だった。そして事の事情を説明する。

「今回の事件で確保した罪人だが、当に我々が手回しさせてもらった。…安心してください」

「!!ぐぬぬ。……!!ふ、ふざけるなでおじゃる!!…麻呂の許可なく勝手に……!!」

「これは【御用見廻組】最高総司令官直々の指示の下で我々は動いたまで。…あなた自身が独断で出向く事ではありません」

「…!!」

【Fukabe】はあくまで自分達は、現世でいう【新撰組】の幕府からの《密命》を受け、任務を遂行したという事を告げる。

「戯けた事を!!……フカベぇぇ…!!」(ギリギリ…)

「ここで無用な騒ぎを起こすようならば、私があなたの身勝手な《所業》を上に報告しないといけなくなる」

「…っ!!」

「あなた自身の最近の奇妙かつ奇怪な所業。…我々は見逃しているとお思いでしたか?」

「…!!ぐ…ぐぬぬ…」

「…では、我々はこれで。……あなたの行動は他の密告者が囲んでいる為、下手な行動だけは取らないように…」

ザッザッザ……

そう言うと【Fukabe】は、その場を立ち去る。

「………ッッ!!」(ギリギリ……)(今に見ていろ。…必ずや貴様らを駆逐してやるぞよ…一匹残さず…必ずや!!!)

後ろから恨めしそうな表情をし、裏で何かを企んでいた奉行代官の者を残し─────





〜【Paradiso】歴:2000年6/22・【E島】【Velkana】・街外れの教会〜

バサバサ……

「……ベルナ。…終わったぞ」

チャキリ……

リィーーン…♪【冥鐘】

【Fukabe】はその後【Bellna】の墓地がある街外れの教会を訪れていた。腰に巻いていた刀を抜刀し、【冥鐘】を鳴らし、今回の任務を伝える。

「……今回の任務は無事に終えたようだが。…我々も多忙の身だ。今こうして少しだけの時間を過ごす事を…どうか許してほしい。…ご機嫌取りになるやもしれないが。…君の《車》は無事に押収し、夫である彼に渡すように手配しているから」

バサバサ〜…

コツ……コツン…

【Fukabe】は教会の壁へと向かうと、その壁越しにいる者の存在を察知する。

「……ルーシス君か?」

…分かるのかい?

【Fukabe】は壁の影に潜み、隠れていた【Lu-cis・H】の存在に気づき、まるで闇に巣食う情報屋と密会しているように話しかけていた。

「姿を見せなくとも、気配で分かるよ。……無事に終わったようだな」

……そうだね。…でも君も大変のようだ。…ベルナの車を取り戻す為とは言え、上にも取り合ったとはね。…無茶をしたものだよ

「ここぞという時は私が彼女の為にと、行動を起こしたまでだよ。…車はこの教会の物陰に潜ませているから。…後は君の仕事だ。…頼んだよ」

…わかった。……恩に着るよ。…ねえフカベ君

「?…なんだい?」

……またいつの日にか。……今回起きた【Dail】邸での騒動。…その《闇》が再び迫ってくる時。……今度はこの壁ではなく、君と面を向かって話せる日を設けておきたいんだ。…その時君は。…僕と御対面してくれるかい?

「…フッ!…ああ、勿論」

……ありがとう。……フッ!

「…フッ!」

コン!!

【Fukabe】と【Lu-cis・H】は壁越しから拳を当て、まるで《友情の誓い》を交わすかのように、契りの約束を交わす。そして二人の約束は皮肉にも交わされた。陰の《闇》に潜伏する者によって─────






〜時は過ぎ〜

〜【Paradiso】歴:2000年・6/28・【C島】【Xiol】内部:司法裁判所〜

コンコン!!

「であるからして…【Dail】邸の主である【Dail】……貴様の判決は【死刑】を求刑する事とする!!…執行の日にまで、自分の犯した罪を反省する事だ!!」

「…………」

コクリ……






〜留置所内〜

時は過ぎ、色欲ノ罪を犯した【Dail】は、敢えなく死刑を求刑され、執行の日まで陽の届かない密室の牢獄へと誘われ、閉ざされる。

ガシャン!!!!

「………っ!!」(ただの肉体労働の奴隷として過ごし、見返りもなくコキを使われていたワシは…!!突然あの時…あの《者》が現れ。…差し出してきた貴族の身分並びに邸方の屋敷を設け、只ひたすらに心の欲望に潜ませる《色欲》の限りを尽くし、その《地位》を守り抜かんとせよ。……と。…見事欲に目が眩み。…こうして《色欲》ノ罪を背負ってでもその地位欲しさに、《女》共を我が《奴隷》に仕立て上げ、あの《者》に利益と情報を献上した。……それがこの有様。……無念だ…実に。……だが…このワシはここでは終わらせはせんッッ!!…どうせここで死ぬのであれば…こうなれば…!!)

《ワシを陥れた……!!貴様ら諸共、道連れだ!!》

コツンコツン……

ペラッ!!

ヒラヒラ〜……

バサっ!

「?…なんじゃ…これは…?」

ペラッ!

・・・



【Dail】は、突如上から舞い降りてきたその《電報文》を読んだ数日後、何者かによって首を刈り取られ、斬首を執行された。だが不思議な事に、その密室の場所は関係者以外、誰も知り得る事が出来ない為、侵入は不可能であるとされていたのだ。また牢獄の壁には何一つ傷等が付いておらず、留置所内の現場検証にて知り得た証拠は─────

ぽんぽん……

フワァ〜…

……?…これは?…《虫》の足跡でしょうか?

…それに不自然だ。…この一帯だけには血の痕跡がない。

あ、見てください!!…この排気口に、虫の足跡らしきものが!!

つ、続いているッッ!!??

小さな虫の様が這い出て来たような、《摩訶不思議》な痕跡を残したままであった。しかしその後、被害者となった【Dail】の死体を回収し、その後真実を探究する《検屍》─────

それが、彼らにはとても予想だに出来ない、未知なる《惨劇》事を招く事態が起こってしまったのだ。





それは、【Xiol】に所属する《検屍官》による、《遺体処理作業》をしていた時────

「……」「………」「………」

カチャリカチャリ………!!!

シュ〜………

「!?」

「な、なぁにっ!!??」

「ヒィッ!!??……こ……これは………【Dail】氏の…い……遺体が……」

「腐食が……進んで……いる…だと……」

シュ〜………

「!?…お、おい!?お前の手!?…何か変だぞ!?」

「…?…え?」

ジュジュ〜ッッ……!!!!

ぐにゃり………

「っ!?…な…!!なぁっ!?」

突如、《検屍官》達の内一人が手袋をし、遺体を損傷させない様にと徹底していた手袋が、まるでカカシに吊り下げられた軍手のように紙粘土細工の如く、あらぬ方向へと捻じ曲げられ、手袋と防護服の間に覗かせていた手首には、紫色に変色した醜い肉体として《検屍官》達に襲いかかって来たのだった。

ドクン…ドクン……ドクン…ドクン……

「お、おい!?…お前の顔も…何か紫色に!?」

「…え?…!!……あ……ぁぁ………!!!!!」



うわぁああああああああああああああああああっっっっ!!!!!





検屍官達は、その地下の《死体解剖室》内部で惨たらしく《屍》と化していた。混乱を招かぬよう、【Ruves】はこの事を【Xiol】内にて内密とし。事件を起こした犯人を特定する為、派遣された【狼志組】二番隊体調【Niyano】と協力し、事件捜査をして行く内に二人の容疑者となる《黒幕》と遭遇する。一人はまだまだ精神が未熟な《偽善者》の仮面を被る者。それはあくまでカモフラージュとして派遣させ、本業の殺し屋【Varisk】の中でも《死神》のコードネームを持つ出生そのものが《闇》に包まれ、染め上げられた《キメラ》として、かつての二番隊隊長の同胞となる者達を悪趣味にも運命と真相を捻じ曲げようと、そのような形で事件を《虚飾》に彩ろうとした事件の《黒幕》は──────





【Paradiso】歴:2000年7/5【J島】【Kagoya】内部の地下道路内

コツン……コツン

「……フォッフォッフォッ!!……ククク。…麻呂は今とても清々しいぞよ〜♪…あやつ、やりおってくれたぞよ〜♪…見事この麻呂が開発した《毒》を持ってあやつを始末し。…本来のこやつ自身の古巣であった【Xiol】に深刻な損害をくれてやったぞよ〜!!」

その数日後、【Kunizu】は自らが開発したと告げる毒を持ち、古巣の【Xiol】内部にて【Dail】の遺体を媒介にまるで爆弾のように着火させて毒を流し、騒ぎを大きくしたのだった。その騒ぎを起こした以上、只事ではないと察した部下の一人が、【Kunizu】に反論する。

「…クニズ様。…確かにあなた様が作り出した恐るべき毒の殺傷能力によって、【Xiol】の組織は大きな損害とダメージを負っている筈ではと。…ですがこのまま悪目立ちをすれば、いずれ奴らが尻尾を嗅ぎつけてきます!!」

「ええい、この愚か者めが!!…だからこそ一人の汚れ《狼》を始末したではないかぞよ〜♪」

「…!?」

【Kunizu】は、今回の事件を誰かによる内通者がいたのか、事件の経緯を知っている様子だった。その惨状を聞いた【Kunizu】自身は、確かなる確証を得たとして、まるで悪魔のような卑劣じみた笑みを浮かべる。

コツン…コツン…

「……だがしかし、麻呂の正体を知ろうとする。……実に不愉快な《不届き者》がいるのは確かな事であるぞよなぁ〜…この町に潜伏している以上。……早急に駆除し、始末せねばいかんの〜!!」

「…それは、普段口にしている、あの《方》が目指す理想郷の実現の為に。……ですか?」

「そうぞよ〜フォ〜ッッ!!…フォッフォッフォ〜〜ッ!!!!……?…………所で其方。……一体何者ぞよ〜?」

「…………」

「……まさか、其方もまた。……《曲者》とな!!??」

「…っ!!」

シャッ!!!…ボン!!!!

「!!」(煙幕…!?)

相手は【Kunizu】の追求から逃れる為、煙幕を忍ばせていたのかそれを誘爆させそのまま姿を消す。

シュ〜………

「……迂闊だったぞよ〜…この麻呂の本当の正体…を…知ろうとしおったな。……この【Fictus】(フィクツス)の完全なる《野望》を阻止する者が現れたというぞよか……!!実に不快な…《ドブネズミ》めがぁーーーーー!!!!!!!!」

ダァン!!!!

・・・

〜その後〜

タッタッタ!!!

ササッ!!

ガバッ!!

「…ハァ…ハァ………あの【Kunizu】と名乗ってた、あんの《悪代官》。………とんっでもない悪だったようね〜……危ない危ない……どうぞ〜…」(トランシーバー変成器声)

ココッ……

「…全く、あの男の側近に化け、情報を聞こうとするとは。…無茶をする《娘》でござる。…【Aria】殿とやら…」(変成器)

「んもう!…だからすみませんって!!…《町刑事》の【Kyog】さ〜ん!!」

コツン…コツン…

トントン!!

「ぎゃっ!!……!?」

【Aria】は突然誰かに肩を叩かれる。そこにいたのは連絡を取っていた【Kyog】自身であった。彼自身は仮面を被るも、お転婆な彼女の行動指針から、まだまだと言わんばかりの表情を口で表現し、無線を封鎖して口頭で話をする。

「…大声を出すなでござる。…まだ奴等が息を潜めているやも知れぬ」

「あ、ご、ごめんなさい!」(…近くにいるのなら出て来なさいよ〜…危うくハンマー取り出す所だったじゃあないのよ〜……)

【Kunizu】の側近に化けていたのは、【Aria】自身であった。どうやら彼女は密偵として活動しており、【Kyog】と協力し、事の真相を確かめていた様子だったのだ。

「……だが、アリア殿。いかにしてあの男の持つ兵器…《毒》について調べておるのでござるか?…」

「…!!…そ…それは……」

…アリアサン……ナゼ…ワタシヲアノトキ…《キュウサイ》シテクダサラナカッタ……?………コノ……《ヒュドラ》トナッテミニクイスガタニナッテデモ……ワタシハ………アナタヲ………

「………」(フルフル……)

【Aria】は相手には決して言えない《何か》を抱え込んでいた様子であった。彼女自身は、《聖職者》としての道を歩んでいたのか、何かしらの《聖痕》を抱え込んでいたからか、何かに胸を締め付けられる悲痛な表情を浮かべたまま、首を振っていた。

「…そうでござるか。…気持ちは察するでござるよ。…だがこれであの【Kunizu】と名乗る男に、一歩近づいて来たように思うでござる。……一つだけ、お主に伝えておくでござるよ」

「…?…一体、何ですか?」

「…【Dail】邸の主が殺害され、その側近であった、【Jeil】(ジェイル)という縄使いの男。……その男は今【R・P】社の騎士ギルド【Soldate】(ソルダーテ)が捕虜として捕らえていると風の噂で聞いたでござるよ」

「!?」

【Kyog】の突然の発言に彼女はその情報源となる根拠を問いただす。

「……その情報。…一体誰から聞いたの!?……それにあなた。…私と初めて会った時《刑事》だとか言って身分を名乗ってきたけど。……本当は一体何者なの?」

「後者は余計な詮索事でござる。…無用な発言をする場合なら答える義理はないでござる」

「っ!!……分かったわ」

「理解してくれるのなら良いでござる。…あの【Jeil】と【Kunizu】と名乗る二人の者には……何かに通じている《因果関係》があるでござる」

「…!!…それって…」

「拙者が話せる事はこれくらいでござる。……そして、もうあの道化の者と接触する事は、金輪際避ける事でござる。……過去の亡霊。…蛍の異名を持つ者達。…《ヘイケ・ホタル》の存在を知ろうとする者は必ずや《闇》へと引き摺り込ませる。…誰であろうとでござる」

「……!!」

【Kyog】はこれ以上【Aria】に対し、もう《闇》に踏み入れるなと忠告する。しかし彼女の返答は─────

「…嫌よ」

「…………」

「…私は《真実》を求めてでも追求する。…現世で死んだ兄貴が私に教えてくれた、《刑事ノ勘》が、さっきからここに警笛を鳴らしているのだから!!」

…ヒィーーン!!!!

「…!?」(こ…これは……まさか。…《チャクラ》の素養でござるか!?……それに彼女の背後には……神がいるかのような……この《威圧感》…は!?)

コォー……

【Kyog】自身も《チャクラ》の心得があるのか、【Aria】自身の【Sector】のある力が作用している事に気づくと同時に、彼女の背後に立つ、神々しい何者かの存在を感じ取った。

バリバリバリ……

「………」(これは。《帝釈天の霹靂(タイシャクテンのへきれき)》。…雷。……ヒンズー教の…《インドラ》の相…?……!!いや、それだけではござらんっ!!………)

ゴロゴロ……

「キョグサン。……もういいでしょ?…私だって、この世界に来て半年間の間、伊達に《神聖術》ってやつに磨きをかけてきた訳じゃあないのよ!……ただ護り、加護で護られるだけの【現世人】で、もう終わらせたくなんか無いんだから!!」

バリーン!!!!

ゴゴゴゴゴゴゴ…

「……っ」(……この力強く荒々しい性格の中には、北欧神話に出てくる、《雷神トール》の相までも、ここまでハッキリと見えてしまうとは。……驚かされてしまったでござるな……)

【Kyog】は彼女自身の発する、隠れ持った潜在能力をその目で観測した様子であった。彼女自身に対し、彼はこう言い放った。

「…お主はお主なりの、譲れない《正義》があるのでござるな」

「…ええ」

「…ならば、まずはここに行くといいでござる」

ペラッ!

「…?…これは?」

そこに書いてあったのは、ある者の隠れ家であった。リストには【Zeal】と名前が書かれており、普段屯している居場所等が書かれていた。

「………拙者の古くからの知り合いがここにいるのでござる。……どうするかはお主に任せるでござるよ」

「どういうつもりよ?……【Zeal】って。…っ!?…ちょっと待ちなさいよ!?…この【Kagoya】の町を騒がせてる《人斬り》の名前なんじゃあないのッ!?」

「…お主が、【G島】【Olfes】の【Siel】所属の救済長【Oriana】殿の下でその《神聖術》とやらを学び、その者の教えがあるのならば、その者を正しい方向に向かわせ、手助けするくらいなら訳などは無いでござろうと思ったのだが、時既に遅く、今既に状況が変わった。……その者が過ちを犯す前に。直ちにお主自身の手にて救いの手を差し伸べるでござる」

「!?……い、一体何言っているのよ!?」

【Kyog】は【Aria】に対し、もしもの時は人斬りの【Zeal】に救済の手を差し伸べるべしという指令を下した。そして彼女自身が、この町に来た経緯を述べて、《最終忠告》する。

「…【Sekimi】にも接触したお主になら、その者を《救済》し、今回の事件の真実へと辿り着く事が出来るでござろう。……ただ、《闇》に染まらず、こなそうという概念は。……今すぐにここで捨てるべきでござろう」

「…それは、脅しのつもりなの?」

「………」

【Kyog】の問いに対し、【Aria】はこう答えた。

「…残念だけど、今更そんな発言になんか動じないッ!!……言ったでしょ?…私は《兄貴》の意志を継いででも、あの《悪代官》の化けの皮を意地でも剥がしてやるわよ!!……その為なら、《オリアナ》さんの名前だって利用する。…ただそれだけよ!!」

「それは。…拙者含め、この《ヘイケ・ホタル》事件に関与する関係者の名前。…それだけは絶対に告げないという《契り》を交わし、覚悟を踏まえた上にて、申しているでござるか?」

「ええそうね。…そのせいで昔も…そして今だって、数々の人達が、あなたの言う暗部の《闇》の底へ落ちてしまったんでしょ?……半年前から存在している《爆弾魔》や、さっきあなた自身が言った《縄男》の主が殺された時にでも、仕組まれた時計仕掛けのオレンジのように見立てていたんでしょ?……この、現世にあった《死神ノート》みたいな《電報文》の存在が、この一連の事件全てを。……《誰》かによって描かれて物語っているようなもんじゃあないのかって」

ペラッ!

「……む。……」(…やはりお主も関わっていたでござるか。……《厄災の男》によって殺害された【Velkuy】騎士団長の【現世人】…ロベル氏を葬る前日に贈られた予告状…《ステルベンの電報文》の存在を…)

・・・

『キョグ。…すまないけど、その約束は出来そうにないんだ。…僕は君が追っている《Vordenker(※ドイツ語で黒幕を指し示す)》の刺客に、僕自身が名付けた《Jargon(※ドイツ語で隠語を意味する)》ではあるけど、これが贈られてきた。……死神の如く。……必ず死を呼び込む電報の知らせ。…《ステルベンの電報文》がね。……僕が手を差し伸べた…彼らを次々と殺め。……遂にはその毒牙は僕へとね。………この一件は出来れば関係者であるあなた自身は。……今は関わらないで欲しい!!……こうなった以上は。…【Velkuy】騎士団長の誇りとして。…いや、この世界に来て出会った【狼志組】の志士の人達の為にも。…僕自身は…ここで示しを付けなくてはならないからね!!』

「…………」(……アリア殿の決意。……これは、あのロベル氏にも通づる何かを拙者は感じる。……一体……何が…)

「……だから決めたのよ!!…この事件は何としてでも私自身の力で《解決》するって!!…だって…そうでもしないと。……《あの人》が……」

ポタポタ………

「……!?」(…涙…)

『…アリアさん…』

「……報われないじゃあないのよ………」(ミレイ…さん………)

ポロポロ………

【Aria】は涙を流し、叛逆を起こす前の彼女【Mireisia】の温かみある表情を思い返していた。どうやら彼女自身は、それが彼女の本当の側面であり、《叛逆》に加わった悪逆に叛いた方の側面は、何者かに化けた者が企んだ事と信じて疑わなかったのだ。彼女の信念には、どんな局面でも法によって《罰》せられる者達が後を絶たない。しかし《法》では決してそのものを裁く事は出来ない。ならば真実をこの眼(まなこ)見通していくしかないと言う献身的な姿勢で立ち向かおうとする。

「………よく分かったでござる」

スタッ!…タッタッ…

「!?…ど、どこに行くのよ?」

「…その覚悟の故が確かならば、拙者からはこれ以上の介入は無用と判断したのでござる。……だが、無茶だけはするなでござる。………命を《粗末》にする者は、例え同胞の【現世人】とは言えど、一切容赦はせぬ!!」

リィーーン…【冥鐘】

ザワッッ!!!!

「…ッ!?」(な、何なのよ…!?この風圧と……圧力!?……やっぱり、ただの刑事とかでは……なさそう!!)

【Aria】は目の前にいる【Kyog】の発するプレッシャーの前に押し潰されそうになる。彼自身もまた、《信念》に背く事もなく、只ひたすらに自らの信念を貫かんとする。

「…ええ。…情報感謝するわね」

「………達者でござる」

ボンッ!!

「…………」

【Kyog】は煙幕を使用し、その場から去った。

「……っ!!」(…でも手がかりはあったようね。…どうやら、この町に潜んでる辻斬りが所持してる、あの《毒》は…クニズと名乗ってる《悪代官》が何か握ってるに違いないわ!…絶対にあの奥に潜ませてる醜い化けの顔…剥がしてやるんだから!!……でも。…まずは……)

タッタッタ………

【Kyog】さんが言ってた、その【Zeal】(ジィール)って人。…その人なら、何か知ってるかも知れないわね……









🎼Back Ground Music 》》》



♪〜大逆転裁判より・越えた論理


〜その騒動から数日後〜

〜【Paradiso】歴2000年7/8・夕方【J島】【Kagoya】下町通り・ある空家〜

「…………ッ!!」

ガバッ…!!

「………ここは。…私の拠点……ですね。…一体…」

気がついたようね。

「…!?」

ガバッ!!

「…っぐ!!」(…毒に侵され……腕が…疼き…痛みますね。……一体誰ですか、この女は…)

「……」(この人が…人斬りジィール…でも酷い腕の負傷ね。……変色していて、かなり危険な状態ね……)

【Aria】は倒れていた【Zeal】の身柄を確保し、手当と治療を受けていた様子であった。

「…やめなさい」

「やめない」(…オリアナさんなら何とかなるかも知れないけれど。……私だと…)

「…っ!!」

やめろと言ってるのです!!!!

「…!!」

「…っ!!」(ブン!!)

カンッ!!

「…ぐっ……!?」(は、弾かれた!?…《結界》を張っているというのですか…?)

「…っ!!…ちょっと!?…危ないんじゃあないのよ〜!!…って、だから無理しないでって言ってるでしょ!?…只でさえあなたは怪我してるんだからぁ〜!!」(アセアセ)

【Zeal】は抵抗しようと、声を荒げて腕を振るい、【Aria】に接触しようとする。しかし身体を触れようにも、目の前に透明な壁があるからか弾かれる。【Zeal】の腕は激痛で疼いており、身体を前にして蹲っている。

ズキ…ズキ…

「……ッ!!」(腕の毒がどうやら《骨》にまで……ッ!!思った以上に進行が早いようですね…)

「ちょっと大丈夫なの、あなた!?…はぁ〜…まあいいわよ。…これだと都合が良いと思うし!」

「?…一体何を言ってるのですか?…あなたは一体?」

「…ゴホン。……本来なら私の救済長の名前を出す所なんだけど今回は別。…私は現世人アリア(【Aria】)。…あなた人斬り容疑をかけられてる【Varisk】所属の【Zeal】なのでしょ?…」

「…何処からその情報を?……?……アリア。……それに救済長…?……っ!?…なるほどそういう事ですか」

「…え?…な、何よ?」

【Zeal】は【Aria】の名前を知っていた様子だった。するとこう話す。

「あなたの事は知っておりますよ。…今から半年前、この【Paradiso】を訪れた【現世人】。……この《毒》の生成に深く通づる人物の一人である事をね」

「…!?」(……えっ!?)

【Aria】は困惑した。突然【Zeal】から告げられた事実を知り、混乱していた様子だったのだ。

「…な、一体何の事なのよ!?…そんなの私知らないわよッ!?…デタラメを言わないでよ!!」(キッ!!)

「誤魔化しても無駄ですよ。…この半年前に起きた《吉夢》の現象による【Sognare】暴走事件。……その間あなた自身は、ある機密組織に所属する一員として、私の身体を脅かそうとしている《毒》を完成させ、【Paradiso】に住む、地位の高い貴族の者達に、この《毒》を盛り込ませ、始末して来た情報を。…我々【Varisk】が知らないとでも?」

「…っ!?」(そ、そんな。……一体何が起こって…!?…でもこの人の言う真実は。…決して《ハッタリ》ではなさそうね!……一体どういう事なのよ…?)

【Aria】は論理的な観点から推測しようとする。自らは本当にその《毒》と関わった《記憶》は一才ない。彼女自身は、救済の街【Olfes】の【Siel】にて、只ひたすらに《神聖術》の研究に明け暮れた。同胞である【Mireisia】が救済の旅から帰ってくるその日まで、ずっと取り組んでいたのだから。

「…そして、私を惨めにもここで殺そうと目論み。トドメを刺しに来たというのですね。……よく分かりました」

「ちょっと待ちなさい!!だから落ち着いて…」

コンコン!!

「!?」「!?」

あのぉ〜すみませ〜ん!!…【Kagoya】の運び屋《デリバリーサービス》の者であります〜!!…誰かいますか〜?

「…!?」

突如、部屋内に響き渡ったのは、外から配達業者を名乗る者の声であった。【Zeal】と【Aria】自身は警戒する。何故この家を知っているのか、誰がこの場所を教えたのかについて疑問がよぎる。

「……」

「……」

コンコンコン!!

誰かいませんか〜?…お〜い?

「……」(どうする?…どうすれば?)

「………」(……刺客。…ここまでですか……)

二人は《居留守》を決め込む。

……う〜む。…留守と。…やれやれ。…仕方ないな。………!!






《早う開けんがってなぁぁッッ!!!!》

ダァンッッ!!!

「っ!!」「…ひぃっ!?」

相手は本性を晒したのか、扉を更に強く叩きつけた。それは正に、《裏社会》の事務所に、警察の鑑識の者がこれから《ガサ入れ》をするかの如く轟音が鳴り響く。その響き渡る怒号によって、一気に部屋中が揺れる。

ガタガタガタ……

「うぅっ!!…な、なんて轟音ッッ!?」(…じ、地震のような地響きがしてきて…!!耳が響いて、頭が痛いわよっ!!)

「…これは…ノイズ…音響を操っているというのです……か……」

ガチャガチャガチャ!!!!

「〜っ!!くうっ!!」(ドアノブの音が、まるで私の耳の奥で響き渡って…きて……!!)

「…っ!!」(……音響…を操る能力の……【Fiducia】…!?…ま、まさか……この扉の先にいる者は…!?)

ガチャガチャガチャガチャ……!!!!

ダンダンダン!!!

相手は一向に能力を解く事も、恐喝の如き怒号と怒涛を一切止む事がない。このままでは自分達の意識が遠のくと感じた【Aria】はドアノブに手をつけて言い放つ。

「……わ、分かりましたから…今開けますんで…」

カチリ……

「…!?」(…出来れば、止して欲しかったのですが……)

【Aria】はドアの鍵を開錠する。

「………」

ギィ……

するとドアからは物音がしなくなり、ゆっくりとドアが開いていく。

…コロコロ……

《【R・P】社・【Grazia】(グラージア)医療物資!!》

「…!!これって…」

「!?……【R・P】社……」(…ハクスローが所属するギルドの…ですが、一体…何故…!?)

扉の前に置かれていたのは、一つの箱であった。配達人の姿もなく、送り主の情報は、《【R・P】社・【Grazia】(グラージア)医療物資》のみとなっていた。ただそこには、『どうぞお開けください』と書かれていた。

「……」(…仕方ない。医療物資なら何かあるかも知れない。…誰が持って来たのかはわからないけれど、ここは後に引けない!!)

バリバリバリ……

……ッ!!

バコン!!!

「…ッ…!?」

「キャァ〜〜!!!!!!??」

パラパラパラ………

「………っ!!」

ビシュ〜〜ン!!!……スタッ…!!

「…!?え…ええっ!?」(…ひ、人ぉッ!?)

「……!?」(…あ…あなたは……!?)

「…………」

運ばれて来た荷物の中には、《人》が入っていた。その男は銀髪の長髪で両サイドに分けられており、黒いコートを身に包ませ、何故か左目を瞑っていた。





🎼Back Ground Music 》》》



♪〜BJより・Memories of BJ

「……ふう。…思った以上に時間がかかったようだ。……元気そうだな。…【Zeal】」

「………まさか、ここでお会いするとは思いませんでしたね。……【Oya】。…いえ。…ドクター【Yakubishi】」

「…!?…や、ヤクビシ!?(【Yakubishi】)……この【Paradiso】の世界の《医学》の分野でも、博士号として《医学博士》の異名がある、医師の権威だとか言われてるっていう。…!!あの!?」

「………」(チラ…)

【Aria】は【Yakubishi】の功績を知っていた様子だった。彼女の特徴と服装からか、見覚えがある為に《アイコンタクト》を交わし、見つめて言葉を投げかける。

「……【Oya】だ。そういうお前さんは。…《ヴェノ》が探してたっていう《アリア》(【Aria】)のようだな。…情報通り《23歳》程の容姿をした、上下ジーンズ服のお下げをした【現世女】。……間違いなさそうだな」

「…?…ヴェノ?……一体誰よ?」

【Aria】は、現世では《霧矢豹策》と名乗っていた、【Veno・nix】のニックネームを聞かれてもイマイチピンと来なかった。【Oya】自身はやれやれと言わんばかりに、【導き人】の言い付けに背く事ではあるが、口頭で述べた。

「…この世界で現世での名前を発言する事は、時に《執行人》を呼び寄せてしまう事があるから、あまり宜しくはないと言われている筈だが、まあそんな試しはこの【Paradiso】に来て一度もなかった。…まあ文書とかにサインをする時、自筆でうっかりと書いてしまえばありえるかも知れないだろうがな…」

「…っ!!」(キッ!!)

「………ま、いいだろう。…現世人【Veno・nix】(ヴェノ・ニクス)。…現世では《霧矢豹策》と名乗っていた《麻薬取締官》の男の名だ」

「!?」(…霧矢……さん……)

「……」(そうですか、今から半月前に起きた、【D島】での爆破事件の重要参考人の名前の男。……まさかこの娘と接点があるとは。…これは驚かされましたね)

【Yakubishi】は、【Veno・nix】の現世での名前を聞いた【Aria】は慌てて、彼の所在を聞こうとする。

「ちょっと待ちなさいよ!?何であなたが知っているのよ!?…霧矢さん…!!いえ、その…ヴェノさんは今一体何処にいるのよ!?」

「………」

カチャリカチャリ……

「…!?」

カチャリカチャリ……

【Oya】は黙々と自分の持つ《医師鞄》を取り出し、薬品及び医療器具を取り出していた様子だった。

「ちょ、ちょっと!?…話聞きなさいよ!」

カチャリ……カチャ………リ……

「…ハァ〜。……!!!」





やかましいザァッッ!!!これから《オペ》の時間だァァ!!!外野はすっこんでろォォァァッッ!!!!!

「…っ!!??」(ビクッ!!)

「……」(……なるほど。……あの時の怒号はあなた自身のチンピラ気質の本性から発せられた声でしたか。…そして、その怒号を外には響かせず、この部屋内部にのみ効果をもたらしたのは。……恐らく……)

【Oya】の放った一喝から、【Aria】は黙り込む。彼自身は《二重人格》があるのか、荒々しい性格の自分と、本業の医者とする、冷静沈着な仮面を付け替える《術》を持ち合わせていた様子だった。【Zeal】自身は、今回彼を派遣した人物に何やら心当たりがある様子だった。

カチャリカチャリ……

「…ですがあなた。……あの方にも通じていたとは驚きましたね。……【狼志組】九番隊隊長【Kyusaku】(キュウサク)……… 」

「…俺が闇医者としてアイツの主治医を担当している。……確かお前の…」

「……ふふふっ。…もう昔の話です。同じ道場仲間でしたね。……今となってはあの者が私を《粛清》に来るとは。…何とも皮肉な者ですね。…だからこそ、憐れみを感じ情けなのかこのようにして現れた事に《虫唾》が走りますね。…一体何故生かすのですか!?」

【Zeal】は、【Varisk】における、敗者には《死罪》をが鉄則な《暗黙ノ掟》に背く事なく、このまま《毒》に冒され、命を散らそうとしていた。その様子を【Oya】は心情を察したのか、こう放った。

「…安心しろ。…苦しまず、そのまま楽に死なせてやる。…《安楽死》処置をして……早急にな」

「…!!」

「ちょ、ちょっと!?」(……安楽死)

【Oya】はある一つの《薬品》を手に取る。そこには《Heavens・Dead》(楽園死)と書かれていたのだ。

「………あなた。……そこまで堕ちてしまったのですか?」

「安心しろ。…現世でも経験した事だが、人はいずれ《死》が必ず訪れる。…《医者》っていうのはいつの時代だって非情だぜ。神が与えた死の《天命》をも跳ね飛ばし、延命してでも患者を生かそうとする。…そんなもんに一体何の意味があると。…《昔》現世で過ごしていた頃からただひたすら考えさせられたぜ」

「………」

「…ユートピア人からすればよォ。………つくづく哀れな存在じゃあないのかァ!?……どんなに偽善立てして、長い時間を死の概念も老いる事も無く、ただ魂だけの肉体として生かされている、俺達【現世人】って種族程…!……生身の身体として生を実感し《命の尊厳】といった意味を感じる事すら出来ずして、ユートピア人の者達を冒涜し!!…時には残酷な手を使ってでも駆除する《輩》が増え続けるだけだろうとなァーーッ!!」

「…っ!!」(な、何この人!?た、態度が急に変わった!?)

スッ……

「…それは…違いますよ。…ドクター・ヤクビシ…」

「…!?」

【Zeal】は【Oya】の抱える心労から表れた苦悩の感情に介入し、話し始める。

「……私自身、そこに置かれている杖に見立てた刀を使用しておりますが。……《暗殺剣術》を【Makiras】様の元で学んだ末。……闇に堕ちてしまった私が言えた事ではありません。……しかしながら、あなたは決して《中途半端》な腕で、その《安楽死》の術を実行したと。…私にはとても思えません。…あなた自身。……何か譲れない《信念》がおありなのでしょう? 」

「………」

「…【Zeal】さん…」

【Aria】は二人の会話のやりとりを不安そうながらも見物する。

「…俺は医師だと名乗っているが、本当は《医者》としての才能なんて何一つもなかった。…医者の真似事ばかりで、医療技術は叔父からの医学書の手順書を齧って独学でただ学んだだけ。……ただ、それだけだ。…ここに来て、俺自身の【Fiducia】が覚醒し、目覚めるその日まではとな」

「………」

「………」

【Oya】は少しばかりの追憶を振り返る─────









🎼Back Ground Music 》》》



♪〜grobeより・Here I am

〜【Oya】の追憶の記憶〜

『………』

『…これで、あなたの試験は合格と致します。……ですが【Yakubishi】さん。…あなた様に最後にお聞きしましょう。…自らの信念を持つ頭でっかちなあなた自身は、この世界で一体、何を為そうと願っておりますか?』

『俺は、この【Paradiso】の世界で…医者になりたい。……!!祖父のように救えない患者を救う為に!』

『…それをあなた自身は……人や生き物の生命を左右してでも、本来歴史上では助けられない患者をその手で助けてしまい。……本来進むべき歴史流れを狂わせてしまう事を自覚した上で…なおかつ人の命の尊厳を守るという事を……自ら如何にわかっておいででそう発言したのですね?……いつか、その自覚した事に対し、よく見ない輩者の出現により。……報いの矢があなたに降りかかるのやもしれませんよ?』

『…当然の事だろうが。……《人の命》には変えられないんだからな』

『………』

『…とはいえだ。……オーラル』

『……?』

『…医者って生き物はさ。…死を迎え入れる神に抵抗し。…。今まで幾度となく叛逆してきたクソッタレの職業だよ…今も…昔も。…。だからこそ。…救われない患者には長く生きて貰おうとは考えない。……命の尊厳が守られるのであれば、いくら非合法な事をしてでも、俺が《安楽死》を施して…安らかに眠ってもらい、救うまでだ』

『フフフ!…面白いお馬鹿なお医者気取りさんが現れましたね〜♪……では、示してご覧なさい。…《死神さん》!!』

ゲシッ!!…メリィッ!!!!

『うごぁっ!!!』

ヒューーン!!

『お〜っ!!新記録ですね〜イール姉様〜♪』

『そのようですね、オロア。…オーラル姉様。今回は少しばかりご立腹なご様子ですね』

『ウフフ♡…神の感謝がまるでない、ぞんざいな発言をするだなんて〜♪………!!全く!!///将来《医者》や医学の道を歩もうとされる、《医学生》の方々の事をよく考えた上で発言して下さい!!///……はあ〜……最近の【現世人】さんはガラが悪くて自分本位の素行が悪い方々が増えて困ります!!…まだまだ《ピチピチで若い20代前半》の決して年増ではない私が言うのもなんですが、近頃の【現世人】の若い方は目上の人に対する口の聞き方が全くなっておりません!!///…今度からは少しばかり試練も厳しく…………///』

クドクドクドクド………





『…野郎。……オーラル……腰を強く蹴りすぎだ!!!……今でもまだまだ痛むぜ……ったく』

『…ぐ…ぅぅ……』

『……!?…誰かの声が聞こえる!?……!!向こうか!!』

タッタッタ!!!

『!?』

ドドドドドドド………

『………』

『……誰か倒れているぜ…!!くそっ!!』

ビリィッ!!…ガシッ!!

キラキラキラ………

『…!!』(傷口が深いのか…患部から溢れてくる血のような……まるで宝石のように煌めいてる残渣物が止まらない……)

『………』

『…!!クソっ!!…止まれ…!!』

止まりやがれぇぇっ!!!!!

ヒィーーン!!!!

『…!?』

…オマエノノゾムネガイハナンダ?

『!?』(一体、誰の声だ!?…どこから!?)

チカラガホシイカ?

『…!?』

ドンナチカラヲオマエハホッスル?

『………』

ハカイカ…ソレトモ…

『…!!』

やかましいだぁッッ!!!!

!!

『…今怪我人の手当てをしている!!…野次なら他所でやりやがれ!!!!』

………

ヨカロウ……

ソノミココロノウツスカガミノママニ………

ヒィーーン!!!

『……!?』(身体に光が…いや、それだけじゃあない!!……これは…)

『…ぅぅ…』

ドクン……ドクン…

ギュィーーン!!!!!

『…!!』(見える…!!何だ!?…この男の身体の中に。…それぞれ七つの宝玉のようなものが見えている…その中でも、この心臓あたりに配備されている宝玉が、まるでモーターのように高速回転して回っている!!)

ギュィーーン!!!!!

キラキラ………

『…!!…そういう事か!!……俺を含めた、【現世人】っていう種族の魂の身体ってのは、《オーラル》が言ったみてえにちっとばかし《特殊》な出来のようだな……』

カチャカチャ………

…ドクン……ドクン………

・・・

『……!!』

ガバッ!!

『…ハァ…ハァ……ここは……?』

『…気が付いたか?』

『…!!…君は…一体?』

『…俺は、今ここを訪れた【現世人】の者だ。…さっきアンタが暗い道端で酷い傷を受けて倒れかかっていたのを見かけて早急に応急手当てを施行し。……ひとまずはこの古屋へとアンタを潜ませたという訳さ』

『!!……そうか。…礼を言う。…この包帯は君が巻いたのか?』

『…まあな。……アンタ。…名前は?』

『私は。…《医学博士》の【Sekimi】(セキミ)だ。……この巻き方。……君には《医学》の心得があるようだね?』

『…俺の父方の祖父が癌で亡くなり。…その後医学を志そうとした。…だがその矢先で事故に遭遇した。…それからはこの有様という事だ……』

『…なるほど。…そうか。……君の名は?』

『……』

《【Yakubishi】だ……》





その後、俺は【Sekimi】(セキミ)という男と出会い、【Paradiso】の世界での《医学》分野の講義を受けた。俺自身が芽生えた【Fiducia】の《オペ能力》は、【現世人】のみだけでなく、どうやらユートピア人の手術や治療でも高く評価され、時にセキミと共に戦場へと足を運び。《軍医》としても活躍した。その甲斐あってか、戦果を挙げた者として、晴れて三年後には、飛び級制度として《医学博士》の名誉と博士号を取得した。とても都合の良い話に聞こえるだろうが、その道へと辿り着くまで、これまで何人もの負傷者と《死》に向き合ったのか、もう覚える気力すらない。

・・・


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜大逆転裁判2より・プロフェッサー

カチャカチャ………

「…なるほど。…つまりあなたは戦場で救えない苦しむ患者の者達と出会い、楽に眠らせるように殺める為、その《安楽死》を行使してきたと?」

「…そうだ。…本人が死にたいと言うのならば無理に引き留めたりしない。そして長生きさせる気もない。…一思いにこの手で《命ノ灯火》を絶たせる。……人は生を実感し、死を全うする事で、神が定めた命ある者の《尊厳》が守られると信じ。…ただそれだけの為にだ…」

「………」

「……ちょ、ちょっとアンタ!!…まさか、それって…」(…巨匠漫画の作品《黒男》。……その話に出てくる…軍医。……《死神医師》みたいじゃあないのよ……)

【Oya】はそういうと着々と医療機器を取り出しながらある一つのケースを【Zeal】に見せつける。

スッ!!

「……?」(これは…薬品ケース…)

「……この中に…一思いに、毒で犯されたお前を安らかに眠らせる《薬》がある」

「…私に選べと?」

「…ある影の《ギャング》が呟いていた事だが、人間には必ず人生において選択すべき《二つの道》があるという事をだ。…一つは貴様自身が自ら犯した罪を認め。…生きる道。…もう一つは死への道……だ」

「………」

「…っ!!や、やめなさいよ!!…アンタ、それでも医者なの!?」

【Aria】は目の前で行われている賭けに近い命のやり取りに対し、人一人の《命》を軽んじているように思い、【Oya】の意見に対し、強く反発する。

「…俺は医者である前に裏社会で暗躍する《闇医者》だ。…それにこの男の素性を既に把握済みだろ?…尊い人間の命を無差別に殺傷し、《虐殺》にまで加担した危険な男を。……アリア。……お前は………ここで………」

見す見す見過ごすっていいてェのかァ!!??

ガシッ!!…ダァン!!!

「あぐっ!!…っ!!」

「………」

【Oya】は躊躇無く【Aria】の胸倉を掴み上げ、壁に強く身体を打ち付けた。彼女の眼光には怯えは一切無く、ただ目の前にいる男の灰色の目を見続ける。

「…彼【Zeal】は、この町に潜伏してる【Kunizu】って《悪代官》の情報を知る重要参考人なのよ!!…だからとっ捕まえて生かしておくべきなのよ!!…10年前に起きた事件の真相を、あの口で吐いてもらうまではッッ!!」

「………っ!!」

バッ!!

「あぁっ!!…ゲホッ!!…ゴホッ!!ケヘッ!!」

「………で?…その《10年前》に起きた事件の真相を聞いて知り。…一体どうする気だ……?」

「…問い詰め、明らかにするだけよ。……真実を…!!」(キッ!!)

チャッ!!

「………!」

「………!!」(このアマ…いつの間に!?)

【Aria】は胸倉を掴み上げられていた間、隙を見て【Oya】のケース内に入れていた薬を取り上げていた。

「……ッ!!」

パカッ!!

コロコロ……

「!?」

「!?…待てこのアマァッ!!……何をする気だ!?」

【Aria】は突然こう話す。

「この薬。…安楽死の成分が含んだ薬が入っているって言ったわよね?……だったら話は簡単よ!!……取引よ。……【Oya】!!」

「…取引…だと?」

「………」(アリア。……この女……一体何を考えて…?)

【Aria】は突然こう言い放つ。

「……この薬を返して欲しかったら、知ってる事を教えなさい!!……10年前の謎の組織《ヘイケ・ホタル》について洗いざらい!!」

「………」

「……ハァ…」(何を言い出すかと思えば、無駄な事を。……例えその者が元、その組織に属する者であるとはいえ、そう易々とカタギに…闇に染まりし真相を教える事はしないと言うのに……)

「………」

「………なら、仕方ないわね。……っ!!」

ゴクゴク!!!

「…!!??」

「!?」

【Aria】は突然、取り上げた薬の一部を口に含み、服用して飲み干した。

「!?…うっ!!」

バタリ!!!

「ば、馬鹿野郎ッッ!!!!」

「…!?」(全く、愚かな女ですね……自ら飲み干し《自害》しようとするとは。………)

【Aria】の身体はその場で倒れ伏せる。彼女の顔は険しく、苦悶な表情をしていた。

「………ッ!!」

ヒィーーン!!!!

「!?」(…なぁっ!?)

「!?」(一体、何が!?)

突如【Aria】の身体が光り出す。身体の一部に強く光りを放つ部位を、【Oya】はその目で目視する。

「……腹部……ここは、第2の【Padma】(パドマ)が大きく関与し。……光を放っているようだぜ」

「……また《オカルト》な空想理論のお話ですか?」

「ほっとけ。……先程言っただろう。…【Paradiso】の医学分野において、【現世人】の身体ってのは現世とは違い魂の身体で構成されている、お前達のようなユートピア人は、かつてこいつらが現世で過ごしてたのと同じみてえに、臓物と肉体並びに骨で出来た身体だ。……だがよぉ一体。……何が起こってるんだ……」

カチャカチャ………

すると【Oya】は注射器と、もう一つの医療機器を持ち、彼女の身体を調べる。

カチャ……

「………」

「……そのモノクル。……縄使い【Jeil】が所持していたモノで間違いないようですね。……その《眼(まなこ)》で見通せるのですか?」

「……生前、【Kunizu】が俺のこの《義眼》に、本来の真実を見透かす能力……《陰陽道術》……その内の《瞑術》を使い、一つ置き土産を残してくれた…」

「…そして、あなた自身は見透かして見えてしまったのですか?…町奉行【Kunizu】の本当の正体を?」

【Oya】はこう語る─────

「……奴は《似非》だ。…紛れも無くドス黒い欲望に取り込まれちまった《狐》…肥溜奉行でしかねぇぜ……」(キッ!!)

【Oya】は苛立ちの感情を込めつつ医療機器を使用し、解毒治癒を施す為、彼女の容体を確認する。

ヒィーーン………

「……!?…こ、こいつは…!?」

「…どうしたのですか……?」

「馬鹿な。……………俺の《安楽死》は確実にその天命を果たす筈だ。……だが、どういうことなのか。…この女は…安らかなる偉大な死を迎える毒を。……体内に含んでいる内に。……抗原が出来ちまって……!!」

ドクン…ドクン……!!

《抗体》が生成されているッッ!!

「…!!なぁっ!?」

【Zeal】は驚いた。たかがごく一般的な【現世女】に、このような《有効活用》法があると驚き、それを悪用する者もいるであろうと思われる。そして、その理由も皆目理解したのだった。

「では。……この女は…」

「少しばかり警戒はしていたが……予想が外れたぜ。……お前が言うように《狐》の仕掛け。…裏の世界では【Paradiso】の世の情勢を変える可能性があると持て囃(はや)されている不可解な奇怪術…。《廻天術(リンテンジュツ)》…《妖術・式ノ神》………識神として分身を作り。…【Cize】と名乗らせ、屍人の道化として操られていた《辻斬り》。……恐らくは今から半年前。…誰かが《捜索届》を出した事でこの女の顔を特定し、同じ手段として偽の【Aria】が作られ。………野郎が寄越した使者ではない事は。……今ここで目撃した以上。…間違いないようだ。……どうやら、この【Aria】は……………!!!」

・・・

〜その数日後〜

ワーッ!!ワーッ!!ワーッ!!

ザシュッ!!

「かはっ!!………っ!!」

バタリッ……!!

パキィィーーン!!!!

「……ハァ……ハァ…!!……重厚戦車《グランド・卍(クロス)》……手こずらせてくれ……た…………っ…!?」

ドサリッ!!

「………」

「……ゆ。……優………花………!!」

優花ァアアア!!!!!!

ダダダダダ!!!!

「優花!!…おい、しっかりしろ!!!」(馬鹿な……何故…?…操られていた……という事なのか……!)

「…………」

サラサラサラ…………

パラパラパラ……

「!?……」(……魂の結晶。……いや、違う!!……こ、コイツは……紙吹雪!?…一体……!!)

《一体何が起こっているんだゾォォォッッ…!?》

・・・

〜時は戻る〜



「……オリジナルだ。……ここにいる【現世女】【Aria】は。……救済ギルド【Olfes】所属。…半年前からヴェノが居所を探っていた、《オリジナル・アリア》で間違いないようだ」

ゴゴゴゴゴゴゴ……

「………なるほど。……彼女自身が【G島】の【Siel】にて、【陰陽術】の類とも言える、ある特殊な学術を独学で学び、その一つを行使して、本来安楽な死を向かう筈が彼女自身の何かしらの力で堰(せ)き止めたのだと。……そう言いたいのですね?」

【Zeal】の問いに対し、【Oya】はコクリと頷く。

「不可解な点がいくつかはあるが。………そういう事だ。………だが、この女……知りたい事を知ろうとする為とはいえ、ここまで狂った事をするとはな。……そこまでして真実を《証明》したいってのか」

「………誠に愚かかつ、無茶をする女ですね」

「…………」

スッ………!

「…?…何の真似ですか?」

「……………人斬り【Zeal】。…テメエ自身は一体どうしたいんだ?」

「………」

【Oya】は【Zeal】をじっと見つめる。その瞳には、彼自身の葛藤を既に見透かしていた。

「………お前さん。……どうやら、《決着》をつけたい相手がいるようだな」

「…どうでしょうか…」(しれっ)

「今更誤魔化しなんぞ通用しない。……ここ最近のお前の情報は、【Hopera】の連中が【Kagoya】内に網を張って詮索していたぜ。……この男の事だろ?」

ペラッ!!

「………!」

【Oya】は目の前に一枚の書類を差し出した。内容は、銀髪の男の隣にはオレンジ髪のブロンドに金髪が混じった一人の女性が抱きつき、ほっぺにキスをする醜態を晒した《一枚の手配書を》差し出す。

「………」

「…先程まで、俺が潜伏していた【R・P】社…その組織内のギルド組織である【Hux・row】(ハクス・ロウ)と【Beanne】(ベアンヌ)……以前テメエ自身が仕えていた【Varisk】幹部の【Makiras】(マキラス)を討伐した連中だ」

【Oya】は淡々と説明を入れ、目の前にいる男に対し、真意を告げた。

「……その命無くしてでも、刈り取る覚悟をしてでも倒そうとする相手が見つかったようにも感じられるぜ。……《乱世》らしく、剣に生き、剣に死すっつう。……一端の《極道》男としての凄みをな……」

「!!」

ガタッ!!…ふらふら……

【Oya】はそう【Zeal】に問いただすと勢いよく立ち上がった。毒に脅かされ、フラフラな状態になるも相手を強く睨みを効かせ、反発する。

「…黙りなさい!………と言いたい所でありますが、あなたの持つ心眼で私の心を読み取り、見破られている以上………反論の余地はありませんね」(やれやれ……)

「………安心しろ。…折角形成された抗体だ。悪いようにはしない。……精精……」

【Paradiso】の医学の発展に……尽くしてくれる事を願い。…期待しておくぜ…

スッ………

・・・
・・


〜その夜〜

ワーッ!!ワーッ!!ワーッ!!

ジィール様がやられたぞ〜!! おのれよくも〜!! 許さんぞ〜!!!!

ざわ…ざわ…

「…………」(全く、騒がしい連中ですね。……幾ら我々殺戮集団【Varisk】と同盟を締結している身だとはいえ、まるでウジのように白く湧き、いい加減目障りに思えてきます。………この腕も。……ハクスローに斬り飛ばされ、もう断たれてしまった様ですね)

ザッザッザ………

「!?」「…な、何だ貴様はぁっ………!?」「!?」

チャキッ……

「………」

「………」(……しかしあの男。………【JeiK】と一線交えてからは、相手に対し剣を向ける恐怖心は既に失くすも。……こうして腕を切り飛ばすだけして私の命を奪う事まではしないとは。……未だ剣に対する迷いがあるように思われますね……)

「………」

ガシッ!!

「……!?」(だ、誰ですか!?)

「………ッ!!」

キィーーン!!!!

「!?ぐっ!!」(お、音響が頭の中に…!?…まさかこれは……)

ガクッ!

「………」

ザッザッザ……

・・・

タッタッタ!!

チラホラ!!

「?…あり?…ったくも〜う!!」(オリアナ救済長が言ってた噂の【R・P】社所属のハクロー君達と話してる間に……ヤクビシも特にあの重要参考人、一体どこ行っちゃったのよ〜!?」

タッタッタ!!





〜【御用見廻組】屯所・地下監獄内・東雲・明方〜

ジャラジャラジャラ………

「………っ」(…楔の囚われとは……実に滑稽な様を晒してしまいましたね。……私は……)

コツンコツンコツン……

「………」

「……ふ、まさかここでご対面とは、如何かと思われますね。………【狼志組】九番隊隊長…あの方の弟君……」

《【Kyusaku】(キュウサク)氏……》

「……こちらの台詞だ。……我ら、元道場の同志【Zeal】……こうして顔合わせするも、人斬りの《罪人》として裁く立ち位置にいるお前を……ここで見す見す見逃すとでも?」

チャキリ……

場所は【御用見廻組】屯所内の地下監獄内。そこには、【狼志組】九番隊隊長【Kyusaku】(キュウサク)が刀を突き出し、目の前にいる罪人と認定された【Zeal】を睨みを効かせていた。

「………楔で縛り付け、拘束したこの私から、一体何を知ろうとしているのですか?…【Varisk】の【Capo】の事を知ろうとしても無駄な事ですよ。……我々の【Capo】の居所は、幹部である私を含めた者達でさえ、連絡以外の手立て以外…知らされませんので…」

「そんな事はどうでもいい。……我々が知りたい事は他にある……」

「……?……」

【狼志組】【Kyusaku】はこう伝える。

「…元【御用見廻組】刑事課所属……剣術道場でも群を抜き、時期《師範代》も目の前にあり……本来【Towa】ではなく【狼志組】十番隊隊長の命を受ける筈であった、【Kokyou】(コキョウ)……現世での…俺の実の《兄さん》の居所を……!!」

《今ここで、その口で速やかに伝えるがいい!!》

「……!」(……なるほど。……やはり情報通りでありましたか…)

ジャラジャジャラ………

ユラユラユラ………

楔に繋がれ、胴体に楔が食い込まれ、文字通り拘束された状態にあった、【Varisk】の【Zeal】。周囲には蝋燭の灯火が照らされており、それは皮肉にも《蛍ノ光》をも連想させていた。

……ユラユラ………

ボッ…

「無論知っている筈だ!!……殺戮集団【Varisk】の組織内部にて、《潜入捜査官》として闇に介入している《コキョウ》兄さんの居所を……!!」

「……残念ながら。…そんな名前の者の事など知りません。……彼もまた、【Varisk】に追われている者なのですよ……」

「…!?……どういうことだ!?」

ダァン!!!

「…………」

「……ッ!!」

ガシッ!!

【Kyusaku】は留置所内部の机を叩き込み、相手を威圧し、痺れを切らして胸倉を乱暴に掴み、怒りを露わにする。そして事の事情を問いただす。

「もう一度言う。……貴様ぁ……!!…それは一体どういう事だ!?」

「……さあ…?……それは私にも理解は出来ませんね……ですが。……一言言っておきましょうか?」(しれっ)



いずれ、近いうちに…この【Kagoya】の町に救済の神による報復措置が待っている事を…そしてその時…私は…必ず復活致しましょう!



「!!…」(何処までもシラを切るつもりなのか……なら…ここで…!!)

チャキリッ!!

サッ!!

「!?」

「……!?」

突如、誰かの手によって遮られ、その刀は取り下げられた。

「やめとくんでさ〜…キュウさん」

「…!!…ソガミ……」

「…!!」(ソガミ。……この者が…一番隊隊長の……!?)

【Kyusaku】の粛清を取り止めたのは、一番隊隊長【Sogami】であった。

コツンコツンコツン……

「やれやれだわさ。……どうもどうも、久しい事でさ〜【Zeal】さん」

「………【狼志組】一番隊隊長ソガミ(【Sogami】)。………あなたとは、初めて顔合わせする筈では……?」

【Zeal】は【Sogami】に対し、面識がないようなそぶりを見せる。しかしそれを【Sogami】は首を振り、言葉を交わす。

「残念でさが、アンタさんは既にわてと顔合わせしてる筈でさ〜♪……まあ今から10年程も昔少年と手合わせした事。……もう忘れたんでさか〜?」

「…………!?」(ま…まさか…)

「………」(気づいたようでさな)

「そ、ソガミ!」

【Kyusaku】はその事実を遮ろうとするが、【Sogami】は続けて言葉を発する。

「そうでさ〜…わて。…あん時のおチビさんなんでさ〜♪……年齢サロン受けて〜…」

「…邪道にも【Padma】(パドマ)の力に頼り、そのようなお姿になられてしまった。……という事ですか…?」

「……?」(パドマ…?)

【Zeal】の口から【Padma】というワードが飛び交う。そのワードに対し、【Kyusaku】は眉を顰(しか)める。

「…そういう事でさか」

「…!!」(…ソガミ!?)

【Sogami】は何かを知っているのか、口から笑みが溢れる。

「…ようやく理解したでさ。…………そうでさか〜。……【Zeal】さん。……アンタさん……」

「ソガミ!!…一体どういう事だ……?」

バッ!!



「…キュウさん。…残念やけんに。…これはアンタさんが担当する話では………ないんでさ……」(ギョロッ!!)

「……!!」(ゾクっ!!)

【Sogami】は【Kyusaku】に対し、普段おちゃらけた笑みの顔から険しい表情を見せ、睨みを効かせる。幻想と空想の産物である架空の生物《紅蓮竜》。その中において、全ての竜の頂点に立つ《帝》の存在─────《竜帝》を連想させるその眼光の示す意は、『アンタはこの先の話題には決して触れるな。触れた瞬間、肉親の兄と同様に、後戻り出来ない場所にいるだろう』と警告を発するが如く、伝える。

「………致し方あるまい」(アセアセ)

「流石キュウさんでさぁ〜♪話が分かる数少ない稀少な志士さんの九番隊の隊長でさ〜」

「………ッ!!」(…不本意だが、あの恐竜のような目付きに加え、睨みを効かせられた以上……詮索すれば最悪この屯所を焼け野原にされかねん。……《副長》の名誉の為にも、今は堪えるとしよう……)

九番隊隊長【Kyusaku】は不本意であるが、【Sogami】の指示に従う。








🎼Back Ground Music 》》》



♪〜遊戯王より・ヘイシーン

「………そうでさか。…キュウさん」

「…?……ソガミ。…どうした?」

「急でさが。…これより緊急要請措置発令。………我等《十傑》……」

《緊急幹部会を執り行うでさ!!》





【狼志組】一番隊隊長【Sogami】による緊急発令の指示により、屯所内の《隊長》及び部下となる隊員は、【Zeal】の放った発言により、夜方【Kagoya】町内の見廻り巡視が決行される。その裏では大きな闇が蠢き、暗躍する動きが刻一刻と迫り、遂に隠れていた《狐》はその牙を尖らせ、《革命》を起こそうとしていた─────

・・・
・・


〜【Veno・nix】Side-裏・闘技場〜



コツン……コツン……コツン……

バサァっ!!!!



「フォ〜っフォッフォッフォッ!!」

「…!!」

その頃裏・闘技場にて死闘を繰り広げていた【Veno・nix】は何者かの声と足音に勘づき、視線を戻す。

パチーン!!!

バサバサバサ……

《廻天術(リンテンジュツ)》…《妖術・式ノ神》……!!

《解除!!》

パラパラパラパラ!!!!!

卍卍卍卍卍

「…!?」(何だ…!?……紙に卍(マンジ)の印字。……《式神》を著(あらわ)しているという事か…!?)

【Veno・nix】の目の前にはカードサイズの紙が複数枚宙へと舞い散り、鳥の如く蝶のように周囲へ飛び交う姿を見て戦慄する。印字された《卍(マンジ)》の文字は、蛍の如き光を放っている。

コツンコツン♪

カカン!!

影の存在の者は姿を現す────

「いやはや天晴れ。…実に天晴れ〜なリィィ!!…よくぞここまで決闘して勝ち進まれ。…罪を会得したぞよ。…お初にお目になるぞよな〜♪…無法者の一人。…名を【Veno・nix】と名乗る男〜なり〜…フォ〜フォフォッフォ!!!」

「……何者だ?」

「むむっ!!…控えい!!無礼なる者よ!!……我が名はこの【Kagoya】を支配する《帝(みかど)》なる者…【Kunizu】(クニズ)なりけり者なり!!…貴様のような汚物が気安く麻呂の名を語る事、それはこの上なく《万死》に値する意味なるぞ!!!」

カカーン!!!

足音を立て、高飛車の如く目の前に現れた者は、《青装束》の服を見に纏い、頭頂部には殿様のような丁髷を生やした者が目の前に姿を現わす。

「………」

コツンコツン…

「…貴様が…《クニズ》という者か?」(ギロッ!!)

「話を聞けい!!………まあ良い。…フォ〜っフォッフォッフォッ!!…よもやよもやぞよいの〜…よく見ればその顔。…目の負傷。…【Varisk】の駒。…麻呂の手によって滑稽に操り人形として働いた【Muu】(ムウ)が言っておった《者》で間違いないぞな〜♪……その怪我。…目が爆撃によって吹き飛ばされたようで。………実に滑稽なるぞよな〜フォフォフォ!!」

「…………」

相手は【Veno・nix】を愚弄した態度で発言する。それは相手自身が《神》として崇められる位の地位にいる、《帝》になった気分にいたからか、ひれ伏すように促しかける威勢を意地でも見せつける。

「…貴様。……俺が眠っている間の情報…一から十まで…知っているのか?」

「フォっフォっフォっ!!当然なりけり〜…貴様は今から半年前に起きた爆破事故によって目を負傷したんぞよ〜♪…元々あった目を失い、自らの存在をあたかもここにいると知らしめる為にと〜!!」

「………!!」

【Veno・nix】はその《違和感》にすぐさま気付くも、引き続き話を進める。

「……貴様が……奴を。……【Muu】(ムウ)を操っていたとでも言うのか……」

「フォ〜っフォッフォッフォッ!!…いかにも!…お主だけではない。……この【Paradiso】の世界各地において起こされた不可解な爆破事故。…それもこれもこの麻呂の正義の執行あっての事でおじゃる〜♪……この《麻呂自身》が発現させた…《力》……」

《廻天術(リンテンジュツ)》とやらでな!!

カカン!!!

【Kunizu】は自信誇らしげにこう語る。その様子からは、自らの身の潔白を証明せんとする輝きに包まれた《帝》が今宵降臨し《儀》が迎えられたかのように見せつける。

「………」

ビシッ!!

「…!!むむっ!?」

「……貴様に聞きたい事がある。………今から半月前に起きた【E島】【Velkana】での【Dail】騒動。……その引き金を引いた《一員》なのか?」

「?………はて?」(この愚か者め。…一体何の事を行っておるのか?)

「……答えるんだゾォぉっっとぉ!!」(グゥルル……)

グォオオッッ!!!

「………!」(…むむ…!…目隠しされ、心眼の術式を使いこの麻呂の姿を観測出来ているとはいえ……なんという眼圧(プレッシャー)でおじゃるか……!!?)

【Kunizu】は少しばかり怯む。【Veno・nix】の背中には、《黒豹》に見立てられた、闘志のビジョンがあった。

グルルル……

「……!!こ、こやつ…」(《黒豹》……ブラックパンサーの相……!!フォ〜ッフォッフォッ!!……だが所詮《闇》に溺れた、愚か〜者でおじゃるな〜♪)

パタパタ!!

【Kunizu】は余裕を見せた表情のまま、手に持っていた扇子を仰ぎ、挑発し相手を見下す。

コツンコツン♪

カカン♪

「愚か…この麻呂に叛逆するとは、いやはや実に愚かなりけるぞよ〜フォ〜っフォッフォッ!!……」

ジャラジャラジャラ……

「………!!」(薬…)

相手はあるカプセル型の多量の数はある薬を少し乱暴に、手へぶちまける。

「………」

コツン…コツン…

「……麻薬の一種か?」

「フォ〜フォッフォッ!!…いかにも。……!!」

ゴク…ゴク……!!

ヒィーーン!!!!

「…!!」(妙な光を放っている……妙に不自然な怪しい陰に彩った光を……)

キィーーンン!!!!

「フォ〜っフォッフォッフォッ!!……【Veno・nix】。……これより、裏コロシアムの規律に基づ〜き!貴様をここで《処刑》せしめたり〜なるぞ〜♪」

フォ〜ッッフォッフォッフォッ!!

「………!」(……つくづく下衆な無法人間ときたか。…この町に潜んでいた《悪党男》は…根っからの悪のようだ。………表舞台には立たせん。……ここで……)

刈り取るまでだゾォぉぉぉぉッ!!!









ジャラジャラジャラ………

グルルウゥゥ……!!!



   
B. いいえ


《Capitolo・7》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》





♪〜TOVより〜光と陰に彩られて

「フォ〜ッ!!フォッ!フォッ!!」

ドロドロドロ………

「!!……」(土人形…!…違う…これは…屍…彷徨える死霊の亡霊達……ゾンビという事か…)

【Veno・nix】の周囲に、地面から多数の泥人形に見せた者達が、まるで墓地から這い出てきた蘇りし亡者の如く出現する。

「……」

「……」

「……」

ざわ……ざわ……

ガシッ!!!

ギリギリギリ……

「……!」

【Veno・nix】は屍人の亡者に足を掴まれ、行動を封じられる。

「…《リビングデッド》…屍人のつもりか?」

「フォ〜フォッフォッフォッ!!…いかにも!…医学の世界で数々の名誉を獲得し!!…築き上げられた《屍人》に関する知識!!…よもやこのような形で裏コロシアムにおき、今までお主自身が散々蹴落とし、殺し上げた者達の《怨念》をこの麻呂が《救済》し!!……再び生を与えた〜なりけり〜!!…この者達が叫んでおろう!!麻呂のおかげで勇気と活力…並びに《生きる》意味を与えられたのだと!!」

「…………」

ガヤガヤ………

「………!」

【Veno・nix】は亡者によって生気を吸い取られる感覚があったのか、少しばかり苦い顔をしている。しかしながらも手に持つ棒は強く握り締められており相手を威嚇する。彼の感情からは、相手に与えられた《虚飾》に彩られた光の中で、陰の存在として再び生を受け、式神の力を利用した操り人形として有効活用に仕立て上げ、なすがままにされ、生かされている者達を見て、心に何か《熱い》モノを感じ取った。

コツンコツン♪

カカン!!

「フォ〜ッッフォッフォッフォッ!!…では甦れし偉大なる屍たる者共。……その無法者を血祭りにあげるぞよ〜♪」

「…!!」

「…!!」

「…!!」

「…!!」

シャッ!!

「…………」

チャキリッ!!

【Veno・nix】は耳を澄ませる。

イモウトノモトヘ……カエリタイ……

トウサン……

ハハウエ……

アイスルモノ……トワニ……ネムレ……

アナタ……アイシテオリマス…………

「…………!!」

チャキリッ!!

屍人自身が最後に言い遺した言葉が空間に飛び交う。身構える【Veno・nix】の周囲は屍人の亡者達が包囲し刻一刻と迫る。それをあたかも滑稽に【Kunizu】は本来の顔の奥に隠した、卑怯な行いを散々繰り返す業を行い、富を築いてきた忌々しい表情を浮かべつつ《死刑執行人》としての役割を担う《町奉行》としての裁きを下す。

「フォ〜っフォッフォッフォッ〜♪!!…ヌシは死んだ!♪………死ねい!!!」(さらばなりけるぞよ〜♪さて、後はこの麻呂の姿を観測する手立てなるこの顔の持ち主の所有物である《モノクル》……あれを手中に収めることで、麻呂は天下の台所へ返り咲きなりけるぞよ〜♪…そして、念願の《帝》の地位へ上り詰める!!!)

「…………」

ブォン!!!──────









──────キィォォーーン!!!

しかし相手は未だ気づいてはいなかった。彼自身が召喚し、纏う《ブラックパンサー》。その姿に隠されし、もう一つの顔の片鱗を──────


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜遊戯王より・神の怒りRe Arranged

──────

「…!?」(……な…何事なり……!!??…ば、馬鹿な!?……屍人が…拘束された奴を斬首し、串出し処刑する、その………す…寸前で……も、者共が……武器を地面に打ち付け。……!!)

静止した……!!??

「………」

「な、何をしてるのだ、お、お主達!!で…出合え出合え!!!!」(シュバッ!!)

「………」

グォォ……

……平伏せ。……誰の為に生き……立ち上がるか。…その意味を見出し。…信念を持ちて騒乱の戦場を駆け巡られし誇り高き偉大なる決闘者達よ……今宵我が戦神の命において命ずる。…主らは勇敢に戦い、この者に《真実》を与え。……勝利へと導いた。………あの《夢見者》がいる…《深淵(アビス)》へと安らかに……再び眠れ─────

グルルウゥゥ……!!!



ガァウウウッ!!!

ジャラジャラジャラ………

「!!」

「!!」

「!!」

「!!」

ザザッ!!!

屍人達は【Veno・nix】に対し、現世で流行せし《決闘者》を題材にしたカードゲーム。それらを駆使して闘う《決闘者》の如く、この闘技場において闘いを繰り広げ、《生》とは何か?その意味の在り方を再認識させ、導いた誇り高き決闘者として敬意を表する姿勢を見せる。

ズズズ………

平伏せした彼らは、安らかに深淵(アビス)が指し示す奥底の大地へと向かい、深き眠りにつく。




ズズ………ズ……

「…!!…し、沈んでゆく。……こ…こやつ………た…確かに…見える相は……く、黒豹…」

「………」

グウアアァァァッ!!!!

「…!!否…ま…まさか……か…《神》…豹の神…《豹尾神》!?なのぞよか!?……いや……それならばもっと禍々しい《闇》を持つ筈なりけり。…では一体何者なり……これ程の…絶対的な神の力がこの無法者に…あ、ありえん……!!何故現世国に来た、地位や権力を持つ事のない何の素養もないただの【現世人】風情がこ、このような……」

《ハッキリとした相を……《ビジョン》を映し出せるのでおじゃるのか……!!??》

「………」

グォォ………

【Veno・nix】の背後に映し出されたビジョンは、《黒豹》の姿をした生物であった。しかしあくまでも生物学上、その生物と相違があるのは確かであった。黒豹は《ネコ科》に分類される。猫のカラーリングにも《黒猫》が存在するように生誕の発端となる過程には遺伝子が存在する。《豹》にも黒き存在があるようにそれを示す生物にも夜空の黒き体毛に覆われし闘いの神として崇められし神が存在する。

コツン……コツン…スタッ!!



「その顔。……そうか貴様。…………ようやく俺は…答えに辿り着いたようだな」

「!?…ぶ、無礼なる無法者よ!!…何を戯言をほざいておるでおじゃるか!?」

相手は【Veno・nix】の発言に対し、未だ格下であると見下す姿勢を見せ付ける。その様子に対し、こう言及される。

ザザ………

「……見つけた。……この【Kagoya】の町の裏を牛耳る悪代官……【Kunizu】よ。…………過去に濡れ衣を着せようと目論み、無様にも杜撰な策を見破られ。…この【Paradiso】の医学会を追放され。……そのまま嘘に嘘を塗りたくり富を築き上げ。……報復として……革命としてこの町で大きな花火を打とうとする、大罪者…!!」

《【Fictus】(フィクトゥス)!!!!!》

「!?」

【Veno・nix】によって真実をつきつけられ、放たれた発言に対し、相手は動揺のそぶりを見せる。

「き…貴様。…一体何処で…そ、そそそそっ!?……その名を!?………この麻呂の事を。……何処で。……誰から聞いたのだぁ〜〜〜!!??」(クワッ!!)

「…そんな狐のような泥に汚れ、化けの皮を被った側面の顔でいつまでも世間の声を誤魔化せると。……本気で思ったのか?」

「!!……っ!」(は、ハッタリ!!ハッタリに決まっているぞよ!!…麻呂は帝!!…帝でありけりぞよ!!…この小童如きの発言なんぞ、唯の汚物の戯言なりけり!!!!)

ザッザッザ……

「貴様ぁぁっ!!!…よ…よくもこの麻呂を愚弄しおってぇ〜!!!」

バァッ……

グググ……グ…

「……!?」(…!!…な。……う。……う、動けん。……な…何故に…こ…これは…一体…!!)

どうなっているのでおじゃるのか!?

【Fictus】は動く事が出来なかった。目の前にいる者の背後に映し出されしビジョンが相手を静止させていたのだ。

「…………」

グォォ………

ザッザッザ……

「!!っ…く、来るな!!麻呂のそばに近づくなぁ〜〜〜〜この愚民がぁ〜!!!」

ブンブン!!

「………言いたい事はそれだけか……?」

【Veno・nix】は無防備状態の【Fictus】の息の根を確実に止める《ジャガー》のような雰囲気を醸し出しつつ、武器の棒を叩きつける姿勢を見せつける。




ジャキッ!!

「よ、よせやめろ!!…麻呂はこの《革命》をもたらす《帝》なのだぞ!!……それをこんな無法な事を!!!!……極刑!!し、死罪!!……あ、あれは言葉のあやでおじゃる!!…どうか許しをこうのであればそなたにそれ相応の地位を与えようではないか。……さあさあ」

「……」

チャキリッ!!

「…願いは。………一つだけだ」

「!!…そ、そうか!…それは一体どのようなものでおじゃるか!?」

「………」

【Veno・nix】は一言だけ、こう告げた─────




《俺はな。………不誠実な者によって塗り固められた耳障りな…《虚辞》《虚言》……!!《嘘》が大っ嫌いなんだゾォっと!!!!!》




ブォンッ!!!!!







🎼Back Ground Music 》》》



♪〜遊戯王より・熱き決闘者達

・・・

〜【Veno・nix】の意識〜

「………」

ヴェノ。……ヴェノ。………

「……?」

『……聞こえるか。…ヴェノ?』

「…………」

自らの意識の中にいた【Veno・nix】は、背後にいる黒豹の姿をした装いの者に話しかけられる。

「……《テスカトリポカ》……ネロジャガーか?」

【Veno・nix】は相手にそう返答する。《テスカトリポカ》とは現世の世界においても、その名は知られている。かつてアステカ神話において、大熊座の神並びに闘いの神として崇められ《夜空の神》とも呼ばれる名の動物の姿を成す一人の神が存在した。その神の姿は《豹》に似るも体付きは一回り大きく、程走る力強さがある。サバンナという過酷な環境の中で生活し、陸地を駆け巡るその異名から米国の大陸においても最大のネコ類に分類される。南の地区では《最強の捕食者》と言われるネコ科動物─────



《ジャガー》────時にそれはアメリカ豹、またはアメリカ虎と呼ばれるその者の姿は黒い。

『………』

《ネロジャガー》の異名を持つ者として称えた【Veno・nix】は、その者に名を告げるも、少しばかり不機嫌そうに言い放つ。

『……まわりくどい。……私の事は《テスカ》と呼べ。…あの《悪夢裁判》以来そう言っている筈だ』

「……ハァ〜……あ〜はいはい。……ネロジャガーさん」

『…グルルゥゥ〜』(シュン……)

黒いジャガーの姿をした神の名前は《テスカ》と呼ばれている様子だ。【Veno・nix】は不満そうな表情をしつつ、彼の名を独特の愛称で呼ぶので少しばかり気分が沈んでいる様子にあった。しかし持ち直し、再び会話を続ける。

『………やれやれ。……だが。…ようやく、その陰気から陽気な人格へと切り替える術。…少しずつではあるがモノにしてきている様子だ。……我が闘友《ケツァルコアトル》元より《ククルカン》をあの身に宿りし…貴公の太陽の戦友らによる教育の賜物か?』

「さあな。……だがその《誰か》さんのおかげによって。…数々の犠牲が出てしまってるんだゾォッと!!……その事を忘れるな!!!」(ギロッ!!)

【Veno・nix】は少しばかり怒りを含め、責任追求をする。その様子に相手は首を振る。

『…仕方のない事だ。……どう足掻くもククルカン自身の禁忌である《酒》の呪いから引き金が生じた《天命》。《神ノ命》…我が名を語りし宿命ともあらば、それは誰にも止められなかったのだ。………貴公自身、あの《時》自ら納得し、承諾した上で我と契約を果たされ事なきを得た筈。……今更《後悔》はしないと思ったが……』

アステカ神《ケツァルコアトル》には、もう一つの名前が存在した。マヤ文明においては《ククルカン》と呼ばれ崇拝される存在の神でもあった。彼女は、ギリシャ神話の神プロテメウスと同様に、古くから人類の歴史上《火》を与えし神としても広められた。平和の為、人身御供(ヒトミゴクウ)を撤廃させた事で処刑を好む神の報復により、メキシコの醸造酒《イスタク・オクトリ》(白い酒)プルケ酒に含まれた呪いが原因で、妹関係にある《ケツァルペトラトル》に禁忌を犯し、アステカの地を追われた黒い歴史がある。

「………確かな事だ。後悔した所で何も始まらん。……まあ、お前らのアステカ文明時代にある戒めなる定め。…《生贄》という概念には。…生涯賛同できそうにはないがな」

『グルル!……流石は《現世ノト(うつしよのと)》…《日本》國生まれの民よ。……無益な殺生はしない、その高潔なる武士道の心意気。…それには敬意を払う…!』

ゲラゲラゲラゲラ…!!

テスカは笑みを零しつつ、笑っている。

「《現世ノト(うつしよのと)》……ローレンスの言葉の引用か?」

【Veno・nix】はかつて夢の中の世界にて、協力関係を結んでいた一人の男【Lawrence】の名を語る。その様子に相手はそうだと言わんばかりの表情をする。

「量産型ユートピア人の器にしても尚……あの者の持つ《命ノ灯火》は間違いなく本物。……どこまでも運命に争う力を持つ者。……例え《死》をもたらさんとするその《時》においても、彼の心には熱き闘いの意が込められし者なり…」

「……だからあの者だけはお気に入りだから生かしたまで。……とでもいうのか……」(キッ!)

相手の返答に対し、顔を険しくする黒豹の男は、目隠し越しにある《眼》(まなこ)を開眼させ、じっと睨みつける。

「……それが戦場というものだ。…【Veno・nix】…いずれ貴公自身。…クーデターによって運命の歯車に巻き込まれてしまった《彼女》の意を。…その身で理解できる筈だ」

「……!!」








ヴェノ。…アンタだけは【Paradiso】の世で長生きしないとダメなのさね。…くれぐれも私のような道はずしの者になるんでないさねよ。……アンタも生きている内に、いつかは起こされる大きな戦い。それが終われば、きっと心から笑える日が来るのさね。……だから。……今だけはこの《闇》を……私自身のこの業を…いくらでも背負ってやるのさね!!……例えこの身犠牲になったとしても、今アンタ達が築き上げ、そしてこれから文明ある歴史を創り出す為ならば。……!!!




女皇帝【Edith】(エディス)の命に賭けてでも!!……《闇》を暴き、このフランベルジュで切り拓くまでです!!!








「……エディス………」

グググ……

『…本来【Paradiso】が進むべき正史の歴史上において。…お前自身は彼女【Edith】(エディス)との接点は何一つなかった。……だが、【Paradiso】世界において特有の一種なる《可能性》がもたらした引力からか、それが結び付かれて実現した。…あたかも誰かによって書き換えられてしまった歴史なのか、果たしては時計の歯車が狂わされ《時間軸》がずれた事による恩恵からなのか。………どう捉えるかは貴様が判断しろ』

「………っ」

フルフル……

無表情の【Veno・nix】が自然と溢れ流し出された一雫の涙。しかしその一滴だけに絞り、ネロジャガーの男と対面する。

「……そんなもの。…俺にはどうだっていい」

『!!』

【Veno・nix】はこう決意の意を固める。

「……俺自身が知りたいのは、闘いに対する《意》だ。…何の為に人は国を賭けてまで《命》を脅かして争いを仕掛け。…あたかも戦犯と見做された者は《法》を行使して無実な者に罪をでっち上げさせ、冤罪を被せたまま……深淵の《闇》へと堕としていく。……その虚言ならびに隠蔽の蓋を閉じ込めたまま、出来上がってしまったのがあの忌々しい闇ノ裁量世界。…《悪夢裁判》。……それが真実だ」

『……時間軸のみならず、夢の中の世界ならびに時を超えし者達が集結され。……カードの暗示に刻まれし情報を読み解き。…《法》の元で裁く。……その終焉となる結末の指標は……ヴェノ。…今度は貴公自身に銃口が向けられている。……あの世界ではなく、今いる【Paradiso】においてだ』

「………」

テスカは【Veno・nix】に対しこう言い放つ。

『《ステルベンの電報文》を送り付けられた者達。それは今回起こる事件を最後に幕を閉じる事となる。こればかりは戦神の神である私の力を持ってしてでも除外する事は出来なかったようだ……』

「…気にするな。……お前達《陽と陰》の創造神が遺した負の遺産とやらだ。………《同盟》を締結した以上……俺が俺である限り、最後まで契りを果たすまでだゾォっと!!」

「………」

ヒィーーン!!!

【Veno・nix】の眼光に闇を照らす光が宿される。

『……時間か』

それを見届けたネロジャガーの男は去り際にこう言い残す。

『……新たなる旅路を見届けようとせん、その眼へ。…再び眠る事としよう。…《千年》という実刑をこの身で背負い、《冥界》へと眠る前に貴公の心の枷を外す術を。……仲違いを起こす前の《ククルカン》と共に築き上げた《太陽ノ真光》の導きを。……今宵その真(マコト)の《瞳》へと託そうぞ。……そして……』




あの陰者の出生の真実を。……その暗がりの《闇》をここで明らかにするがいいゾォっと!!!

・・・
・・








🎼Back Ground Music 》》》



♪〜大逆転裁判より・追求への前奏曲~大逆転のとき




「………」



カランカラン………

「っ……!?」(こ、こやつ。…ぶ、武器を捨てた!?…いや、それだけではない!?…先程動けなかった麻呂の身体が動くではないか!?)

アタフタ!

「………」

【Veno・nix】は手に持っている棒を捨てた。それを見た相手【Fictus】自身は、楔で縛られたように拘束され、動かす事がままならなかった身体が解かれ、動ける状態にあった。

「〜♪」(フォ〜フォっフォっつフォっ!!!……我が妖術・式神が使えるは一度きり。…丸腰で此奴に立ち向かった所とて返り討ちに遭うのは百も承知なり。ならばこうするまででおじゃる)

タッタッタ!!!!

好機と踏んだ相手はみすみすと、そのまま逃亡を図ろうとする。

…〜♪





ダァーーン!!!!!

「!!…うぐぅぉおっ!!!!!……ッ!!」(…これは…何でおじゃるか……!?)

「………」(…来たか)

命欲しさに逃亡を図る【Fictus】の周囲には透明のゲージに見立てられた結界によって、再び行動を封じ込められる。構築され、四方八方に囲んだ透明の壁は、文字通り相手を完全に包囲する。しかしそれだけではない。



ジュジュ〜!!!!!

「!!…うぅおおぉっ!!…あ、アツウィィィ〜〜〜〜ッッでおじゃぁるるぅぅぅ!!!!!」

ピキピキピキ……

「!!…や、焼けるゥゥ〜!!!」(ま……マズイでおじゃる!…このままでは。……あの奇怪なモノによる《恩恵》で得た。……ま、麻呂のか、顔が!……っ!?」

コツンコツン……

「……〜♪」

チャキリッ!!

「!!!ぬぅおおおお!!!!……!?……き、貴様あああぁ〜〜!!!!」

「くわばらくわばら〜♪……奉行者ごっこは…もうここまででさ〜♪」

シャーー…キン!!

リィーーン♪…【冥鐘】



プスプス………

バァーーーン!!!

「!!……ハァ…ハァ……!!こ……!!この不届き者共がァァァァぁぁぁ!!!!!…………!!??」

結界の壁に仕掛けられた場所は摩擦熱によって熱が生じており、触れたものを高速の鉋(カンナ)削りの如く皮膚をむしり、削り取る程の強い摩擦を生じさせていた。顔面は焼かれ剥ぎ取られてしまい、爛(ただ)れた【Fictus】の本性を表した醜き素顔。【Veno・nix】は確信した。夢の中の世界で観測した相手自身が過去にしでかした過ちの記憶。その実行犯となる男の顔が目の前にいた。どうやらその推測は正しかったのだと。

「……今宵。……醜い狐による仮面は解き放たれた……って所か。…遅いゾォッと。…ソガミ」

チャキリッ!!

【Veno・nix】の背後にいるのは、【狼志組】一番隊隊長【Sogami】であった。彼の手には、愛刀【紅ノ一尋】が握られていた。

「…逃げても無駄でさ〜。【Kagoya】村町奉行執行人。…かつての優秀なる法医学生【Kunizu】さんの皮被った無法者さん。……いんや〜諸事情によって対策講じるんに少しばかり時間かかったんでさ〜ヴェノさん♪………ちと無理矢理にでもアンタさんの情緒を煽り、揺動させてでも協力惜しまんと。……《周囲》とここまで相手の注意が引けんかったんでさ〜♪……アンタさんの能力を使ってこのシナリオを見通し、見事、獲物が鳥籠へ嵌ってくれたようでさ〜♪」

「…!!」(…わ。……罠。……!!まさかこやつら……先読みして。…し、仕掛けていたと申すのでおじゃるのか…!?)

ザッザッザ……

「ご名答でさ〜♪……医学会においてその名を知らしめた【Kunizu】氏が何者かによって殺害された後、顔を剥ぎ取り、デスマスクをその醜い顔の上に埋め尽くし、各島でその式神の術を使い【Dail】邸の主と協力して略奪を企て、あたかも彼を殺害した後、その肥やしを自らの富と名声を築き上げ、彩られる。……《虚飾》の大罪犯しの【Fictus】さん…」

「…!!」(こ、此奴。……な。……何故それを!?)

【Sogami】は以前から相手に対する正体を嗅ぎ付けていた様子であった。そのまま会話は続行される。

「…もう、ここはただの《闘技場》ではないんでさ〜。…これまで数々の不当な利益のみならず、過去に行方知れずとして処理された腕利きの【御用見廻組】の方々をここで殺害し自らの僕(しもべ)とした。……まるで現世でいうカードゲームの怪物みたいな扱いで武力を鍛え込ませる《家畜場》として、そして新たな武力の発掘場としてでさ〜。……まあそれも今となっては」(チラッ!)

「……確実に法の下で裁きを下す《コロシアム》。………自らの罪を自供し、《真実》を提示する為の……《審議》の場だ!!!」

【Veno・nix】は周りくどくあれど、彼【Sogami】の本質に気づいていた。彼にこの闘技場へ出向かせた理由は、この裏闘技場を支配する黒幕として【Fictus】が、以前から関与していたという事。不法に富を築き上げようと《妖術》を利用し、犠牲となり屍人となった者達の《眠れぬ魂》を《生き地獄》の如く、非人道的手段で操り人形として手駒とし、人を殺め新たに仲間を加え、価値を見定めていく。恰もそれは、価値のあるカード並びに駒が引き当てるまでそれを繰り返す《リセマラ》手法。その行為から彼自身の《傲慢》な横柄の姿勢を見てとれると言える。



PiPiPi!!



「…!?」

突如、相手の【P-Watch】から警告音のように数多の通知メロディーが鳴り響く。【Veno・nix】は以前から目の前にいる男に対し、調べを挙げていた様子であった。それは彼自身の相棒であり、優花の兄《槇原宣行》を連想させる《刑事の勘》を頼りに、麻薬取締官(マトリ)として過ごしてきた自らの意志に基づき、道を踏み外し大罪を犯した無法者に対してこう追求する。

ピロリン♪ ピロリン♪ ピロリン♪

ピロリ〜ン♪

「…フィクトュス。……貴様の事は、今は亡き本物の【Kunizu】氏による目の視力データが当に失われど、この【Paradiso】の世界における情報管理システム…【Fatima】(ファティマ)のネットワーク内によって。…先程貴様自身が発言した言動。…それは今《デジタルタトゥー》として永久に残されている。……貴様自身の素顔を露わにした事で。……世界中の者達が公の場で観測している事。……自惚れていた《帝》の力を行使していたとしても。……勘づかなかったのか?」

「!?」

PiPiPi!!

・・・

【Paradiso】ネットワーク情報管理システム【Fatima】(ファティマ)〜情報館〜
 




【Fictus】(フォクトゥス)〜?

あ〜聞いた事がある〜♪確かあれだよね〜?

うむ、あの事件。……だな。

十年以上も前に取り上げられ、各医学会を震撼させた、あの汚職事件か!?

…そんで法の裁き下されて医師人生オワタの人だよね〜!?

『医者になれなくて病を抱え込んだ父親の意志を継いで医者になりたい!!』…。とかいってさ〜!医学とは常に危険を脅かすも、人を助ける《冒険》なのぞよ〜♪とかが決めセリフにしててさ〜♪でも結局〜…

頭が馬鹿だからか、技術もなければ学も身に付かなくっていつもそれを私達や周りのせいにして自己保身に走ったりだとか、ただ口だけの《見えっ張り》と《虚言癖》の…プライド高ーい《承認欲求》の塊!!!

ハッキリ言って、期待外れとかいう言葉の意味も似合わないくらいに、哀れなお稲荷のお荷物さんだったらしいよね〜?

んでもって、居場所無くして非行に走ったりして、自ら起こした汚職事件をきっかけに《言語道断》かつ《自業自得》の結末を強いられたんだよね〜♪

たくよ〜。…何が医学会の……卵……!?

速報!!超速報!!…【J島】の【Kagoya】の悪代官の正体判明す!!

町奉行執行代官【Kunizu】の本当の正体明かされる!!??

……え?…これって。……!!マジかよ!?

医学会権威の【Kunizu】氏が殺害された直後…何者かが【Kunizu】氏に成り代わって化けてた!?……だと!?

その《何者》って誰よ!?

………は?

こらまたタイムリーな話題で〜♪

医学会追放者【Fictus】が【Kunizu】氏に化けて出て、奉行を働いていた事が【Kagoya】の町地下にある違法闘技場内部にて発覚する!!!!

マジかよ!!??

だがハッキリと解析してくれてんのか、当時の顔の輪郭全てのデータと合致した!!…よ〜し、拡散拡散ッッ!!!!

・・・
・・


「…!?」(…ば、馬鹿な!?…こ…こんな…事が………い。…いつの間にでおじゃる…!?)

「………」

「〜♪……こらまた大炎上でさ〜♪」

【Veno・nix】達は裏を掻き策士として叛旗を起こして反乱を企てる。それは闇をも凌駕し、自らの意志をドス黒い欲が塗り固められ《虚飾》の大罪に彩られた相手を目の前に、負傷した目は開眼出来ず、目隠しをされたまま視界は遮られている。それでも【現世人】の性分(しょうぶん)からか、もしくは野生のサバンナに生息する、《密林ノ狩人》が如く《黒豹》の名残から来る、《霧矢豹策》として過ごしてきた自分の意志がただ全面的に醸し出し、目の前にあったのだ。

ザッザッザ……!!!

タァン!!!!

彼自身の意地は遂に牙となりて目の前にいる【Kunizu】に化けし狐の本性を剥ぎ取った。かつて医学会を追放された【Fictus】(フィクトゥス)が彼に成り済まし、至福を肥やして生きていたという《真実》が、現実のみならず、張り巡らされている各国のネットワークの情報データによって遂に暴かれ、生涯に至るまで残る形となった。

PiPiPi!!

「…アンタさんの顔と情報。…既に、この【Paradiso】の世界全てに知れ渡ってるようでさ〜♪…今更ジタバタしても……」(スッ!)

「どうにもならないゾォっと!!!!」(シュバァッ!!)

ピキィーーン!!!!

「!!」

【Veno・nix】と【Sogami】は両手を上げ、相手に対し、力強く指を差して宣告するばかりにつきつける。

「……ぐぬぬ…お…おのれ。……この汚物風情の不届き者めがぁぁ〜!!!………だがここで貴様らを葬り…再び新たなる名誉を築き上げる事により………ッ!!麻呂の…《帝》としての地位は《未来永劫》!!!維持されるまでの事!!!!」

「……ま〜た優秀な誰かさんの顔を剥ぎ取り。スペアという言葉が似合わない、虚言に塗り固めたまま負け犬として生きて行くつもりでさか〜?………《社会不適合者》さん?」

「誰かの意見にも耳を貸す事がまるでない視野狭き狐。……反省もなければ、成長の余地もない…か。………最早誰にも。…世間からは決して良いように見られず、見栄っ張りで、下らん高飛車なプライドと《承認欲求》に溺れ、父親の脛齧(すねかじ)りとして、まんまと口車に乗せられた《人形》遊びは。……ここまでにしておくんだな。…不憫で、哀れ過ぎて……」

碌でもない末路を辿り。肥溜めに住みついたまま這い上がれなくなった深淵の住人とは。…貴様のようだな─────

「!!」(……こ……っ!!この汚物共……っ!!!)

ザッザ……



🎼Back Ground Music 》》》



♪〜PSYCHO-PASS2より・破壊が追いかける

「……この………っ!!この汚物の肥溜め風情の分際でぇ〜……」

【Fictus】は今まで築いてきたモノを破壊され、自らの貪欲なプライドまでも傷つけられたのか、アイデンティティ喪失を起こす程の精神状態にあり、理性をなくしていた。

「………この《帝》である麻呂の企みを破壊するのみならず。愚弄し………陥れようと。……!!おのれ。……消す。……消し殺す!!……麻呂の手で血祭りに上げて殺すでおじゃるゥゥゥ!!!!」

冷静を保てぬまま、目を血ばらせながら、目の前にいる【Veno・nix】達に手を下そうと術に頼らず、自らの持つ医療用のメスを両手の指間に挟み、特攻を開始する。

ダダダダダダ!!!

「……!」(右でさか…それとも…)

「………」(……左からくるか!)

ダダダダダダ!!!

「…取った!!死ねええいいいいい!!!!!!」

…………!!

シュバァッ……!!!

《ア〜〜ッメェ〜〜〜ン!!!!》

ブォン!!!!



メキョッ!!!!!

「…!!」

「…!!」

「ブゲェェ……!?」

「…………」

襲いかかってきた【Fictus】の目の前に、北欧神話の雷電の神《トール神》が放ったかのような《電光石火》の鉄槌。繰り出されたハンマーは、豪快に身体の真芯をとらえ、無慈悲にも地へとひれ伏せた。喰らった相手は《天地変動》を起こしたかのような錯覚に陥り、あまりの衝撃によって地面はめり込まれ、周囲からは轟音が鳴り響く。

グラグラグラ…………

「………き…貴様ぁぁ……!!この…我が下僕の分際……で……」

ブンブン!!!

…バサッ!

「んん〜……何それ〜?…私、別にアンタの駒になった覚えなんかないのよね〜!……ベェ〜!」

「…っ!?」(…こ、この声は…!?)

「!!………お…おのれ……っ!!」

バタリ!…

【Fictus】は、そのまま意識を失った。ハンマーを所持し覆面で身分を隠す者の正体は女性であった。上下は彼女のポリシーなのか、果たしてはトレードマークなのか、ジーンズ素材の服を着用していた。

「………」(さて……っ)

バサッ…!

「……!!」

覆面を外し、その素性を明かした。すると両サイドに結ばれたロングのもみあげと赤みがかった茶髪の髪色が現れる。

「………」

ザッザッザ……

その特徴からか、【Veno・nix】は歩み寄り、相手に声を語りかける。

「………優…花。……なのか?」

「………っ!」(…っ!)

クルッ!

「……っ!!」


サラサラ………


「……お久しぶりです。……霧矢さん!」

ハンマーを持つ女性の正体は、槇原宣行の実の妹、現世人【Aria】であった。

チャキリっ……

「………っ!……優花。……っ!!」

優花ァアアア!!!!!!

ポロッ……

カランカラン!

ガシッ!

「…!?///」(え…!ええっ!?///)

「………っ!」

【Veno・nix】は【Aria】を抱き締める。

ギュッ!

「…ちょ、ちょっと霧矢さん!?///」

「お〜やま〜♪」(これはこれは情熱かつ大胆な事でさ〜!)

この【Paradiso】を訪れ、早半年。その期間の中で【Veno・nix】は彼女【Aria】の存在を探し続けていた。そして今となり、彼女との再会に至った。

「……っ!……今まで何処にいた…?…心配したんだゾォっと。……無事で良かった……優花…」

「……今は現世人【Aria】(アリア)ですよ。……お互い様ですよ、全く。………霧矢さん…いえ、現世人【Veno・nix】さん。……私だってこの《半年間》の期間に……長い事あなたの事探しましたよ。………今みたいに…兄貴みたいな《刑事》紛いの事して、それはそれは色々苦労しましたけどね〜」

「…オロア並にじゃじゃ馬な事をするな…。…心配かけさせやがって……」

ギュッ!

二人は互いに抱擁し合った。しかし、彼らは異性として好意を向けたハグではなく、【Aria】の兄宣行との関係からか、同胞の契りとしての意を込め、互いに抱き合ったのだ。

「…この半年間…特に怪我は無かったか…?」

「別にありませんよ。……このように私は無事です」

「……そうか…アリア」

「ヴェノさん。……はぁ〜……!あ〜!!…もう、めんどいんで《ヴェノ》って呼び捨てます!!……全く、こんな長くなってしまいましたし……兄貴が怒りますよぉ〜…」

「…だろうな。……だが槇原は……案外笑ってるかもな……っ!…やっと会えた。…ってな……」(…ニッ)

「!?……へぇ〜!……この半年間で、まともに笑えるようになったんですね〜…ヴェノ!…ふふっ!」(クスクス!)

あ〜ははははっ!!!

「…フッ…!」(槇原。……見てるか?……優花は無事だったゾオっと!……)

「……〜♪」(やれやれでさ〜♪)(フリフリ!)

二人は無事に再会を果たし、闘技場の中心でハグを交わす。その様子を【Sogami】は少しばかりも緊張感がないお二人さんと言わんばかりに呆れ返るも温かく見守っている。




🎼Back Ground Music 》》》



♪〜るろうに剣心より・運命・冥界の鼓動

しかし、そのささやかなる二人の再会の時間を脅かす、《終焉》の存在の影がその本性を現す────

ボアアアアアアアアアッ!!!

「!!」

「!!」

「!!」(この炎の熱気……誰かがおでましでさか…)

突如、闘技場の周囲が炎に包まれ火の海と化す─────



ボアアアアアア!!!!

「……火…だと!?」(……凄まじい火力だ…)

「あつぅ〜っ!!…ちょっとぉ〜!?一体なんなのよぉ〜!?」

「さてさぁ〜て。………お二人さん。…余興はここまででさ」



ボアァアアアアァァッッ!!!!!



コツン♪コツン♪

ア〜ッ!!ハハハハハ!!!!!!

「…!?」(女の声!?……馬鹿な。…俺の予知能力では見通せない……事……が……っ!?)

「!?」(!!この声……)

「…姿現したらどうでさか〜?……」

コツンコツン……

「ったく、偉そうね〜……死に損ないが、私に指図してんじゃあないわよ!!…ふふっ♪」

ボアァッ……

焔の炎の海に包まれたその者は姿を現す。そこには黒く長いドレスに網目状のガーターベルトのソックスを身につけたシルバーカラーのロングヘアーの身なりをする、一人の女性の姿をした者が目の前に火の粉をチラつかせながら目の前にいる者達を睨みつける。

「……!」(…先程の聞き覚えのある高笑い……そして…この顔……っ!!)

ザザッ!!

【Veno・nix】は目の前にいる女性に対し、怒りを込み上げた表情をして叫び出す。

「……っ!!」

三木川ァアアア!!!!!

ギリギリ………

【Veno・nix】は先程相手が発した高笑いの声と、昔の友人天野を嵌めた時に見せた傲慢と強欲に満ち溢れ、高慢さが故に醜い者を見て蔑む時に見せた表情から相手を瞬時に理解した。相手のフェイスは、現世にて相打ちとなった《三木川》と同じ顔つきと態度を示していたのだ。

ファサッ!

「……へぇ〜♪…覚えていたのね〜霧矢〜♪…会いたかったわよぉ〜♪……あの時の恨み晴らす為に、塵も残さず焼き殺してやりたいくらいにさぁ〜!!…ふふっ!ア〜ハハハ!!!!……ホント……ざまあないわよねぇ〜♪…ギャハハ!!!」(ヘラヘラ!)

相手は【Veno・nix】の現世名を名乗り、自らのシルバーロングヘアーを靡かせて挑発する。

「貴様ぁぁ……!!!」(反省の色が全く見えず……死んでも治らなかったとは…狡賢く生きてまで…この世界【Paradiso】へ辿り着いていたとはな……っ!!)(ギロッ!!)

「み、三木川!?………っ!!…アンタ…ッ!!…あの腐れ男を操って……!!私の……っ兄貴をぉぉっ!!!」(キッ!!)

二人は相手に対し、怒りを露わにする。

ダダダッ!!

ガシッ!!

「!?」

【Aria】は目の前にいる相手に鉄槌を振りかざそうとする。それを静止させたのは【Sogami】であった。

「仇討ちを優先して……消し炭になりたんでさか?…まだアンタさんの結界と、わての協力で施した摩擦結界ノ術。……未だ残ってるんでさで〜。………とりあえずは黒幕を生捕に………!?」


!?


一同は【Fictus】が倒れていた場所を見る。そこにはクレーターが生じた跡があるも、少しばかりの火の粉のみが残され、相手の痕跡が塵一つも残らず失われていた。

ゴゴゴゴゴゴゴ……

「…こ、コイツは…一体…!?……いや、それだけじゃあないゾぉっと!?」

ザザ……ザザ……

「…!!ね…ネットワーク機能までもが…遮断状態……!?」

突如として、先程まで発信していた【Fictus】についての情報が途中まで遮断されていた。

ザザ……ザザ……

ndsiufheiufjwsljsiofjsiojs005547732………





「な、…何で…?……!?…まさか!?」

チャキッ……

「……な〜るほどでさ〜…姑息には姑息な手段でと来たんでさか〜?」

「ア〜ッハハハハハ!!!!!…バ〜カ♪!!…アンタらが張った罠に掛かって見事、餌に引っかかって墓穴掘ってやがんの〜ソウガミちゃ〜ん♪」

「………笑えんでさ〜」

チャキリッ!!

「ア〜ッハハハハハ!!!!…あ〜滑稽♪…ホント滑稽よねぇ〜!!…まあいいじゃあないのよ〜♪…この町仕切ってる悪人をこの私の炎で焼き殺したんだから〜♪アンタらも私自身の炎によって塵一つすら残さないよう……っ!!」

徹底的に地獄以上の業火で悶え苦しみ…そのまま《冥界》へと引導を渡してやるわァァ!!!!!!

ゴァアアアアアアアッッ!!!!!

「…!!」(この炎は…!?…まずい!!結界内部にまで…炎が迫ってきている!!!)

「!!あ、熱ぅッ!!…な、なんて熱気なのよぉ〜〜!?」(アセアセ!)

「…………」(…へぇ〜。…思った以上の火力でさ〜……差し詰め…その【現世女】の屍となった身体を借りて再び《亡霊》として蘇った《冥界》の使者自身が手繰り寄せ、会得させた…【Fiducia】と同等の擬似的な《力》……いや、それ以上の《可能性》が引き出されてしまった力でさな……)

ボアアアアアアッッ!!!!!

周囲は炎に包まれる。その中でも【Sogami】は至って冷静であった。

「……んでさ〜?……アンタさん、名前は何て言い張るんでさか?」

「?はぁ〜っ?……何でアンタみたいな雑魚に名前名乗らないといけない訳ぇぇ〜?バッカじゃあねえの〜?…ギャハハ!!」

「おんや〜?…まさか自分の名前が覚えられないくらい物覚えが悪いんでさか〜?」(やれやれでさ〜)

「!?」(こ…コイツ…!…フフフ♪)



「っ!?ちょ、ちょっとアンタ!?…んな挑発したら一体何をしでかすか!?………!!」

ゴアァアアアアアアアッッ!!!!

「!?そ、ソガミ!?……お前…!?」(身体が…燃えている!?)

相手に対し素性を明かそうと声を発する【Sogami】。突如彼の身体が炎に包まれる。彼自身の持つ【Fiducia】は摩擦を生み出す能力。使用する事で力学的エネルギーの法則に基づき、生じさせた摩擦は凄まじい運動量によって熱を帯びて《焔》を呼び起こす。その原理を使い、彼は今まで罪人を業火の炎で斬り捨て、焼き殺した《業》を背負っている。

バチバチバチ!!!

「ア〜ハハハハ!!!…ざまあないわよね〜♪…アンタ自身、今まで何人の奴を、んなダッセぇ〜《刀》で斬り殺してきたんだしぃ〜♪…閻魔の業火がアンタの身体を隅々まで焼殺しに来たようだね〜♪……長様もアンタに対して色々世話になったようだしね〜♪……報復として…受けたらどうかしら?」

「……」

「ソウガミ♡…そしてそこの穢らわしい《死に損ない》のお二人さぁ〜ん!!ギャハハハ!!!…フフ〜ン♪これからアンタらが行く所は♪……私自身の《地獄》の業火が延々と焼かれ、今まで殺してきた奴らに…♪滑稽にも首を絞め上げられ、責め苦を浴びて苦しんだ方が気が澄んで《救済》される事が…本当の救いなのかしらね〜♪ギャハハ……〜!!」

ア〜ッハハハハハ!!!!!!

「…っ!!三木川ぁぁ!!!!!」(グルルゥゥ……!!!)

「アンタ!!いい加減に……こうなりゃあ能力を解除して…っ!!ゲホ!!…ゴホっ!!」

ピコン!ピコン!


【Veno・nix】 ランクE
【♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡】
ーー


【Aria】 ランクE
【♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡】
ーー

《身体内部の魂の核に何らかの不具合確認!【Fiducia】の能力が暴走し、解除また使用が出来ない状態です!》

「!!」(何……だと……)

「!?」(な、何ですって!?)

二人の【P-Watch】から状態異常を知らせる通知が鳴り響く。

「!………そういう事か」(消えた【Fictus】の姿。……そして今起きている【Fiducia】の能力の異常とも言える……支障……!!)

「?…ヴェノ…な、何なのよ?」(な、何なのよ…一体!?)

「そうでさ。……ここにいた筈の【Fictus】氏自身は、本体が伏せていた一種の分身。……業火に包ませ、わてらの目を盗んでる間に分身を火で炙り、焼殺させたと同時に【Fiducia】の能力を、一時的の使用ならびに解除が出来んよう制限する《術》を仕掛けていたと。………わてらを確実に処分する為に。………でさ」

「〜♪」

パチパチパチパチ!!

三木川の態(なり)をした者は拍手をして称賛する。

「大正解〜♪ギャハハ!!…さっすが私達の長様が見込んだだけある男よねぇ〜♪ギャハハ!…あぁ〜もう一つ言い忘れてたんだけどぉ〜♪…私達が出現する事でさぁ〜♪【P-Watch】の通信機能ってのは電波障害の一種で全て《遮断》出来るんだよねぇ〜♪……ま、アンタくらいの頭働く男なら気づいてたでしょうけど、あんの馬鹿の《アキル》の裏切り見抜けられなかったのは節穴のようねぇ〜♪…ケッ!!…うざったいしキモ男よね、あのば〜かは♪…ギャハハ!!」

「………そうでさか」(アキル。……ここに来て寝返る方へ。…でさか。…………そのお陰さんで闇事情を暴いてくれて、見事ボロ出したようでさが……)

ボボォ〜………

先程【Veno・nix】の予知能力が発揮されなかったのは、この炎を囮にして注意を払い【Fiducia】の能力を一時的に封じ込める術を先程死に際の【Fictus】自身の身体を媒介に仕掛けていた事が明らかとなった。【Sogami】自身の身体は焔が飛び交う中、それでも冷静であった。

「………」(この女さんの考えから察するに前もって対策を講じ、まんまとわてらを罠に嵌めたと、余程自分に自信を持っとる様子でさな〜……顔から察するに《傲慢》と《強欲》…そして何処かに隠れ傍観してる憂鬱そうな《軍師》ならびに。……半年前この《紅ノ壱尋》で業火に包まれ、消失したミレイさんの皮を被った…《長》の存在。……まずはあの未知の力を持つ素養がある……わてを……)

チャキリッ!!

「………」

愛刀【紅ノ壱尋】を手に持つ彼自身の身体は、まるで《炎》の身体で構成され、《ガーネット》の輝きを放つ紅蓮の宝石のように、槐(エンジュ)の煌めきを放っていた。それはまるで生命の象徴とも取れる何かを引き寄せていた。

ボォオ……

!!





🎼Back Ground Music 》》》



♪〜ポケモンHGSSより・レッド・ワタル戦



「………なら。丁度良い頃合い。…ここで見せる時が、来たようでさな〜……」(…ルーさん。……アンタさんの置き土産である未知の力。……ドクター・セキミ。…すんまへんけど、能力を酷使するあまり、時既にして《諸刃の剣》に成り果ててしまったわてでさが…もう背に腹はかえられんでさ。……ここにいる偽善者さんに対し……)



………【Luster】の焔を灯し…いざ参らんかな…【狼志組】一番隊隊長…赤血のソガミ……

《炎ノ竜帝》の命に従い。……《葬骸》…執行とするでさ!!

チャキリッ!!

リィーーン…♪【冥鐘】



ヒィーーン!!!

「…!!」(…ま、眩しっ!!……っ!!)

「!?」(…な、何だ……!?)

「!?」(!!…あの持ってる刀が…光ってる!?……この光…っ…!まさか!?)

「………」

それは、誰しも予想だに出来ない、強く立ち向かう意志を持つ眼光と、悪しき野望を断ち切る光が刃となりて照らされる──────

ヒィーーン!!!………



「……っ!!…ちぃっ!!」(薬打つみたいに…動悸が…っ!!………あの目っ障りで鬱陶しい光。…あれが長様の話してた……アタシ達の救済の障害となる《脅威》の光……厄災を招く男に殺されたっていう命知らずの馬鹿が残していた遺物…かしらね。……まあそんなちゃっちい〜光♪……)



私の業火の前じゃあ〜……燃え尽くされるだけだから何もかも無意味なんだよォォ〜!!!!

ゴアァアアアアア!!!!!!!

相手は火の能力を使い、一同を全て焼き払おうとする。

バチバチバチ………

「!!」(先程より、周囲の火力が強くなってきている。……だが…何故だ……!?)

「!?」(火が、全くこっちへ襲ってこない!?……寧ろ…ソガミの持ってる刀に…火が集まって…!?)

「…………」

ボアアアァ!!!!

「…!?!?」(な、何で!?…アタシの炎は今まで……確実に有無を言わさず全てを消し炭にして葬り去るってのに…っ!!??何で火達磨にならないのよ!?……アイツの身体は、火が燃え移っている筈なのに……!!)

「…………」

ヒィーーン………!!!

グォオオ〜!!!!

「!?」(な、何!?…炎の…ど、ドラゴン!?)

「……!」(あれが、【Hopera】の連中が言っていたソガミの異名となる本当のコードネーム…《炎ノ竜帝》という訳か。…俺と《テスカ》のように、何か得体の知れない者が……力を貸してくれているというのか!?……ソガミお前自身……一体どうなるんだ…)

【Sogami】の《紅ノ壱尋》からは眩い光を放ち、相手が放った業火の炎を取り込み吸収する。そしてこう語り出す。

「……焔の蛍火────闇は光照らせど今宵再び光は闇の炎へ包み込む者ここ来たる。…我紅葉と銀杏降る秋ノ月影に希望の流星群なる二つの光の灯火後世にまで照らすが故………」

「…?はぁ〜!?…一体何寝言言ってるわけ〜?念仏ぅ〜?…ギャ〜ハハ!!」

動揺している相手は、少しばかり冷静になったのか、高笑いしつつ相手を見下す。

「…?」(これって和歌……短歌?)

「…二つの光の灯火《後世》にまで照らす…?……!?まさか…!よせ、ソガミ!!」

「…………」

ボアアアアア!!!!

「!!…くっ!!」(い…意識が…遠のく…)

「…っ!!」(…な、何だってのよ…身体が…重たく……これじゃあまるで…《一酸化中毒》みたいじゃあないのよ…)

フラフラ………

二人は熱気にやられているのか身体がふらつき、地へと跪(ひざまず)く。【Sogami】は二人の盾になるかの如く刀を構え覇気を全面に押し出す。背後にはまるで紅蓮の赤き焔の竜のシルエットが浮かび上がる。

我天命ここに受けたまり、生の宿命全うし炎の宝石へといざ行かん─────



「【原典ニシテ長点】…【炎ノ竜帝】の技をその身に受けてもらうでさぁ〜!!

ジャキン!!!!


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜Heroes of Manaより・The Dragon Emperor [竜帝]



ボアアァアアアアア!!!!!

グォオオオ!!!!!

「…!!」(な…何…!?)

「…!!こ…これは…」(焔のドラゴン…だと)

ボアアァアア!!!!

「ば、バカなぁっ!!……一体。……何が……」

どうなっているのよォォォ!!!!



グゥオオオォォォ………!!!!

ボアァアアアア!!!!!

「さぁ〜て……救済を目的としてる、偽善の使者さん?」(ジィ〜っ)

「…っ!!」(キッ!!)

三木川の姿をした者は相手の発する炎の竜の相がハッキリ見えるのか、ひどく警戒していた。

「………アンタさん。…救済者ぶって自らを優れているように魅せてるようでさが。……本当の所……」

滅法…弱いんじゃあないんでさ〜?

「!!…な、何ですってぇ〜!?」(この…男…!!)

「…!」(……動揺した!?)

「……っ」(私だって、言えたもんじゃないけど、あの顔は。……確かに沸点が低そうな感じよね…)

【Sogami】は相手の者に対し、核心を突こうと続け様にこう言い放った。

「さっきから……その顔色の相から伺えるは、【傲慢】と【強欲】。それぞれの大罪の意を強く示すと。……なぁ〜るほどでさ。……アンタさんが…御告げを通してオルガナさんが言ってた【Demister】6幹部の一人……」

【Izaya】(イザヤ)さんでさか。

「!?………」

ゴゴゴゴゴゴゴ……

「……で…【Demister】(デミスター)!?……それって確か……アンタとオリアナ救済長が密会してた時……ミレイさんになりすましてた《オカルト教祖》が率いてる……組織名!!」

「………アリアさん、盗み聞きは身を滅ぼすでさで〜…」(……しれっ)

「…!!」(イザヤ……それが三木川自身の【Paradiso】名…【Demister】……初めて聞く名だ…)

二人は酷く困惑した。【Sogami】自身は現世で語り継がれる、ある国の神話に基づき、こう語った。

「……ある逸話ではギリシャ神話の女神さんペルセポネ…その夫ハーデスが築き上げた死の世界。……《冥界》からの使者だとか言われ。………様々な人々に救いをと偽り。……本当は破滅の《終焉》をもたらすが為、蘇りし負の遺産の屍人(リビングデッド)……そういう見解があると見受けれる。……それこそ昔から先人の者が滅ぼされる前、アンタさんら自身の事を調べてたようで、色々と勉強になったでさぁ〜」

「……っ………!!あ……!アァンタァァ〜〜〜ッッ!!!!」(ギリギリ!!)

「……屍……人(リビングデッド)……!?」

「それが、ここにいる三木川のなりをした奴の………正体だという事か!」

更に困惑の表情を見せる相手の表情。遂に疑惑は確信へと変わり、彼女自身の素性を明らかとした。

ボアァアア!!!!

「……まあいいわ。……このアタシの救済の炎が灯されてる以上…脱出は不可能なのよ!!……霧矢……あの腐れ刑事の妹……そして長様に楯突いた腐れ狼がぁぁ!!!……アンタら共々……ここで消し炭になっちまいなぁぁ〜〜!……ウフフ…アハハ……〜!!」

ア〜ッハハハハハハハ!!!

シュン!!

「…ッ!!…逃したか!!」

ゴァアアアああ!!!!!!!

ビキビキビキ……!!!

「!?ちょ、ちょっとどうするのよ!?……逃亡しただけでなく、既にあの悪女の残した炎が私のバリアーを破って迫って。……!!ねえちょっと、聞いてんの、ねえぇっ!?」

「…………っ」

チャキリッ!!



ヒィーーン!!!!!

「!?」

「!?」

【Sogami】は【Luster】の光を照らし、背後にいる二人を背中に燃ゆる炎のプライドに賭け、守らんとする強い意と、逃亡した【Demister】の者に制裁を企てる術を《紅ノ壱刃》に意を示し、今実行される。

ゴゴゴゴゴ………

「時は満ちたでさ。…剣の道行きし…時既にかすかなる命ノ灯火揺らめきし我……今宵……真なる……」

葬骸…!!執行でさぁァァァッッ!!

ジャキィン!!!!



リィーーン!!【冥鐘】





【Sogami】は炎と眩い【Luster】の光を刀身に宿す《紅ノ壱刃》を地面に突き刺す。それは周囲全体を温かい焔の光で包み込み、敵の起こした火種から二人を守ろうとする強い意志が感じ取れた。そして彼自身がこれまで語った事柄から、残されていた時間は短い事を自覚していた。彼自身の境遇は、かつて現世に存在した幕末の武力組織【新撰組】一番隊隊長《沖田総司》の如く、天剣の道行けど肺疾患を患い、維新が築かれた新たなる時代をこの目で見る事がなく、幕末の花が散るが如く世を去った《志士》の存在があった。そして彼自身もまた限りある命からがら、維新を成し遂げるのは自分だけではない。この命捧げてでも次の世代の者達へ結ぶ未来があっても良いではないのだろうかという皮肉にも《自己犠牲》を払う選択をした。偽善の者にとっては無駄なことやも知れぬが、彼自身その選択を後悔する事はなかった──────

抜刀し、真剣振りして【冥鐘】の音が鳴り続ける限り、誠の志ありし《狼》の志士の者達は、これからも歩みを止める事がないだろうと。組に属する一番隊隊長は笑みを零し、右腕として補佐している《副長》の事を想い──────

焔ノ宝剣と共に生き、今ここに契りの追憶の時を刻もう─────

維新の夜明け迎える事を願うその時まで──────








   
B. いいえ


《Capitolo・8》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜Lisaより・炎


『っ……!!』

ブォン!!

カァァーーン!!!

『!?…っ!!』

『……その程度でさか?』

『…まだまだぁ!!』

ブン!!

『……甘い。…でさぁ!』

ブォン!!

カン!!

……!!

カァァーーン!!

『!?……え…?』

『………』

カランカラン………

『う……嘘……?……《交響楽》のみならず…剣道じゃあ…私の右に出る奴なんかいなかった。…それなのに……こんなガキンチョなんかに……』

『……やれやれでさぁ〜…』

チャキリ!!

『っ!!』

『……自称《くノ一》名乗る【現世女】さんの【Yaeka】さん……アンタさんは【狼志組】の名の下……御用とするでさ〜。……皆さぁ〜ん、確保するでさ!!』

ハハッ!!隊長!!

ダダダダダッ!!

シュルルr!!……ギュギュ〜!!

『!!あぁんんっ♡…ちょっ、痛っ!!…んもう!丁重に扱いなさいよぉ〜!!??///私、まだこう見えて嫁入り前のおなごよぉ〜!?それをこんな反吐が出そうなお縄で縛り付けて拘束するだなんて、全く一体どういう変態趣味してんのよ、アンタらァァ〜!?///』

『…おまけとして口が悪いどうもならない毒舌別嬪さんでさぁ〜全く。……話は屯所で聞かせてもらうでさ〜』

オラオラ〜!!キビキビ歩け〜!!

グイッ!グイッ!

『ちょっ、ハァア〜ン♡!!///そこぉ〜♡…だ、ダメェ…♡』

『…感じたフリして動揺誘っても無駄な事でさ〜』

『あらら。…そうよね〜?…アンタ見た目から普通にガキっぽいしぃ〜♪』

『はいはい、大きなお世話でさ〜』

ザッザッザ……





〜【狼志組】屯所内〜

ジャラジャラ……

ボアアァアア!!!!!

『!!……っ!』

ガチャガチャ!!

『足掻いたところとて無駄のようねぇ〜……あぁ〜…お腹減ったわ〜……』

ザッザッザ………

チャキリッ!!

『…!!』

『…気分はどうだ?……吐く気になったか…?』

『…だから言ってるでしょ〜、悪いことなんかしてないってぇ〜!?……全く、反吐が出そうね〜…こんな楔で縛って身動き取れなくして今度は《火炙り》の刑のつもりなのかしらぁ〜?…それに、もう…///大胆にもこ〜んな褌付近にまで楔繋ぐだなんてぇ〜……///【狼志組】だっけかしら〜?……ここには変態しかいないのかしらぁ〜?///』

『……それは自ら貴様が望んで枷をかけたのだろ?……《誘惑》目的として看守を惑わせ…ここから脱出を試みようと考えているのだろ…?』

『あらぁ〜バレバレだったか〜…』

コツン……コツン……

『……くノ一【Yaeka】。…貴様に面会の者が来る予定であったが……用があると言い残しすぐ立ち去り。…こう話していた』

『?………何?……一体誰なのよ?』

『………富豪の者達から金品を盗み、貧しい下町の者達にブツを渡し。…飢饉から救おうと奉仕活動に勤め上げてきた貴様自身。…法の裏を掻い潜ろうと動いていた。それでも罪は罪。その責任たる罰を清算し償った後………』

【Kagoya】町内にある住居【関蓮荘】。そこは暫く留守にするので好きに使って欲しい。…そう主の下から仰せつかり。…我々は伝達を命じられた。

『!!』

ガチャン!!ジャラジャラジャラ………

『…くっ!!』

『……その様子…《黒》のようだな。……まさか貴様を匿っていた者。……それが名家の者と通じていたとはな………』

『だ…黙りなさぁい!!』

ギリギリギリ……!!

『………』

『アンタ……あの人に何をしたの…!?…答えなさい!!』

フリフリ……

『……我々は何も手を出してはいない。……ましてや彼女は貴族の下である華族の名家の出の者。…下手に手を出すようならば。…それこそ他国の《法務局》に目をつけられ、我々武力組織は容易く崩壊へと辿る。…わざわざ自らの首を絞める事はせん』

『…っ!!どうだか。……そんなの。…信用できないわよ……』

『………』

チャキリッ!!

『!?……アンタ……』

『………』

『…やめろ、ソガミ』

『……了解でさ、副長さん』

スパァン!!!

ジャラジャラジャラ…

『あぁっ!……っ!!こ…こんのガキンチョ〜!!……』

『………やれやれでさ』

ピトッ!!

『っ!…ショタガキが偉そうに……何様のつもりよ!?』

『一番隊隊長のつもり』

『……何よそれ、馬鹿にしてるわけ?』

『……別に。……でも【Yaeka】さん。……わてはアンタさんに伝えたい事があるんでさな〜!』

『何よ?…悪いけど、私ガキなんかタイプじゃあないのよね〜?』

『……お生憎。…と言いたい所何でさが。……わては結構アンタさんの事、タイプなんでさ〜!』

『……は?何それ、キモ』

『何とでも言うでさ〜♪…単刀直入に。……ウチの【狼志組】八番隊隊長を担当してはくれんでさ〜?』

『……は?』

『………』

『は、ハァ〜っ!?ちょ、ちょっと何よそれ!?馬っ鹿じゃあないの〜!?…何で私が!?』

『……応じないんでさか。…なら武力行使として、ここで極刑して粛清するんでさが〜………こんな風にッ!!』

ブン!!

バサァっ!!

ボアアアアア!!!!!!

『…!!…ま、摩擦熱で…藁を一瞬で火を……!?』

『ご名答でさ♪種や仕掛けはないんでさが……戦闘能力に特化した【Fiducia】能力だけはあるんでさ〜♪』

『……ッ!』

『…へへ、でさ!』

バサっ!

『!!……なんのつもりよ?』

『…アンタさんにと、その面会者さんから仰せ使われたんでさ〜!……ほんま、義理人情溢れる、ええ人でさなぁ〜……』

スッ!!

『!!……その便箋……まさか……』

『立ち去る前、わてが彼女を説得して本当の真心の持ちようを……あん人は手紙として残してくれたんでさぁ〜!』

『……!!』

『……読み上げるでさぁ〜!』





拝啓 ヤエカさんへ あなたの所業を【御用見廻組】の方々から聞かされ、とても心苦しい事に思います。ですが、あなたが陰で成していた事。それはとうに知っておりました。

『…!!……え…?』

不当な方法で《富》を築き上げた者達をあなた自身は女忍者、くノ一に属する《仕置人》としてこれまで人知れずの場所にて、数々の騒ぎを起こし、献身的に【Kagoya】の貧困住人の飢饉を救おうとして下さりました。しかし、いずれそれは罪とみなされ、この町の治安組織【御用見廻組】の捜査の目がかかり、御用となる事でしょう。……だから私は主としてあなたの罪を共に償う為、【A島】の法務局へ足を運び。…相応の罰を受け、あなた自身の《保身》を保証すると同時に【御用見廻組】の武力組織【狼志組】一番隊隊長ソガミさんから一つの交渉をしていただきました。

ヤエカさん自身の罪を不問にする償いとして【狼志組】八番隊隊長の任を任され、今度は無法の者達を取り締まるものとして返り咲き。……闇を払い退け【Kagoya】の町の顔として相応しい華のある凛々しい女性として…生きてほしいと──────

これを決めるはヤエカさん。あなた自身の意志でありますが、これだけは言っておきます。あなたは《極悪人》では決してございません。狼のように粗暴の激しい一面は確かに見受けられます。……それでもあなたは。……本当に優しく、明るい物腰の柔らかいお方。そんなあなただからこそ。この【Kagoya】の町を…本当に良くしてくれる事でしょう。結果的に私はこの町を去る事となりますが、それでもあなたが罪を自覚し、これから【狼志組】の隊長としてあなた自身が大成し、この町の治安を護る者としてご活躍される事を……信じております。

───────ありがとう。…娘が行方知れずとなって生きる希望をも失いかけていた私を正してくれたあなたは。間違いなく《光》です。【狼志組】の志士方どうか、お願いいたします。

【Kagoya】の町に、蛍の如き炎の灯火に満ちた、希望の《維新》の光を……どうかその実現を…ヤエカさんと共に、心からお祈り致します──────

『……』

『内容は以上でさ。……あの時の名家出の彼女さん。…覚悟込めた目つきで自らの保身ではなく……ヤエカさん。アンタさんのこれから歩む道に光差し伸べようと。それはそれは最後まで頭を下げてまで、わてに《勅命(ちょくめい)》を提示してくれたんでさぁ〜……』

『……っ!!』

『……さあ、どうするんでさか〜ヤエカさん?……応じないんやったら。…………』

『お…お……っ!』

『?』

御見逸れしましたぁ〜〜!!!!

『…!!』

『な、なんでさか〜!?』

『あはは!!…へぇ〜!…【御用見廻組】【狼志組】って、ただ剣を振るうだけの、野蛮な変態集団の集まりだとか思ってたけど、まさかこんな義理人情ある誠意と……技持ってたりする隊長が中にはいるのねぇ〜……それに…///』

『…それに?』

『……私の色気や魅力に気づいてくれるグッドボーイが一番隊隊長だなんてね〜♡アハハ!………っ!!』

ポタポタ………

ジャラジャラジャラジャラ………

『……おい貴様、囚われの身だというのに随分と余裕の満ちた歓喜の表情をしているようだな……自らの身の程を弁えているのか?』

『は?…怖い顔のアンタはすっこんでなさいよ』

『(・ー・)』

ガーーン!!!

『やれやれでさ。……この顔の怖い人はウチの副長さんでさ〜……怖いからか、よく子供は泣き止むどころか泣き散らかすんでさ〜…あんま言わないでやってほしいんでさ。……整形してからこんな顔になってか〜なり気にしてるんでさ〜』

『……は?……ふ……副長!?……この人が!?…はへぇ〜!!……こらたまげたわねぇ〜………あ、なんかすいません、はい』

『……もういい。…言われ慣れている。……やはりそうか……ソガミ』

『男に対する強気な姿勢、その素行の激しい所から察するに、さぞ相当悪どい男に捕まっては乱暴され、相当束縛慣れしてる拘束・緊縛の相が出てるようでさ〜…話にあったように…《遊郭》の女のような扱い受けるが如く縄やら鞭に蝋燭といったアブノーマルSMプレイやらされて、相当苦労した様子でんなぁ〜………だからこそわては身体張って、美徳にも尽くすタフなアンタさん見込んで。…目をつけたって所でさ?…覚えて理解したでさ〜?』

『!!///……ちょ、ちょっとぉ…遊郭…///…緊縛SMに……な……マゾ…///って……あ、アンタらぁ〜…………!!だ・か・ら!!』






…まだ私は嫁入り前の綺麗な身体してるっつってんでしょうがぁ〜〜〜!!!!





〜その数年後のある日〜

サラサラサラ…………

カコーーン!!

『……副長。……あれからヤエカの方はどうでさか?』

『…まだ任務には戻れん。…それくらい精神的に参っている様子だ』

『そうでさか。……こうなればでさ』

チャキリっ!

『……ようやく刃を見せるのか?…その《紅ノ壱刃》を』

『…わてが現世で住んでた時、決して手放さなかった古ノ刀でさ。……大震災に巻き込まれて家の下敷きになり。両親は生き埋めになり、先に息絶えてしまってでさ。……それでもこの刀がわてのそばにあって…最期を見守ってくれたんでさ……』

キラーーン!!

『…地震が発生し、その後火災が原因による爆風に巻き込まれて死亡。……目覚めた頃に【導き人】達と出会い、ここへ辿り着いた』

『でさ。……現世の頃は色々両親に迷惑かけたやんちゃ坊主だったでさ。……それがいまや整形手術をして…』

バァーーン!!!!

『…一端(イッパシ)の姿になってしまったでさ』

『……《年齢サロン》……か。……誰に術を施してもらった?』

『【Fiducia】能力の管理からなのかモノ好きなのか、自分には専属のドクターが最近ついたんでさ。…んで、そん人に治療を兼ね。…ついでに施術をしてもらったんでさ〜♪…どうやら経営が上手くいってるのか、シマ拡大も兼ね、近々新技術を【Velkana】の街へ実装する予定らしいんでさ〜♪…《Aランク》以上限定ではあるんでさが……』

『この《魂の身体》内部に存在する七つの魂のチャクラ。……その部位に人の手で施術を行い、何かしらの細工を施す事で、《Aランク》以外のものでも整形は技術的に可能としているが。…まだ未熟ばかりからか、術中に昇華するリスク。……現世でいう《医療ミス》が起こったという情報も聞いている。……それでも富を築き上げようと犠牲を払い実行するイレギュラーな考えを持つ者もいるようだがな…』

『場当たり的な対応で医学会を追放され、その居場所を埋めようと闇に身を投じ、医療技術を実践し陰で悪用してる連中が……最近【創造派】【ユートピア創造士隊】……それも上層部の方々さんならびに、闇の暗殺殺戮集団【Varisk】を養ってるのもこれまた事実でさ。……どうやらその連中らにも物事を創造する上で、何かしらの派閥があると最近知ったんでさが……』

『?……派閥だと?』

『新しい指標のプロジェクトプランなのか。…それも超人的身体能力を持つユートピア人を作ろうと、人身売買活動を促進するが為、死体ビジネスやら臓器売買を目的にする《屍体部隊》……もう一つは』

『…もう一つは?』

『…ヤエカ自身らへんは否定するやもでさが、優秀な【現世人】を選別し、昇華した者達の戦闘・生体データを何かしらの方法で記録・インプットさせてバックアップし、人工的な魂の身体の器を設け。…似非なる【現世人】……レプリカ人間を生成する、わてら【現世人】をあくまで自分達の利益として有効活用する目的で擁護する《虚構ノレプリカ社会》の創造。………時にそれは《救済》の誰かさんをも引き寄せてしまう世界が生まれる《可能性》にも繋がってるように思うでさ〜』

『……!!……』

チャキリッ!!

リィーーン…♪【冥鐘】

『…副長。…安心するでさ。……わてはそんな量産型なもんに頼る事はしないでさ。……《創造》ってのは、そんな世界作る為にあるものではないでさ〜』

『……では、ソガミ。…お前自身に問いたい。……もし合理的手段として奴ら【創造派】の行動をどうしても正すというのであれば、それは一体どういう見解を示しているというんだ?』

…クスクス

ザッザッザ………

『…………』

『…それは。……その可能性をも凌駕する核心のある。……この夕陽に吠えたくなるくらいやるせない感情と苦難あれど情熱持ってその使命を全うし、長きに渡ってこの【Kagoya】の文明や文化を築き上げてきた現世からおいでなすったクリエイターさん方。その方々を筆頭に支えてきた、【Paradiso】の世界を生きるユートピア人。……それぞれが持ちはって闘争し、燃え尽きて暗がりの夜になってまったように失い。…散った命あれど、再びこの夕陽が毎日のように登る。一人一人生きるように、わてもこうして《紅ノ壱刃》持つ時もまた、今がある時間の命の灯火。……誠にそれは、宝石のように煌めく炎の……』

宝物なんでさ──────







🎼Back Ground Music 》》》



♪〜ルパン三世より・炎のたからもの

バチバチバチ………

「…………!」

キラキラキラ…………



〜【Paradiso】歴2000年7/9・夜方・【J島】【Kagoya】下町通り・広場・【Veno・nix】【Aria】サイド

バチバチバチ………

「…ソガミ。……お前……」

キラキラキラ………

【Veno・nix】が目覚めると、そこは既に地上であった。相手にかけられていた幻術だったのか異世界に迷い込んでいたのか、裏闘技場の空間から脱出し気がつくと下町の広場へと倒れ込んでいた【Veno・nix】は身体を起こす。そこには【Aria】と力を使い切ったのか、昇華が始まりを迎え、寝そべった状態の【Sogami】の姿がそこにいた。彼自身の身体は焔で包まれていたが魂の結晶と重なり、それはガーネットのような美しい夕陽の炎に包まれた宝石のように煌めきを放っていた。

「…しっかりしろ!」

「…もうこの魂の身体。…限界のようでさ〜……伊達に十数年…生き延びてたのが奇跡の身体でさ〜……」

「!!……どういうことだ?」

「あれ〜?…オーラルさんから聞いてなかったでさか〜?【Fiducia】の力を乱用したら、時に身を滅ぼすって事」

「…!!……そういうことか。……お前自身の能力は……」

「ご名答。…摩擦なんでさ。鰹節の如く、いつしか命すら削ってたって事。……どう足掻こうと短命の運命だったんでさ〜」

キラキラキラ…………

「……ソガミ。…お前に御礼。…まだ言えてはなかったな。……半年間の間、【Olfes】の救済長を務めるオリアナと協力してアリアを守ってくれていて。……ありがとう」

「…!!……おやおや、寒々としたクールなアンタがそんな顔と言葉を発すとは。……目隠ししてるとはいえ、その目。……見えてるんでさ〜?」

…ピトッ

「…ああ。……お前のやり切った顔とその英国の架空生物。…紅蓮のドラゴンのような目(まなこ)…確かに目を通して見えている。……お前の主治医のおかげさんでな」

【Veno・nix】は少しばかりの涙を流す。その様子に【Sogami】はほっとした表情を見せている。

「流石はドクター・セキミさんでさ〜♪…それなら安心したでさ〜。……あと、言伝あるんでさ〜」

「…?…何だ?」

【Sogami】は笑みを浮かべ、魂の結晶と炎に包まれた自分の身体を動かし、自慢する一つの《宝》を前に翳(かざ)す。

「現世から餞別にと託された我が家に伝わる家宝……わての愛刀《紅ノ壱刃》。…ヴェノさん。……これをアンタに託すでさ」

チャキリッ!

「…!!……《紅ノ壱刃》」

【Veno・nix】が【Sogami】に託されたのは、燃え盛る焔によって灰色になった灰に未だ灯火として不思議な煌めきを放つ、一振りの刀《紅ノ壱刃》であった。主であった【Sogami】の命を現世のみならず【Paradiso】でもその行く末を見護り、まるで強い《絆》をも持つその刀の刀身は陽炎のように揺らめく波紋を放ち、これまで彼自身が刀剣を振るい、罪人を斬り捨ててきた証をも感じ取れた。その所業に対し、【Veno・nix】はこう確信した。

「……そうだったのか。………ソガミ。…お前が…この【Kagoya】の裏に巣食う…《人斬り》の正体だったのか?」

チャキリ……

「………その通りでさ」

【Sogami】は素直に自らの所業を【Veno・nix】に告白する。長年【御用見廻組】が行方不明となる不可解な事件の引き金を引いた《黒幕》は【狼志組】内部にいた事を彼は知る。

「……過去に、同志の志士へ《誹謗中傷》浴びせた悪どい連中さんが、長年一般人だけでなく【御用見廻組】にまで紛れ込み、揉み消そうとした不届き〜な輩さんがおって。……無駄な抵抗と言わんばかりに暴いて解き明かしたわて自身はこの刀持って、法で裁けん代わりに閻魔の炎で制裁した所を上が目をつけ。……都合の良い《人斬り》に仕立て上げられたんでさ。……【狼志組】を畳まれたくなかったらと圧つけ、この【Kagoya】の町の世直しというご大層な理由を……長年も苦行を重ねてでさ……」

キラキラキラ………

「……今となってはもう……お前は…………」

ポタポタ…………

「【御用見廻組】上層部のみならず、未だ組織内部には、ろくでもない連中がゴロゴロいるんは確かでさ。……黒暗い闇に抱かれ、後戻り出来んくなってしまい泥濘(ぬかるみ)から沼…やがて深淵の低俗な底の欲へと誘われる。……ヴェノさん。…アンタがご存じの《アレ》のように」

「…《麻薬》…《覚醒剤》……っ!!」

ギリギリギリ………

【Veno・nix】は拳を握りしめていた。ここに来て過去の因縁が、今再び自分に振りかざされているという事に。現世において、【Aria】の実兄《槇原宣行》が自分の腕の中で息絶えてしまった事が頭の中でフラッシュバックしていたようだ。彼自身のみならず交友関係にあった、《天野(アマヤ)》の事も含め、自らの不甲斐なさ及び取り締まる為の法的秩序の未熟さをも痛悔した。

トントン!

「…!!」

「そう激昂するもんではないでさ〜ヴェノさん。……時にクールかつ真面目、時に遊んで明るく元気にが本当の《人》らしく生きるコツ…でさ!」

ニッ!

キラキラキラ………………

「……ソガミ……!」

【Sogami】は心温かく罪を告白したからか清々しい表情で【Veno・nix】と接する。身体から放たれる魂の結晶は残り僅かとなった事を察すると、一つの質問を交わす。

「…ではでは、ヴェノさん。……あの時のこのチャクラ改め、【Padma】(パドマ)の見解についてでさ。……これの《0》の意について。……今の出来事から、ようやく理解出来たんでさ〜?」


《【Sector・0】パドマ》
・暗がりの暗部。誰も立ち寄らない《魔ノ禁域》の地
・深層ノ闇の領域
・カラー:漆黒属性  宝石としての意味合い:ジェット(忘却)、コ・イ・ヌール、ダイヤモンド(不幸)、デリー・パープル・サファイア(不幸)、ラ・ペレグリナ・パール(破局)、ブラック・オルロフ(呪い)、ブルーダイヤモンド(呪い)、ホープダイヤ(呪い)



「偽善を目的にこの【Paradiso】の世界を暗躍する。……俺達【現世人】とは違うあの三木川の姿をした、極めて異例な方法と手段によって入界した因縁の相手連中の事を示している……と?」

「……正解」

【Sogami】は満足げにこう話す。そしてもう一つの言葉を踏まえる。

「…でもヴェノさん。…《0》という言葉。…決して悪い意味として使われる訳ではないんだわさ〜」

「……?」

「0っていうんは。…時に原点となる《初心》へ戻り、そして次の《世代》の始まりの意味合いも込めてるんでさ〜。…おっと忘れてたでさ。…この宝石が。…ピッタリだと思うんでさ〜」

スッ……





「…………」

ペラッ!

───《ブラックスターサファイア》(0からの進みを手助けする一筋の光を放つ夜空の宝石)────

「………」

【Veno・nix】は熟考し、少しばかり困惑した表情をも見せる。

『その宝石によって、暗がりの闇に自らの光を指し示し、包み込んで晴らす《鍵》。それはヴェノさん。…アンタら含めた次の世代に託されてると言えば宜しいんでさ〜』

「…!!」(…次の……世代……)

キラキラキラ…………

『……そろそろお別れでさ〜………一度しか言えないんで耳かっぽじってよ〜く聞いとくんでさ〜ヴェノさん!……アンタさんも義理あって知ってる人なんでさが、ウチんとこの十番隊隊長のトワと。【R・P】社のベアさんとも交流があるよしみとして、臨時でウチが請け負ってる【Hux・row】ことハクローくんの事。……よろしく頼んだでさ〜』

「…!!」

キラキラキラ………!!





パキィーーン!!!!!





コツン……コツン……コツン……


メッセージを言い終えた【Sogami】は昇華した。その当時の事を【Veno・nix】は振り返りつつ、気を失った【Aria】を後ろに抱えながらその場を離れ、町中火が燃ゆる中、怯む事なく歩みを始める。

コツン…コツン……

「ソガミ。…ゆっくり休め。……トワ……。……あの悪夢裁判以来か。……この騒ぎの中、無事だろうか。…そして【Hux・row】(ハクス・ロウ)……【Dail】事件の情報から名は聞いた事があるだけで面と向かって会った事がないな……」

「……ぅ…ぅぅ……」

「!!おっと、…アリア。…待ってろ。……避難出来る場所を探してから、二人の居所を探さないとだぞおっと………」

タッタッタ!!

ポタポタ………



ザザーーーッッ!!!!!

「…!!…雨か。……風邪を引かせないように早く休まる場所を。……だが、何故だろうな。……少しばかり。……心と身体が、先程よりも軽くなった気がするぞおっと!!」

タッタッタ!!!!

【Kagoya】の町は炎に包まれる。それに対抗するかの如く、恵みの雨が街全体に降り注いでいる様子だった。打ち付けられる雨の中、【Veno・nix】は予知能力を使い、町人々と敵の動向を探りつつ、安全なルートを確保し【河原木邸】を訪ねる。そこに半年前旅に同行していた【Beanne】と再会を果たすと同時に半月前に遭遇した事件と関与する、もう一つの運命を手繰りよせ、巡り合わせてしまった────

・・・
・・



🎼Back Ground Music 》》》



♪〜Death Noteより・Lのテーマ


〜【Paradiso】歴2000年7/9・深夜方・【J島】【Kagoya】【河原木亭】〜

バシャバシャ……

ジャーッ………

「………」

ピトッ!

場所は【J島】【Kagoya】にある【河原木亭】。寝室には、亭内の管理を任されている【Senno】と【Veno・nix】の同伴者である【Aria】の二人がいた。彼女は水で絞ったタオルを頭に当て、気を失ったまま、目覚めない彼女の世話をする。

「……険しい顔をしておりますね。……余程辛い事があったようですね……」

「……っ……ヴェ……ノ……」

【Aria】は悪夢を見ていたのか、酷くうなされていた様子であった。

「……こんな時。……【Sekimi】(セキミ)先生が居れば心強いのですが…現在《出張中》ともなれば仕方ありません。……一体……どうすれば……」

コンコンコン!!

「!?…は、はい!どうぞ!」

ガララララ………

「……失礼するぜ」

「!?……あ……あなたは……」

突然寝室の襖が開くと白衣を身に包んだ者が姿を現す。その者は銀髪であり、髪も少し長い両サイドに分けられていた。その隣に見知った顔の者が相手の身分を説明する。

「セノさんすんまへんな〜、ちょっち、勝手に上がらせてしまってなぁ〜!……この人やけんど、どうやら異国の医者さんで【Oya】ちゅう人らしいんや!観光でこの【Kagoya】の町に来てたらしいんやけど、たまたま今回の騒動に巻き込まれて色々回ってるらしいんや!…んでついさっき見事な処置でロランはんを手当てしてくれはって、次はそこのアリアはんをこれから手当てしてくれるらしいんや!……」

「……!」

「……よろしく」(ぺこり)

「?……あの〜、セノさん。……?」

「……分かりました。……ケイトさん。…すみませんがアリアさんの処置を終え次第、少し二人きりにしてはもらえませんか?」

「?…別に構わんけど?」

「…すみません。…【Oya】さん。……どうぞこちらへ」

「…では」

タッタッタ……



【Aria】の診察を終えた【Oya】は室内に入室すると近くの座布団に腰をかけ、【Senno】と対面する。

ドクン……ドクン…

「あの………どうでしたか?」

「…問題はない。…だが疲労なのか、負荷が掛かっている状態なだけだ。一日休めばスッキリするだろう」

「…そうですか、安心しました。……《ヤクビシ》さん」

「………」

【Senno】はさりげなく彼の本名を呟く。その問いに相手は─────

「…【Oya】だ…」

「はぐらかしても無駄です。いくら数年ぶりに身なりを変えたところとて、……私の周りにいる幽霊さん方は、あなただと既に察しているようです」

「…命が欲しければ、その【Fiducia】…霊能力をすぐに止める事だ」

「拒否します……もう分かっております。……《ヘイケ・ホタル》メンバーの【Yakubisi】さん……我が主カワラ(【Kawara】)様の死因を握る鍵を持つお方。…その瞳。……間違いなく…」

「やかましいぞぉっ!!!」

「…っ!!」

【Oya】は一喝して【Senno】からの追求を逃れようとする。それでも彼女は納得しない姿勢を見せ、更にこう発する。

「………っ!」



《國威計画》

「!!……」

ガシッ!!

「…あぁっ!!」

「………っ!!」(ギロッ!!)

《國威計画》というワードを聞いた【Oya】は顔を険しくし、言葉を交わす。

「おいアマァ!!……どこで聞いた…?……誰からそれ伝えられた……?」

「…あなたがよく知ってる方……セキミ・ドクターからです。……だって、あの方もカワラ様と……共に!!」

「…っ!!」

ガバッ!!

「あぁっ!!…ゲホッ!!…ゴホッ…!!」

「………そういうことか。……納得したぜ。……もう知ってしまったんだろ?…カワラ兄弟が何故殺されなければならなかったのか?…そして、何故…あの兄弟の死体と生前の記憶を悪用し…不当な……」

《色欲と虚飾に彩った、富と権力を築かせる必要があった事を……だ》

「!!……っ」

ギリリ………

【Senno】は苦しそうな表情を露わにする。この十数年の間、未だ《黒幕》の正体が掴めず、愛する主を殺められたまま肉親となる弟までも行方が分からずしまいであった。後に死亡した事を知り、彼女の《刻》は未だ止まったままであった。彼女の目は相手の右目を無意識に注目していた。その目は愛する主の瞳の色と似非というくらいに類似していた。

「だが。…まずは何故、俺がこの目をしているのか。…その事について知りたいか?」

「………!」

コクッ!

【Senno】は相槌をうつ。覚悟は定まっているという意志が見受けられたのを確認し、当時の事を話す。

「……あの大火事が起こったあの日、昇華する前のカワラ自身は、火事による爆発によって身体が吹き飛ばされ、その拍子に自らの眼球をくり抜いた。黒幕に回収されないよう爆風で吹き飛んでしまったように見せかけ咄嗟に俺が受け取り、『…来るべき日の為、その目は大事に持っていて欲しい。必ず真犯人を特定する鍵となり得る筈だから』と前もって言い残し、俺にこの目を託してくれた」

「…それで、見つかったんですか?」

「……肝心の《黒幕》の姿は現世で言う目の疾患《飛蚊症》のようなモヤがかかり、このモノクルを用いたところとて見通す事は出来なかった」

キラーン……

【Oya】は生前【Kunizu】が身に付けていたモノクルを【Senno】に見せる。彼女はそのブツに見覚えがあった。

「【C島】【Mikrio】の街。…【Xiol】にて生前【Kunizu】様が使用されていたモノクルですね。……どこでそれを?」

「…【Xiol】に内通者がいたが、どうやら何者かの襲撃によって盗難に遭い、奪還は結構困難な道のりだったらしい。まあ運命のイタズラか無事に俺の元に届いたようだがな。……黒幕の正体を暴く為、まずはでっち上げられた《真犯人》を特定する為にと……」

「…!!……《でっち上げられた》……真犯人…?」

【Oya】はそう宣言すると彼女は困惑の表情を見せる。

「ちょっと待ってください!………でっち上げられた……?」

「…真の《黒幕》の前には、でっち上げ吊し上げた餌となる《黒幕》。それをあたかも生贄として見せしめ、《刺客人》の身分で世間へと差し出すべし。……現世での違法ビジネス。……《鼠講》のような手口でこれまで真の黒幕は明かされないよう対策を講じていた。……アンタさん自身も……接触があるんだろ?」

「!!」

【Senno】はその者の名を口にする──────

「…下町奉行者…【Kunizu】奉行!!」

ギリギリ………

「……その顔…どうやらある程度の事は教授から事情を聞いたようだな」

「……っ!……あの方が……弟君のクニズ様の遺体を利用してクニズ様へ成り代わり。……カワラ様に成り代わろうとする器をも、探し出し……今度はあの人の……!死を冒涜して富を築き上げようと……」

「………」

【Senno】は事の事情を聞かされていた様子だった。しかしそれを【Oya】は事実を伝える。

「……いや、この【河原木亭】の主カワラは。……既に違う奴に化けて復活を果たしてしまったよ」

「!?……え……」

「……」

「ど、どういう事なのですか……!?」

「……【Dail】邸事件。…知ってるだろ?」

「……はい。…【R・P】社のベアさんから事情は少しだけ……」

「……ふぅ〜………」

コツン…コツン……



🎼Back Ground Music 》》》



♪〜大逆転裁判より〜告白された真実

「……その色欲の大罪を犯し、牢にぶち込まれ暗殺された【Dail】の右腕【Jeil】は……」



お前の主の身体を使って生まれた



「……………!………え………」

ドクン!ドクン!…

【Oya】は闇の真実を彼女に真意も無く伝える。それを聞き正気ではいられなくなったのか彼女は涙を流し口を開く。

「嘘!!…そんなの……っ信じられません!!」

ポタポタ……

「嘘じゃあないぜ。霊視能力で下町奉行のクニズの正体を暴いたとなっちゃあ、とっくに勘づいてる筈だぜ。…あの事件の後、カワラの遺体は【創造派】の一派に遺体の一部を回収され、生前【Melton】の次期頭領の腕を買われる程の獲物を縄一本あればなんでも捕らえる《捕縛術》に精通してるのか、その特性のみを悪用し、暗示の手段の一つなのか現世で有名な《緊縛師》として名を残した色欲関連の【現世人】といった御大層な肩書きの記憶のみを持たせ。……新たに器を設けられたカワラは……新たに【Jeil】として縄の《怪物》といった名目の形で復活を果たした。……事情を知ったセキミ・ドクターは、この事情を決してアンタにだけは話すなと縁を切る前告げてたが、今度はクニズを名乗る影武者が現れ、どんぱち起こしてる今となっては、もう話さなくてはいけなくなったからな……」

「…………!」

「まあその【Jeil】自身は。……【Dail】事件の騒ぎの後、【R・P】社の騎士ギルドの監獄内にて《植物状態》。…生きる屍のまま留置されているが、誰かによって既に命が絶たれていたのか夢そのものも見れない程に衰弱し尽くし、廃人状態となっていた。それを見兼ね、せめてもの手向けからか、足を運んできた【狼志組】の副長さんが執行を施し、その最期を見送ってくれたよ。……無事例のブツと《目》の回収も済んだ事だからな」

「………っ!!」



スッ……!!

パァーーン!!!

「っ…………」

「………っ!!」(キッ!!)

【Senno】は【Oya】の右頬を強くはたく。彼女の眼からは『この、人でなし!』と言わんばかりの感情的な感情が込められていた。その表情を汲み取った上で、相手は話を続ける。

「……何で……そんな事を十数年間も……!!あなた……は…!!」

あなたって人はぁあああああああ!!!!!!!

ポタポタポタ………

【Senno】は【河原木亭】の主の死の真相について、悲しみの真相を聞く。【Oya】は自らの言葉で、彼女自身いつかは知らないといけない真実をこの場で告白した。真実を知らせる事は時に非情を生む。それでも知らせなければいつかは彼女自らが知ってしまい、その時の衝動には変えられない事実を《黒幕》による出現から、捻じ曲げられた情報を含められ、彼女自身にもいつかは危害が及ぶだろうと。今彼女にだけ言わないといけなかったと【Oya】は覚悟の旨で伝えたのだった。

「この事。……アンタ自身の胸だけに留めておく事だぜ。……この【Kagoya】の町で少しでも《長生き》したいのならな……」

「!!…っ!……ぅぅ!!…えぐ……!!」




あああああぁあああああぁああああ!!!!!!!

ポタポタ……

「……」(やれやれ。…損な役回りをしたものだぜ。…まあ)

【Oya】は涙を流し、口を塞いでしゃがみ込んで嘆く彼女の姿を背にし、天井を見上げる。

「………」(……確かに伝えたぜ……)

【Oya】は少しばかりの追憶に浸る────





〜時は戻り、朝方【Kagoya】内のある人気のない路地〜



「…なるほど。………そう言う事だったのね」

ザザっ……

チャキリっ!!

「………」

「………」(キッ!)

時は遡る。【Oya】は医者ともう一つの顔として情報屋を名乗り、密会にて【Beanne】と接触する。二人は長きに渡って仕事上、情報のやりとりをする仲でもあった。彼女は口を開き【Oya】に話しかける。

カクカクジカジカ……

「…分かったわ。…それで情報屋さん。……そんな裏の重要な機密情報を私に伝えて、一体何企んでいるのかしら?……この【Kagoya】の町を裏で牛耳ってる【Kunizu】って悪代官と裏で手を組んでまで…?」

「………」

「…っ!!」

答えなさいッッ!!!

ドドドドドドド…………

【Beanne】は鋭く眩い眼光で相手を威嚇する。

「……その銃剣を下げろ。…交渉するにしては誠意と態度がなってないぜ。…それとも…未だ俺が憎いのかい?……五年前【R・P】社リシア(【Lisia】)のバディーだった、森羅万象のベアンヌ…」

「………っ」

チャキッ……

【Beanne】は手に持つ銃剣【Arbitro】をひとまず【P-Watch】の中へ収納したのか空間内から姿を消す。そして事の真相を話す。

「……リシア。……アイツの事は今でもすまなかった。……ただそれだけだ」

「……ッ!!」(あなた…は……たったそれだけで済まそうとするの!?……あんな《大事》まで…引き起こしておいて……っ)

ザッザッザ……!!

ガシリッ!!

「………」

「……あなた。………許さないわよ。……黒幕を追う為だとはいえ…!!リシアを一体何だと思ってるのよ!?……あの子は……」

ギリギリギリ………

「………手を離せ」

「っ………」

バッ!!

【Beanne】は胸ぐらを掴んでいた手を払い除ける。

「……続けて」

「……先月引き起こされた、【D島】での《真・ユートピア創造士隊》支部襲撃事件。……その実行犯となった者はギルドに属さない《便利屋》として身分を名乗った者達による犯行。…そう言っておくぜ」

「…!!…じゃあ」

「…身内同士から勃発した小競り合いからの内部抗争という関連は…おそらくない。…ただのゲリラ集団による《テロリズム》を目的に。…かつてお前の所属するギルド室長が引き金を引いた、あの人体の《臓物の催し》をこの世から抹消する為に、招いたあの事件のようにな……」

「…《標本見聞解体新書》!!」

ギリギリ………

「…それを世間に知らしめ、トチ狂った奴らの催しを暴こうとお前のバディーはその事実を公表した。だが利口にも、連中はそれを逆手に取り、彼女の行動を称賛する者が現れた事で《印象操作》を企て。…罠を嵌め、そのままでっち上げ、吊し上げた。いつしか【現世人】のみが暮らす世界の実現をと。…その後【Paradiso】に住むユートピア人全てを壊滅させる事を目的とする反乱分子になり、悪教祖のような《凶悪犯罪者》の道へ。……それを」

「………真実を知った私が彼女を裁いた。……身内をただ危険に晒す《首謀者》として厳正に…裁量に基づいて贔屓(ひいき)する事なく…この手で…」

「…認めるんだな?」

「事実だから。……だけどね」

ツーッ………

【Oya】は眉を潜める。彼女の瞳には少しばかり涙が溢れていたからだ。

「…後悔してるのか?」

「ふふっ。…別に。……話し合いの末だとしても、こればかりはバディーとして彼女を『止めないと』……そう決めた私の本当の感情だと思うから。…整形する前……ベルナ姐さんから明るく暮らしなさいと言われたのだけれど、結局仮面被って無理してキャラを作っているだけなんだと。…今だって思っているのだから……」

「…お前自身……自覚なく長年本心からは笑えなかったと…?」

「…ええ。……最近会った、あの《人》みたいにね」

「……?誰の事だ?」

「…別にいいでしょ。……でもそれを正そうとしてくれる人達はいたよ。ユートピア人にも…【現世人】にだって。……この【Paradiso】を生きる人達がね。……だから、私は…散って去っていった人の分まで……」



《この世界の在り方を。……真実を知りたいの》

「………」

「……〜♪へへ〜ん♪」

【Beanne】は心から笑っている。それは誰かとの出会いもあるからか清々しくあった。

「…時にそれは誰かの首を絞める事になろうとしてもか?…それが原因で……」

「………」

「世の中を良くしようとせんばかりに、誰かを泣かしていちゃあ、それは世直しとは言えないだろう?」

【Oya】は自らの念を込めた言葉を口にする。それを【Beanne】はこう返す。

「でも、前に進む為には仕方ない事じゃあないのかしら〜?……《ヘイケ・ホタル》の【Yakubishi】さん?」

「……」

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜早見沙織より・Tear of Will OP Size

「…情報屋さん。…あなたの事は昔から調べさせてもらったわよ?……さっき言った便利屋から推理させてもらったんだけどね。…あの爆破事件に関与した便利屋ギルド【Hopera】に所属してる闇医者…【Oya】さんなのよね?」

「………」

「……黙りのようね。……なら、これは何?」

ペラッ!!

《死亡者リスト》

便利屋ギルド【Hopera】所属─────【現世人】【Eimi】(エイミ)【C島】貧困街にて昇華を確認─────

「……そうか。…貴様…」

「…覗かせてもらったわよ。……【Dail】邸事件が解決したその翌日。少しばかりの情報を手繰り寄せ、ハッキングさせてもらったの。……そっか。………エイミちゃん………」

フルフル………

【Beanne】はかつて【Veno・nix】と共に旅に同行していた、【Eimi】という現世で《性同一性障害(GID)》に悩んでいた者についての安否情報を知っていた様子だった。心なしか、彼女の顔はとても切なしげであった。

「……確かな事だ。…エイミはあの現場で昇華した。……武術にも精通していたお陰さんで、ここ【Kagoya】の治安組織【御用見廻組】特殊部署組織からのオファーが来ていたが。……今回の一件でナシとなった。おかげさんで後継者を探そうと今上層部は追い上げをかけてる最中だ…」

「……【Dail】のメイドとして雇われ、挙げ句の果てに【Kagoya】の【御用見廻組】上層部の《闇》へ投入させる戦士として。……最終的には《人柱》として祀り上げる予定だったのかしら…?」(キッ!!)

「…反対だ。……闇に染まりあがった上層部そのものをぶち壊そうとしたんだよ。…武力行使でな」

「…!!……なんですって?」

【Oya】の発言に【Beanne】は目を見開く。続け様にこう呟く。

「アイツは切り札だった。…この【Kagoya】の町で影の上層部が引き起こそうとする、争いの引き金を止めるセーフティーとして。…その役目を果たしてもらうが為にな。……今から半年前【G島】【Olfes】に辿り着いた彼女自身。…ある深手の負傷をしてしまい、オリアナ(【Oriana】)救済長直々の命で立ち会った俺はその場で緊急オペを施し、治療と同時に武力を強くする施術を行った。……だがその代償として」

「……現世で過ごしていた本来の姿と身体。……男の娘になってしまったのよね…?」

「ああ、そうだ」

【Oya】は非情にもそう言い放つ。

「…皮肉よね。……あの子にとっては、折角女の子として過ごせる……夢のような時間なのにね……」

「…恨むのなら、この【Kagoya】を裏で牛耳り《闇》に隠れてる……《暗部》の非情さを恨む事だな」

【Oya】は空を見上げる。空は群青の曇天が覆い尽くし、そろそろと言わんばかりに何か波乱を呼ぶ空模様が怪しげに広がっていた。

「……なら」

コツンコツン……

口を開いた【Beanne】はこう呟く。

「……まるで中世時代。…西ヨーロッパのキリスト教徒による、カトリック教会の諸国が、聖地エルサレムをイスラム教諸国から奪還することを目的として派遣された遠征軍……」

「……《十字軍》の事か?」

「……エイミちゃんが暴こうとした、《暗部》の存在。……その騒ぎの引き金が起こされた時、その《闇》の一望を。………セノさんの主さんが持っていた、その目で暴ける時かもしれないわね。……伝えられる内に…伝えておきなさい」

「………」

バサァっ!!

「…もう行くのか?」

純白のコートの丈を靡かせる【Beanne】は歩みを始めた。

コツン……コツン……コツン……

「……便利屋らしく、コソコソと見ていなさい。……彼女の分まで。…この十数年間の間、…ベルナ姐さんですら明かせなかった《闇》…この手で必ず暴いて光を照らしてみせるわよ。………いつの日にか。……必ず」

コツンコツン……

「……待て」

「……何かしら?」

彼女の歩みを止めた【Oya】は少しばかり人の話を聞けと言わんばかりの顔をし、最後にこう伝える。

「…エイミを殺した奴は。…恐らくこの《暗部》が派遣した【Varisk】のメンバーの中でも、《強者》の手による犯行だと推測できる。……くれぐれも気いつけるこったな」

「…情報提供…感謝するわ。……ふふ〜ん♪…流石腕利きの情報屋さんだね〜♪」

ルンルン〜♪

コツン…コツン♪

彼女は少しばかりのお礼をし、軽はずみな楽弾みのステップを効かせ、その場を過ぎ去る。その様子を【Oya】は武運を祈るかのように、こう告げる─────

「…Bon Voyage(ボンボヤージュ)……御武運をだ。……そして……」

コツン……コツン……

「《奴》を。……裁く覚悟があるってんなら。………確かに伝えておくぜ。……そのメッセージを。……どうやら……俺も」

終末期。……ターミナルの天命文とやらが送られてきたからな……

ペラッ………

フランス語で良い旅路をという言葉を含め、見送った情報屋。手に持つ冥界の王の呼び声の叫ぶ電報文は、風に煽られつつも離さなかった。歩みを始めた者の顔は、医者の仮面を被り、今度は【河原木亭】の主を支えていた彼女の元へ向かう。これまで明かされる事がなかった、真実を告白する為にと─────






🎼Back Ground Music 》》》



♪〜逆転裁判より・尋問〜アレグロ

「………」

「…ぅぅ……!!」

スタッ…!!

「……分かりました。…では私にも、話してもらう権限がありますよね?……一体誰が私の主、……カワラ様を陥れた方は……一…体……だ…れ!?」

シーーン……

「……!!……え……」(い、いない!?)

バサバサ………

パラパラパラ………

【Senno】は驚愕した。振り返った場所には、目の前にいた筈の【Oya】の姿が忽然と姿を消していた。着用していた、黒いコートはそのまま残り、彼女の腕に抱かれた。

バサリ……

「…い……一体…何が起きたというのですか…?……!!……まさか…そんな……神…隠し…?」

ペラっ!

「……!?…え…?」

ピラッ!!

【Oya】は姿を消す。そのコートの中には一枚の写真があった。その写真は引き裂かれていた状態であり、半分欠けていた。

「………一体…これは……?……この子は…誰?」

その写真に写っていたのは満面の笑顔で笑う、赤色のスカーフを身につけ、緑の衣服の装いをした一人の子供である。【Oya】自身、この子供の写真を持つも一体どのような関係と接点があるのか、当の行方をくらました本人がいない以上、彼女はその真実を特定する事には至らなかった──────

「……っ…いつの時代になっても大事な事は教えずという事ですか。……致し方ありませんね。……ケイトさん達だけで付きっきり看病させておくのはいけませんね。……本当に治療を施したのか、ロランさん達の様子をしっかり見届けないと………ベアさん。……どうか御武運を……っ!!」

スタッ!!タッタッタ……

・・・



〜その頃【Veno・nix】サイド〜

ヒュ〜………

「………」

燃え盛る京ノ町【Kagoya】──────【Veno・nix】は、聳え立つ一角の城を見つめる───────

「ここが、奴の言っていた【世原城】……か」(ずっとこの地の底で眠り、亡霊達を操ってはただひたすらにこき使い。…この町牛耳る為に、《虚飾》の城を影で創り上げてきたという事か…………金箔で塗り固め、微かな月の光を照らし神々しいように見せてるつもりなのか?……ふざけた場所だぞぉっと……。町中を火の海にした後、まるでその頂点に立ち《革命》を起こす神が降臨し成り代わろうとするという事か?)


〜【世原城】〜


場所は地中深く。【Veno・nix】は地下闘技場のあった場所へ再び足を運び、更に地中深くまで進む。その奥へと続き、光差し示した場所には、まるで地から這い出てきたかのように全体が金色に彩られし、 現世の戦国武将の居城となる《城》に見立てられた建物が存在していた。ライフラインとなるインフラはこの城に直結されており、水や電気といったエネルギーを吸い上げ富を築き上げていた。恵みを育むのは自分だけ。それ以外の富持たない下民は枯渇させ飢饉をもたらせんとする、《乞食》のような表れもこの城から《負》の感情としても発していた。

ドドドドドドド………

「言葉で表すなら、深淵の闇底で、ひっそりと聳え立つ城という事か。……通りで今まで特定には至らなかったようだな。…表へ出る事がないよう、地下でライフラインを供給しこれまで生き延びてきたって事から……つくづく人が働く意を見下し、自分なりに見限ってきただけの性分か。……哀れとしか言葉が出て来ない。……いずれにしても。……ここで刈り取るまでだ。………」



《信念と意見の食い違いがあったとはいえ、衝突してしまった…ベアと同胞の【R・P】社の者の分まで……》





〜時は遡る〜

ザザ……

「………」

「………」

ゴゴゴゴゴゴ………

時間は少し戻る【Veno・nix】は【R・P】社【Agente】所属の【Rolan】(ロラン)から、何かしらの因縁をつけられ、衝突する運びとなった。

「……危険人物である貴様には聞きたい事が山ほどある」

「……一体なんだぞおっと。………おっさん?」(ギロッ!)

「…その顔つき。…雰囲気を変え、本性を表したか?……その目隠しは仮面のつもりか?」

「…違うぞおっと。…ある事件で目に負傷を負った。…だからこうして眼帯代わりに保護している。…それだけだ」

「………」

【Rolan】は相手を尋問するかのように問い詰める。顔つきから相手の主張には相違がないものと見做し、質問を変える。

「…いいだろう。……では次の質問だ。半月前に起きた【真・ユートピア創造士隊】支部爆破事件」

「……!」

「……む?」(顔色を変えた。……やはり何かを知っている)

【Veno・nix】自身、苦い経験があるのか、眉を顰(ひそ)めた。その表情を【Rolan】は見逃さなかった。その様子に追及を重ねていく。

「…その時起きた爆破の原因は、何者かが仕込んだ爆破物と、もう一つ自然的エネルギーとなる《プラズマ》。…その要因から生じた放電によって爆発事故が起こり、火花を散らすが如く、あの建物内部から大規模火災が発生した。……その時、貴様自身があの支部の中から逃亡して行く証拠を撮らせてもらった」

ペラッ!!

「………」

【Rolan】は当時発生した事件の一枚の写真を【Veno・nix】に見せ、証拠としてつきつける。

「………」

「ベア自身はお前を少しばかりの知り合いとして見ているようだ。…だがしかし。……このような騒ぎを起こし、確保されていた者達をも危険な目に合わせ、現場から忽然と行方をくらませた挙句、何処の組織に所属している事を明かさず、突然訪ねてきてはハクローの所在を聞こうとする。……普通ならば敵と見做されてもなんら不自然ではない筈なのだが?」

「………っ!」

「…例え怪我人を背負い、善人を演じた所とて、我々の動揺を誘い、あの時のような襲撃を繰り出す事も十分に考えられる。今この町中が火の海と化してるこの有様のようにだ。………不明瞭かつ馬の骨も分からん貴様に………っ!!」

《誰かを救う事なぞ、出来はしないのだッッ!!!》

シュバッ!!

ビシッ!!

「…………」

【Rolan】は相手に指を差し、まるでここは《法廷》だと言わんばかりに強く主張する。その問いに【Veno・nix】は──────

「ああ。…………事実そうかもな。……へへっ!」

「……!?」(わ、笑った!?)

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜大逆転裁判2より・復活の検事

「……それはあくまで、非公式の組織《便利屋》に属していた。……《俺》自身ではの話だ」

「…!!…貴様。…それは一体どういう事だ!?」

「………へへっ!」(敵を欺くなら、時に嘘は吐き捨てなくてはならない。……それが結果的に解決に至るも、陰を包み込む結末になる窮地になろうとも。…あの時のネルソンのように笑い。……そして、一番隊隊長の一振りにて、再び焔の光を照らせばいい。……昔っから散々な闇に関わった俺は。…真っ当な手段は選べそうにないだろう。…だからそうなんだろ……俺は?……とことんまで闇を暴き。…………無法者を……)

刈り取るまでだゾォっとなぁっ!!!

ビシッ!!


《…YUALLI!!!(ユアーリッッ!!)》

ピキィーーン!!!

「!?」

「………」

【Veno・nix】が発した《YUALLI(ユアーリ)》という言葉は、古代アステカ文明の言語が起源とされる。長きに渡り、闇と謎に包まれていたアステカの歴史。16世紀の時代スペイン人のある者が彼の地を訪れ、その言語を用いる者達を観測し、時を超えし今もなお、その語源は記録される。現在の歴史でもそれは知れ渡っており、言語ならびに語族に対する概念の提唱を巡っては、北と南の地方による派閥、学者同士との議論の余地が多く、有耶無耶にされ否定されるも後に言語学の組織研究の分野として概念が認められた。語源として位置付けられた米国大陸最大の言語集団である先住民(ユト・アステカ語族を含む)の者達が発していたとされる言語──────《ナワトル語》。【Veno・nix】自身が発した言葉の意味は《夜》を示している。現世においてナワトル語は、《ナワ語群》として用いられるもマイナーかつ、メキシコ本国在籍の者達以外には、知れ渡って普及される事はあまりなく、米国の刑務所ならびに神話を崇拝したギャングの世界において《隠語》として取り扱われる言葉でもある。

「ロラン。……アリアを背負い。……【河原木亭】へ訪れた俺は。あの時、確かにこう言った筈だ。…別に《怪しい者》ではないとな」

【Veno・nix】は話術にて【Rolan】を説得しようと試みる。しかし相手は首を横に振り、それを否定する。

「……信用できんな」(フリフリ…)

「………」(キッ!)(やはり…そうなるか…)

「……と言いたい所だが、今は緊急時。…我々【R・P】社も時間が惜しい身なのだ。……ならば貴様に問おう。…それを証明出来る《物》はあるのか?」

「……!」

【Rolan】は交渉として、『自分自身の身の潔白を証明する物を提示しろ!』と言わんばかりの表情で《証拠物》の提示を要求する。

「………」

「……どうした?…出せないのか?……やはりそう……」



《TONATI(トナーティ)!!!》

「…むっ!?」

「………」

チャキっ……

「………」

【Veno・nix】は再び言葉を発した。《TONATI(トナーティ)》それはナワトル語で《太陽》を意味する。先程の議論から解釈する言い回しで例えるならば、現世の世界における天体の摂理上────太陽が主体となり、月並びに地球は交互に自転と公転の周期を基とし、恩恵として幾度となく宵闇(よいやみ)から黒夜が訪れるも、明けないような事は滅多に起こらない。何故ならば太陽が昇りし時暗闇の空は紺色から紫紺色──────やがて焔の灯火の意が込められし《暁光》が空を染め、あたかも包み込んだ闇を焼き尽くして晴らし、再臨されし天空に光が放たれる自然の摂理を、彼自身はその意を示そうと主張する。

「……それならばある。……これだ!」

チャキリッ…!

「…!?…そ、それは…!?」(見た事がある。…だが、なぜ貴様が…!?)

周期によっては、北と南の極地で明ける事のない夜現象《白夜》。その現象が起こるかのように、不可思議な形でその姿を現し、終焉を齎(もたら)さんと暗躍する偽善者達の存在。それらの障害をも跳ね除けようと一つの打開をする《切り札》を【Veno・nix】は【Rolan】に提示する。

ヒィーーン……

「……【御用見廻組】武力組織【狼志組】一番隊隊長ソガミ(【Sogami】)氏の愛用する、一振りの愛刀。……《紅ノ壱刃》だ。……今回引き起こされたこの大騒動の中で、彼は俺達を庇い、自ら昇華をするという決断に至った。……欲望に満ち溢れた、得体の知れない悪党から身を護ろうと力を出し切り。……煌めく聖炎の中で散ってしまった…」

チャキリッ…!!

「…!?……見苦しい言い訳だ。…事をでっち上げ!それを差し出した所とて、貴様がそのブツを盗難したという事実が残るだけ」

《MIXCHIA(ミクティーア)!!!》

「!!」

「…《待て》。……話は最後まで聞けと言ってるんだゾオッと!!」(カッ!!)

「……っ!」

【Veno・nix】は再度ナワトル語を投げかける。熱くなっているのか、それは自らの意志を含めた最初の言葉から発せられた。

「…密命を請け負っている身の俺は。…以前から【狼志組】関係の者との関わりを持っている。……それも《上層部》に属する、極めて信頼のおける者とな」

「!!」

「俺はその者から【Sogami】氏へと…確かに言伝を託された。……自らに何かあるようならば。……臨時として【狼志組】に属している、【Hux・row】並びに十維新メンバーに属する【狼志組】十番隊隊長の【Towa】の事を……守護する者として、新たに復活する刃を持て。……とな」

「………」

「………」

チャキリっ……

【Veno・nix】の手には未だ、【Sogami】から託された一振りを握り締めている。それだけ、彼自身は【Sogami】の事を敬愛する意をも感じ取れた。

ズザッ……



「……貴様の言い分は今の話を聞き、少しばかり理解した」

「………」

ゴガーーン………

「……!?」(斧…?)

【Rolan】は武器である斧を【P-watch】から呼び出し、手に持つ。

「…なら、その言葉が誠なのか、それとも人を騙し咄嗟に出てしまった……虚偽の情報なのか…?…ここで見定めさせてもらおうか?」

「……あくまで信用できないとでも?」

「ベアと交流していたのならば忘れてるわけではあるまい。…貴様が俺の属するギルドが一体なんなのかを?」

「…諜報機関組織。…スパイだから本当か嘘かの情報は、当事者の顔色見ればわかるとでも?」

「…無論。……後はその見合う実力があるのかについて。……示せないようならばここで貴様を敵と見做し。……倒す!」

「……仕方ない。筋金入ってるようで、何処か抜けてるように見えるが。…やむを得んようだな〜……口でわからないのなら、おっ始めるしかないゾオっと!!!」

チャキリっ!!

「…っ!!」(む、あれはロマン武器の一つ。……両双剣か!!)

「………」

ドドドドドド………

【Veno・nix】は【Nelson】から託された、【黒曜石】の意が込められる【Paradiso】の世界で鉱石で作られた自立と真実を追求する意を込めし武器【Fen・Grill】を持ち、戦闘態勢を取る。

「……その構え。…武術の心構えは出来ているようだな?」

「………」

「……む!?」(…またもや空気が変わったようだな。両面を持ち合わせし、特殊かつ、奇怪な人格を持つ者とでも言う事か?)

「………無益な戦いはすぐに終わらす。…気が済んだその時、奴の所在を答えてもらおうか。……【R・P】社【Agente】所属…!!」

《ロラン!!!》

シャッ!!

「…来るがいい。……無法者…!!」

《ヴェノ・ニクス!!!!》

シャッ!!

ブォン!!!

キィィオオォォーーーン!!!!!



《【R・P】社諜報機関ギルド【Agente】メンバー》

        《【Rolan】》



お互いの武器は激しくぶつかり合う。議論の余地なくして、後に残ったのは自らの実力と武力にてそれを証明する運びとなった。お互いの意地と意地が何処までぶつかり、分かり合える事が出来るのか、それは向かい合い対面しあっている二人にしか知る由はなかった───────



   
B. いいえ


《Capitolo・9》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜龍が如く0より・Misery Comes on Beat

ガン!!

ドゴン!!

キィォーーン!!!

「……っ!!……ハァ……ハァ…」

「………」

チャキリッ!!

「……ぬッ…!」(…《棒術》に精通しているのか、この身のこなし。……並びにこの武器へぶつけ、仕掛けて来る型。それに先程から豪快に動く様子がない。……現世の流浪人の反政府軍メンバー《心眼を持つ男》の影響でもあるのか。…最低限の動きでこの俺の行動を読んできている。…この男。…思った以上の実力を積んだ者と言えよう…)

「………」(ブンブンブン……)

チャキリっ!!

「……」(…このロランとかいうおっさん。肉弾戦で立ち向かい、向き合っていく事で、少しずつこの心情となる太刀筋の出方が見えてきた。……なかなか熟練した腕と言える)

【Veno・nix】は【Rolan】と敵対し、少しずつ相手の行動の出方を分析する。負傷し、移植された義眼を保護する為目隠しをして視界は遮られるも、彼自身の施された術の影響からなのか、極めて視界は良好。相手の位置を分析して自らの優位に立つポジションを確保していた。その様は、あたかも《風水》の位置関係の分野における《陰陽術》を駆使し、実力を推し量ろうとする心情があるともとれる。

ザザ……

「……どうした?…随分バテて来たのか余裕がないようだが……?」

「……そう見縊られては困る……」

「どうあってもその《ハクロー》の事について教える気は更々ないと。…。任務に忠実な所は、俺と似たようなもんだな」

「……っ!!」

「………」(この男と戦って分かった事。それはこの男のポリシーなのか、自分の身内の情報だけは決して話さない。どうやら何を話そうとも口を開いてくれそうにないか……)

戦いが始まり、かれこれ5分は経過する。両者は互いに腕を休ませる事なく武器を打ち付けていく。【Rolan】自身が使用している武器は、大振りによる豪快さを持つ為、破壊力は十分である。その分運動量を必要とし体力を消費する。それを見計らい【Veno・nix】は消耗戦へと持ち込もうとしていた。

チャキリっ!!

「……」

「……」

ギィンン!!!

両者は何やら大技を繰り出そうとしているのか、無言のまま武器を構えて威圧する──────



【Veno・nix】 ランクE
【♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡】
ーーー
【Fiducia】能力・予知能力発動します。




【Rolan】 ランクC
【♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡】
ーーー
【Fiducia】能力・ステルス能力発動します。



「………!!」

「………!!」

シャッ!!


《【Rolan】流斧大技…スカイクエイカー!!》

ガシャーーン!!!!!

「…!!」(地が割れた…!?)

「………」

ブォン!!!

「……っ!!」

ガキン!!!

「……む!?」(寸止めの距離で察したのか。……攻撃を読んだ…!?)

【Veno・nix】は背後から攻めてきた【Rolan】の攻撃を受け止める。そしてこう返答する。

「………そう来ると踏んでいた。……俺の【Fiducia】能力は予知能力。…視力は不可思議な術で補ってるとはいえ、能力はそのまま使用出来るんだゾおっと!!!」

ブォン!!!

キィーーン!!!

「ぬぅ……!!」

ギリギリギリ……

「!!…」(ヴェノ・ニクス。……この男。……いつの間に……!!)

《双剣》に!?

「…………っ」

攻撃を防いだ【Veno・nix】は両双剣の状態から《双剣》にシフトチェンジし、戦法を変える。それはあたかも、自らの戦闘スタイルを臨機応変に使い分け、相手を翻弄する二刀流スタイルにて、まるで密林のサバンナを生きる《黒ジャガー》の如く、先攻を仕掛ける。


ギリギリ………!!!


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜PSYCHO-PASS3より・メインテーマ

ガキィーーン!!!!

「!!…ぬぐぅ…!!」(……ステルス能力のみならず。……鉄壁の盾をも弾き飛ばす、この刺突力…!!)

「………」

チャキリっ……!!

「……いつまでもこんな馬鹿げた無用の言い争いをしてる訳にはいかないんだゾおっと!!!……こうしている間にも小火を起こされ、町中が騒ぎ立てているというのに幼稚じみた争いをし。……一体何の意味がある?」

「貴様がそれを発言する権利。…一体何処にあるというのだ?……ましてや戦法を変えたところとて、貴様が優位に立ったわけでは……ない!!」

ダダダダダ……

「………」(チャキリッ!!)

(……ソガミ。…悪いがアンタのように武力を行使してでも、このおっさんとの無法な争い……止めなくてはならないようだ。……だが勘違いするな。決して殺しではない。……あくまで《法》に則り《剣》を示す意を込めてだ。……あの時、アンタが俺達を庇い、繋いでくれた《命》。…それに対する敬意を込め。……そしてネロジャガー。……法に遵守し。《陰陽道》を探求し、人々の生活に秩序と繁栄をもたらした功績に敬意を表し。……この両双剣【Fen・Grill】に刻みし技。……こう名付ける事とする)

シャッ!!!───────





《【陰陽道・法剣】(インヨウドウ・ほうけん)!!》

《一ノ法剣:黒豹斬(クロヒョウザン)!!》

ブォン!!!

バキィーーン!!!!!

「……っ!!」(…こ、この双剣から振り落とされる衝撃の重みには……!!……不思議にも命の重みに近し……秩序の重圧をも感じられる……)

「………っ!!」



───────ヴェノ。…君なりの持つ答えで彼を導いてあげるんだ。……大丈夫。…君は昔の僕と同じでここに《命》が存在している。誰かを守る為に武力を行使してでも理解させる事………それは時に非情な感情だったり不条理を生み出す事になれば、誰かを手放さなくてはならない救われない結末だってある。それらの複雑な感情に手を取り合い、決まりや掟を守る事で《法》は見返りに僕達人を見守り、遵守された《人》自身は《法》を支え、その先にある秩序を見出し、開拓する事で生まれていくんだ。

それと並行して未来は誰かの手によって決まったりはしない。……自分達の力で切り拓いて創り上げていくんだ。心から通じ合い、自らが何を成し遂げたいのかという感情をも含め、君達が人々を護り、いずれ導く事が出来るような本当の《理想》と《真実》の調和が取れた《天秤》を掲げるその日まで───────

・・・

カランカラン!!

「………」(…バカな。…この俺が、力負けしたというのか…?)

「……ハァ…ハァ……!」

チャキリッ!!

【Veno・nix】は両剣を脱着させ、華麗な双剣さばきで斧を叩き、宙へと飛ばす。斧は自らを傷つける事なく地面を斬りつけ、深く突き刺さった。【Nelson】(ネルソン)によって託された両双剣は初めて、相手を屈服させ、戦意を喪失させる為に技を使用した様子であった。

「……!」

ドゴっ!!

「…ぐっ!!」

「………っ!!」

しかし武器を吹き飛ばされるも【Rolan】は拳を振るい、【Veno・nix】の頬を殴りつける。不意であったのか、拳が深く入り込んだばかりに怯み、その拍子に手に持っていた両双剣【Fen・Grill】は遠くへ飛ばされる。

カランカラン!!!

「……っ!!」

シャッ!!

ガシッ!!………



シュン……!!

「…!?」(武器をウォッチに収納しただと!?)

「………いいパンチだ。…ロランと名乗る者よ」

シャッ!!

「!?」(…シラットか!?)

「………」

【Veno・nix】は戦法を武器から体術にシフトチェンジし、次の一手として《シラット》と呼ばれる構えをとる。

──────シラット(※マレー語:【Silat】)。それは、現世において、東南アジアに伝わりし伝統武術である。マレーシア、インドネシア、シンガポール、ブルネイ、ベトナムといった各国でも主流になりつつある。インドネシア語では《プンチャック(Pencak)》とも言われ、インドネシア式のシラットを《プンチャック・シラット》と呼んでいる。

「……っ!!」

シャッ!!

【Rolan】は繰り出してきたシラットの構えに対し、後ずさる事なく、負けじと特攻を開始する。

「……踏み込みが甘い!!」

スッ!!

ガシリッ!!

「!!…」(掴んで、防いだだと!?)

「………」

シラットは《拳法》及び《武器術》を含む固有武術。地域によってはその数《500》以上はある流派が存在しており 、型や組手を通じ、《臨機応変》な使用をも併せ持つ稽古が行われる。

「……だが、防いだところて。……!ふん!!」

「……っ!!」

パシリっ!!

武術そのものには、ただ武と技を極める事の他に、《精神修行》の一環としての一面をも持ち合わせている。呼吸法ならびにチャクラやヨガといった、【Padma】(パドマ)と密接し直結する《瞑想》などの修行を通し、自らの本質を見定める《精神統一》の役割を担い、その集中力を養う事。それはすなわち《インパワー(気の力)》の類ともなり、《心・技・体》の感覚を養い、整える《練功法》が存在する。
 
この伝統的武術シラットを行いし者《プシラット(pesilat)》には志《稲穂の教え》を礎とする《イルム・パディ》といった基本の思想があり、鍛練を積むにつれ──────

理想の概念───────「礼節や他人への思いやりを身に付け、心豊かに生きる」

これ伝えりし───────



ザザ……

「…ハァ…ハァ…!!…!!」(…まるで攻撃が当たらんとは!?……口だけではなく、このヴェノという男。…誠にも体術の心得があるというのか!?)

「………ふぅ〜……」(……この男の体術もなかなかの腕のようだ。…伊達にベアと共に在籍してる、ただの諜報活動員ではなさそうだな。……油断は禁物のようだ)

ズザッ!!

「…!!」(小癪!!と言いたい所だが、この男のシラット特有の護身術の構え及び、目を隠されているといえども、ヒシヒシと伝わってくる心構えの意志。……それはまさに《5つの誓い》を体現してると言いたげのようだ)

ザザっ………!!

シャッ!!

・・・

更に伝えられし《5つの誓い》──────

「崇高な精神と品格を備える」

「同胞を尊敬し、友愛と平和を守る」

「常に前向きに考え行動し、創造性と力強さを持つ」

「真実、公正、正義を守り、 試練や誘惑に立ち向かう」

「常に自身の言動に責任を取る」


パシっ!!

ドゴっ!!

「……っ!!」

ガシッ!!

「…!?ぬうっ!?」

ブォン!!

ダァーーン!!!

「ぬぐぅっ!!」

「……はぁ…はぁ……!!」

体術《シラット》を駆使して戦う【Veno・nix】は猪突猛進の如く突進してくる【Rolan】の攻撃を受け流し、体重移動させて身体を掴み上げ、背負い投げして遠くへと投げ飛ばす。少しばかり体力を使ったのか、【Veno・nix】の口から吐息が溢れる。

「……投降しろ!」

「……拒否する」

「まだ分からないのか、おっさん!?…今こんな事をしてる場合じゃあ…」



そうだぜぇ〜!……今こんな事してる場合じゃあないぜぇ〜……ってなぁ!

ドゴぉっ!!

「…!?」(…なぁっ!?)

「…!!……ガフッ……」(!!…き、奇襲…だと…)

バターーン!!!!

【Rolan】は背後から迫ってくるもう一人の者の存在に気づく事に遅れた。重い一撃を受けたのか、そのまま倒れ込む。それと同時に、その者が姿を現す。


🎼Back Ground Music 》》》






♪〜相棒より・終わりの始まり


ザッザッザ…

「…よお、生きてたか〜?…クソッタレ!」

「!?……この声。……やはり貴様。…ビンゴにも、この和の町に潜伏していたようだな。…【Varisk】毒使い。…毒拳の【Bran】(ブラン)!!!」

グキ…ゴキ……

【Veno・nix】は目の前の視界に現れた、【Varisk】の【Bran】の名を発する。それをしかと聞こえたのか、相手はこう話す。

パチパチパチ!!

「お見事だぜ〜♪…あん時、俺の《毒》喰らってまあ、今もなおのうのうと生きてるくれえの事だ!…その生きる執念ってのには敬意を表するぜ!…あとテメエ自身の《体術》にもな〜♪」

「………言いたい事は、それだけか?……」

ガシッ!!

【Veno・nix】は負傷し、気を失った【Rolan】を掴み上げ背中に背負う。彼自身の身体に叩き込まれた拳の痕を確認する。そこには毒が注入されていたのか、変色を起こし、強く脈打っていた。

ドクンドクン!

「…おいおいよしとけ。…俺達【現世人】と同じ魂の身体持つ奴だとして、俺の毒喰らっちまった以上。…そいつは、もう助かんねえぜぇ〜」

「黙れ。……次口開いたら首を刈り取る」(ギロッ!!)

【Veno・nix】は相手に睨みを効かせる。

「お〜怖いねえ〜♪……だがよぉ〜ヴェノ。……俺はお前に一目置いてるんだぜぇ〜♪……この町に潜んでいた【Cize】。そいつ自身が加担し、殺しを請け負ってた俺達【Varisk】。その所属外の《人斬り》もんってのが…まさか【御用見廻組】【狼志組】一番隊隊長だって事がなぁ〜♪………おまけに身内である【Aria】って女が見事、この【Kagoya】牛耳ってる《奉行》の正体と、これまでの《悪行》の数々を見破り、世間に公表しちまったようだからよ〜♪」(ケラケラ♪)

「…!!」

【Veno・nix】はその返答に対し、彼は一部事情を聞いていたのか、情報を知り得ていた様子だ。【Veno・nix】は背を見せるも、震えた声で発しつつ【Bran】と会話する。

「………今の内。……優越感に浸って寝首立ててろ。…とりあえずは、この【R・P】社への者の緊急《救助活動》を。……真っ先に優先する」

コツンコツン──────

「?…あん?…おいおい、話聞いてたのかよ〜?…そいつぁ〜……」

ドドドドドドド………

「それを終えた次第。……始末させてもらう。…貴様を確実に。………【狼志組】ソガミの命において、必ず生かしては返さんゾォォッとぉぉ〜〜!!!!!」

ゾク………ゾク………

「…!!」(ゾクッ!!)(へ、へぇ〜……いつの間によぉ〜……こんな闘気放つようになったんだぜ〜……?一体何だってんだ〜……この男はよ〜……)

【Veno・nix】は【Bran】に対し、宣戦布告を宣言する。こればかりはもう擁護すら出来ず、容赦もしないとばかりの凄まじいオーラを全身に放っている。

「…は…はは。……ハハハハ……!!」

「……」

パチパチパチ!!!

「こいつぁおもしれえ〜!!……いや、マジでよ〜♪……ここまで俺の《野心》をくすぐらせてくれる奴ぁ初めてだ!!……まるでサバンナにいる、獰猛な《ジャガー》が無理矢理檻を突き破り、そのままご対面しちまったみてぇ〜な、とてつもない凄みを感じさせてくれるぜぇ〜!!」(ゾク……ゾク)

「………口が減らない野郎だ」

「まあまあそういうなよ〜♪……いいぜ、その覇気に免じて……」

タッタッタ!!!!

「…!?」

チャキッ!!

チャキリッ!!!

「いたゾォ!!」「この男……我々【真・ユートピア創造士隊】【C島】支部を破壊した…」「【Veno・nix】!!」「我々の…敵だ!!!」

【Veno・nix】の目の前を遮るかのように、【創造派】に属する組織【真・ユートピア創造士隊】の者達が姿を現す。

「ったく……やれやれだぜ〜……!!」

その様子にやれやれと言わんばかりに一人の男が立ち塞がる。

男は目の前の者達に対し、予想外の行動を起こす─────

ブォン!!

バキャッ!!

「グァアア!!!!」

ドゴーーンン!!!

「…!?」(な。……こ…コイツ!?)

【Bran】は一人の隊員に対し、力強く拳を顔面に叩き込み、制圧させた。

「た、隊員A!!お、おいしっかりしろ〜!?」「ブラン様!!」「一体何を…!?」

「おい。……………蝨(シラミ)みてえにウジャウジャ湧いてきてジタバタ動いてるてめえらを見てるせいで、今の俺は腹の虫が激烈に悪くなっちまったぜぇ!!……この小火の中、とっとと消え失せちまえば良かったのになぁ〜!!……そんなに暴れ足りなくて、俺の毒拳が恋しいので喰らいつきてえのか〜?……あぁんっ!!??」

ギロッ!!

「…!!……っ」「は、叛逆!叛逆ゥゥ〜!!」「こぉ〜の、【Varisk】一味に忍び込む《劣等者》なる反逆者ォォめぇ〜〜!!まずは捕らえ、我ら【真・ユートピア創造士隊】の礎なる肥やしとせよ〜!!」

ワーッ!!ワーッ!!ワーッ!!

チャキリっ!!

「!?」(一体何を考えている?……コイツ………自ら組織を裏切った…だと!?)

【真・ユートピア創造士隊】はターゲットを、真っ先に組織の叛逆行動に加担した【Bran】に標的を変更して絞る。

「……何考えてるんだ?」

「お?…見て分かんねえのか〜?…俺はもう誰とも群れねえ自由の身になっちまったんだぜ。……ヴェノ。…てんめえという漢気に惚れちまってなぁ〜!!……へへっ!」

「……気色の悪い奴だ」

「何とでも言え。……そいつの治療が済んだら、この【Kagoya】の裏を牛耳ってる、《奴》の根城。……」

《【世原城】で決着としようぜ……!!……》

「…!!」(世原……城?)

【Bran】は【Veno・nix】をこの手で倒す者として認め、【Kagoya】の町内に存在する建造物《世原城》へ来るよう言葉を交わし、再び視線を軍勢へと戻す。

ガキン!!!

「……逃げんなよ。…一度この町の地下へ潜り込んだお前ならすぐ場所なんざ分かるだろうよ。……その間。……この白蟻共は……」

俺が駆除(けち)らすッッ!!!

・・・

ザッザッザ……

「……」(ブラン……一体何があったんだ?…確かなのは、あの時初めて対面してきた時の目とは明らかに違う。…何がお前を変えた?)

「……ヴェノ・ニクスよ」

「…何だ…ロラン?」

【Rolan】は【Veno・nix】にこう話す。

「お前には…謝らなければならないようだな……」

「……無用な事だ。…もうあまり喋るな。…奴の毒は厄介だ。…しばらくはうなされるだろう」

「……心配ない。……少しばかり、お前がこうして背負ってくれているおかげで。……なんとかな」

「…………」

【Rolan】の言葉に【Veno・nix】は人情味のある心を感じ取ったのか、少しばかり和らいだ表情を浮かべ、こう返答する。

「…そうかい。…俺の方こそ……お前をただの頭でっかちなおっさんとばかり思っていた。…だが殴り合いをしていくうちに、お前の心情が少しずだが…分かった」

コツン……コツン……

バチバチバチ……

「……」(【Kagoya】の町が燃えている。……アイツらは…無事なのか?)

「…その顔。…【R・P】社の同胞の者達の事でも考えているのか?」

「………」

ロラン兄貴! ロランはん! ロラン! ロランさん!

【Rolan】の脳内には自分達の部下と再会を果たした少女、女神のような風貌を感じさせる亜麻色髪の女性。そして《白狼》の風貌を持つ男の無事を祈っていた。

「…ああ。……【河原木亭】へ向かうようにと、指示を与えている…」

「……その顔の表情から察するに、柔な訓練はしてないはずだろ?…恐らくは無事だ。……とりあえずはそう言っておくぜ。……この騒ぎが起こってる【Kagoya】の町には、【御用見廻組】の者達が住民の避難警護及び巡回を徹底している。…必ず保安を…成し遂げ。…《悪党》を一人残らず刈り取るまでだ。……現世での俺…《麻薬取締官》として。……!!マトリの豹策の俺としての意地にかけてでもだ!!」

「!!」(ま…マトリ…だと…)

ザッザッザ………

「………」

コツン…コツン

【Veno・nix】は自らの素性を明らかにし、【河原木亭】へ【Rolan】を運ぶ。

・・・

コンコンコン!!

そして無事、【R・P】社の者達の拠点となる【河原木亭】へと辿り着く──────



!!…ろ、ロラン!!……!!…毒盛られてるの!?…ヴェノくん!!……一体何があったの!?……っ!?………え…?

・・・

「…そういう訳だから、ベア。…おっさん元より、ロランの事。……頼む」

「…ヴェノくん…」

「………っ」

ガラララララ!!!!

勢いよく【河原木亭】の引き戸を開ける【Veno・nix】。彼はそのまま燃え盛る京の町【Kagoya】の道を再び突き進んでいく。

「………」(……ヴェノくん……)

タッタッタ……

pipipi!!

「…?」(【P-Watch】の着信…?)

〜♪

【Beanne】AAランク
【♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡】
ーーーーー
【Hux・row】からの着信です

「…!?」(ハクローくん!!)

Pi♪



【Hux・row】  (ベアさん!!)

【Beanne】(ハクローくん!!…無事なの?)

【Hux・row】  (ああ、俺は無事だ。…今リーネとトワさんと共に……行動を共にしてる所だ。…トワさんは。…まだ少し気を失っていて背負ってる状態だから、無理そうだな。……リーネ。…喋れるか?)

【Linea】 (は、はい!…ベアさん!…ハクローさんが助けて頂いたおかげで私は無事です。…ですけど……ぅぅ!!…えぐぅ…!!)

【Beanne】(!!……そっか。…リーネちゃんは無事に見つかったようだね。……でも二人共。…何だか深刻そうな声のようだね。…リーネちゃんのその口振りからだと。……また昨日のように。…酷い目に遭わされたのね?)

【Linea】(!!…っ…はい。…ですけど。…その……!!…ぐすっ…!…トワさんの事も……ですけど…その…姉のヤエカさんが……)

【Hux・row】  (リーネ!!……もういいんだ!!………っ!!…………本当。……色々とこの人に。………すまない事をしたよ。………ベアさん。……俺は。……っ!!…)

【Beanne】(………………そっか…分かったわ。リーネちゃん。……もう無理に喋らないで。大体の事情は理解したから。………ハクローくんと代わってもらえるかしら?)

【Linea】(…はい。……ベアさん。…本当にご心配をお掛け致しました。)

【Beanne】(構わないわよ。………でも、それでもあなた達が無事で、ベアお姉さんは本当に嬉しいよ〜♪)

【Hux・row】  (……ベアさん。……)

【Beanne】(ふふっ!…それで、ビルくんとケイトちゃんがここへ向かってるのは確かなんだよね?)

【Hux・row】  (!!…ああ。…連絡を入れて【河原木亭】へ向かうように伝えておいた。…もうすぐそっちに着く頃だと思う)

【Beanne】(了解ぃ〜♪……ねえ、ハクローくん?)

【Hux・row】  (……何だ、ベアさん?)

【Beanne】(………たとえ、大切な人を目の前で昇華する体験に遭遇してしまって。……優しい君の事だから、きっとその人を手厚く《エンゼルケア》をするかのように、最期を看取ってあげてさ。……でも、それでも《罪悪感》を感じて落ち込む事があっても。……二人の…ここの《バージン》を護れなかった事を悔いていたとしても。……私はあなた自身のこれからの成長を温かく見守っているよ〜♪…これからも、ずっと♡…【Agente】の直属の教育係として♪…千夜ちゃんに継ぐ、あなたの《フィアンセ》として〜♡)

【Hux・row】  (!!……ベアさん。……?……!?///…って!?…おい、アンタ!?…んなバカな冗談を今言ってる場合じゃあ!…っ!!おっと!)

ガシッ!!グググ…

【Beanne】(?……??…あれ?もしも〜し、ハクローく〜ん?)

ザザ……ザザ……

・・・


🎼Back Ground Music 》》》






♪〜FF13より・ライトニングのテーマ

【Hux・row】との通信はここで途絶えた──────

「……あらら、切れちゃった。……」(敵襲にあったのかな〜…?)



ピロリ〜ン♪

「…?」(チャット?)

〜♪

【Beanne】AAランク
【♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡】
ーーーーー
【Towa】からの発信通知です。

「!?」(今度はトワさんから…!?)

【Beanne】はすぐさま、チャット内の通知を確認する─────

《深層通信モードにて交信》

「…!!…深層…通信。…っ…!」(…少し、懐かしいかな。……《リシア》以来ね)

Pi!



【Towa】(……ベアさん。通じているだろうか?)

【Beanne】(トワさん!……平気なの?)

【Towa】(…ああ。……ハクローの腕に抱えてもらっている。どうやら誤って通信を切ってしまったようなのだ。…その間【P-Watch】を通じて。……ベアさん。…あなた自身の心の意思を通して話をしている。)

【Beanne】(………)

【Towa】(……すまない。…昨日も……そして今日もリーネさんが被害を受けてしまった。…あの下衆な者によって。……僕も身体をなすがままにされ、不覚を取られてしまった……///……だがハクローが、僕とリーネさんを助けてくれて。……今の所は。……っ!……無事だ………)

【Beanne】(!!…分かったよ。……でも強がりは程々にして。……トワさんはトワさんの心に従って…素直になって向き合った方がいいわ。…………同じ境遇になってしまったようだけど。…あなた自身の身体の事。……あの時……大切な人を救えなかった私のように、心が冷えて傷ついてるようだから。……無理だけはしないで。……)

【Towa】(!!……そうか。……先程のハクローとの話で察してしまったのだな。……僕。…いや、私に一体何があったのかを。……………分かっているさ。……心配してくれた事。…恩に着るよ…)

【Beanne】(………っ!)

【Towa】(……ベアさん。)

【Beanne】(……何かしら、トワさん?)

【Towa】(…すまない。こんな汚れてしまった女の私が言える事ではないのは十分承知の上であるだろうが。……頼む。…どうか今だけは、ハクローの事。……私に任してはくれないだろうか?………今回の事で、もう僕っことしての《僕》ではなくなったようだから。………去ってしまったヤエカ姐さんの分まで、今度は《女》となった私として。……ルーさんの親友である、ハクローの事を。……いや……私自身が心から惚れてしまった男として……///…支えてやりたい…///…必ず…彼の愛人であった。…《千夜さん》の分まで……///)

【Beanne】(!!……そっか。……彼に対する、その気持ちが確かなのなら、あなた自身の心に従ってハクローくんに対する好意を伝えてあげなさい。……ふふっ!!…私だって負けないんだから〜♪……じゃあ、ケイトちゃん達が戻ってくるまでの間だけ、ハクローくんの事お願い出来るかな〜?……お互い好きである者同士の約束♡)

【Towa】(……ああ。……任されたよ…///…必ず伝える……だから、ベアさん。……どうか心配しないでほしい。)



・・・

その後、【Bill】と【Keito】が無事到着し、【Beanne】は【河原木亭】を出て、炎に燃え盛る京の町を進んでいく。

ボアアアアア!!!!

「……思った以上に火が早いわね。…町中を火の海にするなんて……」(……トワさんも昨日会った、【Demister】【Auro】(アウロ)の被害者になってしまうとはね。……他にも、ハクローくんやリーネちゃんのどこか切ない声からすると、トワさんの身内の《ヤエカ》さんも……?ヤエカ…?)

ザッザッザ………

「………」(ヤエカ。…!?…あ、確かハクローくんが話してた、ルーくんとの関わりがある【狼志組】の八番隊隊長の志士の人だったよね?……)

ピィィーーー!!!

タッタッタ!!!

「…!!」(この笛。…【狼志組】のようだね)

考え事をしていた【Beanne】の前に笛の音が鳴り響く。すると目の前に、大柄の男が目の前に現れる。

ザッザッザ!!

「………」(チャキリッ!)

リィーーン…♪【冥鐘】

「あっ!!…あなたは、【狼志組】のナガワさん!!」

【Beanne】の目の前に現れたのは、【狼志組】四番隊隊長の【Nagawa】であった。

「ああ…ベアくん。この騒ぎの中、君も無事だったようだな。…トワから何か連絡があったのか?」

「…!!」

【Beanne】は先程【Towa】と会話していた。─────同志である【Nagawa】に、彼女が受けた仕打ちを伝えるべきか、迷いはしたが、彼女は躊躇無く打ち明けた。

「……トワさんは。……さっき連絡があったんだけどね。……【Demister】のアウロって女の人からね。……命を取られる事はなかったようだけど………《バージン》……奪われてしまったようなの……」

「!……ぬ!!…」

ギリギリ………

「………」

【Nagawa】の表情は怒りに震えていた。同志でもあり、彼自身付き合いが長いのか、彼女自身が受けた仕打ちを許せないと言わんばかりに未だかつて見せた事がない険しい表情を見せていた。

「…おのれ。……奴らは。……ソガミを亡き者にしただけでなく……キュウにまで仕打ちを加えるだけで飽き足らず……ヤエカを殺し。……そしてトワにまでも危害を!!…トワは…以前まで12歳だったのだ!!……整形して20代程度の姿に変えたとはいえ…まだ女としての《心》は成熟していなかったのだ!!……それを…………ッ!!」

ギリギリ……

「……ナガワさん。……っ」

ダキッ!

「…!!…ぬっ?」

「………」

ギュ…ッ

【Beanne】は【Nagawa】を慈悲深く抱きしめる。そして口を開く。

「…………ごめんなさい。……私がいれば……トワさんの力になってあげられたのにね。……」

ポタポタ………

「………ベアくん。……君も、泣いているのか?」

「…ええ。…私だって。………それに最近少しばかり悲しい思いをしたばかりだから。……ううん。……昔にも…」

ポタポタ………

「!……そうか。……すまん。…今回の一件で【R・P】社の者達のみならず、【Melton】の者まで犠牲を出させてしまったようだな。……我々自身の不甲斐なさで……心から謝罪をする」

【Nagawa】は今回の騒動で【Kagoya】の町は大火事に巻き込まれ、亡き者となった町の人々の事も背負い込んでいた。【Kagoya】の町の治安を守る事において、武力にて制圧しようにも、人間は自然の力には到底敵わないという非情さをも理解していた。

「……今は少しばかりにしておきなさい。……まだ戦いは、今始まったばかりのようだから……」

「……!!…どう言う事なのだ?…ベアくん?」

「…この町に潜んでる悪代官の目的はね。……闇に潜ませていた【御用見廻組】の人達を誰かに委ね、デリートさせた後、この【Kagoya】の町全土を焼き払ってね。……清算して、新たな《軍事勢力》を築こうとしてるのよ。……この町の他に……各島の闇に通じていて、戦いの火種を撒こうと企ててる、真の《黒幕》の手によってね」

「……!!」

「………」

【Beanne】は先見の目でその事実を語った。それに対し、【Nagawa】はこうも語る。

「それは、陰謀論。…説とも取れる発言のようだ。………では、我々の監視をくぐり抜け。何者かがこの時を念入りに待っていたとでも…?」

「そういう事になるわね。……以前【Dail】が絡んで起きたあの事件。それをあたかも注目の的に身立たせて油断を誘い。…隙を見て、この【Kagoya】の町を標的にする準備を裏で整わせていた。……いえ。……恐らくは何年も前からね」

「………」

ポタポタ………

ザザ〜っ!!!

「…!!」

「…雨のようだな。……むっ!」

ザザ〜………

シュ〜ッ………

二人の頭上から雨が降り注ぐ。町に燃え移っていた火は少しずつ勢いがなくなっていく。

ポタポタ……

ウフフ♪…アハハ♪…〜♪ベアお姉ちゃ〜ん!♪♪

「!!…っ」

ガバッ…!!

バシャバシャ……

「!!…む……?」(…ベアくん…?)

【Beanne】は少女の空耳のような声を聞き取り、豪雨の雨が降り注ぐ天を見上げる。

ザザ〜!!!

「……!!」

ラルちゃんっ!!

ザザ〜………

「……………」(ラルちゃん。………もしかしてあなた。……この雨で、昔起きた大火事の…二の舞を踏ませないように……)

ポタポタ………

ザザ〜………

「………ラル。……確か《水の精霊》の子供の名だったのだな?」

「…!!…そっか。…ハクローくん。…あなた達【狼志組】に事の事情を話していたんだね?」

「ああベアくん。……副長から聞いていたのだ。…この【Kagoya】の町で、長きに渡り、清流の管理をしていた【Milal】(ミラル)という名のある《水の精霊》が存在したと。……この気象変動から推測するに、去ってしまった今も君を見守っているみたいだ」

「………」

【Beanne】の表情は何処か寂しげであった。未だ彼女の心の中には複雑な感情がある様子だった。

ザッザッザ……

スッ……

「…?」

「…遠慮なく使うといい………」

【Nagawa】は一枚の《シャビーシック》を基調とした純白のハンカチを手渡す。

「……ありがとね。…ナガワさん…」

フキフキ……

「……?…あれ?」

「?……どうしたのだ?」

「……このハンカチ。……何だか……不思議。……落ち着くの。…とても……これ。…白鳥の刺繍を施してあるのね」

キラキラ……

【Beanne】が手渡されたのは銀色の糸で白鳥の刺繍が施された、純白の一枚のハンカチであった。彼女はそのハンカチが頬を撫でる度、身体が落ち着く感覚に浸っていた。

「………」

バサバサ!!

「……それは。…副長がある知人から感謝の意を込めて手渡された手編みのハンカチなのだそうだ。……俺が負傷を負った時、副長が俺にと差し出し、そこから返せず仕舞いだったのだ」

「…そうだったのね。…………」(フキフキ……)

「…………」

ドォーーン!!!!



ゴゴゴ……ゴゴゴ……

グラグラグラ……

「…!!むっ!!」

突如、火が消えた家屋から爆弾が爆破した衝撃のような爆風が飛び交う。運悪く居合わせていた【Nagawa】は、背後を取られ、そのまま下敷きになろうとしていた。

「…!!……っ!…」



させない!!

バッ!!

ガラガラガラ!!!!

「ぬうっ!?………!!」(土の…壁)

「………っ!!」(…この付近に、私達を狙う誰かがいるのは確かなようだね。……この付近に、爆弾か何かを仕掛け、この家屋を崩壊させて下敷きにして身動きを取れなくした後、仕留めるって魂胆だったのかしら?)


【Beanne】AAランク
【♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡】
ーーーー
《森羅万象》能力による、土の力を発動しました。


「…………」

ジャキン………

ザッザッザ…………

ガラガラガラ………

「……!!……かたじけない。…命拾いをした。…恩に来る。…ベアくん」

「…別に構わないわ。……でも、折角のハンカチが……」

ファサ………バサバサ………

二人は刺客からの斬撃から、土の壁を形成した事で身を守る。しかし、手に持っていたハンカチは両断されたかのようにズタズタに引き裂かれ、そのまま宙へと風に乗る。それはあたかも白鳥のように空へと舞い上がるかのように。

バサバサ………

「………これは…まるで」

「……エンジェル。……天使の羽みたいに降りそそいでいるようね。………」

ヒラヒラ…………

ヒィーーーン…………!!!!

「…!?」

「!?」

ヒラヒラとまるで天使が飛び交い、施しのように舞い降りてきた羽のように、ハンカチの残骸はそのまま二人の頭の上で止まる。脳内には、ある映像が浮かび上がった──────




・・・




🎼Back Ground Music 》》》



♪〜rionosより・Viator

ヒラヒラヒラ〜!!!

バサ〜……バサ〜!!!

『…………』

コツン………コツン………

『……ここにいたのか?…《ミハエル》』

『?………ミハ……エ………ル?』

『…お前の名前だ。……記憶しとけ。……いつまでもロット番号の名前で過ごす訳にはいかないだろ』

『?』

『……ハァ〜。……まだまだ言語学習が必要のようだな……』

『………』

ピトッ!

『………』

『………あった………かい……』

『……ま、当然だ。…人間だからな』

『?……ニン……ゲ………ン……??』

『ああ。……まあ、とはいえ俺は元々この世界の生まれではないがな……《現世》って世界から来た、この【Paradiso】の世界に住む奴らからすれば。……的外れ人間だけどな』

『……ゲン………セ……?……』

『現世(ゲンセ)ってのは、この【Paradiso】とはまるっきり違う、異なる文明の世界だ。《ゲンセイ》だとか時に《ウツシヨ》とも言ってたりする。……色々言葉を学習して、自分に合った話し方を学ぶ事だな』

『………コ……ト…バ…………言………葉………っ……』





言ノ葉

『…!?』

『…………』

『……そいつぁ。…現世でいう《和歌》って表現で使う言葉だ。……《大和歌(ヤマトウタ)》とも読んでいる』

『…………』

『……どうだ?……色々言葉を理解したか…?』

『言……葉。…違う。………言ノ葉。………わ…たし……わた………し……知りた………い』

『…………』

『……っ』

ガシッ!!

『……どけ…』

『……や。……もっ……と……言ノ葉………おし…え……て……………お……しえて。……』

『………ったく。…………面倒事が増えたようだな。……しょうがない。……さっき教えた名前…言ってみろ』

『…ミハエル』

『……よく出来た』

なでなで

『………くす……ぐっ……たい……』

『…人の形をしてるとはいえ、こう言う所。…《心》は同じって事か』

『……?』

・・・

〜数年後〜

バサ〜バサ〜!!

『ウフフ♪…ミハエル〜♪』

コツンコツン!

『…ベル……ナ。……早い……よ』

『あら♪…ごめんなさいね〜♪…ほら、あそこ見てごらんなさいよ〜♪』

『……?……あ。…』

バサバサ〜!!!

『…白い……鳥。……ベル…ナ……あれは?』

『あれはね〜♪…あなたの言った、白い鳥の《白鳥》って名前の鳥よ〜♪アハハ!…大正解♪』

ナデナデ!

『…ベル…ナの手…あった……かい……』

『あらあら、ありがとう♪……あと、名前があってね〜♪【Louvel】(ロウヴェル)っていう名前らしいのよ♪』

『…ロウ……ヴェ……ル?』
 
『ええ♪……何だか不思議よね〜【Louvel】って♪…現世では本来は《ルーヴェル》って読み方するのだけれど、綴りと表現の具合からか、《ロウヴェル》って発音してしまうのよね〜♪……それに《ロウ》…か。…ふふっ!何だか多くの意味を込めてるように思うわね〜♪』

『…?…ど…ういう……こ…と?…ベルナ?』

『…〜♪』

ポチャン♪

「…………?……水に浮いてる……は…こ?…」

『ウフフ♪……そうねぇ〜♪たまにはこの方舟を使ったイタリア語とは違う、純血日本人…このベルナ姉さん直伝のあなたへの言ノ葉個人レッス〜ン♪…悪くないかしらね〜♪…ふふっ!…《ロウ》って言葉にはね〜♪……この方舟に色々な事柄を当てはめて…詩文にしてみるの。……するとね〜♪………』



ネイビーカラーの大海の高波に煽られ《Row(漕ぐ)》事もままならない嵐に遭遇するも、訪れし時には必ず自らの《象徴》とする誓いのモノを掲げ、拝み奮い立たせるバトルシップグレイカラーを基調とする《旭日ノ子》──────

高く満ち溢れし希少なる才能は確かにあれど、時に苦難に遭遇して塞ぎ込み、《低い(Low)》立ち位置にいるも、《審判》を下す為、再び煌めきを放ちつつ徐々に日を茜色へ再び空高く舞い上がる、蒼穹なるハイ・アンダーかつ、スカイカラーへ染め上げし《夕暮れノ子》──────

文武両道の心得ある聖女たる所以からなのか、楚々たりし清廉さある美徳さ持ち合わせ。真なる《生(Raw)》溢れんばかりの者へ慈悲深き慈愛に満ち溢れし微笑みにて、抱えし闇を汲み取り、安息ある桜色から紫紺空のトワイライトカラーへと誘わん《宵闇ノ子》──────

深淵なる暗がりの闇に雲隠れせし《法(Law)》からの逃亡者これ刈り取り。断罪の意込め、見せしめし役目果たす。後に来るべき夜明けの訪れ見届けせし、真夜ノ時が刻一刻と刻み、やがて闇を聖火で明るく灯され、ミッドナイトブルーカラーからパープルへと変貌を遂げる《夜空ノ子》──────






『………』

『ウフフ♪…何だか不思議だわぁ〜♪……空の色を見てるとね〜♪…時々、何だかそう実感する事があるのよ〜♪』

ルンル〜ン〜♪

クルクルクル〜♪

『……ねえ、…ベル……ナ…』

『んん〜?…な〜に?…退屈だったのかしら〜?』

『…うんうん。……最後の《Vel(ヴェル)》って…言ノ葉。……なに……?……』

『…!!』

『………?』

『んふふ♪…それ聞いちゃうのかしら〜?』

ダキッ♡
 
『!!…ベル……ナ。…く……る……しい』

『…ウフフ♡…こういう事なのよぉ〜♡…言葉ではとっても理解出来なさそうだから、こうしてハグして〜♪…んも〜う大胆かつ、猛烈に身体で教えてあげるわね〜あはは♪…《Vel(ヴェル)》!って…《響》ある強い《咆哮》を指し示す言葉は〜?……ん〜そうね〜……!!きっと、さっき話した空想の詩文内で、旭日の旗を掲げた《バトルシップグレイ》の子ならピンと来るのじゃあないかしらね〜♪……北の国から…愛を込めて♡…』




《信頼する者》って意味なのよ〜♡♪


・・・

   
B. いいえ


《Capitolo・10》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜DDFFより〜閃光アレンジ

ヒィーーン…………

「…!?……」(……あれは。…若い姿をしてた時の。……ベルナ姐さんの記憶…?………昔の《追憶》…って事なのかしら…?……それに。……あのミハエルって……姐さんのような。……アルビノの……子と…ハクローくんに似ている……男の人…………)

「ミハ……エ…ル…?…っ!…今のは…一体……何が……起きた…?」(…ミハ…エル……?……何だ。……何処かで聞いた事がある名だ。……あの少女と……共にいた…あの女性は…?)

二人は白鳥のハンカチに編み込まれた、【Bellna】の《追憶》に干渉し、その記憶内に登場する《ミハエル》と名のある女性に対し、何処か見覚えと面識がある様子にあった。

ワーッ!!ワーッ!!ワーッ!!

「…!!」

「!!」

ダダダダダ!!!!

「いたぞ〜!!……女の他に。……」「!!…この男!…【狼志組】四番隊隊長の者!!」「!!なんだと!?…ならば我々【真・ユートピア創造士隊】の手で……血祭りにあげるしかない!!!」「覚悟しやがれぁ!!!」

チャキリッ!!…ジャキン!!

「むっ!!……増援という事か」

「…お互い、考え事と感傷に浸りたいけれど、そうも言っていられなくなったようだね。……ナガワさん」

ジャキン!!!

「…!!……ベアくん?」

「………」

【Beanne】の左手には、現世の国の言葉であるイタリア語。審判を冠する銃剣【Arbitro】(アルビトーロ)の剣先を敵の軍勢に向け、相手に対する敵意を向けている。

「…ナガワさん。……まだ任務中なのでしょ?…あなたは先に行きなさい。……」

「ベアくん。……だめだ。…私も共に…」

キラァー………



ドドドドドドド………

「…っ!?」(…ベアく…ん……?)

【Nagawa】は【Beanne】の身体中から発する、底知れぬ秘められた力を感じ取ったのか、少しばかり焦りの表情を浮かべる。

「………」(キッ!)

【Beanne】は続け様にこう告げる─────

「…聞こえなかったのかしら?……《先に進みなさい》。…私はあなたにそう言った筈なのだけれど」(ジィ〜………)

ヒィーーン………

「!!……っ」(ベアくんの…この瞳の眼光。……【L島】に在籍する騎士ギルド【Orzen】から、我ら【狼志組】に派遣された。……現世のハクローの親しき友である。………【Louverd】(ルーヴァード)。……現世名《ロベル》。…彼と肩を並べられる程。……同格の覚悟を秘めた目を……!!)

【Nagawa】は今は昇華され、居ない《ロベル》の面影を彼女自身に投影しており、短期間であるも彼の存在は【Paradiso】の世界において、大きな影響を与える存在と見ていた。

──────無論、【Paradiso】の世界においても、類まれなる【Fiducia】《森羅万象》の力を持つ彼女自身は、今後何か偉業を成し遂げる、《可能性》をも秘めていると、彼自身の心のどこかで犇(ひしめき)つつ、警笛が鳴らされていた。

「………どうなの?」

「………」

チャキリッ……

リィーーン♪…【冥鐘】

「…!!…」(ハクローくんの言う…【狼志組】特有の能力。…《【冥鐘】》を鳴らしたようね)

【Nagawa】は刀を抜き、再び帯刀して鍔を打ち付け、【冥鐘】を鳴らす。それは戦乱の時代においても慣わしと示しの行いの風習としても受け継がれている。古の騒乱の時代────武士は、《金打(きんちょう)》という堅い誓い─────約束や《契り》を交わす事により、《武士》の尊厳と誇りを手放さない事を目的としている。『それを為す責務を果たすものとせよ。』

そう自ら自分に言い聞かせたように、【Nagawa】は【Beanne】の背を向け、こう告げた。

「では。…この場を頼めるだろうか?」

「……ええ」

「……承知した。……確かにその御心の底。…しかと見定めさせてもらった。……ベアくん。……同胞の者が《千夜ノ桜》で応戦しているやも知れない。………これから向かう事とする」

「了解。……無事を祈っておくわね。……気をつけて……」(チャキリ……)

【Beanne】は【Arbitro】に祈りを捧げるように翳している。その様子を見た【Nagawa】自身は彼女の醸し出す、神聖な闘気によって、勇気が溢れ出んばかりに信頼と気高さをも感じ取っていた。

「………そちらこそ、無事に。……【R・P】社【Agente】所属。…森羅万象の少女の者よ」

ピィ〜!!

タタタタタ!!!!

「………」

チャキリッ!!!

【Beanne】は背後にてその場を走り去る【Nagawa】を見送りつつ、目の前にて待ち構える敵の軍勢を睨みつける。

チャキ…っ!!

……Siete pronti?(覚悟はいいかしら?)

ドドドドドドド………

「!!」「ええい、怯むな!!」「…この女…森羅万象の能力を持つ者!!」「我々に加勢した、あの《イレギュラー》の同胞で間違いない者!!!……ここで始末し!!…我々の……!!」

創造されし歴史の…礎となりて。…眠れぇ〜〜〜イイ……!!!!

「………」(ブン!!!)

バキャッ!!!

メリィッ!!!

「あぁぐぁアア!!!」

バタンンッ!!!

「!!」「お、おいモブA隊員!?」「!!な。……ワン…パン…だと……」

ざわ……ざわ……ざわ………

ザッザッザ………

「……ねえ。……まだ続けるのかしら?……それとも、ここで生き埋めになりたいの?……」

コツン…コツン……

「…ヒィッ!!」「……ひ、怯むなぁ〜!!!」「我々に歯向かうたぁ〜!!命知らずも困ったもん……」

ボアアアアアア!!!!!

「!?」「!?」「!?」

【真・ユートピア創造士隊】の群れは、目の前に広がる焔の景色を見て驚愕する。町中が火の海に包まれる中、対面する目の前の視点には、まるで審判を下す神聖なる聖火を灯した、炎剣が刻一刻と歩み寄ってきていたからである。

「……なら、仕方ないわね。……せめてもの情けだけれど。……身内のやった事といえ、この町中を火の海にした代償として巻き込まれ、焼かれるのが嫌なのなら。………私が《審判》を下して裁いてあげるわ。……安心して。……痛くないように、苦しまず。……火葬してこの世界ではない天国へ行かせてあげるから…」

ゴゴゴゴゴゴゴ………

【Beanne】は強い剣幕で相手を睨みを聞かせる。まるでこれ以上、無益の戦いに何の意味があるのかを知らしめ、導きの意志を元とする気高さをも感じ取れた。

「………!!」

ばたり!!

「!!…お、おい!?」「今度はモブ隊員Bが…だと…!?」「……こ……この女。……」

「………」(チャキリッ…)

キラキラキラ………

【Beanne】の発する、目の眼光による凄まじいオーラと重圧が重なる圧倒的なプレッシャーを前に、創造士隊の内、一人の者が失神し、その場に倒れ伏せる。

「!!……」「……こ。……これが……噂の…ベアンヌ。……」「…聞いていた話と。……違うじゃあねえかよ、オイ…」

ざわ…ざわ…

ズザッ!!

相手の様子に【真・ユートピア創造士隊】は、足を少し動かしつつ、然るべき手段へ出る。

ダダダダダダダ!!!!!

「………?」

「て、撤退だぁ〜!!」「こ、こここ、こんなバケモン!!…お、俺達が束になっても敵わない!!」「逃げるんだよぉ〜〜!!!」

ダダダダダダ………

「………行ってしまったわね。……とにかく、先へ急がないと。……ハクローくん達。…無事だと良いのだけれど」

タッタッタ!!!

・・・

〜【Paradiso】歴2000年7/9・深夜方・【J島】【Kagoya】・幕末通り


パチパチパチ…………

「………」

ザッザッザ………

チャキリッ!!

【Beanne】は何者かの気配を感じ取ったのか、銃剣【Arbitro】の剣先を向ける。

「…そこに居るのでしょ?……隠れていないで、出て来たらどうなのかしら…?」

「………」

カチリ……

🎼Back Ground Music 》》》






♪〜ベートーヴェンより・弦楽四重奏曲 第14番

〜♪♪〜f〜mf〜♪《ヴァイオリン演奏》

「…!!」(ヴァイオリンの…交響曲。……曲調からか。…《ベートーヴェン》のある一曲。……ね)

コツン……コツン……コツン……

スタッ。

〜♪〜♪〜♪

「……よく僕の気配を察したね。………褒めてあげるよ」

「………ッ」(キッ!!)(色白の…男の人…)

【Beanne】の目の前に現れたのは、一冊の書物を手にし、優しげな表情を浮かべるセミロングの銀髪のヘアースタイルが特徴的な一人の青年であった。本人のお気に入りなのか、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番を流しつつ、白い雰囲気を全体に醸し出しているからか、まるで《アルビノ》としての生を受け、仲間から阻害・逸脱され、自然からかけ離れつつも、自らの意志を持ちて生まれし《白鴉》のような雰囲気をも醸し出す、虚構的印象ある男性であった。

〜♪〜♯〜♪♪

「……あなた。…【Demister】6幹部の一人なのでしょ…?」

「…どうしてそう思うのかな?」

【Beanne】は相手の目の色を見ては、一度、異様な姿をした者による出現で、少女の姿をした水の精霊が傷みつけられた事が今でも脳内に焼き付いており、その男の特徴と目の前にいる者が何かしらの共通する何かを感じ取ったのか、こう投げかける。

「…あなたからは。……【Rowdy】。それに【Auro】と同じように。……《生気》のある肌。…それに瞳をしていないから」

「…それだけなのかい?」

「ええ。……そして。……」

Finale!!

ジャキリッ!!

ブォン!!

バキィーーン!!!!

【Beanne】は相手を斬りつけようと銃剣【Arbitro】を振りかぶり、地面へ強く剣身を叩きつける。

バラバラバラ……

「………」(……外したわね)

その場を避難したのか、男の姿はなかった。

「………凄い力だね。……」

「……その《憂鬱》そうな声で、背後から私に話しかけないでくれない〜?……後さ〜?……」

浮世絵に出てくるような。…この楔に繋がれた巨大な骸骨さん。…一体何なのかしらぁ〜?

グゴガガガガ………

ジャラジャラ………

【Beanne】は、いつの間にか身体中を巨大な骸の姿をした怪物によって身体全身を楔に繋がれ、拘束されていた。

ジャラジャラ……

「んんっ!!…あぁん♡……そろそろ離してくれるぅ〜色白男さ〜ん?…ちょっと、このひんやりとした骸骨の《手根骨》だとかぁ〜♡…鎖の締め付けとかがキツくてベアお姉さん、色々感じちゃうよぉ〜♡」(うっとり〜♡)

「…ごめんね。《怠惰》が故に、彼女の持つ《色欲》の概念の類がなくてね。……僕の力には手に程余る。……《憂鬱》なものだよ。この場で君を拘束する事だってこう容易いなんて。……それでも、色々聞きたい事がある。勿論喋りたい事もあるんだ。…君とね……【R・P】社【Beanne】。………森羅万象のベア。……」

数ある世界が一巡して存在する【Paradiso】の世界に救済の光をもたらさんとする。……七人の民を導きし英雄。……ベア──────

「……!!」

「………」

相手は、【Beanne】の事を色々理解し、知りえている様子だった。そして男は身分を名乗る。

「…自己紹介がまだだったね。……初めまして。…僕は【Areg】(アレグ)。……君が言ったように。【Demister】6幹部の元リーダー。……今は別の者に僕のポストを明け渡している身なんだ」

「…陰のリーダー。…《統括者》とでも言いたげのようね」

「……そうとも言えるかな。…そして、この町【Kagoya】の大火事の大惨事を発生させた者達……いや、無責任な言い方をするのならば、僕の忠告を聞く者もいれば、我が強い一部の者達が無計画にも、杜撰かつ一方的に《火種》を蒔いてしまい……」

「…あなたのやり方に賛同出来ないメンバーは……好き勝手に内部抗争を目論んで新たに力を付けようと賛同させようとする者達が一部いるのだと。…そう言いたげのようね」

【Beanne】は【Areg】に対し、核心的な言葉を投げかける。

「……《怠惰》が故に、彼らの暴挙とも言える《救済》の程を、保護者ながら傍観席で見守っているのだけど、これではとても《救済》と呼べないのが、また嘆かわしいと呼べる事が現状。……いくら手順を量産しても、生じる《摩擦》が大きく、良いモノが出来ないみたいだ」

「…そのモノって言い方、やめてくれるかしら?…付加価値としての基準を、この骸骨に見立てられたものと考えれば。……《醜態》を晒す事でしかないと思うのだけれど…?」

ジャラジャラジャラ……

拘束された【Beanne】は、冷静を装いつつ【Areg】と対話する。

「…君の眼光。…やはり、何処の世界で生まれようとも。…存在しようとも、君は君のままのようだね」

「?…一体、どう言う意味かしら?…私は私」

「時に先程見せた冗談を言えたりもする、偽りの一面をも持ち合わせ、周りに認知させ植え付けようとしている…君がかい?」

「………」

「本当は、寂しさを紛らわしたいが為、その笑みを浮かべる仮面を被ってるのにかい?」

ジャラジャラジャラ…………

「………そういう事のようね」

「?」

〜♪〜♯〜ff〜♪♪

ヴァイオリン演奏が鳴り響く中、【Beanne】は【Areg】に対し、こう語りかけた。

「…【Areg】(アレグ)。……あなた。…《心》そのものが空っぽなのね」

「………」

【Beanne】は【Areg】に対し、こう語る。

「…笑ってるように感情は見せてるようだけれど、何だか仮初の微笑み。……空き瓶のように空っぽ。…互いに人と関わり、距離感を察しつつ触れ合う事で心が育つ筈なのだけれど、…それが出来なければ……生きる実感すらも湧かなくなる筈。……だから…あなた自身」

「…《憂鬱》と《怠惰》……その大罪を僕は背負っている」

「………普通なら、誰かが笑う事で妬みの感情が浮き彫りになって、《嫉妬》の感情が表に出てしまう筈なのに。…あなたからは、それを一切感じさせない。……心を虚無に保つ為、自分自身を洗脳して、《虚構のアイデンティティ(同一性)》でも創り上げてしまったのかしら…?」

「…少し違うよ。…ベア…」

「…どういう事なのかしら?」(キッ!!)

【Areg】はこう語る──────

「…本来人は、《怠惰》を持ち合わすが故に、自由を謳歌しようと怠けては楽をしたがる《生き物》。…ある進化の過程によってからなのか、暇な神自身が神託として彼らに《知識・知恵・力・勇敢・優美》…それらの要素を与え、譲けた事によって。…人は個性と自我を持ち。……神自身の背負いし宿命の産物からなのか、代償として《真実と理想》を追求し。…一国の存亡と築きを繰り返す鮮血に染まった醜い歴史。…ならびに論争する賢者達の出現……」

「………」

「…それに伴い語らない《賢者》もまた、《愚者》に堕ち、論理や思考に賛同し。…信仰する礎が出来上がる。後に文明が発達してゆくにつれ、世界各地にある国の神話が誕生した。…やがて偉人の出現により、気高さと神格さある聖歌のコーラスとハーモニーが織り成す《人間讃歌》への道を歩む、神界の学堂者の集団が君臨する。…何故そのような進化に至ったのか、君に分かるかな?」

「………」(フルフル…)

【Beanne】は退屈そうに相手に対し、意図となる説明を促すように首を横に振る。

「…人という生き物はね。…《死》に直面する事で生命の危機に反する事とし、対価として《魂》の輝きが放出される。…《生》となる《命の尊厳》を守りし象徴と見せる為に。…とね」

「…何処かの哲学者の引用かしら?…人の《命》を易々と差し出した結果が《魂》として還元する。……《等価交換》を甘く、安請け合いして見定めているのかしら…?…《オカルト》趣味も程々にしておかないと、《ただの痛い人》に見られるだけだよ…?」

「…ははっ。…確かにね。…でもベア。…君には分かる筈だよね。…《5年前》の…」

「!!……」

黙りなさい!!!

「………」

「……あなた。……まさか、何かしらの方法で私の記憶を垣間見た。…とでも言うのかしら…?…それだったら話は別。……っ」

ジャラジャラジャラ………

「…解く事は出来ないよ。……彼らは君の負った心に寄り添うように握りしめているから。…大丈夫だよ。…ベア。…君の事は丁重に扱うよ。…無論、この町にいる《治安部隊》に属する《十番隊隊長》の事も。……共にね………」

「……!!」(……トワさんの……事まで…)

【Areg】は何処か、寂しげな表情を出す。彼自身、救えない、救われない者達が未だこの【Paradiso】に存在するという事に何かしらの真理を見定めていた様子だった。

「……トワ。…彼女には申し訳ない事をしてしまったね。……でも仕方のない事だから。……そうならざるを得ない、抗えない非情なる《運命》が、彼女には定められていたのだから…」

「!?…」(…定められて…いた!?)

相手の発言に対し【Beanne】は眉を顰(ひそ)める。

「………」

「…《バージン》をあなたの身内に捧げる事。…それこそが、彼女の最良の選択が故の結果なのだ。……って言いたいのかしら……?」(キッ!!)

「…どう捉えるかは君次第だよ……」

「………」

「…神話にしても、どんなに優れた美徳な物語に塗り固められた話には、必ず。…残酷な真実を塗り固めたりする筈。…例えるのならば。……《シンデレラ》。彼女はいずれ王子と結婚するハッピーエンドの話ではあるようだけど。…その過程として、彼女は二番目となる母親の首をへし折り、殺さなくてはならない宿命があった。結果的にその事実は何一つ告げられる事なく処理され、彼女は《幸福なる最後》を遂げた。……だけど」

「因果は巡るように。…死なせた後…殺めてしまった彼女自身にも、代償として災いが振り返ってしまったというのかしら…?」

「事実を言うと、そう言う事だね。…それが時に《混沌》を生み出してしまい、《調和》を基にその論争を鎮めた。………物語の裏に秘めし醜さが招いた種と。…そう呼べるかもしれないね」

「……寝言は寝てから言ってほしいわね。……笑えないジョークだから。……ねえ。…そろそろ《質問》いいかしら?」

「…どうぞ」

【Areg】は【Beanne】に対し、質問の許しのみを解く。彼女はこう言い放つ。

ジャラジャラジャラ…………

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜JOJO6部より・エンリコ・プッチ



「……あなた達を率いている親玉。……《長》……一体何者なのかしら……?」

「………」

「答えなさい!!」

【Beanne】は【Areg】に対し強く問いかける。その返答に、彼の口角は緩み、笑みを浮かべてこう言い放つ。

「……我々の長である彼自身は。……過去に《最古の貴族》の者達との戦いに敗れ、自らの肉体を失った。…しかし精神及び意志だけは、まだ尚も残り。…現在身体そのものは【現世人】女性【Mireisia】(ミレイシア)の姿を媒介にして時を刻みつつ、この【Paradiso】の世界にて延命する宿命を背負っている。…とだけ言っておくよ」

「………」

【Beanne】は【Areg】の声のトーンと、何処か長に対する忠誠に等しい何かを察したのか、発言に対する相違はないと捉える。

「…その言い分だと。…その長さんは、実態を失った幽霊として【Mireisia】(ミレイシア)って人に身体を乗っ取って憑依し。…好きたい放題していると。……それで。……一体何を成し得る目的なのかしら…?……エイミちゃんを、まるで現世で施される出産手術法…《帝王切開》のようにしてお腹を掻っ捌いて危害を加えたりしてまで。……!!何が目的でそんな事を!?」(キッ!!)

「…ほう…」(そこまで知りえているとはね。……迂闊にも情報は何処かで筒抜けだった。……と)

【Areg】は彼女【Beanne】を少しばかり過小評価していた様子にあった。しかし彼女の情報収集能力には自ら属する集団と比べるも先回りされた事に、少しばかり退屈を潰せたと言わんばかりに笑みを浮かべる。

「……この世界線を完全に固定化する為。…とだけ言っておくよ」

「……世界線…?」(…《白き羽衣》が言っていた…言葉…)

【Areg】はこう説明する。

「本来歴史は常に一定の方向でしか進む事はない。…本来この世界【Paradiso】は。…《創造派》率いる、【真・ユートピア創造士隊】が支配するべき世界になる筈だった」

「……?」(…だった?)

「だけど、そんなある日。ある時空を操る《少女》の出現により。この世界の緻密に練られた歯車は大きく狂い始めてしまった…」

「……何が言いたい訳…?」

グググ………

「…!!…っ!!」(締め上げが…強く……)

「…………」

【Areg】は、『発言しているのはあくまで私だ』と言わんばかりに、冷たい視線を【Beanne】に向けつつ、拘束している《骸手》を強く締め上げ、発言を静止させる。



【Beanne】AAランク
【♡♡♡♡♡♡♡♡】
ーーーーー


「…あの時、【狼志組】の志士と共に行動していた時。少しでも時間の修正をしようと足止めを図ろうとした。けれど、君自身が介入した事でそれはなしとなった」

「…どういう事なのかしら…?」

「……」

【Areg】は非情な事実を告げる。

「【狼志組】四番隊隊長【Nagawa】は、正史の歴史においては倒壊した家屋の下敷きになったまま、そのまま《昇華》する運びとなっている」

「…!!」(…なんですって!?)

「けど、それを君は善意からか。…まるで彗星のように流れ行く引力に逆らい。…《軌道修正》した事によって、その運命の枠から外れてしまい。……なくなった。………だけれども、そうなってしまえば、結果的に何が起こると思うかな?」

「………っ…」

【Beanne】はこの異常な現象に対し、こう口に出す。

「…まさか、私自身は幸運にも、その悲運事の干渉に唯一受けない《特殊》な何かを持っている。……そして、その場面に関わった事によって。…本来事故に巻き込まれ《昇華》する運命にあったナガワさんは……違う形での結果を生み出してしまう。……だとか、そう言いたいのかしら?」

「…大まかに言えばそう捉えることも出来る。…本来時に定められた人の死は、誰にも抗う事なんて出来ない。…何故なら、《なかった事》には決して出来ないから。…君だってそうだ。……繰り返される時が流れる、幾万の世界線では恐らく《彼女》を何度もその手で」

「……黙りなさい…」

「………」

黒い歴史の記憶にまで触れられてしまった【Beanne】自身は、憎しみと憎悪に満ちた表情で【Areg】に対し反発する。

「…あなた。……私のどこまでの道筋に至る経緯の歴史を。……どこまで振り返ったのかしら……?……リシア。……あの子の運命にまで介入したとでも言うの!!!?」

ギリギリギリ………

【Beanne】は意地でも拘束を解こうとする。しかし骸の手は万力のように締め上げており、びくともしない。

「…およそ今から五年前に起きた《屍人》にまつわる事件。…残念だけど。…その事については、僕達【Demister】は、一才介入していない」

「白々しい事言わないで!!…あの子の《尊厳》を掘り返す真似をしておいて!!……っ」

ポタポタ………

「………」

【Beanne】の瞳には涙が溢れ出ていた。いざこざに遭遇する前の彼女自身と【Lisia】(リシア)との間には、離れる事が出来ない《絆》が芽生えていたように見受けられた様子だ。

「……」(切なしげのようだね…)

コツンコツン……

「……これに懲りたら、ベア。…これ以上君は、この歴史の流れに抗うような事は…やめてほしい。……もし、これ以上踏み込んでしまうのなら。…いずれ君の恩人である彼女に手をかけた罪深い厄災の《彼》…」

《彼》を含めた《15人》総勢が一丸となって。…いつの日にか、この【Paradiso】の世界線に牙を向ける事になる結末を迎えるだろうからね──────

バチバチバチバチ……

ピコーン…ピコーン…

【Beanne】AAランク
【♡】
ーーーーー
魂の残量が残り僅かです!早急に魂の《供給》を行ってください!!



「…………」

炎が舞い散り、飛び交う【Kagoya】の町。【P-Watch】の警告音が鳴り響き続ける【Beanne】の状態は《骸手》に強く締め上げられたまま、生気を絞り上げられているのか、無気力状態にあった。

「………」(儚げ。…嘆かわしいよ。…ベア。………こうして僕と出会う事がなければ、もう少し違う《運命》にも遭遇する筈だったのに。……)

コツン…コツン……

「…………」

さようなら。……時には《厄災》。……時に《英雄》と讃えられた。…《気高き大空のベア》──────

ピコーン…ピコーン…

ピコーン…………ピコーン………















ドォーーン!!!

ドーーン!!

ドーーン!!!


「……!!」(……?)

バチバチバチバチ………

【Areg】の周囲から凄まじい轟音が響き渡る。周囲には業火で囲まれ、地響きが鳴り響く。




ガラガラガラ…………

…初めて動揺する一面を見せたわね。……《偽善者》連中のリーダーさん。

キラキラキラ…………


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜ディシディアFFより〜閃光



「………」(へぇ〜。……まさか、まだ生気が残っていたなんてね……それに。……希望に満ち溢れし…瞳の光まで…)

ジャラララ………

【Areg】は目の前にいる、先程生気を失ってしまった彼女ではない、もう一つの側面を見せる【Beanne】の姿を見つめていた。

「………」

ジャキリッ!!

ヒィーーン………

ボアア……

ピィィ…ン…
         
ガラガラ…ガラ……

フィィィ〜………


【Beanne】AAランク
【♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡】

《森羅万象》の【Fiducia】能力…全てを解放しました──────

危険を伴う為。周辺の方々はすぐ様、避難を実行してください─────




ドドドドドドド………

「……Siete pronti?(覚悟はいいかしら?)」

【Beanne】は返答次第においては、確実に【Demister】の【Areg】を抹消──────即ち【Delete】(デリート)を確実に実行する《覚悟》を見せている。これまで彼女自身はおちゃらけ、家庭的な一面を持ち合わせ、もう一つは相手を見定め。まるで法廷・審議の場において、裁量を基に罪人への判決を下すジャッジ役。すなわち審判の天秤が《罪》へ傾きし時には、鉄槌を奮い立たす《厳正なる者》としての顔を持ち合わせる。

チャキッ!!

「…なるほどね。…この地域に蒔かれた、《彼女》の火種を含めた、《水》・《風》・《土》…全ての元素を、その能力に吸収し、自らの力へと還元した。……と言うことかな…?」

「………」

「いいね。………面白いよ。……ベア。……」

グゴゴゴゴ………!!

ガシリッ!!

「………ふん!」

バシッ!!

「………!」(振り……解いた…?)

【Beanne】は先程まで身体を動かせないよう拘束されていた《骸手》を、今度は最も容易く払い退け、すぐさま次の攻撃へと移行する。

「………もう一つ質問があるわ。……アレグ」

「……何だい、ベア?」

「あなたは…いえ。……あなた達【Demister】は一度死んでしまってから。…アウロやハクローくんと因縁のある《ロウディー》を含め、誰かさんの身体に憑依して精神を侵して支配下に置き。……魂の身体として再び、人の形を成して活動する。…まるで《リビングデッド》。……ゾンビのような屍人として蘇っているようにも思うのだけれど。……《死》という事について、正しい見識と、ちゃんとした関心があるのかしら?」

「………つまり。…僕達はこれまで人を…《道具》としてぞんざいに扱ったのか?…そう問いたいようだね?」

「………」

【Areg】は死についてこう語る─────

「…死という概念…ね。…それは現世の国スイスの偉人《エリザベス・キューブラー・ロス》が提唱した、彼の遺した一冊の書に記されていた、《5つの受容段階プロセス》……《否認・孤立》《怒り》《取引》《抑圧》《受容》─────それらの要素を含め、ある一人の者の人生を踏まえ、説明させてもらうよ。《死》は必ず避けられないもの。それをあたかも《孤独》を紛らわしたいが為、何か別の事に意識を向けようと醜い《暴食》《色欲》へと。ただ純粋に無我のまま醜態の地へと走り去ろうとする。その者は現実から見て見ぬふりをするけど、結局の所は。…世間の者達から物乞いをし、ただ飼い慣らされた檻の中にしか過ぎなかった」

「………」

「その者は、その《結果》から目を逸らし、《過程》を顧みぬ事もなく、引き続き逃避を繰り返し。…世間のシステムを否定し続け。……《強欲》にもそれがあざとなり。《怠惰》が故に、時に幸福に満たされた、誰かを妬み…押し寄せてくる《嫉妬》の感情。…争おうとして曝け出された《憤怒》の感情。そして自らは、世間から恵みを得た《餌》から肥え。…《地位》を持とうとする。しかし、正しき《知恵》を持たざるなら。…結局の所《猫に小判》…どんな地位を得た所とて《豚に真珠》に終わる。…故に…」

【Areg】は、まるで指揮者がタクトを振るうかのように両手を上げ、演奏はまもなく《最終楽章》に突入したが故に、《死》の詩が奏でられた物語を、こう奏でようと言わんばかりにこう告げた。

無益にも、死を取引として明け渡された《欲望》には必ず。…受け取り手は、代償として決して抗う事の出来ない絶対的な《絶望》が待っている。《末代》まで。《憂鬱》な死神は今も、その《死のサークル》を繰り返し。《生きる》という大罪を犯した《僕達》をいつの日にか喰らおうとする。…その前にと《救済》の手立てある、安楽が施されし世界を築き上げる。

「………」

その死の提唱を静聴していた【Beanne】は、顔を険しくし、質問を投げかける。

「…それが、あなたなりの価値観なのね?…そんな事で。…そんな《世迷言》の為に、この町を焼き払ったの?…ここの人達の犠牲はどう説明する気なの?」

「…彼らの犠牲は。……【Paradiso】の世界を救済する為。……投資のような《対価》でしかないのかもね」

【Areg】はそう投げかける。【Beanne】はそれに対し、賛同も納得すらも出来ない様子で、銃剣【Arbitro】の剣先を向ける。

「…なら。……精々そんなくだらない世界になるよう。…悔し顔をして《祈り》なさい。……自ら決めた選択。……《救済》だと高を括って実行した作戦。………結局それは、後から償わないといけない《対価》の罪として。……その自覚を持った上で!!!」

ボアアアアア!!!!

グゴゴゴゴ………



チャキリッ……!!

……バッッ!!

ポタポタポタ………!!!!

ザザ〜ッッ!!!!

「………!」(…集中した……豪雨。………ゲリラ豪雨……?……そして…あの姿……は………)

バッ!!

【Beanne】は左手に持つメインウエポン──────銃剣【Arbitro】を地面の下へ突き刺し、地響きを起こしつつ右手を天高く上へ掲げる。その様は、まるで現世における、《芸術作品》を相手に連想させた。それは、1830年に起きた《フランス7月革命》をテーマ主題とし、キャンバスと油絵を基に描かれている。完成されたその作品は現在──────数々の偉人(クリエイター)が美術品として後世に残し、それらの芸術たる魂の輝きを求め、足を運ぶ芸術家、ビジネスパーソンならびに、数々の大衆の人々をも魅了とし、虜にした《アジテーター》の宝庫とも表現できる。西暦次第によっては、年間《1000万人》と先程述べた作品を含め、まさしく《美術》分野の学門・文化、そして礎をも築き上げた由緒ある《美術館》へと展示されている。先程述べた《作品》を世に生み出したフランス画家《ウジェーヌ・ドラクロワ》の作品──────

《民衆を導く女神》の如く、天高く右手を上に掲げた彼女は、火事によって燃えた町全体を空に雨雲を呼び寄せ、町周囲へ拡散させる。彼女自身の持つ【Fiducia】《森羅万象の能力》故なのか、水や風といった万物へ干渉し天候を操る《万能》の神の如く絶対的な力を行使し、【Paradiso】の世界を導かんとする、気高くそして揺るぎなく絶対に抗えない運命の障害をも跳ね除け、貫き通そうとする。恩人である一人のアルビノ女性から託された、大空を駆けるが如きの揺るがない強い《意志》を相手へ知らしめる──────

ビュオオオオッッ!!!!

ザザーーーッッ!!!!

「………っ!」(まるで……《天候ノ女神》とも言えるね。……そして、僕達ではなく。……君自身が民衆を率い。……この【Paradiso】に光差し伸べようとする《導師》になる覚悟を…)

「………!!」

シャッ!!!

ここで。……!!

《【Finale!!】》

《【Beanne Formula Sacred Sword】(べアンヌ式神聖剣)Ⅰの奥義》

《【Cielo nobile】(シエル・ノービル)!!》

チャキリッ!!!

「………っ」(なるほどね。…ベア。………その煌めくエメラルドグリーンに眩く閃光を放った眼光。……その意志は、僕達【Demister】を恐れる事なく。…まるで嵐が訪れ、荒海となった大海原の中でも、毅然とした意志で障害を跳ね除け……民を導き、指し示した事で。……実現しようとする理想郷《常ノ世(ツネノヨ)》へ誘おうと。……ベア。……やはり君は。……)

面白いよ…!!

グララララララ!!!!!

「……!!」(《骸手》が、私の頭上を覆い尽くして…………だけど、どのみち後戻りはしないわ。…………)

【Areg】は、まるで《憂鬱》に覆い尽くされた霧が晴れたかのように、彼女の持つ気高き意志に敬意を払い、自ら使役している《骸手》を上にし、彼女を叩きつけようと迎え撃つ。

グゴゴゴゴゴ………

「……私は。…あの《時》から何一つも変わらないわ。……ただ、あなたへ《審判》を下してあげる。……それだけよ!」

クルクルクル………

チャキリッ……

【Beanne】は銃剣【Arbitro】を巧みに回し、剣先を【Areg】に向け、確実に貫こうとする意志を見せる。それは彼女自身の示す《閃光の意志》と意味合いを込めてなのか、とても力強いものであった。

「………見せてみなよベア。……君自身が指し示し。……理想とし、向かおうとしている《常ノ世》。…それを実現出来る力が備わっているのかを……僕達に。……」

ブオォォーーン!!!!!

「………」(私だけ?……それは違うわ。……恐らくあなたはさっき私がしていたモデリングを見て、あの《女神》の絵を連想したようだけれど。……《女神》ではないわね…。……私は、ただの【現世人】。……カナダ人のママと。…日本人のパパの間から産まれた、何の取り柄も無い人見知りの《女の子》。……それが本当の私。……だけれど、そんな私にも《…ベルナ姐さん》との出会いや……《リシア》の事件に関わった事で。……守る人達……本当に護ってあげたいって気持ちが芽生えて。…そして、私の意志を継いでくれる子達。…それがようやく、遂に来てくれたと…《心》が訴えてくれているの。………ウフフ…♪)

……ハクローくん。…君は本当に見所のある、私の可愛い《フィアンセ♡》…君なら…トワさんやリーネちゃん。……それに…君の事が心底好きになっちゃう【Paradiso】レディーのみんなを大切にして。……いつしか、この世界を大きく変えようとする《可能性》を持っている。……だから。…安心しなさい…。…私はあなたを見捨てないわ。……ちゃんとワンツーマンで教育してあげる♡……?何故かって〜?…そ・れ・は……

《あなたの教育係兼♪愛しの愛人なんだ・か・ら♡》

ブォン!!!

・・・

……コツン…コツン…

「……ベア。……君の指し示した天命の《灯火》と言える魂の輝き。……良い色をしていたよ。……皮肉にもその意味合いは。…明るい朝日に照らされた、君自身のヘアカラーであるオレンジ色…そして僕自身を貫こうと、猛威を震わせた、その気高き大空を放つ《スカイブルー》の魂の色。……とても興味深かったよ……」

ゴォォォォ………

「……でも、残念だったね。……それでも僕には届かず、この地中の奥地へと。……君は旅立ってしまった。……嘆かわしいよ。……また会おう。……次なる《時間軸》へ突入した時にでもね……」

シュン………

救済ノ使徒【Areg】の迎撃により、その地は深く地面を抉られ、殺風景となってしまった【Kagoya】の幕末通り──────

地中は《骸手》による攻撃で、一部深い《穴》が形成されており、その深さはまるで《深淵》の闇を表現しているかのような暗がりで、目視ではとても先を見通す事が出来ない《井戸》のような深さがあった──────

そして、広がった殺風景な周囲の町並みに【Beanne】の姿は──────





《神隠し》にあったかの如し。彼女の存在を一向に観測する事は出来なかった──────










   
B. いいえ


《Capitolo・11》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜TODより・imposing visage

キラキラキラキラ…………

ダダダダダ………!!!!

「………」

ビィーー♪…ビィーー♪

曲者なりぃ〜!!出合ええい〜出合えぇぇ〜イイイ!!!!!

ワーッ!!…ワーッ!!…ワーッ!!

「……邪魔だ」

ザシュッ!!…ブシャーッ!!

「ぐああ〜…」「…む、無念……!!」

ボン!!…ボン……

「………」

チャキリッ!!

〜【Veno・nix】Side〜

サイレンが鳴り、多数の軍勢の者達がドタドタと足跡が響き渡らせる。場所は地中深くに潜り込み、聳え立つ【世原城】─────壁一面には松の模様に金箔を施された、ゴージャスかつ豪華な空間。その異質かつ歪んだ《虚飾》へ彩し建物の中を【Veno・nix】は失踪する。侵入者対策なのか、戦闘に特化したからくり人形が複数体襲い掛かり、すかさず相手をバッサリと斬りつけ、目の前の道を進んでいく。

ダダダダダダ………

「……」(長い廊下だ。…それに悪趣味な外装に優り、内装も金箔にし。……心の汚さが身に沁みる。………つくづく野離しにしておけん悪どい、悪代官のようだな……)

シュン! シュン!

「……!!」

曲者!!発見ス!! キィさま〜を殺すなりぃ〜!!! さあさあ、血祭りに上げるべぇしぃぃぃ!!!!!

グラグラグラ………

「………」(上はカラクリ。……下は戦車のようにキャタピラを施された機械。……《重戦車型カラクリ戦闘機》といった所か。………)

次に【Veno・nix】の目の前に立ちはだかったのは、高さ5m程の巨体なカラクリ戦闘機であった。相手は【Veno・nix】を刺客と見做し、奇襲を仕掛けてくる。

グラグラグラグラ……

消え去れェイイ!!!!!

ジャキン!!!

ヒュン!!ヒュン!!

「……!!」(…戦輪!……チャクラムが仕込まれているのか……)

キィン!!カン!!

グラグラグラ…………

「っ!!………」(姑息にも手裏剣の代わりとして備え付けているとは。……腕利きのメカニックの魂を侵してまでも。……お粗末な兵器まで奴は裏で牛耳る事を目的に作っていたという事か……)

カラクリ重戦車には迎撃する目的として備えていた、古代インドにて使用されし投擲(トウテキ)武器であるチャクラムが目の前に放たれる。すれ違いさまに飛来するチャクラムに翻弄されてしまった【Veno・nix】の動きは制限されてしまい、行手を阻まれる。

グラグラグラ………

グゴゴゴゴゴ………



「……だが、所詮は作り物。……その勝利は。……」

未来の秒速ある時間が示しているんだゾォっと!!!

カチ……カチ……

カチカチカチカチ………!!


【Veno・nix】Eランク
【♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡】
ーー
5秒先の未来の時を予知しました。

グゴゴゴゴゴ………

グシャリ……

「………」(なるほど。………ならば……)

ダダっ!!

………!!右か…それとも…

左か…!?

【Veno。nix】は特攻を開始し、左右に揺れ動きつつ早く、交互に走る。相手をまるで錯乱させ混乱する為にと策を練って行動に移す。

タッタッタ!!!

愚か。…実に愚かならばけり。……【Kunizu】様の命で。……ここで貴様は土の肥料と化すがいい!!!

グゴゴゴゴゴ………!!!!!!

グシャッ!!!!

カラクリ重戦車は最も容易く、無慈悲なる意を込め侵入者を土へ還そうと特攻を開始する。

グラララララ………

クックック。……ちょろいなりけりぃ〜♪……これで……二度と会う事も………

バキョーンン!!!

……!?…ぬうっ!!…………ば…ば…!!

馬鹿なぁぁぁっ!!!!

nkjdsfnkfnlskjslkjslsdjmcdljldjvd……………



《チュドォォーーン!!!!!!!》




カラクリ重戦車は呆気なく、崩壊を迎えて《爆発四散》し─────塵と化した。

コツン………コツン………

「…………」(見た目とは片腹に。……《カラクリ》という名には似つかわず…ただお粗末な芸術作品(オブジェ)に見立てられた、ただのガラクタ戦闘兵器だったとはな。)

拍子抜けもいい所だ……

ダダダダダ……

・・・

〜中層〜

コツン…コツン……

「………」

【Veno・nix】の目の前に大きな扉が待ち構える。そこには特殊な仕掛けが細工されていた。迷宮迷路に見立てられたポスターには一本の筆が掛けられており、注意書きとして『ここを通りたくば、麻呂が架け橋とする、真なる《道》を示してみよ!!』と、相手の気量を試そうとせんばかりの挑発じみた《言葉書き》が添えられていた。

「…………」

スッ……




ダァーーーンンッッ!!!!!……グラグラグラ…………

バターーンッッ!!!!

「あんぎゃー!!!」

「グォハァーーッ……な…何故に……!?」

「…な、なんだ…と?」

バタン! バタン!!

「………下手な小細工だ。……どいてろ」

コツン…コツン……

【Veno・nix】は相手の動向を先読みしていたのか、扉をまるで《極道》のカチコミをするかのように重い蹴りで突き破り、前に待ち構えていた門番の者達を一斉に下敷きにし、前へ進む。

コツンコツン……

バキャッ!!!

「待てぇい!!!」

「貴様ぁぁ〜〜ッ!!」

「一体貴様が誰に歯向かっていると承知の上なのかぁ〜〜!!??……新たに、この町に革命をもたらす…《帝》となろう………と。………」

ざわ……ざわ………

「……聞こえなかったのか…?……刈り取られたくないのならば。………早々に……失せろ。……応じないようなら。……正当防衛とみなし。……底の知れない《深淵(アビス)》へと沈むゾおっとぉッ!!!」(ギォロッ!!!)

グォォ………!!!!

グァオッ!!!

「!!」

「!!」

「!!……」

バタリ!!!!

扉の下敷きになりつつも、這い上がり【Veno・nix】と敵対しようとした者達は、《威嚇》によって放たれた闘気を直に受け意識を刈り取られる。なす術なくそのまま崩れ去り、一同は倒れ伏せる。

「………」(《カラクリ》のように、ただ闘う事を目的に智慧(ちえ)を受け付けられ。…意志を持つ事がない兵器を戦わせ。……一部闘う覚悟が揺らぐ程、道理と忠誠がないとはな。………選りすぐりの戦力だけで戦力もままならないようなら。……わざわざ歯向かうな。……何の為に《闘う》のか。……その意志は結局真理に外れてしまい、この不始末。………そんな組織で。……この町を牛耳ろうなどとは。………)

器が知れている《狐》だ!!

コツン………コツン………

【Veno・nix】は歩みを進める。しばらくすると、広い空間が目の前に現れる。



🎼Back Ground Music 》》》



♪〜湘南乃風より・バブル



ズンダカ〜♪…ズンダカ〜♪

「……?」(重低音のレコード…ダンス…パラパラか?……昔《クラブハウス》に潜入した時の事を思い出す。……今となれば。………過ぎた記憶)

ズンダカ〜♪…ズンダカ〜♪



……豹……。

ギャハハハh!!!!!……お〜ら!!燃えろ燃えろ燃えろおぉぉ〜!!

「……!!」(…………っ…三木川。……!!)

ギリリ……

【Veno・nix】の目の前に飛び交った光景は、まるで当時現世日本で起きた《宴》の恩恵───────

《バブル景気》の名残りからか、《ディスコ》と華やかさの空気を漂わせていた。【Veno・nix】の脳内には、現世で過ごしていた過ぎ去り、時刻みし過去の記憶。そして現在となって、再び自分達の前に姿を現し、対峙した因縁ある、得体の知れない面影の者の姿を、追憶として呼び起こしていた。その度に目隠しとして身につけている黒い眼帯越しから、《鉄仮面》のように冷たく険しい表情が読み取れる。

ギリギリ……ギリ………

───────それでも

「……ふぅ〜………」(…平気だ。…天野(あまや)。……俺は1秒たりとも、あの時の事。……忘れてはいない。……どんな障害が訪れようともお前はお前自身の力で夢を実現させて夢を掴んだ。…だがな。…いつだって世の中ってのは。…………不条理だ。…掴んだ夢を踏み躙(にじ)り。自分の欲を満たすが為に、飢えを見たそうと陰で忍び。陥れようとする《悪党》はいつの時代にも存在する。……そんな仁義に反する怪物の喰い物にされないように取り締まり。……刈り取る者達は。……必ず必要だろう。……例えそれが《法の外》に出る事になろうとも。…あの時の俺がしたように。……だから。………今だけは見守っていてくれ。……頼む)

タッタッタ…………

【Veno・nix】は前を向き、目の前の空間へ足を踏み入れる。

パチパチパチ!!……



「……よぉ〜…クソッタレぇっ!!……待ちわびたぜぇ〜!!!」

「…ブラン(【Bran】)」

【Bran】は、大将座りをしつつ、一室に設置されたソファーに腰を掛け、酒を一杯口に含む。

ゴクゴクゴク………

「プハぁ〜!!!……やっぱ、《バブル》の頃の味ってのは止められないってえぇ〜〜なぁ〜!!…ええ〜〜!!??」

「………」

「お、おいおい、まあまあ飲めや〜!!」(ケラケラ!!)

「……お前が今どの立ち位置にいるのか。…。理解できてるのか…?」(キッ!!)

【Veno・nix】は相手に睨みを効かせる。

「…はぁ〜、……しゃあねえなぁ〜………」

ガバッ…!!

「……たく。……《ネルソン》と関わり持ってた言うわりに、未だ笑えず喰えない野郎だなぁ〜、ええ〜?」

「…!?」

【Veno・nix】は【Bran】から発せられた、かつての自分の同士【Nelson】の名を告げられ、少しばかり驚く表情を見せる。

「…どう言う事だ?」

「あんれ〜?…知らないのか?…俺はな。…かつてアイツと。……」



《バディー》だったって事。

「……!!」

「…………どう?」

【Bran】は過去に【Nelson】とペアを組んでいた時期があるとそう告げる。

「……くだらん《嘘》をつく毒男だな」

「オイオイ〜!…ジョークと思ってんのかぁ〜?……アイツが《クール》で心底惚れ込んだと聞いたが。……確かに…俺もお前さんの魅力に惚れそうだぜ〜///」(ブンブンブン!!!)

「………頭に酒が回って、酔っ払ったのか?」

「違うんだなぁ〜!!……ギャハハ!!……これだから、《バブル》時代の興奮が抑えられねえぜぇ〜!!…ええ〜?…ヴェノ。……お前にもあるんだろ〜?…《欲望》ってのがよぉ〜!」

「………」

【Veno・nix】はシカトを決め込む。その様子に【Bran】はやれやれと言わんばかりにこう語る。

「…たくよ〜…《鉄仮面》で黙り決め込んでるようだが、お前の心……涙シクシク流して泣いてるよな〜ええ〜?…今回のこの町の《ドンパチ》宴に感動のあまりに感動を味わったってのかよぉ〜?」

「……っ…」

【Bran】は煽り屋の如く、強気にそう発言する。【Veno・nix】は口を開く。

「…おい。…ブラン」

「あ、何だ〜?」

「………」

コツン、コツン……

「…鉄仮面ってのは。お前だろ?」

「…ああ?」

ポタポタ……

「…何でお気楽そうに見せてるお前の顔が。……まるで山葵を口に放り込んだように涙流してるんだ?」

「ギャハハ……ハ……」

カランカラン……

「………」

「お前自身が曝け出し、矛盾した感情。図星突かれてそこで黙りか。…。つくづく性根が腐り果て。……一人が寂しいから、構って欲しいと泣き喚く《子供》と同……」

るっせぇ!!

「………」

「ジタバタとうっとおしい《説教》はいいんだよ!!……どうだっていい!!」

ドタァン……

カランカラン………

グシャリッ!!

「……!!」(毒拳を…捨てた…)

【Veno・nix】は少しばかり驚く。今まで相手の攻撃手段であった、自分を散々苦しめた《毒》が塗られたメリケンサックを捨て去り、足で払い除ける。

「………」

「……もう毒は使えない。…という事か」

「…ああ」

「…【R・P】社のロランに注入した毒で、もうタネ切れか?」

「…おうよ」

「………」

【Veno・nix】は、先程から《歓喜》に満ち溢れ、《怒》の怒りの感情を。涙を流し《哀》へと、《情緒不安定》のような素振りを目の前にいる男を注意深く観察する。こちらの動揺を誘おうとしているのが狙いなのか少しばかり動揺しつつも、再び警戒を怠らんとする。

ピチャン……ピチャン

「………なあ。……ヴェノ。……」

《何だって〜…男の生き様ってのはよ。……どうしてこうも上手くいかず、切なしげなんだろうなぁ〜》

ポタポタ……

「…〜っ……クソッタレが。………」

「動揺を誘うように見せているようだが、そんな小細工は通じない。……闘う気がないのなら。とっとと失せろ」

「……はぁ〜……」

スクッ!!

「……ふぅ〜。……そう言ってくれてスッとしたぜ〜。…まっ、折角ネルソン。……いんや、《ネル》のおかげで、その《鉄仮面》から解放されたっつうのに、ま〜た険しくなってやんのな、クソッタレ」

「……御託はいい。……どんなに長く生きた所とて。結局欲に溺れ足元をすくわれてしまい。……《乞食で媚びる》図々しい生き方をしてきただろう貴様は。……社会から爪弾きにされ、《非難》され生きてきた無法者だろ」

「それ言ったら、お前も《同じ穴のムジナ》。…だろ?」

「…学はあるようだな」

「こう見えて。…《大卒》だからな〜♪」(ケラケラ!)

「………」

両者は一歩も発言にブレはなかった。【Veno・nix】はこう問いかける。

「…もし、ここに《ネルソン》。…アイツがいるとするなら、お前を殴り倒してでも正し。…説得には応じるだろうがな」

「言えてるぜぇ〜!!」

「…お前は、アイツの何なんだ?」

「……ん〜〜?……そうだな〜…」




男の生き様を教えた、《師匠》的な存在だなぁ〜♪



【Bran】はそう言い放つ。

「…戯言を」(しれっ)

「いつの時代も。…真実は常に一つだぜい!…てめえの巻いてるその眼帯の奥にある目。…結局節穴でしかないって事だぜぇ〜!」(ケラケラ!)

「………」

「…ま、つっても。……人っつう生き物は。…《欲》がねえと足立って生きてすらいけねえ〜、弱い生き物だからなぁ〜」

「お前も人間だ」

「違うねえ〜。…その考えが甘いぜぇ〜!甘い!甘い!!青臭えぜぇ〜!!」

「…俺達は人間をやめ。……エスカレーター方式にて、肉体を持っていた人間から、魂の身体の肉体を持つ【現世人】という種族へ《輪廻転生》を果たしたという訳でなく。……生身の身体を捨て去り、《人間を超越して得た正統派進化》と言いたいのか?」

【Veno・nix】は、現世で流行している、ある《奇妙》をテーマにした、漫画の言葉を連想し、引用して返すが如く、そう真意を問いかける。

パチパチパチ……!!

「そうだよ、それそれ〜!ダァ〜ハハハ!!……お前さんには《人間讃美》元より、讃歌して誰かを褒め称える《心》くれえぇ〜は、あるんじゃあねえか〜!」

「……」

「……まあ、その話題は今置いとけ。…バブルが崩壊し、何もかも失い、途方に暮れ。……《社会の外》へ放り出されるまでの間。…………テメエの口から出たさっきの言葉。……俺の口から言わせて貰えば。……その《時》を精一杯生きたとも取れるんだがなぁ〜……」

「………」

【Veno・nix】は敵対する相手の存在の男の言葉に、色々と批判したくあれど、感情的にならず、まるで事務的に淡々と傾聴し、動向を探り観察する。



グキ…ゴキ……

「……まあ心配せずとも、時既に【Kagoya】の街並みは、火の海になり、焼け野原になってる頃だろうよ。そこから、この城が全てを救済する大掛かりな革命を仕掛けを催す事に、上が忙しいようだからな〜♪……後は俺自身の手でテメエを殴り、屈服させ。…【Aria】を回収すりゃあ。………それで全てが収まる」

「!………」

コツン…コツン…

【Aria】の名を聞いた【Veno・nix】は少しばかり顔を険しくする。それでも《ポーカーフェイス》を装い、目の前の敵を睨みつけ、こう宣言する。

「そのお前達が企てた思惑。……アテが外れているだろうな」

「…!!」

【Veno・nix】の発言に、【Bran】は少しばかり疑問を感じる。

「どう言う事だってんだぁ〜?」

「…《彼誰時(かたわれとき)》って言葉。……聞いた事は?」

「〜?……《黄昏時》って言いたいのか〜?……ペンフレンドって甘酸っぱい《恋》言葉は俺の柄ではないが、田舎な小さな村で生まれちったからか、玉ねぎなんざ普通に食べられるんだがなぁ〜♪」(ケラケラ♪)

【Bran】は明け方を意味とする、《彼誰時》と対義語となる夕焼け時の《黄昏時》を引用して返し、《玉ねぎ》というワードから何処かで聞いたバブル期に流行した、あるアーティストの一曲を含めつつ話題を返す。

「…んで?……嘘だとかハッタリじゃあねえのよなぁ〜?」

「どう思うかはお前の好きにすればいい。………この世界【Paradiso】の非情な現実に向き合おうとする……今頃…まだ俺達が見た事のない誰かの手によって。…この町の騒ぎを鎮圧しようと介入してる頃だろうな」

「………」

コツン………コツン………

【Veno・nix】の発言に【Bran】は少しばかり興味深そうに先程目の前にいる男と同じように一歩、更に一歩と足を踏み込む。

「…ふぅ〜ん。……で?…一体誰がこの小火騒ぎ収め。……あの頃の散っちまった景気の終わりみてえに、捨て去られた和の町に何の価値を…」




まだ終わってないゾオット!!!

「…!!」

「………」

【Veno・nix】は言葉を発し強く制止させる。

「………一体何を諦めている?…《腰抜け》」

「…あ?」

ザザ………

「……《腰抜け》?…だと?」(ギロッ!!)

相手の挑発に乗った【Bran】は眼光を険しくして睨みつける。

「……そうだろうが。腰抜け。………ここを居城とし、強がりをかましているお前達の企みとなるこの居城…《世原城》。……この目が指し示しているように例え、視野を狭まめ。…慢心して見上げている、この【Kagoya】の町には今。……」



奮闘する者達─────炎のように煌めきを放つ闘いし者達が自分達の《志》を込め、牙を向けられている声が…俺には聞こえるんだゾおっと!!─────





・・・

〜【Kagoya】・地上〜

ザシュッ!!

ジャキン!!

「ぐぅ!!……っ!!」

バタリっ!!

「キュ!!…キュウサク隊長!!」
 
「お…!おのれ!!……一体何処から斬撃が…!?」

ジャキンン!!

ガラグラグラグラ……ガシャーーン!!!!

「!!」

「た、退避をォォーーッッ!!」

キィーーン!!

「!!」「!?」

バサバサバサ〜………

「………」

チャキリッ!!

…リィーーン♪【冥鐘】

「!!…め、【冥鐘】!?……」

「い、一体…?」

「………」

ガシッ!!

「!!…キュ、キュウサク隊長!?」

「な…何者!?」

バサバサバサ〜……

「…この場は受け持つでござる。……【狼志組】の志士達よ。…………このキュウサク隊長は責任を持ち、速やかに町医者の元へと運ぶのでござるよ。……拙者に任せ、早急に【Kagoya】の町の人々の退避を速やかに済ますでござる」

「……!!」(この声………この独特な口調……!!)

「……!!」(拙…者。……!?…まさか。………!!)

ハハッ!!!!

ダダダダダダ…………

「………」

コツン…コツン……

「……っ。……コキョウ…兄…さん…」

ポツ…ポツ……

ザザーーー………

「……雨でござるか。……しっかりするのでござる。…キュウ…」




──────我が弟よ

コツン…コツン……

・・・



ザザーーーッ!!!!

プスプスプス………

「…!!」(ど、どうなってんだい!?…全てを燃やし尽くす筈の私の救済の火が………こんなしょぼい雨なんかに打たれて…消えてく……!!)

ボアアアアアア!!!!

………プスプスプス……

「!!……チィっ!!…それに……急に…身体が…鉛のように重たくなって………っ!!…あの時…私をバカにする、ような…うざったい《雨》!!…あの散らつく鬱陶しい桜の…ように!!…くそっ!!ムカつく!!……一体……!!」



!!!…ああああぁぁぁーーーー!!!!!

・・・

ジャキリッ……!!

「さて…切り捨てられる覚悟は出来たか?…アキル!!…覚悟しやがれ!!ヤエカさんやナガワさんのみならず……リーネをここまで甚振(いたぶ)ってくれた事を…必ず後悔させてやる!!」(チャキッ!!)

「私も。……貴様がつけたそのリーネさんの痛々しい傷を見て、女として負けられなくなったようだ!!…アキル!!……覚悟はいいか!?ハクローと私が…!!リーネさんを痛めつけた分まで…《悪党》である貴様を確実に粛清して成敗する!!」(チャキッ!!)

リィーーン【冥鐘】♪…リィーーン【冥鐘】♪

「ヒャァ〜〜ハハハハハ!!こりゃあおもしれぇわ!!マジで傑作だぜぇぇ〜!!!…わざわざ副長の口車に乗って死ににくるバカ二人がいるとはよぉ〜!!!ゲハハハ〜♪!!!!…んじゃま〜……望み通り…この俺様に楯突いたあのカス隊長共が行っちまったあの世へ一緒に送り届けてやるよ〜!!…さぁ〜!!血祭りの時間だぜ〜!!ヒャハハハハハ!!!アーッハハハハハハハハ!!!!!」





〜その頃【河原木亭】〜

「……っ!!」(一体、何が…!?…ヤクビシさんは…何処へ…!?)

タッタッタ!!!

ガララララ!!!!

「セノはん!!」

「っ!?……ケイトさん。…どうかされましたか?」

「それがな。…!!大変なんや!!…さっきまで寝てた筈の…アリアはんの姿が…!!…いつの間にか…」



どこにもおらんのやぁぁ〜!!!!





〜【世原城】〜

「……」

グキ…ゴキ…

「…減らず口はそれくらいかぁ〜?…ああ〜んん??…クソッタレ?」

…コツン…コツン……

「……来いよ。……今まで盛ってくれた《毒》の分。…キッチリと耳揃えて償ってもらうゾオッと!!……正々堂々となぁ!!!」

クルン!!

クルン!!

ブォン!!!



バキャァァッ!!!!



《【Varisk】所属Aランク》

《【Bran】》



お互いの拳は頬を減り込ませる。振り向き側に放たれた両者の攻撃は、あたかも西部開拓時代のガンマンを連想するフレーズに見立て、背後から互いの拳を振り翳される。背後を取り、正々堂々と拳を交わす事を選んだ男の目は、これまで《毒拳》を使用して強者を蹴落としてきた者であったが、彼自身にも譲れない色褪せぬ時代の名残りと《ビジョン》があるからか、揺るぎのない意志を選んだ。もう後戻りは出来ない。両者が向かい合っている目の舞台裏で奮起し、まだ見ぬ明日を目指す者達の背中を預けながら、いよいよ二人の闘いは始まった──────






   
B. いいえ


《Capitolo・12》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜龍が如く0より・With Vengeance

「オラァ!!」

「…ふん!!!」

ドゴ!!

バキャッ!!!

両者の怒号の如く繰り出される体術のオンパレード。─────【Veno・nix】はシラット体術。相手の【Bran】は両腕を肩の高さより上にし、片足を腰の高さまで上げる、戦闘スタイルで敵対する。

グググ……

「………」

「…へぇ〜♪…」(受け止めやがった…)

ドゴッ!!

「……」

「……」

ザザっ……

「…浅い拳だな」

「わざとだっての〜…クソッタレ〜♪ガハハ!…んなにすぐくたばっちゃあとなったら、張り合いないだろうがよぉ〜♪…」

「………」

【Veno・nix】は相手の体術を見定めている様子だ。相手の出所を探るうちに、まだ何かを隠している様子だった。

「…余裕を構えているのなら、さっさと来い。…全力でな」

ゴゴゴゴゴゴゴ……

「…!!…おぉ〜…怖いねえ〜♪……ではお言葉に甘えて。…なぁ〜!」

グィッ!!

【Bran】は片足を上げた。それと同時に両腕を肩で固めつつ、上へと挙げ構える戦闘スタイルに変更する。

「……ムエタイスタイルか?」

「おうよ!!…カハハ!!よく知ってるじゃあねえか〜?……バブルの時代、異種格闘技の世界で《天下》取る為にと、鍛えに鍛え込んだ俺自慢の戦闘スタイルだぜ〜!!」

ブォン!!

ガシッ!!…グググ…!!ギリギリギリ!!

「…っ!!」(!!重い。………この…力は…!?)

【Bran】の繰り出された蹴りの威力は、現世の世界においても、トップクラスのK-1選手の繰り出す怒涛のラッシュと引けを取らない程に洗練された威力ある技が繰り出される。相手自身の放った発言に対し、相違はないと【Veno・nix】は理解した。

「…ほんで。…テメエの体術はシラットかぁ〜?……ケハハ!!…警察や軍隊とかが使用する、体術ってのはご利口なこったが、格闘技の世界では、結局守りに程するだけだぜぇ〜♪」

グググ…

【Bran】の放った蹴りはジワジワと、ガードした状態の【Veno・nix】を追い詰めていく。それでも彼自身の心情は、《腑に落ちない》感情を曝け出している様子だった。

「……何故《毒拳》とかいう邪道へと走った?」(キッ!!)

「…あぁん?」

「答えろ!!」(クワッ!!)

未だ明かされない目を黒帯で覆い、相手に問いかける【Veno・nix】。その目は【Padma】(パドマ)という、神秘なる心の力の一種でもあるスピリチュアルの分野によって、応急処置程度に相手の姿を表し見通せている。彼自身の心にあるのは、このような体術の心得があるのにも関わらず、何故《毒殺》の道へと走ってしまったのか、というやるせない感情を相手から読み取ろうとしていた。

「……んなもん、分かりきってんだろ〜?…《毒》に侵され、苦しそうにしてる奴らの顔を見てるとスカ〜ッ!とするだけ…だ!!」(ケラケラ!)

「…嘘だな」

ガシッ!!

「!?…んうぉ…!?」

「…ふん!!」

ブォン!!

ゲシィッ!!!

「ぐぉお!!」

「…はぁああっ!!」

ブォン!!

ドタァーーン!!!!!

「ぐあぁっ…!!!」

「………」

【Veno・nix】は、防いでいた【Bran】の足を強引に掴み上げ、身体を捻り、その拍子に勢いついた蹴りを頭部に喰らわせ、首を絞めたまま、背後へとバックドロップする形で応戦する。

グググ…

「…たくよ〜…結構身体、柔けえ〜じゃねえかよぉ〜?…ああ〜ん?」

「……異種格闘技と、逮捕術を指南とするシラット及び、柔道の亜種技。……どちらが立ち回りが良いのかは明白だろう?…ましてやムエタイを基準とするキックボクシングの世界では。…体術の中でもトップクラスのようだが。…貴様の腕では。…年期と練度がまるで足りていない」

グググ……

「…ほぉ〜…やけにクールな鉄仮面から、ちょっとはマシな面になったじゃあねえかよ〜、クソッタレ!」(キッ!)

グッ!!

「………!」(ボクシングスタイルに切り替えた…?)

【Bran】はならばと言わんばかりに、ムエタイスタイルからボクシングスタイルへと切り替える。

「…おら、ジタバタしてんじゃあねえぜ。……来ねえのなら。……こっちから行くぜぇ〜!!」

ダダダ……!!

「……」(踏み込みが甘い!!)

ブンっ!!

「……へへっ…!!」

ブォオオン!!!!!…………






パァーーンンン!!!!!!

「!!………」(か……カウンター……?)

ドンンシャァララアアアンンン!!!!!

「…………っ!」

カンカンカーーン!!!!!!

「……なかなかやるじゃあねえかよ〜…ええ、刑事被れ〜♪…ちと、惜しかったなぁ〜♪」

【Bran】は余裕そうに立ち尽くしていた。無慈悲にも地べたへと這いつくばっていたのは──────【Veno・nix】の方であった。



【Veno・nix】Eランク
【♡♡♡♡♡】
ーーー

「……」(…馬鹿な。……これは、ダブ……ル……)

コツンコツン…

「…へへっ!…有名な《明日へのその1》…涙ながらも次に夢見るガキ達へ明日の架け橋を明け渡すが如し、有名な技♪…互いの拳を交差させ、熱く互いの頬へ、拳と拳を叩き込み、観客を魅了しリング内にゴングが鳴り響き、血肉湧き上がるバブルの時代をまるで産声が盛り上げた、必殺の《ダブル・クロスカウンター》♪…けへへっ!」

ザッザ……

「………」

【Veno・nix】はダウンを取られる。その光景を【Bran】は、まるで現世にある巨匠漫画家が生み出した、団塊の世代にて奮闘する者達にエールをとボクシング漫画に登場する、一人の男とのリングでの決着を希望し、自らの命を削り、燃え尽きる覚悟をと水は飲めず、飯も食らい尽くす事の出来ない過酷な環境下で拳を鍛え、無理な身体の体重減量も承知の上で相手との《決着》を望んだ偉大なる男の生き様が【Pran】自身にも影響があったのか、その面影を反映させていた。

グググ……

「……っ…」(……う…動けん…)

「…へへっ!…毒に頼らずとも、俺の拳ってのは、マトモに受けちまえば、《毒》盛られる事以上にしんどいんだぜぇ〜♪……もう立つ事すら出来ねえ〜♪……だからよぉ〜……ジタバタせず……」

ザッザッザ……スタッ!!

【Bran】は【Veno・nix】の至近距離の範囲にまで迫り来る。彼自身の更に持つ強みは、本気で繰り出された拳は、プレス機と同等の衝撃を味わう事となる。現にこれまでも彼自身【Varisk】に所属し、任務として腕の立つ者達を拳で殺め、《闇》に葬ってきた者達は数と知れない。無論《ユートピア人》と【現世人】といった種族の境も例外とせず、男女平等にその行いに手を染め上げてきた。その証拠を彼自身の持つ異様な──────

《毒拳》が示しているように──────



ブォン!!!

【Veno・nix】の息の根を止めようとせんばかりに【Bran】は躊躇なく速やかに拳を振り下ろす。





キィィオオォォーーーン!!!!!

「…!?」(…なぁっ…!?)

「……?」

キラキラキラキラ……………

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜ENDER LILIESより〜Rosary - Intro

《〜十〜》

【Bran】の拳は、ある壁のようなもので防がれる。その光景を目にすると、《十字架》の刻印が刻まれた、盾の幻影が出現していた。

グググ……!!

パキィーーン!!!!!

キラキラキラ…………

「…!?……お、俺の…う…腕……?」(こ、壊れちまった……だと…?)





ヒィーーン………

「…そう…か。……そういうコトかよ。………へへっ……!」(おいおい。……まるでタオル投げみてえだぁ〜なぁ〜…そりゃあ反則じゃあねえのかよぉ〜♪………ちと、懐かしいじゃあねえかよぉ〜…………)

「………」

スクッ……

【Bran】の拳は破壊された。それと同時に身体の一部を浄化させて消失させた、目の前に光る盾。その存在に対し、神々しい眩い光を見つめつつ呆気に取られていた。ただ、その瞳に宿した彼の表情は、何処か昔の旧友と久しく会った事のように──────

安らいでいた─────

「……!」

ガシッ!!!

グォーーンンッッ!!

「うぉ……!!……っ…へへっ……」(やっべええ〜…身体が、見事に宙舞ってんなぁ〜……ええ〜?…クソッタレ〜……)

「………」(この盾。……そうか、アンタがアリアに託していたんだな。…《平和願いしロザリオ》。…《5年前》。…救済の術を習おうと、ベアのいる【R・P】社に所属する者が。…いつの日にか【Olfes】の街を訪れ、自らの持つ癒しの【Fiducia】の力を誰かの為にと願い。見事その術を体得し、現救済長であるアンタが渡した、このロザリオ。……アリア。…あの時。…俺の懐に入れていたのか。……)



《もしも、俺に何かあった時にと。……!!!》

ブォンンッッ!!!

「…………」

……へへ。……【Fiducia】とかじゃあない、……どんなにチートみてえなイカサマの力に頼ってもよ〜。…《神》は見てんのか。……やっぱぁ〜…こうなんのかよ。…

・・・

〜【Bran】の追憶〜

コツン……コツン……

『あ〜っ、コラ、ブラー!』

『?…あぁ〜ん?…何だぁ〜メスガキ〜?』

『誰がよ!?…そうじゃあないの〜!!…ほ〜らぁ〜!いい加減、そのロザリオを返しなさぁ〜い!!』(プンプン!!)

『ケッ!!やなこった〜!…ったく、こんなもぉ〜ん!』(俺、オーバースロー。……振りかぶって〜)

ガツン!!

『ゲフゥッ!!』

『ったく、何してんじゃん!?…イイ歳の取り方しといて、《大人気》ないのなんのって〜じゃんよ〜♪…』

ジャララ……

『ワーイ!…ありがと〜♪ネル〜!』

『良いって事じゃん♪何なら俺っちの事、惚れ直してくれたじゃん〜?』

『いやよ、気持ち悪い』

『(・ー・)』(釣れないじゃ〜ん)

『いてて!…ったく、おいコラ、ネル。…師匠の俺に対して、げんこつったあ〜何つう攻撃だぁよぉ〜…ええ、クソッタレ〜?』

『師匠って、…アンタさん先公(センコウ)気取りのつもりじゃ〜ん?…勝手に俺っちを教え子と決め付けんなじゃんよ〜?』

『あぁ〜ん?…いつぞやの戦場で、お前に拳や爆撃の術を教えたのは、どこの誰だったんだ〜?…えぇ〜?恩義を忘れちまったか〜?』

『遠い遠い昔の話じゃん♪…《卒業》したら、もうその関係は成り立たんのじゃ〜ん♪…てんめえのケツはてめえで拭く。……ただひたすらに、それだけじゃんよ〜?』

ジィ〜……

『…え?……ちょっと、ネル。…何でそこで私の方を見るの?』

『………』

『ねえったらぁ〜!』

『…ま、リシア嬢ちゃん。……そういう事じゃんよ。……もう無理して、この《世界》に足を運ばなくても良いじゃんよ〜』

『!!……っ…』

『…ん?…何だぁ〜ネル?…そいつがどうかしたのかよぉ〜?』

『………』

『…なんでもないじゃんよ〜、なあリシア嬢ちゃん♪………?』

ジャララ………

《十》

『…余計な心配しないでよ。…あなた達に言われなくても、分かってるわよ。…私、後には引けないから』

『…そうかじゃん♪』

『…ケッ!』

スタッ!スタッ!

『…?お〜い、ブラ〜?』

『師匠と呼べや!…クソガキ!!』

『……あ〜…ったく、キレ症は卒業出来てねえジャン♪』

『うっせ!!』

『ちょっと、二人共!…ケンカはそこまでにしなさい!…分かってるでしょ?もうここは、既にギルドとは無縁の世界。……一度入ってしまえば、オセロ盤は四方八方に。…八方塞がりに端取りされ、《裏ノ黒》から《表ノ白》へ還す事なんか、決して出来ない深淵の闇……』

《暗部》の世界の入り口なんだから─────

・・・
・・



〜歳月が経過ス〜

バサバサバサ………

『あぁ〜ん?…リシアが失踪しただと?』

『どうなってんじゃん!?……あの時、因縁ある悪名高い支部長さんから奪還した筈じゃんよ!?』

ザザ……ザザ〜………

タッタッタ!!!

『ブランさん!!ネルソンさん!!…大変です!!』

『!!』

『どうしたじゃん!?』

『……じ、実は。……』

ジャラララ…………

《十》

『!?…おい、クソッタレ〜。……そいつぁ〜よぉ〜?』

『リシア嬢ちゃんが普段付けてた、ロザリオじゃん!!』

ヒラヒラヒラ………

『…?…んだ〜…?…コイツァ〜?』

ペラッ!

コヨイ──────《ステルベン》ノレンサ─────《ボックス》ハカイコウサレタ───────コレヨリ《クロス》ノエンブレムニニキザマレシチギリノクサビハスエノダイマデ──────タイザイオカシモノヲコノ《デンポウ》ニテシメスモノトス───────カツテ《ウツシヨ》ノワノクニニテオコリシカクコクトノセカイトウソウ───────シラセシ《フホウ》ヲヨブモノトシテ──────────────

《メイカイ》スベシメイフシン──────ワレ《ハーデス》ノナニモトヅキ───────コレヨリ《シュウエン》ヲモタラストキキザミトス───────ナオモアラガイ《キュウサイ》モトムナラ───────ワガツマメイカイシン《ペルセポネ》ノソヨウモツセイレンナル《ミコ》キズキアゲ───────《パラディソ》ノリソウトスルシンナル《ヨミ》ノスガタ───────

─────リソウキョウナル《ヘヴン》───────《エリュシオン》ヘト───────《メイド》タドリシチョウテンナルイタダキヲタドレ───────サスレバスベテハモトニモドル───────ドンナテヲツカッテデモ───────ドンナギセイヲハラッタトシテデモ──────コレヲ《タイカ》トセントシムクワレル《ケッカ》ヲツカミタイノナラバヒジョウナル《ウンメイ》ニアラガッテミセヨ───────イダイナル《シ》トムキアイ《ソウラン》ト《ドウラン》ノヨ──────《パラディソ》ニウミオトサレチョウエツシタニンゲンノカタチナス《ソウル》モツモノ───────

エラバレシ《ウツシヨビト》ノモノ───────

《ヒカリ》《ヤミ》ヘノ《クロスロード》───────ブンキロヲドウタドルカハエラバレシキコウジシンミズカラガ───────

スキニエラブガイイ──────

・・・

『?……怪文書ってやつ。…じゃん?……!!……リシア嬢。…まさか、しくじった…じゃん…』

『……エリュ……シオン…』

『…?…おい、ブラ?…』

『……そういう事かよぉ〜…ククク…』

『…!!』

『あ〜ははは!!!……なるほどなぁ〜!!…だからこの國は。…【Paradiso】って名前なのかよぉ〜!!!!』

ゲラゲラゲラ!!!

『!?……ブラお前。…一体何言ってんじゃん…?』

『…ケハハハハ!!…こうなっちまったら話は早え。……そろそろ俺も出るとこ出ないといけねえなぁ〜!!…このせんめえ〜楔巻き付いた《檻》ん中からよぉ〜!!』

バタンッッ!!!

『!!お、おい!!待つじゃん!!ブラ!!……一体……』

どうしちまったんじゃ〜ん!!???

・・・

ドクン…ドクン…

『…クソッタレ!!…あぁ〜、まだまだ力足りねえなぁ〜…クソッタレぇ〜…』

ザッザッザ……

『…ここにいたか。…虫ケラ?』

『あぁ〜んん?…誰が虫ケラだぁ〜?…《マキラス》。…首尾はどうだったよ〜?』

『…あの通りだ。…不良品たるFランク以外の現世人は、あの肉塊の臓物の蓄えとし。…現世女は、あの場所へと隔離した』

ドクンドクン!

『…ったく、どんなにユートピア人と現世人の魂と肉体を人体錬成して…人工的に。…ああ、まるで現世にあった中世ヨーロッパにあった、《錬金術師》が金や富やらだとか、病気の治療を兼ねた研究で、延長線上先にある《不老不死》を目的として生成しようとしてたっつう、まあ結局は伝説上。…オカルトじみた哲学者共の結晶石《賢者の石》的なものを、あの肉塊ミンチ共で擬似的に作ろうにしちゃあ。……未だあの程度くらいにしか集まらねえもんなのか〜?……これじゃあ俺達も《進化》の指針が見えねえようだなぁ〜クソッタレ!!』

ペラッ!

『…完全なるユートピア人量産化計画。…【現世人】とユートピア人との《人種差別》の問題を全て解決する為。…救済措置として各ユートピア創造士隊の支部長が秘密裏に支持している政策。……我々【Varisk】の協力無くしては成し遂げられない一代プロジェクトだ…』

『ったく、碌な事考えねえもんだぜぇ〜…その為だとかで、選別を目的に、この眼にはその素養がある奴らを選別する能力を身につけさせられては。……まあ俺は【Fiducia】だとかは発現しなかったし、ホークアイだとか探索系統の能力を持ってる訳でもねえ。……結局は、アレの恩恵からか現世の漫画話《七龍》に出てくる、野菜民族が装備してやがる戦闘力を計測する力だけは、なんとか身に付いたみてえではあるがなぁ〜……』

ドクン……ドクン…

『……所詮は期待外れという事だ。…身の程をしれ、虫ケラ』

『…けっ。…それが、元騎士ギルド所属の《Aランク》様の口ぶりか〜?…今じゃあただのチンピラじゃあねえか…よ』

チャキリッ!!

『おぉっと……ぉ〜……お?』

ピィーーン……

『無駄話はそこまでにしなさい、ブラン。……格上相手に対する礼儀を知らず。…減らず口も治らないようであれば、容赦無くここで口を刎ね飛ばせて頂きます』

『!?……ジィール。……テメエ。……』

『遅いぞ、ジィール。…今まで何をしていた?』

チャキリッ……

『ご心配をおかけしました。…我が主人…マキラス様。…たった今、生き生きとしたユートピア人の首を跳ね飛ばし。…あの場所へ運び、【創造派】の者達へ献上を行った次第です。……ある【現世人】との遭遇で、少しばかり時間を取らせてしまいましたが……』

『…!!』(…マキラス…様…!?…主…だと…?)

『…そうか。…次しくじれば』

『自害します。…【Varisk】の【Capo】及び、あなた様へ忠誠を誓った身とあらば、この命。…軽く見られるのはこの上ない恥でありましょう……』

『…自らの醜態を解ってるならいい。…下がれ』

『ハッ!』

シュン!

『!!……っ!』(…この野郎……いつの間に、手駒にしやがったぁ…!!!)

ギリギリ……

『…以前から、成り行き《相棒》としてでの関係にあったようだが。…お前のような虫ケラには所詮、過ぎた玩具にしか過ぎん。…あの辻斬りの素養ある、惨殺せし剣の人生は。…俺が決める事が正しい。……それしか考えられん。……覚えておけ。……俺自身が率い。…導く【Varisk】こそ完全なる姿……あの《方》が理想とする世界を《創造》する為。…騒乱の世界に相応しく《世を改める》。………これからも幾万もの虐殺の剣を振るうとな。……覚えておけ。…格下の《腰抜け風情》が…』

ザッザッザ………



『………っ!!』

ガァン!!!

ピキピキピキ………

『…何が【Varisk】の未来の為だ…?……アイツの未来こそが、お前の為にあるだ……?……んな事ぁ、一体、誰が決めやがった……?……!!テメエの都合だけのワンマンルールで、俺から何もかも奪いやがっただけだろうがぁよぉぉ〜!!!!!!』

ガァァーーン!!!!!

ドクン…ドクン……!!

『…!!…あの臓物の塊になり果て。…恩恵として能力が増えていく。………人の人生ってのは、そんなに軽んじてるもんなのかよ…?…あの激動のバブル時代を生き抜いた影のアイツらが……陽の光を浴びる事もなく、どれだけの血を流してきたと思ってんだぁ!!!???………っ!!!』




クソッタレがぁーーーー!!!!!!

ドゴォォーーン!!!!!





〜時は流れ【G島】【Olfes】の街中・路地〜

ザッザッザ………

『……っ…!クソッタレぁ!!…っ!!…。ハァ…ハァ……』(……思った以上洗練されてんのか、あの【現世人】の妙な斬撃。……【Fiducia】が厄介過ぎて返り討ちにあっちまったぜぇぇ〜〜………リシアがまだ生きていりゃあ、こんな傷。…屁でもなかったんだがなぁ〜〜………なかなか治んねえな〜クソッタレ!!)

………

ザッザッザ………スタッ…

『……そこの《迷える仔羊》。…どうかされましたか?』

『?……あん?…誰だテメエ?』

スッ…!

『?…あら?…お怪我をされていますね。…少々お待ちください』

ス…ッ…ガラガラガラ……

『…?』(シスターか、コイツァ〜……)

『…少しばかり、傷みますよ』

チクッ!!

『痛っ!!…何しやがぁんだぁ〜テメエ!!??』

『無闇に動くと、余分な毒が回りますよ…?』

『……は?……《毒》…だと…?』

『ご安心なさいませ。…毒と言っても《治療毒》です。…はい、終わりましたよ。…腕を振るって御覧なさいませ』

『……ちっ!』(一体、なんだぁ〜…コイツァ〜?)

クルクル………

『!!……』(か、軽いじゃあねえか〜!?…羽毛布団…みてえに)

『あらあら、すぐに、この毒に馴染んでしまうとは。……あなたには見所があるようですね…』(クスクス!)

『…おいコラ、テメエ。…ただのシスターじゃあねえようだなぁ〜?……一体何もんだぁ〜?』

『……大したものではありませんよ。…《毒を持って毒を制す》というお言葉事がお好きな。……真なる救済の道を探求する者。…そう呼ばせて頂きましょうか…』

『?…は?』

『ついてきて下さいませ。…私なりの救済活動のお姿とやらをお見せしましょう……』

スタッ…ザッザッザ………

『………』

タッタッタ……





コツン…コツン……

『…着きましたよ』

『?……地下の礼拝堂か…?』

コクリッ…!

『…ここは、私が請け負っている、世間から。…この【Paradiso】の世界から見放され。……蔑ろにされた者達の行き着いた先の場所です』

『…どういう事だ?』

『前方をよくご覧になって下さいませ』

『?………!!…お、おい……コイツァ〜……』

!!…ゲホっ!!ゲホォッ!!

お……おかあ……さん……どこ。……目が見え……ない………

お…お腹がいたぁい……!!痛ぁい!!!!

ジタバタ!!ジタバタ!!

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜ENDER LILIESより〜Rosary - Outro

『!?……こりゃあ、まさか…』

『お気づきの事でしょう?……この多くの子達は。…《戦争孤児》。…各島の国々にて起こった争いに敗れ。…敗戦の際に、敵国の者達に生け取りにされ。…無法な《人体実験》を受けた事により。………猛毒を患っているのですよ。……生を受け。…生まれてから今もずっと消える事も…解毒不可能な《毒》に身体を蝕まれ。……苦しみながら歳を取り続ける事もなく、永遠に穢れた烙印へ身を任せる事しかない。……その行く末で併発した者達の。……末路なる病』

『…!!……《ヒュドラノ毒》』

『ご名答。…かつて、この【Paradiso】の世界において、ユートピア人に対する不死の研究を施そうと、各医学会の者…名のある《名医》ならびに《検死官》といった幅広い医療の知識を持つ者を集結させ、人類の救済を図ろうと考えました。ですが、それはブラック《匣(ボックス)》…《パンドラの匣》を開けるようなものでした。結果的に、被験者に対し施され蔓延した《死》の概念は確かに無くされました。………ところがです。……生を受け、少しばかりの成長は期待は見込まれるも、老いる事なく、自我なく汚物を撒き散らし、身体は現世でいう《末期癌》ならびに重度の《認知症》《精神病》を患いし者の如く、自我を持たずして《死の概念》を持たない。……永遠なる苦しみを与えゆく。…いわば《不死病》。…その者達の保護区が。…こちらの地下なのですよ』

ジタバタジタバタ!!!

く、苦しい!!…っ!!

ポイっ!!

『!!っ!!…クソ!!』(サッ!)(この野郎…糞便を俺に…目掛けて……っ!!)

ガシッ!!!

『!?…』

『もう…もう嫌だ!!…!!嫌だぁ!!!ここから出して!!!!家に帰し……て…?…家…?……家って…何……?』

『!!……っ!!』

ジタバタしてんじゃあねえ!!!!

バキャッ!!!!

メリリ……!!!

『ゴハぁっ!!!!』

『…!!……どうだぁ…?…何が不治病だぁ〜?……こんな奴ぁ。……殴り殺しゃあ、なんてねえだろうがぁよ〜〜??』

『無駄ですよ。……』

『?…あぁ〜ん?……!?……あ?』

ムクリッ!

ドクンドクン!!

『く、苦しい!!…何で死な……ないんだ!!??…身体が貫かれてるのに……動く。…息も出来る……』

ざわ…ざわ………

『お……おいおい……こりゃあ……何で……だよ…!!まるでゾンビじゃあねえかよぉ〜!!??』

『言ったでしょう。……これが、生を受けた者の救済を、これまでもかと施しました成れの果て。…世の中は、落ちぶれた者に手を差し伸べれば差し出す程、次なる者がその者達の手を汚させ…足を引っ張ってゆくエゴイズムな世を創り出してしまう。……それでは、創造ある世界をもたらす事は出来ず阻害され、…いずれは破綻する世を創り出してしまう事でしょう。だからこそ、私が望む事。…この子達は一度何かの犠牲によって《不純物》となる種を全て取り除き。…リサイクルさせる事……人類再生を起こす礎となる他ありません』

『…!?』(こ、この女…この狂った言動…。本当にシスター…なのか…?)

『所詮人は汚い動物です。自らの身の潔白を保つ為ならばなんでもします。自然を破壊してまでも。……罪を隠蔽し。…清算しきる事の出来ない大罪を犯し。新たなる兵器の開発によって《武力》を得ようとされたりと。……醜い欲に信仰心に肖り、どんな犠牲を払っても選別して、優良なる人を育成し。…将来的に、誰もが苦しむ事のない、幸福なる文化と文明を築き上げる。…それこそ、真なる《神》が与えし《救済》を願う者の理想なる一歩なる歩みなのです』

『……っ!』(…たく、どこぞの《カルト教祖》の言葉みてえだなぁ〜………クソッタレがぁ!!)

ドクンドクン!!!

『…!!…』(お、俺の腕が…?)

『おや?…早くも、《因果は巡る》というお言葉がありますように、あなた自身が体得したかった、願いと希望ある《力》が目覚めつつあるようですね…』

『っ!?……どういうこった?』

『…来ますよ?』

ダダダ!!!

『…!?』

『帰らせて…!!帰らせろぉぉぉ!!!!!』

『……だから。……!!ジタバタするんじゃあねえ!!!!!』

メキィッ!!!!!

『ゲファっ!!!!……っ!!!』

パァーーン!!!!!

『!?……』(今度は…身体が…風船のように吹き飛んで……破裂した…だと…?)

『お見事ですね。…その力。…《救済》せし完全なる世界を。…今までにない。…新たなる世界を《創造》する為に…必須となる力を体得なされたようですね。……【Varisk】所属の【Bran】(ブラン)さん』

『!?……おい、何故俺を知ってる。…腐れ外道シスター?』

『……お言葉が下劣なようですが、教えを講じて差し上げましょう。……私はなんでも知っております。…《救済者》なる者が、傍若無人なる自由を求める者達によって亡き者とされ、理想なる救済されし世界。……この者達が救われる筈だった未来を抹消し。…ならびに歯車を狂わせ。…神に対する叛逆を企てた愚者の者達。……その者達をこの世から追放し。…理想なる【Paradiso】の國の姿へと導こうと進化せし者…』

『その口ぶり…アンタ、【現世人】なんだろ?…ま、俺も同じなんだが…【導き人】さんに感謝しない言葉は、それ失礼なんかじゃあないのかってん……』

ジャキン!!!

ポタ……ポタ……

『!?…』(見えない…斬撃…だと…?)

『…私の前で。…その《下衆な種族》の名を口にしないでくれますか?……あの者達こそ、この世界の《諸悪の根源》。……居てはいけなかった。…この負の遺産溢れる世界を創り出した。……!!ただそれだけにあらず!』

ギョロぉっ!!!

『…!!』(この女の目……だんだん蛇みてえに、険しく……)

ザッ。……

『…心からのご推察通り。…私は、この世の嘘を観てしまいました。…毒術を学び。…毒を制す身体となった、今となっては。…かつて現世での蛇神…先程おっしゃられた、この患者達の名にある、ギリシャ神話の《ヒュドラ》…ならびにその親とされる《エキドナ》…インド神話の《ナーガ》……それらを統括し、《死と再生》をもたらす役目を担った。……例え、導きし神の主君が居なくなろうとも、信仰心あらば、再び神として、この始まりも…終わりなき永遠なる幸福に満たされし世界をもたらさんとす、この民衆の願いを込められた……』

『我、《ウロボロス》の化身…【Mireisia】(ミレイシア)。……完全なる神…《救済派》の終焉せし世界を救済の手を差し伸べる者達【Demister】の降臨を…快く願う者!!』

ジャラララ………

《十》

『……救済……派……?【Demister】……?』

『…【Varisk】【Bran】。…私はあなたを救済者の《一派》として迎えに来ました。……この穢れに満ちた者達を救済する為には、あなたの力が必要なのです。…現に目覚めてしまったのでしょう?……その、数々のユートピア人の者達を犠牲にして得た、《闇に染まった》穢れの力を…?』

『…!?』

だ、出して……ここから出してぇ〜!!!

死ねない、…死ねない!!!…!!苦しいのに。…!!死ねない!!!

痛い!!…!!痛ぁい!!痛ぁい!!!!!!!

息が出来ないのに…何故身体が動いて…口が開けるんだぁ〜!!??

『………っ!!』



クソッタレがぁーーーー!!!!!!

ダダダダダ!!!!!

・・・

『…ハァ…ハァ…!!手こずらせやがって。……クソッタレがぁ……』

ドクン…ドクン……

『………っ!』(っち…腕が疼いて来やがるぜ……)

パチパチパチパチ!!!

『!?……』

『…おめでとうございます。…あなた自身の持つ《救済》の在り方。……見事見定めさせて頂きました。……ふふっ。……その腕。…よくご覧になってみなさい』

『…?……!?』

ドク…ドク………

『…!?』(…毒拳…ってやつか?…こりゃあ…)

『…ウフフ。…素晴らしき神から授けられました腕。…あなたなら。…きっと…』

バッ!!

『…一体何のつもりだ〜?……外道シスター?』

『…ブラン。…これからあなたには【Varisk】の救済一派の者として。…一人《死神》の異名を持つ者をお呼びしました。……出てきなさい』

コツン…コツン……

『……』

『…!?…お。……お前は。……【狼志組】二番隊…隊長の!?』

『いえ、彼はあなた自身の所属する【Varisk】にて。…リーダー【Capo】の命にて暗躍活動を行っております。…正真正銘の辻斬りなる存在。……名を 【Hadn・tuLs】(ハーデ・トュルス)。…《死神》の名を語り、そう名付け呼ばれる存在の者です』

『…!!…なるほど。……概ねその《形(なり)》。……微力ながらもあの実験は秘密裏で成功してたっつう事か。……《人体錬成》でそいつのコピー作れるくらいにまで…』

『………』

『…《死神》。…彼と行動を共にしなさい。…あなたのマスター。…【Capo】もそれを望んでおります』

『………』

コツン…コツン……

『……あん?』

『…一緒に来い。……そろそろ。…本格的な《國盗り》が行われる』

『………』

『……安心しろ。…貴様は殺さない。…いや。…【Capo】の命令で、今は殺せない身だ』

『…【Capo】の命令がねえと、何にも出来ねえ《木偶の坊》か?…テメエ』

『【Capo】からの指令だ。…お前にはこれから、元バディーだった男【Zeal】と俺。…お前と三人で行動せよ。…そう告げていた』

『…!?…どういう風の吹き回しだぁ〜?』

『【Varisk】所属Aランク。…【Makiras】は、これから【E島】【Velkana】の領主【Dail】に仕え。…従順なる奴隷メイドの管理・育成の促進の為とするボディーガードの役目を務める事になった。……表向きは、そう位置付けている』

『…?…表向き?…裏があるってのか…?』

『その場所こそ。…自由を求めし者集いし集団。…ギルドに所属する【自由派】の者達。…つまり、我々神に仇なす敵の者全てを根絶やしとする事を目的とした。……いわば《狩場》となる場所です』

『…!!』

『俺達は【Velkana】へ向かい。…【Makiras】の動向を探る。…《裏切り》の可能性もあるからな』

『…アイツ自身が、これから主君役になる【Dail】自身を。…殺しかねない可能性もあるからか〜?』

『……』(コクッ!)

『……そうか』

コツン…コツン……

『……納得したか?』

『……勘違いするな。……俺は俺の範囲内で好きにさせてもらうぜ。……《ヒュドラノ毒》が媒介になっちまって。…その結果が。……こんな虫歯みてえな、腐敗した腕にされちまったからなぁ〜…クソッタレ』

ブラブラ〜……

『……』

カランカラン!!

『…!?…』

『…着けろ。……その《メリケンサック》は、特殊にもその蝕んだ毒を吸い上げ。一つの武器として錬成される』

『………』




チャキリッ…

『…彼と行動を共にし。…闘いなさい。…そして、あなたなりの《救済》の在り方というものを。…私に示してご覧なさい』

スッ………

『…!!…』(消えやがった…)

『……行くぞ。……【Capo】の命を請け負った以上。…失敗は』

『即ち、《死》なんだろうがよぉ〜?エセ《死神》さんよ〜?』

『………』(やれやれ…)

コツン…コツン……

・・・
・・





🎼Back Ground Music 》》》



♪〜Mr.Childrenより・HERO〜

「…ったくよぉ〜……」

ポタ……ポタ………

「……はぁ…はぁ……!」

ザッザッザ………

「…負けだ。……完敗だぁ〜、クソッタレぇ〜………あ〜あ。……この俺の《毒拳》で息の根。……ゲホッ。……止めてやろうと、これまで何度も立ち塞がってきた…馬鹿共を殴り殺しにしてきたってのによぉ〜………ここまでか」

「……っ!!」

ガシリッ!!

「………!」(ギリギリギリ……)

「?どうした。………やれよ?」

【Veno・nix】は【Bran】の胸ぐらを掴み、拳を上に挙げる。形相は殺意を剥き出しにしている。相手の表情は頬に心の底から込み上げていた汗を流し、完全に戦意を喪失していた。

ス…ッ

「…闘う意志がないのなら、武力を振り翳しても意味がないゾおっと。……」(…やれやれ)

「…なんだよ?…結局は腰抜けと負け犬染みて怖気づいたかぁぁ〜?」

【Bran】は煽り屋のような言葉を返す。【Veno・nix】は、顔に巻かれた黒い眼帯越しに視線を少しばかり上を見てこう話す。

「もう割り切る所は割り切って。…大人にならないといけないからな。……外見的にも。…内面的にもな」

「!?…あぁんん?」

「…拳を交えて闘ってみて少しばかりだが理解はした。……お前自身が一体、これまでどんな惨めったらしい想いをして、裏舞台で暗躍したのか。……いや、《暗躍しざる》を得なかったという事をな」

「……!」(こ、コノ野郎………)

ガクッ…!

【Bran】は立ちあがろうにも、【Veno・nix】から受けた攻撃によって立ち上がれそうになかった状態にあった。

「……その腕は、お前自身が強さを望んで《痕》を付けた訳じゃあなかったんだろ?……あの時、お前が俺の前に初めて立ち塞がってきたあの日。……微かにもその手の激痛によって顰(しか)めていた表情を垣間見た」

「………」

「…つまりは。…全ての人生に対する《報復》なんだろ?……誰もかしこもと、世間や人間関係といった、積み重ねてきたモノ全てが崩れ去り、憤りを感じて自分からそのまま《孤立》し。……《孤独》を感じて立ち直ろうと、だが結局は心を誤魔化しきれず、物怖じしていただけなんだろ…?」

「…っ!!」(おい…!)

ガン!!

「………」

「テメエに、一体何が理解出来るんだ、クソッタレぇ!!!」

「………」

【Bran】は地面に膝を付け、目を血走らせていた様子だ。彼の眼は何処か切なく、報われたいのに、結局報われない道を辿り《浮浪者》として行き場を失くした世間からは、ただ阻害されし扱いを受けた迫害者のような一人の男が目の前に立っていた。

「今からもう20年も前になるのか。………俺は、かつてバブルの時代。……名が知れた《地下ボクサー》だった。……半グレや極道モンといった墨入れ野郎共を徹底的に殴り殺しにして始末した。……だが、報復として路地裏で蜂の巣だらけにされ、そのまま冴えない【導き人】の野郎によって、この世界へ足を運ばされ。……ま、この通りの有様だ」

「…【Fiducia】は?」

「…んなモン、当時の俺には宿らなかった。…満足に教育体制が整ってすらいなかったのか。……俺自身、向き合おうとしたが、結局どんな努力をしても【Fiducia】って便利なもんは発現する兆候すらなかった。……ま、俺だけじゃあなかったようだがな。……クソッタレぇ……」

「……!」

「《受験戦争》とかみてえに結局、運が良かったんだろうよ〜、テメエだって。……ネルソン…リシア…っ!…結局アイツらだってよぉ〜!!……さぞ大当たりの【導き人】に教えて貰ったんだろうよ〜?……【VIP】にも《特別扱い》受けたんだろうよ?……ええ?」

「……《特別》だと?」

「………」

【Bran】が放った感情込めた言葉から、特定死者から【現世人】へ地位を与え、【Paradiso】の世界に導こうとする【導き人】という存在の中には、当時一部能力の体得を満足にさせなかった者達がいた。そう語られる。無論、彼だけでなく他の【現世人】の者達も一部からず存在した様子だ。

「特別の器ではないお前自身は、自ら闇に身を投じ、得体の知れない能力を得たといった所か。……その《痕》が。……お前の生きた証そのものなのか?」

「……ああ」

「……本当にそうなのか?」

「!」

「この後に及んで…また無様にも、ここで不貞腐れるのか?…………っ!……笑わせるな。……そんな男の生き様は。………認めない。……っ!!…俺はゾォっと!!」

ガシリッ!!!!

「…!?」(こ…こいつ……!!)

相手の投げやりな発言に対し、【Veno・nix】も、また納得出来ない憤りを感じていた様子だ。

「……俺自身も、これと言った《自分》があるわけでは決してなかった。……いつだって心から笑えてすらいない。…常に《孤独》を感じていた。……《闇》に引き摺り回される事。そんな事は何度だって居合わせた!!!……仕事柄。…マトリとして《麻薬》に関わる事で、何人もの人生を狂わされた元凶。………現世にも…そして性根にも今度は貴様自身が、その悪事に手を染めてしまったという真実をな」

「…!」

「…結局貴様は、償うべき課題を見通す事が出来ず、過去の現世から、そして今、この世界から目を遠ざけて匙を投げ出して逃げて逃げて、ただ逃げ続けた結果。……自らの《保身》の為に。……《罪》を認める事もなく。……無責任に《罰》からずっと長年目を背け生き続けていた。……ただ、それだけだゾォっと!!!」

「……っ」

スッ………

【Bran】は、相手の発した言葉の意を噛み砕きつつ、自分なりに解釈しようとしていた。綺麗事を並べたばかりの《団塊の言の葉》のようではあるが、頭の中には、これまで出会ってきた者達と過ごしてきた追憶の記憶、物語るかけがえのない時間。その中で自分に何か出来る事はなかったか。【導き人】が満足に教えてくれなかったのならば《他力本願》は期待出来ない立ち位置とするならば自主的に一つ一つ物事と向き合いつつ、もし《罪と罰》の自覚があるならば、悔恨の念は本当に芽生えなかったのかと、今一度思い返す機会を与えようと、相手の発言から悟った──────

「……たく。………まるで容赦のない口うるせえ《先公》みたいだな……テメエはよ」

「………」

「…捨て子として行き場をなくした俺は。…誰からも相手なんかされず、ただずっと孤児みてぇに生きてきた。…何でかはわかねえがよぉ〜。……衝動的によぉ〜…施設から出て行ってしまってから、乞食に縋る思いでもしてでもよぉ〜、ただ《見セモン》のように泥じみた道を歩いて来ただ………」

「その惨めな道の中で。……誰かと出会う《キッカケ》くらいあっただろ?」

「…んなもん…」

「何かあった《筈》なんだろ?……素直になりきれず、霧のように曇り切ってしまってから、先を見通せず、何度も惑う思いをしてきたお前だ。…どんなに今を華やかに魅せた所とて、過去に落ちこぼれた身分の時、必死に食い繋ごうと…這いつくばってでも人と接し。………アイツのように。…大それた憧れのヒーローのようにはなれなくとも。……面倒を見てやれるくらいの微かな情のある親切心を与えられた筈だ…?…違うか?」

「…………」

【Veno・nix】は【Bran】の眼(まなこ)をじっと見つめ、先程のやりとりにて口に出した、お互いのかつての仲間の一員【Nelson】と過ごしてきた事の真意を説いている様子であった。

真実を辿ろうとする《黒豹》の者は、去り際、彼から託された熱い情のような契りの意志。ならびに自らの責務を果たす者【女皇帝】としての《保身》とかではなく、一端の《年ノ功》たる、ただ一人の女性として、未来ある者達に希望をと、覚悟ならびに決断力──────気高き意志を込めて実行し、終止符を打たせた女性【Edith】との確かなる繋がりから、今となって投げやりとなって捻じ曲がってしまい進路を閉ざしたまま、塞ぎ込んでいる《非行少年》のようで弱々しく、孤独に苛まれた《臆病》な一面を見せる男を意地でも真っ直ぐにさせようと、これまで自らの利益の為に、毒を他人に盛らせ、肥やしとし、いつか大きな手柄を取る事を長年計画し目的とした今回の《改革》騒ぎ───────



彼なりの交渉手段として、これまで自らが闇に身を投じ覆い被った穢れならびに、各国での暗躍によって汚れた手を洗いざらい吐き捨てて清算させる。即ちそれは罪を告白する事。夜明けが来る頃に《終戦》を意とし、投降を命じるよう要求する。【Veno・nix】自身、これまで振る舞われるように盛られ、身体を蝕まれた《毒》に対する憎しみの負の感情を、未だ許す事は出来ないでいた。しかしながら《妥協》する事が出来た。あの時、生まれた性別という壁ある境遇に憚(はばま)れ、至る生活面に違和感と《苦》を感じ、不運な結末を辿り──────闇深き過去の風習の如く、狂気じみた信仰心によって腹を割かれ、本来の姿へと戻されども、慈悲なる豊穣の英霊による手助けもあり、時に残酷であれど、限られた時間の中で【Veno・nix】に対し、自らの《存在意義》をその口で嬉しく最期に語った、身体は《男性》しかし、その心は紛れもない《乙女》の彼女──────【Eimi】(エイミ)のように。どんな境遇に苛まれたとしても、彼自身は決して根は曲げず、ただ生真面目に相手と向き合おうとしていた。

「………そういやよ〜。……クソッタレ。……」

「………なんだ?」

「……あの時。……ああ、なんだ〜?………っ!」(ニヤっ!)

ポタポタ………ポタポタ……



アハハッ!……!!ゲラゲラゲラ!……ガハハハハ〜ジャン♪!!

【Bran】は死後の世界【Paradiso】で過ごしていたある日、三人で食卓を囲み、談笑しながら食事をしていた時の風景が頭の中で過る。彼自身にとって、それは不必要な記憶の一部であったが、長年の仮面としては不必要だった、捨てていた筈の一面が剥がれ、浮き彫りになりつつあるのか、本来の《孤独》に耐え難かった臆病な心を持つ自分自身の現れのように、頬から涙が溢れ出した──────

「……あの時よぉ〜……アイツらと。…もっと話し合って段取り組んでたら。……互いに道踏み外す事なんかなかったのかもしれねえよな。……なあ、クソッタレぇ…?」

「さあな。……世の中、料理人が料理を振る舞う際に使う調味料にも限度ってのがある。……量を間違えれば、その一品の品格は下がる。……言い換えるなら薬だって同じだ。……《薬も過ぎれば毒となる》。…どんな万能な薬だったとしてもな。……限度を違えば待ってるのは。………真っ暗な道しかない。……それだけだ」

「ハハッ。……違いねえ。……だから、テメエは…恵まれてたんだなぁ〜……アイツが惚れ込む男だってぇ事は。………今、ここで理解した」

「………【Bran】…」

「…ハハ。……だからよぉ〜。……テメエは。……ここで。……!!」

ドサッ!!!

「…っ!?」

突然として【Bran】は、【Veno・nix】の胸に持たれかかった。両腕は先程の神秘の光を放つ十字架の加護によって失い、腕の断片のみの痛々しい身体を晒すが、不思議と彼の口角は上がっており、偽りのない笑みの表情をただ浮かべていた。

「………っ…」

「……手は失くせど、腕を絡めてでも抱いてくるとはな。…そのがめつい一面は、《忠誠心》としては屈服してしまうかもな」

「はは。……違いねえな〜。……クソッタレぇ〜………」(……これで…いいんだ。……後は。………)




精々暴れろや。…!…へへっ。……クソッタレぇ───────




ザシュッ!!!!……

バキィーーン!!!!!

🎼Back Ground Music 》》》



♪〜大逆転裁判より・バロック・バージンクス



「………っ!?」(……な。……!?)

カハァッ…!!!!

「………」

【Bran】に抱擁されていた状態の【Veno・nix】。そのまま身体をのしかかられ、相手が覆い被さったその瞬間──────無慈悲なる斬撃が飛び交う。【Bran】の身体は胴体を切断され、そのまま斬り飛ばされる。【Veno・nix】の目の前に転がり現れたのは──────



先程まで、自らの身体としていた《魂の身体》の下半身部位であった──────

キラキラキラ………!!!

パキィーーン!!!!!

「……!?」(…なんだ……と…?…一……体……!?)

ザッザッザ……

〜《XIII》〜

「……っ……!!」(コイツは……!あの…時の……!!!)

「………よぉぉ〜っ。………さっき…振りじゃあねえか〜……【Gara】……!ゴフッ!!」

「……!!…」(…【Gara】…?……それが……あの時……エディスが引導を渡した……【Blo】の顔をした…奴の……名…前………)

キラキラキラ………



「……!?」(俺の…か…身体……が……豪快に胴体を斬られたからか。……い…意識が……)

と……遠のいて………い…く……

キラキラキラ………!



パリィイーーンンンン!!!!!

キラキラキラキラ…………

グラグラグラ…………!!!!



バターーーンン!!!!

【世原城】の天井が崩落すると同時に下敷きとなった【Veno・nix】の意識はその場で遠のく。斬り飛ばされた肉体となる胴体の半分は、魂の残渣物が飛び交うがまま宙を舞う。突如現れた十三の異名を持つ男【Gara】は、その放った一振りにて豪快に空間を一刀両断にし、周囲の建物を崩壊させる。斬り上げた大剣の刀身を右肩に抱え、ただ無表情のまま立ち尽くしていた。

「………」

コツン…コツン………

瓦礫に埋もれ、《生き埋め》と言った詰めが甘いものではなく、文字通り《埋葬》し、その場で散らせたと確信すると、踵を裏に返しつつ歩みを始める。それはまるで《殲滅完了》と言わんばかりの無慈悲なる天使を表すかのように崩落し、燃え盛る建物の一部の陽炎として染まりつつ、そのまま炎天下に燃ゆる地上。京の町へ再び舞い戻ろうとする───────



そう。次の餌を探そうと今は嵐の静けさを保ちつつ、見つけ次第には、血肉を欲する獰猛な《白豹》の出立ちのオーラを纏った様は、まるで《白き死神》の如く、顔に刻まれた赤のタトゥーが不気味に疼くようにして色付いていた。

……グラグラグラ………!

「………!」

ガシャーーン!!!!!

餌を欲していた者の末路故なのか、地上にて起きている土の性質変化によるものなのか、目の前には落盤して地上に這い上がれないようにせんばかりの《瓦礫の山》が立ち塞がる。

グラグラグラ………

「…………」

ジャキリッ……!!!



ブォンンン!!!!

バキャーーンン!!!!!

【Gara】は、壁となっている《瓦礫の山》へ斬撃を加える。壁となった土、岩は削れていく。しかし地上へ至る光は決して差し伸べられる事はなかった。

運命の悪戯か、文字通り彼は《生き埋め》となった。

これまでの無差別なる葬刃(ソウジン)の行いによる報いなのか、このまま誰にも気づかれる事なく《埋葬》される末路を辿る命運を彼自身が背負う事となった。

「…………」

ジャキリッ……!!!



ブォンンン!!!!

バキャーーンン!!!!!

グラグラグラ……!!!!

そんな状況下においても彼の刃は収める事はなかった。冷徹にもただ《寡黙》に、口ではなく手を動かそうと目の前にある《瓦礫の山》を一太刀、一太刀、更に一太刀と大剣を振るい斬撃を与えて削り取り、徹底的に排除しようとしていた。『自らの障害となるモノ、立ち塞がる者は。…如何なる理由でも排除する。……徹底的に』と言わんばかりの《冷徹》さの一面を見せつつ、ただひたすらに瓦礫の山へ確実に斬撃が加えられていく。

地の深くへ封印された《死神》は、そう易々と他者の持つ《生》の引導を渡す事はせずジリジリと這い寄ろうとする───────

時をその土で秒針のように痕跡を刻みつつ、ジワジワと命を刈り取る本物の《怪物》というものを、その《白豹》の身で体現させつつ、そして朝が訪れし時───────




───────【Capo】の命を受けた《白き死神》【Gara】は、彼の地へと再び降臨し。《京ノ町》【Kagoya】に住む者達の殲滅を開始する。

・・・
・・


   
B. いいえ


《Capitolo・13》
続きを読みますか?

🎼Back Ground Music 》》》





♪〜JOJO6部より・エンリコ・プッチ〜Priest〜

《死》司どる、その神はこう言い示した。死は時と行動を共にし、離れる事はなく常に隣り合わせなのだと───────では、その神に聞きたい。何故人間は生まれながらにして、平等的な《生》を与えられるのか、何故時間を与えたのにも関わらず、ただ老いて退化し、朽ちてゆく運命(さだめ)なのか?そして何故《性別》といった、生物学上の《雄・雌》なりし、種族の壁とも言える概念が存在するのか──────

もしも性別に関する記入欄があるとしよう。そこに記述されるは男性・女性──────MAN・WOMAN──────UOMO・DONNA──────

人間は、自らの人生観ならび自分達の持つ肉体に宿す《生殖器官》によって、性行為たる《性合》《性交》を成し、《三億分の一》といった大いなる《奇蹟》を呼び寄せる事で子種を残し。次なる世代に生命を与え、繋がれ、これまで人間は文化・文明・叡智たる基礎の土台を創り上げた事で現在に渡る《人間社会》を築き上げてきた。無論その所以から、性別を認知または認識する事の出来る、多様なる成長をその身で実感する者、しかしながら成長に飽き、他力本願のままにて退化せし者達──────《民衆》の大半は、それらを認知・自覚し、何食わぬ平然とした顔で人間社会を生き抜く事で地位を獲得し、今において生活しているものとす。

だが中には、神の悪戯なのだろうか。自ら受けた生について疑問、憤りを感じ、筆記しようとせんばかりに持たれた《筆記具》を使い、その欄へ丸ならびにサインをする事を躊躇い、出来ずにいる《迷える仔羊》も中には存在する。





ある日《女性》の出立ちをした、《摩訶不思議》かつ、奇妙な出会いに私は遭遇した。その者は、心は《女性》──────だが、身体は《男性》としての生を受けた、一人の【現世女】だった。

《皮肉》にも彼女自身は、男として生を受けた自らの身体を否定し。本来の自分・自我として認知している性別。───────《女性》としてこれからの人生を生きるのだと心に決め、現世にて《性転換手術》といった《神》からすれば、歯車と歯車を重ね合わせ、定められし生の運命から脱線・逸脱をした、極めて無謀なる道を選んだ───────

宗教上、民衆ならびに大衆から、長きに渡り崇拝される至高の存在とも言える《神》に対し、それは冒涜とも取れる愚行に手を染めた彼女は。─────敢えなく命を落とす結果となった。

そんな最期を告げた所とて、運命の歯車から繰り出される、時の秒針が止まる事は決してない。無慈悲にも進み、時代は進み、経過の一歩を辿る──────

いつしか、彼女と同じ境遇にて、生を受け誕生する新たな生命も、時が流れた現世の世では、コミュニティーならびに理解の場は広がりを見せていると聞く。

先程述べられた、性別の境目となる先天性なる《性命》。該当せしは《性同一性障害(GID)》───────そしてもう一つの概念として《トランスジェンダー(TG)》と言われる名だ。

告げられた二つの名前には、性の不一致からか、整合性あるカテゴリーとして分けられているようではあるが、実際の所、性質は違う。

似てはいるものの、一部相違点があるのは確かな事だ。

性の同一性に該当する壁となるものとして、自らの性が不確かを明らかとする、パーソナリティーを意とする自認たる自己のアイデンティティー概念───────《性自認》

身体面における、肉体の構造として挙げられるものとして《身体的性》の概念が、時として男女社会への風当たりの強い時代背景の名残も存在する。

《トランスジェンダー(TG)》といった《性自認》の中には、現世の国。それも大和の国が起源として発せられた言葉──────《Xジェンダー》

《中性》ならびに《無性》・《両性》《不定性》といった、それぞれの意を成す言葉・論理。……元より、それらを《ロゴス》と提唱付ける事としよう。

重要とするは《無性》───────神や仏からの恩恵とも取れる、慈悲深き性質なる《仏性》。それらを一切必要とせず、仏として存在する可能性のない、ただ《無》に等しく、周りからすれば、ただ《邪険》なる存在。

だが裏を返すならば、その《必要としない》といった点だ。

何故、必要としないのか?といった疑問点だ。

そもそも、生涯人が《死》といった人生の終着点へと訪れし《時》、その光景には、果たしてどんなビジョンが見えているのだろうか?

その場に立っている自分自身は、今どんな《姿》をしているのだろうか?



───────今、こうして存在する世界を見た上で、こう示しましょう。

訪れた世。それは天国と地獄はまるで違う。極めて異例かつ前例のない《死後の世界》がここに存在する。その証拠として、現世から流れ着いた人間・動物自身が持つ魂(エネルギー)の流れが死後の世界全土へ循環して渦巻き。次第に現世でいう太陽・月という惑星、そしてそれは散りばめられた星として、この世界に反映され世界を巡っている。それはまるで今まで解明されなかった叡智の領域。人体の奥深き神秘たる流動体──────《チャクラ》が、その場にて存在する事が何よりの証明としている。

聖職者が故、これまで私は様々な【現世人】の大衆からの赦しを講じ、それらは肉体を持ち、難病・病・疾病・末期癌によって蝕まれていた現世で過ごしていた時の苦痛から解放されたと、そう告白する者達が当たり前のように存在した。肉体のみ蝕まれ、《魂》に関しては何一つ穢れのようなモノは存在しなかったのだと、訪ねし者の口から発言された《懺悔》の訴えにより、それは聞き届けられた。

述べられたように、わざわざ《仏性》といったモノにこだわる必要すらなかった。

産み落とされた《産物》が故に、その既成概念にこだわる事もなく、裏側から、これまで見た事のない《世界ノ在リ方》を画一し、万象を成し得る事で繰り返され、到達する確率事象の世界。それらの素養によって恩恵を受けし者。───────次に示されし《ロゴス》の御告げ─────それこそ



───────《無仏性(ムブッショウ)》

如何なる仏性の万象たる概念に妨げられる事なく、確実なモノとして存在する、新たな救済を齎さんとする、これまで誰も見た事のない《世界》

Xという交差し未知なる可能性が互いの引力によって惹かれ───────授けられ、確実なものとした神の《ロゴス》

願うならば、それは真なる《救済》───────真なる世界【Paradiso】の完全なる姿(ビジョン)を映し出す目を、ここに捧ぐものとす──────



執筆者:【現世人】【Mireisia】

・・・



コツン…コツン…コツン……

「………」

ペラ。……ペラ。………



〜十〜

暗闇に浮かぶロザリオ─────十字架の光指し示す場所の下にて、シスターの装いをした者が姿を示す。その者は歩みつつ、何やら聖書のような書物を一枚、更に一枚と捲り上げる。無言の表情を浮かべつつある、その目は深き影を沈め、次第に口角を上げていく。

「………ふふっ……」

ファサ、ファサ……

ゴーン…ゴーン……

十字架の光指し示す場所に、隙間風が吹きすさぶ。その周囲には、重厚な厚みのある鐘の轟音が鳴り響く──────

…ニヤリッ

「……いよいよ。……いや。…今宵再び再始動なりし刻字の軌跡。……《再結成》なる命運が約束された。…《リユニオン》の恩恵と言える、様々な時空の歪みが干渉せし。…一巡にして時を刻む…自然の摂理なる《夢魔》の訪れ…」

コツ、コツン…

「………」

「……?」

暗き礼拝堂の室内で、その者と対面して姿を現す者がいた。その者は、背後に亡霊を使役しつつ、近くにあったアンティーク調の椅子へと腰をかけ、不敵な笑みを浮かべていた様子だ。

パタン!

存在に気づいた、修道女の姿をした聖職者の者は、目の前にいる者に語りかける、

「………その顔。どうやら《今回》も終えた御様子なのですね。…アレグ」

「……お陰様でね。…ミレイシア。……いや。僕達【救済ノ使徒】なる長…」



《【Alvious】(アルヴィオス)》

「………」

「……フッ。…」

厳格な雰囲気を漂わせるオルガンの音色が響き渡る、異様な空気が凍り付いた室内──────その中で、彼ら【救済派】救済の使徒【Demister】を統べる長の存在と、リーダーなる者が互いに目線を合わせ、対談する。

「首尾の方は?」

「進捗状況に関しては支障・問題なく。…その預言書通りに。…《今回》も森羅万象の能力を司どる彼女。…ベアと会ったよ」

「……そうですか」

「……っ!」(クスクス!)

「……?」

【Areg】はクスクスと笑う。その様子に【Alvious】は無情ながらも返答する。

「………一体何がそんなにおかしいのですか?…アレグ」

「…別に。…でもね長。…その【現世女】の姿をした人の身体に憑依してから。…最初はぎこちない様子だったのに、どんな術を使ったのかは知らないけれど、だんだん器として形成され。…本来の力を取り戻しつつはあるようだね」

「………」

その口ぶりから【Areg】は【Alvious】の秘密を知る、存在の一人であるように思われる。

コツン……!

「口を慎むがいい、アレグ。……死霊の傍として生きる術のない一人の一員である貴方が。…我の事を深く知る必要はありません」

ドドドドドドド……

【Alvious】は強い殺気を放ちつつ【Areg】を威圧する。その様子に怯む事なく、やれやれと言わんばかりの素振りを見せ、こう返す。

「残念だけど長。…そうもいかないかな。……貴方自身が企て、立案した《エゴイズム》によって。…………これまで《十回》以上も、僕達【Demister】を集結させ、【Dail】邸襲撃事件から、今回の《維新事変》までの騒動を繰り返し。……また再び時間を繰上げては。…一体何を目的としているのかな…?」

「……」

【Areg】の問いに対し、こう告げる。

「これ以上。…無意味な時の流れを進ませない為、《秒針》を堰き止めた事。ただそれだけです」

「………」

「時という概念。…それはとても残酷なものです。流れる事で人は老いしげ。…やがて《寿命》を迎え《訣別》の時が訪れるでしょう。……人は誰しも自らが《不幸》の出来事に遭遇し、知り得る事があるならば、その先に歩む事を恐怖し、覚悟すら出来ずして結末から避ける者も少なからずいるでしょう…?」

「……《諦めが肝心》。…何もしなければ、何も知らず流れに身を任せる事で人は苦しむ事もなく、最良の《想い出》の中に飼い慣らされる事で《幸福》を得る。…夢を永遠に見続ける事が出来る。…ロウディと関わった彼等は、今頃今回の《維新事変》を終え、幸せな結末の夢を見続ける《結果》へと到達した。…そういう事かな?」

【Areg】の言葉に長はコクリと頷く。

「ご推察通りですよ。…アレグ。…あなたがお聴きになられましょう、ノクターンを意とする《夜想曲》。…それらを踏まえお好きな《交響曲》。言葉で表すなら。…それは最終楽章…《フィナーレ》を意とする、壮大な幕引きとなり、締めくくられる事でしょう。…下賤な【導き人】により招かれた。…偽善なる者達の鳥籠に囚われたまま。…一生気付く事のない《平穏》の繰り返しを。…未だ気付く事が出来ずいる、愚かな者達は望んでいる事でしょう」

「………」

【Areg】は少しばかり憂鬱な様子であった。まるで、人気のある料理屋に足を運んだ美食家が、注文の多い人気の《一皿》を食すも、まるで味気のない期待外れの一品の料理として見定めた様子のまま、長の真意を探ろうと話を続ける。

「…それで?……この繰り返される時間が永遠に続く事を《彼等》は疑問と不満に思わないのかな?」

「ご安心を。…先程語ったように、彼等も気付く事はないでしょう。まさか自分達が何度も幾度と《敵対》する者達と対峙しているという事実を。…我々が真実を打ち明けた所とて、それを聞いて受け止める者など、おりはしませんよ。……強い《欲望》を持つ大罪属性を持つ彼らとは違い、《憂鬱》《怠惰》の属性を持つ、特別な認知概念を持たれるあなた以外には。…決して」

「………」

【Alvious】は救済ノ使徒のメンバーの中でも唯一、《憂鬱》・《怠惰》といった大罪の属性を持つ【Areg】の特性を有効活用し、今回の騒動に対し協働で策を練っていた様子だ。

コツン…コツン…

「アレグ。…あなたの持つ、二つの大罪の属性。…あなたは決して後任のリーダーたる、《愚者》に染まる事のない、崇高たる聞き分けのある真なるリーダー資質持ちの主です。……影で彼等を統括し、皆を導く役割を持つ者として、それをお忘れなきよう」

「それなりに分かっているつもりだよ。……そろそろかな。…その預言書の続きを思惑通りに事が運ばれたのか。…確認がてら結末を《自分の目》で見てみたらどうかな?」

「………」

【Areg】は【Alvious】に、自ら持つ預言書の続きを読むように促す。配下として使えさせているのもあるからか、そっけのない返答をされ、癪に障っては不満を混ぜ合わせた表情をするものだが、長自身、そのような無駄な感情は一切なく、無言のままページを一枚、更に一枚を捲る。

ペラ…ペラ……

「……手筈通り。………今回も再び【現世人】。…【Veno・nix】は、【Varisk】所属の【Bran】に勝利するも。【Capo】の命によって始末を依頼された死神…《サー・ティーン》による背後からの斬撃で、両人は胴体を斬り裂かれ。……幕を閉じられた御様子ですね」

「…そして。いなくなった【Veno・nix】はあたかも亡霊として【Rowdy】が気にかけている彼。【Hux・row】とトワ。…そしてベア達と数日後、御対面する流れ。…といった所かな」

「………フフッ…」(コクリ)

「まさか。…かつての長である、あなたにとって因縁深い【R・P】社に対し、彼自身の幻想を出向かせ。過去の報復として皆を始末するシナリオ(可能性)を企てているとはね」(ペラペラ……)

「………」(…アレグ…)

「………」(ジィー………ッ)

長【Alvious】は【Areg】を警戒する。彼自身の頭脳は、長自身が思い描いた《理想》のシナリオ案を、魂胆から見透かし、模索していた。



「《追憶》の悪用と言った所かな。…これまでの事を振り返らせ、無闇に歴史を改変する事で、それは、一体何になるのかな?」

「私は歴史を改変する事を目的としていない。……幸福に導かれようと努力する民の自由なる歩みの実現の為。……自ら破滅を求め、望む者を《夢》の中へと留まらせるまで」

「夢…ね。……《夢喰事件》。今から半年以上も前に起きた、【Sognare】(ソグナーレ)の現象を利用し【現世人】の魂を改竄する事を目的とした、極めて異質な出来事だったね。……一つ聞かせてもらうよ。……その書の項に記述されている【Veno・nix】。……彼自身、今も《目覚めて》いないのかな?」

「………?」

「………」

【Areg】の発言に対し、長の【Alvious】はその問いを投げかける──────

「…目覚めては…いない…?…どういう事ですか…?」

「問いかけの通り。……彼自身による目覚めのプロセスについての事だよ」

チク。……タク。……チク。……タク。

「もう一度聞きます。……一体どういう事ですか?……」

「……」(やれやれ…)

コツン……

【Areg】はこう言い放った───────

「長。……あなた自身が企て堰き止めていた、現実では思い描く事の出来ない矛盾に満ち溢れた幻想的シナリオ。……残念だけど時既にして綻びが生じている。いずれそれは《欠落》が生じ、崩壊を迎えようとしてる様子だ」

「…!!」

コツリッ!

【Alvious】は【Areg】に対し、こう投げかける。

「まさか、ここにきて、何者かの手によって《均衡》が破れようとしていると。……そう言いたいのですか?」

「…どんなに《虚飾》の大罪で塗り固め、嘘りの世界に民衆や種族を飼い慣らそうとした所とて。それは必ず牢を食い破ろうと突破してくる《猛獣》達が、長。あなた自身が思い描き創り出された世界に対し、刃向かって牙を向け、何度も噛み跡を残していた。……という事さ」

バサバサ……

隙間風が吹くように、頭に被さるフードがはためく。長の口元は少しばかり口角を釣り上げる。

「……そうですか。……ふふっ。……フフフフフ………」

コツン…コツン……

「?…悔しくはないのかい?……思い描いていた理想の実現にはならなかったのに?」

長【Alvious】は笑みを浮かべつつ、こう話す。

「あなたお得意の、誰かによる《摩擦》という事ですか?……まあ良いでしょう…そうでなくてはなりません。……しかし残念な事です。…折角、このまま夢から目覚める事なく、ただ誰かを愛おしくする、されゆく時間をひたすら繰り返す日々を過ごしてさえいれば、それは彼等がどれ程にまで幸せであったのか。………全く《愚か》でしかありませんね。……現に【Areg】。……始末仕損なった、いえ。…していないのでしょう?……森羅万象の少女である彼女を」

「………」

長の問いに対し、【Areg】は───────

「……命までは取っていない。……ただ、地底深くにある灯火へ。…それも業火の火を浴びつつ無念無相に意識を向け《心頭滅却》させ、そのまま涼しげな場所へひっそりとさせている。……かな」

「?…地底深く…?」

「現世の海外の国…メキシコでは《スワローズの洞窟》…《ゴロンドリーナス洞窟》と呼ばれる、深さ300m以上の洞穴が存在する。……何の術もなく一度堕ちてしまえば、もう這い上がる事は出来ない。……っ!…普通の者ならばね」(上見上げ〜)

【Beanne】と対峙し、彼女に対する興味を示す【Areg】は笑みを浮かべながら上を見上げる。彼の様子を見ゆ長は狡猾な様子で語りかける。

「…フフフッ。メンバーを何度も対峙させてはおりますが。……それ程までお気に召したご様子ですね。……あなたは《彼女》の事を」

「《ジグソーパズル》の一欠片のように。……断片的な記憶だけど確かな事……かな。……一度彼女は、この世界の均衡を破り、破壊に手を染め《厄災》にもなり得た程の大きな存在。……だからこそ、このまま生かしておくのも《救済》の在り方と、私は説いてみるよ」

「彼女の能力を利用し、我々が真なる救済者として降臨せしその時。…その日まで。…ですか」

その問いに対し【Areg】はコクリと頷く。

「後は彼女次第さ。……ベア自身が《ジョーカー》となるトリガーを放つきっかけとなる鍵。……トワ。そしてそれらを取り巻く者達と交差する事変。……今回の《維新事変》によって明らかとなるだろうね。……《チェックメイト》」

カラン、カラン!!

「…?…」(キングの白駒)

【Areg】が投げたのは、現世にて持て栄されている、テーブルゲームの一つ【Chess】(チェス)で使用される、キングの白駒であった。それを長の足元付近に投げ落とす。

「………」

スッ…!

「…しばらくの間、僕は休ませてもらうよ。これ以上介入してしまう事は、彼等の《成長》・《進化》の過程に支障を及ぼすだろうからね」

「…宜しいのですか?…ロウディー、アウロならまだしも、未だ教養・躾の足らない、問題児なる《愚者》メンバー達の管理の必要性は…」

「過保護過ぎるのは、どうにも性分に合わないからね。…直接教えを享受するよりも彼等には、まずは彼等自身から自覚をさせ、与えられた能力・役割を生かし、本領を発揮させるべきなのだとね」

「………」

コツン、コツン

【Areg】の発言に対し、聞くに値しない言葉と受け取ったのか、長は背けつつ返答する。

「結論付く事は結構です。…失望と放棄。くれぐれも履き違えのないよう、その御心を尊重しておいたほうがいい。いずれ後悔する日が…訪れようと」

「心配せずとも肝に銘じてるよ、常にね。……互いに《慢心》は抜きにしようよ。その《トランスジェンダー(TG)》が故、性別・心の不一致を問題視とし、内なるは男性、けど身体は女性としての生を受けた、悩める聖職者の一員なる【現世人】。……歪んだあなたに対する教えの信仰心にて、《性同一性障害》として生を受けた、真逆の境遇を持ちし者と接触し。身に宿していた《宝珠》をその身に喰らう事で、今は《無仏性》という未知の領域への進化に至り、新たな一つの《器》を手にした長。…これからどこまで。…この世界【Paradiso】に対する《救済》という名を模った《叛逆》の意を見せようとするのか。……僕自身が蒔いた《種》が発芽するその日まで───────」

くれぐれも絶やさないで頂きたいものだ───────



フッ……

「…………」



コツン………コツン………コツン…コツン…

そう長へ言い残した【Areg】は、恰も風と共にし、その場を過ぎ去る。背後から気配を消した彼自身の姿を目視する事なく、再び歩みを始めた。フード越しに隠され影となっている目は、ただ自らが目指そうとするビジョンのみ投影される。その視線は、側面に打ち付けられた《ステンドグラス》へ向けられている様子だ。

まるで、生前の器であった、彼女自身が心に抱えていた《葛藤》からくる欲望・願望を汲み取り、叶えようとせんばかりに、新たな形を潜めた終焉呼びし《偽善者》の長の者は意を代弁せんと言わんばかりにこう呟きつつ───────



コツン………コツン………コツン…コツン……

我ら神の神託なる御告げ示し《ロゴス》───────

発せしは生前、この器を持ちし者【現世人】【Mireisia】(ミレイシア)──────

半身が所以なる我【Demister】…【Alvious】(アルヴィオウス)の新たなる器。今やかつて提供者である者の追憶。神託に基づき彼女自身に提示させ条件とした、救済へと導きしは夜明けなるアルカナ。タロットカードを基準とする旅路《XIIIの意》。現世において語り継がれる大和ノ國《日本神話》・《ギリシャ神話》。それぞれの神話よりいい伝えられし、先端がある形を成す鍵の《ロゴス》



まず頭の中に浮かぶは、現世の国における爬虫類が示されたシンボル。生前、神仕えし信仰心ある修道者として自らの身を平和の為にと喜んで委ねた心は男性、身体は女性たる彼女自身。数奇なる運命からか、時に神に仕えし《宗教家》と名乗る者と出会い、救いを目的にと訪れ、過ごしていたという島国《マルティニーク》の国───────

ある日、互いに夜のひと時を過ごしていた時の事だ。余談ながらも《宗教家》を名乗る彼自身は、《蛇》をとてもよく好んでいたそうだ。それはまるで《神の使い》と呼べる程に、蛇という生物に対し、生涯を身に捧げる程に《崇拝》《崇高》たる《尊敬》の意があったそうだ。何処かの《蛇愛好家》に影響されたのか、民衆を熱狂させ、虜とするカリスマ的な教えを講じられていたのだろうかと思われる。彼自身が、この世の救済として必要とする、キーワードの《ロゴス》を彼女は与えられた──────



・《【Hydra】(ヒュドラ)》───────《I.水蛇ヒュドロスヲ語源トシ、《魔術師》企テシ火種鎮圧スルハ水害)(II.毒盛リシハ《教皇》。青色ノ紫陽花ハ救済齎ス甘露ノ良薬ニモ変ス)(III.天照ス《皇后》。豊穣宿シ地ヘ訪レセシ)

・《【Echidna】エキドナ》───────(IV.《皇帝》ノ天命ニテ、草薙ノ火花散ラス者ハ《素戔嗚命(スサノオノミコト)》ノ鳴剣、雷鳴ノ如ク振リ翳ス)(V.《法王》統括シ法ノ大地。揺ルガセシハ雷神ナル裁キノ鉄槌)(VI.《恋人》ノ道求ム者。転生セシ姿ハ《愛美》ナル白蛇)

・《【Typhon】(テュポン)》───────(VII.《戦車》行キ交ウ騒乱ナル時代。アル修行僧ノ伝記ハ記ス、尋ネシハ紀伊國ノ珍ナフ安住ノ地)(VIII.姫清キナル乙女ハソノ地惚レ込ムイナヤ、《力》アル抑圧受ケ悲観憤リシハ怒リノ相表ス。《正義》振リ翳シハ報復、大罪犯シ焼ケ野ニ変エ背負イハ水責メノ業)(IX.珍ナフ安住ノ地ハ鐘ト共ニ聖火ノ焔ニ抱カレユキ姫ハ水子ニ誘ナワレ互イハ仏ヘ転生セシメタリ、真実知リユク《隠者》ナル者、コレヲ美談トシ後世ヘト語リ継グ運命トス)

・《【Naga】(ナーガ)》──────(X.交差セシ《運命》ハココニ定マル)(XI.秩序ヲ重ンジ到達シ《正義》ナル《剛毅》ノ意、コノ剣へ示ソウ)(XII.下等ナル者、即チ《刑死者》、優トスルモノノ踏台トシテ犠牲ナル礎トス───────)



それぞれ示されたアルカナの旅路を辿り、同志なる四人の蛇ノ者が集い交差した十字架。《宗教家》の原点なる象徴の旗が掲げられし時───────

そこに誕生せしは《ウロボロスノ鍵》───────《陰陽》で表すならば《滅門日》の訪れ。死と再生を意とする神の鍵は新たに生成され、いよいよ目指すべき指標───────十三番目の《ロゴス》…大和國出雲の山神。《八岐大蛇(ヤマタノオロチ)》に因み彼自身が遺したロゴス。《XⅢ:オロチノ復活》の真意が明らかとなるだろう。

今回の騒動によって6幹部メンバーの内、アレグによる御教授にて《地獄の番犬》の形相を見せた一人に介入した黒豹の者。それらの要素が密接に関わりを持ち、アステカの国にも属する《五星》を象徴とされし国《ホンジュラス》───────



星と星との衝突によって破滅し、万物なるコスモスの叡智にて散りばめられた、それぞれの星々はやがて一点へと集中し、《ペンテアステリア》の誕生として時間・霊魂の概念はその地に《不死性》を保持する───────

そう、この偽りの死後の世界…下賎なる【導き人】が《皇后》なる傍観者として成り立つ【Paradiso】の世界としてではなく。秩序たる均衡を保つ事を目的とし、権力者の資質たる《力と正義》の関係性におけるものとして、偉人の言葉を借りるものとして、新たなる指標としてこう説くとしましょう───────



《力なき正義は無力であり、正義なき力は圧制である》

《ブレーズ・パスカル》



コツン…コツン……

「……ふふふ。……当初、このロゴスをアレグに向かって伝えた時は。『救済を目的として正義の行いをする《力圧》のような威勢は確かに伝わったよ。ただ用心するべきなのは。…もしその言葉を引用するならば自らが率い、勢力をつけ築かれた《大衆》達。……飼い慣らされた彼等をあまり下等評価しない方が後々長生きするかもね。……君自らが考え、改革する事によって実現された本当の《正義》というモノの在り方を振り翳したいのならね。……』……っ。……もし私がそのように言われる事があれば、同じように返したやも。……いえ、恐らくは。……」



その執行せし正義を必要とする理想。それは恐怖にて民衆を平伏せ《戒め》たる去勢を施す新たなる力。…権力の創造。……一貫した《正義》とはまるで違う、別の側面を持つ判決者の現れ。……大衆は今か今かと

待ち望んでるやもしれない。……かつて、彼女自身が出会い崇高のあまりに《心酔》しきっていた、その《彼》が目指そうとした理想の世界。




《正義の在り方》として───────



コツン…コツン……

・・・
・・






🎼Back Ground Music 》》》



♪〜劇場版P3より・For Life



〜【Paradiso】歴2000年7/9・深夜方・【J島】【Kagoya】〜

〜ある者の深層なる空間〜

バチバチバチ………



「…………」

「…………」

辺りには松明ならびに、赤い灯籠が灯ゆく空間。その場には二人の男が対面して目線を合わせていた。

バチバチバチ………

「……んでよぉ〜…?……こんなシケタ場所に招いて、一体何のようだぁ〜?……クソッタレぇ〜?」

「…………」

沈黙の空間を真っ先に突き破ったのは、紫のコートに身を包んだ男【Varisk】の【Bran】であった。向かい側には、灯火の灯りから浮かび上がる男の姿があった。

バチバチバチ………

「……俺はお前を奴にブッタ斬らせる為に偉大なる《死》を遂げた筈なんだぜぇ〜……えぇ〜?……自覚あんのか〜?」

【Bran】は負け犬のような、チンピラに似つかわしい口調で相手にそう伝える。煽り文句に屈する事のない彼を心の底から理解しようとする《黒豹》の雰囲気を持つその男は、少しばかり口を開いた。

「…やっぱりそうか」

「……?……ああぁ〜ん?」

バチバチバチバチ………

「……お前の死因は。……《火》だったんだな」

「!?……ハァ〜〜!!??……突然何言ってやがんだぁ〜テメエ!?」

「…………」

黒豹の男が発した言葉に対し、相手は《困惑》を交えつつ怒りの言葉を投げかける。その様子に動じる事もなく更に会話が続く。

「この場所は。……嘗(かつ)てこの町で、火炙りの刑を執行する処刑場だった。……現世においても、ゆかりある者がその相を持つ者が訪れた事でこの場所が姿を表したと言った所だ」

「…なんだと…」

「この場を借り。…今一度《審議》して見定めてやる。……【Bran】。……お前の《本当の死因》は、一体何だった?」

「…!!」(……な、何言ってやがんだ。……コイツ?)

「………」

黒豹の男【Veno・nix】は、あの時意識は途絶えた。しかし残された心に残る名残からなのか、深い意識の中で【Bran】と対話し。彼に対する人生観を垣間見ようとしていた。人一人の人生において必ず存在する《命ある時間》。この場で燃え揺らめく灯火は、彼自身に与えられた意味あるものと捉えているのか、必要とするも欠落している彼自身の重要となる《答え》をここで聞き出そうとする。まるで彼が現世にて心から慕い、ケースワーカーの援助の術を知る《彼女》のようにインテーク面接を交わそうとしていた。

「!!…ふざけやがって……!!」(クソガァ!!!)

ブォンン!!!!

「…!?」(す、すり抜けた。……だとぉ…!?)

【Bran】は【Veno・nix】の顔面を殴り込もうとする。しかしその拳は空を切る。その場所には確かに標的とする者はいる。あの時【導き人】の試練にて行われた逃走劇。武装隊長率いる《執行者》が仕掛けたホログラムのように、振るわれた拳は姿をすり抜け、空を切っていた。

バチバチバチ………

「……無駄だ。今ここにいる俺は。……俺ではない」

「…!?……どう言う事だ!?……クソッタレがぁ!!」(ギロッ!!)

ギリギリギリ………

「…思い出せ。…【Bran】。……本当のお前を」

「…!……本当の…俺…だと…?」

「人生そのものはお前の言うクソだったのかもしれない。……だが最後に《死ぬ前》お前自身が願った《時》の事だ。………そこに。……」



お前の選ぼうとした《チョイス》。…《証》があった筈だ。

「…!?」

「欠落した記憶なら思い出せないかもしれない。……だが、ここにある《心》なら。……必ず答えてくれる筈だ」

ドクン…ドクン……

「…!……心…だと…」(…妙に。……脈を打ち付けてやがる……)

ドクン…ドクン…

すり抜けた相手の身体。その中で唯一鼓動の音が聞こえる場所があった。それは《心臓》が存在する左側であった。不思議な感覚ではあるが確かにその振動がすり抜ける身体から脈を打ち付けて伝わってくる様子だ。

ドクン…ドクン…

「……聞こえるか。…そして伝わっているか」

「……っち!……ああ。…」

「…ならいい。……っ!!」

スッ!!

「…!!」(なぁっ!?)

「…………」

ドクン…ドクン……

ドクン…ドクン…

両者はお互いの心臓を握り締める形で腕と腕を交差させ、拍動を打ちつかせる。それはあたかも等しく《共鳴》させ、分かち合おうとする様にも見受けられる。

ドクン……ドクン……!!

「テメエ!!……一体何の真似だ!?」(グググ……)

「言葉で伝わらないのなら、ここを握り締め。……一体何を訴えかけているのかを知る。……無論、俺の事もだ」

「……!!」

「…お前の知りたい事。…教えてやろう。…今から半年前。各地で起きた【Sognare】の現象を悪用し、巻き込まれた【現世人】の者達の記憶。…………欠落した俺自身が経験した。……訪れし《悪夢》と共に向き合う事で築き上げた事で培った、かけがえのない者達との時間と審判の記憶の日々……そこに。……」



欠落した答えがあるはずだゾオッと!!!



バチバチバチ………!!!

キィオオーーーンン!!!!!

「……っ!!」(火力が増して…灯火の灯りが……明る…く……!!!!)

【Veno・nix】と【Bran】。互いに握られた心臓は共に鼓動を打ち付け合い、《一心同体》するように灯火が眩い光を放ち出す。揺れゆく火影はまるで《陰陽》を示しつつ光と影が交差する。

太陽のように輝きを放つ事あらば時に光遮ら、涼しげな《陰》なる場所へ誘われようとする運命。彼等が互いに向き合い、見る景色の先にあるビジョンは何を映し出そうとするか。


今、お互いの人生観ならびに生きし意味の答えを探す旅路の秒針は動き出され、今まで《悪夢》として見えなかった欠落のビジョンが今宵明らかとなる。

ザザ………ザザ………!!!

ザザ───────z_______……………!!!!!



・・・
・・


🎼Back Ground Music 》》》



♪〜すずめの戸締まりより・戸締り





ヒューーン………

「………」(暗い。……どこまでも続いてく……深い穴だね……)

【Areg】との一戦を交えた【Beanne】は、朦朧とした深々な意識の中。同時進行で、戦いの時に形成された深い《穴》へと、そのまま真っ逆様へ堕ちていた。

ヒュ〜ン………

「……ふふっ。……これじゃあ、みんなに会わす顔なんてないよね〜♪……ごめんね」

そう呟く彼女は瞳を閉じ、更に深淵の深くへと身を投じる───────



まだ諦めるのは……



早いぜいよ〜♪…ベア!

「……?」(………誰…?)

ゴゴゴゴ……ガキン!!

ボオッ…!!

ダキッ!!

「!!…うわぁっ!!……?……え…?」

急降下していた【Beanne】の身体を火が包み、灯りが灯された地面へとゆっくり着地する。周囲は火に包まれていたが燃える事はなく、パチパチと音を立てる焔は、まるで彼女を温かく歓迎する抱擁を交わす。そう、それはまるで───────

彼の地にて長きにわたって封印されてきた、地中深くの世界の在り方をその目で見てもらうように───────

バチバチバチ………

「……ここ、一体何なの…?…薄暗いようだけど。……?」(キョロキョロ)

ヒィーーン………!!!

「…!!っ!」(一部の火だけ。…強い光を放って…!?)

ボオオオオオ!!!!……!!



ボシュウウウウウュュ………!!!

「…ふぅ〜……少しだけじゃが〜まあ〜」

「顔を出す事が出来たぜいよ〜!♪」(ニヤニヤ♪)

「!?…え……!ええっ!……火の粉が集まって…人型に…!?……それに、工事現場のヘルメットを被った…こ、小人さん!?」

【Beanne】の前に姿を現したのは二人組であった。その一人は蜜柑色をしたマフラーを首に巻いて靡かせつつ仁王立ちをしてニヤリと笑みを浮かべていた。心なしか頭の上に音符が飛び交う心をする、その様子から《楽観的》な性格をしていた様子だ。

そして二人目は、火の男とは相対的に《侏儒》の如しからか、背は90cm程と小さくあるも身体的年齢は高齢。頭には現世の工事現場において高台から飛来するものならびに高所での作業をする事において、安全を遵守する上で欠かさず着用する黄色に緑の十字架のマークを印字された安全ヘルメットを被っており、何処か落ち着きのある風貌を感じさせ、髭を生やした者であった。

ボアアアアアア!!!

ガキン!ガキン!

「…〜♪」(ニヤニヤ!)

「……ふ〜む」(髭こすりこすり〜)

「……ねえ。……もしかしてさ〜?……あなた達もラルちゃんと同じ《精霊》さんだったりするの〜?」

「〜?…ラル〜?……誰だそいつぁ〜?何?…知ってっか〜ドモルのおっちゃ〜ん?」

「…やれやれ。……何故にお前は水司る民の者の事となると、どうしてこうも無関心になるんじゃ〜《フィア》よ?……水の民であるセレナールが《世代交代》を目的として後世に残した、【Milal】(ミラル)という《水子》がいるんじゃあろうて…」(やれやれ…)

ブン!ブン!

《ドモル》と名乗る土の者は、首に巻いている何かの鉱物を削ぎ削り、磨製して作った名残りあるシャベルのネックレスを煌びやかに光らせつつ《鶴嘴(ツルハシ)》を縦に振り上げ素振りをしていた様子だ。

「んん〜〜?……そういや〜そうだったか〜?……あ〜…そうだったか〜?♪」(首かしげニヤニヤ〜♪♪)

「……!!ごほん!!オッホン!!…お〜〜ホンン!!!!!」(咳払い!!)

【Beanne】は強く咳払いする。彼女の反応に対し、《フィア》と名のある男は返答する。

「どうしたぜいよ〜?アリの巣みてえに薄暗いここが冷え切っていて、風邪引いちまったかぁ〜?」

「ちっがぁぁ〜ううぅッッ!!……まあいいんだけどねぇ〜。……それでさ、貴方達は何でベア姐さんの名前知ってるの〜?…それにここって何なの〜?」

【Beanne】は困惑と混乱をしつつであるも、二人に質問を投げかける。すると二人の内、まずはと言わんばかりに火の者《フィア》が口角を上げてこう語る。

「よく聞いてくれたぜいよ〜ベア♪…改めて俺の名は【Fya】(フィア)!古くっからこの世界の火を司どってる精霊の《末裔》ぜいよ!……んでこっちが!」

「土の民として、この【Paradiso】の世界を見守っていた【Dmor】(ドモル)じゃ。…ベア。…お前さんの事はミラルを通じ、先代の水の精霊…そして再びその代を継ぐ事になったセレナールからの伝達で、何かあればここへ案内するよう頼みこまれ。お前さんはここにいるんじゃ〜」



〜火の使いの者【Fya】(フィア)〜

〜土の使いの者【Dmor】(ドモル)〜



二人はそのように身分を晒す。二人はどうやら精霊とも関わりのある、特殊な住人である。

「…ふ〜ん。…まだなんか状況が掴めなくて、よく分かんないけど。……あなた達が悪い人じゃあって事だけは分かったよ。…助けてくれてありがとね〜♪…ラルちゃんの事を知ってる人達の頼みなら、このベア姉さん!…あなた達の話を聞くわ!」

事情を聞いた【Beanne】は笑みを浮かべつつ、二人にお礼を伝える。

コツン………コツン………

「でもごめんね〜♪…私、今急いでるから、早く地上に上がりたいの!……ここの出口とか知っていたりする!?知ってたら、すっごくありがたいんだけど〜!」

「………」(ニヤニヤ!)

「………ふ〜む」(ジョリジョリ〜……)

急を急ぐ【Beanne】の様子に、笑みを浮かべつつ沈黙する火を灯す者、髭を擦る土を統べる者。お互いに目線を合わせ口を開いた。

「ああお安い御用だぜいよ〜♪…まあ〜なんだ、この灯された火の光ある陽炎(かぎろい)と!!」

「これまで、【Paradiso】の世界を開拓し、後生の者達がまた一人、更にまた一人へと裏で受け継いできた陰影なる土の記憶。……この先には地上に繋がる道は確かにある。何せここは《古代遺跡》の跡。…《地下迷宮》の中なのじゃからな」

「…!!……古代…遺跡…!?」

ガラガラ………

〜【Kagoya】・地中深くの古代遺跡・地下迷宮〜

【Beanne】が招かれた場所は、かつて長い期間【Kagoya】の世界において秘密裏に太古の者達がその地にて開拓していた場所の跡地でもあった。周囲を見渡すが、土の壁そのものは何も描かれた痕跡はなく、まるで《白いキャンバス》のように、ただひたすらに狭い壁と天井には松明による灯火が延々と続いていた。だが、彼女自身はその場所に親近感なる覚えがあり、理解した───────

コツン…コツン……

「……もう10年振り以来だね。……【導き人】オロアの試練を思い出すわ」

「森羅万象の能力を持つベア。……お前さんの力があればその目で見通せる筈じゃ。これまで真っ白な世界が広がった【Paradiso】の中でも、豊富な土と大地が存在したこの【J島】【Kagoya】の隠された1000年以上も前に刻まれた真実の記憶をじゃ。……それを」

「俺達と一緒になって、今解き明かそうと言う事ぜいよ!……長年お前の事、こうして待ってたんだぜってよ!」(ニヤニヤ!)

「…へぇ〜……もしかして私の事口説いてるのぉ〜?」

「おぉっ!?…んじゃあまあ付き合いがてら【現世人】と《異種族》間での《子作り》。…出来るか試してみるぜいってか〜?」(ニカニカ!)

「ふふ〜ん♪…残念でしたぁ〜♪私イケメンな彼氏持ちで〜す♪♡」(キャピン!)

「(・ー・)」(しょぼーん……)

「フィア。…今にもなってこれから飢え死にしそうな若いオナゴが道を聞いてるのじゃ。もう少し紳士的になるんじゃわい、ワシがもっと若い頃はだなぁ〜…」(蘊蓄(うんちく)、蘊蓄こそが正義)

「あぁ〜あぁ〜!そういう説教はいいから〜!!…分かったぜいよ〜!…んじゃあベア。……この先の廊下で照らされてるあの光まで、ちょいと歩いてみるんぜいよ〜!!」

「?……分かったわ。……」

コツン………コツン………

スタッ!!

ゴゴゴゴゴゴゴ………!!!!

「…!!…えぇっ…!?」(と、扉が閉まっていく!?)

ゴゴゴゴゴゴゴ……!!

【Beanne】は光を指し示す道まで歩く。すると先程まで立ち尽くしていたフロアを扉が閉め出していく。その様子に【Dmor】はこう告げる。

「言ったじゃあろうて。…ここは迷宮。一度歩んだ道はこの通り、締め出しをくらうのじゃ。……謂わば」

「《戸締り》という事だぜいよ!……そしてこの場所で何か感じないか〜、ベア?」

「…う〜ん。……?」

【Beanne】は周囲を見渡す。すると先程の真っ新な壁とは違い、自らの目には文字と《壁画》が刻まれた痕跡がその場所で発見された。彼女自身は諜報ギルド【Agente】所属。あらゆる証拠となる標的の情報を収集する術を知り得る事に長けており、先程見比べた壁の変化にも早急に勘付く感性を秘めていた様子だった。

「…………」(これって…)

【Beanne】は目を凝らし、壁画として浮かび上がったその情景は、まず最初に天秤を指し示し、大人数の者達が集まっていた。相対的に意見を出し合う《審議場》とも言えるビジョンであった。

「…審議する場所。……審判を下す場所。……《裁判所》って事なのかしら?」

「その通りだぜいよ〜♪…ま、そのせいで俺火を司どる末裔の一派は〜」(ニカニカ〜)

「…法に重ずる者として、これまで数々の《罪人》と咎められ、地中深くへと埋め立てられた。…決して表舞台へ上がらせる事も無いようにとの事じゃ」

「!………っ」(じゃあ、ここに刻まれた記憶は。……)

スリスリ…

二人の者の発言に対し、【Beanne】の疑惑は確信へと変わった。そして、この場所へ招かれた本当の意味をも理解した。

バチバチバチ………

「…この場所は。……今まで《無実》の罪を着させられて、その《不正》を命尽きる灯火になる日まで。……抗おうと。でも結局は冤罪を着させられた人々の…記憶の場所。……今から1000年も前にキッカケを作って、いつの間にかこんなふうに歪んだ迷宮のようになっちゃったって事なのね」

「彼らの心情・気持ちを汲み取る事が出来るのは、ベア」

「お前しかいないんだぜいよ!……それに」

ガラガラガラ……

ガラガラガラ…………!!

「…っ!!」(揺れが酷いわね…)

【Beanne】は理解した。この場所は地盤が脆く、今にも落盤が起こる《危険性》がある事を理解した。

「今は、ワシの突貫工事で補填はしとる。…じゃがいつまで持つかは分からん」

「上で、何か大きな動物でも騒いでんのか、ちと荒々しい《嵐》になってるようだぜいよ〜♪…火の嵐なだけにぜいよ〜♪」(ニヤニヤ!)

「………おかげで少しばかり涼しくなったわ、フィア。……先に進みましょ。……次の壁画を見たくなったから」

タッタッタ……!!

「…あ、おい待つぜいよ〜!」

「全く。くだらん駄洒落を口に出すからじゃ〜…!」(タッタッタ!)

三人は迷宮の道を進んでいく。

コツンコツン………

「…!!」(あった、壁画だわ!……!?……え。)

ススッ………

「……?」

「どうしたのじゃ?…ベア」

「これって。……ヴェノ…くん…?」

【Beanne】は次に刻まれた壁画を発見する。次に刻まれていたのは、今から半年前、一時期行動を共にしていた【Veno・nix】の姿であった。そこに刻まれていたのは、法廷の場にて《検察側》の席で意見を交え、弁論を述べようと指を突き付けていた場面が、その壁画に鮮明に記されていた。その光景をその目で見た彼女の発見が、今から1000年以上も前に起こった裏の《審議》の場で画一された深淵なる《闇》の法の世界───────

それを1000年後に現れた【現世人】の者がその審議の場に立ち尽くし、弁明せし闘いが刻まれた封印されし記憶。───────今宵0から1へと進む秒針の刻。やがて進み、決して確定された《結果》としてではなく、今は暗がりの道を先人の者達が足跡として残し、道筋へと至った過程なる《真実》の灯火が収束し───────



今宵───────解き明かされる




























《To Be Continued…→》











第15話:掃除屋兼便利屋ギルド【Hopera】維新事変勃発───────沈黙されし異次元ノ《0》
《完読クリア!!》



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